腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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カガリは原作よりも代表らしくあろうと努力している雰囲気を出してます。
やはりウズミ様直々の助言なども影響があるのかも。


PHASE-03予兆の砲火

スノウが搭乗するエグザスは改良型ガンバレルを駆使してインパルスを追い込んでいく。新人パイロットとは違いスノウは感覚で獲物を駆る。確実に追い詰めて、そして捕獲する。つもりの予定だがお遊びも含まれている。

 

『クッ』

 

『フッ!』

 

白煙を吹き上げながら、白いジンが滑り込むように割り込んだ。ビームがジンの肩装甲をかすめ、閃光と火花を撒き散らす。

 

『レイっ!』

 

シンが叫ぶのと同時に、ジンのコックピットから鋭い声が返る。

 

『何をしているっ!ぼぅっとしていてはただの的だ!』

 

レイの声に我に返ったシンは、操縦桿をぐっと握り直し、瞳に焦点を取り戻す。

ミネルバでは艦長のタリアが鋭い声を上げて指示を飛ばしまくっていた。

 

「索敵急いで!インパルス、ザクの位置は!」

 

MS担当通信官のメイリンがその指示に応えようと必死に言葉を紡ぐ。

 

「インディゴ53マーク22ブラボーの不明勘1!距離150」

 

「それが母艦か…」

 

議長が呟く。艦長は声を張り上げて宣言した。

 

「諸元をデータベースに登録。以降、対象をボギーワンとする」

 

「同157マーク80アルファにインパルスとザク交戦中のもよう」

 

メイリンからの報告に問う。

 

「呼び出せる?」

 

「駄目です!電波障害激しく通信不能」

 

「敵の数は?」

 

「一機です。でもこれは……MAです」

 

一同に衝撃が走る。よほどの手練れ相手なのだろう。

 

シン、レイ、共にスノウ相手のMSに苦戦し、初陣でまさかの大佐クラスとの戦闘になるとは思いもよらず、これがリアルでの戦い方だと痛感させられる。

 

『レイっ!』

 

怒声に応じてレイの機体が旋回、すれすれでビームを回避する。だがいつまで持つか。

 

『クッ!』

 

レイの機体は左肩を火花と共に翻し、回避の旋回と同時にブースターを噴かす。

操縦桿に添えた指が微かに震えながらも、彼は決して手を離さなかった。

だがスノウのエグザスはするりとかわし、ガンバレルを操って包囲しようとしてくる。

インパルスはビーム攻撃により被弾し、シンは相手との実力の差をまざまざと突きつけられる。

 

◇◇◇

 

ミネルバではタリアの指示のよりブリッジが遮蔽され、下へと潜っていく。

 

「ボギーワンを撃つ。ブリッジ遮蔽。進路インディゴデルタ。加速20パーセント。信号弾およびアンチビーム爆雷発射用意ーー。アーサー何してるのっ!」

 

ぼーと突っ立っていたアーサーにタリアの叱責が飛び、それに追い立てられるように自分の席へ座り込む。

 

「うわぁ、あ、ははい!ランチャーエイト1から4番ナイトハルト装填」

 

「トリスタン、1番2番ついで起動!照準ボギーワン!」

 

「彼らを助けるのが先じゃないのか。艦長」

 

そこで議長から質問が投げかけられる。

 

「そうですよ。だから母艦を撃つんです。敵を引き離すのが一番早いですから。この場合は」

 

対してボギーワンでは、スノウの帰還まで何とか防衛しようと躍起にやっていた。

 

「戦艦と思しき熱源接近!類別不明。レッド53マーク80デルタ」

 

「例の新型艦か。主舵15、加速30パーセント。イーゲルシュテルン起動」

 

「エグザスは!?」

 

その頃、スノウが乗るエグザスはレイとの交戦中だった。深追いしすぎたか、遊びすぎたか。どうやら相手は死に物狂いで挑んできている。

 

「ふむ、潮時かな」

 

エグザスは帰還するため、撤退を始めた。

その姿にシンとレイは呆然とする中、ミネルバから帰還信号が上がる。

 

『ミネルバ!』

 

『帰還信号っ、なんでっ』

 

息が上がっているシンは納得いかなそうに叫んだ。だが反対に

 

『命令だ』

 

レイは事実だと冷静に突きつける。このようなやり取りは毎度のことでいつもレイが諫めている。命令に忠実で常に冷静沈着。すぐカッと熱くなりやすいシンとは良いコンビだ。

ミネルバのブリッジでタイトハルトの発射準備が進められていた。ミサイルポッドが旋回、電磁駆動音が甲高く響く。

 

「回避――!!」

 

対してリーが鋭く叫ぶ指示に反応し、ボギーワンは大きく揺れながら進路変更。艦内の隊員たちは座席のベルトをきつく締め、衝撃に備える。イーゲルシュテルンがミサイルを撃ち落とす。

 

激しい攻防に戦艦が揺れ、ミネルバも追撃の手を緩めない中、スノウが乗るエグザスはその激戦の中をかいくぐってボギーワンへとツッコむ。

 

「エグザス着艦!」

「撤収する!リー!!」

 

ミネルバが2機を収容する時間のあいだにスノウはブリッジへと戻り。迎える士官たちに歓喜があふれ出た。リーもその一人である。

 

「大佐!」

 

「時間を掛けすぎたな。すまない」

 

そう言いながらスノウはブリッジ中央の椅子へと歩み寄り、片手を背もたれに置いて一瞬静止する。そしてすぐにコンソールの画面に視線を注いだ。 その瞳には既に次なる敵影が映っていた。

 

「敵艦なおも接近!ブルーゼロ。距離110」

 

「かなり足の速い艦のようです。厄介ですぞ」

 

シートに身を沈めたスノウが瞬時に指示を飛ばすと、艦橋の照明が赤く切り替わり、警告音が重なる。

 

奪取された三機を執拗に追いかけるということは漏れてはまずい代物ということだ。

ここで逃げきれれば勝算は自分たちにある。

 

「ミサイル接近!」

「取り舵、かわせっ」

 

「両舷の推進予備タンクを分離後に爆破。アームごと味わってもらえ。同時に上げ舵35、取り舵10機関最大!」

 

操作士たちは一斉に手を動かす。

果たしてスノウの思いつきで無事切り抜けられるのか。

 

◇◇◇

スノウの読みは無事に当たり、タンク直撃の衝撃が艦内を大きく揺らす。

タリアは瞬時に報告に目を走らせるも、次の瞬間、画面の端で離脱するボギーワンの姿を見て思わず眉を寄せて、「……やってくれるわ!」と悔しげに息を吐いた。

 

「だいぶ手ごわい相手のようだな」

 

議長からの言葉にタリアはそちらへ向き直る。

 

「ならばなおのこと、このまま逃がすわけにはいきません。そんな連中にあの機体が渡れば…」

 

「ああ」

 

皆まで言わなくてもわかること。あれの機密情報がもし他国にばれたとしたら世界のバランスが一気に崩れることになる。

 

「今からでは下船いただくこともできませんが、私は本艦がこのままあれを追うべきと思います。議長のご判断は…?」

 

タリアの問いに口元がごくわずかに動き、優しげな笑みが滲む。

 

「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長。私だってこの火種放置したらどれほどの大火となって戻ってくるのか、それを考える方が怖い。アレの奪還、もしくは破壊は現時点での最優先責務だよ」

 

その言葉と同時に、周囲の空気がわずかに緩む。その言葉にふっと認められたことによる高揚感が走る。

 

「ありがとうございます」

 

礼を言うと前を向き直り、バートに尋ねる。

 

「トレースは?」

 

「まだ追えます」

 

その答えにすぐさま艦橋へ向き直ると、指示を響かせた。

 

「進路イエローアルファ。機関、最大出力!」

 

タリアの号令によりアーサーが艦内アナウンスを開始する。

 

『全艦に通達する。本艦はこれよりもさらなるボギーワンの追撃戦を開始する。突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である。各員日ごろの訓練の成果を存分に発揮できるようつとめよ!』

 

タリアは艦内アナウンスの間に警戒レベルをイエローに下げ、ブリッジ遮蔽が解除される。

そして少し余裕ができたのか、議長に向かって微笑んで言った。

 

「議長も少し艦長室でお休みください。ミネルバも足自慢ではありますが、敵もかなりの高速艦です。すぐにどうということはないでしょう。レイ、ご案内して」

 

「は!」

 

「ありがとう」

 

議長が礼を言うとタイミングよくモニターから通信がかかる。

 

『艦長』

 

パイロットのルナマリアだった。議長とレイもモニターに注目する中、タリアが何事かと尋ねる。

 

「どうしたの」

 

『戦闘中ということもありご報告が遅れました。本艦発進時に格納庫にて『ザク』二機に搭乗していた三名の民間人を発見』

 

「えっ」

 

この報告につい驚きの声が漏れる。戦闘艦に民間人とはなんとタイミングの悪いこととすぐに思った。だがただの民間人ではなかった。

 

『これを拘束したところ、三名はオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハとその随員と名乗り、デュランダル議長への面会を希望いたしました』

 

「オーブの!?」

 

「姫がなぜ……」

 

議長はわずかに顔を上げると、数秒間無言のまま、モニターの通信を凝視した。

唇がわずかに動いたが、言葉は出なかった。 目元だけが、わずかに揺れていた。

 

報告を続ける士官の声は、冷静に努めているはずなのに、艦橋に異質な緊張を響かせていた。

 

『僭越ながら独断で今士官室でお休みいただいておりますが…』

 

タリアはその一言に、艦長の指を握りしめる。次から次へと面倒ごとを起こしてくれると内心苛立ちを隠せなかった。まさか一つの艦に二人の国家元首が乗船しているのだ。気苦労も二倍である。

 

報告を聞き終えた瞬間、

 

「……次から次へと……」

 

と口の中で低く呟き、目元にはわずかな疲労と怒りが滲んでいた。

 

 

◇◇◇

その頃、士官室で休憩していた三人はというと。アマキはソファで足をばたつかせながら、クッションに顔を埋めた。

 

「……お腹空いたなぁ…」

 

という言葉はクッション越しにくぐもって響き、カガリが眉間にしわを寄せる。

 

「お前な……こんな時に腹減るか?」

 

肘を膝に乗せながらジト目で睨むカガリに対し、アマキはぷくっと頬を膨らませ、唇を尖らせた。

 

「しょうがないじゃん。自然現象なんだから」

 

と、その時、扉が開いてルナマリアが報告を終えて戻ってきた。

アマキはぴょんと立ち上がり、手を振りながら駆け寄る。

 

「すいませーん!なんか食べるものとかあります?」

 

その声に、ルナマリアの足がピタッと止まる。 目を見開いたまま、端末が手から滑り落ちそうになる。

 

「は?」

 

「すまない。いつもこうなんだ。何か手軽に食べられるものがあるなら提供をお願いしたい」

 

アスランは頭を抱えながらも頼み込んでくる。アマキが腹を空かせた状態だと使い物にならないのは知っているので。先ほど激しい戦闘があったにも関わらず動じることもせずマイペースっぷり。ルナマリアから変な人物だと印象を受けられたのは仕方あるまい。

 

◇◇◇

 

薄暗い部屋に、ベッドが三つ。

それぞれが静かに並べられ、薄く青みがかったカプセルの中には少年少女らが健やかに眠っていた。

透明なガラス越しに見える彼らの表情は穏やかで、時折ゆっくりと胸が上下する。

調整員は無言でコンソールと向き合い、リズムよく指先を走らせていた。

画面の数値に目を細めながら、ぽつりと答える。

 

「おおむね、良好です」

 

スノウはベッドのひとつへと歩み寄り、透明カプセルに軽く掌を添える。

横向きで眠る少女の額に落ちるライトを見ながら、そっと笑みを漏らす。

 

「愛らしい寝顔じゃないか」

 

調整員は肩をすくめながら目線を上げる。

 

「そんな感情を向けられるのは、大佐だけですよ」

 

スノウは手を離し、背筋を伸ばしてコンソール側へ向き直る。

 

「上から託されたんだ。だからこそ、愛情もかけるさ」

 

ライトが静かに揺れ、機械の作動音が規則正しく響いている。

部屋には、誰も声を荒げる者はいない。ただ淡々と、優しさだけが過不足なく流れていた。

 

ブリッジへ戻ると、リーはスノウに視線を向けて口を開いた。

 

「どうやら、成功――というところですかな?」

 

「ポイントBまでの所要時間は?」

 

「二時間ほどです」

 

オペレーターが即座に応答する。リーはスノウに向けて一歩踏み込み、探るように問いかけた。

 

「まだ、追撃があるとお考えですか?」

 

「あるだろう。あの執念だ。私なら、逃すまいと食らいつくがね」

 

スノウはリーの隣へと歩み寄り、優雅な所作で腰を下ろし、足を組んだ。

 

「彼らの状態は?」

 

「ああ、問題ないだろう。皆、安らかな眠りについていた。次は、より鮮明な意識で動けるはずだ」

 

その声音には揺るぎない確信があった。

彼ら――少年兵たち――を消耗品と見ている上層部の意図など、スノウは重々承知している。

だが、彼がこの場にいる限り、彼らに非道な処置を施すことなど決して許されはしない。

本来“ゆりかご”とは、記憶と感情を洗浄するストレス装置。

パイロットに限界を強いることで、従順さを確保する手段だった。

だがスノウは、その機能を密かに改修し、オルゴールが優しく流れるただのベッドへと変えた。

――理由はひとつ。彼らを「気に入った」から。

それだけで、手を加えるに値する。構造も運用も変えてしまえるほどの権限と技術が、彼にはある。

本来ならば埋め込まれるはずの「ブロックワード」――彼らを縛るための禁句――それすら、今は存在しない。

彼は自ら薬品を調合し、パイロットの精神を“通常”へと戻す努力を惜しまなかった。

時間をかけながら、彼らは少しずつ、自らの意志でスノウに従うようになっている。

上層部への報告など、適当に整えておけばよい。

どうせ彼らは、結果さえ良ければ何も言わぬ連中だ。それが今の世界。その欺瞞。

――そしてこの世界は、スノウの手によって、原作とは異なる形へと変貌しつつある。

 

「何かあるたびに、ゆりかごへ戻さなければ動けぬパイロットなど……本気で運用可能と思っているのでしょうか?」

 

「前よりはマシだろうさ。少なくとも、あいつらは、自分の足で立ち、自ら動いてくれる」

 

「……そうですな」

 

「仕方ない。今はすべてが試作段階だ。艦も、MSも、パイロットも……そして世界そのものも」

 

「ええ。承知しております」

 

スノウはふと、微笑みを浮かべる。

 

「やがて世界は始まる……我らの名のもとに」

 

そして彼は静かに、誰にも言わず心の内で呟いた。

 

この世界――どう引っ掻き回してやろうか、と。

 

◇◇◇

艦長室のドアが音もなく開く。落ち着いた照明が硬質な壁に淡く反射する中、デュランダルはゆるやかな足取りで進み出る。その姿にどこか舞台めいた気配が漂う。すぐにカガリに向かって頭を下げた。その背後にはタリア艦長が背筋を伸ばして控えていた。

 

「本当に……お詫びの言葉もありません」

 

一歩だけ前に出て、手を胸元に重ねながら続ける。

 

「姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは……。ですが、どうかご理解いただきたい」

 

カガリは腕を組み、眉をわずかにひそめて問う。

 

「あの部隊については、何もわかっていないのか?」

 

デュランダルは少しだけ顎を引き、視線を逸らすように言葉を選んだ。

 

「ええ、まぁ……そうですね。艦なども、はっきりと何かを示すものは何も」

 

椅子に腰掛けたままのカガリの両手が、膝の上で無意識にきつく組み合わされた。

 

「しかし、だからこそ我々は、一刻も早くこの事態を収拾しなければなりません。――取り返しのつかないことになる前に」

 

「……ああ、わかっている。それは当然だ、議長」

 

カガリは椅子にもたれながら、ため息混じりに言葉を絞り出す。その顔には、やりきれなさと責任の重さがにじんでいた。

 

「今は、なんであれ……世界を刺激するようなことがあってはならない。絶対に……」

 

その言葉に、デュランダルはやわらかな笑みを浮かべた。

だが、その目線はカガリではなく、部屋の隅に控えるアスランとアマキへも向けられていた。

――見られている。疑われている。それは承知の上だ。

部屋の隅に立つアスランは視線だけでアマキに『余計なことは言うな』と念を送る。アマキはそれを受け取るように、営業スマイルで応じた。首をわずかに傾け、無難な礼を返す所作は、彼なりの防御だった。――その瞬間、デュランダルのまぶたが、わずかに持ち上がった。彼の方から視線を逸らすと、カガリの方へ再度向き直った。

 

「……よろしければ、まだ時間のあるうちに少し艦内をご覧になってはいかがでしょう」

 

タリアは目を見開き、小さく震える息を押し殺したまま一歩を踏み出した。

 

「議長!」

 

その声は、思わず絞り出された制止だった。だが、デュランダルは振り返らない。口元だけが笑みを保ち続けている。

タリアの視線が不安げに揺れる。最新鋭のこの艦は、そう簡単に外部へさらして良いものではない。

 

「一時とはいえ、命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の……相応の誠意かと」

 

そう言われてしまえばタリアに反対の意見を述べることはできない。議長の発言なのだ。もしここでそれ以上言葉を紡げは同盟相手との関係にひびが入る。タリアは押し黙るしかなかった。

そしてアマキ達も彼からのもてなしに戸惑うしかない。一体議長は何を考えて自分たちを招いているのか。

 

その真意を今推しはかることはできなかった。

 

◇◇◇

 

整備員の仲間であるヴィーノが赤いザクの整備を行いながら言う。

 

「しっかし、まだ信じられない!嘘みてぇ」

 

「ああ」

 

キーボードを打つ音を止めず、ヨウランが軽く目線だけをヴィーノに向けて返した。

 

「なんでいきなりこんなことになるんだよぉ。でもまさか、これでこのまま戦争になったりしないよねぇ?」

 

「……と思うけどね」

 

ヨウランは小さく肩をすくめて、スクリーンのログを確認するふりをしながらため息をついた。

仲間たちの不安も理解できる。実戦経験もろくにない彼らが、急な戦闘任務に放り込まれたのだ。

だがそれよりもシンは気になることがあった。左腕のないザクが目に入ったのだ。

 

「なぁ、あのザク二機のパイロットって誰なんだ?」

 

「ああ、あれに乗ってたのはオーブのアスハ代表だよ」

 

背後から問いかける声。振り向くと、ルナマリアがモニターをタップしながら答えていた。

彼女は一歩近づき、腕を組みながら顔をしかめる。

 

「それでさっきは大騒動だったんだから!」

 

「オーブの、アスハ…」

 

シンの声が微かに揺れる。故郷を突然奪われ憎しみを抱かないかと言われれば多少湧き上がる。

だがそれよりも気になる人物がシンにはいる。そんなことも知らずルナマリアは自身が体験した話を話そうとする。

 

「うん。私もびっくりしちゃった。こんなところでオーブのお姫様に会うとはね……でもなに、あのザクがどうかしたの?」

 

シンの視線が、被弾したザクに向いていることに気づいたルナマリアが、首を傾げながら尋ねる。

 

「ああ、いや、ミネルバ配備の機体じゃないから誰が乗ってたのかなって」

 

「操縦してたのは護衛の人みたいよ。アレックスって言ってた。もう一人は女よ。たしか、シノザキ…とか言ってたかな」

 

ルナマリアは軽く眉をひそめながら答える。だが彼女の関心はすでに別の青年へ向けられていた。

 

「でも、女はともかく…アッチはアスランじゃないかしら」

 

「え?」

 

シンが反応するより早く、ルナマリアは意味深に笑った。

 

「なんとなく、姿が、ね。アスラン・ザラってオーブにいるって噂でしょう?」

 

「アスラン・ザラ……。あのさ……アマキ・カンザキって、オーブにいるんじゃないのか……?」

 

彼女の言葉に、シンはふと遠くを見るような目を向ける。ルナマリアがシンの表情を覗き込むように首を伸ばし、くすっと笑った。

 

「え、シン、まだあの人にこだわってるの?本当に実在するかどうかもわからないのに」

 

「……いいだろ。別に……」

 

ぷいっと顔を背けるシン。指先が軽く震えていた。

 

アマキ・カンザキが本当に実在の人物なのか。確証はない。ただあの白い機体が動いていたのはシンが証人となれる。

 

だが彼の中では、確かに何かが揺れていた。

 

こだわりじゃない――ただ、知りたいんだ。

 

あのとき、自分たちを救ってくれたその人が本当にいるなら。一言でいいから、感謝を。

その背に憧れを込めて、届いてほしいと願っていた。

 

◇◇◇

 

議長自らの案内の元、通路を進むアマキ達。レイという少年も随員として同行しているが、-アマキは通路を進むレイの横顔に目を留め、思わず「……っ」と小さく息を呑む。反射的に手を口元に当てた瞬間、隣のアスランが怪訝そうな視線を寄越す。

だがアマキはサングラスの奥で眼差しを逸らし、視線だけで「後で話す」とでも言うように流した。

 

まさかここに配属されていたとは知らなかった。ラウと同じクローンで産み出された少年、名をレイと言っていた。ラウが可愛がっていると聞いていて、彼からもレイの寿命を長くできるようお願いされていた。ラウ自身接触できる機会が少なくどうやって薬を渡そうかと手段を講じていたがまさかこうして出会えるとは。カガリの護衛やっててよかったと思った。

 

「しかしこの艦もとんだことになったものですよ。進水式の前日にいきなり実践を経験せねばならない事態にになるとはね」

 

「ここからMSデッキへあがります」

 

レイの説明により先に進むとカガリとアスランは声を上げてしまった。

 

「え」

 

「ふぅん」

 

アマキはサングラス越しに目を細めた。

 

「艦のほぼ中心に位置するとお考えください。搭載可能機数はむろん申し上げられませんし、現在その数量が載っているわけでもありません」

 

「ZGMGー1000『ザク』はすでにご存じでしょう。現在のザフト軍主力の機体です」

 

議長は、アスランへわざとらしく微笑む。

 

「工廠で、ご覧になったそうですね?インパルスを」

 

カガリではなく、アスランへ向けていることが場違いにも感じられる問い――何かを試しているようにも見えた。なぜかアスランに尋ねてくる議長。

 

「あ、はい」

 

アスランは戸惑いながらそう答える。

 

「技術者に言わせるとこれはまったく新しい効率のい良いもMSシステムなんだそうですよ。私にはあまり専門的なことはわかりませんがーーしかしやはり姫にはお気に召しませんか?」

 

硬い表情で見つめるカガリにそう尋ねる議長。だがからかいも含めた議長の問いかけにカガリは冷静に答えた。

 

「そういうわけではない。力が必要なことも知っている」

 

「ほぉ……」

 

「――だが、力が争いの火種になることは……我々が誰よりも痛感しているはずだ。そうだろう?議長」

 

カガリは鋭く議長を見据えた。冷たい空気が通路に流れた一瞬、背後のレイでさえ小さく瞬きを止めた。

あくまで冷静にそう切り返し問うカガリの横顔はまさに国家元首の顔だった。姫などと呼ばれているが今議長と対峙しているのはか弱い姫ではない。一国を守る者同士だ。これには議長も目を見張り驚く。どこか侮っていた節があるのかもしれない。

 

「…カガリ…」

 

アマキは彼女の頼もしさに顔がほころんだ。その時、けたたましいアラートが鳴り響く。

 

『敵艦捕捉。距離8000!』

 

『コンディションレッド!パイロットは搭乗機にて待機せよ!』

 

スタッフたちは慌ただしく準備に取り掛かり始める。我先にとシンがパイロットスーツに着替えに行くため飛んでいく姿があり、アマキはなんとなくその少年の背中を目で追った。若い子がいるもんだぁと呑気に受け止めながら。

同じくレイも向き直り敬礼した。

 

「申し訳ありません。議長、案内の途中ですが、席を外させていただきます!」

 

「ああ。わかった。気をつけなさい」

 

「はい!」

 

幾分か和らいだ表情で議長に応えるとすぐにキッと表情を引き締めてシンの後を追いかけた。

 

◇◇◇

 

「イエロー50マーク82チャーリーに大型熱源!距離8000!」

 

ガーティ・ルー内クルーがセンサーを読み上げブリッジに緊張が走る。

リーは淡々と状況を判断した。

 

「やはり来ましたか」

 

「な、言った通りだろう?――ここで一気に叩く。総員戦闘配備、子供らを起こしてやれ」

 

スノウは笑っていた。いつものように――けれど目だけは、遊びを眺める教師のように冷えていた。すぐに声を張り上げ指示を出す。子供らと呼ばれたパイロット達がいるベッドでは寝坊助のステラが面倒見の良いスティングによって揺り起こされていた。

 

「ステラ!おい、起きろ」

 

「ん、ん?」

 

「おーい!スノウに怒られるぞーー」

 

揶揄うようにアウルがドアから顔だけを覗き込んでそう叫ぶとステラはパチリと目を開けた。

 

「やだ!」

 

そう叫ぶと我先にと飛び上がり部屋へと裸足でかけていく。

 

「スノウに反応するの早っ」

 

「ステラ!靴履くの忘れてるぞ」

 

仲の良い三人は急ぎパイロットロッカーへと駆け込んだ。着替える時は一応三人一緒にいることが多い。スノウから男子と女子は分かれて着替えるべきだと口を酸っぱくして言われるが、共に育った兄妹のような関係の三人には直せと言われても直しようがない。素っ裸でいようと異性とは思わないからだ。これには毎回スノウから叱られるパターンである。

それぞれ着替えながら会話が弾む。

 

「あの新造艦だろ。相手って」

 

「ああ。あの合体ヤローも来るかな」

 

「なら今度こそ生け捕りか、バラバラか」

 

「どっちにせよ、楽しみだな。ステラ」

 

スティングがそうステラに会話をふりながらステラの跳ねた髪を撫でて直してやる。

 

「うん!スノウが喜んでくれるならなんでもいいよ」

 

とステラは満面の笑みを浮かべた。まるで遠足にでも出かけるかのように。この中で誰よりもスノウに懐いている妹のような彼女にアウルとスティングはまったくと苦笑しあった。

 

◇◇◇

 

ミネルバでは、突然ブリッジへと優雅に乱入してきた議長の手によって、カガリ、アスラン、そしてアマキは半ば引っ張られるようにブリッジに入ることとなった。とはいえ、三人にしてみれば望んで入ったわけではない。議長の押しの強い提案に、渋々つき合わされた感が強い。

ブリッジの空気は冷たく、突き刺さる視線が肌をなぞる。

居心地の悪さに、カガリが思わず肩を強張らせる中、アマキは堂々と首を巡らせてブリッジ内を眺め渡す。

両手をポケットに突っ込んだまま、好奇心を隠す気もない。

気になるコンソールの前では、そっと一歩前に出て覗き込むほどだった。

「こそこそしてるよりは見た目がいいだろ」と、内心で開き直る。

やがて、ブリッジが遮蔽され、プラットフォームごとゆっくりと下方へと沈んでいく。

視界が暗転するその感覚に、三人は思わず息を呑んだ。

同時に、カタパルトから機体が次々と射出される光景が、前方のモニターに映し出される。

沈黙が落ちた、その瞬間議長がぽつりと呟いた。

 

「ボギーワンか。本当の名は何というのだろうね、あの艦の」

 

その言葉にアスランが視線を向けたかと思うと、隣のアマキがあっさりと割って入る。

 

「そんなの知りませんけど」

 

言った後、アマキは少し身を乗り出して議長の方へ目を向けた。

場の空気を読まない――というより読む気がない。

カガリは慌てて、眉を寄せながら咎めた。

 

「こら!アマ……アマノ!失礼だぞ」

 

議長は一瞬たじろいだが、すぐに口元に微笑を浮かべた。

 

「名は存在を示すものだ。ならばもし、それが偽りだったとしたら? それはその存在そのものが偽りということになるのかな?」

 

アスランは言葉に眉をひそめ、わずかに視線を伏せた。

その問いかけの裏に、なにか含みがある――そんな気配を感じ取っていた。

アマキは少しだけ肩をすくめて、あっさりと言い返す。

 

「いや、そんなわけないでしょ。勝手に名前つけてるだけなのに偽りも何もないし、当てつけっぽい」

 

議長は、返答に眉一つ動かさず沈黙した。

次の瞬間、議長はゆっくりと半身をアスランの方へ傾け、口元に薄笑いを浮かべる。

 

「アレックス、いや……アスラン・ザラ君?」

 

その名が発せられた途端、アスランの背筋に冷たいものが走る。

彼は少しだけ肩を引いて、表情を固めた。議長が意図的にその名を使ったことは、明らかだった。

アマキは腕を組みながら小さく呟いた。

 

「……やなかんじぃー」

 

目を伏せ、けれど口元には、皮肉めいた笑みが浮かんでいた。

 

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