腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
無事に穴掘りを終えたアマキたちは、すっかり身支度を整え、最後の別れに臨んでいた。
アマキは買い物袋ひとつだけを手に、ラクスからの贈り物——頭にタンコブ付きのラフな格好に変身。
額をさすりながら、死んだ目でぼんやりと突っ立っている。
ルルは呑気にその辺を跳ね回り、時折アマキの足元にまとわりついてはぴょんと跳ねて離れていく。
キラは大きなリュックを背負い、ベルトがやたら多い謎のジャケット姿。
背筋を伸ばしてポーズを決めてみせるが、どこか拘束具めいていて、アマキは目を逸らした。
ラクスは可愛い旅行鞄を片手に、アマキからもらった買い物袋をもう片方に持ち、白い帽子にワンピースというお嬢様スタイルでにっこにこ。
スカートの裾をつまんで軽く揺らしながら、くるりと一回転してみせる。
……どこか近場の旅行ならともかく、世界を跨ぐのにスカートは危険では?と突っ込む気力も、今のアマキにはなかった。
「それじゃあ皆、行ってくるね」
落とし穴の前に並んだ三人は、見送ってくれる両親や仲間たちに向かって一礼し、別れを惜しんだ。
カリダは目元にハンカチを当て、涙をぬぐいながらアマキに歩み寄る。
そっと肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「アマキちゃん、キラとラクスちゃんをよろしくね。無事に帰ってきて」
アマキは頷き、カリダの手を両手で包み込むように握り返した。
マリューは腕を組みながら、ムウは腰に手を当てて、いつもの調子で口を開く。
「気を付けてね。夜遊びしないように、あと、食べ過ぎてお腹壊さないように、あとあと変な人がいたら倒しなさいね」
「お土産期待してるぜ。老舗ラーメンの限定カップ麺とかな」
アマキは苦笑しながら「はいはい」と手を振って応じる。
バルドフェルドは右手にスコップを持ち、地面を軽くトントンと叩きながら言った。
「お前たちが行った後、穴は埋め戻しておくぞ。子供たちには危ないからな」
その言葉に、アマキは「助かります」と頭を下げた。
シーゲルはラクスの肩に手を置き、目を細めて娘に語りかける。
「ラクス、無理はしないように。アマキ君に迷惑をかけないようにな」
「はい。お父様」
ラクスは帽子のつばを押さえながら、シーゲルにそっと抱きついた。
キラはハルマの前に立ち、背筋を伸ばして拳を握る。
「キラ……漢を見せてこい」
「うん。頑張ってくるよ」
ハルマはキラの肩をぽんと叩き、無言で頷いた。
子供たちは刺激が強いという理由で、マルキヨ様とアイシャと共にお留守番。
すでに挨拶は済ませている。
……しかし、どこが刺激的なのか。まぁ、いい。
アマキは最後にもう一度、皆の顔を見渡し、深く息を吸い込んだ。
そして、落とし穴の縁に足をかけた。
「では行かん!」
アマキは拳を高く掲げ、勢いよく宣言した。
未知なる領域へ——と格好つけたかったが、さすがに不安が勝り、三人は肩を寄せ合って穴の中を覗き込む。
地面の奥深く、ぼんやりとした光がゆらめき始める。
それは徐々に強さを増し、やがて虹色へと変化していった。
「光ってる〜」
アマキが目を細めながら呟く。
「すごいね」
キラはしゃがみ込み、手で穴の縁を支えながら覗き込む。
「不思議ですわね〜」
ラクスは帽子のつばを押さえ、スカートの裾を揺らしながら身を乗り出す。
三人は顔を寄せ合い、しばらく無言でその光景を見つめた。
……が、眺めていても埒があかない。
アマキは「よし」と呟き、ルルをむんずと掴み上げる。
「テヤンデェェェーーーーー!」
力強く放り投げられたルルは、エコーを響かせながら光の中へと消えていった。
キラとラクスは目を見開き、アマキに非難の視線を送る。
「鬼だ……」
「愛が……重いですわ……」
アマキは肩をすくめてスルー。
「どうせ同じ場所に着くって。たぶん」
そして、先陣を切るのは——
「せーの!」
アマキはスコップを背負い、軽く膝を曲げてからひょいっと穴の中へ飛び込んだ。
「あ、待ってっ!」
キラは慌てて手を伸ばすが、すでにアマキの姿は光の中。
「では行ってまいります〜」
ラクスは皆に優雅に手を振り、スカートをひらりとはためかせながら、ふわりと穴へと身を投げた。
三人の姿が消えると同時に、虹色の光も静かに終息していく。
見送り組は慌てて穴の縁に駆け寄り、身を乗り出して中を覗き込む。
そこには、先ほどまでの幻想的な光景とは程遠い、ただの土と闇が広がっていた。
「皆、気をつけてね」
カリダは夫ハルマの腕にそっと寄り添いながら、胸元で拳をぎゅっと握りしめる。
その瞳は、三人の無事を強く祈っていた。
♢♢♦♢♢
まず、飛び降りた先は——カラフルな底なし穴だった。
ひゅ~~~~~。
「ひょえぇっ!」
「うわぁっ!」
「あらまあ〜」
安全ベルトなしの高速バンジージャンプ。
三人はそこのない空間を、ただただ真下へと落ち続ける。
アマキは目をぎゅっと閉じて、涙をぶわっと噴き出しながらマジ泣き。
キラは必死に手を伸ばし、アマキの手を掴もうと空中でもがく。
ラクスはスカートがバッサバサに舞い上がるも、キュロット装備で問題なし。
顔にスカートがかぶさっても、お嬢様座りを崩さず、優雅に落下中。
もはや重力すら彼女の品格には敵わない。
とはいえ、どんなに冷静でもこの状況はさすがのラクスでも情報処理が追いつかない。
「アマキ!」
キラは腰に手を回し、アマキを支えようと必死。
「………」
アマキは魂が抜けたような顔で、完全に気絶寸前。
「なんだか景色が変わってきましたわね」
ラクスの言葉通り、カラフルな空間はいつの間にか山々の風景へと変化していた。
日本の四季を思わせる美しい山並みが広がり、現実逃避にはちょうどいい。
さらに景色は海中へと移り変わり、魚や哺乳類が泳ぎ回る幻想的な世界へ。
深海に近づくにつれ、奇妙な深海魚たちが現れ、三人は目を奪われる。
そして最後には、真っ暗な世界が訪れた。
キラとラクスは不安に駆られ、気絶したアマキを抱えながら手をしっかり繋ぎ、目を閉じて祈る。
すると、真下に小さな光が生まれた。
それは徐々に大きくなり、三人を包み込もうとしていた。
「あっ!」
「きゃっ!」
眩い光に目を開けていられず、キラとラクスは驚きの声をあげる。
そして——光に飲み込まれた瞬間、二人も意識を手放した。
♢♢♦♢♢
固い地面。
土の感触と草花のみずみずしい香りが鼻孔をくすぐる。
意識が少しずつクリアになっていく。
「ん……」
最初に目を開けたのはキラだった。
まぶたをゆっくり持ち上げ、眩しさに目を細めながら上半身を起こす。
ルルがぴょんぴょんと跳ね回りながら、キラの周囲をぐるぐると回っている。
その動きはどこか心配そうで、時折キラの顔を覗き込んでくる。
「ハロハロ!」
「……ルル?」
「アマキオキナイ〜」
ルルはアマキの頭の上に移動し、ゴスンゴスンと跳ねて起こそうとする。
その衝撃にアマキの髪がふわっと揺れるが、まだ目を覚ます気配はない。
キラが慌てて片膝をつき、ルルの動きをそっと止める。
「それ以上やったらタンコブが増えるって……」
アマキの隣でラクスがゆっくりと体を起こす。
スカートの裾を整えながら、帽子を軽く押さえて周囲を見渡す。
「……ここは……二人ともご無事ですか?」
「…ラクス……、アマキはまだ気絶したままなんだ」
ラクスはアマキの顔を覗き込み、そっと眉を寄せる。
「先ほどは魂が抜けかけておりましたものね……。ここはどこでしょうか? あちらに遊具が見えますわ。公園のようです」
「そうだね……アマキ、アマキってば」
キラはアマキの肩を両手で掴み、ゆっさゆっさと揺らす。
やや乱暴な動きにラクスが「お手柔らかに」と小声で注意する。
「うぅ〜」
アマキが呻き声を漏らし、まぶたがぴくりと動いた。
キラはほっと息をつき、もう一度優しく揺らす。
「なんかどこかに着いたよ、起きて!」
「う〜〜、胃がむかむかする〜。気持ちわりぃ……頭が痛いのはなぜ? 首も痛い、なぜ?」
アマキはもそもそと体を起こし、頭と首を手でさすりながら顔をしかめる。
「アマキ様、どうぞ」
ラクスが買い物袋から水筒を取り出し、両手で丁寧に差し出す。
「ありがとう、ラクス」
アマキは受け取り、ふたを開けてゆっくりと口をつける。
中身は冷たい水ではなく、温かいお茶。
一口飲むと、体の芯からじんわりと温まる。
「キラも飲む?」
アマキは水筒を差し出す。
「あ、うん」
キラが手を伸ばした瞬間、ラクスがすっと水筒を奪い取り、別の水筒を差し出す。
「キラはこちらですわ」
「あ」
「これはアマキ様専用ですので、キラはこっちをどうぞ」
「えっ、あ、ありがとう…」
ラクスは微笑みながら、しっかりと“格差”を演出していた。
キラは悔しそうに眉を下げながら、自分の水筒を受け取って一口飲む。
ラクスは優雅に自分の水筒を口に運び、「ふぅ」とひと息ついた。
さて、喉を潤したところで問題に向き合う時間だ。
キラは水筒を手にしたまま、あたりを見渡しながらアマキに尋ねる。
「……で、ここってどこなんだろうね」
「公園、ですわね」
ラクスは帽子のつばを軽く押さえながら、周囲を見渡す。
緑豊かな芝生の上で、三人は寝転がっていたらしい。
向こう側には遊歩道があり、ちらほらと人の姿も見える。
子供たちが遊具で元気に遊ぶ声が、風に乗って届いてくる。
こちら側が不審がられている様子はなく、ただの昼寝中の三人として認識されているようだ。
「異世界トリップしてきました!」なんて、口が裂けても言えない。
アマキは上体を起こし、周囲を見渡しながら首を軽く回す。
「うーん、見たことある景色……。もしかしたら家からちょっと距離ある公園かな。結構広くて、土日は家族連れが多いんだ。駐車場も大きいから車でも来れるしね」
憶測ながらも確信めいた口調で説明すると、キラは目を輝かせて顔を上げた。
「じゃあ、ここってアマキがいた世界なんだ…!」
ラクスは芝生の上でスカートの裾を整えながら、穏やかに微笑む。
「意外に、わたくしたちの世界と変わりませんね」
一体どんな想像をしていたのか気になるが、アマキはさらっと流す。
「そうだね。ガンダムも、ナチュラルもコーディネーターもいない。でも、コンビニとバス停はある。……それがこの世界のリアルだよ。今のところ。科学に違いがあるかは、まだわからないけどね」
「へぇ〜」
「なるほど」
アマキはぱんぱんっと服についた草や土を払い、すっと立ち上がる。
ルルは芝生の上をぴょんぴょんと跳ねていたが、「ルルー」と呼ばれると、くるりと回ってアマキの手の中に飛び込んできた。
「じゃあ、ここから少し歩くけど大丈夫? もしだったらバスでも乗ろうか。確かバス停があったはず……」
アマキの提案に、キラは目を輝かせて即答する。
「乗ってみたい!」
ラクスは少し首を傾げて、心配そうに尋ねる。
「お金は大丈夫でしょうか?」
アマキは自信満々に胸を張る。
「私持ってるし安心して! マイ財布で。小銭もあるよ!ラクスはちゃんと帽子被っててね。可愛いからナンパされちゃうかも」
ラクスは帽子のつばを指でつまみながら、ふふっと微笑む。
「まぁ、わたくし一途ですわよ」
「とかなんとか言って照れてるよ、ぐへっ!?」
アマキが茶化すと、ラクスは軽くアマキの腕をつついて抗議。
キラはそのやりとりを見て、くすっと笑う。
三人は荷物をしっかりと持ち直し、芝生を踏みしめながら公園の出口へ向かって歩き出す。
さてさて、ちゃんとお家にたどり着けるか——それはまだ、誰にもわからない。