腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:松魚
プラント、アプリリウス市。
静かな住宅街の一角にある、ラクス・クラインの屋敷。
その門前に、アスラン・ザラのエレカが滑り込む。
今日は久々のデート。
花束と小さな箱を手に、アスランは認識カードを提示する。
「認識番号285002、クルーゼ隊所属アスラン・ザラ。ラクス嬢と面会の約束です」
『確認しました。どうぞ』
メイドの声とともに門が開き、エレカはそのまま敷地内へ。
所定の位置に停めると、アスランは車を降りて玄関へ向かう。
執事がすでに外で待っており、恭しくドアを開けてくれた。
屋敷の中に足を踏み入れた瞬間——階段の上から、聞き慣れた声が響く。
「いらっしゃいませ、アスラン」
ラクスが、たくさんのハロを連れて微笑んでいた。
その姿は、まるで春の風のように柔らかい。
「すみません、少し遅れました」
「あら、そうですか?」
ラクスは気にも留めず、軽やかに階段を降りてくる。
アスランは花束を差し出した。
「これを」
「まぁ!ありがとうございます」
ラクスが嬉しそうに受け取ると、ハロたちがアスランの周りを跳ね回る。
歓迎しているらしいが、アスランには少々騒がしく感じるようだ。
「あの……このハロたちは」
「お客様を歓迎しているんですわ。さぁ、どうぞ」
執事に見送られながら、ラクスは庭へとアスランを案内する。
廊下を歩く間も、ハロたちはぴょんぴょん跳ねてついてくる。
アスランは器用に避けながら歩くが、やはり気になる。
「しかし、これでは迷惑なのでは」
「アスランだから余計にはしゃいでいるのでしょう。家においでになるのは、本当に久しぶりですもの」
その言葉に、アスランはハッとした表情を浮かべ、つい謝る。
「すいません……」
任務が重なれば、会う時間も限られる。
ラクスはプラントの象徴的存在。
お互いに多忙であることは理解していても——
それでも、こうして会えたことが、何よりも嬉しい。
東屋の前にある階段に差しかかると、ラクスはふと立ち止まり、昔から大切にしている配膳ロボットを呼んだ。
「オカピ、お花を持っていって。アリスさんに渡して、それからお茶をお願い」
花束をそっとロボットに託し、伝言を添える。
そして、アスランを囲んで跳ね回るハロたちの中から、一体を呼び寄せた。
「ネイビーちゃん、おいで」
深い青色のハロが、ラクスの手に収まる。
ラクスは東屋の茶会用の席に座り、テーブルに備え付けられたペンで、ネイビーちゃんにくるりと髭を描いた。
席を立ち上がり、芝生へ向かってハロを放り投げる。
「さぁ、おひげの子が鬼ですよ」
その声に反応して、他のハロたちが一斉に跳ね出す。
鬼ごっこが始まり、庭はにぎやかに——そして、ようやく静かになった。
アスランは、ほっと息をつく。
「追悼式典には戻られず、申し訳ありませんでした」
「いえ、お母さまの分も、わたくしが祈らせていただきましたわ」
「ありがとうございます」
ラクスは微笑みながら、静かに言葉を続ける。
「お戻りだと聞いて、今度こそお会いできるかと楽しみにしておりましたのよ。
今回の休暇は、長くおられますの?」
「さぁ……休暇の日程は、あくまで予定ですので」
「軍に志願される方が増えておりますわね。わたくしのお友達も何人か志願されまして……戦争が、どんどん大きくなっていくような気がします」
「……そうかもしれません」
その言葉に、二人の間に少しだけ沈黙が流れる。
風が庭の花を揺らし、ハロたちの跳ねる音が遠くに響く。
ラクスが、ふと思い出したように尋ねる。
「そういえば……アマキ様のために、ハロを作っていただけましたか?」
「ああ、そうでしたね。……こちらです」
アスランは小さな箱を差し出す。
ラクスがそっと蓋を開けると——中には、紫色のハロがスリープ状態で収まっていた。
「まぁ……なんて綺麗な色」
ラクスは指先でそっと触れながら、微笑む。
「可愛らしいですわ。これならアマキ様も、きっと喜んでくださると思います。ありがとうございます、アスラン」
「……いえ」
アスランはふと考える。
この紫のハロを、どうやってアマキに渡すのか。
今は離れ離れ。確実な手段があるわけでもない。
だが——ラクスには秘策があった。
「オカピ、あの袋を持ってきてくださる?」
配膳ロボットが持ってきたのは、アマキから譲り受けたという買い物袋。
青たぬきの柄が描かれた、どこか庶民的なそれを、ラクスは誇らしげに掲げる。
「ウフフ。実はこの袋の中、四次元になってまして。いろいろと取り出せるのです」
そう言って、ラクスは袋の中から——
カップラーメン、チョコのお買い得袋、カップ焼きそば……と次々に取り出す。
テーブルの上は、瞬く間に“庶民の祭典”と化した。
アスランは自分の頬を抓る。
痛い。現実だった。
「………」
ラクスの手には、今度はカップ焼きそば。
アスランは震える手で、ラクスに懇願する。
「ら、ラクス……それを貸してください」
「はい。大切に扱ってくださいね」
「もちろん」
袋を受け取ると、アスランは恐る恐る中を覗き込む。
中は、真っ暗だった。試しに手を突っ込む——
「!?」
手が、ずぶずぶと沈んでいく。
底がない。終わりがない。
その闇に、飲まれそうになる。
アスランは、ラクスを一度見つめる。
ラクスは「どうぞ」という顔をしていた。
「っでは!」
ずぼっ。
アスランは頭を突っ込んだ。
そのまま、しばらく動かない。
ラクスはその間、お茶を飲み、お菓子をつまみ、優雅に時間を過ごす。
そしてふと思い立ち、カップラーメンばかりではアマキの健康に悪いと判断。
袋の中からラーメン類をすべて没収し、代わりに保存食を大量に詰め込んだ。
栄養はある。保存も効く。
だが——味気ない。
ラクスは知らなかった。
のちに、カップラーメンの数が極端に減ったことに気づいたアマキが、
袋の中で静かに嘆くことになるとは。
頭を買い物袋に突っ込んだままだったアスランは、ゆっくりと顔を引き抜いた。
「…………ありえない……」
一言、呆然と呟く。
目の前の袋を見つめるその瞳は、どこか遠くを見ていた。
強烈な体験だった。
言葉にできないほどの衝撃。
そしてアスランは、ある確信に至る。
——アマキは、別宇宙から来た存在なのではないか。
そうでなければ、あの袋の存在も、あの感覚も、説明がつかない。
ラクスは四次元についてはさほど気にしていない様子だったが、ふと考える。
「……人も入れるのでしょうか…」
使う日が来ないことを、ただ静かに願う。
デートとは名ばかりの、奇妙なお茶会は幕を閉じた。
アスランはほとんど呆然とし続け、ラクスはその傍らで袋の中身を入れ替える作業に勤しんでいた。
やがて時間となり、アスランはラクス邸を後にすることに。
「残念ですわ。夕食もご一緒できればと思っておりましたのに」
「すいません、いろいろと……やることがあるもんで」
「そうですか」
ラクスの声は、少しだけ寂しげだった。
アスランは、ふと立ち止まり、言葉を探す。
「その……いい、ですか」
ラクスにそっと顔を近づける。
ラクスはその意図に気づき、静かに目を閉じた。
——頬に、キス。
アスランの脳裏に、アマキの言葉がかすめる。
『お前は、まだ覚悟が足りない』
唇に触れる勇気は、まだなかった。だが、触れたのは確かな想い。
軽く触れるだけのキス。それでも、二人は確かに心を交わした。
「また、来ます」
「ええ。お待ちしておりますわ」
◇◇◇
プラントでは、ザラ国防委員長の強行により——
【オペレーション・スピットブレイク】の法案が可決された。
それは穏健派シーゲル・クラインとの対立をさらに激化させ、
ナチュラルに一時の猶予も与えず、戦争を早期終結へと導く“強力な武器”を持つことを意味していた。
情勢が揺れるプラントとは対照的に、地球では——
砂漠のレジスタンスに身を寄せるアークエンジェルが、次なる作戦に向けて動き出していた。
目的地はアラスカ。
その途中、砂漠の虎との一騎打ちが避けられない。作戦会議の中、サイーブが地図を指し示す。
「この辺りは空洞だ。俺たちが仕掛けた地雷がある。戦場にするなら、この辺だろう。敵もそう考えるはずだ。せっかく仕掛けた地雷を使わねぇって手はねぇ」
ムウは地図を見つめながら、慎重に問いかける。
「本当にそれでいいのか?俺たちはともかく、アンタらの装備じゃ被害はかなり出るぞ」
サイーブは深く息をつき、静かに語り始めた。
「……虎に従い、奴のもとで働けば、確かに平穏な暮らしは約束される。バナディーヤのようにな。女たちからも、そうしようと言われてる。だが、支配者の手は気まぐれだ。何百年、俺たちの一族はそれに泣いてきた。支配はされない。そして、支配はしない。俺たちが望むのは、それだけだ。虎に抑えられた東の港口を取り戻せば、それも叶う。こっちはアンタらの力を借りようってんだ。変な気遣いは無用だ」
最後に、サイーブは口角を少しだけ上げてみせた。
その表情に、ムウは静かに頷く。
「オッケー。わかった。艦長」
マリューも、その言葉に応える。
「わかりました。では、レセップス突破口における作戦——喜んでお受けします」
「おう」
互いに利はある。
だが明らかに、レジスタンス側に負傷者が続出する危険な作戦だった。
それでも、サイーブは覚悟を決めていた。
その真剣な眼差しに、マリューも腹を括る。
こうして、レジスタンスとの共闘のもと——
作戦は練られ、砂漠の決戦へと向かっていく。風が砂を巻き上げる。
その先にあるのは、誇りか、犠牲か。
◇◇◇
格納庫ではスカイグラスパーのシミュレーションが導入されており、意外にもカガリが順調に敵を倒していた。後ろでみていたトール達が感嘆の声をあげる。
「トール、みて。この子すごいの」
「へぇ」
「えっと、カガリちゃんだっけ。実戦経験あるの?」
ノイマンに褒められカガリは気分良くする。だが最後で集中力がとぎれ一発当たってしまう。だがテスト結果はSSSだった。
「二発食らっちゃったかな」
「でもすごいじゃん。俺なんか戦場に出た途端におわっちゃったもん」
カズイが羨ましそうに言うとミリアリアも残念そうに言った。
「私も」
「なになに、もうみんなやったの?」
「お前ら軍人のくせに情けなさすぎるよ。銃も撃ったことないんだって。そんなことじゃ死ぬよ。戦争してんだろ、戦争」
そう言ってカガリはどこかへ行ってしまった。
偉そうな態度にミリアリアはすっかり気分を害したようだ。
「確かに」
「ふん、威張れるようなことじゃないわよ。銃撃ったくらいで」
「軍人なのに撃ったことないってのも威張れることじゃないぞ」
ノイマンの指摘にカズイとミリアリアは気まずさから視線を逸らす。元一般人にその言葉は酷だった。
トールが興奮しながらシミュレーターに乗ろうとする。
「俺にもやらせて!」
「ゲーム機じゃないんだぞ」
ノイマンの言葉にトールはとっさに敬礼を取り、それらしく振舞う。
「はっ!わかっております。訓練と思い真剣にやらせていただきます」
トール的には遊べる機械としてしか見てなかっただろう。
一方、アマキの自室では——
キラとフレイが言い合いをしていた。
キラはアマキのベッドに座り、平然と髪のケアをするフレイに怒りをぶつける。
「フレイのせいだよっ!艦内に変な噂が広まってるんだから!」
「何よ!アマキさんの部屋で一緒に寝起きしてるだけじゃない」
ふぅ、と枝毛を吹き飛ばすフレイ。
彼女の私物はベッド脇に所狭しと並び、化粧品、ヘア道具、香水——まるで“フレイの城”。
アマキの私物は、もう一つのベッドに避難中。
この部屋は、着々とフレイに占領されつつあった。
「だからそれがやばいって言ってるの!」
「まさか!私たちの仲を疑ってるとか?」
恋人同士ではない。
フレイは精神的な支えとしてアマキのそばにいる。
アマキもそれを了承している。
だが——告白済み返答なしのキラにとっては、嫉妬の対象でしかない。
艦内で広がる不謹慎な噂に、キラは耳を塞ぎたくなる。
いや、相手の口を塞ぎたくなる衝動を、理性で押し込めている。
だがフレイは、まったく気にしていない。
ならば——アマキ本人に注意してもらうしかない。
「……アマキさんも注意してよっ!」
「……あれ~。やっぱり少ないよなー」
だが肝心のアマキは、反対のベッドで——買い物袋に頭を突っ込んでいた。
「何やってるの!?」
キラの叫びに、アマキは顔を出す。
「ん?なんか言った?」
「なんで頭を突っ込むの?普通に広げればいいじゃん」
「ああ、この中、四次元だから。荷物どこにあるかわかんないけど」
「四次元?アニメの話?」
キラは混乱する。
だがアマキは、袋を差し出す。
「見てみる?」
キラは不審がりながら袋を覗き込む。
普通の買い物袋——のはずだった。
だが、顔を突っ込んだ瞬間——世界が変わった。
言葉にできない。
ただ、世界は広いとキラは思い知った。
「……アマキさんは、宇宙人?」
「なんでそうなる」
「私も見せてー!」
フレイも顔を突っ込む。
しばし沈黙——そして顔を離す。
「……宇宙人説、濃厚だわ」
「だからなんでそうなる……ん?」
その時、袋がうごうごと揺れ始めた。
「な、なに!?」
「怖い怖い!キラ、やっつけてっ!」
「なんで僕!?」
アマキを盾にする二人。
「私を前に出すなっ!」
「アマキさんのだから責任もって片づけてっ」
「そうそう!」
こんな時だけ意見が一致する二人。
「裏切者めっ!」
アマキは腹を括り、慎重に袋へ近づく。
じりじりと距離を詰め——
その時!
ばっ!
袋から何かが飛び出した!
「ぎゃあ!」
「きゃあ!」
「うわぁ!」
跳ね回るそれは、最後にアマキの顔へ突撃!
ごずっ。
「ぐはっ」
アマキ、撃沈。
「アマキさん!!」
駆け寄る二人。
アマキの顔には、紫色のハロがしがみついていた。
「これ、なんで?」
「さぁ?」
「いたたた……なんなのこれ」
がしっと掴むと、今度は素直に取れて——
アマキの手の中に収まる。
「ハロハロ~アマキ~」
「おお!アスランが作ってくれたんだ。かわいー!」
「え?アスラン?」
「ラクスに頼んだんだよ。私も欲しいって。そっか、送ってくれたんだ」
「ハロハロ~ラクスからてがみ~」
ハロが口を開け、手紙を一通取り出す。
アマキはそれを受け取り、ベッドに腰かけて開く。
キラとフレイも両隣に座って覗き込む。
「えーと……『アマキ様へ。ようやくお届けすることができました。ぜひ“ラクス”と名付けて可愛がってくださいな。またすぐにお会いできると思いますわ!その時まで無事でいてくださいませ。PS:ハロにGPSをつけておりますので居所はばっちりですわ』……だって。便利だね」
「ストーカーだ」
「推しに対する愛が違うわ」
キラとフレイ、ドン引き。アマキは気にしていない。やましいことは何もない。心配してくれているのだと、素直に受け取った。
「さて、君の名前をどうしようかな」
「そのまま“ハロ”じゃ味気ないね」
「“ラクス”はないわね」
三人で小一時間悩んだ末——
「よし!決めた。君の名前は“ルル”だ。よろしく、ルル!」
「ハロハロ~!」
こうして、小さな紫ハロ——改め“ルル”が、アマキの新たな友達として加わったのだった。
そして、ルルはこのあと——とんでもない活躍をすることになる。
お気に入り、評価等よろしくお願いします。励みになります!
続編としてガンダムSEED FREEDOM編を読んでみたいですか?
-
読んでみたい
-
別に読まなくて良い