腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-12血に染まる海

二年前のあの日を終わらせるために、どれだけの人々が戦争終結へ向けて尽力しただろう。

その努力が、今まさに泡となって消えようとしている。

やられたらやり返す。

破壊には破壊を。

その連鎖は止まらず、ザフトは“報復”ではなく“自衛権”と称して地球軍への降下作戦を決行した。

場所はプラント前面の軍事ステーション。

巨大なモニターには、作戦宙域のデータと降下ポイントが淡々と映し出されている。

ザフト高官らが整然と並び、その視線の先でカウントが進められていく。

 

「オペレーション・スピアオブトワイライト、発動マイナス60秒」

 

「射出角度微調整、コンマ3」

 

「オーサー、ドマニシ、カタンダ各隊、射出準備完了」

 

「半径600に敵影なし。カウントダウン続行」

 

緊張がステーション全体を満たし、誰もが息を潜める。

 

「マイナス5、4、3、2……降下開始!」

 

「降下開始!」

 

無数の機体が、光の尾を引きながら闇へと吸い込まれるように降下していく。

戦争は、また新たな地獄の扉を開いた。そして地球軍はザフトからの降下作戦により不意打ちを突かれるのであった。

 

◇◇◇

 

オーブ軍戦闘指揮所。

大型スクリーンには、ミネルバの航跡データが淡々と更新されていく。

張りつめた空気の中、オペレータの声が響いた。

 

「ミネルバ出港しました」

 

ユウナは、やっと厄介払いができたとばかりに胸の内で清々しさを覚えていた。

だが、まだ最後の大仕事が残っている。

カガリに気づかれる前に沈んでくれればいい──そんな黒い願望が頭をよぎる。

 

「かなりの高速艦ということだからな。領海を出るのも直ぐだろう。あちらへの連絡は?」

 

「はっ、既に」

 

あちらとは地球軍のことだ。

オーブと地球軍で挟み撃ちにし、ミネルバを完全に潰すつもりなのだ。

アマキがここにいたら、間違いなくユウナの髪を引っ掴み暴れながら罵倒しているだろう。

“何という野蛮人だ”と。

 

「こちらの配備は終わっているな」

 

「はい」

 

ユウナは椅子に深く腰を預け、鼻で笑うように息を吐いた。

 

「ふん、さあて、どうなることかな?」

 

人が死ぬかもしれない戦場で、ユウナはまるで他人事のようにつぶやいた。

この男の言葉に嫌悪感を抱く部下もいたはずだが、決して口に出すことは許されない。

今、指揮権はこの男にある。

下手をすれば自分の首が飛ぶ──だから誰も口答えしない。

ユニウスセブン落下に尽力し、地球のために奮闘したミネルバにとどめを刺そうと企むオーブ軍。

恩人に仇で返すという、反吐が出そうな状況。

 

果たしてどちらが卑怯なのか──そんなことは、誰もが言わずとも理解していた。

 

◇◇◇

ミネルバはオーブ領域を抜ける途中だった。

操縦士のマリクが前方を凝視しながら声を上げる。陽光がブリッジに差し込み、つかの間の穏やかさを照らしていた。

 

「間もなくオーブ領海を抜けます」

 

タリアは肘掛けに手を置き、わずかに身を乗り出した。

 

「降下作戦はどうなってるのかしらね。カーペンタリアとの連絡は? まだ取れない?」

 

メイリンは端末に向かい、首を横に振りながら答える。

指先は呼び出し操作を止めず、画面を必死に追っていた。

 

「はい。呼び出しはずっと続けているんですが」

 

バートがセンサーを睨みつけ、眉をひそめる。背筋がわずかに強張った。

 

「本艦前方20に多数の熱紋反応」

 

タリアとアーサーが同時に驚き、椅子からわずかに浮き上がる。

 

「ぇ!?」

 

バートは情報を収集しながら、画面を拡大していく。

その手は落ち着いているようで、わずかに震えていた。

 

「これは…地球軍艦隊です。スペングラー級4、ダニロフ級8、他にも10隻ほどの中小艦艇を確認。本艦前方左右に展開しています」

 

モニターに地球軍艦隊の影が次々と浮かび上がる。

アーサーは椅子から半ば立ち上がり、目を見開いた。

 

「ええぇッ!」

 

マリクは操縦桿を握り直し、肩を震わせながら叫ぶ。

 

「どういうことですか!? オーブの領海を出た途端に…こんな…」

 

チェンは舌打ちし、腕を組んだままモニターを睨みつける。

「本艦を待ち受けていたということか。地球軍は皆カーペンタリアじゃなかったのかよ」

 

バートが振り返り、さらに報告を重ねる。

その声は先ほどより低く、緊張が滲んでいた。

 

「後方オーブ領海線にオーブ艦隊」

 

「え!?」

 

まさかの挟み撃ちに、メイリンは顔を青ざめさせ、椅子の背に手をついた。

足元がふらつくほどの衝撃だった。

 

「展開中です。砲塔旋回! 本艦に向けられています!」

 

タリアは息を呑み、拳を握りしめる。

アーサーは喉を鳴らし、顔を青ざめさせた。

 

「そんな! 何故!?」

 

「領海内に戻ることは許さないと。つまりはそういうことよ」

 

タリアは悔しそうに奥歯を噛みしめた。

この卑しき作戦をカガリが決行させたわけではない──それはよくわかる。

どうせ裏で操っている、あの古だぬき親子の仕業だ。

そう思うと、腹の底が煮え立つようだった。

 

「うッ!」

 

タリアは椅子から立ち上がり、コートの裾を払うようにして言い放つ。

 

「どうやら土産か何かにされたようね。正式な条約締結はまだでしょうに。やってくれるわね、古だぬきが」

 

「艦長…古だぬきって」

 

タリアの呼び名に、アーサーは呆れたように眉を下げた。

だが、タリアは気にも留めず深く息を吐き、決断の色を宿した目でブリッジを見渡し、矢次に指示を出す。

 

「ああもう! ああだこうだ言ってもしょうがない。コンディションレッド発令。ブリッジ遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意。大気圏内戦闘よアーサー。解ってるわね」

アーサーは背筋を伸ばし、震える声で返す。

 

「は、はい!」

 

メイリンは端末に手を走らせ、艦内放送を開く。その手は緊張で汗ばんでいた。

 

「コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ」

 

赤い警報灯が点滅し、ブリッジ全体が戦闘態勢へと切り替わっていく。

ミネルバは完全に包囲され、逃げ場のない戦いへと突入しようとしていた。

その警報はすぐさまパイロットルームにも響き渡り、待機していたシンたちの身体を強張らせた。

シンは反射的に立ち上がり、ルナマリアは息を呑んで振り返る。

ただ一人、レイだけが動揺を見せず、静かにヘルメットを手に取ると格納庫へ向かって歩き出した。

 

「レッドって何で!」

 

「知らないわよ! 何であたしに聞くの!」

 

レイに遅れて二人も駆け足で格納庫へ走り出す。その途中、頭上のスピーカーから艦長の声が響いた。

 

『艦長、タリア・グラディスよりミネルバ全クルーへ』

 

格納庫では整備員たちが慌ただしく動き回り、マッドが怒鳴り声を上げる。

 

「最終チェック急げ!」

 

『現在本艦の前面には空母4隻を含む地球軍艦隊が、そして後方には自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である』

 

「空母4隻!?」

 

「後ろにオーブが!?」

 

『地球軍は本艦の出港を知り、網を張っていたと思われ。またオーブは後方のドアを閉めている。我々には前方の地球軍艦隊突破の他に活路はない。これより開始される戦闘はかつてないほどに厳しいものになると思われるが、本艦はなんとしてもこれを突破しなければならない。このミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待する』

 

艦長の声が途切れた瞬間、格納庫の空気が一段と重く沈んだ。

 

ヴィーノは端末を抱えたまま膝を震わせ、情けないほど小さな声を漏らす。

 

「ぇぇ…」

 

その様子に、近くの年上の整備兵が眉をひそめ、無言で肩を叩く。“気持ちはわかるが、今は動け”──そんな叱咤がその仕草だけで伝わった。シンは拳を握りしめ、歯を食いしばる。胸の奥が焼けるように熱く、怒りと恐怖が入り混じっていた。

 

「くっそー!」

 

その叫びと同時に、格納庫の床が低く震えた。

ミネルバが戦場へ向けて加速を始めた証だ。金属の軋む音が響き、整備員たちの足音が一斉に走り出す。

パイロットたちはそれぞれの機体へ駆け込み、ハッチを開き、コックピットへ飛び乗り、

死地へ飛び込む覚悟を胸に固めていく。

アーサーは端末に手を走らせ、次々と点灯するランプを確認しながら叫ぶ。

 

「ランチャー2、ランチャー7、全門パルシファル装填! シウス、トリスタン、イゾルデ起動!」

 

タリアはブリッジ全体を鋭い視線で見渡す。

 

「シンには発進後あまり艦から離れるなと言って。レイとルナは甲板から上空のモビルスーツを狙撃」

 

メイリンは素早く端末を操作し、頷きながら返す。

 

「はい」

 

そして活路を見出し、左舷側のモニターを睨みつけ、拳を握る。

 

「イゾルデとトリスタンは左舷の巡洋艦に火力を集中。左を突破する!」

 

「はい!」

 

ブリッジの照明が赤く点滅し、戦闘態勢の緊張がさらに高まる。メイリンはカタパルト管制の画面を確認し、声を張った。

 

「カタパルト推力正常。針路クリアー。コアスプレイダー発進どうぞ!」

 

格納庫のカタパルトが開き、シンはコックピットのレバーを握りしめ、息を整えた。

 

「シン・アスカ、コアスプレイダー、行きます!」

 

機体が射出位置へ固定され、次の瞬間、ミネルバの甲板から光の尾を引いて飛び出していく。

 

「ザク、レイ・ザ・バレル機発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。ルナマリア機発進スタンバイ。ウィザードはガナーを装備します」

 

レイとルナマリアは、射出された勢いのままミネルバの左右それぞれの甲板へ滑るように着地した。

着地の衝撃で甲板がわずかに震え、海風が二人の機体を撫でていく。

レイは即座に姿勢を低くし、ライフルを構えて上空へセンサーを向ける。

 

『海に落ちるなよ、ルナマリア。落ちても拾ってはやれない』

 

その声は落ち着いていて、状況の最悪さを微塵も感じさせなかった。

対してルナマリアは、着地と同時にガナーウィーザードの砲身を展開し、左舷側へ向けて構える。

 

『意地悪ね』

 

茶化す言い方をしてみたが、彼女の声には緊張が混じっていた。

 

虎視眈々とミネルバを待ち構えていた地球軍司令官は、前方モニターを細めた目で見据え、薄く笑った。

 

「さあて、カンザキの報告の真偽のほど、確かめさせてもらおうか」

 

その号令を合図に、新型ウィンダムの軍団が一斉にミネルバへ向けて進行を開始する。

空を埋め尽くすほどの数が、波のように押し寄せてきた。

 

『行けぇぇ!!』

 

フォースインパルスが真正面から突っ込んでいく。

ビームライフルの光が次々と走り、ウィンダムを撃ち落としていくが──

その数はあまりにも多く、シン一人で抑えきれるものではなかった。

そして、ついにミネルバへの攻撃も始まる。砲弾が雨のように降り注ぎ、海面を叩き、甲板を揺らす。衝撃でブリッジの計器が震え、アーサーが身を乗り出して叫んだ。

 

「イゾルデ、ランチャーワン1番から4番、パルシファル、てぇ!!」

 

ミネルバの艦体が唸りを上げ、主砲とランチャーが一斉に火を噴く。

光の奔流が左舷へ向けて放たれ、迫り来る敵艦隊へと突き刺さった。戦場の空気が、一気に灼熱へと変わっていく。

◇◇◇

 

「ユウナ・ロマは? 何処にいる。…軍本部? なんでそんなところに…あーいい。分かった。ありがとう」

 

通信を切ったカガリは、苛立ちを隠せず拳を握りしめた。

胸の奥に嫌な予感が渦巻く。一方その頃、戦場では──

◇◇◇

 

『く…く…!』

 

フォースインパルスが激しい機動を強いられ、シンは歯を食いしばりながら操縦桿を引く。複数のウィンダムに翻弄され、敵を見定められないのだ。

視界の端で、ミネルバへ向けて敵弾が集中していくのが見えた。ルナマリア機、レイ機も応戦するが、空中を飛ぶウィンダムにやすやすとよけられてしまう。

 

「3時方向よりモビルスーツ接近。数3!」

 

「回避! 取り舵10!」

 

ミネルバが大きく傾き、艦体が軋む。甲板の上でルナマリアが踏ん張りながら叫ぶ。

 

『ええー!』

 

『くッ…!』

 

レイのザクが上空から迫るウィンダムを撃ち落とそうとするが、敵の数が多すぎる。

その瞬間──

ドォンッ!!

ミネルバの左舷に直撃弾が入り、艦体が大きく揺れた。

衝撃でブリッジの計器が跳ね、クルーたちが一斉に身を伏せる。

 

「「うぅ!」」

 

「うわぁ!」

 

『く…こんなことで…やられてたまるかーッ!』

 

視界いっぱいにウィンダムの影が広がり、ビームが雨のように飛び交う。

フォースインパルスの装甲をかすめる光が次々と火花を散らした。

胸の奥が焼けるように熱く、怒りと焦りが混ざり合う。

それでもシンは操縦桿を握り直し、機体を前へ押し出す。

敵の包囲を切り裂くように、フォースインパルスが加速した。

シンの視線はただ一点、ミネルバを守るための突破口だけを捉えていた。

 

◇◇◇

シンたちが激闘を繰り広げている間、カガリ別邸の近くの浜辺には、三人が静かに佇んでいた。潮風がそっと頬を撫で、波の音だけが寄せては返す。

その穏やかさが、かえって胸の奥をざわつかせる。アマキは険しい表情で遠くの空を見据え、低くつぶやいた。

 

「戦いの匂いがする。……近いな」

 

その横顔を見つめるラクスの表情には、不安が薄く影を落としていた。

 

「……アマキ……」

 

キラはゆっくりとラクスへ視線を向け、柔らかく微笑む。

その微笑みは、彼女を安心させようとする静かな決意に満ちていた。

 

「……僕たちはどんな時でも一緒だよ」

 

ラクスは胸に手を当て、静かに頷く。

 

「はい。共にあると約束しましたもの」

 

アマキは二人の言葉を受け止めるように小さく息を吐き、海の向こうへ視線を戻した。

 

「そうだね。……ここもきっと、ずっとはいられないね」

 

その言葉に、三人の視線が自然と同じ方向へ向く。

遠くの空はまだ穏やかで、雲ひとつない。それなのに、胸の奥では確かに何かがざわめいていた。風が少しだけ強く吹き、三人の髪を揺らす。

キラはアマキの手をそっと握り、ラクスはアマキの腕に身を寄せるように絡めた。

それぞれが、それぞれの形で覚悟を固めていた。静かな浜辺に、言葉にならない想いだけが漂っていた。

 

◇◇◇

 

「4時の方向よりミサイル接近! 多数!」

 

「回避! 面舵20、迎撃!」

 

ミネルバが大きく旋回し、艦体が海面を切り裂くように傾く。

甲板の上では風圧が強まり、レイとルナマリアの機体が揺さぶられた。

 

「へあーッ!」

 

フォースインパルスが急加速し、迫り来るミサイル群へ向けて飛び込む。

ビームライフルの光が次々と走り、爆煙が空中に花のように咲いた。

 

「ちょっとあの数…冗談じゃないわよ!」

 

「余計な口きいてる暇があるのか!」

 

ウィンダムの数は、もはや“群れ”という言葉では足りなかった。レーダーには途切れることなく新たな光点が現れ、空はほとんど灰色の影で埋め尽くされていた。ミネルバの周囲を取り巻くように、無数のウィンダムが旋回し、その一つひとつがミサイルやビームを容赦なく浴びせてくる。レイのザクが撃ち落としても、ルナマリアが砲撃で吹き飛ばしても、その空白はすぐに別の機体で埋まってしまう。

 

地球軍司令官は腕を組み、前方モニターに映るミネルバを眺めながら薄く笑った。

 

「なるほど。確かになかなかやる艦だな。ザムザザーはどうした。あまりに獲物が弱ってからでは効果的なデモは取れんぞ」

 

「はっ。準備でき次第発進させます」

 

地球軍将校の返事に気分を良くした司令官は椅子にもたれ、わずかに顎を上げる。その表情には、戦況を完全に掌握しているという自信が滲んでいた。

 

「身贔屓かもしれんがね、私はこれからの主力はああいった新型のモビルアーマーだと思っている。ザフトの真似をして作った蚊トンボのようなモビルスーツよりもな」

 

その言葉に、周囲の将校たちは緊張した面持ちで頷く。

 

「ズール01リフトアップ。B80要員は誘導確認後バンカーに退避。針路クリアー。発進よろし」

 

格納庫の巨大なリフトが唸りを上げ、新型モビルアーマーがゆっくりと地上へ姿を現す。

 

「アンノウン接近。これは…」

 

「ん?」

 

「光学映像出ます」

 

メインモニターが切り替わり、海面の向こうから巨大な影がゆっくりと姿を現す。

 

「なんだあれは!?」

 

「モビルアーマー…」

 

「あんなにデカい…!」

 

巨大な機体は海面を割るように進み、複数の脚部がついていた。その存在感だけで、周囲の空気が一段重くなるほどの印象を受ける。

 

「あんなのに取り付かれたら終わりだわ。アーサー、タンホイザー起動。あれと共に左前方の艦隊を薙ぎ払う」

 

「ええー!?」

 

アーサーはタリアの無茶ぶりに思わず振り返って大仰に驚いた。だがタリアの剣幕に急ぎ返事を返す。

 

「沈みたいの!?」

 

「ぁはいー ぃいえッ! タンホイザー起動! 射線軸コントロール移行! 照準、敵モビルアーマー!」

 

ミネルバの艦体が低く唸り、タンホイザーの砲身がゆっくりと敵へ向けて動き出す

 

『敵艦、陽電子砲発射態勢確認』

 

『陽電子リフレクター展開準備』

 

『敵艦に向けリフレクション姿勢』

 

「てぇ!」

 

タンホイザーが発射され、白い奔流が一直線に戦場を貫く。だがその光はザムザザーの前面で弾かれ、巨大な反射光が一瞬で視界を覆った。

 

「「「あぁ…」」」

 

『う…』

 

『あ…』

 

『あぁ…タンホイザーを…そんな…跳ね返した?』

 

フォースインパルスのコックピットで、シンは息を呑んだまま固まった。

あれほどの威力を誇る陽電子砲が、まるで壁に当たった光のように押し返された。

 

「取り舵20、機関最大、トリスタン照準、左舷敵戦艦」

 

「でも艦長! どうするんです? あれ…」

 

「貴方も考えなさい マリク、回避任せる!」

 

「はい!」

 

ミネルバが大きく旋回し、艦体が軋む。敵の砲撃が海面を叩き、白い水柱が次々と立ち上がる。

 

「メイリン、シンは? 戻れる?」

 

「ぁ、はい」

 

その頃、ザムザザーでは──

 

『主砲、1番2番、照準敵戦艦』

 

ザムザザーの手法がミネルバへと向けられる。だがそれをさせまいとインパルスが突っ込む。

 

『てあぁぁ!』

 

フォースインパルスが急旋回し、ザムザザーの主砲をかすめるように飛び抜ける。

忌々し気に敵パイロットがうめいた。

 

『ぇぇぃ!』

 

『くっそー。何なんだよこいつは』

 

何とか旋回して再び攻撃の機会を狙うシンに対いてザムザザーは標的をシンへ変更した。

 

「フロー展開!」

 

「フロー展開」

 

ザムザザーの前面装甲がわずかに開き、巨大な前足がせり出すように前方へ突き出された。

その質量だけで、シンの視界が圧迫される。

 

「あ!」

 

前足の影がフォースインパルスに覆いかぶさるように迫る。

 

「そのひ弱なボディー、引き裂いてくれるわ!」

 

「くッ!」

 

シンは操縦桿を引き、ギリギリで前足の軌道を外れる。

だが──ザムザザー後方のビーム砲が、シンを執拗に狙い続けた。

 

◇◇◇

オーブ軍戦闘指揮所。巨大スクリーンにはミネルバと地球軍の交戦が映し出され、室内はざわめきと緊張で満ちていた。

 

「いやぁでも凄いですねあの兵器」

 

「陽電子砲を跳ね返しちゃうとはなぁ」

 

その空気を切り裂くように、勢いよく扉が開く。

そこへカガリが到着し、荒い足取りのまま司令卓へ歩み寄る。

その表情には、怒りと焦りがはっきりと浮かんでいた。

 

「何をしている」

 

突然の声に、司令部員たちが一斉に振り返る。

 

「…カガリ…」

 

ユウナは振り返り、露骨に“面倒なのが来た”という顔をした。

 

「ユウナ…お前、これはどういうことだ! ミネルバが地球軍と戦っているのにオーブはただ黙っているだけか!?」

 

カガリは歩み寄りながら拳を握りしめ、声を震わせてユウナに詰め寄る。

 

「心配いらないよ、カガリ。既に領海線に護衛艦は出してある。領海の外と言ってもだいぶ近いからねえ。困ったもんだよ」

 

ユウナは片手を軽く振り、カガリをあしらう。

 

「領海に入れさせない気か?ミネルバは地球を救った艦だ。敬うにしろあのような扱い断じて許さないぞ!」

 

「だが、それがオーブのルールだろ?」

 

ユウナは肩をすくめてみせた。

 

「!」

 

カガリは息を呑み、悔しさに唇を噛む。

 

「それに、正式に調印はまだとは言え、我々は既に大西洋連邦との同盟条約締結を決めたんだ。」

 

「だから恩人を見捨てろと!?我らはいつから下種のような輩に成り下がったんだっ!」

 

カガリは両手を広げ、怒りと悲しみを抑えきれず、声を張り上げる。

 

「ならどうしろと? 今更のこのこと救出に迎えと?したら今度は地球軍がこちらに向けて攻撃を仕掛けてくるだけだ」

 

所詮世迷言とユウナは鼻先で笑った。

 

「だがあの艦は!」「あれはザフトの艦だ」

 

ユウナは冷たく言い放つ。

 

「くっ!」

 

カガリは拳を握りしめ、悔しさに肩を震わせる。

 

「間もなく盟友となる大西洋連邦が敵対している、ね。」

 

ユウナは背を向けこれ以上話す価値はないと言わんばかりに視線をスクリーンへ戻す。

 

「…」

 

カガリはその場に立ち尽くし、拳を握ったまま肩を震わせ、怒りと無力感に押しつぶされそうになりながら言葉を失った。

視線はスクリーンに釘付けだが、焦点が合っていない。だがその間にも、ミネルバは地球軍の猛攻を受け、じりじりとオーブ領海線へ追い込まれていく。

 

「ミネルバ、領海線へ更に接近。このままいけば数分で侵犯します」

 

ユウナは腕を組んだまま、まるで事務的な処理でもするかのように淡々と命じる。

 

「警告後威嚇射撃。領海に入れてはならん」

 

「あぁ…」

 

カガリは胸元を押さえ、息を呑んだまま後ずさる。その顔には、信じられないという色が濃く浮かんでいた。

 

「それでも止まらないようなら攻撃も許可する」

 

「ユウナ!」

 

カガリは思わず一歩踏み出し、怒りに任せてユウナへ手を伸ばす。

 

「国は貴方の玩具ではない!」

 

ユウナはカガリの手を振り払い睨みつける。その声は冷たく、容赦がない。

 

「…!」

 

カガリは振り払われた手を庇い、だがユウナの言葉に負けずとにらみ返す。

 

「いい加減、感傷でものを言うのはやめなさい!」

 

それをお前がいうのか!人質をとって自分の立場をなり替わろうとしている奴が!

 

「…」

 

カガリは口にすることで父の身が、そしてキラ達の立場が危うくなることを恐れて言い返すことはできなかった。

 

オーブ海軍司令官トダカは、部下の反論を一切受け付けず短く命じた。

 

「ミネルバを傷つけるな。砲撃は外せ」

その声には迷いがなかった。だが建前上、警告だけは必要だ。

 

「ザフト軍艦ミネルバに告ぐ。貴艦はオーブ連合首長国の領域に接近中である。我が国は貴艦の領域への侵入を認めない。速やかに転進されたし」

 

その瞬間、ミネルバブリッジの空気が凍りつく。

 

「えッ!」

 

アーサーは席から半ば立ち上がり、信じられないという顔でタリアを見る。

 

「艦長!」

 

「でも、今転進したら確実に沈むわ。針路そのまま、ギリギリまで逃げなさい!」

 

タリアは歯を食いしばり、揺れる艦内で手すりを掴みながら指示を飛ばす。

 

「はい!」

 

『あ…ミネルバ!』

 

シンの視界に、迫るオーブ艦隊の砲門が赤く光る。

 

『主砲、てぇい!』

 

轟音が海を割り、ミネルバの周囲に巨大な水柱が立ち上がる。

 

「「「ああ!」」」」

 

ブリッジが激しく揺れ、クルーたちは身体を支えながら悲鳴を上げる。

 

メイリンは震える指でコンソールを掴み、警告音の嵐に顔を歪める。

 

「くッ…」

 

タリアは揺れに耐えながら、必死に状況を見極めようとする。

 

『オーブが本気で…うッ!しまった! うわぁぁッ!あぁ…うわぁぁぁ!!』

 

フォースインパルスが急激に横へ弾かれ、そのまま ザムザザーの巨大な前脚が機体の脚部を挟み込んだ。

金属が悲鳴を上げるような鈍い衝撃音が響き、インパルスの片足がもぎ取られる。そのままインパルスは落下していく。

 

「シン!」

 

『こんなことで…こんなことで俺はッ!!』

 

シンの叫びは、怒りと悔しさと、どうしようもない無力感が混ざった声だった。

その瞬間、頭の奥で何かが弾けるように割れた。

視界が研ぎ澄まされ、音が遠ざかり、敵の動きが“遅く見える”。

 

「まだ落ちないかッ!」

 

シンは歯を食いしばり、挟まれた脚部の痛みすら意識の外へ押し出す。

 

『ミネルバ、メイリン、デュートリオンビームを!それからレッグフライヤー、ソードシルエットを射出準備!』

 

「シン…」

 

メイリンはシンの声の変化に気づく。いつもの焦りではない。鋭く、迷いのない声。

 

『早く!やれるな?』

 

「は、はい!」

 

「指示に従って!」

 

タリアも一瞬驚いたが、その判断の速さに迷いなく指示を重ねる。

 

「はい。デュートリオンチェンバースタンバイ。捉的追尾システム、インパルスを捕捉しました。デュートリオンビーム照射!」

 

ミネルバの艦首から青白い光が走り、その光は一直線にフォースインパルスの額へと吸い込まれていく。

次の瞬間、全身にデュートリオンのエネルギーが奔り、インパルスはまるで息を吹き返したように輝きを取り戻した。

警告音が消え、システムが一斉に再起動する。

シンの視界は研ぎ澄まされ、ザムザザーの動きが“止まって見える”。

インパルスはビームソードを抜き放ち、

先ほどまでとは別物の速度でザムザザーへと飛び込んだ。

ザムザザーの巨大な前脚が振り下ろされるより早く、インパルスはその懐へ滑り込み、一閃。

青白い軌跡が空間を裂き、ザムザザーの装甲が火花を散らす。

そして——シンは迷いなく、ビームソードの刃をザムザザーの真ん中へ突き立てた。

金属が悲鳴を上げ、内部から爆ぜるような衝撃が走る。

 

「——ッ!!」

 

巨体がのけぞり、そのまま崩れ落ちていく。

 

『シルエット射出!』

 

「ぁ…はい!」

 

メイリンの手が震えながらも、それでも正確にシルエット射出のスイッチを叩く。

射出されたレッグフライヤーとソードシルエットが、光の矢のようにシンの視界へ飛び込んでくる。

シンの意識は異様なほど研ぎ澄まされ、その接近軌道すら“手で掴める”ように見えた。

次の瞬間、フォースインパルスは一気に分離し、レッグフライヤーとソードシルエットが吸い込まれるように結合する。

ソードインパルス、完全換装。エネルギーが全身を駆け巡り、機体の輪郭が一瞬、白く輝いた。

 

「うおおおおおッ!!」

 

怒りのまま、いや、怒りに導かれるようにシンはソードを振り抜いた。

巨大なアンチシップソードが閃光を描き、地球軍艦隊の前衛を一気に切り裂く。

爆炎が海面を照らし、

破片が雨のように降り注ぐ。

シンは止まらない。むしろ加速する。

敵の砲火が飛び交う中、ソードインパルスはまるで獣のように艦隊へ切り込んでいく。

 

「邪魔だぁぁぁッ!!」

 

その声は、怒りと悲しみと、どうしようもない叫びが混ざったものだった。

 

「…あ、あれは…」

 

誰かの声が、戦闘指揮所のざわめきを切り裂いた。

巨大スクリーンには、ソードインパルスが地球軍艦隊のど真ん中を切り裂き、

爆炎の中をなお加速し続ける姿が映っている。

 

「地球軍艦隊、撤退します」

 

その報告に、指揮所の空気が一瞬止まった。別のオペレータが思わず椅子から身を乗り出す。

 

「撤退…? 本当に…?」

 

誰もが信じられないという顔でスクリーンを見つめる。地球軍艦隊は確かに後退を始めていた。あれほどの数を揃え、ミネルバを包囲していた艦隊が——たった一機のMSの猛攻に押し返されている。

ユウナは言葉を失い、カガリは胸元を押さえたまま、

ただその光景を呆然と見つめていた。

 

◇◇◇

 

アスランは懐かしい軍服に袖を通し、首元の襟をキュッと締めた。

 

その姿を見たミーアは、ミーハー心を隠す気もなくぱぁっと顔を輝かせる。

 

「わぁぁ!」

 

引き締まった表情のアスランの前に、デュランダルが小さな箱を差し出した。

 

「これを」

 

「これはフェイスの!」

 

アスランは驚きに声を上げる。

箱の中にあったのは、国防委員会直属の指揮下に置かれる特別部隊──

議長に認められた者だけが身につけることを許される証だった。

それをデュランダルが差し出したことに、アスランは思わず息を呑む。

 

「君を通常の指揮系統の中に組み込みたくはないし、君とて困るだろう。そのための便宜上の措置だよ。忠誠を誓うという意味の部隊、フェイスだがね。君は己の信念や信義に忠誠を誓ってくれればいい」

 

アスランの立場を理解しての配慮なのだろう。

だが、その責任の重さはアスラン自身もよく分かっている。

簡単に受け取っていいものではない。

 

「…議長…」

 

「君は自分の信ずるところに従い、今に堕することなく、また必要な時には戦っていくことの出来る人間だろ?」

 

「そうでありたいと思ってはいますが」

 

デュランダルは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「君になら出来るさ。だからその力をどうか必要な時には使ってくれたまえ。

大仰な言い方だが──ザフト、プラントの為だけではなく、皆が平和に暮らせる世界の為に」

 

「はい」

 

アスランは静かに頷き、胸の奥に重く温かいものが落ちていくのを感じた。

 

パイロットスーツに着替えたアスランは、地球降下の準備に入る。

コクピットに身を沈め、スイッチを次々と入れていく。

その間にも、デュランダルとの最後の会話が頭をよぎった。

 

『オーブの情勢も気になるところだろうから、君はこのままミネルバに合流してくれたまえ。あの艦にも私は期待している。以前のアークエンジェルのような役割を果たしてくれるのではないかとね。君もそれに手を貸してやってくれたまえ』

 

自分にそのような大役が務まるのか──悩みは尽きない。

だが、もう後戻りできない場所まで来ている。あとは進むだけだ。

 

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 

新たな決意とともに、救世主として戦場で何を成せるのか。

自問自答しながらも、アスランは前へ進んだ。

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