腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
守るべき人のために――
キラはアークエンジェルに残ることを選んだ。
それが必ずしも“賢明”とは言えないことも、分かっている。
だが、同胞よりも、大切な人を選んだ。その選択が、この先どう響いていくのかは、まだ誰にも分からない。
「……」
終わったことを掘り返すつもりはなかった。
だが、アマキの表情はどこか沈んでいた。
いつもなら、エリスから降りると整備班へ軽口のひとつでも飛ばすのに、今日は目も合わせず、さっさと隊服へと着替えに向かっていった。
一方、キラはストライクから降りると、視線を探す先にアマキの姿が見えず、肩を落とす。
「……アマキさん……」
その様子を見て、マードックが声をかけてきた。
「坊主、嬢ちゃんとケンカでもしたのか?」
普段なら、ストライクから降りたキラの元にアマキが迎えに来て、そのまま一緒に連れ立って行動するのが定番だった。
「違いますよ!別に僕たちは……」
思わず強く否定したが、言葉の先が続かなかった。喧嘩なんかしていない。
でも、こうして胸に残る重たい感情――これは、なんだ?
どう飲み込めばいいのか分からず、キラはその場を離れていった。
答えのヒントは、誰かに相談すれば見つかるかもしれない。けれどその「誰か」にアマキを選べない、今の自分が苦しい。格納庫を離れるキラの足取りは、どこか宙を踏んでいた。
一方その頃――アマキは自室の暗がりで、ひとりベッドに沈み込んでいた。
明かりはつけず、ただ横向きのまま、枕を胸に抱きしめる。
“あれは……自分がキラに干渉しすぎたせいなのかもしれない”
そう思うと、喉の奥から自己嫌悪が這いあがってくる。
「彼が守るべき存在だったから? ……それとも、初めてこの世界で私を拾ってくれた人だったから?」
アマキの心は、ゆっくり沈んでいく。
強くあろうとした自分の背中――その実態は、守るものがいなければ崩れてしまうほど脆い。
生きる実感は、“戦うこと”よりも、“依存できる誰か”によって支えられてきた。
誰かに必要とされなければ、戦場に立つ意味すら見失ってしまう。
そんな自分を“誰もが恐れる存在”に仕立て上げたのは、他でもない自分だった。
(……手放さなきゃいけない)
関係が深くなりすぎる前に。傷つけすぎる前に。
キラのために、自分のために。
そう覚悟して背を押したのに――キラは拒んだ。
(なら……あと一度だけチャンスがある。そのときこそ、彼を地球へ還す。守られるべき場所へ)
アマキは、枕に顔を埋めたままそっと目を閉じる。
“戦うことに慣れすぎた自分”
“殺すことすら日常に変えてしまった自分”
その自分が、次の依存先を探すのはたやすいはずだ。
ほんのひととき、現実を閉じる。眠りに逃げる。でも、また戦いは来る。
だから――せめて今だけ、沈黙の中に潜り込ませてほしい。
この枕の重さだけが、自分を支えてくれる。
◇◇◇
キラとアマキの間に、なんとも言えない“微妙な空気”が流れている――そのことは、クルーたちの間でもそれとなく察知されていた。
誰かがフォローを入れようとしても、アマキはすぐに笑顔でかわしてしまう。
「え? なに? まったく全然気まずいことなんてないよ」
そして踵を返す。
「あ、エリスの整備行かなきゃ。ごめんあそばせ〜」
そのまま軽やかに去っていく。はぐらかし能力に定評あり。
一方のキラも、アマキの気持ちを理解したいとは思っている。
なのに、自分の気持ちがまるで届いてないように感じる――そんな不満が心の隅に居座っていた。
「アマキさん?べ、別に一緒にいなくてもいつものことだし。ってかアマキさんは今関係ないだろ」
「いや、そうだけど……さ」
トールは苦笑しながら見ていた。
“お前らが仲良くしてないと、艦内の雰囲気が悪くなるんだよ”
そんなセリフを飲み込んで、助けを求める視線をフレイに送る。
しかし――フレイはすでにアマキの後を追いかけていて、姿は見えない。
フレイ、孤高アイドルに接近。
通路の先にアマキの背中を見つけたフレイは、駆け寄って勢いよく腕に飛びついた。
「待ってよー!」
「なんだ?私はこれから格納庫に」
アマキは驚いた様子もなく、歩きにくそうにしながらフレイを横目で見る。
「あとでパパに顔見せに行くから、一緒に行こっ」
「なんで?」
「だって! 私がお世話になった人だって紹介したいんだもん!」
アマキはあっさり首を横に振った。
「別にいいよ」(面倒くさいし)
「えー?行こーよぉ!」
「お偉いさんには興味ない」
その言葉に、フレイは違う意味で感激する。
「権力に媚びないのね……! 孤高のアイドル!」
「いやいや、アイドルじゃないから」
コバンザメのようにアマキにぴったり張り付くフレイ。
この好機を逃すまじ、と全力で追従していく。
ライバルには塩は送らない。
それが――フレイ・アルスターという少女だった。
「もうすぐ第8艦隊と合流だよな」
「……ああ、長かったけど、ようやくだね」
艦内には穏やかな空気が流れていた。
壁越しの会話にも、少しだけ弾んだ声が混じる。緊張と疲労に満ちた長旅の果て、ようやく目指す場所が近づいている。
ブリッジでもそれは同じだった。
モニターの進行状況を確認したマリューは、小さく息を吐く。
「ようやく肩の荷が……降りるわね」
ぼそりと漏らした声に、隣でナタルが鋭く眉を寄せる。
「艦長、まだ合流したわけではありません」
「……わかってるわよ」
その表情が、ほんの少し苦い笑みを含んでいることにナタルは気づかない。
マリューは思った。
艦長に相応しいのは、本当はナタルなのかもしれない――
規律に厳しく、判断にも迷いがない。自分には、その強さが足りない。
特に……アマキの件。
ナタルはあれを軍事裁判ものだと主張した。
しかし、モントゴメリ艦長との協議の結果、民間人の独断行動という判断で責任を問わない方針が決まった。
それでも――アマキは最初から最後まで、あまりに冷静だった。
まるで経験を積んだ兵士のように。
銃を手にすれば、きっと躊躇なく使いこなすだろう。そう思わせる何かが、あの少女にはあった。
「彼女を……手放せるだろうか」
第8艦隊と合流すれば、民間人は保護されて艦を降りる。
それが彼女にとって正しい“解放”なのか――
その問いが、マリューの心に残り続けていた。
ラクス・クラインの脱走癖は、ヴェサリウスでも既に“風物詩”だった。
「ハロハロー! アスラーン!」
ハロが壁にぶつかりながらアスランに突撃してくる。アスランは深くため息をつきながら、片手でそれを受け止めた。
「はしゃぎすぎだ、ハロ」
ハロの後ろから、当然のようにラクスが現れる。
「ハロが楽しそうですわ。久しぶりに貴方に会えて、嬉しいようです」
「ハロに感情表現機能はありませんよ。ラクス、あなたは客人です。戦艦内では勝手に抜け出さないでください」
そう言って彼女を部屋へ連れていくアスラン。ラクスは不満げに顔をしかめる。
「こちらでも同じことを言われますのね……つまらないですわ」
アスランはふと心配になる。
「そちらでは……特に問題はありませんでしたか?」
「ええ、アマキ様がとても良くしてくださいましたわ。キラ様も。それで──あ、そうでした!」
ラクスは突然、自身の服の中をごそごそと探り出す。アスランは目を見開いて慌てて後ろを向く。
「ラクス!? なにして──」
「はい、こちらですわ。アマキ様からお預かりしてきた手紙です」
彼女が差し出したのは、分厚い封筒。
「……アマキ?エリスのパイロットから? なぜ俺に──」
「キラ様からのラブレターだそうですわ」
「キラ!?」
一瞬警戒したものの、「キラから」と聞いた途端、アスランは表情を緩めた。
受け取るやいなや、胸にそっと当てる。
「こんな……こんな分厚い手紙を俺に……キラ……!」
完全に浸っているアスラン。その様子を見ながらラクスはさらりと告げた。
「アスラン、感動に浸っているところ申し訳ありませんが──もう一つハロを頂けませんか?」
「……え?」
「紫色のハロをお願いしますわ。アマキ様が所望しておりますの。至急、よろしくお願いしますね」
「え、あ……はい」
こうして、アマキ・カンザキのために、紫ハロが制作される運びとなった──。
◇◇◇
ザフトの執念は、ストーカー顔負けだった。
合流前の艦を狙って、別働隊が襲撃を仕掛けてくる。
敵戦力は、ガンダム三機──デュエル、バスター、ブリッツ──
そしてローラシア級一隻。
モント・ゴメリ以下二機はすでに前方へ向かっており、この戦域にはいない。
警報が艦内に響き渡り避難民の少女が走る。
その拍子に通路でキラにぶつかり、転倒した。
「あっ──」
すぐさまフレイが駆け寄る。
「だいじょうぶ! また戦争だけど──お姉ちゃんとお兄ちゃんが、きっと助けてくれるから、ね?」
「……うん!」
フレイの瞳は真っ直ぐだった。
不安に揺れる少女の心に、絶対的な信頼を届ける。
キラとアマキは自然と背筋を伸ばしていた。
「フレイ、その子をお願い」
「わかったわ。……気をつけて、二人とも」
「ああ」「うん」
キラとアマキはパイロットルームへ急ぎ足で向かう。
キラは、どこか気後れして一歩引いた位置からアマキの背中を見つめていた。
──子供じみた喧嘩のことを、まだ引きずっている。だがその道中、アマキが前を向いたまま、短く声を落とす。
「キラ。自分の命を最優先にね」
「あ──」
それは、何度も戦闘の前に彼女から聞いてきた言葉だった。
今も変わらない。いつも気にかけてくれていた。
アマキは、大人で、冷静で、いつもキラの先を行く。
別れ際、彼女はわずかに後ろを振り返って、笑った。
「……あとでな」
その笑みが、キラの胸をふわりと温める。
「ア、 アマキさんも……!」
とっさに言い返したキラに、アマキは片手をあげて更衣室へ消えた。
警報音が鳴り響く中、キラは制服の胸元をぎゅっと握る。
「………」
ほんの少しのやり取りでも、キラにとっては特別だ。
心がじんわりと温まっていく。
──僕も、頑張らなきゃ。
気持ちを新たに、キラは更衣室へ向かった。
『ムウ・ラ・フラガ、出る!』
先頭はメビウス。
続いて通信にミリアリアが入る。
『アマキさん、キラ。敵はデュエル、バスター、ブリッツの三機です』
『了解!キラ・ヤマト、ストライク行きます!』
エールストライカーを装備したストライクが出撃する。
「アマキ・カンザキ、エリス出る」
エリスも滑るように発進。
場数でいえばフラガ大尉の指揮が適任かもしれない。
だが、この戦域でガンダムを操り、敵を何度も退けてきたのは──アマキ。
彼女の指示が、この出撃にも、響いていく。
「フラガ大尉はバスター。キラはブリッツ、もしくはアークエンジェルの護衛。私は……デュエルをやる」
『負けるなよ!』
『気をつけて!』
3機はアマキの指示のもと、それぞれの標的へ向かって飛び立った。
敵は連携しながら円を描いて進行。
一瞬、息を合わせてフォーメーションを崩す──
その隙間から、ローラシア級がビーム砲を発射。
「っち……姑息な真似を!」
アークエンジェルが直撃を喰らい、艦内に衝撃が走る。
メビウスが反応し、フラガがバスターを誘導。
ストライクはブリッツへ先制射撃──火花が空に舞う。
そして、デュエルは一直線にエリスへ突進してくる。
『エリスといったなァ!』
「クッ……名乗った覚えもないしこれからも付き合うつもりはない!」
ビームライフルの応酬──互いにかすり傷すら許さぬ。
次の瞬間、両者はビームソードを展開。
斬撃が閃光とともに交差。デュエルの振り下ろしを、アマキはひらりとかわす。
『ちょこまかとォ!』
「しつこいな!」
ビィィン!!
ビームの刃がぶつかり合う。火花、稲妻、衝撃の残響。
二、三度の激突の間にも、アークエンジェルはローラシア級の動きを読み取りながら応戦。だが、敵も明らかに前回より俊敏だった。
『アマキさん!キラ!』
ブリッジからの緊急通信。被弾の警告が鳴る。
「キラ!行けるか?ブリッツは私が引き受ける」
『でも──!』
『よそ見してる場合かァーー!!』
「してないっつーの!!」
咄嗟に振り下ろされるビームソード──
その瞬間、アマキはデュエルの腕を掴み、斜めから強引に刺突!
脇を抜け、背中まで突き刺さる――火花が弾ける。
『ぐあああああ!!』
続けざまにコクピットへ蹴り!
機体は大きく吹き飛ばされ、内部から火花が散る。
ブリッツが機体回収に向かう。
「キラ!深追いは不要!もうすぐ合流地点だ」
『……っ、了解!』
『おい、こっちも手伝えよ!』
バスターも撤退に移行。
アークエンジェル、ストライク、エリス――それぞれが危機を切り抜いた。
『坊主、ブリッツと見事にやり合ったな』
『え?無我夢中だったので……』
『気づいてなかったのか?……ま、いーさ』
キラの何かが、“割れて”いた。
それが何なのか、彼自身にはまだ分からない。
だが確かに──戦いの最中、心が何かを越えたのだ。
第8艦隊との合流は、もう目前に迫っている。
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