腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:松魚
アークエンジェルでは、カガリ機からの通信が途絶えたことに、ブリッジが緊迫していた。
「ロストしたのはどこなの!? 無線は?」
「駄目です。応答ありません」
ミリアリアの答えは、絶望的なものだった。
「レーダーも攪乱がひどく、戦闘空域を離脱したところまでしか……」
その時、ナタルが信じられない提案を口にする。
「MIAと認定されますか?」
サイがこそっと隣のクルーに尋ねる。
「なんですか、それ?」
「Missing in action。戦闘中に行方不明。ようは戦死ってことだな」
その言葉に、マリューは冷静にきり返す。
「それは早計ね、バジルール中尉。撃墜されたとは限らないのよ。日没までの時間は?」
「約一時間です」
「捜索されるおつもりですか? ここはザフトの争力圏内で」
ナタルの指摘を無視し、マリューは淡々と指示を出す。
「上空からは辛いわね。簡単な整備と補給が済んだら、ストライクとエリスに捜索してもらいましょう」
「艦長!」
ナタルの咎めに、今度こそマリューは怒鳴り返した。
「報告にでも記録にでも好きに書きなさい!」
「………」
呆気にとられるナタルたち。
普段温厚なマリューが、ここまで必死になる姿に驚いたのだろう。
「放っておけないわ。あの子」
その思いは、キラやアマキも同じだった。
『………不安がってないといいけど』
アマキの勘が、静かに働いていた。
「そうだな。キラ、とりあえず何か起こったら明日の朝を待つんだ。いいな。明日の朝になれば、すべて解決するから」
『……え?どういう、こと?』
「いや、なんとなく、ね」
謎のウインクを残して、アマキとキラはスタンバイを完了させる。
この時、キラはアマキの言葉を深く考えずにいた。
まさか――その言葉が“予言”になるとは思ってもいなかった。
マリューから「捜索は二時間まで。その後は帰投」と指示され、二人はそれぞれカガリ機の手がかりを探しに飛び立つ。
だが――
その後、まさかの事態が起きる。エリスからの通信が、突如として途絶えたのだ。
◇◇◇
その頃、カガリはアスランに捕らえられ、手首を縛られたまま地面に転がされていた。
正規のザフト兵、それも赤服にかなうはずもなく、形勢はすぐに逆転。銃も奪われた。
だが――殺されることはなかった。
女の子だと知ったからか。害にならないと判断されたのかは不明だが、アスランは彼女を放置し、イージスに乗り込んで通信の復旧を試みていた。
天気は次第に崩れ、海も荒れてきた。
カガリは何とか逃げられないかと暴れてみせるが、海の方へ転がり、岩場の隙間にばしゃんと入り込んでしまう。
「おわっ!」
なんと、手首の紐が岩場の隙間に入り込み、身動きが取れなくなってしまった。
おまけに雨まで降り出し、潮が満ちて顔付近まで迫ってくる。
「うぷっ!?」
絶体絶命――その時。
アスランが呆れた表情でカガリを見下ろして立っていた。
「何をしているんだ、お前は」
「いいから、見てないでっ!助けろよ!」
「はぁ……」
捕虜の立場とは思えないその生意気な態度に、アスランは頭が痛くなりそうだった。
こういうタイプはたいてい地雷だ。アマキもその部類に入る。
仕方なく助け起こそうとしたその瞬間――森側の上の方から、あまりにもお気楽な声が響いた。
「あれ、カガリずぶぬれじゃん。タオル持ってきてよかった〜。アスランもいる〜。やっほー」
「おま、アマキ!?」
「あああああーーー!!!」
絶叫するほど驚いたアスランは、カガリを持ち上げていたことを忘れて手を離してしまう。
バシャン!
「がぼっ!」
「アスラン!? カガリが死ぬぅーー!!」
「あっ……」
傘を放り投げ、崖の上から猫のようにしなやかに着地したアマキは、駆け寄ってきてカガリを再び引き上げる。
ずぶ濡れのカガリは、姫らしからぬ弱々しい表情でアマキに体を寄せてきた。
「アマキ、助けに来るの遅いんだよー!」
「ごめんごめん。まさかアスランとサバイバルしてるとは思わないでしょ」
「なぜお前がここにいるんだ」
警戒心をあらわにするアスランに、アマキは笑顔で答える。
「なぜって、カガリを助けに来たんだよ。みんな心配してたよ。キサカさんなんか、何も言わないけど内心じゃ心配と怒りで煮えたぎってるだろうな〜。帰ったらお叱りの嵐だね」
「うぅ……」
自分が叱られる姿を想像したのだろう、カガリの顔色が青くなっていく。
アスランは「そういうことじゃ……」と返そうとするが、アマキに遮られる。
「ほらほら!ここにいると風邪引いちゃうから、とりあえず雨宿りしよ」
そう促され、アマキが見つけた洞窟へ避難することに。
その際、アマキは手刀でカガリの拘束を切り落とすという隠し芸を披露し、二人を驚かせた。
嵐の中、奇妙な三人の時間が始まった。
その頃、アークエンジェルでは――
キラがひどく取り乱しており、ムウに必死で抑えられていた。
「離してくださいっ!カガリだけじゃなくて、アマキさんまでいなくなるなんてっ!探さなきゃ!二人を探さなきゃっ!!」
「落ち着けキラ!今はもう暗い。外に出たところで見つからないぞっ!」
ムウの正論に、キラは理解していた。
それでも――言わずにはいられなかった。
「でも……アマキさんまでいなくなるなんて……うぅ……」
ついには、少し涙ぐんでしまう。
その姿に、ムウは不安を覚える。
キラの中で、アマキがどれほど大きな存在になっているか――痛いほど伝わってくる。
だが、今は励ます方が先決だ。
ムウはキラの肩に手を置き、静かに言った。
「大丈夫だ。アマキはそんな簡単にくたばることはない。何か、嬢ちゃんに前もって言われてなかったか?」
「……そういえば、“次の日まで待て”とか、なんとか……」
「じゃあ、そうしよう。アマキに考えがあるんだろう。きっと無事さ」
「………見つけたら、背中に縛りこんででも離さない……」
キラの呪詛めいた言葉は、ムウは聞かなかったことにした。
それほどまでに、キラの心は揺れていた。
その後、キラはストライクの中で待機することを選んだ。
フレイが「休んだ方がいい」と声をかけに来ても、頑なに拒んだ。
意外にも、フレイは冷静だった。
アマキがしっかりとルルの世話を頼んでいたことから、何かしら“動くつもり”でいたのだと予測していたらしい。
「……あの人、ちゃんと考えてる。だから、きっと戻ってくる」
フレイの言葉は、誰よりも静かで、誰よりも確信に満ちていた。
誰もがアマキとカガリの無事を祈っている中、無人島にいるアマキはというと。
「くしょん!」
「なんだ、お前も風邪ひくなよ」
「うーん、噂されてるような?」
「キラあたりじゃないか」
「かもね、帰ったら怖いなぁ」
アマキは例の買い物袋を持参しており、そこからタオルや着替えを取り出してカガリを着替えさせる。
その間に焚き火を起こし、二人の体を温め、アスランの傷も手早く手当てする。
最初こそ警戒していたアスランも、気が抜けて言われるがまま火の傍に座った。
ふと、思う。こんなに甲斐甲斐しくされるのはいつ以来だろうか――少し、心が温まったような気がした。あくまで“気がする”だけだが。
「ほら、アスラン。あったかいスープ飲みな」
「あ、ああ。ありがとう」
温かいカップに注がれたコーンポタージュを受け取り、アスランはそれをじっと見下ろす。
無人島では絶対に食べられないはずのスープ。
目の前にはレジャーシートの上に並べられた温かい食事の数々。
ポット、食器、ジャム、ベーコン、寝袋――あれよあれよという間に豪華なキャンプ状態。
「カガリはパンにジャム塗る?」
「いや、私はそのままでいい。というかすごいな、お前」
「ん? はむ」
アマキはいちごジャムたっぷりの食パンを噛んだ。
「コーンスープに食パンに苺ジャムにりんごに目玉焼きとベーコンだと? 私は遭難しているはずだよな。しかも寝袋完備だと? アマキ、お前宇宙人か?」
カガリの真剣な表情に、アスランも食いついた。
「お前もそう思うか!?」
「思う」
二人の意見が合致したところで、アマキ本人は「何言ってんだ?」という顔。
「二人して何変なこと言ってるの?」
「私はこれを現実として受け入れることにキャパオーバーしているぞ」
「やっぱりそうだよな」
うんうんとアスランも頷いているが――
「ほら、食べないと冷めちゃうよ」
とアマキに促され、二人ははっとして、いそいそとフォークとナイフを持って舌鼓を打つのだった。
「今日は電波状態が悪い。今夜はここで夜明かしになるだろう。もぐもぐ、美味い」
「電波の状態が悪いのはお前たちのせいじゃないか。うん、美味い!」
「先に核攻撃を仕掛けたのはお前たちだ。これもいいな」
「君たち、まずは黙って食べなさいな」
アマキが口をはさむくらい、言い合いが始まりそうだったので、ヒートアップする前に釘を刺した。
「デザートにはラクス特製ガトーショコラがあるぞ」
「ぶっ!!」
アスランが突然噴き出し、カガリが「汚いっ!」と注意する。
「な、なんで!?」
「え? ラクスが作ったのだけど、いらない?」
「いるに決まってる! そうじゃなくて、なんでここに? というか、なぜお前がそれを入手できる!」
「そりゃラクスが送ってくれるから。これで」
「………四次元買い物袋……」
そういえば、ラクスに送ったハロももうアマキの手元に届いていたことを思い出す。
「そ、そうか……」
もはや何も言うまい。
自分のトラウマを自ら掘り起こす馬鹿じゃない。
アスランは黙ってラクス特製ガトーショコラを食べ始めた。
「美味しいな」
「うん。美味い」
「当たり前だ。ラクスが作ったんだから」
しっかりとケーキを食べ終え、アマキから歯磨きセットをもらって歯磨きをし、女子二人と離れて仮眠をとった。
アスランは思った。
アマキ・カンザキは宇宙人というよりは、オカン気質の面倒見の良い宇宙人ではないかと。
宇宙人であることは変わらない。
(俺、疲れてるな……)
がっつり寝てしまったアスランは、夜明け前に無線の反応があり、イージスに戻る。
ニコルとの通信が繋がり、そろそろ別れの時がやってきた。
アマキは寝ぼけ眼でアスランがいなくなったことに気づき、隣のカガリを揺らして起こす。
「カガリ、起きて」
「んん?」
「イージスの通信が回復したらしい。キラ達もそろそろ動き出す」
「おわ!?」
カガリは飛び起きてアマキと共にイージスのところへ向かう。
するとイージスの方で別の機体が反応を示したらしい。
アスランが降りてきて二人に教える。
「こっちは救援が来る。お前たちのほうも探しに来ているぞ」
「キラとムウさんかもな」
アスランは一つ頷いてイージスを親指で指す。
「俺はこいつを隠さなきゃならない」
「え」
「できれば、こんなところで戦闘は避けたいだろう?」
アスランなりの気遣いなのだろう。
アマキもうんうんと頷いた。
「それはそうだ」
「私達も機体のところに戻るよ」
「それじゃ、な」
「またね、アスラン」
アマキは手を振る。
アスランは苦い顔をした。
“またね”と言えるアマキは、能天気すぎる。
また会うとは、すなわち戦場なのだ。
「……ああ。お前、カガリだっけ? 地球軍じゃないんだな!」
「ちがう!」
カガリは全力で否定し、アスランに背を向けた。
アマキはやれやれと肩をすくめ、今度こそアスランに手を振ってカガリの後を追った。
アスランは遠ざかる二人を見送って、イージスを隠すため乗り込んでいった。
その後、機体がある海岸へ向かうと、ちょうど海の方からストライクが見えて、二人で大きく手を振った。
「おーい!」
「やっほー!」
この時の呑気なアマキは、まだ知らない。
キラが本気で、アマキを背中に縛り付けようとしていることを。
「もう離さない」と呪詛のように呟きながら、ストライクの中で待ち構えていることを。
そして――
その後、マリューのお仕置きによって「三食おやつ付き」が「おやつ抜きの刑」に格下げされるという、地味に効く絶望を味わうことになることも。
それらすべてを知らずに、アマキは今日も元気に手を振り続けるのだ。
ああ、不憫なり。
不憫なり、アマキ・カンザキ。
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