「……」
いつも活気で溢れかえっている春神探偵事務所。しかし、ここ数日は静寂を極めている。
春神ライの相棒である長く青髪の少女、水乃ツバサが、常に心ここに在らずと言った感じで、目に見えて落ち込んでいるからだ。
「おいライ。ツバサの奴、一体どうしたんだ。元気なさすぎだろ」
事務所の主人で、尚且つ2人の兄貴分の青年、九日ヨッカが、ツバサについて、隣にいるライに訊いた。
昨日出張から帰って来た途端にこの様子だったため、心配なのだろう。
「うーむ。腹痛とか」
「腹痛!?…オマエ、また鍋に変なの入れたな」
「入れてないし、そんなことするわけないだろ」
「いーや、オマエは絶対入れたね。オレは忘れてないぞ、闇鍋しようとか言ってオレに消費期限切れの卵食わせたこと」
「アーレは知らなかったの。つか、ヨッカさんのお腹と引きが弱いだけじゃん」
「喧しいわ」
ツバサが復讐したい相手に手も足も出ずに完敗したことで、自信を失くしているなどと、ヨッカには口が避けても言えなかった。
しかもその相手は、かつて「エニーズ02」の称号を掲げて敵として戦ったカードバトラー。ヨッカもおそらく知っているので、尚更だ。
「とりあえず、オレは薬局行ってなんか効きそうな薬買って来るわ。ツバサ、無理すんなよ、辛いなら横になっててもいいからな」
「なんでそんなツバサには優しいの」
「どっかの誰かさんと違って、ツバサは目上の者への態度がしっかりしてるからな」
「私もしっかりしてます〜。大人です〜」
「はいはい。ツバサの面倒見とけよ、お姉さん」
性分的に、人のために何かをせずにはいられないのだろう。ヨッカは買い物カゴを片手に事務所を後にする。
偶発的とは言え、これでライとツバサ、2人きりだ。
「ライは…」
「?」
「あの男、蛇澤マツリのこと、知ってたんですか?」
如何にも失意のドン底と言った様子だったが、意外にもそんなツバサの方からライに話しかけて来た。
「まぁ昔ちょっとね。あんまり良い思い出ではないけど」
「私は、昔アイツに……」
「いいよ。この間の会話の内容とアンタの剣幕で、色々察したから。辛いことなら、無理して話す必要なし」
「……」
かつて孤児だったツバサを育て上げた、実の父親。彼女が「師匠」と呼び慕っていたその人物を殺害したのは、その蛇澤マツリだ。
故にツバサは彼の詳細を知るため、復讐を果たすため、界放市に訪れていた。
「ライは、なんでそんなに強いんですか」
「え。難しいこと訊くなぁ」
ツバサの抽象的な質問に、ライは首を傾げ、考える。
「強いて言うなら、バトスピを楽しんでるからかな」
「バトスピを楽しんでる?」
「うん。ツバサはバトスピ楽しい?」
「……私にとって、バトスピは」
ライの導き出した答えは、逆にツバサに質問するキッカケとなった。
ツバサは、ポケットに入っていた自分が最も信頼するカード「ライジングフリーダム」のカードを目に映し、思考する。
……ピンポーン
「お?…誰じゃいこんな朝早くに」
ツバサの思考を遮るように、事務所のインターホンの音が鳴り響く。
タイミング悪いなと思いながらも、無下にはできないため、ライは事務所の扉へと赴き、唐突な来客の対応を試みる。
「はいはーい。ライが出ますよっと」
「お、ライちゃあん。お久さ、元気だった?」
「……なんだ、イチマルか」
「なんだとはなんだ!!」
扉の先にいたのは、ライやツバサよりかは歳上に見える、緑色のチャラい髪型が特徴的な少年。
歳上に見えるとは言ったものの、ライから雑な扱いを受けていることを見るに、あまり威厳はない様子。
「で、今日は何の用事?」
「あぁ、実は良いデッキが完成してさ。名付けて、鉄華オーカミ絶対倒すデッキ。コイツの試運転の依頼をお願いしたくてさ」
「……」
「そんなめんどくさそうな顔しないでよ、今頼れるのは、ライちゃんかヨッカさんしかいないんだよ」
「そのデッキ名なら、もう直接オーカんとこ行けよ」
「いや、だから試運転したいんだって」
「ヒバナちゃんは?」
「ヒバナちゃんに惚れてもらうために作ったデッキでもある。できるだけ初見はオレっちがオーカミを打ち倒すバトルにしたいんだ」
「めんどくさー」
元気の化身のような少年、イチマルの依頼は、新しいデッキの試運転。
いや、この状況だと「依頼」と言うよりかは「遊び」に来たと言っても過言ではないだろう。
「あ、そうだツバサ。しょげてないで、このイチマルとバトルしたら?…良い気分転換になると思うよ」
「え、私…ですか」
「イエース」
ツバサのためを思ってのことなのか、はたまたイチマルの依頼が面倒だったからなのかは定かではないが、ライはイチマルのバトルの依頼にツバサを指名する。
「そういやその子は?」
「事務所の新人。歳は私より1つ下だって、可愛いだろ?」
「あぁ、ライちゃんより」
「ぬぅあにぃ!!」
「じゃあバトル、このビルの屋上でお願いしていいかな、ツバサちゃん」
「え、あぁ、はい」
蛇澤マツリとの一件の影響で、正直あまり乗り気ではなかったが、せっかく来店して来たイチマルを無下にすることはできず、ツバサはこのバトルを承諾。
直後、3人はバトルのために探偵事務所を内包している雑居ビルの屋上へと移動する。
******
より強い風が吹いている雑居ビルの屋上。
そこでは既に、バトルする気満々のイチマルと、浮かない表情を見せるツバサが、今にもバトルを始めんと、互いにBパッドを構えていた。
「悪りぃ、自己紹介してなかったな。オレは鈴木イチマル。いつか界放市最強のカードバトラーを超える男だ」
「界放市最強の男?……私は水乃ツバサです。今日はよろしくお願いします」
「堅!!…いいよそんなにかしこまらなくて。真面目だなぁ、ライちゃんと違って」
「聞こえてるぞイチマル〜」
自己紹介を終えると、2人はBパッドにデッキを装填し、バトルの準備を完全に完了させる。
「そんじゃあ行くぜ」
「はい、参ります」
……ゲートオープン、界放!!
ライが見守る中、コールと共に、水乃ツバサと鈴木イチマル、2人のバトルスピリッツが幕を開ける。
先攻はイチマルだ。昨日徹夜で作り上げたデッキをウキウキで回して行く。
[ターン01]鈴木イチマル
「メインステップ。ライダースピリット、バルカンを召喚だ」
ー【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV1(1)BP3000
「緑属性のライダースピリット、ですか」
「召喚時効果でカウント+1、1コアブースト。ターンエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]BP3000
バースト:【無】
カウント:【1】
イチマルは、銃を武器に持つライダースピリット、バルカンを召喚し、緑のデッキらしく、早速コアとカウントを増やす。
次はツバサのターンだ。最初こそあまり乗り気ではない様子を見せていたが、開始のコールと共にスイッチが入ったか、彼女の性格らしい真剣な表情でターンを迎える。
[ターン02]水乃ツバサ
「メインステップ。翔け上がれ、自由の名を持つ勇者よ、契約スピリット、ライジングフリーダムガンダム、LV1で召喚!!」
ー【ライジングフリーダムガンダム】LV1(1S)BP3000
「白の契約モビルスピリット!?」
フィールドに出撃したのは、白を基準とした装甲に、青い機翼を持つモビルスピリット、勇者、ライジングフリーダムガンダム。
「私の相棒です。アタックステップ、ライジングでアタック!!…その効果でカウント+2し、ライジングのBP以下のバルカンをデッキ下へ」
「!」
ライジングの攻撃。シールドの側面にビーム刃を展開し、それをブーメランの要領で投擲。バルカンを切り裂き破壊へ追い込む。
「アタックはライフで受けるよ」
〈ライフ5➡︎4〉鈴木イチマル
シールドをキャッチしたライジング。今度はビームライフルを照射し、イチマルのライフバリア1つを撃ち抜く。
「よし、先制点は貰いました。ターンエンドです」
手札:4
場:【ライジングフリーダムガンダム】LV1
バースト:【無】
カウント:【2】
「ふふ、真面目過ぎて頭の堅い子だと思ってたけど、結構楽しそうにバトスピするんだね」
「え?」
「そうそう、ツバサはめっちゃ楽しそうにバトスピするんだよね!!…可愛いだろう?」
「いや、ライちゃんには聞いてないけど」
ふとしたイチマルの言葉に、ツバサは疑問を抱く。
「私がバトスピを楽しんでる?」
「そんなに疑問に思うことか?…まぁいいか、一旦オレっちのターンな」
右手の親指で己を指し、イチマルはターンを進めて行く。
[ターン03]鈴木イチマル
「メインステップ。こっちも行くぜ、契約ライダースピリット、ゼロワン ライジングホッパーを召喚!!」
ー【仮面ライダーゼロワン ライジングホッパー[4]】LV1(1)BP3000
「ッ……イチマルさんも契約カードを、しかもライジングって」
イチマルが呼び出したライダースピリット、その「ライジング」と言う名前に、ツバサは衝撃を受けた。
その驚きようは、自分のフィールドにいるモビルスピリットのライジングを何度もチラ見してしまう程だ。
「へへ。基本的にはライジングじゃなくて契約ゼロワンって呼んでんだけどな。偶然ってあるもんだ」
「凄い。これは、倒し甲斐が出て来ましたね」
「やっぱ楽しそうだな」
「!」
「アタックステップだ」
またツバサが無自覚にバトスピ楽しむのを確認すると、イチマルはアタックステップの開始を宣言。Bパッド上にある契約ゼロワンのカードに手を掛ける。
「契約ゼロワンでアタック。そのアタック時効果でカウント+2。デッキ上1枚をオープンし、それがスピリットなら1コアブーストする」
契約ゼロワンの効果でオープンされたカードはスピリットカード「仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】のカード。
当たりだ。
「そして、対象のライダースピリットだった場合は、1コストで召喚できる。頼むぜ、バルカン」
ー【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV1(1)BP3000
「ッ……デッキの上からスピリットを呼び出した!?」
「それが契約ゼロワンの力だぜ。バルカンの召喚時効果でカウント+1、1コアブースト。デッキからの召喚からもう1コアブースト。そのコアでバルカンはLV2に上がる」
契約ゼロワンが呼び出した、2体目のバルカン。その効果でイチマルはカウントとコアをさらに加速させる。
「アタックはライフで受けます」
〈ライフ5➡︎4〉水乃ツバサ
緑の電子となり、光速で走る契約ゼロワン。そのままツバサのライフバリア1つを蹴り壊す。
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダーゼロワン ライジングホッパー[4]】LV1
【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV2
バースト:【無】
カウント:【4】
楽しそうな明るい笑顔を見せ、イチマルはそのターンをエンド。ツバサのターンとなる。
[ターン04]水乃ツバサ
「メインステップ。ゲルググルナマリアを召喚」
ー【ゲルググ・メナース[ルナマリア機]】LV2(3)BP5000
「召喚時効果、トラッシュとライジングに1コアずつブースト。ライジングはLV2にアップします」
ツバサが追加で招集したのは、1つ目と赤い装甲が特徴的なモビルスピリット。
その効果でイチマルに負けじとコアブーストを行う。
「アタックステップ。お願いします、ライジング!!…アタック時効果でカウント+2して、契約ゼロワンをデッキ下へ!!」
再び始まるライジングの猛攻。ビーム刃の付いたシールドが契約ゼロワンを切り裂き、爆散へ追い込む。
その後契約ゼロワンは、何事もなかったかのように色素を失った状態で場に残る。
「契約ゼロワンは、その名の通り契約スピリットだ。魂状態で場に残るぜ」
「知ってます。フラッシュ、ゲルググルナマリアの効果発揮。自身を疲労させることで、相手スピリット1体を手札に」
「またバウンス!?」
「対象はバルカン。手札へ戻っていただきます」
ここでゲルググルナマリアの効果が発揮。
フィールドではロングライフルを構えたゲルググルナマリアが、バルカンを撃ち抜き、それを粒子化。イチマルの手札へと強制送還させる。
「さらにライジングのLV2からの効果。他のコンパスが疲労した時、ターンに一度だけ回復します」
「は!?…契約スピリットが単体で回復!?…アタックはライフだぜ」
〈ライフ4➡︎3〉鈴木イチマル
「畳み掛ける。ライジング!!」
「容赦ねぇな。それも受けるぜ」
〈ライフ3➡︎2〉鈴木イチマル
ライジングはビームライフルを連続照射。イチマルのライフバリアを一気に2つも奪い去って行く。
「ターンエンド。勝利は目前です。このまま駆け抜けましょう、ライジング」
手札:4
場:【ライジングフリーダムガンダム】LV2
【ゲルググ・メナース[ルナマリア機]】LV2
バースト:【無】
カウント:【6】
怒涛の攻撃を畳み込み、イチマルのスピリットを除去するばかりか、ライフまで大きく削ったツバサ。
彼女の言葉通り、勝利目前でターンエンドとなるが、その瞬間、あることに気がついて………
「ッ……」
私、バトスピを楽しんでる?
なんで、だってバトスピは私にとって………
蛇澤マツリに復讐するための武器なのに。と言う言葉が頭の中に思い浮かび掛け、途中で消す。
ただ、彼女にとってバトルスピリッツはそう言う認識で違いなかった。少なくとも、界放市に来る前までは、楽しもうなどと言う考えは完全に蚊帳の外。蛇澤マツリへの復讐のことで頭がいっぱいだった。
私の中で、バトスピの価値観が少しずつ変わっているのでしょうか?
でも、楽しんでいたら、お師匠の仇なんて………
取れるわけがない。と言う言葉が喉から飛び出し掛ける。
良くも悪くも真面目過ぎるツバサは、復讐を成し遂げるまでは、「バトスピを楽しむ」などとうつつを抜かすわけにはいかないと考えているのだ。
本当はそんなこと考える必要はないと言うのに。
[ターン05]鈴木イチマル
「メインステップ。バルカンを2体呼ぶぜ」
ー【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV1(1)BP3000
ー【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV1(1)BP3000
「2体分の召喚時でカウント+2、2コアブースト。LV上げてエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV2
【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ[2]】LV2
【仮面ライダーゼロワン ライジングホッパー[4]】(魂状態)
バースト:【無】
カウント:【6】
「デッキ事故ってんじゃん」
「うるさいなぁライちゃん。そのための試運転だろ?…もうちょっと手札増加系増やすか」
イチマルはスピリットを揃え、コアブーストとカウントをさらに伸ばすが、ツバサのフィールドを全く返せずにターンエンドとなる。
実はつい最近契約カードを手にしたため、まだ上手く扱えていないのだろう。
「私のターンですね」
「ねぇツバサ。ツバサはバトスピ楽しんでる?」
「!」
己のターンを迎えたツバサに、ライが訊いた。イチマルが来る前と全く同じ質問だ。
「私は楽しいよ?…おかげさまで好きな人達に逢えたし。もちろんツバサにもね!!」
「ライ……」
「ツバサ、まさかさ、アイツに勝つまで、バトスピを楽しんでいいのだろうかぁとか、考えてる?」
「!!」
「あちゃあ、その顔は図星か」
いつも妙に勘の鋭いライ、ツバサの考えをズバリ言い当てて見せる。
ツバサの驚いた表情を見て、図星だったことを確信すると、ライは額に手を当て苦笑い。
「確かにバトスピは、時として凶器だ。相手によっては、命懸けになったり、負けられなかったりするよ。でもやっぱり本質は楽しんでこそだ!!……私は、ツバサがバトルする時の顔、めっちゃ楽しそうで好きだよ。きっと、その顔がもっとたくさん見たいから、ライジングはツバサを選んだんじゃないかな?」
「ッ……」
ライにそう言われると、ハッとしたツバサはフィールドにいるライジングへと目を向ける。
すると……
「ライジング」
ライジングフリーダムガンダムは、まるでライの意見に賛同するかのように、首をゆっくりと縦に振り、頷いた。
契約スピリットには意思があると言われているが、ツバサがライジングにも確かにそれがあることを確信した瞬間だった。
「私は馬鹿だ。バトスピのおかげでこんなに素晴らしい仲間達に恵まれたと言うのに。それを楽しもうとしない上に、倒すための武器などと……ホント、失礼で愚かで、最低です」
「ふふ。で、これからは?」
「もちろん、楽しみます!!…ライジングと共に!!…行きますよイチマルさん、私のターンです!!」
「おうよ。で、何の話だったの?」
「イチマルは知らなくていいの」
楽しまなくてはバトスピに失礼と言う、ツバサらしい真面目な解答を得たことで、過去の出来事を振り切った。
ここからが、ツバサとライジングの、本当のバトルスピリッツだ。
[ターン06]水乃ツバサ
「メインステップ。パイロットブレイヴ、キラ・ヤマトを召喚、ライジングと合体!!」
ー【ライジングフリーダムガンダム+キラ・ヤマト [C.E.75]】LV2(3S)BP15000
「ここでブレイヴかよ」
「召喚時効果、4枚オープンし、その中のストライクフリーダムを手札へ」
ここでツバサがドローしたカードはパイロットブレイヴ。ライジングを強化しつつ、手札を増やす。
「ライジングにコア1つを追加して、アタックステップ!!……ライジングでアタック!!」
青き機翼を広げ、ツバサが最も信頼するスピリット、ライジングが飛翔する。
「ライジングとキラのアタック時効果で2体のバルカンをデッキ下へ!!」
上昇からの急降下。ライジングはその勢いを利用した翼撃で、イチマルのバルカン2体を粒子化させる。
「今のライジングはブレイヴとの合体でダブルシンボル、貴方のライフは残り2つ。これで終わりです!!」
「いいやまだだ。終わらせないぜ、フラッシュマジック、仮面の魂!!」
「!」
「コストで手札にある他のライダースピリットカードを破棄、このターン、オレっちのライフは1つしか減らねぇ。ライジングのアタックはライフだ」
〈ライフ2➡︎1〉鈴木イチマル
ライジングの翼撃の直撃寸前、イチマルはライダースピリットデッキ専用マジック、仮面の魂を適用させ、己のライフバリアを守護。
これでこのターン、ツバサの攻撃は一切通じなくなる。
「ターンエンド。やりますね。仮面の魂、凄い効果だ」
手札:5
場:【ライジングフリーダムガンダム+ キラ・ヤマト [C.E.75]】LV2
【ゲルググ・メナース[ルナマリア機]】LV2
バースト:【無】
カウント:【8】
「本当ならトラッシュのカード2枚でも使えるようになるだけどな。そっちの除去がほとんどバウンスだったから余計にコストが掛かっちまったよ」
バトルは終始ツバサが優勢に立つ中、イチマルの四度目のターンが間もなく始まる。
今の彼の手札はやや事故気味であるため、次のドローで勝敗が決まると言っても過言ではない。
[ターン07]鈴木イチマル
「ドローステップ!!」
運命のドロー後、イチマルはニヤリと笑みを浮かべる。
どうやら望んでいたカードをドローできたみたいだ。
「メインステップ。契約デッキと言えば、やっぱこれっしょ。魂状態の契約ゼロワンを対象に【契約煌臨】を発揮!!」
この終盤に来て初の【契約煌臨】が発揮される。
フィールドでは、魂状態となっていた契約ゼロワンが色を取り戻し、スピリットとして復帰。そして、その横には、それに仕えるスピリットがもう1体、光と共に現れて………
「ゼロはイチとなって翔け上がる、ゼロはニとなって、イチと共に並び立つ!!……仮面ライダーゼロワン&ゼロツー、LV2で契約煌臨!!」
ー【仮面ライダーゼロワン&ゼロツー(イズ)】LV2(11)BP13000
「1枚で2体分のライダースピリット!?…初めて見た。こんなスピリットもいるのか」
光と共に現れ、ゼロワンの横に並び立ったのは、赤いマフラーのような装飾と上品な佇まいが印象的なライダースピリット、ゼロツー。
ゼロワン&ゼロツーは運命共同体。2体で1枚のスピリットだ。
「さぁ我らが大エース様の力、とくと味わってもらうぜ。アタックステップ、ゼロワン&ゼロツーでアタック!!」
イチマルの反撃。ゼロワン&ゼロツーへ攻撃の指示を送り、それに応えたゼロワン&ゼロツーは頷き、フィールドへと駆け出して行く。
「アタック時効果。カウント+2し、デッキ上1枚をオープン、それがスピリットカードなら1コアブースト」
オープンカードは「仮面ライダーバルカン シューティングウルフ」のカード。
「オマエが来てくれたか。スピリットカードの時は、コアブーストし、さらに対象のライダースピリットなら、1コストで召喚。来い、バルカン」
ー【仮面ライダーバルカン シューティングウルフ】LV1(1)BP3000
「同名だが、さっきのバルカンとは効果が違うぜ、召喚時効果、4枚オープンし、その中の対象カードを手札に加える。オレはゼロワン ライジングホッパー、その3番目を手札へ。さらにゼロワン&ゼロツーの効果、カードがオープンされた時、スピリット1体を重疲労させる」
「!!」
「オレっちは二度カードをオープンした、よって君のスピリット2体を重疲労だ」
契約ゼロワンから引き継いだゼロワン&ゼロツーのアタック時効果と2種目のバルカンの召喚時効果により誘発する、ゼロワン&ゼロツーの効果。
2体の両手より放出される電子パルスが、ライジングとゲルググルナマリアの2体の機体内に異常をきたし、重疲労状態へと追い込む。
「ゼロワンのカードがオープンされた時、ゼロワン&ゼロツーは回復する。ダブルシンボルの二度のアタックで、君のライフは0だ!!」
散々アドバンテージを稼ぎ、ツバサのフィールドのスピリットを荒らした挙句に回復まで行うゼロワン&ゼロツー。
しかし、ツバサにも手がないわけではない。
「ならば私も【契約煌臨】を発揮。飛び立て、ライジング!!」
電磁パルスにより異常をきたしていたライジング。ツバサの呼び声に応え、再び飛翔する。
「聖域より飛び立て、空舞える勇者よ!!……ストライクフリーダムガンダム、LV2で契約煌臨!!」
ー【ストライクフリーダムガンダム弍式+ キラ・ヤマト [C.E.75]】LV2(3)BP24000
ライジングフリーダムが光と共に姿を変える。
それは、フリーダムの名を冠する、ライジングの正統進化形態。黒き機翼と、二丁のビームライフルを両手に携えた、白きモビルスピリット、ストライクフリーダムガンダム。
「これが私のデッキのエースカードです。煌臨時効果。相手スピリット1体をデッキ下へ、私が対象に選ぶのは、ゼロワン&ゼロツー!!」
「なに!?」
ストライクフリーダムの効果が発揮。黒き機翼から無数のピットが飛び出して行き、それら1つ1つからビームが照射。
瞬く間にゼロワン&ゼロツーを焼き尽くした。
「これでイチマルに攻め手はなくなった。バルカン1体だけじゃ、ツバサの4つのライフを全て砕けない。けど、まだ」
バトルを観戦しているライが独り言を呟いた。
彼女は察したのだ。ついさっきイチマルが手札に加えたカード。それによって、まだ攻撃が終わらない可能性があることを。
「賭けに出るか。バルカンでアタック、そしてそのフラッシュ、第三のゼロワンの【チェンジ】の効果を発揮」
「ッ……アレは、さっき手札に加えたカード」
「その効果で、デッキ上から2枚オープンし、その中のコスト7以下のライダースピリットをノーコスト召喚する」
効果でイチマルのデッキからオープンされる2枚のカード。
そのカードはいずれも同じ。コスト8の「仮面ライダーランペイジバルカン」
「コスト8。ハズレた、これなら、効果で召喚できない」
「いいや、大当たりだぜ。契約ゼロワンの効果を忘れてないか?」
「ッ……ゼロワンの効果でオープンされた、対象のライダースピリットを1コストで召喚できる……!?」
「御名答。よって、このカード、ランペイジバルカンを1体、LV3で召喚。さらに【チェンジ】の効果でバルカンを第三のゼロワンと入れ替える」
ー【仮面ライダーランペイジバルカン】LV3(5)BP16000
ー【仮面ライダーゼロワン ライジングホッパー[3]〈R〉】LV1(1)BP5000
劣勢だった状況から一転。イチマルは、バルカンが限界まで強化された姿、ランペイジバルカンと、通常のバルカンをゼロワンへと入れ替え、土壇場で2体のライダースピリットを揃える。
「アタック中のスピリットと入れ替えた、第三のゼロワンのアタックは継続中だ!!」
「ライフで受けます」
〈ライフ4➡︎3〉水乃ツバサ
「オレっちのスピリットが相手ライフを破壊した時、ランペイジバルカンの効果発揮。もう1つ、ライフを破壊する」
「なっ!?」
〈ライフ3➡︎2〉水乃ツバサ
ゼロワンの剣撃に合わせ、ランペイジバルカンが銃を発砲。見事な連携で、ツバサのライフを2つ纏めて破壊する。
「楽しかったぜツバサちゃん。ランペイジバルカンでラストアタック」
イチマルは、ランペイジバルカンでラストアタックの宣言。直後にランペイジバルカンは、己の銃に莫大なエネルギーを蓄積させて行く。
ここから反撃に出る術は、もうツバサの手札には残されていなくて……
「……こちらこそ、とても楽しかったです。このバトル、二度と忘れません、ライフで受けます」
〈ライフ2➡︎0〉水乃ツバサ
最大まで蓄積されたエネルギーの弾丸が、ツバサのライフバリアに炸裂。彼女の残りライフを全て蹴散らし、ランペイジバルカンは、イチマルに勝利を齎して見せた。
ー………
「いやぁ、良い経験になったよ。ありがとうねツバサちゃん」
「私こそ、生まれ変わった気分です」
「ツバサ、バトル楽しかった?」
「はい。その、ライ、色々ご心配をおかけしました」
「気にすんなよそんなこと、私の方が1つお姉さんだしぃ」
バトルが終わり、談笑しながら事務所に戻って来た3人。
自分はお姉さんだから気にするなと、おちゃらけながら豪語するライを見て、ツバサは小さく笑みを浮かべる。
「お姉さんって、ライが私にお姉さんらしいことしたことありましたっけ?」
「お、言ったなぁ」
「確かに、どっちかって言うと、真面目でしっかり者のツバサちゃんの方がお姉さんっぽいよな。身長もライちゃんより高いし」
「な、おいふざけんなイチマル、身長は関係ないだろ」
「ぷ、あははははは!!」
ライとイチマルのコミカルな会話に、ツバサは未だかつてない程に大笑い。
その笑顔に、2人は癒された。
「お、ゼウスのランスロットさんからメール。えーと、今から仕事手伝って欲しいんだって。どうするツバサ、行く?」
「はい、行きます!!」
ライのBパッドに届いた1通のメール。よく事務所に依頼をお願いするカードショップ「ゼウス」のオカマ店長、ランスロット・武井からだ。
依頼内容は、いつもの仕事のお手伝い。行くか行かないかのライの問い掛けに対し、ツバサは即答で行きますと返事する。
「帰ったぞ、ツバサは無事か?」
直後、薬局で薬を大量に買い込んできたヨッカが帰宅するが。
「ヨッカさんごめん、ちょっとゼウスの手伝い行って来る」
「え、おいライ。ツバサは?」
「私なら大丈夫です。お騒がせしました。行って来ます!!」
「お、おぉ、まぁ元気になったならいいんだ。お菓子も買って来たから、帰って来たらみんなで食べような」
「はい!!」
まるで風のようにヨッカを通り過ぎ、事務所を後にする2人。一瞬の出来事であまり会話はできなかったが、ヨッカは既にツバサが元気になったことを察したみたいだ。
「おっすヨッカさん」
「おぉイチマル、来てたのか」
「良いコンビっすね、あの2人」
「はは。真面目なツバサがライのアホに影響されなければいいけどな」
「いやぁ、そりゃもう手遅れっすよ」
イチマルとヨッカが会話する。直後にヨッカは「ところでオマエも菓子食うか?」と聞き、イチマルはそれに対して「食います」と即答していた。
「ライ、お手伝いが終わったら、今日もバトルのお手合わせをお願いします」
「お、調子が戻って来たねぇ。やっぱツバサはそうでなくちゃ」
「はい。たくさんバトルして、たくさん楽しんで、強くなります。この相棒、フリーダムと一緒に」
この日から、イチマルのゼロワンと差別化するためか、ツバサはライジングフリーダムの呼称を「ライジング」から「フリーダム」に改める。
ツバサの0からのスタート。その初めの第1歩は、彼女にとって、とても大きいモノだったに違いない。
#09「ミカファール学園」
******
イチマルは、王者の鉄華の第83話で契約ゼロワンだけでなく、滅亡迅雷のカードを使ってましたが、時系列がそれよりも過去の今回の話では、まだ未入手となっております。
本編、王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)もよろしくお願いします!!