腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
アークエンジェルは、今のところ一人欠けることなく無事に戦闘を切り抜き、アラスカへ向けて着々と進んでいた。
すべて順調——
ただし、アマキがキラとフレイの“復讐”により、たらこ唇になっていることを除けば。
口から火を噴いた瞬間、キラの中では「漫画って現実になるんだ」と衝撃が走った。
だが、これで懲りるアマキではないことも、ちゃんと知っている。
だからこそ——
「やられたらやり返す」精神で、アマキに尽くしていこうとキラは決めていた。
そんなキラは、食堂で仲間たちと語り合っていた。
トールが、オーバーリアクションで事件を再現。
「いやー、最初はビビったよ。まさかアマキさんの口から火が出てくるなんてさ!
芸人もびっくりだろ。俺なんか咄嗟にサイの後ろに隠れちゃったし。アイドルっていうより、体当たり芸人が似合ってる感じじゃない?」
「「「あははは!」」」
一同、大爆笑。
サイも口を滑らせる。
「いやぁ、でも凄かったよ。いつの間にあんなことできるようになったんだか。アイドルも体を張る時代なんだな」
「しっかり激写できたから、三割増しで売りつけるわよ!」
ミリアリアがウインクして親指を立てる。キラは釘を刺しつつ、催促は忘れない。
「ミリアリアは少し自重してね。あとでよろしく」
「あはは。でも、あれってフレイが作ったクッキー食べたせいでそうなったんだっけ?
フレイ、料理できたんだ」
カズイの一言が余計だった。
「何よその言い方!私だって作ろうと思えば作れるわよ!」
「僕は食べたくなイタタ!」
フレイはキラの耳をひっつかむ。
サイがさりげなく嗜める。
「フレイ、キラ痛がってるからやめてあげて。激辛料理は勘弁かな、俺は。ミリアリアは得意そうだな」
「そうねぇ、作ってもらうのもいいけど、一緒に作れたら素敵ね。ねぇ、トール?」
「えぇ?」
「今時の彼氏は料理ぐらいできなきゃ。今度一緒に作りましょ?ちゃんと食べられるものを」
「大丈夫だって。俺でもそんな激辛料理は挑戦しないから。ミリィは心配だなぁ……」
恋人トークが炸裂する中、フレイはジト目でトールを睨んでいた。
食堂では若者たちの笑い声が響いていた。だがその喧騒から離れ、アマキは一人、部屋に閉じこもっていた。——別に、たらこ唇を見られるのが嫌だったわけじゃない。
彼女は、フレイに宛てた手紙を書いていた。可愛らしいレターセットを一通取り出し、ペンを走らせる。その筆跡は、どこか優しく、どこか切ない。
手紙には、これから自分が行うことの詳細。ルルの扱い。そして——
「できれば、艦に居続けてほしい」
そうすれば、いずれ迎えに行ける。その約束を、しっかりと明記した。
自分はラクスと共に、平和への一歩を踏み出す。
その道に賛同するかどうかは、フレイ自身の選択に委ねる。
伝えたいことは、すべて書いた。アマキは手紙を二つ折りにして封筒に入れ、ぺたりとシールを貼って「フレイへ」と記した。
「よし」
その封筒を、買い物袋の奥へと滑り込ませる。
暗闇の中へ、未来への約束が消えていった。
ルルにはアマキがいなくなった後に手紙を届けるよう指示済み。
なんと有能なハロだろうか。アマキは手招きして呼ぶ。
「ルルー」
「なーにー」
ぴょんぴょん跳ねて、ルルはアマキの手のひらに収まった。
「フレイのこと、よろしくね。これからしばらく離れ離れになるけど、心配しないで。必ず迎えにくるから」
「アマキ、バイバイ?」
その言葉に、胸が少し痛む。機械に“寂しさ”なんてあるはずない。
でも、ルルの耳が少しだけ垂れて見えた。アマキはベッドに腰掛け、丸い体を優しく撫でる。
「しばらくの間だけだよ。ね」
「テヤンデー、ダイジョウブダー」
「そうだな。ルルなら大丈夫だ。フレイもいるし、寂しくはないだろう?」
「フレイといっしょー」
そう励ませば、ルルは嬉しそうに耳をパタパタさせて、ぴょーんと跳ねて部屋を出て行った。
——フレイのところに行ったのかもしれない。何気に、フレイ好きだよな。と思う。
「さて、部屋の片付けでもしておくか」
フレイの仕事が増えないように、荷物の整理を始める。
机には、食べきれていないレーションが山のようにある。それを箱に詰めて、あとで皆に配るつもりだ。服は支給された隊服をそのまま残し、元々着ていた服は買い物袋へ。
やるべきことは、すべてやる。次のステージへ向かうために。
ニコルというザフトの少年も連れて行く。
失敗は許されない。
——キラは、きっと怒るだろう。信頼も、なくなるかもしれない。
もう私のことなど、どうでもいいと思うかも。
それでも、やるしかない。このまま軍に居続けても、使い捨てられるだけ。
どこかで抜け出さなければ。キラのためにも。皆のためにも。
◇◇◇
ザラ隊が乗る艦ではアークエンジェルに追いつきつつあった。
「センサーに艦影、足つきです!」
艦長が静かに問う。
「間違いないか?」
「ありません!」
オペレーターの言葉にひとつ頷くと艦長は
「小島だらけの海域だな。日の出も近い。仕掛けるには有利か」
と小さく零す。イザークたちは再起を誓い奮戦する構えだ。
「今日で片だ!エリスめ!」
「お前の傷の礼も俺が纏めて取ってやるぜ!」
イザーク、ディアッカが決意に震える中、ニコルは複雑そうな顔をした。
「………」(次こそは……)
「出撃する!」
アスランの言葉で行動が開始された。
◇◇◇
ブリッジに緊張が走った。
「ん?センサーに感!ボズゴロフ級潜水空母です!」
「ッチ!」
ザフト艦の接近に、艦内アラートが鳴り響く。
『総員、第一戦闘配備!総員、第一戦闘配備!』
キラたちが慌ただしく出撃準備を進める中——
アマキは一人、パイロットスーツに身を包み、静かにエリスの前に立っていた。
「さて、最後の仕事だ。派手にやるかな」
エリスを見上げ、操縦席に乗り込もうとしたその瞬間——
「アマキさん!」
背後から、フレイの声が飛んできた。
「フレイ?どうして——」
振り返ると、フレイは不安げな顔でアマキに飛び込んできた。その抱擁を、アマキはしっかりと受け止める。フレイはアマキにしがみついたまま、顔を上げる。
「……アマキさんが帰ってこない気がして……ごめんなさい。そんなことないのに……」
——部屋を見たのか。だが、今は時間がない。
アマキはフレイの瞳をまっすぐ見つめ、静かに言い聞かせる。
「フレイ、私はちゃんとフレイを迎えに来るから。それまで待っててくれる?」
「…迎えに?……アマキさんは嘘つかないもの。ちゃんと待ってるわ。私は」
「そうだね。じゃあ行ってくるよ。ルルを頼むね」
ぽん、と優しくフレイの頭を撫でる。そして、操縦席に乗り込み、ハッチが閉じる。
フレイは一歩下がり、エリスが出撃していく姿を見つめていた。
「ちゃんと…帰ってきてね」
胸の不安を抱えながら——
それでも、きっと帰ってくると自分に言い聞かせて。
◇◇◇
日の出を背に、四機のMSがグゥルに乗って並び立つ。
先行はバスター。
『行くぜ!』
94mm高エネルギー収束火線ライフルが、アークエンジェルを狙う。
「敵影3、5時方向、距離3000!」
「同方向より熱源接近!」
「回避!取り舵!」
マリューの指示で、アークエンジェルが大きく傾く。
ナタルが即座に指示を飛ばす。
「艦尾ミサイル発射管、ウォンバット装填!バリアント、イーゲルシュテルン起動!」
「フラガ少佐、ヤマト少尉にカンザキ少尉は?」
「1号機フラガ少佐、出ます。ストライクは後部デッキへ!エリス機はすでにスタンバイしてます」
「わかった、先にエリスを出せ!」
ナタルの指示で、エリスが先陣を切る。
「エリス機、アマキ・カンザキ、行くぞ!」
颯爽とグゥルに乗り、海上へ飛び出す。
待ち受けるは——イージス、ブリッツ、デュエル。
『今日こそ撃ち落とすぞ!』
『アマキさん!気を付けて!』
「キラもな」
遅れてフラガ機、ストライクが出撃。
フラガはバスターへ、キラはイージスとの因縁へ。
「バリアント、てぇ!」
アークエンジェルを囲む激しいビーム戦が始まる。
エリスは、デュエルとブリッツの二機を相手に一人で立ち向かう。
『貴様はここで落としてくれる!』
「ここで落ちるのは決まってるけど、お前じゃないんだよな!!」
デュエルがライフルからビームソードに持ち替え、斬り込む。
エリスも応戦。火花が散る。
「ニコル!聞こえるか」
『こんな時に通信繋げないでくださいっ!?器用すぎますっ』
「いいから聞け!それとなく後ろからデュエルのグゥルを撃ち抜け!タイミングは君に任すぞ」
『そんな非道なこと!?』
「君はこれからもっと非道なことするだろ?今更怖気づいたか?それなら君はそのままザフトにいろ。私は一人で行く」
『やりますよやりますから!』
通信しながら戦うアマキ。だが、気がそぞろになってしまう。
『何よそ見してやがるっ』
「うるせー!邪魔すんじゃねぇよっ!」
怒鳴り散らし、ビームソードを投げ捨て、足の固定を外す。そして——ドストレートパンチ。
『何ぃぃい!』
殴られた勢いでデュエルがぐらつく。だが、アマキの猛攻は止まらない。グゥルから飛び、デュエルに抱きつくように乗り込む。
『貴様!?血迷ったかっ』
「ウロチョロウロチョロと人のケツばっか追いかけやがって!うざったいったらないわコノヤロー!」
首元に腕を回し、動きを封じる。そのままグゥルから引きずり下ろし、小島へ叩きつけるように落とす。
——ずぅぅぅんんん!!
衝撃でクレーターが生まれる。
『ぐっ!!』
「がはっ」
ダメージはエリスも同様。それでも根性で立ち上がり、倒れたデュエルの足首を掴む。
「オラオラオラオラァアアアア!!」
ぐるんぐるんと回し始める。遠心力で中身は大混乱。イザーク、気絶。エリスは足首を固定し、踏ん張って——
「どりゃぁぁああああーーー!!」
デュエルをぶん投げる。バウンドしながらデュエルは浅瀬に沈む。
「フー、フー、フー」
荒い息を吐きながら、アマキは次なる標的を探す。
その瞳は、完全に獣。ギン!と光る瞳が、ブリッツを見定める。
『ひっ!』
「降りてこ~い~。ニ~コ~ル~」
『ひぃぃいいいいい!!』
地を這うような声が通信に響き渡る。
ニコルは完全に戦慄し、情けない悲鳴を上げた。
◇◇◇
その頃、アークエンジェルはバスターの攻撃により被弾していた。
「イーゲルシュテルン、4番5番、被弾!」
「ヘルダート発射管、隔壁閉鎖!」
「アラスカは?」
「駄目です!応答ありません!」
ナタルが叫ぶ。
「ゴットフリート照準、当てろよ!てぇ!!」
ゴットフリートが放たれる。バスターは回避を試みるが——
その前に、フラガ機がバスターのグゥルにビームを放つ。空中で——爆破。
『ッチ!』
バスターは反撃しようとするが、立て続けにフラガ機から放たれたアグニが、右腕を吹き飛ばす。機体は無人島の地面にたたきつけられ、地面をえぐるように滑り込む。
『くっ!ハイドロ消失!駆動パルス低下!くっそー!』
バスターは完全に動かなくなった。ディアッカは焦る。
だが、アークエンジェルの砲門が自分に向いていることに気づいた瞬間——
彼は、生き残る手段を選んだ。
ハッチを開け、両手を上げて——投降の意思を示す。
冷たい雨が降り始める。その姿に、ブリッジの空気が一瞬止まる。
「え?」
「投降する気か?」
誰もが予想していなかった展開。敵が、命を差し出してきた。
ディアッカは、雨に濡れながら身を固くして立ち尽くす。
その瞳は、アークエンジェルを睨んでいた。——誇りを捨てたわけじゃない。
ただ、生きるために選んだだけだ。その瞳は、そう語っていた。
◇◇◇
雨の中、キラとアスランは激しく打ち合っていた。
ビーム同士が火花を散らし、イージスとストライクがぶつかり合う。
『キラぁぁあああ!!』
『うわぁぁぁああ!!』
距離を取り、またぶつかる。
その繰り返しの中——
後方から、爆風とともに巨大な爆炎が上がる。
『なんだ!?』
『なんで!』
一瞬、動きが止まる。画面に映っていたエリスの反応が——消えている。
まさか、あの爆発は——。嫌な予感がキラの脳裏をよぎる。急いで通信を繋げるが、応答はない。
『アマキさん冗談やめてよ、アマキさん、アマキさんってば!!』
ザァー……と、無音が響く。
『嘘、だ』
エリスがロストした。
さっきまで反応があったはずなのに。まさか——相打ち。
アスランも、ブリッツの反応が消えたことに気づく。
アマキとニコルが、相打ちした。
キラとアスランは、目に見えて激しく動揺する。
『あ、あああ嫌だぁぁあ、嫌だぁああああ!!』
『ニコルぅぅうううぅーーー!!』
『アマキさん、アマキさん、アマキさん!!』
一緒に帰ろうと約束した。あのアマキが死ぬはずがない。
でも、エリスはロストした。
——ころされた。大切な人を。
これからも生きたい人を。
ころされた。
ころされた。
ころす。
目の前の敵を——ころす。
キラは怒りをアスランに向け、涙を流す。
アスランも、ニコルとの約束を思い出す。
ピアノの発表会。
年下なのに、ザフトに入って役に立とうとした少年。
そんなニコルを——ころされた。
だったら、もうキラを——ころすしかない。
雷鳴が轟く。
キラは、自身の可能性の“種”を割る。
意識が研ぎ澄まされ、全てを倒すために全力を注ぎ込む。
『アスラァアアンンーー!!』
『ぬぅぅ!!』
ストライクがイージスのビームソードを盾で受け止め、
強く押し出し、右手のビームソードでイージスの左肩を斬る。
ブースターを吹かし、足でイージスの顔を蹴り飛ばす。
『ぐぅぅっ!』
イージスはバランスよく着地し、勢いのまま宙へ。
残り時間は——もう、まもなく終わる。
『俺が!お前を討つ!!』
アスランも“種割れ”を起こす。
憎き宿敵。
互いに互いを殺すために、今、戦う。
イージスは両腕・両足のビームサーベルでストライクの左腕を切り落とす。
ストライクも負けじと、イージスの頭部を吹き飛ばす。
やられたら、やり返す。その繰り返し。
イージスの一撃が、ストライクのコクピットをかすめる。
そしてキラの姿が——丸見えになる。
『ア゛ア゛ズラア゛ーーア゛ン!!』
『キラァァァァ!!』
『うぅ!?』
イージスはMA形態になり、ストライクに食らいつく。スキュラを放とうとするが、パワー不足で終わる。そしてフェイズシフトがダウし、。キラは必死に持ち直そうとする。
アスランは舌打ちし、最後の手段に出た。何としても打ち倒そうとする必死さがあった。
『ちぃ!』
素早く、自爆スイッチをセット。脱出装置に手をかけ、即座に離脱。
『へえ!?』
キラは——閃光に包まれ、大爆発に包まれる。
そして意識が——途切れる。その爆音は、アークエンジェルまで届いた。
エリス、ストライク——共にロスト。
戦場にはしきりにやまない雨が降り続ける。
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