腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-33正義の名のもとに

傷を負ったアスランを待ち受けていたのは、スピットブレイクの失敗によるザフト軍の壊滅的損害、そしてラクス・クラインの裏切りによる最新鋭機体の奪取という、二重の衝撃だった。

無論、アスランはすぐに父――パトリック・ザラの元へ向かった。

だが、議長室の前には指示を待つ軍人たちが溢れ、空気は張り詰めていた。

混乱の中心にいるはずの父は、疲労の色を隠しきれず、目元に深い影を落としていた。

思わずアスランは口をついて出た。

 

「父上…」

 

その瞬間、パトリックの目がギラリと光る。

それは、わが子を見る目ではなかった。

あくまで部下を見下ろす、冷徹な上官の視線だった。

 

「なんだ、それは」

 

まずい。アスランはすぐに姿勢を正し、敬礼しながら言い直す。

 

「失礼いたしました。ザラ議長閣下」

 

「状況は認識したな?」

 

「は……! いえ、しかし……私には信じられません。ラクスがスパイを手引きしたなどと……そんな馬鹿なことが……」

 

ラクス・クラインは、プラントの象徴であり、自分の婚約者であり、何より“歌姫”だった。

彼女が裏切るなど、ありえない。

そう信じていた――だが、アスランはふと気づく。

自分は、本当のラクス・クラインを、何も知らなかったのではないか。

その思考を断ち切るように、パトリックが画面を操作する。

映し出された映像には、確かにラクスの姿があった。

 

「見ろ。工廠の監視カメラの記録だ。フリーダム、そしてスノーホワイトの奪取はこの直後に行われた。証拠がなければ、誰が彼女になど嫌疑をかける。お前が何と言おうが、これは事実だ。ラクス・クラインは、もはやお前の婚約者ではない」

 

「っ……!」

 

どうして、この人はこうも簡単に手のひらを返せるのか。

今まで「大事にせよ」と言っていた言葉は、すべて嘘だったのか。

 

「まだ非公開だが、国家反逆罪で指名手配中の逃亡犯だ。お前は奪取されたX10Aフリーダムとスノーホワイトの奪還、並びにパイロット、接触した人物、施設、すべての排除にあたれ」

 

「……」

 

国家反逆罪。指名手配。

くらりとめまいがしそうになる。

信じたくない。だが、目の前には“証拠”がある。

 

「工廠でX09Aジャスティスを受領し、準備が整い次第、任務に就け。奪還が不可能な場合は、フリーダムを完全に破壊せよ」

 

「……接触したと思われる人物、施設まで……すべて排除、ですか?」

 

それほどまでに、あの機体は重要なのか。

アスランの疑問に、パトリックは衝撃的な事実を告げる。

 

「X10Aフリーダム、及びX09Aジャスティスは、ニュートロンジャマー・キャンセラーを搭載している」

 

「……ニュートロンジャマー・キャンセラー!? そんな……なぜそんなものを!? プラントは核を放棄したはずでは!」

 

「勝つために必要となったのだ。あのエネルギーが。お前の任務は重大だ。心してかかれ」

 

父の顔は、もはや修羅のようだった。

そこに、かつての優しさはなかった。

父と子の会話ではない。

上官と部下――命令と服従。

アスランは、操り人形のように戦場へ駆り出される自分を想像し、胸に重い悲しみを抱えてその場を退出した。

 

◇◇◇

 

ニコルの父、ユーリ・アマルフィ――

彼と顔を合わせるのは、アスランにとって容易ではなかった。

ニコルを守れなかった負い目。

そして、ユーリがラクスの歌を好んでいたことも知っていた。

今、そのラクスが“裏切り者”とされている。

父として、どれほど辛いことか。

執務室の扉が開き、ユーリが静かに言った。

 

「ニコルも……彼女の歌は好きだったというのに」

 

「ニコルのことは……本当に……」

 

言葉が詰まる。

謝罪の言葉すら、重すぎて口にできない。

 

「いや、いいんだ……すまない。わかっている。戦争なのだから……。仇は、君に討ってもらった」

 

「……いえ……」

 

仇は討った。だが、友も失った。

その代償は、あまりにも大きかった。

今の自分に、何が残っているのだろう――。

ユーリは、机の上に置かれた端末を見つめながら、声を荒げた。

 

「だがニコルや君、そして多くの若者が戦場でその身を犠牲にしてまで戦っているというのに……なぜ、それを裏切るような真似をする者がいるんだ!」

 

拳が机を打つ音が、静寂を破った。

 

「私はそれが……悔しくてならんよ!犠牲はもう沢山だ!だからこそ……Nジャマーキャンセラーの搭載にも踏み切ったというのに!」

 

「……」

 

アスランは、何も言えなかった。

その決断が、どれほど重いものか――理解はしている。

だが、それが正しいとは、まだ言えない。

 

「最終起動のシミュレーションを開始する。F6の要員は端末オンライン……」

 

ユーリの声が、冷静さを取り戻しながら続く。

 

「あれが地球軍の手に渡れば、奴らは大喜びで再び核を使うだろう。それだけは、何としても食い止めねばならん!」

 

「……」

 

「頼むぞ、アスラン」

 

「ぅ……」

 

その言葉に、アスランは答えられなかった。

期待、裏切り、悲しみ――

すべてが胸の中でせめぎ合い、言葉にならない。

このまま、命令に従うだけでいいのか。

それとも、自分の目で確かめるべきなのか。

アスランは、静かに立ち上がった。

そして、心の中で決意する。

――ラクスの真意を、確かめたい。

彼女が本当に裏切ったのか。

それとも、何か別の理由があるのか。

その答えを求めて、アスランはラクス邸を目指すことにした。

 

◇◇◇

 

一方、アークエンジェルでは――

新たな機体を手にしたキラとアマキが、久しぶりの再会を果たしていた。

ザフトのパイロットスーツ姿に一瞬驚かれたものの、それはそれ。

むしろ、アマキはマリューに頬を横に引っ張られるという“お仕置き”を受けていた。

 

「いだいー!」

 

「ウフフフ、そう!この頬、もちもちしてて伸ばしがいがあるわ〜!久しぶりすぎて力がこもっちゃったかも、ごめんなさいね〜」

 

「艦長!私にもぜひやらせてくださいっ!」

 

ナタルもこの好機を逃すまいと、マリューの後ろで順番待ちしていた。

 

「しょんなー!?」

 

アマキは半泣きになりながら、キラに助けを求めるが――

キラは仲間たちと抱擁を交わし、ワイワイと盛り上がっていた。

 

「キラ…!」

 

「キラ、よかったぜ!」

 

「生きてたんだ…」

 

「皆…間に合ってよかった!」

 

「キラ……アマキさんも無事でよかった…!これ、シャッターチャンスねっ!」

ミリアリアは涙を拭いながら、カメラを構えてアマキのお仕置きシーンを激写しまくる。

すっかり元気を取り戻したようだった。

 

「おいおい、そのくらいにしておけって」

 

「ムウさ〜〜ん!」

 

頬を真っ赤にしているアマキが可哀そうで、ムウが助け舟を出す。

その隙をついてアマキがムウに抱きつこうとするが――

 

「ぐぇ」

 

キラが首根っこを掴んで阻止。

ナタルは残念そうな顔をしていたのを、マリューはしっかり見逃さなかった。

 

「お話ししなくちゃならないことが沢山ありますね」

 

「ええ」

 

「僕もお聞きしたいことが沢山あります」

 

「そうでしょうね」

 

急に真面目モードになる二人の傍らで、アマキはキラから逃げようと「ふがー」ともがく。

するとキラが耳元で囁く。

 

「キスしちゃうよ」

 

「ひぇ!」

 

途端におとなしくなるアマキ。

その様子にクルーたちは「キラの方が一枚上手だな」と感心していた。

ムウは空気を読んで、さらっと話題を変える。

 

「ザフトにいたのか?」

 

「そうですけど、僕たちはザフトではありません。そして、もう地球軍でもないです」

 

キラの答えは、静かで力強かった。

マリューはまだアマキの頬を伸ばしたりないのか、手をわきわきさせていた。

アマキは逃げたいが、キラのホールドが強すぎて逃げられない。

仕方なく、マリューは手を下げた。

 

「…分かったわ。とりあえず話をしましょう。あの機体たちは?どうすればいいの?」

 

「整備や補給のことを仰っているのなら、今のところは不要です。あれにはニュートロンジャマー・キャンセラーが搭載されています」

 

「ニュートロンジャマー・キャンセラー?」

 

クルーたちが騒ぎ出す。

 

「じゃあ核で動いてるってこと?」

 

「そんなもん、どっから…」

 

興味津々な視線を遮るように、キラは眼光鋭く言い放った。

 

「データを取りたいと仰るのなら、お断りします。僕たちはここを離れます。奪おうとされるなら、敵対しても守ります」

 

その言葉に、マリューたちは驚いた。

 

「キラ君…」

 

「お前…」

 

「あれを託された僕らの責任です」

 

そして、空気を変えるようにアマキが呑気に尋ねる。

 

「とりあえずフレイどこかな。迎えに来たんだけど」

 

マリューは大人の余裕でさらっと答える。

 

「フレイさんなら艦の中で行方不明よ。…わかったわ。機体には一切、手を触れないことを約束します。いいわね?」

 

「ありがとうございます」

 

「艦の中で行方不明!?なぜそうなるっ!」

 

「私ならここにいるわっ!」

 

「「「え!?」」」

 

バーン!と効果音が鳴りそうな勢いで現れたのは、仁王立ちしたフレイ・アルスター。

髪はぐちゃぐちゃ、隊服も乱れているが、確かに本人。

ナタルが指をさして叫ぶ。

 

「ああ!やっぱりいたのかお前っ!」

 

だが、フレイは怒られていることなどお構いなし。ずんずんとアマキの元へ歩み寄る。

 

「私なら逃げも隠れもしないわ。さぁアマキさん!一発お見舞いするわよ。受け止めて!」

 

「なぜそんなことに!?」

 

アマキは心底嫌そうな顔で、キラの拘束を振りほどき、じりじりと距離を取る。

 

「アマキさんが絶対迎えに来るって信じて、死に物狂いで四次元買い物袋に潜んでたのよ。ルルが迎えに来てくれなかったら死んでたかも」

 

「フレイー!なぜそんな危険なことを!こっちに戻って来れないかもしれないんだぞ!」

 

「いつも買い物袋に頭突っ込んでた人の発言とは思えないわ」

 

「そうだね」

 

キラは激しく同意した。

 

「さぁ!その赤く仕上がった頬を叩かせて!」

 

「理不尽!?」

 

アマキとフレイの攻防劇をしばし見守っていたキラたちだったが、しばらく見ていても楽しくないし、放置しても良いと判断し、とりあえず艦内へ入ることにした。

 

「行きましょうか」

 

「はい」

 

その後、アマキはフレイにしばかれ、マジ泣きして引きずられて艦内に戻ってきた。

さすがにキラが慰めてあげた。

フレイはほくほくと鬱憤を晴らしたようで、イイ笑顔だった――それを見た皆は、ちょっと引いた。

 

◇◇◇

 

ラクス邸を訪れたアスランは、目の前の光景に言葉を失った。

かつて優雅で美しかった庭は、見る影もなく荒れ果てていた。

椅子はなぎ倒され、窓ガラスはすべて割られ、壁には焦げ跡まで残っている。

風に舞う花びらは、もはや色を失い、ただの破片のようだった。

 

「……ここまで、しなくても……」

 

心の奥に怒りが湧き上がる。

誰が、何のために――

この場所は、ラクスが大切にしていた空間だったはずだ。

その時、背後の草陰から微かな音がした。

アスランは反射的に警戒態勢に入り、片腕ながらも懐の銃に手を伸ばす。

ゆっくりと振り向くと――

 

「ハロテヤンデー」

 

聞き慣れた電子音が耳に届いた。

そこにいたのは、ラクスが可愛がっていたピンクハロ。

“ピンクちゃん”の愛称で呼ばれていた小さなペットロボットだった。

ボディは泥にまみれ、傷もあったが、ぴょんぴょんと跳ねる姿は健在だった。

 

「ミトメタクナーイ!マイド!マイド!」

 

アスランは手を伸ばすが、ハロはお構いなしに跳ね続ける。

 

「ハロ!」

 

名を呼ぶと、ハロはその声に反応し、勢いよくアスランの手の中に飛び込んできた。

その場所は、かつてラクスが大切にしていたバラの花壇の跡地だった。

 

――『この花は、私が初めて歌った劇場ですわ。記念のお花なんですの』

 

その言葉が、アスランの脳裏に蘇る。

今は、花壇も踏み荒らされ、バラの面影すら残っていない。

 

「ハロ、ゲンキ!オマエモナ」

 

ハロの言葉に、アスランははっとする。

その口調――いや、プログラムの癖――

ラクスがよく使っていた言葉のリズムだった。

 

「……!」

 

アスランの胸に、ある場所の記憶がよぎる。

もしかして――そこなら、彼女はいるかもしれない。

ハロをそっと抱え、アスランは駆け出した。

荒れ果てた庭を背に、希望の残る場所へと。

 

◇◇◇

 

地球軍の隊服に身を包んだキラとアマキは、ブリッジに集まった仲間たちと向き合った。

これほど多くの顔が一堂に会するのは、もしかすると初めてかもしれない。

 

「それが……作戦だったんですか?」

 

キラの問いに、ムウが静かに頷く。

 

「おそらくはな」

 

「私たちには何も知らされなかったわ」

 

「本部はザフトの攻撃目標がアラスカだってこと、かなり前から知ってたんだろう。でなきゃ、地下にサイクロプスなんて仕掛けられるわけがない」

 

「……プラントも同じだ」

 

「え?」

 

キラの視線がマリューに向く。

 

「それで……アークエンジェルは、これからどうするんですか?」

 

マリューは言葉に詰まった。

誰もが、次の一手を見失っていた。

 

「どうって……」

 

沈黙の中、皆が現状と仮の提案を口にする。

 

「Nジャマーと磁場の影響で、通信は完全に遮断されてる」

 

「応急処置して、自力でパナマまで行くしかないか?」

 

「歓迎してくれるかねぇ、いろいろ知っちゃってる俺たちを」

 

「命令なく戦列を離れた本艦は、敵前逃亡艦ってことになるんでしょ」

 

「原隊に復帰しても軍法会議か……」

 

「また罪状が追加されるわけね」

 

「……何のために戦ってるのか、わからなくなってくるわ」

 

マリューのため息が、ブリッジの空気をさらに重くする。

その時、アマキが頬を赤らめながら、ぽつりと呟いた。

 

「オーブ戻ればいいじゃん」

 

「「「!」」」

 

一斉に注がれる視線。

アマキは、少し照れながらも真っ直ぐに言葉を続ける。

 

「オーブにはオーブの理念がある。地球軍に疑問を感じるなら、オーブの門戸を叩けばいい。彼らは受け入れてくれるさ」

 

「アマキさん……」

 

「そんな、あっさりとなぁ……」

 

生粋の軍人たちは戸惑う。

だが、アマキはフレイからもらったザフトのレーションを一口頬張る。

 

「もぐもぐ」

 

「こら!ブリッジで食べるな!カスが落ちるだろっ!」

 

ナタルの叱責もどこ吹く風。

アマキはレーションを頭上に掲げ、格好よく言い放つ。

 

「んぐ、腹が減っては戦はできぬ!さぁ、皆も分かち合おうではないか!このレーションをっ!」

 

ずばーん。

 

「……僕ももらおうかな」

 

「私も食べる、一口頂戴?」

 

「いやこれ私のだから」

 

キラとフレイが笑いながら声をあげ、次々と皆が集まってくる。

アマキとフレイがレーションを配り、最後にはマリューに引っ張られてきたナタルも、しぶしぶながら口にしていた。

なんだかんだ言って、皆で同じレーションを食べて、色んな味を味わって、笑い合った。

こんなに笑ったのは、久しぶりだった。

その空気の中で、キラが静かに口を開く。

 

「こんなことを終わらせるには、何と戦わなくちゃいけないと、マリューさんは思いますか?僕たち――僕は、それと戦わなくちゃいけないんだと思います」

 

その言葉に、誰もが黙って頷いた。

戦うべきは、敵ではなく、歪んだ構造そのもの。

そして、信じるべきは、仲間と、自分たちの選択。

アークエンジェルの進路は、オーブへと定まった。

 

◇◇◇

 

雨粒がエレカのフロントを叩きつける。

アスランはハンドルを握りしめ、荒れ果てた劇場へと滑り込む。

車を停めると、濡れた地面を踏みしめて建物の中へ。

銃を腰に装備し、左腕にはハロ。右手は常に銃のグリップに添えられていた。

階段を駆け上がる途中、かすかに聞こえる歌声。

その旋律に、足が止まる。

 

「…ぁ…」

 

息を整え、銃口を下げながらも警戒を解かず、扉の隙間から中を覗く。

ガランとした客席の中央――

壇上に腰かけ、ラクスが歌っていた。

彼女はゆっくりと立ち上がり、ステップを踏むように舞台の端へ歩く。

その衣装は、まるで舞台の光を浴びるために選ばれたかのように華やかだった。

ハロがアスランの腕から飛び出し、ぴょんぴょんと跳ねながらラクスの元へ。

 

「マイド!マイド!ラクス~」

 

「あ!」

 

ラクスはしゃがみ込み、ハロを優しく抱き上げる。

その仕草は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。

 

「…ピンクちゃん!やはり貴方が連れてきて下さいましたわねぇ。ありがとうございます」

 

アスランは一歩、壇上へ踏み出す。

濡れた靴音が劇場に響く。

 

「ラクス!」

 

「はい?」

 

「どういうことですか!?スパイを手引きしたというのは本当なのですか!?」

 

ラクスはハロを胸元に抱えたまま、ゆっくりとアスランに向き直る。

その瞳は揺るがない。

 

「お聞きになったから、ここにいらしたのではないのですか?」

 

「では本当なのですか!?スパイを手引きしたというのは!何故そんなことを!?」

 

「スパイの手引きなどしてはおりません」

 

ラクスは静かに否定をした。

 

「え?」

 

「キラとアマキ様にお渡ししただけですわ。新しい剣を」

 

「ぅ!?」

 

聞き捨てならない名前にアスランは過敏に反応し動揺する。

 

「今のお二人に必要でお二人が持つのが相応しいものだから」

 

「キラ…?アマキだと?何を言ってるんです!キラは…あいつは…」

 

「貴方が殺しましたか?」

 

その言葉に、アスランの足が止まる。銃を握る手が震え、銃口がわずかに下がる。

殺した、確かに自分はキラを殺した、はず。

なのに、ラクスはアスランを安心させるために微笑んで戯言を口にする。

 

「大丈夫です。キラとアマキ様は生きていますから」

 

アスランはラクスの言葉を信じられなくて銃口を彼女に向けることで己を保とうとする。

 

「うぅ嘘だ!一体どういう企みなんです!ラクス・クライン!…そんなバカな話を…あいつは…あいつが生きてるはずがない!!じゃあなんでニコルは死んだんだ。アイツだけ生きてるなんて……!」

 

卑怯じゃないか!

 

アスランは銃口をラクスに向け直す。

だが、彼女は一切動じない。

むしろ、舞台の中央に立ち、堂々とその視線を受け止める。

 

「マルキオ様がわたくしの元へお連れになりました。キラも貴方と戦ったと、言っていましたわ」

 

「!!」

 

「言葉は信じませんか?ではご自分で御覧になったものは?戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで何も御覧になりませんでしたか?」

 

その通りだ自分が知るプラントは様変わりした。勝つことに執着してすべてを裏切って何もかもを吹き飛ばそうとしている。自分さえよければいいという父パトリックの策の元。この先に明るい未来など待っているはずがない。

認めたくない。このまま命令されるだけの存在ではいずれ自分も父のようになってしまうような気がする。

やめてくれ、それ以上事実を突きつけないでくれ。

 

縋るようにラクスの名を呼ぶ。

 

「…ラクス…」

 

だがそれでもラクスの追及は止まらない。

彼女は正論を述べているにすぎないのだ。

 

「アスランが信じて戦うものは何ですか?戴いた勲章ですか?お父様の命令ですか?」

 

「…ラクス!」

 

やめろ!

 

「そうであるならばキラ、そしてアマキ様は再び貴方の敵となるかもしれません」

 

ラクスはなぜか優しく微笑みかけた。残酷な言葉でアスランを追い詰めているというのに。アスランに逃げ場はない。

 

「ぅぅ!!」

 

「そしてわたくしも。敵だというのなら、わたくしを討ちますか?ザフトのアスラン・ザラ!」

 

ラクスは強く言い放つ。その姿に完全にアスランは委縮してしまった。銃を持っていて男でラクスは丸腰で無防備なのにまるで立場が逆転してしまっていた。

 

「俺…俺は…」

 

「ラクス様」

 

誰かがラクスの名を呼ぶ声に二人は反応すると、その時――劇場の扉が乱暴に開かれ、黒服の男たちがなだれ込む。

 

「!」

 

「くっ…」

 

アスランは咄嗟にラクスの前に立ち、銃を構える。

ラクスは背後でハロを抱きしめ、じっとその背中を見つめていた。黒服の男たちは二人に向けて銃を構えてはアスランをねぎらってくる。

 

「御苦労様でした、アスラン・ザラ」

 

「なんだと!」

 

壇上の上にも仲間がやってきて囲まれてしまう。

どうやらつけられていたようだ。

 

「流石婚約者ですな。助かりました。さ、お退き下さい」

 

「ぅぅ…」

 

「国家反逆罪の逃亡犯です。やむを得ない場合は射殺との命令も出ているのです。それを庇うおつもりですか?」

 

「そんなバカな!」

 

その時!

 

「うっ!」

 

公安の男が何者かに頭を撃ち抜かれ倒れる。アスランはラクスの腰を抱え、舞台裏へと飛び込む。

幕の隙間をくぐり、セットの岩壁の陰へ。

 

「ぇぃ…くっ!えいっ!」

 

それを好機と取り謎の勢力が公安の黒服を次々と狙って殺してく。

 

「うわ!」

 

「うっ!」

 

「くっそー!」

 

的確に頭部と打ち込んでいく腕前は素人ではない。セットの岩壁からザフトの軍服を着た赤髪の男がラクスの名を呼ぶ。謎の勢力が現れ、黒服たちを次々と撃ち倒していく。その腕前は素人ではない。

ザフトの軍服を着た赤髪の男――ダコスタが姿を現す。

 

「ラクス様」

 

「ありがとう、アスラン」

 

ラクスはアスランの腕からそっと離れ、ダコスタの元へ歩み寄る。

 

「…」

 

「もうよろしいでしょうか、ラクス様。我等も行かねば…」

 

どうやらラクスのお願いにより最初から警護していたようだ。おびき出されたのはアスランの方だったかもしれない。

ラクスはアスランの腕からそっと離れ、ダコスタの元へ歩み寄る。

 

「マルキオ様は?」

 

「無事お発ちになりました」

 

ラクスはアスランに振り返り、微笑む。

 

「ではアスラン、ピンクちゃんをありがとうございました」

 

「マイドマイド」

 

あっさりとラクスはアスランに背を向けた。これでおしまいなのかと思いきや、ラクスは少しだけ後ろを振り向いた。

 

「……」

 

「キラとアマキ様は地球です」

 

「ぁ…」

 

「お話されたら如何ですか?お友達とも」

 

「…ラクス…」

 

そう言い残すと今度こそ護衛の男たちと共にアスランの前から消えた。

 

一人残されたアスランは、今新しい機体ジャスティスと共に新たな任務を課せられ地球へ向かうところだった。

 

「A55警報発令」

 

「放射線量異常なし。進路クリアー。全ステーションで発進を承認。カウントダウンはT-200よりスタート」

 

スイッチを弄りながら脳裏に浮かぶのはラクスの言葉。

地球にキラがいる。宇宙人アマキも……。

友達?ラクスはあえて友達と言ったのか?敵ではなく?

分からない、なぜだ。

 

「T-50。A55進行中」

 

「キラ…」

 

カウントダウンが近づく。

ジャスティス瞳に緑色の光が宿り、鮮明な赤が機体を映えさせる。

 

「X09A、コンジット離脱を確認。発進スタンバイ」

 

(お前は一体何を…)

 

「T-5。我等の正義に星の加護を」

 

きっと地球に行けば、このもやもやも晴れるに違いない。

そんな曖昧な願いと共に。

 

「アスラン・ザラ、ジャスティス出る!」

 

正義の名を戴く機体が発進する瞬間、アスランの瞳には迷いと決意が交錯していた。

 

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