腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
ムウはレーション片手に、前回の敵について自分の見解をマリューに伝えていた。
「潜水母艦ってことか?」
「うーん、いくらなんでもカーペンタリアから直接は無理だろ。こっちだって動いてるんだぜ?ギリギリ来て戦ったって、帰れないってば」
次から次へと敵がやってくることに、マリューは思わずため息をついた。
「はぁ……」
「洋上艦や航空機なら見逃さないだろうけど、水中はこっちも慣れてないからね。今度来たらそっちも叩かないと、下手すりゃ追い回されるぜ。あむっ」
バクバク食べながら、最後の一口を放り込む。
「うまい。嬢ちゃんからもらったザフトのレーション、うまいぜ」
「ですわねぇ……。どうしてザフトのレーションを持ってるのか、アマキさんに尋ねたいところだけど、今は後回しね。……しかし」
敵ばかりで頭痛すらしてきたような気がする。
そんなマリューの肩を、ムウは思いっきりバシッと叩いた。
「ガンバガンバ!どうにかなるって。嬢ちゃんや坊主もいるしさ。なるべく浅いところ行くようにしてさ。これまでだって、なんとかなってきたじゃん」
マリューはたたらを踏みながら、軽く睨みつける。
「また根拠なくそんなことを」
「それが励ましってことでしょ」
ムウは指先でマリューの額を軽く小突いた。
「もう!」
先ほどまでの弱気は、どこかへ吹き飛んでいた。
マリューは心が軽くなり、笑みを浮かべてムウの後に続いた。
しかし、ムウが「うまい」と言っていたレーションが気になる。
「どうせだから、私ももらおうかしら。ザフトのレーション」
「おう。なんか気前よくくれるぜ。この前バジルール中尉にもやってたくらいだし」
その言葉に、マリューは心底驚いた。
「え!?よく受け取ったわね、ナタル」
「顔ひきつってたけど、一応受け取りはしてたぜ」
「アマキさんも怖いもの知らずね」
「それが嬢ちゃんの魅力の一つさ」
アマキ沼にハマってしまった同士、抜け出せそうにない。
実はこの件でナタルにこっそり耳打ちしたら、速攻で反応して胸元の隠しポケットに無意識で手を当てていた。
そこに例の写真を忍ばせていることは、すぐに分かった。
ナタル曰く、「勢いで買っただけで他意はない」とのこと。
いやいや、買ってる時点でハマってるでしょ、と突っ込んだが、本人はかたくなに否定していた。
そこがまた可愛いというか、なんというか。
普段は険悪な空気になることもあるが、アマキ関連の話では意外と盛り上がる。
アマキさまさまである。
それに、アマキと話す機会が増えたことで、マリューも機嫌がいい。
戦闘前の「お腹空いてない?」チェックをマリュー自らすることで、今日は何を食べたかを知ることができるし、アマキのくるくる変わる表情を見て癒されることができる。
一石二鳥である。
たまに苛めてみたくなる可愛さがあって、「いけないわ」と自分を窘めているが、実はちょっと実践してみたい。
「可愛いは正義……」(ぼそっ)
「は?」
「い、いえ!」
慌ててマリューは誤魔化した。
どうやらまた声に出てしまっていたらしい。
気をつけないと、と口をきゅっと結ぶ。
ムウが思い出したようにポケットから一枚の写真を取り出した。
「そういえば、ミリアリアの嬢ちゃんから嬢ちゃんの写真買ったんだけどさ」
「同士!?」
マリューはすぐに反応し、ムウに詰め寄った。
「同士?」
「フフフ……娯楽が少ない艦の中、沼にハマった者同士、たっぷり語り合いましょうか」
「あー、艦長さん?なんか顔怖いよ」
雰囲気がガラリと変わったマリューに、ムウは逃げ腰になる。
だが、腕をつかまれているので逃げられない。
それからブリッジに戻るまで、延々とアマキ沼について語ったマリューは、スッキリした顔で席へと着いた。
反対にムウは、げっそりした顔で部屋に引きこもった。
「女、こわっ……」
◇◇◇
その頃、アマキの部屋ではフレイがひどい船酔いにやられていた。
ベッドに沈み込み、う〜と呻きながら完全にベッドの住人と化している。
桶に張られた氷水の中で冷やされたタオルを、キラが丁寧に絞ってフレイの額にのせる。
「フレイ、ほら」
「ああ……気持ちいい〜……」
「薬、飲む? 一応酔い止めあるけど」
「いる〜……」
袋から取り出された錠剤をフレイに渡すが、本人は起き上がるのもつらそうだ。
アマキがそっと抱き起こし、手ずから薬を口に運ぶ。
「うげ、まず……キラ、水〜ちょーだい」
「はいはい」
ぱしられている自覚はあるが、いつもの強気なフレイとは違い、今は弱っている。
キラは何も言わず、素直にコップの水を差し出す。
それをごくごくと飲み干したフレイは、またベッドに横たわった。
「キラはともかく、アマキさんまで強いなんてずるいわ……」
「いや、強くはないよ。普通な感覚だから」
アマキはベッドの横に膝をつき、フレイの髪をそっと撫でる。
その手の優しさに、フレイの顔がほっと緩む。
むぅ、と気に入らない顔をするキラは、軽く嫌味を言った。
「酔うほど揺れてるとは思わないけどな」
「揺れてるわよ……はぁ……きっ」
いつもより覇気のないフレイに、キラも調子が狂う。
つい甲斐甲斐しく世話を焼いてしまう。
「ほかに何かいるものある?」
「ジュース飲みたい」
「わかった」
キラはトリィを肩に乗せて、食堂へジュースを取りに向かった。
キラが戻るまでの間、アマキはフレイが少しでも楽になるよう、うちわで静かに仰いであげていた。
ルルはというと、買い物袋の中でお散歩するのにハマっているらしく、今日も袋の中でごそごそと動いている。
以前はラクスから手作りのクッキーをもらってきて、アマキに届けてくれたこともある。
そのクッキーを一口食べた瞬間、はじけるような味に驚き、思わず笑みがこぼれた。
お裾分けしたクルーたちにも好評で、それを嬉しそうに手紙に綴ってラクスへ届けてもらった。
今はその返事を待っているところだ。
何気に文通しているが、普通はできないことをさらりとやってのける。
それが、アマキ・カンザキなのだ。
◇◇◇
食堂ではカズイとサイがパソコンとにらめっこしながら、意見をぶつけ合っていた。
「やっぱ駄目かな〜」
「だって目的地はアラスカだぜ?オーブに寄るなんて、大回りになるじゃないか」
ミリアリアがズバッと切り込む。
「大体、寄ってどうするの?私たち今は軍人よ。作戦行動中は除隊できないって言われたじゃない」
「でも、こんな予定じゃなかったじゃないか……アラスカに降りるだけだって聞いてたし……僕もさ……」
未練がましくウジウジするカズイに、サイは引いた表情になった。
そのとき、カガリはオーブの話題から逃げるように食堂を出ていく。
すぐにキサカが後を追った。
「カガリ!」
「わかってる。何も言うな。私は……言ってないぞ」
実はすでに“オーブの姫”であることは告白済み。
わかりやすいカガリは、視線を逸らすことでバレないようにしているつもりだが、キサカの鋭い視線が容赦なく突き刺さる。
「なら、いいんですが。本当に?」
「ぐっ……何も言ってない!しょうがないだろ?この艦とあいつらは沈めちゃいけないって、どうしてもそんな気がするんだ」
「………」
「きっとハウメアのお導きなんだろ。よっ!」
「やぁ」
キラとすれ違い、軽く挨拶を交わすカガリは、機嫌よさそうに通路を歩いて行った。
キラが食堂に入ると、ミリアリアたちに軽く挨拶する。
「やぁみんな、休憩中?」
「おう」
「うん」
「フレイの具合どう?」
「薬飲んだし、まだうなってるけど、時期に落ち着くと思うよ」
良くなってもらわねば困る。
ただでさえアマキにべったりなのだ。
自分も船酔いしてみたいと、キラは心底思った。
「そう。ところでアマキさんのオフショット写真、買う?新作なんだけど」
にやりと女子らしくない笑みを浮かべ、ミリアリアがスチャッと用意したのは数枚の盗み撮り写真。
彼女の密かな収入源でもある。
キラは即座に反応し、写真を奪い取るように受け取った。
「買う。全部ちょうだい!」
「まいどあり〜」
「電子マネーでいい?」
「オッケー」
二人はスマホでやり取りをする。
これも毎度のことだが、キラはすでに立派な課金勢。
サイとカズイは何も見なかったことにして、あーだこーだ言い合いを続ける。
だが気になって、カズイが小声でサイに話しかけた。
「サイ、いいの?あの取引」
「いいさ。俺たちには理解しがたい世界なんだから。むしろ関わらないほうがいい。たぶん、ハマったら戻れなくなる気がする」
「そうだね……」
クルーの大半がミリアリアに課金している事実を、まだ二人は知らなかった。
「ふっふっふ……これでまたアマキ様布教の資金源となるのよ〜」
ミリアリアの密かな野望は、着々と進行中だった。
◇◇◇
ジブラルタル基地。
ブリーフィングルームでは赤服のメンバーが続々と集まりつつあった。
その中で、イザークがクルーゼに食って掛かっていた。
「お願いします隊長!あいつを追わせてくださいっ!」
「イザーク、感情的になりすぎだぞ」
クルーゼは軽くいさめるが、イザークはなおも言いつのろうとする。
その時、「失礼します」との声と共に、アスランとニコルが入室。
イザークと視線が合い、二人は彼の頬を走る傷に驚いた。
「イザーク!?その傷……」
「ふん」
「よう、お久しぶり」
厭味ったらしくディアッカが挨拶する。
「傷はもういいそうだが、彼はエリスを撃たないと跡を消すつもりはないということだ」
「エリスを……」
イザークの執念に、アスランは表情を曇らせる。
脳裏には、宇宙人説まで囁かれるアマキ・カンザキの顔が浮かんだ。
ラクスを助けてくれたこと。
キラを返そうとしてくれたこと。
敵だとは思いたくない。だが、同胞を傷つけている事実は変わらない。
どうすればいいのか。
アスランは、自分の中で葛藤し続けていた。
「足つきがデータを持ってアラスカに入る前に、なんとしても阻止せねばならん。だがその任務は、すでにカーペンタリアの任になっている」
「我々の仕事です!隊長!あいつは最後まで我々の手でっ!」
「私も同じ気持ちです、隊長!」
イザークに同調するように、ディアッカも椅子から立ち上がって訴える。
「ディアッカ」
「フン、俺もね。散々屈辱を味わされたんだよ」
(砂漠で転がされたとは言えないけどな)
クルーゼは静かに頷いた。
「むろん、私とて気持ちは同じだ。スピットブレイクの準備もあるため、私は動けんが……君たちだけでやってみるかね?」
元気よく答えたのはイザークだった。
「はい!」
「では、イザーク、ディアッカ、ニコル、アスランで隊を結成し、指揮は……アスラン。君に任せよう」
その瞬間、イザークの顔が引きつる。
嫉妬心を隠しきれず、アスランをにらみつける。
「……」
「カーペンタリアで母艦を受領できるよう手配する。直ちに移動準備にかかれ」
アスランは「マジかよ」という顔になる。
「隊長、私が?」
「いろいろと因縁のある艦だが、君に期待する。アスラン」
ぽん、と肩を叩いてクルーゼは退出した。
(問題児押し付けたんじゃ……?)
「ザラ隊ね」
「お手並み拝見と行こうじゃない」
負け惜しみをぶつぶつ言う二人の声など、まったく耳に入らない。
アスランは、よりにもよって“あんなの”二人をまとめて面倒見なきゃならないことに、静かに落ち込んでいた。
◇◇◇
その頃、アークエンジェルでは敵影確認の報告が入り、第一戦闘配備が発令された。
「ソナー感あり。7時の方向、MSです」
「間違いないか?」
「音紋照合。グーン二、それと不明一機。間違いありません」
「総員、第一戦闘配備!」
休憩していたクルーたちは、慌てて部屋を飛び出す。
アマキもフレイに「寝てて」と言い残し、部屋を後にする。
通路でばったりミリアリアたちと出くわす。
「おわっ!」
「お!?キラにアマキさんっ!」
「ごめん、先行かして!」
「僕も行くって!」
「私たちも急いでるの同じだからっ!」
通路は一気に賑やかになり、皆が我先にと走っていく。
キラとアマキはパイロットスーツに着替え、搭乗準備へ。
その頃、ブリッジではグーンからの攻撃対応に追われていた。
「魚雷接近!台数八!」
「離水!上昇!」
マリューの指示により、ノイマンがアークエンジェルの舵をとる。
海面すれすれを魚雷がすり抜け、間一髪で回避。
だが、それを見越してグーンが海面に浮上し、直接攻撃に切り替えてきた。
「イーゲルシュテルン、迎撃開始!バリアント、てぇーーー!」
ナタルの指示が飛び、砲撃が始まる。
キラはマードックにソードストライカーの装備を依頼する。
「ソードストライカーで出るって!?」
「はい。ビームを切れたら、次に生かせますから」
「わかった!」
一方、スカイグラスパーでは準備に追われていたが、カガリがマードックに詰め寄っていた。
「なんで機体を遊ばせておくんだよ!私は乗れるんだぞ!」
「でもアンタは……!」
「アークエンジェルが沈んだら、みんな終わりだぞ!何もさせないまま沈んだら、化けて出てやるからな!」
「うぅ……」
そこへムウが助け舟を出す。
「へへ、嬢ちゃんの勝ちだな。曹長、二号機用意してやれよ。火力は多い方がいい。だがな、遊びじゃないんだぜ。言い出した以上は、わかってるだろうな?」
「カガリだ。わかってるさ、そんなこと」
こうして、カガリは二号機で出撃することになった。
アークエンジェルがグーンの攻撃をかわす中、スカイグラスパー一号機が出撃。
「出るぞ」
続いて、カガリ。
「うっ!」
そして、ストライク。
「キラ・ヤマト、ストライク行きます!」
最後に、エリス。
「カガリも我慢できなくて出たか。これは大変だな……エリス、アマキ・カンザキ、出る!」
こうして四機が応戦へと乗り出した。
二機はアークエンジェルの防衛へ。
もう二機は敵母艦を叩きに向かう。
その頃、アスラン率いるザラ隊は輸送機にて先行して飛行中。
だが、アスランの乗る輸送機だけはトラブルで出発が遅れていた。
それが――のちに“誰かさん”と出会うきっかけとなる。
◇◇◇
ストライクは海中でゾノと対峙していた。
執拗に狙ってくるゾノに、キラはソードで応戦する。
「くそっ!」
一方、海面ではグーンが頭を出した瞬間――
エリスが豪快に飛び乗り、上から刀で突き刺すという荒業で撃破していく。
「うらぁぁああああ!!」
爆発と共にアークエンジェルへ戻り、リアルもぐら叩き状態で応戦。
うまくいかない時もあるが、臨機応変に動く。
しまいには海中に飛び込んできたグーンを捕らえ、突き刺す、突き刺す――
「次から次へとぉぉーーー!!」
アークエンジェルも負けてはいない。
バレルロールで艦を360度回転させ、真下に向けてゴッドフリートを放つという荒業に出た。
「ゴッドフリートてぇぇええええ!!」
グーン二機に命中。素早く元の姿勢に戻る。
その爆発の衝撃でゾノが下方へ押され、意識が逸れた隙にストライクが肩を貫く。
だが、それだけでは倒せず――至近距離でビームを撃とうとするゾノに、キラはアーマーシュナイダーでめった刺し。
ゾノを持ち上げ、後方へ放り投げる。
海底で機体が爆発する。
一方、ムウは母艦を撃破したものの、カガリ機がディーンの攻撃を受け被弾。
「くそっ!」
「嬢ちゃん!離脱しろっ!それ以上は無理だっ!」
「まだいけるっ!」
「死にたいのかっ!」
「くっ……」
ムウの叫びに、カガリは悔しそうにアークエンジェルへ戻ろうとする。
だがその道中――
「あれは!?ザフトの輸送機!?やるしか、ないか!」
カガリは応戦を決意する。だが相手は場数を踏んだ兵士だ。
輸送機からの攻撃で操縦を失い、カガリ機は海へ落下。それでもカガリは反撃。
輸送機は被弾し、イージスをパージ。パイロットたちは無事に離脱。
カガリ機は豪快に着水し、無人島付近へ漂着した。
機体は斜めに海岸へ突き刺さり、不時着。カガリはなんとかシートから降り、海へ飛び込む。
救急バッグは流され、身一つで島へ上陸する。
反対側まで歩くと――そこには、イージスの機体。そしてザフトのパイロットだった。
(ザフト兵!?)
唯一、腰のポシェットに忍ばせていた銃を取り出し、背後から狙い撃つ。
だが気づいたアスランはギリギリで回避――すれすれで肩を撃たれる。
「くっ!」
「動くな!」
岩壁に隠れ、攻撃をしのごうとするアスラン。
単身、ザフト兵と対峙するカガリ。
それが――二人の、初めての邂逅だった。
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