腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
夜の砂漠。
闇に身を伏せた男が、双眼鏡を覗き込んでいた。
視線の先——砂に溶け込むように、アークエンジェルが静かに佇んでいる。
「どうだ、大天使は動いたか?」
背後の上官へ、部下が即座に報告する。
「はっ、依然として沈黙を保っています」
「地上波Nジャマーの影響で、電波は散々だ。まあ、彼女もまだ夢の中ってとこか」
上官はコップを持ち上げ、ひと口飲んだ——その表情がわずかに驚きの色を帯びる。
「……ん?」
部下は慌てて双眼鏡を再確認。
だが、アークエンジェルに異変はなし。
「いやいや違う。今回はモカを5%減らしてみたんだ。ほら、これが絶妙でねぇ……いいなこれ」
コーヒーの話で機嫌が良くなった上官は、戦艦へと踵を返す。
部下はコップを投げ渡されつつ、その背を慌てて追う。
丘を越えた先では、バクゥ部隊と航空兵器が夜の砂に並び、静かに待機していた。
指示を待つ兵たちの前で、男が宣言する。
「これより地球軍新造艦・アークエンジェルへの作戦を開始する。目的は敵艦とMS二機の戦力評価——撃破は優先事項ではない」
「……倒しちゃダメなんですか?」
軽口まじりの質問に、周囲のパイロットが苦笑する。
「んー、撃破できるなら止めはしない。だが忘れるな——あれはクルーゼ隊が仕留め損ねた艦だ。迂闊に扱うな」
男はゆっくりと視線を上げ、月を見やる。
「さぁ、戦争を始めよう。今日はコーヒーも美味しいし、気分がいい」
そう言って、指令車に乗り込む。
その男こそ——アンドリュー・バルトフェルド。
通称・砂漠の虎。
戦場をも遊び場と化す男が、ついに動き出す。
◇◇◇
同時刻ーー
スカイグラスパーの横腹には、まだ熱の残る工具の余韻。
ムウ・ラ・フラガ少佐とマードック軍曹は、夜通しの調整作業を終えて、互いに小さく息を吐いた。
「少佐ー。ここまで仕上げれば、あとは現場で合わせるだけですよ」
「……そうか。明日には、動くかもしれんな。キラとアマキも、無事に目を覚ましたし……ふぁぁ」
あくび混じりの言葉に、マードックが苦笑する。
「一時は……どうなることかと。ほんと、無事でよかったですよ」
「ああ……ほんとにな」
照明の落ちた格納庫の片隅。
ムウは、スカイグラスパーの機体を見上げながら静かに思う。
自分たちが守らなければならないのは、機体だけじゃない。
その上に乗る、まだ“若すぎる”命たちだ。
ムウの眼差しは、少しだけ優しくなる。
「……さて、俺たちの出番だな。フォローも含めてな」
◇◇◇
「ふぁあああ……」
トールが大きなあくびを漏らす。
乱れた隊服の前を、ミリアリアが容赦なく直しながら睨んだ。
「もう、ちゃんと着てよ。そんな顔でブリッジに入ったらバジルール中尉に怒られるわよ」
不機嫌そうな口調——理由はトールにもわかっていた。
二人は交代でブリッジへ向かう途中だったが、道中、ミリアリアは納得いかない様子で愚痴をこぼす。
「フレイったら……アマキさんのところで寝てたのよ!しかも一緒に!」
「姉妹っぽい距離感ができたんじゃないか?」
「はぁ?じゃあ私もお姉様欲しいし!?寝たいんですけど!?一緒に!」
「ミリィ、声……大きい……」
怒りは収まらない。
「私はアマキさん専属の整備士になる予定なんだから!心も体もケアして、支えるの!それなのに、ファンが特別扱いしてさ〜〜!何様なの!?アマキ様だよ!?優しいの知ってて押しかけてるとか、ちょっとやな感じーー!!」
「ミリィ、それくらいに……」
プンスカプンプンと怒りを全身にまとったミリアリアと、半分眠気に包まれたトールは、ブリッジへ突入。
「遅いぞ」
「すいませーん……」
不機嫌全開の挨拶。ミリアリアの表情はまるで曇天。
トールはノイマン少尉に「それ以上触れないで」のアイコンタクト。
ノイマンは無言で頷いた。空気の読解力は一級だ。
そしてブリッジにはバジルール中尉も加わり、通常会話が始まった——が、
瞬く間に、敵の反応がスクリーンに走る。
空気が変わった。
目の前に迫るのは、砂漠の虎の咆哮か。
怒りも嫉妬も、任務の前には沈黙する。
第二戦闘配備——艦内に響く緊迫のアナウンス。
ベッドから跳ね起きたアマキは、ほぼ下着姿。迷いなく隊服を手に取る。
「やっぱり……来たか!」
苛立ちを吐き捨て、ジャケットは羽織るだけ。髪も束ねず、駆け足で部屋を飛び出た。
反対側のベッドではフレイがぼんやり目を擦りながら、隣の気配がないことに気づく。
「……ん〜〜?」
置いてけぼり感満載の寝ぼけ顔。
あとでしっかり愚痴る予定。
廊下でバッタリ出くわすキラとアマキ。
「あ」
「あ」
気まずさ満載。それでも並んで走る。
キラは気まずさよりも“告白継続”を優先。
「あの」
「今、急いでる!」
「でも!」
「戦闘始まる!」
「じゃあ……終わったら、返事してよ」
「……どどどどのような返事?」
「告白の続き」
「っ!!」
バビューン!!!
アマキ、全力疾走。
キラ、全力追走。
アマキ、全力で着替え。
キラ、全力で着替え(なんか速い)。
アマキ、エリス搭乗。
キラ、ストライク搭乗。
アマキ、半泣きで叫ぶ。
「ハッチ開けろー!!今すぐーー!!キラが、キラが来るーー!!」
足をバタバタさせるその姿に、整備員たちが全員ちょっと引いている。
キラは呆れ顔。
「そんなに逃げなくても……」
といいながら冷静に戦闘開始を促す。
「敵に落とされますよ。ハッチ、開けてください」
ブリッジではミリアリアが状況報告。
マリューは深いため息ののち、容認。
「言い方は気に入らないけど……どうせ止めても無理でしょうね。ハッチ、開放」
この二人、命令なんて聞くわけがないと、既に艦の全員が理解している。
戦闘に関してはアマキが一番であり、いちいち指示をだすよりも勝手に勝利へと導いてくれるのだから。無駄に待たすより外にでて敵を倒してもらったほうがお互いにやりやすい。
幾度も共に戦うと性格が大体把握できるものだ。
「第一戦闘配備!」
マリューの冷静な声が艦内に響く。
それに続き、バジルール中尉が迅速な指示を飛ばす。
「ハッチ解放!敵戦闘ヘリを迎撃せよ!重力、油断するなよ!」
戦闘経験を重ねた者にはわかる——アマキ・カンザキが動けば、勝利はぐっと近づく。
彼女は命令より直感と実績で戦場を導く者だった。
「了解!アマキ・カンザキ、エリス発進!逃げるぞ!」
『キラ・ヤマト、ストライク出る!……アマキさん、それ“逃げるぞ”じゃなく“行くぞ”じゃ?』
「……あ、そうだった!うわ、重力強っ!」
砂漠の空気は重く、機体が出た瞬間に地に引き込まれる感覚が襲う。
スラスターを吹かして何とか着地するが、両脚が砂に取られ機体は膝をついた。
その隙をついて、複数の軍用ヘリが容赦ないミサイルを浴びせてくる。
ドガン!!ズガン!!
「くっ……!」
『アマキさん、大丈夫!?』
PS装甲があるとはいえ、衝撃は蓄積されていく。
キラは素早くストライクのランチャーを構えつつ、調整パネルを操作し始める。
『調整しないと……重力バランスが狂う!』
「私は気合いでなんとかする!」
本当に、気合いで持ち直すアマキ。
スラスターを瞬時に吹かし、機体の挙動を砂地に合わせると、左右のヘリを正確に狙って撃ち落としていく。
ビームが走る。
ズズン!ドガァァン!!
爆発の連鎖が砂煙を巻き上げ、砂漠の空に炎の柱が生まれる。
そして——沈黙。
敵のヘリ部隊は、すべて撃破された。
キラは思う——「ああ、やっぱりアマキさんらしい」
冷静に援護射撃を行いながら、アークエンジェルからの火力支援と合わせて戦況を読み取る。
その頃、双眼鏡越しに戦場を凝視する男がいた。
「ストライクは戦闘の合間に……エリスは着地から即座に体勢を回復?早すぎるだろ」
バルトフェルドは言葉を失う。
この数分で、敵のヘリは完全に壊滅。苛立ちと同時に、胸の奥がざわめく。
「バクゥを出せ。……反応を見たい」
「はっ!」
ザフト製・四足陸戦型MSバクゥが投入される。砂漠特化の機動性に、アマキは瞳を輝かせた。
「面白い機体だなぁ……乗ってみたい」
『アマキさん、呑気すぎ!』
「いやいや。気になるよね?」
『それどころじゃないって!来るよ!』
キラがアグニで狙撃するも、バクゥは砂の上を滑るようにかわす。
「……なら接近戦だ」
エリスを空に跳ばせたアマキが、上空から陣形を俯瞰する。
4機のバクゥが挑発と距離取りを繰り返し、包囲網を構築していく。
直後、エリスにもミサイルが飛ぶ。
しかし——アマキの勘が冴える。
「このタイミングで……止まる!」
瞬時にビームサーベルを逆手に構え、真下へと突き刺す!
バギャァッ!
バクゥのコクピットを貫き、火柱が上がる。
「一匹め」
ストライクも上空から狙うが、機敏に動くバクゥには一歩届かず。
地に降りると背後を取られるも、反転し膝蹴りで撃退。
そのバクゥを、アマキがまるで槍投げのようにビームソードを叩き込んで粉砕。
「二匹め」
唇を舌でなぞりながら、アマキは次の“獲物”を探す。
ストライクはランチャーの基部でバクゥを叩き伏せ、仰向けにしたところへ——
ボフォォォン!!
アグニの一撃が直撃し、砂漠の空気が震える。
爆風がバルトフェルドたちの前線にも届く。
「……あれ、本当にナチュラルか?」
その動きは、戦場慣れした者のそれ。
一瞬の判断、迷いなき殺意、加減を知らない破壊力。
特にエリスのパイロットは、戦いに“快楽”を見出しているかのよう。
双眼鏡を握る手に汗が滲んだ。
バルトフェルドは、静かに結論する。
「……これは、かなりの大物だ。やはり“大天使”を先に潰すべきか」
◇◇◇
スカイグラスパーの発進準備中、アークエンジェルに向けて敵艦から砲撃が飛ぶ。
マリューの声がブリッジを突き刺す。
「離床!緊急回避!」
ノイマン少尉が即座に舵を切り、アークエンジェルが砂上を滑る。
その直後、砲弾がストライクとエリスの頭上をかすめ飛ぶ。
「っち……!」
『アークエンジェルが!?』
状況把握の早いアマキは、即座にキラへ指示を飛ばす。
「キラ!ランチャーで援護!アグニを斜め上に撃って、砲撃の壁を作るんだ!」
『わかった!』
「私は残りのバクゥを殲滅する!」
急速に攻勢に出ようとしたその瞬間——
背後からミサイルが襲い来る。
「!?どこからっ!」
モニターに映るのは、戦車でもMSでもない。
砂を走る車列、その上に人影——そして銃器から撃ち込まれる信号弾。
通信回線が強制接続される。
『そこのMSのパイロット!死にたくなければ指示に従え!トラップポイントまでバクゥを誘導しろ!』
「……ヘェ?」
どうやらレジスタンスらしき連中からの“招待状”らしい。
アマキは少し楽しげにスラスターを吹かし、示されたポイントへ向かう。
エリスの後を追って、バクゥの群れ。
更にその後ろをレジスタンスの車両部隊が続く。
砂に降り、浮き、また滑り、目指すポイントへ到達。
「ここだな。なら、上へ逃げろってことか」
バクゥが一斉に飛び掛かってくる。
その瞬間、エリスは鋭く上昇。
直後——
ズズン!!
地面が炸裂し、大きな陥没とともにバクゥたちが砂穴に飲み込まれる。
続いて起爆。爆炎が空へと伸びる。
「えげつねぇ……」
だが嫌いじゃない。この無駄に痛快なやり口。
その後、フラガ少佐からの報告で敵母艦が「レセップス」と判明。
夜が明け、砂漠の縁からザフト部隊が撤退を始めた。
そして、静かなコクピット内——エリスに乗ったまま降りたくないアマキ。
ふと、車から降りてきた金髪少女が下から睨み上げてきた。
その顔つきに、アマキは一言だけ漏らす。
「……やなかんじー」
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