腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
じゃあ、貴方は一体誰なの?
オーブ連合首長国、オノゴロ島。
夜の静けさの中、四人のザフト兵が林を抜け、崖を登る。
彼らは整備兵の制服に身を包み、手渡された即席のIDパスを握りしめていた。
「そのIDで、工場の第一エリアまでは入れる。だがその先は完全な個人情報管理システムでな。急にはどうしようもない。……無茶だけはしてくれるなよ。騒ぎはごめんだ。“獅子”は眠らせておきたいってことさ」
そう言った工作員の声が、森の湿った空気に沈んだ。
静かに潜入を進めていた彼らが、崖の上に立ち止まる。
モルゲンレーテの灯りが遠くに滲んでいた。
その瞬間――アスランの脳裏に、鮮やかに浮かぶのはカガリの姿だった。
通信で名乗りを上げたのがまさかの“姫”。
あれが、自分が散々言い合った彼女の“正体”だったとは。
まさか……と、未だ心が追いつかない。
そして、もう一人。
宇宙人――アマキ・カンザキ。
思い返すだけで、あの奇妙な重力感に引っ張られそうになる。
会うたびに、何かが狂う。感情も、予定も、軸すらも。
「……絶対、調子が狂う……」
小さく呟いたアスランの背に、夜風が静かに吹き抜ける。
思わず震える肩に、仲間がちらと視線を送るが、何も言わない。
任務は始まった。
けれど、感情の予兆はもうとっくに、嵐だった。
◇◇◇
ドックでは、既にアークエンジェルの修繕作業が始まっていた。
差し出すものを差し出した――その結果を受けて、着々と動き始めるオーブ側の支援。
ガラス越しに外の様子を眺めるノイマンとナタル。
「驚きました。もう作業に入ってくれるとは」
「ああ……それは、本当にありがたいことだが」
そのやりとりの最中、マリューが艦橋に現れる。
顔には少し疲れが滲んでいたが、以前の張り詰めた表情ではない。
静かな空気が流れ、そして敬意が交わされた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
二人は自然に敬礼し、マリューを迎える。
「御苦労様です」
マリューも軽く敬礼を返し、指揮席へと着く。
「モルゲンレーテからの技師たち、もう到着してる。修理に入ってもらってるわ」
「そう。ヤマト少尉とカンザキ少尉は?」
「先ほど、迎えと共にストライクとエリスで工場へ向かいました」
「……ありがと」
ふとナタルが、じっとマリューの顔を見つめる。
何か言いたそうに、しかし言葉を選んでいるような瞳。
「……」
「ん? なにかしら」
マリューが視線に気づき、やさしく問いかける。
ナタルは一瞬ためらい、そして短く答える。
「いえ……。この機に、艦内の内部システム点検と修理を徹底して行おうと思いまして」
「……お願いね」
「はい」
そのやりとりには、わずかな沈黙があった。
けれど、それは決して気まずいものではない。
信頼と理解があるからこそ、言葉は少なくて済む。
二人の間には、同士だからこその静かな連帯感が満ちていた。
◇◇◇
モルゲンレーテの地下施設にて――
大きなゲートの前、主任エリカ・シモンズと部下たちが待機していた。
キラとアマキが到着すると、エリカは笑顔で手招きしながら声をかける。
「さ、こちらよ。ここならストライクもエリスも、完璧に修理できるわ。言ってしまえば、モビルスーツたちの“実家”みたいなものね」
「へぇー」
アマキは興味津々に周囲を眺めながら、思わず感嘆の声。
一行が奥へ進むと、扉が開き――そこには、色違いのMSが何機もズラリと並んでいた。
「わっ……これ……!」
「量産型……だね」
「驚くほどのことでもないでしょ?ヘリオポリスで君たち、実物を見てるんだから」
圧倒されて立ち尽くすキラとアマキの前に、通路の奥から姿を現したのは――カガリ。
「これが、“中立国オーブ”の、本当の姿だ」
「カガリ!」
その頬が赤く染まっていることに、アマキは気づいた。
けれど、その空気を読んで、ただ静かに見守った。
エリカは気にも留めず、説明を続ける。
「これが、M1アストレイ。モルゲンレーテ社製のオーブ軍専用機よ」
キラが一歩前に出て尋ねる。
「この機体……オーブはどう使うつもりなんですか?」
「どうって?」
エリカが戸惑う中、カガリが補足する。
「これは、“オーブの守り”だ。他国を侵略しない。他国の侵略は許さない。他国の争いに介入しない。その意志を貫くための、“力”だ」
「……」
「うーん、難しい話だねぇ」
アマキの口調に笑みが漏れかけたが、空気が変わる。
「オーブは、そういう国だ。……いや、そういう“はず”だった。父上が裏切るまでは」
「え……?」
その言葉に、キラが戸惑う。
そこから始まる――エリカとカガリの“プチ言い合い”。
「もう、まだそんなことを仰ってるんですか?何度も説明したはずです。ヘリオポリスの件、ウズミ様は……」
「黙れ!最高責任者が“知らなかった”などという言い訳が、通るとでも思ってるのか!」
「責任は取られましたわ。職も譲られたし……」
「結局、何も変わってないじゃないか!」
「それでも――ウズミ様は今のオーブには必要な方です」
カガリの正論ラッシュに、エリカはあえて甘さを混ぜて切り返す。
「そんなに“卑怯者”だと思ってるなら……昨日の騒ぎ、頬っぺたの一つくらい叩かれて当然ですわよ」
「……っ!」
エリカの軽口に、キラがぽつり。
「だから、頬……赤かったのか」
「ふん!なんとでも言え!」
大股でそっぽを向くカガリ。エリカはくるっと背を向けて言い放つ。
「さーて、おバカさんは放っておいて、次いくわよ!」
キラはなんとなくエリカについていき、アマキはカガリに手招きしてからその後を追う。
少し遅れて――カガリも、ぶすっとしながら大股で追いかけていった。
連れてこられたのはモルゲンレーテのオペレーション室。
ガラスの向こうでは、三機のアストレイがスタンバイしていた。
周囲には関係者がずらりと並び、モニター越しに指示と確認が飛び交っている。
エリカがイヤホンに口を近づけて呼びかけた。
「アサギ、ジュリ、マユラ!」
「「「はーい!」」」
若い声が揃って返る。
その響きに、キラとアマキは目を見合わせた。
「あっ、女の子だ」
「私の周り、男ばっかだから新鮮〜」
無線越しにも彼女たちの声が弾む。
『カガリ様?』
『ほんとだ〜』
『なぁに、帰ってきたの?』
「悪かったなぁ……」
カガリの小さな照れが微妙に漏れ出し、アマキはにやり。
うんうん、と満足げに頷く。キラは横で不信顔。
「なんか喜んでる」
「嬉しいじゃん。友達いた〜ってわかるのって、尊い」
エリカが声をかける。
「始めて!」
「「「はい!」」」
三機のアストレイがゆっくり歩き出す。
それぞれ攻撃ポーズを取るが、動きはややぎこちなく、のろい。
「相変わらずだな」
「でも倍近く速くなったんです」
キラは驚きの声を漏らし、アマキも「OH〜!」と目を丸くした。
しかしカガリは、あまりに素直すぎた。
「こんなんじゃ、すぐやられるぞ。的にしかならん」
その言葉に、アストレイのパイロットたちから即座にブーイング。
「あ〜! ひっど〜い!」
「ほんとのことだろうが!」
「人の苦労も知らずにっ!」
「乗れもしないくせにっ!」
「言ったな!? じゃあ替われよ!」
空気が戦闘モードになりかけた瞬間、エリカが仲裁に入る。
「はいはいはい、止め止め止め!カガリ様の指摘も事実よ。私たちはあれを、もっと強くしたいの。貴方のストライクのようにね。……エリスは別よ。アレは私たちの手には負えない」
「え?」
エリカの視線がアマキに向く。
「技術協力をお願いしたいのは、ストライクのサポートOS開発よ。ナチュラルでも使えるようにするための改良を」
「なるほど」
「キラならできそう。私は……うん、勘で動いてるから説明は無理」
「でしょうね」
エリカは頷いてから、こう続ける。
「貴方には、エリスの専用データを取らせてもらうわ」
「つまり、あそこで踊れってこと?」
アマキはげぇっと顔をしかめる。
「……やなかんじー」
エリカはクスッと笑う。
「でもよくあの機体、使いこなせるわね。あれは“いわく付き”よ。制作に関わった主要スタッフは、次々と謎の死を遂げているわ」
「へぇ。運が悪かったんじゃないですか?」
「いいえ。エリスは、パイロットを選ぶの。ストライクたちとは違う。まるで意思を持ってるみたい。夢があっていいじゃない」
確かに――アマキには“しっくりきて”いた。
乗った瞬間から、違和感がなかった。
機体が“こちらを見ている”ような気さえした。
そして、その流れから――エリカがふとこぼす。
「それにしても、貴方。……ナチュラル、なの?」
「なんですか。コーディネイターに見えるとでも」
声を少し低くしたアマキ。
その問いに、何度も否定するうちに、疲れてしまったのだ。
エリカが首をかしげながら評価を述べる。
「容姿、身体能力、戦闘力、知識、判断力……どれも、怖いほど完璧すぎる」
アマキは黙り込む。
それは“恵まれているから”ではない。
それは――一生抜けられない輪の中に、もう入ってしまっているからだ。
そして、吐き出すように言い放った。
「ナチュラルだろうが、コーディネイターだろうが――人間であることに変わりはありませんよ。私にとっては、どれも些細な違いです」
エリカの目がわずかに揺れる。
「なんですって……?」
アマキは笑みを浮かべた。
妖しく、そして残酷に美しい微笑。
「“生”の前では、あがく者すべてが一瞬。――私にとっては、ね」
その言葉の真意を、エリカは理解しきれなかった。
だが、背筋に走る冷たい感覚に――少しだけ畏怖を覚えた。
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