腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
PHASE-00序章
――30分前。
「ちょっくら落とすわ」
その一言が、日常の終わりだった。
アマキ・カンザキはキッチンに立っていた。
今日の夕飯は妹の大好物、唐揚げだ。
にんにくと生姜を利かせた下味をしっかり染み込ませた鶏肉を、卵、小麦粉、片栗粉を合わせた衣にくぐらせる。
油へ落とした瞬間、ジュッ、と心地よい音が鳴った。
香ばしい匂いが広がり、衣は次第にきつね色へと変わっていく。
「よし……完璧」
満足げに頷き、一つ摘まもうと手を伸ばす。
しかし、その手首は別の手に掴まれた。
「つまみ食いは禁止、だろ」
「なっ……何すんのよ!」
振り向けば、同居人が呆れたような顔で立っている。
「行儀が悪い」
「私が作ったんだから一個くらいいいじゃん!」
「駄目だ」
「ケチ!」
「悪い子だな」
その瞬間だった。ミシリ、と床が軋む。
「……ん?」
視線を落とす。足元の床が黒く染まり、ぽっかりと穴が開いていた。
見覚えしかない。
「悪い子はここに落ちる」
「またそれぇ!?」
反射的に飛び退こうとした。だが、一歩遅い。床ごと身体が沈み、重力が一気に消える。
「ちょっ、待っ――!」
「いってらっしゃい」
軽く手を振る同居人の姿を最後に、アマキは闇へと飲み込まれた。
◇
――ヘリオポリス。
人工的に管理された雨が静かに降り続く街。
キラ・ヤマトは、立ち尽くす一人の少女を見つめていた。
見慣れない服装。ずぶ濡れになりながら、ただ呆然と立ち尽くしている。
(……放っておけない)
気づけば足が動いていた。
傘を差し出し、おずおずと声を掛ける。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
少女がゆっくり振り返る。その瞬間、キラは目を見開いた。
(僕と同じ……紫色の瞳)
吸い込まれそうなほど澄んだ紫。一瞬だけ、不思議な既視感を覚える。少女は腹を押さえ、苦しそうに口を開いた。
「は……ら、が……」
「えっ!? ど、どうしたの?」
「はら……が……」
「お腹痛いの?」
少女は数秒黙り込む。やがて、ぽつりと呟いた。
「……はらが、へった」
静寂。
「…………え?」
ぐぅぅぅぅ。
絶妙なタイミングで腹の虫が鳴る。キラは数秒固まると、思わず苦笑した。
「あの……よかったら、家に来ます?」
少女はその言葉を聞くなり、天を仰いだ。
「……天使が舞い降りた」
(いや、それは君の方だと思うけど……)
心の中だけでそう突っ込みながら、キラは少女を家へ案内することにした。
◇
「そういえば、名前聞いてなかった」
帰り道。傘を差しながら歩いていたキラがそう尋ねる。
少女は少し考えるような仕草を見せた後、口を開いた。
「カンザキ・アマキ」
「?カンザキが名前?」
「こっちでは名字が後なのか。それじゃあアマキ・カンザキだ」
「じゃあ僕もキラでいいよ」
「分かった、キラ」
初対面にしては妙に距離感が近い。だが不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ、昔から知っていたような奇妙な安心感すらある。
「ところで」
「うん?」
「ここはどこ?」
キラは足を止めかけた。
「今さら!?」
「いや、知らない場所だったから」
「知らない場所であんなに落ち着いてたの!?」
「お腹空いてたしなぁ~」
「理由になってないよ!?」
思わず声が大きくなる。アマキは不思議そうに首を傾げた。
「変な子だ」
「それはこっちの台詞だよ……」
早くも頭痛がしてきた。
◇
ヤマト家の玄関が開く。
「ただいま」
「あら、おかえりなさい――って、その子は?」
出迎えたカリダ・ヤマトは、キラの隣に立つ少女を見て目を丸くした。アマキはぺこりと頭を下げる。
「どうも、初めまして」
「えっと……」
「雨の中で困ってたんだ」
キラが事情を説明する。
もちろん、アマキは突然異世界から落ちてきたなどという話はしていない。説明したところで信じてもらえる気がしなかった。
「そうだったの」
カリダはアマキを見る。びしょ濡れの服。少し疲れた表情。それでもどこか堂々とした態度。
数秒後。彼女は優しく微笑んだ。
「まずはお風呂ね」
「風呂」
「それからご飯」
「ご飯」
「話はその後」
その瞬間。アマキの目が輝いた。
「好き。神は二人もいた」
「早いわね!?」
キラのツッコミが飛ぶ。カリダは思わず笑った。
◇
風呂から上がり、借りた服に着替えたアマキは食卓へ案内された。
テーブルの上には温かな料理が並んでいる。
湯気の立つスープ。焼きたてのパン。色鮮やかなサラダ。そして肉料理。
アマキは数秒固まった。
「どうしたの?」
キラが尋ねる。
「食べていいの?」
「そのために出したんだけど」
「本当に?」
「本当だよ」
その返事を聞いた瞬間。
「いただきます!」
猛烈な勢いで食べ始めた。パンが消える。スープが消える。肉が消える。
キラが呆然としカリダが笑う。
気付けば食卓の空気はすっかり和んでいた。
「美味しい~」
心から満足そうな声だった。
その表情を見て、カリダは優しく目を細める。
「そんなに喜んでもらえると作った甲斐があるわ」
「もう一回言います」
「え?」
「好き!」
「ありがとう」
カリダは楽しそうに笑った。
◇
その夜。
客室として使われている部屋へ案内される。
柔らかなベッド。暖かな部屋。雨風を防ぐ屋根。
異世界へ落とされた直後とは思えないほど恵まれた環境だった。
「運が良かったな」
ぽつりと呟く。
もしキラに出会わなければどうなっていたか分からない。
知らない世界。知らない人々。それでも。
「まあ、何とかなるか」
そう言ってベッドへ倒れ込む。
ふかふかだった。
数分後には寝息が聞こえ始める。その頃。部屋の外ではキラとカリダが小声で話していた。
「大丈夫かしら、あの子」
「分からない。でも……放っておけなかったんだ」
カリダは息子の顔を見る。その表情はどこか嬉しそうだった。
「そう」
優しく微笑む。
「なら、しばらくはうちの子ね」
その言葉を聞き、キラも小さく笑った。
誰も知らない。この出会いが、やがて多くの運命を変えていくことを。
そして、平和なはずのヘリオポリスに戦火が迫っていることを。
主人公
アマキ・カンザキ
ある人物の気まぐれによって、『機動戦士ガンダムSEED』の世界へ飛ばされた少女。
黒髪に紫の瞳、長い髪が特徴。不老の肉体を持ち、どれだけ時を重ねても外見が変わることはない。
見た目はまとも。中身はどこかズレている自由人。
運動神経は非常に高く、戦闘能力も一級品。その一方で、人から向けられる好意には驚くほど鈍感で、自分が好意を向けられていることにまったく気づかないことも。
強敵との戦いを心から楽しむ戦闘狂な一面も持つが、仲間を見捨てるような性格ではない。
突然見知らぬ世界へ放り込まれたにもかかわらず、「とりあえず何とかなる」の精神で今日も自由気ままに生きている。
搭乗機
エリスガンダム
アマキ・カンザキ専用モビルスーツ。
機体性能・武装などの詳細は物語内で順次判明予定。
誰かさん
アマキを『機動戦士ガンダムSEED』の世界へ飛ばした張本人。
本人は「アフターケアは多分バッチリ」と豪語しているが、その言葉を信じるかどうかは自己責任。
現在もどこかで面白そうなことを探している……かもしれない。
ガンダムSEEDDESTINYも読んでみたいか?
-
続きを読んでみたい。
-
別に興味ない。