腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:松魚
エリス、ストライク——
通信途絶。
画面には「シグナルロスト」の文字が、赤く点滅しながら浮かび上がる。
ミリアリアは、椅子の背もたれに身を預ける暇もなく、前のめりにマイクへと身を乗り出した。
震える指先でスイッチを押し込み、声を張り上げる。
「キラ!…アマキさん!聞こえますか?応答して下さい!キラ!アマキさん!キラ!」
彼女の声はかすれ、喉の奥が焼けるように痛む。
それでも、涙を滲ませながら、マイクに縋るように叫び続ける。
画面の「シグナルロスト」は、まるで彼女の焦燥を嘲笑うかのように、無情に点滅を繰り返す。
その頃、格納庫ではムウがヘッドセットを押さえ、眉をひそめながらマリューに通信を入れていた。
『今の爆発音は?』
マリューは一瞬言葉を失い、手元のパネルに視線を落とす。
指先が震え、唇がわずかに開く。
「爆発は分かりません。ですが現在ストライク、エリス共に全ての交信が途絶です」
「ぇ…!」
ムウは目を見開き、信じられないという表情で息を呑む。
その背後では、ミリアリアの悲痛な呼びかけが止まらない。
「キラ!キラ!応答して!アマキさん!アマキさんってばぁ!」
ナタルが眉間に皺を寄せ、無言で通信パネルに手を伸ばす。
その指は迷いなくスイッチを押し、ミリアリアの声が途切れる。
「もう止めろ!」
ミリアリアは呆然とし、マイクを握ったまま動けずにいた。
肩が小刻みに震え、目は見開かれたまま、涙が頬を伝う。
「ぇ?」
サイが立ち上がりかけるが、ナタルは振り返らず、冷静な口調で現実を突きつける。
「艦の被害の状況は?ここで惚けていてもどうにもなりません!」
マリューはハッと我に返り、椅子の肘掛けを握りしめながら声を張る。
「マードック曹長!」
マードックは工具を手にしながら振り返り、額の汗を拭う。
「そう酷くはねぇです」
その頃、ディアッカは戦闘の傷に苦しみながらも、捕虜としてアークエンジェルに連行されていた。
「ぁ…うっ!ぅぅ…うっ!」
背中に銃を突きつけられ、痛みに悶えながらも歩く。
バスターは回収され、艦内に収められる。その時——
「ぁ!ろ、6時の方向、レーダーに機影!」
オペレーターが声を上げ、指先でレーダー画面を指し示す。
その指はわずかに震えていた。
「え?」
「数三!」
「ディンです!会敵予測、15分後!」
艦内に緊張が走る。空気が重く、誰もが息を呑む。
マリューは椅子の肘掛けを握りしめ、すぐさま指示を飛ばす。
「迎撃用意!」
だが、ナタルが立ち上がり、手を振って制止する。
「無茶です!現在半数以上の火器が使用不能です!これではディン3機相手に10分と保ちません!」
ミリアリアはその言葉に反応し、ハッと顔を上げる。
涙に濡れた頬を拭う間もなく、再びマイクに手を伸ばす。
「…ぁ!…キラ!キラ!アマキさん聞こえる!?応答して!ディンが!」
声は震え、喉が詰まる。
だが、ナタルが再び通信スイッチを切る。
その手は冷静で、容赦がなかった。
「いい加減にしろ!ヤマト少尉、カンザキ少尉共にMIAだ!」
「え…!」
その言葉が、ミリアリアの頭の中をぐるぐると回る。
——戦死。
視界が揺れ、足元が崩れるような感覚に襲われる。
「そんな……嘘よ」
「受け止めろ!割り切れなければ次に死ぬのは自分だぞ」
ナタルの言葉は鋭く、冷たい。
ミリアリアの手が震え、奥歯ががたがたと鳴る。
マイクを握る手が力なく落ち、肩が沈む。
「ディン接近!会敵まで11分!」
「嘘!…ぅぅ…」
——探しに行かなければ。
きっと待っている。
アマキとキラは無敵なのだ。
そう信じて——
ミリアリアは椅子を蹴るように立ち上がり、髪を振り乱してブリッジを飛び出す。
サイとトールが慌てて手を伸ばす。
「ミリィ!」
だが、彼女は振り返らず、廊下に消えていった。
その背中は、希望にすがる者の強さと脆さを同時に背負っていた。
ノイマンがパネルを見つめながら報告する。
「パワー、戻ります」
マリューは息を整え、決意を込めて叫ぶ。
「離床する。推力最大!」
「離床、推力最大」
アークエンジェルが再び動き出す。
艦内が震え、エンジンの唸りが空気を押し上げる。
チャンドラが報告する。
「エリスとストライクの最後の確認地点は?」
「7時方向の小島です」
ナタルが即座に釘を刺す。
「この状況で戻るなど出来ません!」
マリューはムウに視線を向ける。
その目には、迷いと覚悟が同居していた。
「くっ…少佐、一号機を…」
ムウは首を振りながら、すでに動き出していた。
「一号機は駄目だ!二号機で出る!」
「お願いします」
ナタルはなおも否定的に声を荒げる。
「艦長!離脱しなければやられます!」
だが、マリューだけではない。
サイも、希望に賭けたかった。
椅子から身を乗り出し、声を張る。
「でも…もしかしてキラもアマキさんも脱出してたら…!」
「く…」
ナタルの中で焦りが募る。
額に汗が滲み、指先がパネルの上で止まる。
「アラスカ本部とのコンタクトは?」
「応答ありません!」
ナタルは拳を握りしめ、声を荒げる。
「艦長!クルー全員に死ねと仰るつもりですか!!」
マリューは目を閉じ、深く息を吸う。そして、苦渋の決断を下す。
「打電を続けて。…それと、島の位置と救援要請信号をオーブに」
「オーブ?」
「人命救助よ!オーブは請けてくれるわ!」
ナタルが何か言おうとするが——
「責任は私が取ります!」
マリューの渾身の叫び。
その声は、艦内の空気を震わせた。
その間も、敵は着々と接近していた。
「ディン接近!距離8000!」
「機関最大!この空域からの離脱を…最優先とする!」
アークエンジェルは、二機を失い——
それでも、希望を捨てずに離脱を選んだ。
◇◇◇
ミリアリアは、揺れる艦内の通路をよろよろと歩いていた。
壁に手をつきながら、足元を確かめるように一歩ずつ進む。
目指すは格納庫——
そこに、キラとアマキがいるはずだと信じて。
「ぅぅ…う!そんなはずはない…。そんなはずないわ!……キラ、アマキさん!」
声は震え、涙が頬を伝う。
制服の袖で何度も拭っても、止まらない。
通路の照明が揺れ、足元が不安定になるたびに、彼女の心も揺れた。
だが、格納庫にたどり着いても——
そこに、二機のガンダムはなかった。
整備台は空っぽで、冷たい金属の床が静かに広がっている。
二人の姿も、どこにも。
ミリアリアは、へたり込むように床に崩れ落ちた。
膝をつき、両手で顔を覆いながら、嗚咽を漏らす。
その姿を見つけたムウは、すぐに駆け寄り、膝をついた。
彼女の肩に手を添え、優しく声をかける。
「嬢ちゃん!」
ミリアリアは涙を流しながら、ムウに縋りついた。
その手は細く、震えていて、まるで折れそうだった。
「そんなはずないんです!MIAだなんて…そんなはず…ない。だから…だから!だって…二人はいつも一緒で…いつも勝ってきてくれて…ただいまって私に言ってくれて……死んでなんかないはずなのにっ!!」
声は次第に途切れ、言葉にならなくなる。
喉が詰まり、呼吸が浅くなる。
「うわぁぁああああーーー!!」
ミリアリアは、号泣した。
その声は格納庫の壁に反響し、静寂を切り裂いた。
ムウもまた、信じたくなかった。
あの二人が、簡単に死ぬなんて。
——いつも笑顔で、時に無邪気で、あまのじゃくなアマキ。
食い意地が張っていて、いつもお腹を空かしていたアマキ。
——いつもアマキの後ろばかりくっ付いていた、恋愛に初心な少年キラ。
それでも、アマキのために、艦のために戦ってくれたキラ。
ムウは、ミリアリアの肩を抱きながら、床に拳を叩きつけた。
金属の床に拳がぶつかる音が、痛みと怒りを代弁する。
「くっそぉぉー!!」
悲しみが、格納庫を満たす。
——大切な二人を失った。
クルーたちは、悲しみに暮れていた。
そんな中、フレイは戦闘を終えた室内で、ルルから一通の手紙を受け取っていた。
ルルは無邪気に、封筒を差し出す。
「これは?」
「アマキから~」
「確かに、私宛だわ…」
フレイは眉をひそめ、指先で封をなぞる。
紙の感触が、妙に冷たく感じられた。
不安に駆られながらも、彼女はそっと封を開け、ゆっくりと読み始める。
室内は静まり返り、時計の秒針の音すら聞こえそうなほどだった。
フレイの瞳が文字を追うたびに、両肩がふるふると震え始める。
手紙を持つ手には徐々に力が入り、紙に深い皺が寄っていく。
何かが、彼女の中で生まれていた。
怒りか、悲しみか、あるいは——もっと複雑な何か。
読んでいる本人にしか分からない感情が、静かに、しかし確実に膨らんでいく。
そして、読み終えた頃には——
フレイの目は据わっていた。
瞳の奥に光はなく、ただ冷たい決意のようなものが宿っている。
口元には、いびつな笑みが浮かんでいた。
「へ~~~~~」
その声は、乾いていて、どこか楽しげですらあった。
そして次の瞬間——
フレイは手の中の手紙を、ぐしゃぐしゃに握り潰した。
紙が潰れる音が、室内に響く。
その音は、まるで何かが壊れたことを告げる鐘のようだった。
◇◇◇
一方仲間が戻らないのに艦が動いていることに立腹したイザークは艦長に詰め寄った。
「艦長!」
「もう、いいのかね?」
頭に包帯を巻き手当を受けたイザークを横目に艦長は具合を尋ねたが無視される。
「アスランとディアッカとニコルは?艦が動いているな!状況はどうなっている!」
「三人は不明だ。我々にはクルーゼ隊長から帰投命令が出ている」
「不明?不明とはどういうことだ!」
「詳しい状況は解らん。まず大きな爆発の後にブリッツとバスターとの交信が途切れ、さらに大きな爆発をもう一度確認した後、イージスとの交信も途切れた」
一瞬言葉を失うが、思い出したように詰め寄る。
「エマージェンシーは!?」
「まったく出ていない…」
絶望的だった。仲間は自分だけ残ったというのか。
「ぇっ!ストライクと足つきは!?」
「足つきはオズマン隊が追撃している」
「そんなバカな…。すぐに艦を戻せ!あの三人がそう簡単にやられるか!伊達に赤を着ている訳じゃないんだぞ!」
激高するイザークに艦長は目を細めて指摘した。
「ならば状況判断も冷静に出来るはずだがねぇ」
「…ぅ…」
図星だった。イザークは何も言い返せなくなる。
艦長は黙り込んだイザークに再度説明をする。
「我々は帰投を命じられたのだ。捜索には別部隊が出る」
「だが…!」
「オーブが動いているという報告もあるのだ。解ってもらえるかな?」
「…くっ…」
今更引き返せることは無理で、イザークは悔しさから唇を噛んで耐え忍んだ。
◇◇◇
浜辺は、まるで戦場の余韻がそのまま残されたようだった。
砂に埋もれたガンダムの残骸を、オーブの技術者たちが黙々と調べている。
だが、どれも原型を留めていない。破片は散り、焼け焦げ、跡形もない。
カガリは、言葉を失っていた。
「赤の一人が……自爆したのか? それでストライクを……」
目の前には、色を失ったストライクが静かに横たわっている。
かつての勇姿は見る影もなく、装甲は剥がれ、フレームは歪み、ただの鉄屑のようだった。
「あいつが……」
アスランが、キラを——?
その可能性が脳裏をよぎった瞬間、カガリの胸を冷たいものが締めつける。
信じたくない。信じられない。
彼女はストライクへと歩み寄り、残骸を登っていく。
コクピットを覗き込むオーブの職員二人の間に割って入った。
キサカの制止も耳に入らない。
「よせ、カガリ!」
「……っ!」
コクピットの中は、焼け焦げて崩れ落ちていた。
シートは溶け、内部は空っぽだった。
誰も——いない。
カガリは、思わず後ずさる。
その目に浮かぶのは、恐怖と混乱。
「キラ……」
「カガリ……」
キサカが声をかける。
だが、カガリはその言葉に耳を貸さず、現実を拒絶するように叫ぶ。
「あいつ、いない! 蛻けの殻だ! 飛ばされたのかもしれない……いや、脱出したんだ!」
その言葉に、希望という名の狂気が混じる。
カガリはストライクから飛び降り、浜辺を駆け出した。
「キラを探す!」
「カガリ!」
キサカが追おうとしたその時、別の兵士が声を上げる。
「キサカ一佐! 向こうの浜に!」
「キラか!?」
カガリは反応し、叫ぶようにその方向へ走る。
キサカもすぐに後を追った。
数人の兵士が集まる先。
砂の上に、倒れ込む人影。
カガリは息を呑み、叫ぶ。
「キラ!!」
だが——
そこに横たわっていたのは、ザフトの軍服を着た男。
イージスのパイロット——
アスラン・ザラだった。
◇◇◇
飛空艇に収容され夕暮れの陽が窓からわずかに見えアスランは目を覚ます。腕は包帯が巻かれどうやら折れているらしい痛みから口からうめき声が漏れる。
「ぅ…ぅぅ…くっ!」
「気が付いたか」
そこには警戒心を露わにしくカガリが銃口をアスランに向けて立っていた。
「ここはオーブの飛行艇の中だ。我々は浜に倒れていたお前を発見し収容した」
「オーブ?中立のオーブが俺に何の用だ?それとも今は地球軍か?」
アスランは上半身を起こして俯き姿勢で皮肉を込めて言った。カガリは不快感からちゃきっと再度銃口をアスランに向ける。
「聞きたいことがある。ストライクをやったのは…お前だな…」
「……ああ」
「パイロットはどうした!お前の様に脱出したのか?…それとも…」
「……」
「見つからないんだ!キラが…それにアマキだって。アイツ機体がバラバラだしブリッツと戦った跡しか残ってない。…知ってるんならなんとか言えよ!」
カガリは怒鳴りつけながらアスランを問い詰める。彼は無理やり口角を上げて答えた。
「あいつは…俺が殺した…。それにニコルを殺したのは、アマキだ」
「くっ!!」
認めた。アスランがキラを殺し、ニコルという少年はアマキが殺したという。
「キラは殺した…俺が…イージスで組み付いて…自爆した…。脱出できたとは思えない…」
淡々と説明していくアスランの気が知れなかった。どうしてあのキラを殺せる?理解したくなかったし、事実を受け入れたくなかった。
衝動的にアスランの首元を締め付け顎先に銃を突きつける。
「それしかもう…手がなかった…あいつを倒すには…」
アスランは瞳から涙を零す姿にカガリはそのまま枕に叩きつけ押し倒す。アスランはされるがまま、抵抗すらしなかった。
「貴様ぁぁ!!」
「ぐぅ…」
どうして、こうなってしまったのか。
憤りのない怒りをカガリは壁に拳をたたきつけることで昇華しようとした。だがそんなことで消えるわけがない。
キラ、アマキ…!!
「くっ…ぅ…ぇぃ…うっ!くっそーー!!」
「でも…何で俺…生きてるんだ…?あの時脱出しちゃったからか…。お前が…俺を討つからか…」
鋭い目つきに涙を零してアスランをにらみつける。
「キラは…!危なっかしくて…訳分かんなくて…すぐ泣いて…でも優しい…いい奴だったんだぞ!!それにアマキはそんな簡単にアスランの知り合いを殺すなんてしないっ!アイツは懐に招き入れたやつにはたいてい甘いんだ。私にだってそうだった。見ず知らずの私に優しくしてくれてっ!なのにっ」
今引き金を引けば二人のかたきは取れる。だがそれでいいのか。感情のまま敵であるアスランを殺せば二人は帰ってくるわけでもないのに?
敵であるアスランも二人を懐かしむように悲しい笑みを浮かべて囁くように言った。
「…知ってる…。アマキも馬鹿なやつだな。…馬鹿ばっかりだ。俺の知ってるやつらは……」
宇宙人みたいな奴。キラがアマキに好意を抱いていることはまるわかりでも本人にはまったく気が付かれていないという一方的な関係。
「ぅぅ…」
「やっぱり変わってないんだな…昔からそうだ…あいつは…」
「お前…」
今でも脳裏に焼き付いている。幼き頃、何も知らない、何にも染まっていない優しい世界だった。
「泣き虫で甘ったれで…優秀なのにいい加減な奴だ…」
「キラを知ってるのか!?」
「…知ってるよ…よく…」
「ぇぇ…」
変な女に絡まれないよう心配していたが、一番変な女を拾ってくるとは予想にもしなかった。でもアマキのおかげでキラと険悪にならずにすんでいた。
「小さい頃から…ずっと友達だったんだ…仲良かったよ…」
「それで…なんで!…それでなんでお前があいつを殺すんだよ!?くっ…」
「解らない…解らないさ!俺にも!ぅぅ…別れて…次に会った時には敵だったんだ!」
「敵?」
「一緒に来いと何度も言った!あいつはコーディネイターだ!俺達の仲間なんだ!地球軍に居ることの方がおかしい!」
どれだけキラを自分たちの元へ来させようとしたかアスランは赤裸々に語った。
「お前…」
「なのにあいつは聞かなくて…俺達と戦って…仲間を傷つけて……アマキは、ニコルを殺した!」
「だから…キラを殺したのか…お前が…」
「敵なんだ!今のあいつはもう…なら倒すしかないじゃないか!」
「くっ…バカやろう!なんでそんなことになる!なんでそんなことしなきゃならないんだよ!」
自分がかつて砂漠で行ってきたことが今、目の前で実際に起こっている。これは連鎖だとカガリは思った。
「アマキはニコルを殺した!ピアノが好きでまだ15で…それでもプラントを守るために戦ってたあいつを!」
「キラだって守りたいものの為に戦っただけだ!なのになんで殺されなきゃならない!それも友達のお前に!」
お互いに正義がある。譲れない想いがある。
けれど戦場で敵同士だったから、殺し合いをした。
では戦場でなければ?殺していなかっただろうか。
こんなに涙を流すこともなかったはず。
「!…くっ…ぅぅ…」
「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それでほんとに最後は平和になるのかよ!ええ!うっぅぅ……」
結局、世界を変えない限りこうやって憎しみは終わらないのだと二人は気づかされる。
◇◇◇
皆、疲労困憊の中アークエンジェルはアラスカ入港に向けて海を進んでいた。上空を守備隊の軍機がアークエンジェルとは真逆に飛んでいく。
「守備隊、ブルーリーダーより入電。我是ヨリ、離脱スル」
「援護を感謝すると伝えて」
アークエンジェルの護衛として途中まで共に進んでいたのを持ち場に戻るのだ。カズイが緊張気味に報告をする。
「あ…第18レーダーサイト…より船籍照合」
「アラスカへは初入港ですものね。データを送って。問題はないと思うわ」
気持ちに余裕が生まれたかからか、雑談が始まる。
「しかし助かったぁ。あとちょっと守備隊が遅かったら、やられてたなぁ」
「でも、随分あっさり退いてくれましたね。ディン」
「3機で防空圏突っ込んで、アラスカとやろうって気はないだろ?向こうも」
「アラスカってそんなに…」
そこに鋭くナタルがしかりつける。
「いつまでしゃべっている!まだ第二戦闘配備だぞ」
その声にマリューが反応し休息の指示を出す。先ほどまでの険しい表情は幾分か和らいだようだ。
「あ、ごめんなさい。もう大丈夫よね。半舷休息とします」
「第二戦闘配備解除、半舷休息。繰り返す。第二戦闘配備解除、半舷休息」
ようやっとナタルをも息をつく。どこまでも真面目が彼女のとりえだ。だがまだ諦めていない人物がいた。モニターにマードック軍曹が映り、マリューに助けを求めた。
『艦長!』
「はい?」
『艦長から止めて下さいよ!フラガ少佐を』
「ぇぇ!」
『増装付けてボウズと嬢ちゃんの捜索に戻るって聞かねぇんすよぉ』
ムウはとにかく少しでも早く二人の生存を確かめたかった。そのため、疲れ切った整備員たちを無理やり動かしてスカイグラスパーを飛ばしたかったのだ。
「ほら、頼むよ」
だがマリュー自らブリッジを飛び出してムウを止めに来た。
「少佐!発進は許可致しません。整備班をもう休ませて下さい」
だがムウはマリューの姿を見ても整備にいそしんだ。
「オーブからは、まだ何も言ってきてないんだろ?」
「ええ、でも…」
「船はもう大丈夫なんだ。ならいいじゃねぇかよ」
「いえ、認めません!」
頑なに認めようとはしないマリューに苛立ち後ろに振り返って必死に二人の生存を訴えた。
「けど!あいつら、もし脱出してたら…!」
「解ります!私だって出来ることなら今すぐ助けに飛んでいきたいわ!でも!それは出来ないんです!」
「艦長…」
マリューが誰よりも二人を助けに行きたいのは明白だった。それでもアークエンジェルの艦長という立場は捨てられない。自分にはクルーたち全員の命が掛かっているのだ。
それがわかっているからこそ、ムウももう何も言えなかった。
「今の状況で、少佐を一機で出すようなこともできません。それで貴方まで戻ってこなかったら私は…ぁぁ…今はオーブと…キラ君、アマキさんを信じて…留まって下さい…」
「ラジャー……。そうだな、案外アマキなんかどっかでくくしゃみしてたりしてな」
「……フフ、そうかもしれませんね」
ムウは慰めるようにマリューの肩を叩いた。
フレイは誰も帰ってこない部屋を出てルルとトリィを連れて食堂にやってきた。そこにキラとアマキの話が耳に飛び込んできて、駆け足で食堂の前に行く。
「けど、ストライクとエリスなしでアラスカ入ってもなぁ」
「まさかヤマトがやられるとはねぇ、あの子は絶対勝つと思ってけど」
ちょうどその時、カズイが通りかかりフレイはキラのことを尋ねた。
「ぁ…ぁ!カズイ、ねぇキラは?」
カズイは視線を逸らして小さな声で教えた。
「…MIA…戦闘中行方不明。未確認の戦死のことだって…軍では」
「ぇ…」
「詳しいことは他の奴に聞いてよ。俺が知ってんのはそれだけだよ」
そう言って食堂に入ろうとするのを肩を捕まえて呼び止めた。
「ちょっと待ってよ!だから、キラはどこ!」
「だから分かんないんだよ!生きてるのかどうかさえ!」
「ちょっとなによそれは…」
「…多分死んだんだよ…」
キラが、死んだ?あのアマキの後を追いかけていた子が?
フレイは信じられなかった。キラの死を。
「……なんで」
「もういいだろ!」
乱暴にフレイの手を振りほどいてカズイは行ってしまう。
残されたフレイに疑念が湧き上がる。アマキの事情が事情なだけに、どうにも信用ならない。
「…死んだ?…キラが?……死ぬわけないじゃない…!」
だって、アマキさんは絶対に迎えにくるんだからっ!
◇◇◇
ブリッジからいなくなったミリアリアは共同のベッドに縮こまって座っていたのをトールとサイが発見した。
「ぁぁ!ミリアリア…」
「ミリィ!よかった。ここにいたのか」
二人に心配そうに声を掛けられるとミリアリアは虚ろな瞳に青い顔で二人を見やる。
「二人から連絡は?」
サイとトールは言葉を選びながらミリアリアに手を貸した。
「いや……でも大丈夫だよ…きっと。艦長がオーブに捜索を頼んで…本部へ行けば、なんか解るかも知んないし」
「…そう…そうよね……そんなはずないもの…」
「食堂行こうぜ。こんなとこに独りで居ちゃ駄目だぞ」
そう励まされ二人に寄り添われ通路に出ると向こう側が騒がしいことに気づく。クルーたちもざわついていた。
「なんだよ、そう突っつくなよ!怪我人だぞ俺は!ったく、いつまで放っておく気だったんだよ!」
「五月蠅い!」
トール達はノイマンの後ろに控え様子を伺う。どうやら例の捕虜を移動させるために連れてきたようだ。ノイマンがディアッカの姿に少し驚いたようだ。
「バスターのパイロットだ。若いな」
だがその捕虜の少年は道すがら、ミリアリアの姿を見つけると興味津々で近づいてくる。トールとサイが身を挺して守る。
「お!へぇ~この船ってこんな女の子も乗ってんの」
「ほら!」
「ばっかみたい。何泣いてんだよ!泣きたいのはこっちだっつーの」
「!!」
その言葉にミリアリアはショックを受けた。サイがディアッカの小ばかにした態度に腹立ち、「うぅぅぅ!!と目を吊り上げて怒って見せた。だがノイマンに止められる。
「よせよ!捕虜への暴行は禁止されている」
だからと言って馬鹿にされて黙ったままいられるわけがない。ミリアリアは心底嫌いと言わんばかりに彼の背中を憎々し気に見ていた。
◇◇◇
カガリとアスランがいる医務室にキサカがノックをして顔をのぞかせた。
「迎えが到着した」
「うん。アスラン。ほら、迎えだ」
「?」
肩を叩かれてアスランは不思議そうな顔をして見上げた。
「ザフトの軍人ではオーブには連れて行けないんだ。くそ、お前、大丈夫か?」
カガリは仕方なくアスランを引っ張って立たせてあげる。
アスランはぎこちなく笑ってみせた。
「…やっぱり…変な奴だな、お前は…。ありがと、って言うのかな。今よく解らないが…」
カガリは首にかけていた石をなんとなくアスランにかけてやる。
「…ちょっと待て。ハウメアの護り石だ。お前、危なっかしい。護ってもらえ」
「キラを殺したのにか」
「…もう、誰にも死んで欲しくない」
たとえ、それが敵であったとしても。
飛空艇からボートが出され、ザフトの飛空艇に入口で待っていたイザークがアスランの無事を確認した途端、元気よく迎え入れた。
「貴様ぁ!どの面下げて戻って来やがった!」
士官の手を借りて飛空艇に乗り込むアスランはイザークと去り際に「ストライクは討ったさ」との報告にイザークは笑みを浮かべた。なんだかんだ言って生存を喜んでいるのだ。彼なりに。
◇◇◇
遥か上空——宇宙に浮かぶコーディネーターの都市、アプリリウス。
その一角、歌姫ラクス・クラインの邸宅には、戦争とは無縁の静寂が広がっていた。
青く澄んだ湖。緑しげる庭。
その一画で、ラクスはハロたちと戯れていた。
「まぁ、どうしてそんなことするの? 悪い子ですね、グリーンちゃん。そういう子とは遊んであげませんよ?」
「ハロ、テヤンデー!」
「ぁ……ピンクちゃん、そちらはダメですよ」
ラクスが注意しても、ハロたちはお構いなしに跳ね回る。
まるで、誰かさんのように——。
ガラス張りの部屋の中央。そこには、白いベッドが静かに置かれていた。
包帯を巻き、頬にガーゼを貼った少年が、眠っている。
ハロを追って近づいたラクスの気配に、彼はゆっくりと瞼を開いた。
「あっ……おはようございます」
焦点の定まらない瞳に、光が宿る。
——キラ・ヤマトは、生きていた。
祈りに導かれ、命を繋ぎ、ここに辿り着いた。
その静寂を破るように、場違いな声が響く。
「ぶえぇっくしょんっ!」
キラはぼんやりと聞いていたが、その声に覚えがあった。
次の瞬間、痛む体のことなど忘れ、勢いよく上体を起こす。
「!」
「風邪かな〜。やだな〜、誰か噂してるかも。……お! やぁ、キラ。おはよう。気分はどう?」
その声の主は、黒髪の少女。
椅子に座っていたはずが、いつの間にかベッドの脇に腰かけていた。
陽の光を浴びて、さらりとした髪がきらめく。
頬に絆創膏を貼り、いつもの笑顔で、いつもの調子で——そこにいた。
幻かと思うほどに、自然に。
まるで天国で再会したかのように。
キラは、手を伸ばしたかった。
だが、体は鉛のように重く、痛みがそれを許さない。
それでも、声だけは——
「あ、……アマキ……さん?」
「そうだよ。アマキさんですよ」
彼女は、優しくキラの頬を手の甲で撫でる。
「あ、あ……」
死んだと思っていた。
自分も、彼女も。だが、今ここにいる。
キラは言葉を失い、ただその手を逃がすまいとすがる。
アマキは、そっと自分の手を重ねて言った。
「キラ、ただいま」
その言葉に、キラは目頭が熱くなるのを感じる。
掠れた声で、ようやく返す。
「お、かえ、り……アマキさ、ん」
閉じた瞼から、一筋の涙が流れた。
その温かさが、幻ではないことを教えてくれる。
キラが求めた人が、今、傍にいる。
たとえここが天国でも——彼女がいるなら、それはキラの世界だ。
お気に入り、評価等よろしくお願いします。励みになります!
続編としてガンダムSEED FREEDOM編を読んでみたいですか?
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別に読まなくて良い