腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-α5 おとまり。

家がない。実際に自分が住んでいた懐かしい我が家が忽然と消えた経験をしたことがあるだろうか。今まさにアマキは漫画のような展開を迎えていた。ガタガタと震えがして膝に力が入らなくなる。

 

帰る場所がなければ、帰る意味もなくなる。

どんな世界にいたとしても、アマキにとって“家”は心の支えだった。

そこに帰れると信じていたから、どんな困難も乗り越えられたのに——狗楽と共に帰る我が家。その存在がどれほど大切なものか。

 

「帰る場所が……ない。ただいまって言える場所が、どこにも……ない……」

 

絶望的な状況の中、立つ気力さえなく道路に膝をついて項垂れるばかりでキラやラクスが彼女に寄り添い励まそうとするが、効果は薄いかもしれない。

 

「アマキ、きっと何か場所を間違えているとかだよ」

 

「そうですわ。もう少し別の場所を捜してみましょう」

 

と慰めの言葉や前向きになるよう声を掛けてみるが、

 

「……でも、ないかも…」

 

と目に涙をため沈んだ声で否定的に答えられちゃ返す言葉もない。

だからと言ってこのままここにいては不審者扱いになる。一応車の交通はあるので、ずっとここにいるわけにもいかない。

どうしようかとキラとラクスが見合っていた時、買い物帰りらしいのマイバッグを携えた男が一人目の前を通りかかった。何気なく視線をやったのだろう、道路に蹲るアマキの姿を見た途端、

 

「何やってんだ、お前」

 

と呆れた声を投げかける。

 

「……へ?」

 

何やら聞きなれた声にアマキはゆっくりとそちらに視線をやる。キラとラクスも釣られて。ミディアムヘアを後ろでくくり小さなポニーテルを作った鋭い目つきの男だった。Tシャツを片口までまくり上げ今風のカーキ色のゆるパンを履き足元は高そうなスニーカー。

雰囲気だけなら近づきたくないタイプである。だがその人物こそ、まさかのアマキをキラ達の世界に落とした人物である。

 

「た、た、巧~~~~!!」

 

アマキはぶしゃーと涙を鼻水を一気に垂れ流してぴゅーと効果音が発生しそうなくらいの速さで男に抱きついた。文字通り全身を使って。これにはキラとラクスの度肝を抜いた。

 

「なっ!」「アマキ様!?」

 

アマキは大泣きしながら巧に抱きつく。

 

「うわぁーーー!!」

 

「ちょっ鼻水!離れろっ俺の服がきたねーだろーが!?」

 

驚いた巧は全力でアマキを引き離しにかかった。いたいけなな少女の顔に手をやりぐぐぐっと押し出す。

横暴だって?巧の限定Tシャツに鼻水なんぞつけてたまるかっ!って気持ちだがアマキは会えた気持ちが強く、そんなことで離れてたまるかって感じだ。むしろ、もっと邪険にされれば腕に力が籠る。

 

「はなれねぇーぜってぇはなれねー!!」

 

「おまっ!!馬鹿力発動すんなっ!」

 

さらにキラとラクスが加わる。気分はまさに大きなかぶを引っ張る家族である。

 

「アマキ!」「アマキ様!」

 

「だって家が家ガァー!!」

 

「わかったからっ!とにかくお前らは・な・れ・ろっ!!」

 

巧という知り合いに引っ付くアマキを離そうとキラとラクスまでが引っ張っている状態となり最後に全力て叫ぶしかない巧だった。

それから少し落ち着きを取り戻した三人は巧からめんどくさそうに頭をガシガシと搔きながらも説明をしてくれた。

 

「引越したんだよ。家結構ボロだったし地震とかきたら怖いからな。雪彦と相談してマンションに引っ越した。立地もいいしな」

 

「しょんな!?きいてない」

 

「お前いなかったろ?仕方ねーじゃん。それで、そいつらお前のなに?仲間か?」

 

アマキの後ろに並ぶキラとラクスに視線を向ける巧。

 

「あ、うん」

 

アマキはそういえば醜態を晒してしまったことを思い出しつつも、頷く。

 

「あ、そ。とりあえず自己紹介は帰ったらな。ここ、目立つから。着いてこい」

 

簡単に受け止めた巧はそういうとさっさと歩いていく。三人は彼の後を付いていき共に新居へ案内されることになった。

 

♢♢♦♢♢

 

ズンズンと早歩きしていく巧に早すぎると文句を言ったらアイスを買ったとのこと。それは確かに早歩きにもなる。

途中でラクスがつんのめりそうになったのでアマキが手を差し出したのでラクスは嬉しそうにその手を取った。ちなみに旅行鞄はキラ持ちである。キラからの突き刺さる視線に、アマキは気が付かずラクスは無視していた。

 

先ほどまでの道をリターンして大通りへと出て、横断歩道を渡り先ほどの茶屋を通り抜けズンズンと進むと、真新しい四階建てのマンションへ。目の前に雑貨屋さんにパン屋さん、それと内科クリニックもある。遊歩道もマンションの脇にあり散歩するにはもってこいの道だ。

 

「へぇ~、ここ?」

 

「ああ」

 

外観もモダンで派手さはなくスタイリッシュである。オートロック式のようで中に入ると管理室を通り抜けエントランスへ。

キラとラクスも興味津々で視線をあっちやったりこっちやったりと落ち着きなく、管理人さんに怪しい視線を送られてしまった。

巧がタッチパネルで色々弄って扉が開き、アマキ達には目もくれずさっさと通り抜けてしまうのでアマキ達も急いで中へ滑り込むように入った。エレベーターに乗り込み、巧は黙って4の数字を押す。

 

「へぇ、四階か」

 

「ところで狗楽は?」

 

「アイツなら君尋のとこ。しばらく居座るらしいぜ」

 

「え!そうなの!?くぅ~~君尋君に直接挨拶できたらいっつも思ってたのに~。なんで私だけいっつも入れないのかな?」

 

首を捻り不満そうな顔をするアマキに対して巧が可笑しそうに笑った。

 

「そりゃお前、『入る必要がない』からだろ」

 

「え、いや私は挨拶しに行きたいんだけど……」

 

巧の言葉を理解できずにアマキは困惑してしまうが、それとなく巧は誤魔化した。これ以上その店に関心を持ってほしくないからだ。アマキにとって、あの店はもう必要のないもの。記憶に残っていながアマキは確かにあの『店』に出入りしていた。

今ここにいるアマキとは違うアマキだったけれど。

 

「あそこは特殊な『店』だからな。客を選ぶんだ。またの機会にしとけ」

 

「そう、残念!」

 

諦めがついたことに巧は内心ほっとしていた。

 

なんだかんだ言って仲が良さげな会話にキラとラクスは一応黙って聞き役に徹していた。

 

特殊な店ってなんだ?気になる気になる。

 

そんな話などしている間にエレベーターの扉は開き、巧を先頭に出ていく。彼の後ろをちょこちょこついていき、ついについにたどり着いた。鍵を翳して中に入る開け方になっているようで、アマキ達はワクワクしながら巧がドアを開けるのを待っていた。

 

がちゃり。

 

我が家がついに御開帳!

 

扉が開いた先には……!

 

「「「………」」」

 

鬱蒼とした森が延々と広がっていて、生き物の叫び声などが玄関先から響いて思わず巧を横に押しやってアマキは無言でバタンとドアを閉めた。

 

「あ、お前何して」

 

「ちょっと待って、一度冷静になろう冷静に。巧、もう一度ドア開けて」

 

「あ?……はぁ…」

 

舌打ちしそうな雰囲気だったが、仕方ないと巧は鍵を翳してドアを再度開ける。

 

「「「………」」」

 

やはり鬱蒼とした森が目の前に広がっていた。

 

奇怪な鳴き声を発する生き物?だったり、二本足で走ってきた謎の生物が奇声を上げながらこちらに向かって走ってきた。

しっかりと腕を振るい、脚?を上げて大地を蹴り上げている。

 

「きょえぇえええええーーーーー!!」

 

アマキとキラは奇怪な存在に互いに抱き着いて青い顔をして悲鳴をあげた。

 

「ぎゃあ!」「な、なに!?」

 

「あ、雪彦の奴、改造マンドラゴラ逃がしやがったな!」

 

ドアから逃げようとの魂胆か、改造マンドラゴラの形相は必死なもので己の目の前に立ちふさがる全ての者を叩き伏せてくれようという気合に満ちていた。しゅんしゅん!と高速のつもりで捕まえてこようとする巧の手をかいくぐり、この地獄の世界から飛びだとう!

 

がしっ。

「あらあら。脱走はいけませんわ」

 

だが全く動じないラクスお嬢様に葉っぱ部分を捕まれあえなく御用となった。マンドラゴラはしゅんと元気がなくなったようで葉っぱもしおれてしまった。

 

「ふむふむ、もう少しスタミナが必要だな」

 

まったく悪びれた様子もなく諸悪の根源が突如として現れた。白衣に眼鏡という保健室の先生スタイルで何かと問題が大好きなもう一人の親戚、神崎雪彦の登場である。

 

 

 

扉の先には異世界が待っていたーーー。

 

苦労して元の世界に戻ってきたアマキ達。

「新築マンションのワクワク、返せよ!」と怒鳴りたい気持ちをぐっと飲み込むアマキ。

だが相手は、そんな感情を軽くあしらう“上手”な存在。ここは我慢、我慢の子。

大体自分の住処とマンションのドアの入り口を空間捻じ曲げて繋げるか?その無駄な才能を他で生かせと言いたいものだ。

だが相手は怒鳴られたところで、カルシウム足りてないとかで骨そのまま投げつけられるだけだ。

ついでに散歩でも行くかとリードを取ってくるに違いない。

我慢、我慢……って、胃がキリキリ痛むんだけど!?

アイツが絡むとろくなことがない。経験則で嫌というほど知っている。

今回もそうならないといいなと願ってたのにこの状況。二人を連れて逃げられるなら今にも逃走したいところ。

 

キラとラクスも流されるまま思考が追い付かない状態なので、胃が痛むのを抑えつつ、

 

「あれに文句言っても無駄だから無視して」

 

とアマキは二人にアドバイスした。

 

「あは、は…。もうアマキの家族ってさ個性的だね」

 

「そうですわね。ところでこちらのマンドレイクの子はどうしましょうか」

 

にゅっと持ち上げたのはラクスが先ほど捕まえた萎びたマンドレイクだ。土に植え替えれば復活するらしい。

ラクスが持っているとミスマッチである。アマキとしては変な物は極力触りたくないが、ラクスに怪我があっては大変だ。

でも触りたくない。

 

「あー……その辺にポイしていいよ」

と言った瞬間、ラクスがむくれ顔。

 

「可哀そうですわよ」

 

「でも私、触れないし~」

 

「じゃ、俺植えとくから」

 

巧がナイスフォロー。ラクスは名残惜しそうにマンドレイクを渡した。

 

「まぁ、ありがとうございます」

 

ラクスもにこやかに手の物を彼に手渡した。だが少し名残惜しそうな視線で追いかけるのはやめて。

可愛いからお土産に持って帰っていいですか?なんて帰り際に言いそうで怖い。

 

突然薄気味悪い森林へと誘われたアマキ達は巧に先導されて貴族が住むような古臭い大きな屋敷まで案内され、全力で雪彦のおもてなしを受けた。見た目古臭いが座り心地は抜群のソファに並んで腰かけると、ふわりふわりと茶器が飛んできて目の前で温かい紅茶を入れてくれる。おまけに焼き立てのクッキーが乗った皿まで飛んできた。

 

「うーん。なんでもアリだね」

 

「魔法みたいですわ~」

 

感心する二人をよそにアマキは壁を凝視していた。

広い応接間の壁にはなんか動く人間の絵が描かれており、どうしてかこちらをじろじろと覗き込んでくる動きがあった。

果たしてあれは絵と表現していいのかわからないが、隣同士の絵の人物とこそこそ内緒話とかしていてここはファンタジーの世界かと疑いたくなった。こう、弓矢があったら火責めしたくなる衝動に駆られる。

 

「あれ、燃やしていい?視線がウザい」

 

「まぁまぁ。娯楽に飢えてるんだよ、彼ら。来客なんて滅多にないしな」

 

「そりゃこんな怪しい屋敷、頼まれても来たくないし」

 

ズバッと言い返すと雪彦は嬉しそうに笑った。

 

「そうかそうか。褒めてくれるな。はっはっは。どうだな。この世界は気に入ってもらえたかな?」

 

高そうな磁器のカップを優雅に持ち上げて向かい側の一人用ソファに腰かけた雪彦は無駄に長い足を組んで二人に尋ねた。

 

「いや普通の部屋に帰りたかったんだけど」

 

「そういうのはお前だけだよ、天姫」

 

まるで我儘を窘めるように言われ、アマキは分かりやすく拗ねてそっぽをむいた。

 

「ケッ!」

 

「ところでキラ君とラクスさんだったかな。うちの天姫を気に入ってくれたらしいが、どの辺に惹かれたか差し支えなければ教えてもらえるかな」

 

唐突な質問にアマキは表情を変え焦って立ち上がろうとする。

 

「がっ!?なにを急にっ、もがっ」

 

アマキが文句を言う前に新たに追加された出来立てのミートパイが口に中に飛んできて突っ込まれもしゃもしゃ食べるしかない。その隙にキラはアマキに対する気持ちを親戚に全力アピールしていた。

 

「えーと、その僕は出会いが特殊だったので彼女が腹減ったって訴えてきたのがきっかけでした。それからアマキの頼もしいところとか頑張り屋さんなところとか、まるで百面相みたいで面白くて、他にも馬鹿みたいに食べてばっかりだし戦闘狂だしお調子者だし自分勝手だし女の子には無人格に優しいしファンクラブとか作られるほど人気だし愛想振りまいて後始末とか考えてないから僕がイライラするし、それから「分かった、なるほど。それでラクスさんは?」

 

途中で遮られ今度はラクスへ視線を向ける。

流石ラクス様。初対面の相手であろうとストレートに相手の心を揺さぶる言葉を伝える。

 

「わたくしをラクス・クラインだからと思わず一人の女として扱ってくださいますもの。誰に対しても誠実でまっすぐな方だからこそ惹かれましたわ。今アマキ様にお付き合いを申し込んでおります」

 

「ほぉ~」

 

性別の垣根を越えての告白に雪彦は感心したようだ。わかりやすい説明と好いたポイント、そして今度どうなりたいかとはっきりと分かりやすく伝える。さすが歌姫。短い言葉の中に心を掴むポイントが隠されている。

対して素直なキラは長々と話してしまっているが、雪彦はなんとなくああ、大好きなんだなと受け止めていた。ただ、惚気話は聞きたくない。なんて自分勝手な奴だ。だが親戚なので似たもの同士だ。

 

「あー、狡いよ!ラクスっ」

 

「いいではないですか。自己アピールですわ。ねぇアマキ様」

 

「むぐぐ、ちょっと聞いてる身としては恥ずかしいんだけど二人してさ!」

 

それだけ想われていることに嬉しさ半分恥ずかしさ半分と少しだけにやけた表情が出てしまう。うへへ。

だがそこをすかさず雪彦に追及されてしまう。

 

「やれやれ、これがリア充というやつか。天姫、ちょっと外で爆発してこい。ダイナマイトやるから」

 

「うっさいわっ!」

 

そっと手渡されたダイナマイトを立ち上がり勢いよく投げ返すが、さっと避けられてしまう。弧を描いてダイナマイトは壁にぶつかり絵の中に吸い込まれていき不思議なことに絵の住人が慌てふためく。焚火をしている絵だったのでどうやら着火してしまったらしい。

しばし見守ること、数秒して絵は見事に四方に霧散した。

 

パアアン!!

「あ、中で爆発したんだ」

 

絵の一部がひらひらと部屋の中に舞う中、他の絵の住人達はさぞ戦々恐々しただろう。

アマキがにやりと笑みを浮かべ何かを閃いたように笑ったからだ。

 

「雪彦、ダイナマイト追加で」

 

「はいはい。飴玉みたいに渡すなって?」

 

白衣のポケットから無造作に数本。アマキの笑顔がキラキラしてるのが逆に怖い。

ブツを手に入れたアマキは絵画が掛けられている壁の方に歩いていき、

 

「アンタたちさ、こそこそと絵の中で人のこと噂する暇あったら踊ってみなよ。コレ入れてあげるからさ?」

 

ととてもイイ笑顔で脅しにかかる。絵の住人達は声にならない悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように絵の奥へと消えていった。

だがアマキはさらに追い打ちをかけそれぞれの絵の中にダイナマイトを突っ込んであげた。後は知らないっと。

 

ぱんぱんっと手の平同士を叩いて振り向いたアマキはキラキラな笑顔で

 

「掃除完了。じゃ、泊まる部屋案内して。あ、全員同室とか気を利かせなくていいから。ウザいだけ」

 

雪彦は若干引きつりながらも従うしかなかった。

 

「あ、ああ。頼むからソレは部屋には持ち込むなよ」

 

と従うしかなかった。あの強引さが嘘のように消えている雪彦の姿に流石アマキと感心した二人。

 

こうして三人は適度に雪彦に翻弄されながらも異世界でのお泊り生活を満喫させるのであった。

 

雪彦からのんびりしていけと言われ三人は各々部屋で疲れを取った後、仲良く屋敷内を探索したりした。

「雪彦と巧の部屋以外なら自由にどうぞ。ただし、鍵付きの部屋には入らないように」との前置き。

もちろん、無理やり侵入する気はない。開いてるドアだけを選んで、三人は屋敷内を気ままに探索した。

 

デカい犬が寝ている部屋だったり、たくさんの鳥?が飛び回っている部屋だったり、何も置いていないガランとした部屋だったり、世話しなく動き回る謎の生物???が調理しているキッチンだったり、たくさんの書物が置かれた部屋だったり、屋敷の大きさからは考えられない量の本ばかりで、やぱりここは魔法の世界なのだと理解させられ、それはそれは不思議な体験ばかりだ。

アマキも魔法の世界というのは初めてなので説明も難しかった。見たままを感じ取ってくれというしかない。

食事するところだってお客は三人だけというのにクソ長いテーブルに座らされ、椅子に座らせられるがテーブルには食器さえおいていない状態。巧と並んで雪彦が席に着き、じゃあいただこうかといったところでポンッ!と煙と共に豪華な食事がテーブルに並ぶという驚き魔法が披露され三人は目を丸くして驚いたものだ。

 

そんなウキウキわくわくな毎日を飽きることなく続けていた三人だが、ふとラクスからの告白が全てを動かした。

ちょうど、三人でアマキの部屋に紅茶セットを持ち込んでお茶会をしている時だった。その茶器を借りるために少し冒険の旅に出てきたのだが、今は語るのはよしておこう。丸いテーブルに三人用の椅子を持ってきてキラとラクスはすでに着席済み。

ラクスがキッチンで不思議生物と一緒に造ったというクッキーを茶菓子としてアマキが自ら紅茶を入れて二人にもてなしている最中のこと。カップに熱湯を入れて置き温めておく。

ポットには少量のお湯を先に入れて置き、同じく温めておく。そして中身を別の容器に移して茶葉を三人分スプーンですくってこぽこぽと勢いよく熱湯をポットに注ぎこみ、蓋をする。蒸らし時間は茶葉の大きさによって違うらしい。アマキは三分間蒸らす。そして茶こし器をカップにセットし、ゆっくりと注ぎ込む。瞬間春のほわっとした匂いが部屋に充満する。茶葉は春摘みの茶葉らしく魔法でしっかりと保存していたらしい。便利だな~、魔法って。

と感心しながら、

 

「そういえば、巧がマンドラゴラがまた逃走してたってぼやいてたなー」

 

と思い出して呟いたアマキの一言だった。

マンドラゴラが平然と逃走する世界。普通ならば脳がバグっても可笑しくないが、キラもラクスもこの世界に染まりつつある。

ラクスはその言葉に何かを思い出したのか、表情を曇らせた。アマキとキラはラクスの表情に違和感を感じ取り、心配そうに声掛けした。

 

「どうしたの?何かあった?」

 

「そうだよ。ラクスが沈んでいるなんて怖いし」

 

「キラ、一言余計だから」

 

「ごめん」

 

アマキからの指摘にキラはばつが悪そうに謝った。ラクスは気にしていないとやや表情を柔らかくして首を振った。

だが、アマキには気づかれないようにキラの足を軽く?ヒールの踵踏みつけてきたのをキラは知っている。

だがあえて痛いと表情に出すことはなかった。だって怖いから。

 

「……実はこちらの世界に来てからなのですが、あの不思議な生物から【声】が聞こえましたの」

 

「声?」

 

そっとラクスの前に程よい温度で蒸らされたダージリンティが入ったカップが静かに置かれる。

 

「はい。それも音として聞こえるというわけではなく、脳内に直接響くような……。わたくし、可笑しくなってしまったのかと不安になりましたわ」

 

「へぇ…ちょっと雪彦に相談してみようか。心配だしね」

 

キラの分の紅茶もテーブルに置いてから自分の席に戻る。この世界に来たことでラクスの体に違和感が生じたのかはわからないが、何かしら影響があったとしてもおかしくはない。なんせ魔法の世界だし。そう考え静かにカップを持ち上げ口に含んだ。

 

「……イタタ……。ちなみに、その声ってなんて言ってたの?」

 

痛みに悶絶しながら率直な質問をキラはラクスへ向けた。

 

「実は、アスランのお母さま…レノア様の名を必死に叫んでおられたんです」

 

レノア。その名前はアスランから聞いたことがある名前だった。だが身近で聞いた名前がなぜマンドラゴラから発せられるのか。

 

「ん~、美味い」

 

「……なんで?アスランのお母さんが」

 

アマキはラクスの手作りクッキーを齧り、表情を緩めキラは不思議そうな顔をした。

こればっかりはラクスとて聞きたいくらいだ。

 

「わたくしも本当に不思議で、だから気になったんですけれど」

 

自分の思い込みの所為か、もしくは疲れか。

どちらにせよ、相談できる相手は一人しか浮かばない。

 

「……これは雪彦にしっかりと確認する必要が出てきたな。お茶会は早めに切り上げるとするか。どこかに散歩に出かけられる前に聞きに行こう」

 

そう、アマキが冷静に促せば二人は同時に頷いた。

 

「はい」「うん」

 

というわけで三人はしっかりと紅茶とクッキーを堪能してから部屋からでて屋敷内で雪彦の姿を捜した。

が、やはり部屋数は多いし、無駄に別世界に続いている扉が多すぎて逆に捜すのが困難であった。偶然通りかかった巧みに尋ねると外には出ていないとのこと。ならばやはり屋敷内か。

だが捜すだけで一苦労してしまう。無駄にどっきりする必要もないのでこれ以上謎のドアは開きたくないし、アマキとてハプニングはごめんだ。さてどうしたものかと、一階の階段部分に腰かけて休憩代わりに休んでいると、頭上から聞きなれた声がしてアマキはハッと上を見上げた。

 

「なんだ、お前たち私を捜していたのか?」

 

「うわっ!」

 

「きゃっ」「おわっ」

 

なんと!屋敷内であるにもかかわらず誰もが一度は憧れるであろう箒に跨って登場してきた雪彦の姿があった。

これにはアマキだけではなくキラ、ラクスも身を退くくらい驚いた。

震える指先でアマキはぷかぷかと浮かぶ雪彦に食って掛かった。

 

「なんで屋敷の中で箒乗ってんだよ!」

 

「いいだろう?憧れるだろう?」

 

「うるさい!それよりラクスが不安がってるんだ、話を聞け!」

 

「なんだなんだ、藪から棒に。順を追って説明しなさい」

 

「いや、突然現れた奴のセリフじゃないからそれ」

 

というわけで、一同応接間へ向かい腰を落ち着けて話をすることにした。

かくかくしかじかとアマキからの説明に雪彦はふぅむと顎に手をやりながら、

 

「アマキ、お前私にパトリック・ザラなる人物をこちらに寄越してこなかったか?お前たちの世界では戦犯だから人格矯正でも受けてこいとかなんとか」

 

「あ!そういえば…」

 

指摘されアマキは思い出したように手を打った。キラから冷たい視線をビシバシと受ける。

 

「……アマキ、こんな危険な人に預けちゃったの?アスランのお父さん」

 

「だって、他に思いつかなかったし。いつまでも買い物袋のままじゃ嫌でしょ?」

 

一応言い訳してみるがキラに納得した様子はない。

 

「そうだけどさ…。アスランが可哀そうだよ。色んな意味で」

 

「でも!暗殺される可能性が高い世界にいるよりもある意味雪彦の傍にいた方が安全だと思うでしょ?」

 

「ノーコメント」

 

キラは心の中でアスランにどんまいという言葉を送った。元の世界で彼が「クションッ!」とくしゃみしてたかどうかはわからない。

 

「……それで、もしかしてあのマンドラゴラちゃんは……パトリック・ザラということでしょうか」

 

沈痛な面持ちでそう静かに尋ねれば雪彦は眼鏡を片手で軽く押し上げて、

 

「ああ。我儘ばっかり言うから変化させてやった。改造マンドラゴラはほかにもいるがあそこ迄逃走心に溢れたものはいないよ」

 

と答える。これには三人も彼に同情心を抱いた。

 

「「「………」」」

 

世界を恐怖に陥れたおじさんも雪彦の前では赤子同然の扱いだ。改めてこの人物を怒らせてはいけないと悟った三人だった。

 

「………問題は一つ解決したかな。それでラクス君が彼の心を読み取った件については……テレパシーの一種か、もしくは君のご両親が知っているのではないかな」

 

「え、それってどういうこと?」

 

アマキが戸惑うラクスの顔をちらっと見ながら尋ねる。

雪彦の見解はこうだ。

 

「いくらこの世界に訪れたからと言って体に影響を及ぼすほど力はない。むしろ潜在能力が開花したといった方が正しいのではないか。君たちはコーディネーターなのだろう?遺伝子レベルで手が施されていてもおかしくはない。というのが私の見解だが、いかがかな?」

 

そうラクスに向けて言うと、彼女はショックを受けた様に顔を歪めた。

 

「………ラクス……」

 

慰めにもならないかもしれないが、アマキはラクスの肩に手を置いた。キラもラクスが嫌いなわけではない。

ただいつもドついてくるか、邪魔してくるかの二択なので腹は立つが共に戦争を潜り抜けた仲間だ。その彼女が傷つくさまは見たくない。自分がスーパーコーディネーターだと明かした時も励ましてくれたのだ。キラもラクスの為に何か言わなければと思った。

だが先にラクスの口から出てきた言葉はキラにとって予想外の言葉だった。

 

「……実は、今もキラの心が読めてしまっているのです」

 

「えっ!?ほんとに!?で、今なに考えてるの!?」

 

「わたくしを励まそうと、言葉を選んでいる最中ですわ。少し余計な言葉も混じっておりますけれど」

 

キラ、顔面蒼白。

 

そう言ってキラに微笑むラクスだがキラはぎょっとして言葉に詰まった。余計な一言が火種になると直感したからだ。

 

「え!確かにそうだけど……スゴイね。え、もしかして今までも僕の考えてること筒抜けだった?」

 

「はい。読もうとして読んでいるわけではないのですが、アマキ様はまったく読めませんわ。何か見えないシールドのようなもので遮断されてしまいますの」

 

「そうなの?気合一発でどうにかなるもんじゃ」

 

「「ならないから」」

 

キラと雪彦に同時に突っ込まれアマキはむぅと唇を尖らせた。

 

「はいはい。そうですか。……とにかくシーゲルさんに聞くしかないということだね。もうそろそろ帰ろうか。皆も心配してるだろうし」

 

あっさりと帰るというアマキにラクスとキラはつい言葉を挟んだ。

 

「アマキ様はもう良いのですか?」

 

「そうそう。もう少しいてもいいんだよ」

 

なんせ二人はそのつもりで付いてきたのだ。アマキが満足するまで付き合うつもりだったのに、こんな中途半端なままでまたこちらの世界が恋しくなったりしないのだろうか。そんな二人の気遣いにアマキは気づいていたが、あいにくとアマキが恋しいのはこの非常識な世界ではなくごく普通の世界だ。キラとラクスには羽伸ばしのつもりで付き合っていたのだが、事態が変わったのだ。いつまでもこの世界にいるつもりはない。なにより。

 

「なにより、ラクスに何かしらの変化があるんだから。対処も早い方がいいよ。またこっちには帰ってこれるから大丈夫だよ」

 

自分の都合よりも、ラクスの変化を優先して帰ろうとするアマキ。

その言葉に、ラクスの胸がじんわりと温かくなる。

 

「……アマキ様……」

 

こんなことで感動するなんて、と思いつつも、涙が出そうになるほど嬉しかった。

かつての推しへの気持ちが、共に過ごすうちに恋心へと変化して、もっと進展したい。もっと傍にいたいと欲張りになっていった。

そして紆余曲折を経て今、こうしてアマキの家族に認められて共にいる。

普段は優しいのに恋愛面だと疎いはずのアマキから自分を労わる想いが伝わってきて、少なからず想われていることに嬉しさが増す。キラはラクスが理由なのが気に入らないのか、口をへの字にしていた。

 

雪彦が名残惜しそうに色々と試作品を土産として押し付けてきた。

 

「よしよし、土産に『人格矯正ジュース』をやろう。飲めばあら不思議、気に入らない奴が真人間に!」

 

「いらない」

 

「じゃあ『寿命のびーるくん2』はどうだ。マンゴー味で改良済みだぞ」

 

「それはもらう」

 

「人格矯正ジュース、本当に要らないのか?使い道は無限大だぞ?」

 

「もっと“普通の人間”になるように開発してよ」

 

「なるほど、改良の余地ありか…そういえば、お前、巧に礼を言ったか?お前を迎えに行ったが結局アイツだけ先に帰ってきたんだぞ?」

 

「は?初耳なんですけど」

 

「照れ屋だからな。責任感じたんだろうさ」

 

「……一応、会ったらお礼言っとくよ」

 

ぶっきらぼうにそういうとアマキは二人の手を引いて部屋へ帰り支度をしに行った。二人は去り際軽く頭を下げてアマキは引っ張られていき、雪彦はふぅとため息をつきながら三人の後姿を見送った。

 

「さて、真人間は駄目で、『普通な人間』、か。実験体が必要だな…。そう都合よく改造人間が……いたか」

 

何か悪いことを考えているようで雪彦の眼鏡が怪しくきらりんと光った。

たぶんろくでもないことだけは確かである。

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