腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
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ボギーワン追撃という新たな任務のため、シンとルナマリアは奪取された新型機体の迎撃に向かっていた。
『あんまり成績良くないんだよね、デブリ戦』
ルナマリアが通信越しにぽつりと漏らす。
その声には、焦りとも諦めともつかない、微妙なニュアンスが滲んでいた。
『向こうだって、もうこっちを捉えてるはずだ。油断するな!』
シンから鋭い声が返ってくる。
戦場の緊張が、言葉の端々ににじむ。
『わかってるって!……レイみたいな口きかないでよ。調子狂うわ』
ルナマリアが少し語気を強めて返す。
その言葉には、戦闘中でも彼女らしい軽口が混じっていた。
◇◇◇
「ランチャーワンからランチャーシックス、一番から四番、ディスパール装填!CIWSトリスタン起動!ーー今度こそ仕留めるぞ!」
ブリッジ内では戦闘準備進められる中、議長の思いがけない発言に見聞きする者は凍り付いた。
「議長!それは今言わなくてもいいのではないか!?」
カガリが反射的に身を乗り出し、議長に鋭く抗議する。
その声にブリッジ内の空気がぴんと張るが、議長は手のひらを穏やかに掲げて制した。
「御心配には及びませんよ、アスハ代表。私は何も咎めようというんじゃない」
その言葉の端が、妙に柔らかくて腹が立つ。
だがすぐ、横からアマキが腕を組みながらぬっと顔を上げて口を挟んだ。
「だったら黙ってればいいだけじゃない?」
議長の言葉にさほど動じず、むしろ興味深そうな顔つきで言い放つ。
すかさずカガリが苛立ちを隠せずアマキのほうを振り返った。
「お前が黙ってろ!」
だが議長は気にも留めず、目線すらそらさずに話を続ける。
「……全て承知済みです。カナーバ前議長が彼らにとった措置のことはね」
「嫌味ですか?」
アマキがまたも即答する。
視線は動かさず、まるで議長の“手の内”を見透かすかのよう。
その飄々とした口調に、ふと議長の唇が僅かに動いた。
「ただ、どうせ話すなら本当の君と話がしたいんだよ。アスラン君、それだけのことだ」
そして、ふと視線をずらし、アマキへと向けて細める。
「……ところで先ほどから君は、私に難癖ばかりつけてくるが。では問おう――君はアマキ・カンザキか?」
「――っ!?」
その問いに、空気が凍った。
カガリとアスランが反射的に肩を強張らせ、ブリッジ内に静寂が走る。
誰もが、息を飲んだ。英雄の名は、虚構だと思っていたはずだった。
アマキは一拍だけ沈黙した。
そしてすぐ、軽く肩をすくめてひらりと手を振った。
「違います。アマノ・シノザキです。よく間違われるので迷惑してるんですけど。名前が全然違うし」
議長は微笑を崩さず、小さく頷いた。
「それは失礼。あまりにもその辛口口調が、噂で聞いていた彼女とそっくりだったからね」
アマキは片手を胸元で振りながら、ぺこりと頭を下げる。
「いえいえ、違うとわかってくだされば十分です」
そして、やや俯きながら返す笑顔の奥に――誰にも見抜けない、鋭い光が宿っていた。
(タヌキヤローが)
そう唇が形づくる。すると議長の瞳がわずかに揺れる。アマキの言葉が、予想以上に“効いた”のだろう。
「ふふ……なるほど。噂通り、舌の切れ味は尋常じゃないようだ」
そう言って議長は、掌を再び組み、椅子にもたれる。
その様はまるで――タヌキが尻尾を巻いて次の一手を練る姿。
アマキはその姿を見下ろし、鼻を鳴らすように笑った。
「お褒めの言葉と受け取らせていただきます~」
カガリがそれを聞きながら、ひそかにアスランの横顔を見やる。
静かに、けれど確かに揺れている――その心の震えは、誰にも見られないように。
アマキが低く呟いた。
その声は、皮肉とも諦めともつかない響きを帯びていた。
彼女の視線は、スクリーンの奥――まだ姿を見せぬ“本命”を探るように鋭く光っていた。
一枚上手。
その言葉が、誰の口にも出されないまま、ブリッジ全体に重くのしかかっていた。
※
『よぉーし!行くぜ!』
『オーケー!』
『うん!』
カオス、アビス、ガイア――三機のMSが、宙域の死角から一斉に飛び出す。
その動きはまるで獲物を狩る猛獣のように鋭く、迷いがなかった。
『!?』『!』
シンとルナマリアの機体が、突如現れた三機の姿に目を見張る。
警戒していたはずの空域からの奇襲に、反応が一瞬遅れる。
『ショーン!』
ルナマリアの悲鳴が通信に乗って響く。
味方機が一機、あっという間に撃墜された。
爆炎が広がり、ゲルググもビームの直撃を避けるように急旋回する。
『散開して!各機応戦!』
シンが即座に指示を飛ばし、自らも敵機に向かって加速する。
だが、敵の動きは予想以上に速く、連携も取れている。
『ボギーワンの反応が……偽物だったのか!?』
シンの声に、戦場の空気が一層張り詰める。
敵は囮を使い、ミネルバ側の注意を逸らしていたのだ。その隙を突いて、三機が一気に襲いかかってきた。戦場は、完全に敵のペースに飲み込まれていた。
その頃、ミネルバ艦橋では、オペレーターたちの声が次々と飛び交っていた。
「ボギーワン、ロスト!反応消失!」
「なにぃ!」
艦長席からタリアが思わず声を上げる。
スクリーンには、先ほどまで映っていた敵艦のシグナルが忽然と消えていた。
「ショーン機も……シグナルロストです!」
メイリンが悲鳴のような声を上げる。
彼女の指先は震え、コンソールを強く叩く。
「イエロー62ベータ宙域に熱紋、三つ!これは――カオス、ガイア、アビスです!」
敵の主力MS三機が、ミネルバの側面から急接近していた。
その動きは、まるで獲物を囲むように、正確かつ迅速だった。
「探索急いで!ボギーワンの位置を早く!」
タリアの声が艦橋に響く。だが、すでに敵は一枚上手だった。
囮に気を取られた隙を突かれ、味方機は次々と撃墜されていく。
ミネルバは、完全に敵の術中にはまっていた。
◇◇◇
ガーティ・ルー艦内。戦況を見据える仮面の青年が、無言のまま左手をゆっくりと掲げた。
その仕草はわずかに静かで、だが明確な意志を帯びていた。艦橋の空気が一瞬で変わる。
その動きを指示と受け取った艦長が、即座に命令を飛ばす。
「ダガー隊、発進準備!機関始動!」
「ミサイル発射管、五番から八番、装填完了次第、順次発射!」
「主砲、敵戦艦に照準固定!」
艦内に警報が鳴り響き、赤い警戒灯が点滅する。
格納庫では、二機のダガーが滑るようにリニアカタパルトへと移動し、発進シークエンスに入る。
「ダガー隊、発艦許可。出撃せよ!」
白とグレーの機体が、艦の腹部から次々と宇宙へと飛び出していく。
その背後では、ミサイル発射管が唸りを上げ、次々と弾頭を吐き出していった。
艦首の主砲がゆっくりと旋回し、ミネルバの艦影を捉える。その砲口には、すでに冷徹な意志が宿っていた。ボギーワンは、完全に“狩る側”の態勢に入っていた。
◇◇◇
「ブルー18マークチャリーに熱紋!ボギーワンです!距離、500!」
オペレーターの声が鋭く響く。
スクリーンに映る敵艦の接近に、ブリッジ内がざわめいた。
「ええっ!?」
驚愕の声が漏れる。
だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
「後方にさらにMS、2機!」
「後ろ!?」
「側面からレーザー照射、感あり!」
「アンチビーム爆雷発射!面舵三十、トリスタン照準――!」
「駄目です!オレンジ22デルタにもMSが!」
敵は前方、後方、側面――三方向から同時に攻撃を仕掛けてきていた。
ミネルバは完全に包囲されつつあった。
「機関最大!右舷側の惑星を盾に、回り込んで!」
タリアの指示が飛ぶ。
その声には冷静さと焦燥が入り混じっていた。
「メイリン!シンたちを戻して!残りの機体も発進準備を!」
「はい!」
「マイル!小惑星の粒形を利用して、直撃を回避して!」
「了解!」
「アーサー!迎撃態勢!」
「ランチャーファイブ、ランチャーテン、ディスパール装填――てぇーっ!」
ミネルバの火砲が火を噴き、敵の進路を阻もうとする。
だが、敵の動きは素早く、連携も取れている。
ミネルバは、まるで獲物を囲まれた獣のように、逃げ場を失いつつあった。
◇◇◇
『もらいっ!』
アウルが鋭く突撃し、味方機を一閃で撃墜する。
爆炎が宇宙に広がり、通信が一つ、また一つと途絶えていく。
『デイル!――あっという間に二機も……!』
味方の損耗に、ルナマリアが絶句する。
その声には、怒りよりも先に、信じられないという動揺が滲んでいた。
『ミネルバが……!? 私たち、まんまとハマったってわけ!?』
『……ああ、そういうことだね』
シンが低く答える。
その口調は冷静を装っていたが、明らかに焦りが滲んでいた。
『けど、これじゃあ“戻れ”って言われたって……!』
視界の先には、敵の包囲網。
背後にはミネルバ、だがその周囲もすでに敵の影に覆われていた。
◇◇◇
「ライトハルト!撃てっぇーー!!」
アーサーの怒声が艦橋に響く。
主砲が火を噴き、敵機に向けて閃光が走る。
だが、敵はすでに背後を取っていた。
「後ろを取られたままじゃ、どうにもできないわ!回り込めないの!?」
タリアが焦りを隠さず叫ぶ。
艦の姿勢制御は限界に近く、敵の位置に砲を向けることすら困難だった。
「無理です!今は回避だけで精一杯です!」
操舵手の声が震える。
艦体はすでに複数の方向からの攻撃を受けており、機動の余地はほとんど残されていなかった。
「レイのザクを……!」
だが、カタパルトの進路も塞がれていた。
「これでは、発進進路も取れないわ……!」
タリアが歯噛みする。敵の包囲は完璧だった。
ミネルバは、まるで罠にかかった獣のように、身動きが取れなくなっていた。
◇◇◇
『なんなのよ、アンタたちはぁっ!』
ルナマリアが叫ぶ。背後から迫るガイアの猛追に、機体を翻しながら必死に応戦する。
『このっ、どろぼうがぁーーっ!』
怒りと恐怖が入り混じった声が、通信に乗って響く。だが、敵は容赦なく迫ってくる。
『墜とす!』
ステラの声が、機体のスピーカーから鋭く響いた。その声には、感情の起伏が激しく揺れている。
『回り込め、アウル!今度こそ首をもらおうぜ!』
『僕は別にいらないけど』
スノウの命令に、アウルが気だるげに応じる。だが、その機体の動きは鋭く、ルナマリアの死角を狙っていた。
『これじゃあ、位置が……!』
ルナマリアの視界が、敵の機影に埋め尽くされる。逃げ場がない。そう思ったその瞬間――
『シン!』
ルナマリアの機体のすぐ前方に、インパルスが飛び込んできた。その巨体が盾のように割り込む。
『っ……!』
シンのインパルスが、外に向かってビーム砲を一閃。
その光条はガイアの機体をかすめ、直撃は避けたものの、ステラの動きが一瞬止まる。
『なんなのよ!アンタはまたぁっ!』
ステラが叫ぶ。その声は怒りとも、混乱ともつかない。
スノウからの命令は絶対!必ず成功させて褒めてもらうのだ。そのためには邪魔な奴は排除しなくてはいけないのに、いつも行く手を阻む者。
彼女の感情が、戦場の空気をさらに不安定にしていく。
◇◇◇
「粘りますな」
ボギーワン艦橋。艦長がモニターを見つめながら、静かに呟いた。
その声には驚きも焦りもなく、ただ状況を見極める冷静さだけがあった。
「だが、戦艦は足止めされたら終わりだろう?」
スノウが応じる。ミネルバは小惑星に張り付き動きを封じられている。
その姿は、まるで罠にかかった獣のようで小気味いいじゃないか。
「戦艦――彼らがへばりついている小惑星にミサイルを撃ち込んでやれ。砕かれた破片がシャワーのように降り注ぎ、船体が埋まるほどにな」
彼の指示は冷酷だった。敵を直接撃つのではなく、足場そのものを崩して沈める――それは、戦術というよりも処刑に近い。仮面の青年が、ゆっくりと左手を上げた。
スノウ――その名を呼ぶ者は少ないが、艦内では誰もが彼の意図を察する。
「では、私は楽しんでこよう。後を頼む」
艦長はすぐに頷き、言葉を投げかける。スノウの声は、仮面の奥から静かに響いた。
「はっ」
艦長が敬礼し、すぐさま命令を飛ばす。
「ダガー隊、発進準備!ミサイル発射管、五番から八番、順次発射!主砲、敵戦艦に照準固定!」
格納庫では、二機のダガーが滑るようにカタパルトへと移動し、発進シークエンスに入る。
ミサイル発射管が唸りを上げ、岩塊へ向けて弾頭を吐き出す。スノウは、無言のまま艦橋を後にした。
※
「ミサイル接近!数、6!」
オペレーターの声が鋭く艦橋に響く。
警報が鳴り、スクリーンには高速で接近する熱源が映し出されていた。
「迎撃!」
アーサーが即座に指示を飛ばす。
CIWSが起動し、艦の周囲に火線が走る。
だが――
(直撃コースじゃない……)
アマキがモニターを見つめながら、何かに気づく。
ミサイルの軌道は、艦そのものではなく、艦が張り付いている小惑星を狙っていた。
アスランも考えは同じようで焦った声で叫んだ。
「――まずい!船を惑星から離してください!」
「えっ!?」
艦橋がざわめく。だが、次の瞬間――
「右舷がっ!艦長ぉ!」
小惑星に着弾したミサイルが爆発し、岩塊が砕けて右舷側に降り注ぐ。
艦体が揺れ、警報がさらに激しく鳴り響く。
「離脱する。上げ舵15!」
タリアが冷静に指示を飛ばす。
艦体がゆっくりと浮き上がり、岩塊の雨から逃れようとする。
「さらに第二破、接近!」
「減速20!」
操舵手が叫び、艦の推進力を調整する。
だが、次の波はすでに目前に迫っていた。
◇◇◇
「さて、進水式もまだだというのに――お気の毒だな」
仮面の奥から響く声は、静かで冷ややかだった。ノーマルスーツという恰好で愛機に飛び乗ったスノウは画面に映る
「仕留めさせてもらう」
その言葉とともに、格納庫が赤く染まり、発進シークエンスが開始される。
艦内のクルーは誰も言葉を発さない。
スノウが出る時、それは“遊戯”の始まりを意味していた。
「発進、どうぞ」
『了解』
MAの機体がゆっくりとカタパルトへと移動する。
その動きは、まるで獣が檻から出る瞬間のように、重く、静かだった。
『出るぞ』
次の瞬間、機体が閃光とともに射出される。
推進ユニットが唸りを上げ、巨大な機体が宇宙を切り裂くように加速する。
その軌道は、まるで獲物に向かって一直線に飛ぶ矢のようだった。
だが、矢ではない。
それは、空間を歪ませるほどの質量を持つ“弾丸”だった。
ミネルバにとって、それは新たな脅威の到来だった。
冷静で、無慈悲で、そして美しいほどに正確な死の使者――スノウのMAが、戦場に降り立った。
◇◇◇
「四番、六番スラスター破損!艦長、このままでは艦の姿勢制御が――!」
「進路、完全に塞がれました!」
「ボギーワンの動きは!?」
「……確認できません!ですが、MAおよびMSがこちらへ向かってきます!」
ブリッジ内に緊迫した報告が飛び交い、空気が一気に張り詰める。
タリアは即座に受話器を取り、鋭い声を飛ばした。
「エイブス!レイを出して!」
『ハッ!しかし、カタパルトが損傷していて――』
「歩いてでも、這ってでもいい!今すぐ出して!」
「シンたちは!?」
「インパルス、ザクは依然、カオス・ガイア・アビスと交戦中です!」
とメイリンが叫ぶ。
「この艦には、もうMSは残っていないのか?」
と議長が静かに問う。
「パイロットがいません……」
その言葉に、カガリがハッとし、アスランとアマキを交互に見つめた。二人の間に、短い沈黙が流れる。
「う~ん……」
アマキは困ったように肩をすくめ、アスランは押し黙ったままだった。
「艦長、タンホイザーで前方の岩塊を吹き飛ばしては?」
とアスランが提案をする。
「それでは岩肌をえぐって、また同じ量の岩塊が降りかかるだけよ」
タリアの冷静な判断が、希望を打ち消す。そのとき、議長が意味深な笑みを浮かべた。
アマキはその顔を見て眉をひそめる。
「あー……どうするかね……」
「おい、なんとかしろ!あま、アマノえもん!」
カガリの焦りが爆発する。アマキは口元を引きつらせながら、呆れたように返す。
「そのネタ、やめてくれない?」
「お前なら何とかできるだろ!」
「……あ、そうね。ハマってるなら、内側から勢い出して一緒に飛び出ちゃうとか?」
「は?」
「つまり、小惑星に向けて艦内から砲撃を叩き込むの。衝撃波で艦を押し出す。右舷スラスターを全開にして、タイミングを合わせれば、岩塊ごと吹き飛ばして脱出できるかも」
一瞬、誰もが言葉を失った。だが、躊躇する時間はない。
「なら試せばいい!やってくれ!」
「いや、ただの護衛の私に言われても……」
「議長!」
カガリが議長に視線を向ける。議長は静かに頷き、タリアに目を向けた。
「艦長、どうかな?」
「……一応、理屈は通っておりますわね。時間も惜しいですし……やってみましょう。アーサー!」
「は、はい!?艦長!」
「この件は後で話しましょう。右舷側の火砲、全て発射準備。右舷スラスター全開と同時に斉射!タイミング、合わせてよ!」
「いいんかい……!」
突発的な提案だったがまさか実行に移すとは思っていなかったアマキはつい小さく突っ込んでしまった。
◇◇◇
『ミネルバにはギルが乗ってるんだ。撃たせるものか!』
レイの叫びが通信に乗って艦内に響き渡る。その声には、怒りと焦燥が滲んでいた。
次の瞬間、あの“悪寒”が背筋を走る。直感に突き動かされるように、レイは機体を急旋回させた直後、左右からビームが交差するように飛来――
例のモビルアーマーからの攻撃だった。
『なんなんだ!コイツは!』
苛立ちを隠せず、レイが声を荒げる。
『ほう、これがニュータイプというものか。白いパイロット君』
仮面の奥から響くスノウの声は、静かで冷ややかだった。
彼のMAは、レイのザクを正確に捉えながら、まるで観察を楽しむかのように動きを止めない。その異様な間合いと圧力に耐えながらも、レイは冷静さを取り戻し、周囲のダガー部隊に照準を移す。
ビームライフルを放ち、一機を正確に撃墜する。
『ヨーン!』
同僚の撃墜に、ミラーが思わず叫ぶ。
その瞬間、スノウが通信を開いた。
『ミラー、下がれ。彼は手ごわいぞ。お前は船を』
『はっ!』
ミラーのダガーが即座に反転し、ミネルバの側面へと回り込む。
その動きには一切の迷いがなかった。まさに訓練された兵士の動作だった。
『させるか!』
レイが追おうとする――だが、
『もらった!』
スノウのMAから放たれたガンバレルが、レイの進路を遮るように展開する。
無数の岩塊が浮かぶ宙域を縫うように、ミラーのダガーは巧みに進行。
レイはビームを放つが、命中には至らない。
咄嗟に機体を捻り、スノウの追撃を辛うじて回避する。
『ちぃっ!』
舌打ちが通信に乗る。
だが、諦めるわけにはいかない。
レイはザクの背面ミサイルポッドを展開し、岩塊ごとミラーのダガーを巻き込むようにミサイルを発射。
爆炎が宇宙に咲き、ミラーの機体はその中に消えた。
『……やったか』
レイが息をつく間もなく、ミネルバ艦内では、次なる大胆な作戦への移行が始まろうとしていた。
◇◇◇
「右舷側火砲、一斉射準備!」
「発射と同時、右舷スラスター全開!」
艦内に緊張が走る。
クルーたちは一斉に持ち場へ散り、火器管制と推進制御の最終チェックに入った。
「総員、衝撃に備えて!」
「カウント開始!三、二、一――」
「発射!!」
轟音とともに、右舷の火砲が一斉に火を噴いた。
小惑星の内部に叩き込まれた砲撃が、瞬く間に爆発を引き起こす。
岩塊が砕け、閃光と衝撃波が艦体を包み込む。
「右舷スラスター、全開!!」
ミネルバが、爆風と推進力を受けて大きく跳ねるように動いた。
艦体が軋み、振動が艦内を駆け抜ける。
だが――
「成功!小惑星から脱出!」
「進路、確保!」
「姿勢安定、確認!」
歓声が上がる間もなく、タリアが叫ぶ。
「回頭三十!ボギーワンを撃つ!」
「タンホイザー、照準!ボギーワン!」
「てぇーー!!」
主砲タンホイザーが閃光を放ち、ボギーワンの艦体をかすめるように直進する。
砲撃はわずかに命中し、敵艦の外殻を削る。
その衝撃がボギーワン艦内にも伝わり、わずかに揺れが走る。
すれ違う両艦――
一方は脱出の勢いを保ったまま、もう一方は静かに距離を取る。
だが、互いの視線はすでに次の戦いを見据えていた。
◇◇◇
エグザスは、牽制する白いゲルググに一瞥をくれたのち、それ以上の追撃をせず母艦へと進路を取る。
その背に、戦場の残響が静かに広がっていた。
『なるほど……起死回生というわけか』
独り言のように呟いたあと、通信を通じて最後の言葉を残す。
(またすぐに会えるだろう。それまで――死なないでくれよ、ザフト諸君。そして……可愛いアマキ。お前もな)
その声には、皮肉とも挑発ともつかぬ響きがあった。
通信が切れると同時に、エグザスの機体は宙を滑るように離脱していく。
ほぼ同時にボギーワンから放たれた信号弾が、宙を裂いて光る。
それに気づいた三人組は、まるで合図を待っていたかのように動きを止めた。
『二点勝ちで終了か。……まあ、悪くない』
『仕方ないね、ステラ。スノウが呼んでる。帰ってこいってさ』
『うん!早く帰ろっ』
ステラが無邪気に笑い、三機はくるりと反転する。戦場を離れるその姿は、まるで遊び終えた子供たちのようだった。爆炎と残骸の中を、軽やかに。
彼らの背に、どこか不気味な余韻が残る。
◇◇◇
「ボギーワン、離脱を確認」
「インパルス、ザク、ルナマリア機――危険領域に残留しています!」
「艦長、先ほどの爆発の影響で第二エンジンと左舷熱センサーが損傷しました!」
ブリッジに緊迫した報告が飛び交う中、タリアは眉をひそめた。
だがその時、議長が静かに口を開く。
「グラウディス艦長。もういい。後は別の策を講じよう。私も、これ以上アスハ代表を振り回すわけにはいかない」
その言葉に、タリアは一瞬だけ目を伏せ、深く頭を下げた。
「……申し訳ありません」
その背に、艦橋の空気がわずかに沈黙を帯びる。
戦いは終わっていない。だが、今は一度、呼吸を整える時だった。
ミネルバからの信号弾により三機も帰投し、パイロット達はひと時の休息に入ることになる。
◇◇◇
通路を五人で歩きながら、議長は静かに口を開いた。
「本当に申し訳ありませんでした、アスハ代表」
「こちらのことなど気にしないでくれ。ただ、このような結果に終わったことは、私も残念に思う。――早期の解決を心より願っている」
カガリの言葉に、デュランダルは丁寧に頷く。
「ありがとうございます。本国とも、ようやく連絡が取れました」
それを受けて、タリアが補足する。
「すでにアーモリーワンへの救援と調査隊が編成されております。そのうち一隻を、皆さまのお迎えとしてこちらへ回すよう要請済みです」
疲れた表情のカガリが、短く礼を述べる。
「……ありがとう」
士官室へ入るカガリに続いて、アマキとアスランも足を向けようとしたその時――
議長がふと立ち止まり、振り返るように言葉を投げかけた。
「しかし、先ほどは彼らのおかげで助かったな、艦長」
「え、……はぁ……」
タリアが曖昧に返すとアマキとアスランが怪訝そうに振り返る。その瞬間、ドアが閉まり、二人は取り残された形になった。
「さすがだね。数多の激戦をくぐり抜けてきた者の力は」
「はぁ?」
アマキが何か言いかけた瞬間、アスランが素早く頭を下げる。
「いえ、差し出たことをして申し訳ありませんでした!」
ついでにアマキの頭も無理やり下げさせる。
タリアはその様子に目を丸くしながらも、ふっと笑みを浮かべた。
「あなたたちの判断は正しかったわ。たとえ思いつきだったとしてもね。ありがとう」
「では」
敬礼を一つ残し、タリアと議長は背を翻す。
「っけ!」
アマキは小さく吐き捨てると、「あたっ!いだいっ」とアスランに拳骨を喰らいながら背中を押され、渋々士官室へと入っていった。タリアはブリッジへ戻る途中、礼儀正しい青年とは対照的な、反骨心の強い少女の姿を思い返していた。
ここまであからさまに議長に無礼を働く者は初めてだった。
それでも彼女は、対等に接しようとするその姿勢に、どこか不思議な魅力を感じていた。
そして、議長もまた――その無礼さを、面白がっているように見えた。
咎めることもなく、むしろ楽しんでいるように。
士官室では、カガリが疲れたようにベッドへ身を沈める。
アマキとアスランは彼女が静かに休めるよう、そっと部屋を後にした。
廊下に出ると、アスランがすぐに口を開く。
「……お前、さっきの態度はないだろ」
「だって議長がわざとらしいんだもん!」
「語尾に“だもん”をつけるな」
「だよーん」
「それもやめろ」
一喝するアスランに、アマキはぶーたれた顔を見せる。議長への反発は、彼女の中でまだ燻っているようだった。その気持ちは、アスランにも理解できる。
戦闘の最中、議長があえてアスランの素性を揺さぶるような言動をしたのは明らかだった。
だが、そこで露骨に反応するのもまた、策に乗るようなものだ。
「……それは分かってるよ、俺だって」
「じゃあ、言い返しなよ。あんなの、黙ってる方が損だって」
アマキの言葉に、アスランは肩を落とす。
「……お前くらいだよ、そんなふうに言えるの」
その頃、レクルームではシンたちが激戦を終えて戻ってきていた。
アマキとアスランが入室すると、ちょうど話題の中心にいたらしく、ルナマリアが目を輝かせて声をかける。
「へぇ、ちょうど貴方の話をしていたところでした。アスラン・ザラ」
アマキはその様子を観察するように視線を鋭くし、シンはアスランの隣にいる少女――ぽっちゃりめのアスハの護衛と聞いていた彼女に一瞥を向ける。
もしかして彼女も正体を隠しているのでは――そんな考えがよぎる。実際、当たっている。
「まさかというか、やっぱりというか。伝説のエースにこんなところでお会いできるなんて
光栄です」
「そんなものじゃない。俺はアレックスだよ」
「だからもうMSには乗らない?」
揶揄を含んだ言い方にアスランの表情が険しくなる。その空気を割ったのは、意外にもシンだった。
「よせよ、ルナ。そんな言い方はないだろ」
「シン?」
ルナマリアが驚いたように振り返る。
「それぞれ事情があるだろ。俺たちがどうこう言うことじゃないと思うぜ」
その言葉に、アマキが感心したように声を上げる。
「……へぇ~。君、まともなこと言うね」
「へ?」
パン、と手を打って立ち上がるアマキ。ずずっとルナマリアを押しのけ、シンの前に立つ。
「そうなんだよ。いいこと言うじゃないか、少年!」
「っ!」
ルナマリアが声を上げるのを耳にしながら、アマキは言葉を続ける。
「彼がアスランだとしても、今は“アレックス”だ。彼がそう言うなら、それが事実。他人が掘り返していいものじゃない。ましてや初対面の人に対してはね。そう、ご両親に教えてもらわなかったかな? お嬢さん」
「!」
くるりと振り返り、小首をかしげてルナマリアに諭すように告げるアマキ。
その言葉に、ルナマリアは羞恥心から顔を赤らめた。
(……アマキ!)
アスランは、そんな彼女の姿に小さく感動していた。ルナマリアが肩を震わせる横で、アマキはアスランの腕を取って立ち上がらせる。
「って、説教じみたこと言うと嫌われちゃうか。反省反省。それじゃあ私たちは失礼しますね。おら、行くよ。アレックス」
「あ、ああ」
二人は呆ける四人の間をすり抜け、部屋を後にした。去り際、アマキはシンにだけ聞こえるように小さく呟く。
「ありがと」
サングラス越しに、一瞬だけ彼女の瞳が見えた気がした。その声の心地よさに、シンは一瞬、心を捕らわれたような気がした。
ミネルバの廊下を、アマキとアスランは無言のまま並んで歩いていた。
戦闘の余韻がまだ身体に残っているのか、どちらも言葉を選んでいるようだった。
「……さっきは、ありがとな」
アスランがぽつりと呟く。
アマキはちらりと横目で彼を見て、ふっと笑った。
「なにそれ。らしくないね。礼なんて」
「お前が庇ってくれたからだろ。あの場で俺が何か言ってたらもっとややこしくなってた」
「ふーん。じゃあ、今度からは私に任せてくれていいよ。口喧嘩も得意だから」
「……それはそれで問題だと思うけどな」
二人の間に、ようやく柔らかな空気が戻る。
「でもさ、アスラン。あの議長、やっぱり何か知ってるよね。私のことも、君のことも」
「……ああ。議長は全て把握しているんだろう」
アマキは立ち止まり、壁にもたれかかる。
「だったら、こっちも腹を括らなきゃね。どうせ、もう隠し通せないなら――狐にでもなろうかな」
「……お前はどっちかというと猪だろ」
アマキはしばらく黙っていたが、やがてにっこりと笑った。
「アスラン、禿げろ」
アマキからの呪いの言葉にアスランはショックを受けた。
そして――わずかな休息も許されずユニウスセブンにて、異変が起きていたことを、のちに彼らは知ることになる。