腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

26 / 75
安心して泣ける場所(人)って大切ですね。


PHASE-25キラ

中立国の街中。

笑顔があふれる穏やかな通りを、作業服に身を包んだ二人の少年が並んで歩いていた。

ニコルとアスラン。

反対向きのキャップを被り、街の騒がしさの中に溶け込む

――偵察とは名ばかりの、妙に平和な時間だった。

 

「見事に平穏ですね」

 

「昨日、領海であれだけの騒ぎがあったっていうのに」

 

「……中立国だから、ですかねぇ」

 

通りにはゲームに夢中な子供たち。

母親同士で談笑する声、店主と客の冗談――

まるで外界から切り離された“平和の国”。

 

「平和、か……」

 

言葉に出してしまえば余計に心が揺れる。

キラとの、何気ない日常が頭をよぎった。

ニコルが歩みを止める。そして意を決して声をかける。

 

「あの、アスラン」

 

「ん?」

 

「……エリスのパイロット、誰ですか?」

 

その瞬間。

アスランが硬直し、目を見開いた。

 

「宇宙人アマキ!?」

 

周囲がざわつく。突然の大声に人々が距離を取る。

ニコルは「やっちまったな」とばかりにアスランの腕を掴んでビルの影に移動する。

 

「宇宙人アマキ?それって……何ですか?」

 

「いや、違う!なんでもない!忘れてくれ!」

 

「アスランが嘘つくときって、視線逸らすんですよね」

 

「……うっ」

 

ニコルが鋭い。アスラン、しゅんと肩を落とす。

 

「……宇宙人は俺が勝手に呼んでて……あ、言っちゃった」

 

逃げ道はない。

ニコルは満面の爽やかスマイルで、アスランの腕をさらに引っ張る。

 

「よし、喫茶店でゲロってください。お金もあるし、都合よく席も空いてます」

 

「いや、まだ偵察が……」

 

「行きますよ」

 

「はい……」

 

無情な強制連行が始まった。

席についたアスランは、ホットコーヒーがアイスになるほどの時間をかけて、すべてを語った。

キラのこと。アマキのこと。買い物袋の件まで――余すことなく。

ニコルは無言で聞いていた。そして最後に、爽やかにこう言い放つ。

 

「禿げ進行しないといいですね」

 

アスランは、本気で泣いた。

 

喫茶店を出てからも、アスランの足取りは重く、表情は曇ったままだ。

ニコルは一切気にする素振りもなく、ずんずんと進む。

目指すはイザークたちとの集合場所――軍港周辺のベンチだ。

彼の心中ではひとつの好奇心が芽生えていた。

 

アマキ・カンザキ。

 

聞けばアスランが強い警戒心を解いている数少ない相手。

戦争に否定的な姿勢を見せ、あのラクス・クラインとも接点があるという。

敵味方など、今のニコルにとっては二の次だ。

冷静さの奥に潜む彼の打算が動き出す。

 

「もし自分の能力で敵わないなら、素直に降りるのが正解」

 

「家族を悲しませず、幸せを掴むには、それしかない」

 

それがニコル・アマルフィという少年の、静かな信条だった。

だが、この意思がのちに──

 

“宇宙人アマキ”の運命を変えるきっかけになるとは、この時、誰一人知る由もなかった。

ベンチではディアッカとイザークがぐったりしていた。

 

足取りの痕跡はどこにも見えず、軍港は不気味なほど静かだ。

 

「そりゃぁ軍港に堂々とあるとは思わないけどさぁ」

 

「隠すには大きすぎるだろ、あのクラスの船は……」

 

「まさか居ない、なんてことはないよね。どうする?」

 

アスランの声は弱々しく、頼りない。

あれだけ暴露したのだから当然のダメージ。

 

「欲しいのは、確証だ」

 

「居るなら、居る。居ないなら……居ない」

 

「ただ、モルゲンレーテの海側警戒は驚くほど厳重だった」

 

「つまり……」

 

「つまり、内部から探るしかない。ああ……ハゲる……」

 

ディアッカとイザークが顔をしかめる。

 

「ハゲ?」

 

「確かに、厄介な国ではあるが……髪の話までとは」

 

「はぁ……ハゲ……」

 

アスランの戦線離脱が近づいていた。

 

◇◇◇

 

アークエンジェルは現在、港で修繕作業の真っ最中だった。

物資提供もあり、いたれりつくせりの状態。そんな中、マリューからトールたちへ、とっておきの報せが届く。

 

「オーブに滞在中のご両親との面会が可能になりました」

 

まるで天からの贈り物。

これには、トールたちは涙を浮かべて歓喜。

キラたちも同様だった。戦いと責任の重圧の中、わずかな灯りのような再会の機会だった。

フレイはサイと共に彼の両親に挨拶するという。

だから、アマキも心置きなく、キラと同行することにした。ルルとトリィを連れて。

 

翌日――静かな施設の一室。

涙と笑顔が交差する再会の空間で、キラとアマキは再びハルマとカリダに会う。

 

「母さん!父さん!」

 

「カリダさん、ハルマさん!」

 

「キラ!アマキちゃん!」

 

懐かしき温もり――まず、カリダのぎゅうぎゅうな抱擁がキラを包んだ。

赤面する彼だったが、その胸の中に身を委ね、瞼を閉じる。

隣ではハルマが、ぽんとアマキの頭を撫でた。

アマキはふにゃん、と顔を緩ませ、とろけるような笑みを浮かべる。

足元ではルルがコロコロ転がりながら空気を和ませる。

 

「へへへ……」

 

「無事でよかった」

 

「おふたりこそ、ご無事で……何よりです」

 

優しく応じるアマキ。

すると、今度はカリダがアマキを抱き寄せ、震える腕で抱きしめる。

 

「怪我はしてない?」

 

「……本当に……よかったです……」

 

カリダの腕の震えに、アマキは胸を突かれる。

喜びが、悲しみが、安堵が混じり、目頭が熱くなる。

 

「キラとアマキちゃんが頑張ってくれたから――こうして無事でいられるのよ」

 

「……私が……巻き込んでしまいました。キラは戦うべきじゃなかった……ごめんなさい」

 

声が震え、言葉がうまく出せない。

だが、カリダはその言葉に首を横に振り、そっと諭す。

 

「キラが、アマキちゃんを助けたかったのよ。謝らなくていいの。……アマキちゃんは、よく頑張ったわ」

 

「……っ!」

 

言葉が胸に突き刺さり、感情が爆発した。

 

「うわぁぁあああんーっ!」

 

子どものように、泣き叫ぶアマキを、カリダはそっと抱きしめた。

よしよし、と優しく頭を撫でながら。

その光景を見ていたキラは、何も言えずただ苦笑する。

 

「あんなに感情丸出しで泣いたの、初めて見たかも……」

 

「それだけ、ずっと我慢してたってことなんだよね」

 

鼻をすすり、目を真っ赤にしたアマキ。

 

「ぐずん……」

 

「ほら鼻水、出てる。鼻チーンだよ」

 

「ぶぴー……」

 

手間がかかる。だが、構いたくなる。

それもまた、アマキの魅力だった。

周囲を見渡すと、他の仲間たちも微笑んでいた。

自分だけがこんなに泣いてしまって、恥ずかしさが込み上げてくる。

慌ててキラの背中に隠れるアマキだった。

 

その後――ヤマト夫妻からは、何度も口を酸っぱくして「気をつけてね」と言われ、新しい携帯番号と新居の場所まで教えられた。

「戻ってきてね」という言葉に、キラとアマキは未来がどうなるかわからぬまま、頷いてみせる。

 

「必ず、生きて帰ってくるのよ」

 

「二人で、お前たちの“勝ち”を待ってる」

 

「うん」

 

「はい」

 

新たな約束。

温もりを抱きしめて、再び彼らは戦いへ向かう。

トールたちもまた、涙ながらに再会を誓う。

ヤマト夫妻はこの後、オーブの獅子との面会予定があり、そこでも**“我が子自慢”を炸裂させる気満々**だった。

 

◇◇◇

 

翌日。

キラは短時間でアストレイのOS改修に成功する。

エリカとムウ、アマキが整備服で見守る中――機体は驚くほど軽快に動いた。

 

「量子サブルーチン再構築して、神経接合のイオンポンプ分子構造を書き換えました」

 

ちんぷんかんぷんな説明に、アマキは理解不能ながらうんうんと頷く。

 

キラはジト目で見ていたが、そこがまた愛しい。

 

「よくそんな短時間で……ほんと、すごいわ」

 

と感嘆するエリカ。

ムウは、好奇心に満ちた声を上げた。

 

「俺が乗っても……あんなふうに動くのか?」

 

「ええ、もちろんですわ少佐。ぜひお試しを」

 

「はぁ……」

 

キラは肩を落として、ふと短くため息を漏らす。

根を詰めすぎて、さすがに疲れが滲み始めていた。

それを見逃さなかったのが、ムウとアマキだった。

 

「ん?お疲れ顔じゃん」

 

「アサギ、今日はここまで!上がっていいわよ」

 

「はーい!」

 

作業の出来栄えは上々。エリカの判断で、一時解散となる。

キラはさっさと背を向けようとする。

 

「じゃあ、僕……ストライクの整備見てきます」

 

「はい、ではまた後ほど」

 

エリカが穏やかに返す。その直後だった。

 

「ちょっと待ったー!」

 

アマキが唐突にキラの腕をつかみ、

反対側からはムウが「そうそう」と笑いながら加勢。

 

「な、アマキさん!?フラガ少佐まで!?」

 

「眉間にしわ寄せてるよ、キラ。少しは息抜きしよ」

 

「シモンズ主任には“休憩する”って、ちゃんと報告してあるから安心しな」

 

「え、勝手に報告って……!」

 

言い募ろうとしたキラに、アマキがスッと顔を寄せてくる。

視界いっぱいに広がる、アマキの真顔。

――ああ、可愛い。反則だ。

 

「……私と、息抜きデートしたくない?」

 

「したいです!!したいです!!」

 

光の速さで被せてしまった。

キラにとって、仕事よりも“アマキとのデート”が最優先事項である。

アマキは満足げににひっと笑う。

 

「それでこそキラだ」

 

「なにそれ……」

 

ぷくっと唇を尖らせたキラに、アマキの指先がのびて、つまむ。

 

「キラには、疲れた顔なんて似合わないよ」

 

「むー……」

 

「あはは」

 

アマキの指先が離れるのを、キラは惜しそうに見つめながら――

差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。

ムウの姿は、いつの間にか消えていた。

二人きりにするための、粋な計らいらしい。

アマキは、キラの心情など気づかず、笑顔で言った。

 

「行こ、キラ。」

 

「……うん」

 

いつだって、アマキはキラの一歩先を歩く。

陽気に、真っ直ぐに、迷いなく。

そう、どんな時も彼女は――

キラより先に行ってしまう。

その言葉が、まるで“予告”のように胸に響いた。

ほんの少し先の未来で、彼女がキラの手を離す日が訪れるとも知らずに。

 

◇◇◇

 

二人はただ手を繋いで歩くだけだった。何気ない散歩。

それだけなのに、キラにとっては何よりも癒しの時間だった。

同じように、アマキにとってもこの瞬間が心地よかった。

ずっと同じ場所にいれば息が詰まる。爆発してしまう。

だからこそ、この“小さな逃避”は必要だった。

トリィとルルも連れ出して、穏やかな空気に包まれていた――

そのとき、突然トリィがキラの肩から飛び立った。

 

「トリィ!?」

 

「なに、どうしたの!?」

 

ふたりは反射的に手を離し、飛ぶトリィを追いかける。

その先――フェンスの向こうに整備服の四人組。

その中のひとりに向かって、トリィが一直線に降りていった。

 

「キラ!あれって……」

 

「……ア、スラン……?」

 

息を呑むキラ。

やはり、彼はこちらを嗅ぎまわっていた。

どうやってここに潜入したのか――手引きした者がいるのだろう。

でも今は、それどころではない。

トリィが“彼”を選んだように見えるほど、迷いなく向かっていった。

アスランは仲間に怪しまれないよう、ゆっくりとこちらに歩み寄る。

キラも、動揺を隠しながらその歩みに倣って静かにフェンス越しに立つ。

アマキは何も言わず、ただ見守った。

アスランがトリィを掌に乗せて、キラに差し出す。

 

「……君の、だよね」

 

「……うん……ありがとう……」

 

受け取るキラの声は、どこかぎこちない。

それでも、懐かしさがそこに宿っていた。

仲間と思われる少年がアスランを呼ぶ。

 

「おーい!行くぞー!」

 

――時間はない。

 

アスランは何も言わず、背を向けようとする。

でもキラは、どうしても伝えたかった。

 

「昔……!友達に……!」

 

アスランの背中に、絞り出すような声が届いた。

 

「大事な友達にもらった、大事なものなんだ……」

 

その言葉は、アスランの胸を突き刺した。

彼も、叫びたかった。

 

「君は、親友だ」と。

 

でも今は――ザフトの潜入員、アスラン・ザラ。

その立場が、言葉を奪う。

 

「……そうか」

 

短く応えて、彼は去っていった。

キラは、その背中をただ見送る。

思いが届かない距離が、痛かった。

そのとき――アマキが静かに彼に近づき、頭にそっと手を置いた。

 

「キラ」

 

返事はない。けれど、それでもいい。

彼の瞳は、まだ遠くにいるアスランの背を追っていた。

 

「私を、信じてくれるか?」

 

不意に告げられた言葉に、キラが瞳を潤ませながらアマキを見返す。

 

「……何があっても、私を信じてほしい」

 

懇願するようなその言葉。

伝えられない想いを、言葉に込めるしかなかった。

キラは涙をごまかすように手の甲で目を拭いながら、微笑んだ。

 

「いつも信じてるよ。アマキさんのことを」

 

「……無茶ばっかりするけどね」

 

その言葉にアマキは苦笑しながら、キラの頬をそっと包む。

こつん、と額を合わせる。

距離が近づきすぎて、キラは息を飲む。

 

「私は、私の為すべきことをする」

 

「え……?」

 

「歌姫は、きっと平和の歌を歌うから」

 

「うた……ひめ」

 

「覚えておいて、キラ。私をこの世界につなぎとめてくれるのは――君たちだ。君たちが、私の存在理由だから」

 

その笑みは、なぜかキラの胸に残った。

深く、鮮やかに。

そこに、カガリの大声が響く。

 

「おーい!お前たち~!」

 

「あっ、カガリ!」

 

キラが目を向けたすきに、アマキはルルを呼び寄せる。

 

くるくると転がってきたルルを前に、彼女は膝をついて両手を出す。

 

「ルル、ラクスに伝えて。私も宴に混ぜてもらうよって」

 

「りょーかーい♪」

 

ルルは耳をパタパタと振って答えると、すぐに跳ねていった。

ふぅ、と息をついたアマキが振り返ると、キラはカガリに慰められていた。

その表情に、少し元気が戻ってきている。

けれど、アマキには分かっている。

キラの心が、今どれほど揺れていたか。

だから、そっと、呟くように。

 

「キラ……ごめんね」

 

言わずに背負わせた、未来への痛み。その謝罪だった。

 




お気に入り、評価等よろしくお願いします。励みになります!

ガンダムSEEDDESTINYも読んでみたいか?

  • 続きを読んでみたい。
  • 別に興味ない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。