腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-07混迷の大地

シン、アスラン、アマノ機からの通信が途切れ、三機がミネルバに帰還することはなく、状況は最悪の一途を辿っていった。

 

「降下シークエンス、フェイズ!」

 

艦橋に緊張が走る。ミネルバは大気圏突入の最終段階へと移行していた。

 

「インパルス、と二人のザクは?」

 

オペレーターが焦りを隠せずに確認を急ぐ。

 

「ダメです!位置特定できません…!」

 

タリア・グラディス艦長は眉をひそめた。

スクリーンには、ユニウスセブンの巨大な残骸が、地球へ向けて落下していく光景が映し出されている。

 

「アスラン、……アマキ……!」

 

その声には、普段の冷静さでは隠しきれない感情が滲んでいた。

 

「まもなくフェイズ・スリー!」

 

「砲を撃つにも限界です!艦長!」

 

アーサーが叫ぶ。

 

「しかしインパルスとザクの位置がっ!」

 

「特定できねば巻き込みかねませんっ!」

 

艦橋の空気が張り詰め、誰もが息を呑む。だが、タリアは静かにしかし迷いなく命じた。

 

「タンホイザー起動」

 

その瞬間、艦橋の空気が凍りついた。

その指示は、シンたち三人を切り捨てるという決断に他ならない。

 

「ユニウスセブンの落下阻止は、なにがあっても遂げねばならない任務だわ」

 

タリアの言葉に、艦橋の全員が覚悟を決める。

誰もが理解していた。これは“選ばなければならない犠牲”だと。

 

「照準、右舷前方、構造体!」

 

「タンホイザー照準、右舷前方、構造体!」

 

「てぇーーーー!!」

 

タンホイザーが唸りを上げ、光の奔流が宇宙を裂いた。

その一撃がユニウスセブンの構造体を貫き、巨大な破片が砕け散る。

そして、祈るような沈黙が艦橋を包んだ。

 

誰もが願っていた。

どうか、あの三人が――生きていてくれますように。

 

◇◇◇

 

テレビの画面には、赤道直下の都市が映し出されていた。黒煙が立ち昇り、ビルの屋上から避難用のヘリが次々と飛び立っていく。画面の隅には「緊急速報」の赤い文字が点滅し、アナウンサーの声がノイズ混じりに響いていた。

「繰り返しお伝えします。ユニウスセブンの破砕は成功しましたが、その破片の落下による被害の脅威はいまだ残っています……」

その声は、もぬけの殻となった家のリビングに虚しく流れ続けていた。床には、避難の途中で落とされたらしいスニーカーが片方だけ転がっている。窓の外では、遠くの空が赤く染まり、何かが大気圏を焼きながら落下していく軌跡が見えた。

 

「現在、赤道を中心とした地域がもっとも危険と予測されています。沿岸部にお住いの方は海からできる限り離れ、高台へ避難してください」

 

街では、サイレンが鳴り響き、人々が荷物を抱えて走っていた。車のクラクションが鳴り止まず、交差点では信号が機能を失い、警官が手信号で交通をさばいている。空を見上げた子どもが、親に抱きかかえられながら泣き叫ぶ。

 

「ママ、空が燃えてるよ!」

 

誰もが、次にどこに破片が落ちるか分からない恐怖に駆られていた。通信は不安定になり、避難指示は地域によって食い違い、混乱は拡大していた。避難所に向かう人々の列の中には、家族とはぐれた者、荷物を持たずに裸足で走る者もいた。

そして、遠くの地平線に、巨大な破片が海面に突き刺さるように落下した瞬間――地鳴りのような衝撃が街を揺らし、誰かが叫んだ。

 

「今のは……近いぞ!」

 

その声に、群衆が一斉に走り出す。誰もが、次の瞬間に何が起こるか分からないまま、ただ生き延びようとする本能だけで動いていた。

 

巨大な炎は瞬く間にすべてを飲み込み、破壊していく。そして世界のあちこちで甚大な被害が出ている中――ロード・ジブリールは、自身専用のシェルターにて悠々自適に大画面のモニターを眺めながら、ブランデーグラスを傾けていた。

時折、衝撃の余波による音が響くと、彼は苛立ちを露わにし、膝に乗せていた黒猫に爪を立てて逃げられることもあった。コーディネーターのせいで自分は穴倉生活を強いられている――その不満が、彼の表情に滲んでいた。

どこまでも自分勝手。どこまでも自己中心的。だからこそ、ブルーコスモスの盟主に相応しいのだろう。

 

◇◇◇

 

ガーティ・ルーの展望室。厚い強化ガラスの向こう、宇宙の闇を裂いてユニウスセブンの破片がいくつも地球へ向かって落下していく。その軌跡は、まるで世界を焼き尽くす予告のようだった。ファントム・ペインの三人は、その光景を黙って見下ろしていた。

アウルは目を輝かせていた。破壊のスケールに興奮しているのか、口元にはうっすらと笑みすら浮かんでいる。

スティングは拳を握りしめていた。歯を食いしばり、悔しさを隠そうともせず、ただ黙って破片の軌道を睨みつけている。

 

そして、ステラは――

 

「しぬの……? みんなしぬの?」

 

その声は、展望室の静寂を切り裂くように響いた。彼女の瞳は、落下していく光の筋を追いながら、怯えと混乱に揺れていた。

スティングが振り向きかけるが、言葉が出ない。アウルは、ステラの問いに答えることなく、ただ破片の落下を見続けていた。

そこへ、仮面の青年――スノウ・カンザキ大佐が、無言のまま足音も立てずに入ってくる。

彼はステラの方へ歩み寄った。仮面の奥の表情は見えない。だが、その足取りには威圧ではなく、どこか柔らかな気配があった。

 

「ステラ」

 

名を呼ぶ声は、驚くほど静かで、優しかった。まるで、壊れやすい硝子細工に触れるような声音だった。

 

スノウは少しかがみ、ステラの目線に合わせる。彼女の不安げな瞳を見つめながら、そっと言葉を紡いだ。

 

「お前は生きているよ。大丈夫だ」

 

ステラは目を瞬かせ、戸惑いながらもスノウの顔を見つめ返す。仮面の隙間から覗く瞳に、怒りも憎しみもなかった。ただ、深い静けさと、どこか遠い哀しみのようなものが宿っていた。

 

「でも、こわいの……。みんなしんじゃうのが、こわいよ。スノウ」

 

「怖いという感情は、お前たちにとって必要なものだ。生きることも、死ぬことも、人間の定めではあるが……今は安心しなさい。私がいる限り、ここは安全だ」

 

スノウはそう言って、ステラの肩にそっと手を置いた。彼女の小さな身体がわずかに震え、スノウの隊服にそっと手を伸ばして身を寄せる。

 

「……あったかい……」

 

その様子を、アウルとスティングは黙って見ていた。アウルは珍しく口を閉ざし、スティングは目を伏せたまま、拳をほどいた。

 

「ステラばっかり、ずるいぞー」

 

アウルがぽつりと呟くと、スノウは仮面の奥で微かに笑い、もう片方の腕を広げた。

 

「お前たちも来るか?」

 

アウルは一瞬ためらったが、照れくさそうに視線を逸らしながら、黙ってスノウの方へ歩み寄り、ひしっと抱きついた。

 

「………」

 

スティングは肩をすくめ、視線を逸らしたまま呟く。

 

「っ、……遠慮しとくよ」

 

「まぁまぁ」

 

スノウは手招きをする。スティングはしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をつき、ゆっくりと歩み寄っていった。自分よりも大きな手がスティングの頭を優しく撫でてくれる。

こうしてスノウは、時々こうして彼らを甘えさせてくれる。だからこそ、三人にとってスノウは――親以上の存在なのだ。

 

◇◇◇

 

「突入角度調整……排熱システム、オールグリーン。自動姿勢制御システム、オン――ニュートラルへ!」

 

インパルスのコックピットに、赤い警告灯が断続的に点滅する。電子音が耳を刺し、振動が座席を通じて背骨に響く。シン・アスカの指は汗で湿り、操縦桿を握る手がわずかに震えていた。熱気が狭い空間にこもり、呼吸すら重い。

外板は灼熱の大気に焼かれ、視界の外では白い炎の尾が機体を包んでいる。モニター越しに映るのは、負傷したアスランのザクを必死に支えるアマキの姿。通信はノイズ混じりに途切れ、声がかすかに届く。

 

『アマノさんは!?アスランさんは!』

 

焦燥の叫びに応じるように、途切れ途切れの声が返る。

 

『シン、きみか!』

 

――アスラン。そして、場違いなほど軽い調子で、

 

「やっほー」

 

とアマキが挨拶をする。死ぬか生きるかの瀬戸際で呑気そうなのがおかしいくらいだが、これも平常運転である。

逆に軽さに、シンは目を見開いた

 

『待ってください!今そっちに――』

 

『よせ、インパルスでも無理だ』

 

アスランが制止する。機体は限界に近い。二人分を支えるなど不可能だ。だが、シンは歯を食いしばり、声を張り上げる。

 

『やってみなきゃわからないじゃないですかっ!』

 

「シン、これ以上は危険だ。自分のことだけ考えて」

 

冷静に告げるアマキ。その声には、どこか諦観の響きがあった。

 

『いやだ!目の前で誰かが死ぬなんて……そんなのっ!』

 

シンの叫びが、ノイズを突き破る。アマキは一瞬黙り――そしてぽつりと。

 

「……じゃ、アスランだけお願い」

 

『なっ!お前は一体なにをっ!』

 

アスランが納得いかないと声を荒げる。

策はないがアマキは必死に生き延びるつもりだった。

大気圏突入は以前よりこれで二度目。前回の失敗をリベンジする気でいる。

 

「大丈夫だよ、私これで二回目だし――『アマノさんも助けますっ!』」

 

だがシンが言葉を被せる。頑固で、瞳には一片の迷いもない。

 

「いやいや重量オーバーだって!」

 

『なんとかなる!』『します!』

 

アスランとシンの声が重なり、通信がノイズ混じりに震える。

その瞬間、インパルスの機体が大気の圧力に軋み、コックピット全体が震えた。

シンの額から汗が滴り、視界を曇らせる。だが彼は拭う暇もなく、操縦桿を握りしめる。

 

「……お、おう」

 

勢いに気圧されながらも、アマキは返事だけは絞り出した。

◇◇◇

 

 

「艦長!空力制御が可能になりました!」

 

ブリッジに緊張が走る。ミネルバは大気圏突入を終え、ようやく制御を取り戻しつつあった。

 

「主翼展開!操縦、あわてるな」

 

タリア・グラディス艦長の声が冷静に響く。

 

「主翼展開します。大気圏内推力へ移行」

 

「通信、センサーの状況は?」

 

「駄目です。破片落下の影響で電波状態が……」

 

「レーザーでも熱センサーでもいいわ。インパルスとザク二機を探して!」

 

艦内の空気がさらに張り詰める。

誰もが、あの三機の無事を信じたいと願っていた。

 

「彼らも無事に降下していると…?」

 

タリアは一瞬だけ目を伏せ、そして静かに言った。

 

「平気でタンホイザーを撃っておいて何をいまさらと思うかもしれないけれど、信じたいわ。それに、あのアマノって子はしぶとそうだもの」

 

「センサーに反応!」

 

「7時の方向、距離400!これは―――インパルス?いや……」

 

「光学映像出せる!?」

 

「はい!待ってくださいっ」

 

スクリーンに映し出されたのは、雲間を漂う三機のモビルスーツ。

その中央には、両腕でザクを抱えたインパルスの姿があった。

 

「アスランン!アマノっ!!」

 

「ザク二機も無事だっ!」

 

「アーサー!発進信号で合図を!マリク、艦を寄せて。早く捕まえないと、あれじゃいずれ三機とも海面に激突よ!」

 

マリクの操縦するミネルバが、三機に向かって加速する。風圧と重力に抗いながら、艦はその巨体を傾け、彼らのもとへと迫った。

 

「ハッチ開け!インパルス、ザク二機、着艦するわよ!」

 

艦底のハッチが開き、迎え入れる準備が整う。

その瞬間、インパルスが機体を傾け、両腕に抱えたザクを支えながら、慎重に艦内へと滑り込んでいく。

負傷したザクがもう一機のザクを抱えて――インパルスは、見事な操縦でミネルバへの着艦を果たした。

ブリッジに歓声が上がる。

タリアは静かに目を閉じ、胸の奥で安堵の息をついた。

 

◇◇◇

 

ドックへと収容された機体が、軋む音を立てて静止する。ハッチが開くと同時に、アマキが真っ先に飛び出した。

そのまま駆け足でアスランのもとへ向かう。

遅れて、機体の腹部からワイヤーでアスランが降下してくる。彼らを待っていた整備員とルナマリアが、安堵と喜びの表情で迎えた。

だがその着地とほぼ同時に、ルナマリアを押しのけて金色の閃光が飛び込んできた。

 

「アスランっ、アマノ!」

 

「ふげっ」「ごふっ」

 

カガリは一国の首相とは思えぬ勢いで、二人に全力で抱きついた。

その衝撃に、二人は同時に呻き声を上げる。

 

「カガリ~離して~。中身が、出ちゃう……」

 

パイロットスーツの締め付け。帰還直後の疲労。そしてカガリの全力ハグ。

三重苦にアマキの顔が青ざめる。

周囲の整備員たちは、彼女の“これから”を察し、そっと距離を取った。

 

「え、うわ、大丈夫か!?」

 

カガリが慌てて身を引き、アマキの肩を支える。

 

「うっぷ、も、だめ……」

 

「まだ吐くなよ、まだ吐くなよ!?」

 

アスランが周囲を見回し、袋か何かを探す。だが、こういう時に限って、何もない。

誰かがバケツを探しに走ったのが視界の端に映る。その瞬間――艦がぐらりと揺れた。

 

「な、なに!? まだ何か?」

 

「地球を一蹴してきた、最初の落下の衝撃波だ。おそらくな」

 

レイの冷静な声が響く。

だが、次の瞬間にはその冷静さも吹き飛ぶような光景が訪れた。先ほどの衝撃で、アマキの限界が来た。

 

「うぅおぼぼぼぼ~~~!」

 

カガリがアスランから奪い取ったヘルメットに、アマキが見事な放物線を描いて、盛大に吐き出した。

艦内に、しばしの沈黙が訪れる。

 

「……俺の、ヘルメット……」

 

アスランが呆然と呟いた。

ルナマリアはそっと目を逸らし、レイは無言で一歩後退した。

カガリはアマキの背をさすりながら、申し訳なさそうに笑っていた。

そして、誰もが思った。

――この艦で一番の衝撃波は、たぶん今だったはず。

 

◇◇◇

 

プラントの首都アプリリウス・ワン。

評議会議事堂の一室にて、ギルバート・デュランダルは静かに報告を見つめていた。

スクリーンには、世界各地の惨状が映し出されている。

燃え上がる都市、崩れ落ちる施設、混乱する人々。文明の象徴が、次々と崩れていく。

彼は、誰に語るでもなく、静かに言葉を紡いだ。

 

「ローマ、上海、ゴビ砂漠、ケペック、フィラデルフィアに大西洋北部もだ。人類の文明が築き上げた都市が、今や炎と混乱の中にある」

 

その声は穏やかだったが、その響きは重く、室内の空気を支配していた。

 

「死者の数もまだまだ増えるだろうというのだから、傷ましいものだ」

 

彼の傍らには、桃色の髪を揺らす少女が静かに座っていた。

その姿は、かつてのラクス・クラインを思わせる。

だが、彼女は何も語らず、ただ議長の言葉に耳を傾けていた。

 

「これからだな。本当に大変なのは」

 

デュランダルは彼女に目をやり、わずかに微笑む。

彼が目指す世界には、まだ手駒が足りない。だが、その可能性を秘めた者には、すでに目星をつけている。

いずれ、彼の方から自分を訪ねてくるだろう。

自らの役割に気づき、道を求めて。――道に迷いし者にとって、自分は光であると。

彼は、そう確信していた。

 

◇◇◇

 

ミネルバは降下を終え、ついに海面へと突入した。

轟音とともに艦体が大きく揺れ、甲板を伝って衝撃が艦内全体に走る。

 

『警報! 総員、着水の衝撃に備えよ!』

 

スピーカーからタリアの声が響き渡り、クルーたちは息を詰めて身構える。

次の瞬間――水柱が立ち、艦体が海面に沈み込むように揺れた。だが、想定よりも衝撃は軽く、艦は安定を保った。

 

『着水確認……艦長、警報解除!』

 

アーサーの報告が流れると、緊張に固まっていたクルーたちの肩が一斉に落ち、安堵の吐息が艦内に広がった。誰かが小さく「助かった」と呟き、別のクルーは額の汗を拭う。

 

『現在、全区画に浸水は認められない。しかし今後も警戒を要する。ダメージコントロール要員は下部区画へ!』

 

次の指示が飛ぶ。技術スタッフたちは即座に工具を抱え、靴音を響かせながら通路を駆け抜けていった。

 

カガリは心理的ダメージの深いアスランを主に心配していた。アマノは見た目が平気そうなので放置――だが後でマリューの代わりにお仕置きは実行されるだろう。主に説教である。周囲の目もあるため、今は控えている。

皆が、デッキに出て広大な海を眺める中、カガリは着替え終わったアスランとアマキの傍らに歩み寄り、声を落とした。

 

「大丈夫か? 二人とも。怪我は?……アマノが吐いた以外に」

 

「ああ……大丈夫だ。俺のヘルメット以外は」

 

アスランは肩を落とし、短く答える。その視線はまだ揺れていた。アマキはお腹を押さえながらも、ケロッとした顔で場違いな調子を崩さない。

 

「うん。まぁ全部出しちゃったから、お腹が空いたかな」

 

「アマノの台詞は置いといて……何かあったんだな?」

 

カガリが確認するように尋ねると、アスランは表情を曇らせ、静かに頷いた。

 

「……ああ……」

 

「わかった。後で教えてくれ。今は休もう」

 

その気遣いに、アスランは小さく返事をして格納庫を後にする。

 

「ああ」

 

「アマノも来い(説教してやる)」

 

「うん?うん」

 

説教されるとは思わないアマキは素直に二人の後を付いていった。

――そして後で、しこたま説教される。

その後、げっそりとした顔つきで「痩せた気分」になったアマキは、さらに腹を減らしていた。実際には元気そのものだ。

顔色を取り戻したアマキは、シンに礼を言うため艦内を走り回り、行く人行く人にシンの居所を尋ねる。ようやく部屋で休んでいるシンを見つけると、勢いよく扉を開けて突撃訪問した。

出迎えたシンは少しくたびれた顔をしていて、意外な訪問客に目を丸くして驚いた。

 

「アマノ、さん……、え、どうして…」

 

「……シン!助けてくれてありがとう!直接お礼を言いたかったんだ」

 

面と向かって笑顔でそう言われてどこかこそばゆい気がしたシン。

 

「いや、アマノさんが無事で良かったです。……それで、あの、上での出来事なんですけど……」

 

「そうだね。今は疲れてて、お互いにまともに思考が働かないし……腹ごしらえとでも行きますか!」

 

「え、え?」

 

アマキは戸惑うシンの腕をぐいっと引っ張り、半ば強引にランチルームへと連れ出した。吐いていた人間とは思えない軽快さである。

ランチルームに着くと、アマキはよそ者であることをすっかり忘れ、好きな料理を次々と皿に盛り始めた。減量のために食事制限していたはずなのに、カガリの護衛という名目を盾に、遠慮なく食べている。これがキラたちと再会したとき、痛手となるのは必至だ。

 

「おいしー!今のうちに食べとかないと!」

 

「俺も俺も!」

 

天真爛漫に頬張る二人の姿は、まるで姉弟のよう。殺伐とした空気が続いていた艦内に、久々に柔らかな笑いが広がる。周囲のクルーたちは、思わず目を細めてその光景を見守っていた。

 

◇◇◇

 

通信越しに軽口を叩く男たち。世界が受けた打撃など、彼らにとっては取るに足らぬ出来事なのだろう。まるで他人事のように笑い合う。

 

『やれやれ、大分やられたな』

 

『パルテノンが吹っ飛んでしまったわ』

 

ジブリールは相変わらずシェルターに籠り、暗い室内で巨大モニターを四面に並べていた。各国の災害の爪痕が同時中継され、瓦礫と炎の映像が絶え間なく流れている。彼は椅子に深く腰を下ろし、ワイングラスを軽く揺らしながらブルーコスモス繋がりの男たちと会談していた。

 

「あんな古臭い建物、なくなったところで何も変わりはしませんよ」

 

ジブリールは指先でグラスの縁をなぞり、冷笑を浮かべる。その仕草は、まるで退屈な雑談をしているかのように軽い。

 

『――でどうするのだ。ジブリール』

 

『デュランダルの動きは早いぞ。奴め、もう甘い言葉を吐きながら、何だかんだと手をだしてきておる』

 

モニターの一つには、演説に立つデュランダルの姿が映し出されていた。悲しみを宿した表情ながらも、その声は落ち着き、聞き入る者の心を掴んでいく。彼は両手を広げ、聴衆に寄り添うような仕草を見せていた。

 

『――受けた傷は深くまた悲しみも果て無いものと思いますが、でも、どうか地球の友人たちよ。どうかこの絶望の今日から立ち上がってください。同胞の想像を絶する苦難を前に、我らも援助の手を惜しみません』

 

ジブリールはゆっくりと立ち上がり、キーボードを操作する。指先がキーを叩くたびに、モニターに新たな映像が映し出される。彼は椅子の背から身を離し、通信相手に向けて画面を傾けるようにして見せつけた。

 

「もうお手元に届くと思いますが…。ファントムペインがたいへん面白いモノを送ってくれました」

 

映像には、ユニウスセブンの発端がザフトにあることを示す証拠が映し出されていた。複数のジンが落下の手引きをしている様子が、鮮明に記録されている。

 

『む、これは』

 

『やれやれ、結局はこういうことか』

 

ジブリールは口元に笑みを浮かべ、ワイングラスを持ち直す。赤い液体が揺れ、光を反射して艶めく。

 

「思いもかけぬ、最高のカードです」

 

彼はグラスを高く掲げ、冷酷に言い放つ。

 

「これを許せる人間など、この世のどこにもいやしない。そしてそれは、このうえなく強き我らの絆となるでしょう。今度こそ、奴らのすべてに、死を――です」

 

「青き清浄なる世界の為にね」

 

グラスの中の赤は、まるで血のように艶めき、ジブリールの笑みを妖しく照らしていた。

 

◇◇◇

 

ミネルバのブリッジ。丁度雨天だった。

計器のランプが淡く点滅し、粉塵に覆われた外界を映すモニターは灰色に霞んでいた。艦内に響く電子音が、沈黙をさらに重くする。

 

「――やはり駄目です」

 

バートが困惑の表情で頭を振る。指先は通信パネルのスイッチを何度も押していたが、応答なしの赤が点滅するだけだった。

 

「粉塵濃度が濃すぎて……今はレーザー通信も届きません」

 

「そうか、すまない」

 

短く答えたのはカガリだった。椅子の肘掛けを握りしめる手に力がこもり、爪が白くなる。オーブとの通信を試みてもらっていたが、やはり駄目だった。

タリア艦長が静かに言葉を添える。

 

「いえ、島国ですものね。ご心配は当然ですわ」

 

彼女は背筋を正し、落ち着いた声で場を支える。

カガリは苦い表情を浮かべ、視線を床に落としながら低く呟いた。

 

「到着したら、その勇気と功績に感謝してミネルバにはできるだけの便宜を図るつもりでいたが……これでは軽く約束もできないな。許してくれ、艦長」

 

タリアは首を振り、視線をまっすぐに返す。

 

「いえ、そのようなことは……」

 

艦橋の空気は重く、誰もが言葉を失っていた。オペレーターたちは手を止め、ただモニターを見つめる。通信不能という事実が、外界との隔絶を強く意識させる。灰色の世界は、まるで艦を孤立させる壁のように広がり、ブリッジの中に静かな緊張を閉じ込めていた。

 

◇◇◇

 

アスランはアマキに腕を引っ張られ、半ば強制的に甲板へ連れ出された。雨もやんで落ち着き、潮風が髪を揺らし、艦内から響く銃声音に思わず肩を跳ねさせる。だがすぐに射撃訓練規定を思い出し、深く息を吐いて落ち着きを取り戻した。

 

「へぇ、外でやるんだね」

 

アマキは身を乗り出すようにして訓練場を覗き込み、目を輝かせる。

 

「普通は室内だがな」

 

アスランは腕を組み、視線だけで応じた。

その時、レイ、ルナマリアが銃を構えながら振り返り、声を掛けてきた。

 

「あら。いらっしゃったんですね。どうせなら外の方が気持ちいいって。でも調子が悪いわ。……一緒にやります?」

 

「いや、俺は」

 

「はーい!やりますやります」

 

アスランの言葉を遮るように、アマキが手を挙げて前へ飛び出す。ルナマリアの眉がぴくりと動き、口元が険しくなる。

 

「貴方には言ってないんですけど」

 

「自分よりも腕前が上だってビビってるんだ~」

 

アマキはわざとらしく肩をすくめ、口元を押さえてぷぷ~っと笑いをこらえる仕草を見せる。ルナマリアは銃を下げ、腰に手を当てて噛みつくように言い返した。

 

「はぁ~?そういうなら見せてもらえますか?どうせ素人さんでしょうけど。その体で的なんて狙えるんですかぁ?」

 

「へんっ!体は関係ないっつーの」

 

アマキは腰に手を当て、挑発的に顎を突き出す。

 

「アマノ、挑発に乗るな」

 

アスランが眉間に皺を寄せて窘めるが、

 

「アスランはだまらっしゃい!」

 

アマキは振り返りざまに指を突きつけ、目を据わらせて言い放った。

 

「う……(あーあ、俺は知らないぞ)」

 

アスランは両手を上げて降参の仕草を見せる。

 

「一人でセットできますかぁ?」

 

ルナマリアが小馬鹿にしたように腕を組む。

アマキは拳銃を受け取り、カチャリとスライドを引いて弾を確認すると、低い声で返した。

 

「黙ってみてな、お嬢ちゃん」

 

「なっ!」

 

彼女は片足を引いて姿勢を整え、ザフト製式拳銃を片手で構える。海風に髪をなびかせながら、標的へ鋭い視線を送る。

ずがん、ずがん!――乾いた銃声が連続して響く。

 

標的の頭部に次々と穴が開き、紙片が風に舞った。全弾、ヘッドショット。

 

甲板は一瞬、静まり返る。

 

ルナマリアもメイリンも、口を半開きにしたまま絶句していた。

アマキは銃を軽く回してホルスターに収め、肩をすくめてみせる。

 

「ほらね。体なんて関係ないって言ったでしょ?」

 

ルナマリアの頬が引きつり、悔しさと驚きが入り混じった表情になる。アスランは深いため息をつき、心の中で「また面倒なことになった」と呟いていた。

 




カガリのお仕置きは毎回キツいけど慣れ出るので精神的にダメージは浅い。
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