腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
今年もよろしくお願いします。新年初めての更新となります。
SEEDDESTINY編お楽しみください!
PHASE-00序幕
香しい賑やかな場にて、嘆き悲しむ一人の少女がいた。頬を幾度となくはらはらと涙が伝い、その涙が枯れはてることはなかった。
ああ、どうして?
ああ、戻れるなら、戻りたい……。
時間を取り返せるのなら、いや願ったところでそれは無理な話だ。時空(とき)を超えることは難しい。だからこそ、嘆くのだ。
「どうして、こうなってしまったんだっ!」
彼女には抗えることができない深い理由があった。
毎日毎日、迫りくる恐怖との戦い。彼らの視線。見ては目を背けてしまう現実。
体を酷使して手に入れようとしてもすべては元に戻ってしまう。
いや、前よりもさらに状況は悪化し、己を責め続けた。
なんて最悪なんだと何度頭を抱えたことか。
普通ならば挫けそうになる。
普通ならば絶望しそうになる。
けれど諦めてはいけない。
なぜなら彼女は、アマキ・カンザキ。
かつての大戦でキラと並んで英雄扱いされている稀な少女。
そのMS能力と圧倒的な力を統べるはずの彼女が、実は。
ぽっちゃり(可愛い)になっちゃったなんて、誰が信じようか。
右手に赤い箸、左手にホカホカの上げたてとんかつ三枚と山盛りキャベツが乗ったお皿を器用に持ち上げて、
「あー!ラクスの料理が美味しすぎて泣けてくるー!」
滂沱たる涙を流しながらご飯をかきこみ、これで三杯目。つやっつやなお肌が愛らしい。
手造り味噌で作った野菜たっぷり味噌汁も忘れてはいない。ほら、ナスなんてしみ込んでじわーと口の中で旨味が広がるんだ。
そう、アマキは美味しすぎて泣いている。夕食の席で。これもいつものことである。
あの戦争中にカップラーメンやらレーションやらの生活に比べたら天と地の差である。
「まぁ、アマキったら。お嫁に来てほしいなんて積極的ですわ。勿論、お返事はイエスですけれど」
ラクスはアマキの言葉を脳内変換して勝手に都合のいい言葉に書き換えた。
頬をピンク色に染めアマキの隣は譲らない。というか譲れない。何気なく座ろうとするとラクスの圧が掛かり、苦しむ羽目になるので誰も座りたがらない。
「ラクス、いくら恋人でも僕が先なんだからね。アマキ、その辺にしとかないとまた増えるよ。体重」
キラもアマキの隣でしっかりとラクスに釘を刺しつつ、アマキにはセーブをかけてあげる。聞いちゃいないだろうけど。
確かに、ラクスは手料理は美味しい。
だがその分カロリーも増量である。
腹八分でやめてあるキラは変わらない見栄えである。
しっかりとアマキのトレーニングの相手もしているおかげで体幹も鍛えられた。
いつものことだが後で体重計乗った後にキラに文句を言うのだ。なぜ止めなかったのかと。だからちゃんと言ってあげるのだ。これも恋人であるキラの役目と受け止めている。
「なんだかまた顔が丸くなったわねぇ。それはそれで可愛いのだけれど」
「食べたらまた動けばいいって!俺が相手してやるよ、また」
先の大戦で結ばれた二人、マリューとムウはここ別邸でもその仲睦まじさをアピールしている。
心配そうにするマリューとあっけらかんと無責任なことをいうムウはあーんと大きな口でとんかつを食べた。
「いやいや。アイドルの健康管理も必要なことだよ。なぁアイシャ?」
「………そうねぇ。以前の大食いは戦闘で消費していたらしいから。日常では食事制限と適度な運動。水分補給。相当頑張って減量するしかないわ。でも彼女にできるかしら。今のままじゃ無理ね」
御椀を片手に持ちながらなんかアイドルのマネージャーよろしくしているバルドフェルドと美しい所作で食事を戴いているアイシャはしっかりと噛んで飲み込んでから喋った。はっきりと無理だという。こちらも阿吽の呼吸ぴったりな恋人。
「うーん、アマキちゃんだけ特別メニューにしてみたら?ラクスちゃん」
「それじゃあアマキが可哀そうだろう?一人だけ違うメニューなんて」
母カリダと父ハルマ。娘同然のアマキの健康状態が目に見えて気になるので特別メニューの話で意見が対立している。こちらも熟練夫婦でちょっとやそっとのことじゃ動じない。アマキが異世界から来たとの告白にもなんとなく気づいていたそうだ。
なんせ四次元買い物袋持ってるんだもん。
「彼女が持つSEED故にこれは必然なのでしょう。解放するのです。SEEDを」
「フム、ウズミ殿に相談してみるかな」
マルキオ導師は事態を悪化させようとしているし、隠居中のシーゲルパパは顎を一撫でしてから、胸元のポケットから携帯を取り出しウズミ相手に大事にさせようとしている。
英雄の危機ならばとあのウズミは壮大な医療チームを派遣させるだろう。アマキのことは相変わらず苦手ではあるが命に関わるなら関係ない。だがそれでは別荘がパンパンになってしまう。ただでさえ大所帯だというのに。
この別荘には個性豊かなメンバーが勢ぞろいしている。
マルキオ導師の元で育っている孤児たちも加わればかなりの賑やかさであった。子供たちにとってアマキは同レベル扱いの姉であり、たまには格下に扱われることもある。なぜならしょっちゅう一緒に遊ぶからだ。本人は遊んでいるわけではなくトレーニングの一環として子供らと接しているのだが知らないので不憫である。
「アマキねーちゃん。明日またタイヤに乗っていいか?」
「あ、私も乗りたーい」
「あたちも~」
「僕も僕も!」
無邪気な子供たちの声がアマキの心に突き刺さる。
子供たちの間で流行っているタイヤ乗り。海辺をアマキが雄たけびあげながらロープに括り付けたタイヤを引っ張るといういつ時代のスポ根アニメかと思うが、実際やっている。しかも重量代わりの子供たちを乗せてひたすら走るのだ。
キラは常にマネージャーよろしくアマキに付き添っている。
ラクスはアマキの為に愛情たっぷりお菓子に愛情たっぷり料理を作る。
「ごめん、皆。あれだけ走っても一向に体重が減らないんだ。やり方を変えるからあれはもうやめる」
口元に米粒つけていうアマキだがサッと取ってあげるラクスはなんて気の利いた彼女なのでしょう。キラ、出遅れた!
悔しそうにするキラを見つめてほくそ笑むラクスはアイドルには見えない。
「えー?つまんないの」
「ありがと、ラクス。それでな、今度はビーチバレーをしようと思う。これなら全身の筋肉を使うからな。消費量をも半端ないだろう?みんなも一緒にやろうな」
アマキからの提案に子供たちは目に見え笑顔で喜んだ。
「俺、全力鬼ごっこがよかったな」
「やったー」
「びーちばれー?」
「でもアマキおねーちゃんがやると超高速スパイクになりそうで怖い」
子供らは変なところで勘が鋭い。
だが子供には優しく大人には厳しくがモットーである。子供に手をあげる大人など滅べばいい。
子供らにはウインクで答え、大人にはギラついた視線を向ける。
「みんなとやる時は加減するよ。大人は本気(マジ)で」
と男連中に圧を掛けた。痩せてる頃よりも重圧が凄い。ぽっちゃりだから余計に。
ムウは心底嫌そうに呻いて見せた。
「げっ!じゃ、じゃあバルドフェルドも来いよ」
ムウはお前だけ逃してたまるかと誘いをかけるが、すでに遅かった。爽やかに席を立つを携帯を手にしてわざとらしく耳元に当てつつ、
「いやー、僕は仕事が忙しくて。あ!仕事の電話が入ったから失礼するよ」
なんて言ってしっかり食べ終わってから夕食の席からいなくなった。
「逃げたわね」
ズバリアイシャの指摘通り、素早く退散した。さすが砂漠の虎だった人。
どうせ体動かしてないのだからたまにの休みくらい付き合ってくれてもいいのにと思うが、今のところ無職なので強くは言えない。というかそれなりのお金は先の大戦で稼いでいる。それにオーブからもまとまったお金も定期的にもらっているし、働かなくても生活はできる。だが働かざる者食うべからず。その内体を動かす目的でカガリに仕事を紹介してもらえたらと考えている。
だがまず何よりはこの体を何とかしなければ。
「フシュー」
「鼻息荒いね」
「やる気に満ちているといってほしいな」
しっかりと食べ終わって食器を流しに片づけてきたキラは椅子に座り直し、慈愛に満ちた瞳でアマキのぷにぷにほっぺを軽く指先で突いた。
その感触を愛おしいと思うと案外、こんな幸せもアリかと心中で考えた。
「うん。そんなアマキも好きだよ」
「……うん。ありがとぉ」
納得しがたいが一応のお礼は伝えておく。
なんせキラとしてはどんな姿形していようがアマキはアマキなのだ。
だが、彼女が痩せたいというのなら共に励み、励まし合って目標を達成して愛を深めたいとキラは思う。
今ならキスできるんじゃないかと顔を寄せようとしたら、アマキの腕が誰かに強く引っ張られ体が傾く。
キラは眉をひそめて彼女に文句を言った。
「ちょっとラクス。邪魔しないでくれる」
「あら、キラが言ったのであればわたくしも伝えねばなりませんわ。アマキ、わたくしもお慕いしておりますわ」
そう言ってアマキの腕にそっと自分の腕を絡めた。さりげない行動にキラは抜け目ないと苛立った。
「ありがとう」
「ウフフ。愛に性別は関係ありませんもの。ねぇ、キラ?」
「そうかもね!」
「そ、そう」
ラクスからの猛烈なアピールにアマキは苦笑しながら受け取った。
キラとカガリの関係が知られたということをヤマト夫妻はしっかりと受け止めた上でキラは自分たちの息子と改めて言いなおし、更なる絆で結ばれた親子だが、息子の嫉妬する姿を見るとまだまだ子供と思えてならないようだ。
「むー」
「ラクスちゃんは本当にアマキちゃんが好きよねぇ」
「強力なライバルだな。頑張れキラ」
「父さん茶化さないでよ!」
どうせ適当に言ってるくせにとぶつぶつ文句をいうキラはさっさと部屋に連れ込みたいが、両親の視線があるのでそれはできない。別に部屋に連れ込んでイチャイチャ、などと不埒な考えがあるわけじゃない。いや、ちょっとはあったかもしれないが、精々抱き枕になってもらうくらいだ。
キラの思惑に気づかずにアマキはやる気に満ちていて瞳に炎を宿している。
「とにかく頑張って痩せてやるー!」
「わたくしも当然応援致しますわ」
「野菜中心メニューに切り替えた方が早いよ」
そんなこんなで、本格的にアマキのダイエット作戦がスタートした。
「オラオラオラァ!!」
「ぐあぁ!」
ビーチバレーで楽しく優雅に大人相手には強力なスパイク決めてムウが顔面で受け止めてしまったのでボール状のあざをつくったり、
「オレオレオレェ!!」
「なにっ!?ぐぇっ」
「アマキッ!!」
バルドフェルドを部屋から問答無用で引っ張ってきて無理やり参加させた挙句やっぱり、スパイク叩き込んでアイシャに叱られたり、
「アマキっ!チュッ!」
「ぐはっ」
キラに投げキッス送られたら動揺してアマキも顔面でボール受け取ってしまったりと後半は子供たちと楽しくボール遊びしていた。
そしてキラが乗るオープンカーの後ろで必死で食らいつくように走っているアマキ。汗びっしょりで、目は虚ろ。そして涎も口元から垂れている。お腹が空きすぎてやばい状態だった。
「はふ、はっ、ほっ…」
「ほらほら、食べたかったらもっと足上げて~踏み込んで~まだあと7キロあるよ~」
アマキ好みの特別ステーキをラクスに焼いてもらってそれを見せびらかしながらしっかり走っているかチェックしている。
「キラ、お前も鬼だな」
「ムウさんは黙って運転してください」
「はい」
なお、運転手は暇そうなムウでマリューは仕事中である。しっかり走り終えた頃にはアマキはすっかりへばっており、車で回収され戻ってきた。
「そういえば明日カガリが来るって言ってたかな」
「あら。珍しいですわね。カガリさんが自ら来るなんて」
ラクスの膝にはバテテ疲れ果てたアマキが頭を乗せられてソファに横になっていた。
「なんかお願いがあるらしいよ」
「お願い~ちょーだい~」
まだお肉を求めているようだ。執念である。だがキラはすげなく却下した。
「ダメ。とりあずえず水分補給とって」
そしてダイエットに励む中ある日、ついに運命の時がやってくる。
見た目は、変わらない……。
アマキ・カンザキ
突然誰かの気まぐれで種の世界に落とされた永遠な女子。
紫の瞳に黒髪で長髪。運動神経は抜群だが他人からの好意には疎い鈍い。
でもやっとキラと恋人に進展。戦闘狂でもある。ラクスからもアプローチされ交際することになった。
つまり尻軽女に昇格。
ラクスが作る愛妻料理を毎日食べていたらぽっちゃり気味に変化。
エクササイズと称して恋人のキラや、ムウなど主に男性たちを投げ飛ばしている。
が、運動量が圧倒的に足りないので砂浜をロープにタイヤを括り付け子供らを乗せて引っ張って猛烈に走っている。
痩せない=ラクスの餌付け=投げ飛ばす。
負のループの出来上がり。
戦闘機体
???
ここからネタバレのイントロ
先の大戦から二年。
戦争で傷ついた心と体を癒す為、隠れるようにカガリの別荘にて、隠遁生活を送っていたアマキ達。
「今日は何のお菓子~?」
「フフ、子供たちと作ったタルトタタンですわ」
「やったー!」
毎日毎日ラクスの手作り料理ばかり食べたアマキはまんまるタヌキのように太ってはいないが、脂肪はついた。
エクササイズと言わんばかりに男相手にトレーニングは欠かせない。大の男相手に難なくやり合うアマキだがそれでも脂肪は消えてはくれない。それどころかつい重なる一方。
あれ?
餌付けに勤しむラクス。投げ飛ばされてもめげないキラ。ほのぼの三人の様子を観察する大人たち。
のどかな時間、戦とは無縁の平和に、ぬるま湯のように浸るアマキの元に一通のメールが届く。
それは仮面を外した自由旅行満喫中のラウからの警告の内容だった。
ラクスがある人物から狙われている、とのこと。
彼女に忍び寄る暗殺の影。積み重なっていく脂肪。
肥えたお腹をキュッと締め上げて、アマキはラクスのためキラ達と共に再び白き剣を握りしめる。
「アマキ、それネギだよ」
「しまった!?ついっ」
「今夜は鴨葱そばですわよ~」