腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-31まなざしの先

ラクス邸の庭では、傷の癒えたキラが無理のない範囲で体術のトレーニングに励んでいた。

相手をするのはアマキ。手加減なしとは言わないが、キラの実力に合わせて容赦なく攻めてくる。

 

「そこだ!」

 

「くっ…!」

 

「足元、甘いぞ」

 

「うわっ!?」

 

足払いで転がされ、キラは背中から地面に倒れ込んだ。

そのタイミングでラクスがハロ軍団を連れて現れる。

 

「皆さん、間もなく雨の時間ですよ〜」

 

「テヤンデイ」

 

「お?もうそんな時間か」

 

アマキが手を差し出すと、キラは苦笑しながらそれを取った。

 

「いたた…ありがとう」

 

「トレーニングも大事ですが、そろそろお茶にしませんか?」

 

ラクスの提案に、キラは内心ほっとする。アマキの“手加減”は初心者には容赦ない。

 

「ミトメタクナーイ!」

 

「いいね」

 

「助かった…」

 

「ふふっ」

 

屋敷内ではニコルがピアノを奏でていた。彼の音色が空間を優しく包み込む。

 

◇◇◇

ジブラルタル基地の通路を、アスランが静かに歩いていた。

プラントへ向かうための移動。足音だけが、夕焼けに染まる無機質な廊下に響いている。

その先に、イザークが待ち構えていた。

背後に広がる赤く染まった空が、彼の鋭い眼差しを際立たせる。

 

「貴様などが特務隊とはな。…俺もすぐそっちへ行ってやる」

 

減らず口はいつも通り。だが、その声にはどこか吹っ切れた響きがあった。

もう、エリスへの未練はない。

本当は自分が撃ちたかった。だが、ニコルが命を懸けて果たしたと信じている。

アスランはギプスで固定された左腕をかばいながら、右手で持っていたカバンを静かに下ろす。

そして、イザークに手を差し出した。

 

「いろいろと…すまなかった。今まで、ありがとう」

 

イザークは一瞬だけ眉をひそめたが、黙ってその手を取った。

握手というには短すぎる、けれど確かな接触。

二人の間に沈黙が流れる。

アスランはそっと手を離し、カバンを持ち直す。

 

「………」

 

「じゃあな」

 

すれ違いざま、イザークは背中に向かって叫んだ。

 

「今度は俺が部下にしてやる!それまで…死ぬんじゃないぞ!」

 

その言葉に、アスランは立ち止まり、振り返らずに答える。

 

「…分かった」

 

夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた。

言葉にできない想いが、確かにそこにあった。

 

◇◇◇

 

ここまで大声を張り上げるナタルを、誰が想像しただろうか。

今まさに艦内に響き渡る怒号は、耳を塞ぎたくなるほどの音量だった。

目は血走り、周囲のクルーたちは気まずそうに距離を取っている。

 

「フレイ!フレイ・アルスター!どこへ行った!?」

 

その名を叫ばれている本人は、現在逃走中。

異動命令が下ったにもかかわらず、「嫌だ」と拒否し、艦内のどこかに隠れているのだ。

サイも捜索に加わっているが、これがなかなか見つからない。

 

「フレイ…どこに隠れたんだ?」

 

「いい加減にしろ!これは本部からの命令だ。君は従わねばならないんだぞ!……くそっ」

 

怒鳴っても効果はない。

肩を落としたい気持ちをぐっと堪えて、ナタルは歯を食いしばる。

その様子を見ていたマリューは、頬に手を添えて「困ったわ」と言いながらも、表情はどこか楽しげだった。

内心では「グッジョブ」と思っている。

 

「まったく……アマキさんの迎えを待ちたい気持ちはわかるけど、艦内で失踪するなんて器用なことを」

 

「個人的感情で異動を無視するなど、たるんでいる!」

 

ナタルはお冠。サイは呆れ顔。

 

「フレイ…まるでアマキさんみたいじゃないか…」

 

だが、いつまでもこうしていても仕方がない。

 

ナタルは気持ちを切り替え、マリューに向き直る。

 

「艦長。私はアルスターを捕まえるまで、ギリギリまで捜索します」

 

「それはいいけど、乗り遅れないでね。最悪、あなた一人でも……」

 

「いえ、これも任務ですので」

 

マリューは「絶対乗り遅れるわね」と確信する。

 

だが口には出さない。

可愛い部下じゃないか。艦内を一人で探すなんて。

フフ、と意地悪マリューが降臨する。

 

「じゃあまた、会えるといいわね。戦場でないどこかで」

 

「終戦となれば可能でしょう」

 

「そうね。彼女をお願いね」

 

「は!」

 

ナタルは敬礼し、足早に艦内を駆けていった。

黙って見守っていたムウが、ぽつりと呟く。

 

「俺、言うだけ言ってみっかな。人事局にさ」

 

「取りあう訳ないそうよ」

 

ムウも行きたくないらしい。

軍部の決定に不満を抱いている。

誰だって、このタイミングでの異動は不自然だ。

使える者と使えない者の選別が始まっているようで、気分が悪くなる。

だが、マリューに上層部へ抗う力はない。

 

「しかし、何もこんな時にカリフォルニアで教官やれって……」

 

「あなたが教えれば、前線でのルーキーの損害率が下がるわ」

 

マリューの言葉に、ムウはまだ納得しかねる顔を見せる。

 

「ぁぁ……」

 

「ほら、遅れますわよ」

 

「あぁもう!くっそ!」

 

「今まで、ありがとうございました」

 

「……俺の方こそ、な」

 

マリューは少し涙ぐみ、ムウも感傷に浸る。

そんな二人のそばで、再び怒号が響き渡る。

 

「フレイ・アルスター!さっさと出てこいっ!」

 

ナタルの声が、艦内の隅々まで届いた。

ナタルとフレイが無事に行ったかどうかは確認していないが、とりあえずのお達しは出た。数人の上官から口上が述べられる。

 

「暫定の措置ではあるが、第8艦隊所属艦アークエンジェル

は、本日付でアラスカ守備軍第5護衛隊付きへと所属を以降すものとする。発令、ウィリアム・サザーランド大佐」

「は!」

 

と敬礼してみせるマリューだが内心馬鹿にしてんのかぁ?と思った。

 

「アラスカ守備軍?」

「アークエンジェルは宇宙艦だぜ?」

 

後ろではパルとチャンドラが信じられないといった風にひそひそ話をする。

 

「それを受け、1400から貴艦への補給作業が行われる。以上だ」

 

そう言って背を向け用は済んだと去ろうとする将校にマリューは声を掛けた。

 

「あの!」

「なんだ?不服か?」

「そうではありませんがこちらには休暇、除隊を申請している者もおりますし、捕虜の扱いの件もまだ…」

「こっちはもうパナマがカウントダウンのようで大変なんだよ。大佐には伝えておく」

 

いうだけ言って二人はエレベーターで去っていった。まるで適当な扱い。勝手にやれと言わんばかり。

 

「……」

 

どうにもきな臭い。戦闘で培った勘がなんとなく告げていた。

 

 

プラントでは、ちょうど雨の時間が訪れていた。

人工の雨。地形に影響はないが、空気にはどこかしんみりとした静けさが漂う。

ラクス邸の庭では、マルキオ導師を招いてのお茶会が開かれていた。

アマキがいることで、場は少し賑やかになる。

ラクスは床に座り、ハロと戯れていた。

 

「キラは雨、お好きですか?」

 

ラクスの問いに、キラは少し考えてから答える。

 

「好き…っていうか、不思議だなって。なんで僕は…ここにいるんだろう……」

 

そう言って、フレバーティーを一口含む。

ハーブがよく効いていて、心が少し落ち着く。

アマキは茶菓子のニコニコクッキーを頬張りながら、軽く笑う。

 

「それは、むぐっ…私が連れてきたからだな」

 

「そうですわね。……キラは、どこに居たいのですか?」

 

「アマキさんがいるところかな」

 

即答だった。

ラクスも、少し頬を染めながら微笑む。

 

「わたくしも、同じですわ。ここは…お嫌いですか?」

 

「ここに居ていいのかな。お邪魔じゃない?アマキさんも含めて」

 

「わたくしは、もちろんとお答えしますけれど」

 

ラクスがマルキオ導師に視線を送ると、導師は静かに語り出す。

 

「自分の向かうべき場所、せねばならぬこと。やがて自ずと知れましょう。あなた方はSEEDを持つ者。故に」

 

「ですって」

 

「うーん……種って言われてもね。SEED……割れるの?」

 

キラが首をかしげる横で、アマキはクッキーをもぐもぐ。

 

「難しいねぇ。でもこのニコニコクッキー、おいしいね」

 

「ええ、わたくしの愛情が入ってますもの」

 

ラクスはもじもじと指を組みながら、頬を染めてアマキに寄り添う。

アマキはさっと席を譲る。

 

「ほら、ここ座りたいんでしょ。床に座ってるとお尻痛くなるから」

 

「アマキ様、そうではありませんわ!」

 

ぷくっと膨れるラクスに、アマキは首をかしげる。

 

「ん?」

 

「そうなんだよね。スマートなのに、そっち方面は疎いよね」

 

キラと導師が苦笑する中、アマキの頭上にはてなマークが浮かぶ。

そこへ、シーゲル・クラインが現れた。

 

「やぁ、楽しいお茶会のところすまないね」

 

「お父様」

 

「シーゲルさん!こんにちは」

 

「アマキさんにキラ君も、元気になったようでよかったよ」

 

「お世話になってます!」

 

キラは礼儀正しく立ち上がり、頭を下げる。

シーゲルは手で制し、マルキオ導師に向き直る。

その表情は、深刻だった。

 

「やはり駄目ですな。導師のシャトルでも、地球へ向かうものは現在すべて発進許可が下りないとのことです」

 

その時、執事がモニターを持って現れる。

 

「シーゲル様に、アイリーン・カバーナ様より通信です」

 

「クラインだ」

 

画面には、金髪の女性が切迫した表情で映っていた。

 

『シーゲル・クライン!我々はザラに欺かれた!』

 

「カナーバ…」

 

『発動されたスピットブレイクの目標はパナマではない。アラスカだ!』

 

「なんだと!?」

 

事態は予想以上に深刻だった。

パトリック・ザラは、最初から地球軍本部を叩くつもりだったのだ。

ナチュラルを一網打尽にするために。

 

「アラスカ?アークエンジェルが向かった地球軍本部じゃ……まさか!」

 

キラは動揺し、指先から力が抜けて茶器を落としてしまう。

 

「ぁ…あ」

 

「キラ…」

 

アマキはすぐにキラのそばに寄り添い、肩に手を置いた。

 

告げられた事実は、時間がないことを意味していた。

 

『彼は一息に地球軍本部を壊滅させるつもりなのだ。評議会はそんなことを承認していない!』

 

強硬派の暴走か、それとももっと深い闇か。

このままでは、憎しみも戦争の傷も、さらに深くなる。

 

「ぁぁ…ハァ…」

 

「キラ…」

 

キラは、アスランとの戦いをまだ引きずっていた。

戦って、失って、また報復して――その連鎖は、どこかで止めなければならない。

 

「………」

 

「アマキ様…」

 

不安げなラクスに、アマキは静かに向き直る。

 

その瞳には、決意が宿っていた。

 

「……そろそろ、剣を取るべき時が来たな」

 

「では……」

 

狼煙を上げる時が来た。

アマキが歩き出そうとしたその背に、キラの声が届く。

 

「僕も…行く」

 

「貴方は戻ったところで、戦況は変わらないかもしれません。それでも行くのですか?」

 

「変わらないかもしれない。でも、何かのきっかけになるかもしれない」

 

キラは、静かに言葉を紡ぐ。

 

「ここで黙って見ていることは、もうできない。何もしないままでいることは、もうできない。できないまま終わらせたくないんだ」

 

「また、ザフトと戦われるのですか?」

 

キラは首を横に振る。

 

「では、地球軍と?」

 

再び、首を横に振る。

 

「僕たちは、何と戦わなきゃならないのか……少し、わかった気がするから」

 

「……わかりました」

 

ラクス邸の奥へと進み、執事がザフトの赤服を二着差し出す。

どうやら、潜入作戦のようだ。

 

「アマキ様、キラ様。こちらに着替えてくださいませ」

 

「おー」

 

「うん」

 

丁寧に畳まれた隊服は、アマキにぴったりだった。

スリーサイズなど教えていないはずなのに。

 

「ズボンだズボン!地球軍だとスカートだったもんなー。新鮮!」

 

はしゃぐアマキの横で、ラクスはふふっと微笑み、執事に向き直る。

 

「あちらに連絡を。ラクス・クラインは、平和の歌を歌います、と」

 

ラクスもまた、彼女の戦いを始める決意をした。

 

車に揺られながら、アマキとキラは軍事施設へと向かっていた。

アマキはワクワクと瞳を輝かせ、キラはどこか不安げな表情を浮かべている。

 

「こうですからね、こう!ザフトの軍人さんのご挨拶は」

 

「びしっ」

 

「了解」

 

「アマキ様、敬礼姿もお似合いです!隊服も素敵ですわ」

 

「ありがとー。こんな機会じゃなきゃ着ないものねー。キラも似合ってるよ」

 

「フフ、ありがとう」

 

和やかな空気のまま、車は施設の前に到着する。

ラクスは堂々と挨拶を交わしながら、施設内を進んでいく。

 

「こんにちは」

 

「お疲れ様でーす」

 

「ちょっと…」

 

フランクすぎるアマキに、キラがこっそり突っ込むが、なぜか難なく通過できてしまう。

扉の前で待つ整備員たちがパスカードをかざすと、重厚な扉が静かに開いた。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「ん?あぁ!ガンダム!」

 

そこに現れたのは、最新鋭のモビルスーツだった。

 

「これはZGMF-X10Aフリーダムです。地球軍の技術も取り込み、ザラ新議長の下で開発されたザフト軍の機体ですわ」

 

ラクスはキラに向き直る。

その瞳には、迷いのない覚悟が宿っていた。

 

「これを、なぜ僕に?」

 

「今の貴方には、必要な力だと思いましたの」

 

キラは黙ってフリーダムを見上げる。

その隣で、もう一機の説明が始まる。

白を基調とした機体。背中には幾重にも重なる白い翼。

神秘的で、どこか異質な存在感を放っていた。

 

「そしてあちらは、ウイングガンダムスノー・ホワイトプレリュード。発案者不明の機体ですわ」

 

「……あれはザフトの機体じゃないのか?」

 

「不思議ですわね。気づけばそこにあった機体。誰も不審がらず、整備されている。まるで、そこにあることが当然のように」

 

「曰く付きってこと?前にもエリカに似たようなこと言われた気がするな……。でも、誰の仕業か、なんとなくわかる気がする」

 

アマキの脳裏に、あの“叩き落した”相手の顔が浮かぶ。

むかつく顔だったので、イメージで殴っておいた。

 

「まぁ、アマキ様のお知り合いかもしれませんわ」

 

「かもね……綺麗な機体だ。私のイメージには合わないかも」

 

肩をすくめるアマキに、ラクスは静かに言葉を重ねる。

 

「わたくしには、ぴったりだと思います。この白い翼は、皆の希望を運ぶもの。力の使い方を間違えなければ」

 

「そうだね。強大な力に飲み込まれないようにしなくちゃ」

 

「想いだけでも、力だけでも駄目なのです。だから…キラの願いに、行きたいと望む場所に、これは不要ですか?」

 

「想いだけでも…力だけでも……。君は誰?」

 

「私はラクス・クラインですわ。キラ・ヤマト」

 

「ありがとう」

 

二人はパイロットスーツに着替え、それぞれの機体の前に立つ。

出撃前の、最後の別れ。

 

「ラクスは大丈夫?」

 

「この後すぐ、わたくしにも追手がつくと思います。気をつけますわ」

 

「気をつけて」「また後でね」

 

「ええ、キラも。……アマキ様。どうか、ご無事で…」

 

ラクスは不安げに両手を組み、アマキを見上げる。

アマキは余裕の笑みを浮かべ、そっとラクスの額にキスをした。

ラクスは、静かに瞼を閉じて受け入れる。

 

「……ラクスも、ちゃんとまた会おうね」

 

「はい。……では、行ってらっしゃいませ」

 

二人は機体に乗り込む。

キラは、さっきのキスは「カウントしない」と自分に言い聞かせた。

ただのデコチューだから、と。

 

『Nジャマーキャンセラー?すごい…ストライクの4倍以上のパワーがある』

 

「よくわからんけど、なんかすごい!」

 

新型機体の性能に驚く二人。

だがその裏で、管制室が騒然となっていた。

 

「おい、なんだ?」

 

「フリーダムが…それにスノーホワイトが動いている?」

 

「エアロックを止めろ!本部へ通報!スクランブルだ!」

 

「誰だ貴様!止まれ!」

 

フリーダム、そしてスノーホワイトがエアロックから飛び出す。

宇宙空間に放たれた二機は、ジンの間を高速ですり抜ける。

 

『うわぁぁ!』

 

『なんだあのモビルスーツ二機は!?』

 

だが、そう簡単には行かせてくれない。前方からジン二機が進路を遮る。

キラは手を出したくない一心で叫ぶ。

 

『止めろ!僕たちを行かせてくれ!』

 

「キラ!」

 

『僕に任せてっ!』

 

『こいつ!?』

 

『速い!?』

 

フリーダムは一瞬でジンの腕を切り落とす。

 

パイロットには傷一つない。その動きは、まさに神業だった。

スノーホワイトはネオバード形態に変形し、白き翼を広げて飛翔する。

その姿は、まるで希望そのものだった。

 

「間に合ってくれっ!みんなッ!」

 

白き翼が、宇宙を駆ける。

その先にあるのは、破滅か、救済か――。

 




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