腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
とり急ぎ開かれたお別れパーティーは、最高の盛り上がりを見せた。
耳にタコができそうなほど「必ず帰ってきてね」と言われたが、アマキは笑顔を崩さなかった。
その言葉の重みを、胸の奥でしっかりと受け止めていたから。
彼らの気持ちは理解しているし、アマキ自身も、無事に用事を済ませたらまた帰ってきたいと思っている。
プレゼントのお返しとして即興で歌ったアマキの声は、安定の音痴っぷり。
皆、温かいまなざしで見守っていた。
演歌調で、しっかりとカラオケセットも用意され、マイクを握りしめての熱演。
「ほげぇぇぇ~~~、ほげほげ~~~、ほげええええええ~~~っ!」
こぶしは効いている。だが歌詞はすべて「ほげ」。
一部のファンの間では“ほげ語”として研究対象になっている。
なぜアマキの口から出てくる言葉がすべて同じなのか——それもまたミステリー扱い。
何よりアマキ本人が楽しそうだし、皆も応援して盛況なので、良しとしよう。
夜が更けてもパーティーは終わらず、大人組は派手に無礼講でどんちゃん騒ぎ。
子供たちはマルキヨ様にしっかり寝かしつけられ、いい子組だった。
「ふぅ」
お酒に溺れる大人たちを遠目に見ながら、アマキは未成年として渡された炭酸ジュースをちびちびと飲み、窓際に足を組んで座っていた。
おつまみのビーフジャーキーをつまみながら、今さらながら「どうやって帰ろうかな」と考える。
帰ると決めたはいいが、帰る手段があるかと言われれば、否。
アマキは特殊な存在で、毎回“誰かさん”の手によって落とされている。
四次元買い物を漁っても、目ぼしいものが出てくるかは謎。
「もぐもぐ」
美味い。イイ感じに病みつきで、これは血圧上がるぜ。ぐへへへ。
パクパク食べていると、ラクスがやってきてひょいっとお皿を取り上げた。
「アマキ様、食べすぎは体に毒ですよ」
「ラクス、大丈夫だよ。ちょっとだけだって」
「高カロリーだよ。その辺でやめときな」
キラには食べかけのジャーキーまでぐぐぐっと持っていかれ、そのまま食べられた。おい。さらっと間接キスしてるぜ。
え、アマキの味がするって?変態か。
「キラまで、別にいいじゃん。今日くらいは」
「ダーメ。健康にも気をつけないと」
「ぶー」
ぷくーっと頬を膨らませて抗議してみせるが、効果はない。
キラによってリスみたいに膨らんだ頬は人差し指で押され、もとに戻るだけ。
キラとラクスは、アマキのために野菜スティックを用意してくれていた。
ラクスはしっかりとアマキの隣を陣取るため、お尻でぐいぐい押しのけてくる。キラは弾みで落ちた。
「ラクス~」
恨みがましい視線をラクスに送るが、彼女は「~♪」と鼻歌を歌って無視を決め込んだ。
アマキは仕方なくキュウリを一本もらい、口に運ぶ。うん、新鮮でうまい。
キラは椅子を運んできて、アマキの正面にドカッと座った。
「それで、どうやってアマキがいた世界に行くの?」
「あー、今考えてた」
「え? 今さら?」
「あら、それは大変ですわね」
キラは呆れ、ラクスは他人事のようにアマキにさらに野菜を食べさせようとする。
「さ、あーんしてくださいな」
アマキは素直に「あーん」と口を開き、二、三本スティックを突っ込まれた。これも愛ゆえ?
なんとか噛んで飲み込む。
「………もごもご……んぐ。私さ、キラに拾われる前は落とし穴に落とされてこっちに来たんだよね。だから、あてずっぽうだけど穴掘ってみようかと考えてた」
「今から? 肉体労働すぎー」
キラは嫌そうな顔になった。誰だって今から穴掘りなんて嫌だ。
だがアマキは人差し指を横に振りながら、偉そうに諭す。
「ッチッチッチ。簡単に帰れるわけないんだよ。過酷なんだよ、異世界トリップってさ。落とし穴に落ちるなんて定番だよ定番」
「なんか漫画みたいな展開だよね。もしかして常習犯?」
「黙秘する」
ツン!とそっぽを向くアマキに、キラは図星だなと確信。
だがそれ以上突っ込むと本格的にへそを曲げるので、深追いはしない。
こういうところも好ましいのだが、アマキはまだ好意を示すことに慣れてくれない。
一応キスまでは経験しているが、まだ仮交際と豪語するアマキに、それ以上踏み込んだ交際はできない。
しっかりと“仮”を取り除かねば。
ラクスはすっかりやる気を出したようで、道具を探しに出かけようと腰を上げた。
「ではスコップを用意せねばいけませんね。どこかで見たような気がしますが、三人分でよろしいですか?」
だがアマキが彼女の腕を掴み、止めに入る。
「ラクスはやらなくていいよ。力仕事だし。私とキラがやるから、二人分だけでいいし。私も探しに行くから」
普通の暮らしに慣れたとしても、力仕事はラクスにやらせるべきではない——アマキの考えだ。
ラクスは少し不服げに唇を尖らせる。
「まぁ、楽しそうなのにずるいですわ。アマキ様」
「まぁまぁ、ラクスは応援でもしててよ」
「分かりましたわ」
渋々ラクスは頷き、少し唇を尖らせながらも椅子に腰を下ろした。
その後、大人たちが泥酔してソファや畳の上で雑魚寝している間、アマキとキラは夜通し、庭先で穴掘りに勤しんだ。
「頑張ってください〜」
ラクスはカメラを首から提げ、ルルの頭をぽんぽんと撫でてから連れ出す。
ルルの目からライトがぱっと点灯し、暗闇に光が差す。
アマキはスコップを握り直し、キラはジャケットの袖をまくって構えた。
ただ、その光に誘われて虫がぶんぶんと集まり始め、ラクスは「きゃっ」と肩をすくめて屋敷へ戻り、蚊取り線香を持ってきて地面にそっと置いた。
顔中、体中砂だらけになりながら、アマキは黙々と掘り進める。
キラは額の汗をぬぐいながら、ふとスコップの動きを止めて追いかけた。
「ねぇ、ほんとにここ?」
アマキはスコップを地面に突き刺したまま、肩を小さくすくめて数秒沈黙。
そして蚊が鳴くような声で答えた。
「たぶん……勘」
「ねぇ!それ一番ダメなやつでしょ!」
キラはスコップを地面に叩きつけ、砂が舞い上がる。
朝方、空が白み始める頃には、二人の足元には深さ2メートルほどの穴ができていた。
「行き当たりばったりだよね、毎回毎回」
アマキはスコップを肩に担ぎながら、にやりと笑う。
「じゃ、来るのやめとく?」
キラは一瞬口を開きかけて、視線を逸らしながらぽつり。
「……やめない」
その言葉にアマキが目を丸くした瞬間、キラは彼女の腕を引き寄せて唇を重ねた。
砂まみれのキス。味は……土。
「だからって穴の中でキスするかっ!!」
アマキは頬を真っ赤にしてキラの胸を拳でぽすぽす叩く。
「キラっ!」
「試すようなこと言うのが悪いよ」
キラがべぇっと舌を出した瞬間——
「だからって穴の中でキスするかっ!!」
アマキの頭上に、ルルが落下してきた。
「ぐぇっ」
アマキはバタリと倒れ、キラが慌てて抱きかかえる。
見上げると、穴の縁からラクスがカメラを構えながら微笑んでいた。
「ウフフ……わたくしが見ていないとでも思っていたのですか?」
その瞳は笑っているのに、完全に据わっていた。
「クッ、敵に身内がいたなんて……!」
キラはアマキを片膝に乗せて悔しがり、ラクスはスカートをひらりと翻して屋敷へ戻っていく。
結局、怒れるラクスにフライパンとオタマで大人組を叩き起こしてもらい、救出された。
こうして、ようやく出発の準備が整った。
あとは、無事に異世界トリップするだけだ。