腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
月面アルザッヘル基地のオペレーションフロアは、いつも以上にざわついていた。
端末の光が反射する白い床、行き交う兵の足音、そして緊急度の高い報告が次々と飛び交う。
「コンテナリスト、R34~R42は積み込み完了。レダニアフ搭乗のモビルスーツパイロットは第35ブリーフィングルームに集合して下さい」
オペレータの声が、乾いた電子音と混ざって場内に響く。
「第34~37エレベーターは17時から18時の間、閉鎖されます」
「シャトル608便が12番ゲートに到着します」
核ミサイルがおびただしい数が用意されていた。
「第4ダガーL部隊の補充パーツ、搬入完了しました」
投入される機体の数。
報告が重なるたび、フロアの空気はさらに張り詰めていく。
誰もが“何かが始まる”予感を共有していた。
そしてプラント政府。――その中心にある最高評議会では、すでに火花が散っていた。
タカオは椅子から半ば立ち上がり、机に両手をついた。額には怒りと焦燥の汗が滲んでいる。
「全く以て話にならん! 一体何をどう言ってやれば、彼等に分かるのかね」
声が壁に跳ね返り、室内の空気を震わせた。
オーソン・ホワイトは、深く息を吐きながら背もたれに体を預ける。
その目は冷めているが、どこか諦めの色も混じっていた。
「何を言ったって分からないんじゃないですか? そもそも最初からそんな気などなかったように思えます。これではッ…」
ノイはタブレットを見やりながら抑えきれない怒りがにじみ出ている。
「何を今更、テログループの逮捕引き渡しなどと。既に全員死亡しているとのこちらからの調査報告を大西洋連邦も一度は了承したではありませんか!」
リカルドは静かに資料をめくりながら、低い声で言った。
その冷静さは、むしろ怒りの深さを際立たせる。
「その上賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣とは。とても正気の沙汰とは思えん」
オーソンは鼻で笑い、指先で机を軽く叩く。
そのリズムは皮肉そのものだった。
「奴等だって、こちらが聞くとは思ってないでしょうよ。要は口実だ。例によってプラントを討ちたくて仕方がない連中が煽っているのでしょう。宇宙にいるのは邪悪な地球の敵だとね」
ノイは椅子の背に寄りかかり、天井を見上げる。その目には、理解不能な現実への戸惑いが浮かんでいた。
「しかし、いくらなんでもこれは無謀です。連合は、本気でこのまま戦端を開くつもりなのでしょうか。今そんなことをすればむしろ彼等の方が…」
「従わなければそうすると言ってきているではないか、現に!」
タカオが言葉を遮るように怒鳴った。拳が机を叩き、鈍い音が響く。
リカルドは視線を資料から上げ、淡々と告げる。
その冷静さが逆に場の緊張を深めた。
「月の戦力は無事らしい。被害の大きかったのは赤道を中心とした地域だ。大西洋連邦とユーラシアは元気なものさ」
オーソンは乾いた笑いを漏らし、肩をすくめる。
「戦争となれば消費も拡大するし、憎むべき敵が明確であれば意欲も湧く。昔から変わらぬ人の体質ですよ」
ノイは小さく首を振り、声を失いかけていた。
「しかし…それにしてもこれは…」
タカオは深く息を吸い、吐き、そして静かに言った。その声は怒りではなく、覚悟の色を帯びていた。
「やると言っているのは向こうですよ。我々ではない」
その言葉が落ちた瞬間、会議室の空気は凍りついた。
誰もが理解していた。――この沈黙の先にあるのは、戦争だ。
円形議場は、いつになく騒然としていた。
議員たちのざわめきが天井の反響板にぶつかり、低い唸りとなって渦巻く。
資料を叩きつける者、隣席と激しく言い争う者、ただ不安げに周囲を見回す者。
誰もが“戦争”という言葉を口にこそしないが、その影が議場の中央に濃く落ちていた。
そのざわめきを切り裂くように、ギルバート・デュランダルが静かになだめようとする。。
「皆さん」
その一言だけで、空気がわずかに収束する。
しかし沈静には程遠い。
タカオが椅子を軋ませて立ち上がり、拳を握りしめた。
「弱腰では舐められる」
アリー・カシムが続くように声を上げる。その表情は焦りと怒りが入り混じっていた。
「ともかく、こちらも直ぐに臨戦態勢を」
オーソンは苛立ちを隠さず、机を指で叩きながら言い放つ。
「いや、それではあまりにも遅い」
議場の温度が一気に上がる。
怒り、恐怖、焦燥――それぞれが勝手に燃え広がり、議員たちの声は再び混線し始めた。
デュランダルはそこで椅子から立ち上がり、まるで騒ぐ子どもたちを宥める教師のように、しかし威厳を失わずに言葉を紡ぐ。
「どうか落ち着いて頂きたい。皆さん。お気持ちは解りますが、そうして我等まで乗ってしまってはまた繰り返しです。連合が何を言ってこようが我々はあくまで、対話による解決の道を求めていかねばなりません。そうでなければ、先の戦争で犠牲となった人々も浮かばれないでしょう」
その声音は穏やかだが、議場の空気を確実に握っていた。
しかしリカルドは納得できず、身を乗り出して反論する。
その目には現実的な危機への恐怖が宿っていた。
「だが、月の地球軍基地には既に動きがあるのだぞ。理念もよいが現状は間違いなくレベルレッドだ。当然迎撃体制に入らねばならん」
再び議場がざわめく。デュランダルは眉をわずかに寄せ、しかし声は崩さない。
「軍を展開させれば市民は動揺するでしょうし、地球軍側を刺激することにもなります」
「議長!」
リカルドが立ち上がり思わず声を荒げる。
その一言には、焦燥と“止められない現実”への恐怖が滲んでいた。
デュランダルは静かに彼を見つめ、少しだけ目を伏せる。
「でも、やむを得ませんか。我等の中には今もあの血のバレンタインの恐怖も残っていますしね。」
その言葉に、リカルドは息を呑んだ。
「…っ!」
議場のざわめきが、今度は不安と記憶のざわめきへと変わる。デュランダルは議場全体を見渡し、ゆっくりと締めの言葉を放つ。
その声は柔らかいが、逃れられない重さを持っていた。
「防衛策に関しては国防委員会にお任せしたい。それでも我等は、今後も対話での解決に向けて全力で努力していかねばなりません。こんな形で戦端が開かれるようなことになれば、まさにユニウス7を落とした亡霊達の思う壺だ。どうかそのことをくれぐれも忘れないで頂きたい」
その瞬間、議場のざわめきは静まり、誰もが“亡霊”という言葉の意味を噛みしめていた。
◇◇◇
アスランはプラント本国へと上がり、宇宙港で出迎えてくれたオーブ大使館員がアスランに歩み寄る。どことなく雰囲気が張り詰めた糸のように細く、冷たく感じられる。
「アレックスさん」
.
彼の表情には疲労と緊張が滲んでいる。アスランも出迎えてくれた大使館員のもとへ漂いながら向かう。
「すみません。状況はどうなっていますか?」
カガリはプラントへアスランを送ったが、その身分は大使というものだ。
眼鏡をかけた彼はアスランを先導しながら説明をしてくれた。
「良くありませんよ。プラント市民は皆怒っています。議長は、あくまでも対話による解決を目指して交渉を続けると言っていますが、…それを弱腰と非難する声も上がり始めています」
アスランは言葉を返せず、視線を床に落とした。
市民の怒り、議会の混乱、そして地球側の圧力――その全てが胸に重くのしかかる。
「……」
彼は、アスランの沈黙を理解したように小さく頷く。
地上へと向かうエレベーターへと移り地上を目指す中、重苦しい雰囲気は変わらずだ。
「アスハ代表の特使と言うことで早急にと面談は申し入れてはいますが、この状況ではちょっとどうなるか判りませんね」
アスランは深く息を吸い、顔を上げた。
その瞳には迷いと、それでも前に進もうとする意志が宿っていた。
「分かりました」
勢いで飛び出してきたが、何も変わらない。だが何かせずにはいられないのだ。
わずかばかりでも道があるのなら諦めていられるかとアスランは腹をくくる覚悟で返答をした。
◇◇◇
ロード・ジブリールはシェルターの中にあるいつもの椅子の背にもたれ、膝に座る愛猫を撫でながら通信越しに大統領に尋ねた。
「さて。それで──具体的にはいつから始まりますか、攻撃は」
大西洋連邦大統領は眉をひそめ、苦笑を浮かべる。
「そう簡単にはいかんよ、ジブリール。せっかちだなぁ君も」
「ふ」
ジブリールは鼻で笑っただけで、続きを促すように視線を向ける。
「プラントは未だに協議を続けたいと様々な手を打ってきておるし、声明や同盟に否定的な国もあるのだ。そんな中、そうそう強引なことは……」
「おやおや、前にも言ったはずですよ」
ジブリールは余裕そうな態度で言い返す。
「そんなもの、プラントさえ討ってしまえば全て治まると」
大統領は深いため息をついた。
「はぁ……」
「奴らがいなくなった後の世界で、一体誰が我々に逆らえると言うんです?」
ジブリールはわざとらしく列挙する。
「赤道連合?スカンジナビア王国?あぁ、怖いのはオーブですか」
黒猫が退屈話に飽いたようにジブリールの膝から「ミャオ」と鳴いて飛び降りた。
「あの国は、まぁな……」
大統領は気まずそうに視線をそらす。
「ふん。あんなちっぽけな国」
ジブリールは猫を一瞥し、続ける。
「世界はもう“システム”なんですよ。だから創り上げる者と、それを管理する者が必要だ。人が管理しなければ庭とて荒れる。誰だって自分の庭には好きな木を植え、芝を張り、綺麗な花を咲かせたがるものでしょう? 雑草は抜く。所構わず好き放題に草を生えさせて、それを美しいと言いますか?これぞ自由だと?」
お気に入りのグラスにロックアイスを入れ舌に馴染んだ酒をゆったりと注ぐ。
「ジブリール……」
大統領の声には、わずかな恐れが滲む。
「人は誰だってそういうものが好きなんですよ。きちんと管理された場所、物、安全な未来」
ジブリールの声は甘く、しかし冷たい。上階の上等な黒張りのソファに足を組んで座る。
「今までだって世界をそうしようと人は頑張ってきたじゃないですか。街を造り、道具を作り、ルールを作ってね。そして今、それをかつてないほどの壮大な規模でやれるチャンスを得たんですよ?」
ジブリールの隣に飛び込んできた黒猫が再び「にゃぁ」と鳴く。
「我々は」
ジブリールはゆっくりとグラスを掲げ、これからの勝利を祝うかのように言った。
「だからさっさと奴らを討って、早く次の“楽しいステップ”に進みましょうよ。我々ロゴスのための美しい庭──新たなる世界システムの構築というね」
大統領は言葉を失い、ただ沈黙だけが部屋に落ちた。
◇◇◇
地球──カガリの別邸では、誰もが眠れぬ夜を過ごしていた。
情勢は日ごとに揺れ動き、自分たちの立場がいつ崩れてもおかしくない。
大人たちは子供たちを守る責任と、かつてプラントを裏切ったという負い目の狭間で、今後どう動くべきか慎重に意見を交わしていた。
場合によっては、再びプラントへ戻る選択肢すら考えねばならない。
一方その頃──アマキたちは、子供三人を交えて一緒に眠っていた。
皆が安心できるようにと用意されたクィーンサイズのベッドに、小さな身体が寄り添い合い、その中心にアマキがいる。
「ぐ~~」
子供にくっ付かれて暑そうにしているアマキの姿が微笑ましくて、キラは思わず小さく笑った。
「……ここだけは、まるで平和って感じだなぁ」
「ええ。わたくしたちの宝は、ちゃんと帰ってきましたもの」
「いろいろ考えるのは明日にして、今日は寝ようか」
「ええ。おやすみなさい、キラ」
「うん。おやすみ」
子供たちの寝息は穏やかで、その温もりが部屋の緊張をわずかに和らげていた。
キラもラクスも胸の奥に不安を抱えていることに変わりはない。
だが今は──アマキが無事に帰ってきてくれたという事実だけが、二人の心を支えていた。
その安堵に身を委ねるように、二人は浅い眠りへと落ちていった。
◇◇◇
地球軍宇宙艦隊はついに目標を定め動き出した。その情報は瞬く間にプラント内を駆け巡っていく。デュランダル議長やカガリもその情報に急ぎ行動を開始していた。戦局が動き出したのだ。ザフト軍も慌ただしく迎撃準備に追われ、多くの機体が宇宙へと出る。
大西洋連邦大統領が全世界へ向けた緊急声明で述べたことはプラントへの宣戦布告だった。
「…が、未だ納得できる回答すら得られず、この未曾有のテロ行為を行った犯人グループを匿い続ける現プラント政権は、我々にとっては明かな脅威であります。よって先の警告通り、地球連合各国は本日午前0時を以て、武力による此の排除を行うことをプラント現政権に対し通告しました」
同時にオーブ港に入港しているミネルバ内も慌ただしく開戦に向けた戦闘準備に追われ皆に緊張感が走っていた。
「コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令。艦内警備ステータスB1。以後部外者の乗艦を全面的に禁止します。全保安要員は直ちに配置について下さい」
「開戦!?そんな…」
休んでいたシンはショックを受けたようにベッドから起き上がった。
◇◇◇
宇宙では激しい戦闘が開始されている裏でデュランダル議長の執務室では情報収集に錯綜していた。
「防衛軍の司令官を!最終防衛ラインの配置は?」
「全市、港の封鎖、完了しました」
議員や秘書官らが対応に追われる中、デュランダル議長は冷静に適格な指示を出していく。
「警報の発令は!?」
「パニックに備え軍のMPにも待機命令を!」
「脱出したところで、我等には行く所などないのだ!」
デュランダルの言葉は切迫しており、それを聞いた議員たちも言葉に詰まる。宇宙に住まう彼らにとって安息の地とは。母なる大地を追われ、永久の住処としての場所も奪われようとしている。そんな理不尽なことが許されるのか。
「なんとしてもプラントを守るんだ!」
デュランダルはその思いを込めて全兵士たちに託した。
◇◇◇
激しい攻防の中、ひと際目立つオレンジカラーの機体ブレイズザクファントムが華々しい勝利を繰り広げている中で、後方ゴンドワナから。オペレーターからの指示によりジュール隊が出撃する。
「シエラアンタレス1、発進スタンバイ。射出システム、エンゲージ」
先行は隊長であるイザークだった。ブルーでカラーリングされたスラッシュザクファントムである。
『結局はこうなるのかよ、やっぱり。こちらシエラアンタレス1、ジュール隊イザーク・ジュール、出るぞ!』
続いて緑のザクに搭乗するのはディアッカだった。
『ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ザク発進する!』
岩壁にひっそりと姿を忍ばせていたのは地球軍の奇襲部隊であり、今か今かとその時を待ち望んでいた。彼らには秘密兵器がある。すべての生き物を滅せることができる非情の武器が。
「本隊、戦闘を開始しました」
「よーし、予定通りだな。こちらも行くぞ。この蒼き清浄なる世界に、コーディネーターの居場所などないということを今度こそ思い知らせてやるのだ!」
ブルーコスモスの思想にとりつかれた指揮官の指示を皮切りに次々と艦隊が姿を現す。核を搭載した量産機型ウィンダムが放たれプラントへ襲い掛かろうとしている。別動隊が着々と進行を開始している間にもイザーク達は正面で地球軍らと激しい交戦を続けていた。能力的に差はあれど数で勝るのが地球軍だった。
ゴンドワナCICでは続々と戦況の報告がオペレータにより上がっていた。
「地球軍、モビルスーツ隊20、第二エリアへ侵攻中。第三管軍はオレンジ、ベータ15へ」
戦局を行く末を一変たりとも見逃さぬようにモニターを見つめる高官ら。
「敵主力隊の狙いは、やはり軍令部をアプリリューズか」
「だがまだ解らん!敵艦の動き、どんな小さなものでも見逃すな!」
「哨戒機からの報告は?」
受話器片手に敵の動向を探ろうとする。そこでオペレータより新たな情報が告げられる。
「極軌道哨戒機より入電。敵別働隊にマーク5型、核ミサイルを確認!?」
これには高官らも椅子を蹴るような勢いで飛び上がった。
「なんだと!?」
「数は!?」
「不明ですが、かなりの数のミサイルケースを確認したとのことです!」
現場に近い艦の司令官へ伝達されたその情報は彼らを震え上がらせるものだった。何としてでも守らなくてはならない。その気迫はどの兵らも同じだった。
「全軍、極軌道からの敵軍を迎撃せよ!奴等は核を持っている。一機たりともプラントを討たせるな!」
イザークとディアッカにも事実が伝えられるとその事実に愕然とする。
『核攻撃隊?極軌道からだと!?』
『じゃぁこいつらは、全て囮かよ!』
奴らはすぐ目の前にまでその脅威を広げようとしている。焦りがイザーク達を駆り立てる。
『目標、射程まで距離90』
『くっそおおぉぉ!!』
悔しさを噛みしめるようにイザークが絶叫し、スラスタを限界まで吹かして機体を急旋回させる。
周囲のザフト機も一斉に加速し、白い残光を引きながら防衛ラインへ殺到していく。
――間に合え。
その願いが、叫びが、通信回線に重なって響く。
ニュートロンスタンピーダー装備ナスカ級の艦橋では、オペレーターたちが緊張感の中慌端末を操作していた。
「全システム、ステータス正常!量子フレデル、ターミナル1から5まで左舷座標オンライン!作動時間7秒!グリッド、標的を追尾中!」
艦長は前方スクリーンを睨みつけ、拳を強く握る。この勝負ですべてが決まるからだ。
「一発勝負だぞ。最大まで引きつけろ、いいか!」
「フルチャージオンライン!ニュートロンスタンピーダー起動!」
艦体が低く唸り、甲板全体が震える。前方に備えた巨大な装置が淡く光を帯び始めた。
そしてその不可思議な光景を敵奇襲部隊戦艦が捉えていた。
「レッド22ベータにナスカ級3。ですが、一隻は見慣れぬ装備を着けています」
「ん?」
だがその報告を最後の悪あがきと気にもとめなかった司令官。
そして核の雨は一斉にプラントへ放たれた。蒼き清浄なる世界の為にと叫ぶパイロットたちによって。
その光景を何とか阻止しようとミサイルを飛ばすイザーク達。だがその膨大な数全てを爆破することは事実上不可能だった。
『くっそおぉぉ!間に合わん!あぁ…』
『あぁ…』
もうすべて終わってしまうのか。絶望感がイザーク達を襲う。だがデュランダルの秘策がついに発動した。
「スタンピーダー、照射!!」
「照射!!」
次の瞬間、前方から白い閃光が奔り、空間そのものを焼き切るように広がった。
衝撃波が周囲のデブリを弾き飛ばし、通信が一瞬ノイズに包まれる。そしてそれは地球軍戦艦にも襲い掛かりあっという間に白い爆発の中に巻き込まれていった。目を覆うばかりの膨大な光の連鎖にイザーク達はただ茫然とするばかりだった。
『なんだ…一体何が…』
同時刻──デュランダル議長の執務室。
大型モニターに映し出された戦況が更新され、室内の空気が一瞬止まった。
「核ミサイルは全て撃破。各攻撃隊は完全に消滅しました」
その報告に、議員たちの間から押し殺したような安堵の息が漏れる。
肩を落とす者、胸に手を当てる者──緊張がわずかに解けていく。
「スタンピーダーは量子フレデルを蒸発させ、ブレーカーが作動。現在システムは停止状態です」
「まったく……堪らんな」
「スタンピーダーが間に合ってくれて良かったですわ」
「だが、虎の子の一発だ。次はこうはいかんぞ……」
そのざわめきの中、デュランダルは静かにモニターを見つめたまま口を開く。
「これで終わってくれるといいんですがね……とりあえずは」
その声音には、安堵よりも“次を見据える冷静な警戒”が滲んでいた。
議員たちはその含みを察し、再び室内の空気が引き締まっていく。
◇◇◇
アスランは議長との面会を数時間待たされ、とある別室で待機していた。
港は封鎖され、市内には戒厳令が敷かれている。地球軍が攻撃を仕掛けてきているらしいが、詳細な情報は一切入ってこない。
同行している大使館員も落ち着かず、部屋の中をそわそわと歩き回っていた。
「んー……ん?」
勢いだけでここまで来てしまったが、今の状況でデュランダル議長に会える可能性は低い。
アスランは気持ちを切り替えるため、洗面所へ向かおうと腰を上げた。
「ちょっと顔を洗ってきます」
「はい」
冷たい水で顔を洗い、深呼吸をして気を紛らわせようとする。
だが胸の奥のざわつきは消えず、自然とため息が漏れた。
「はぁ……」
洗面所を出た瞬間、廊下の奥から人の話し声が聞こえた。
その声を耳にした途端、アスランは足を止める。
(……この声は?)
「ええ、大丈夫。ちゃんと解ってますわ。時間はあとどれくらい?」
アスランは眉をひそめ、声のする方向へ歩き出す。
待合室を通り過ぎ、さらに廊下を進むと──
「ならもう一回確認できますわね」
「ハロハロ、Are you O.K.?」
角を曲がった瞬間、ピンク色の髪が視界に飛び込んできた。
アスランは思わず声を上げる。
「ラクス?」
振り返ったその人物は、確かにラクス・クラインの姿をしていた。
だがその服装は見慣れないほどきわどく、アスランは思わず目を見張る。
しかし彼女はそんなことお構いなしに、アスランを見つけるや否や表情をぱっと明るくした。
「あぁ……アスラン!」
「なっ──」
ラクス?は勢いよく駆け寄り、そのままアスランに抱きついた。
柔らかな感触が胸元に押し当てられ、アスランは反射的に受け止めてしまう。
「あーうれしい! やっと来て下さいましたのね!」
完全にペースを乱され、アスランは言葉を失った。
だが──
(アマキに一途なラクスが、俺に抱きつくはずがない)
そう確信した瞬間、アスランは彼女をやや乱暴に引き離した。
「君が……どうしてここに?」
ラクス?はまるで恋人に微笑むような表情で言う。
「ずっと待ってたのよ、あたし。貴方が来てくれるのを」
「………」
アスランの眉がぴくりと動く。
(俺の知ってるラクスは、自分を“あたし”なんて言わない)
胸の奥に冷たい警戒心が走る。
アマキと長く付き合ってきたからこそ、ラクスの癖や言葉遣いには敏感だ。
その違和感が、今はっきりと警鐘を鳴らしていた。
そこへ、ラクス?の付き添いの男が遠慮がちに声をかける。
「ラクス様、時間です」
ラクス?はぱっと振り返り、満面の笑みで手を振った。
「ああ、はい解りました。……ではまた。でも良かったわ。本当に嬉しい、アスラン」
名残惜しそうに言い残し、付き添いの男とともに歩き去っていく。
その後を、赤ハロが元気よく跳ねながら追いかけていった。
アスランはその場に立ち尽くす。
(……一体、何だったんだ?)
胸のざわつきは、先ほどよりもずっと強くなっていた。
「……」
そこへ、長丁場だった会議を終え、数人の議員を伴ったデュランダル議長が廊下を歩いてきた。
その視線が、狐につままれたような顔で棒立ちしているアスランに止まる。
「ん? アレックス君。ああ、君とは面会の約束があったね。いや、だいぶお待たせしてしまったようで申し訳ない」
デュランダルはいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
だがアスランは視線を落としたまま、かすれた声で答える。
「あ……いえ……」
「ん? どうしたね?」
「いえ、なんでもありません……」
言おうとした言葉が喉でつかえた。
先ほどの“ラクス?”の存在が頭から離れない。
なぜここに偽ラクスがいるのか。
そして──それを可能にする立場の人物は誰なのか。
(……議長が関わっている?)
そんな疑念が胸をよぎり、アスランは思わず口を閉ざした。
軽々しく言葉にしてはいけない気がしたのだ。
デュランダルは、そんなアスランの沈黙をじっと見つめていた。
穏やかな笑みの奥に、何を考えているのか読み取れない静かな光が宿っている。
その視線に、アスランの背筋がわずかに強張った。