腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
ミネルバでは激戦を潜り抜けたシンの活躍によって無事危機を脱した。英雄の帰還の仲間たちはシンを歓喜の嵐で迎え入れ、湧き上がる歓声にシンは戸惑いを覚えながらもその環境を受け入れた。仲間たちからの賞賛を受けつつ、自分がいかにしてあの行動をとれたのか、不思議に思っていた。
そして、オーブはかつて決死の想いで守ってきた中立という立場をかなぐりすて地球連合に与することが決定した。
引退したウズミ達の発言力よりも現強硬セイラン派が世論に勝った。カガリとてその案を飲んだわけではない。だがウズミそしてキラ達の存在は強硬派にとって良い餌となった。キラ達の命と国の運営を秤にかけたのだ。アスラン不在の時、精神的に不安定なカガリを脅す真似をして卑怯な奴らはオーブのかじ取りを乗っ取ろうとしている。国のため、民のためとほざき、実のところ反旗を翻そうとしていたのだ。
そしてユウナ・ロマ・セイランとの望みもしない婚姻。
カガリ自身納得いかないものの、ウズミ、そしてキラ達の命には代えられない。
その婚姻を受け入れるほかなかった。
アスランからもらった指輪が…時間の経過を知らせるようにまだ彼女の左手薬指に、ひっそりと残されていた。
◇◇◇
アスハ邸の応接間には、長い旅を終えた彼の姿があった。
先の大戦で戦死したはずのラウ・ル・クルーゼは、金髪を撫でつけながらサングラスを指先で軽く持ち上げ、朗らかに手を振る。
偽名を使って一般社会に紛れ込んでいた彼は、事情あってプラントからお忍びで帰国したのだ。ソファに軽やかに腰を下ろし、足を組むと、懐かしむように室内を見渡した。
「やぁ、あまり変わっていないようで安心したよ」
「それ嫌味?」
アマキは眉をひそめ、腕を組んだままじっと彼を見つめる。
その隣ではキラが険しい表情のまま小さくため息をつき、ラクスがそれを横目に優しく微笑んでいた。
「嫌味というか、……安心感かな」
「なにそれ」
「変わらずにいるということが良いのですよ」
キラは気まずそうに後頭部を掻き、ラクスは手を胸に添えて柔らかい声でフォローする。
アマキはやれやれと肩をすくめ、そのやり取りを周囲の仲間たちが静かに見守っていた。
彼らの表情に自然と笑みがこぼれるのは、皮肉にも全員が“普通ではない立場”にあるからだ。
国家反逆罪で追われた者、組織を離反した者、英雄として名を知られた者──いずれも波乱の人生を歩んできた者ばかり。
その中心に立つのが、アマキ・カンザキである。
カガリの護衛という任を受けていた彼女だが、今回はさすがに出しゃばりすぎた。
緊急事態とはいえ、ザクに乗って粉砕作業にまで参加したのだ。
もしアマキの身分が露見していれば、誘拐や政治的利用の危険もあっただろう。
だが幸いにも、大戦前のアマキと今の姿があまりに違いすぎて、誰も本人だとは思わなかった。
その“変化”こそが、彼女を守ったのだ。
さて、有名人となったアマキは現在ダイエット中で、厳しい食事制限を課されていた。
ミネルバでの暴飲暴食をアスランから報告されたキラとラクスは激怒し、アマキに“甘味類一切禁止”という罰を科したのである。アマキは当然これに猛反発し、断固拒否の姿勢を見せた。だが、彼女の前に出されるのはアイシャ考案のダイエットメニューばかり。
泣きながら懇願しても、鉄壁のラクスには一切通じなかった。
不本意ながらも、アマキは渋々それをちゃんと食べている。
子供たちは義母カミラとマルキヨ様に預けられており、部屋にはいない。
応接間には、落ち着いた空気と、どこか張りつめた緊張が同居していた。
それぞれにバルドフェルドオリジナルコーヒーが提供される中、
アマキの前にだけ、ラクスの手によって昆布茶が置かれる。
湯飲みを手にしたアマキが、ずずず……と一人だけ渋い音を立ててすすった。
その音が妙に響き、室内の全員がついそちらに視線を向けてしまう。
アマキは気まずそうに目をそらし、他の面々は笑いを堪えるように口元を押さえた。
「……ふぅ……さて、報告を聞かせてもらおうか」
アマキが手元の湯飲みをそっとテーブルに戻しながら言う。
その仕草には、静かな怒りと覚悟が滲んでいた。
「……ギルによるラクス嬢の暗殺計画が出されている。特殊部隊による奇襲が企てられているよ」
ラウは沈んだ口調で告げ、サングラス越しに皆の表情を確かめる。
かつての友が企てた策に胸を痛めながらも、今の彼はアマキの利になるよう動いていた。
バルドフェルドがソファから立ち上がりかけ、身を乗り出す。
「それは確かな情報なのか?」
「ああ。おおむね間違いはない」
「先の大戦の功労者を狙うとは非道だねぇ。かの議長様はさ」
ムウは苦々しげにコーヒーをすすり、「ニガッ」と顔をしかめて吐き出した。
「お前、プラプラしてると思ったらこんなことしてたのか」
呆れたように言うムウに、ラウは得意げに髪を払う。
「フッ、諜報活動となると僕が一番手っ取り早いだろう。なんせ僕の女神からの所望なのだからね」
「あー、ウザい。色々と探りを入れてもらって助かったよ。だっていつかこうなることは大体わかってたしね」
「………ラクスがいることが邪魔になってるってことだね」
キラが不満を隠さずに言い放つ。
「世間的には雲隠れしたラクスだけど、その人気はいまだ衰えず。むしろ不安定な世界だからこそ心の安寧が必要なんだ」
ラクス・クライン暗殺計画。
その文字を見た瞬間、胸の奥で黒い感情が静かに燃え上がった。
誰よりも平和を愛し、ただ穏やかに生きようとしている少女一人の命すら、邪魔だと切り捨てるのか。
デュランダル議長を叩き潰してやりたい──そんな衝動が一瞬、確かに湧いた。
偽物のラクス・クラインを用意して、本物は“不要”だから排除する?
気に入らない。
気に入らない。
ラクスは視線を伏せ、静かに髪を整える。
キラは拳を握りしめ、唇を噛んでいた。
「………アスランがプラントに渡ったからか。手駒を揃えるつもりかな。自分なりの忠実な部下ってやつ」
アマキの言葉に、部屋の空気が一気に重くなる。
誰もが言葉を失い、沈黙だけが応接間に落ちた。
空気が張りつめる中、アマキが突然勢いよく立ち上がり、
「お出迎えしてあげようか。バルドフェルドさん、ムウさん。元気有り余ってるでしょ?」
と、不敵な笑みを浮かべた。
「はぁ」
「そうなると思ったよっ……って言うと思ってたか!? こっちにゃ守る対象が多すぎるって」
バルドフェルドは深いため息をつき、ムウは肩をすくめる。
「分が悪すぎるわ」
マリューが静かに言い、カップをそっとソーサーに戻した。
この屋敷には守るべき家族が多すぎる。ならば囮が必要だ。
「皆にはシェルターに避難しててもらおう。もしくはカガリに連絡を取るよ、保護してもらえるよう頼む」
「アマキ君は戦うつもりなのかね」
静かに問われ、アマキは迷いなく答える。
「無論ですよ、シーゲルさん。腕は衰えてないつもりですから」
バッチシと腕まくりしてみせた瞬間、アイシャが容赦なく指をさした。
「でも、その体じゃ無理よ」
「へ?」
その場の全員が、まるで示し合わせたように頷き始める。
「そうですわ。まだアマキはダイエット途中ですもの。一人で無茶ですわ」
ラクスはアマキのぜい肉をぷにっとつまむ。
「そうだよ。相手は手練れだよ。暗殺集団だよ。ぽっちゃりアマキ一人で相手するなんて無茶だって。ぽっちゃりで的に当たったら死んじゃうよ」
キラは“ぽっちゃり”を二度も強調して説得する。
「「「そうそう」」」
仲間たちが一斉に頷く光景に、アマキは思わず叫んだ。
「でも皆が住んでるお屋敷壊されたら嫌じゃん! ……ってか皆してぽっちゃり言うな!!」
「それでもわたくしは嫌ですっ! アマキに怪我をしてほしくありませんっ」
ラクスが縋りつくように反対し、最後に折れたのはアマキだった。
「……わかった。それじゃあ、アイツらが作戦決行する日になったらシェルターに避難する。おけ?」
「はいっ!」
「荷物纏めとかないとね」
ラクスは子供たちに説明するため部屋を出ていき、他の皆もそれぞれ動き始める。
アマキとキラは、屋敷の地下シェルターに隠されたフリーダムとスノーホワイトの状況確認へ向かった。
「キラ。フリーダムの整備確認しとこ。私もスノーホワイト見に行くから」
「うん。久しぶりだから大丈夫かなぁ」
どこか自信なさげなキラに対してアマキは冗談交じりに持ち掛けた。
「模擬戦でもやる?」
「えー?やだよ」
「馬鹿かお前たちは! 敵にバレるだろうが!」
ラクスから鍵を受け取ったバルドフェルドが後からやってきて、案の定アマキとキラはガミガミと叱られた。
さらに追い打ちのように、マリューとムウにも叱られた。アマキだけ。
「なんで私だけ?」
「日ごろの行いの所為ね」
「だな」
「非情!」
アマキの抗議が虚しく響き、周囲はどこか楽しげにため息をついた。
カラカラとキャリーの車輪が床を転がる音が、地下シェルターの静けさを破った。
「はぁーい! アマキさーん!!」
その明るすぎる声に、アマキは思わず肩を跳ねさせた。
「え、ふ、フレイ!?」
階段を降りてきたのは、キャリーを片手で引きながら、
もう片手で大きく手を振るフレイだった。
髪を揺らし、まるで旅行にでも来たかのようなテンションに目が丸くなる。
「貴方の専属整備士フレイの登場でーす!」
「いやいやいや、なんで来てんの!?このタイミングで!?」
「だってぇ、アマキさんのダイエットがなかなか進んでないっぽいからわたし!がわざわざ来てあげたのよ~!感謝してね」
フレイはキャリーをガッと止め、胸を張ってウインクする。
なぜこのタイミングなのか。アマキはめまいを覚えた。
「フレイ、タイミング悪すぎ」
「えぇ?なんでよ!?」
「だってこれから敵襲しかけてくるもん」
「はぁ!?じゃあ帰る!」
踵を返そうとしたフレイの肩を、アマキはにっこり笑いながらがっちり掴んだ。
「あー無理です無理です。もう見張られてるんで~。仲良く道連れです~」
「なんでそうなるのよ!」
フレイは肩を引き抜こうとするが、アマキの握力は妙に強い。
「ちょ、ちょっとアマキさん!?離して! 私まだ死にたくないんだけど!?」
「大丈夫大丈夫。死なせないから。……たぶん」
「たぶんって言った!? 今たぶんって言ったよね!?」
階段の上からキラが顔を出し、苦笑しながら二人を見下ろした。
「フレイ、落ち着いて。ここ、敵からは見えないし安全だから」
「キラぁぁぁ! 助けてよぉぉ!!アマキさんが私を戦場に連れていこうとしてるぅぅ!!」
「フレイが悪い」
そこへムウ、マリュー、バルドフェルドが続けて顔を出す。
「……嬢ちゃん、マジでタイミング悪かったな。なんかもう諦めろ」
「フフ、フレイさんも貧乏くじね」
「まあまあ、フレイ嬢。ここまで来たなら腹を括れ。どうせ帰っても外は危険だ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
アマキはフレイの肩をぽんぽん叩き、にっこりとした笑顔で追い打ちをかける。
「はい、決まり。じゃあラクスと一緒に戦飯の準備お願いね」
「いやぁあああ!!」
地下シェルターには、戦場前とは思えないほど賑やかな声が響き渡った。
◇◇◇
ヨップ・フォン・アラファスは想定外の事態にどう対処するべきか混乱していた。とある方よりの指示によりラクス・クライン暗殺計画の任を遂行させるため部隊を率いて、かの目標アスハ邸までやってきた。が!なんとその屋敷には人っ子一人いないという驚愕の事実が待っていたのだ。どこかで情報漏洩が起こっていたか。もしくはガセ情報を掴まされたか。なんにせよ、収穫もないままおめおめとプラントに戻ることなど許されない。役に立たない者は排除する思考にあるかの方。
今度は自分が消されるかもしれない。
そんな不安を抱きながらも屋敷内を捜索する。すると地下シェルターへの扉を発見する。
だがそれは外側からは解除できないよう組み込まれたものだった。
ヨップは苛立ちを抑えきれずに壁に拳をだんっと強く叩きつける。
「くそ、仕方ないっ。MSを出すぞ!」
部下たちに、通信でもそう伝え準備を急がせる。
目標を跡形もなく消さなければ自分たちに未来はない。それぞれが焦りと不安を抱きながら新型機体アッシュを駆り出す。水陸両用の可変MSアッシュまで持ち出して消すことになるなど想定していないが、この火力ならばシェルターごと吹き飛ばせるかと思いきや、ヨップの眼前に立ちはだかる壁は、一枚岩などではなかった。外側の表層を砲撃で破壊して初めて見えたのは、複数の層で構成された極めて防御力の高い設計──それは“時間を稼ぐため”に築かれたのではなく、“絶対に侵入させない”という意思を持って造られたものだった。
「ふざけやがって……こんなものまで用意していたのか」
彼の声には、もはや怒りを超えた“恐れ”が含まれていた。
これは偶然の構造ではない。誰かが、彼らの行動を読んでいた──そう思わざるを得なかった。
そこへ轟音とともに地面が大きく盛り上がり、次の瞬間、光の奔流が周囲を焼き尽くした。
地表を破るようにして現れたのは、キラ・ヤマトが搭乗する伝説のMS〈フリーダム〉。その機体は太陽のような輝きを放ち、空気を切り裂く羽音とともに宙へ舞い上がる。
そしてその隣から、まるで白銀の彗星のように現れたもう一体――アマキが駆る〈スノーホワイト〉が白き両翼を大きく広げ姿を現した。
青白い粒子をまといながら立ち上がるその姿は、まるで“天罰”を告げる神機のよう。地表は蒸気を上げ、ヨップ率いる部隊はただ呆然とその光景を見上げていた。
「フリーダム!?もう一機は……スノーホワイトっ」
恐れおののく兵士たち。動揺が広がる中、伝説とまで謡われていた存在がまさか目の前に出現するなど予想だにしなかった。
「ええいっ!怯むな!いけっ」
怒号を飛ばすヨップの声は、もはや指揮官としての鼓舞ではなかった。
それは、自らの恐怖をかき消すための叫び。
だがその叫びに対して、兵士たちはすぐには動けなかった。
彼らの心を支配していたのは、あまりにも圧倒的な“存在感”だった。
〈スノーホワイト〉は白銀の両翼を広げたまま、流れるような機動で敵機〈アッシュ〉の砲撃をかわす。
蒼白の粒子が舞い散る中、両手に構えた2本のビームサーベルが閃光となり、敵機の武装や関節部を正確に切断。
機体を完全に破壊することなく、パイロットを生かしたまま“戦力を奪う”という冷静かつ非殺傷の動きに、ヨップ部隊は圧倒されていく。
キラの〈フリーダム〉は遠距離から高精度の射撃を展開。
複数の照準を瞬時に切り替え、アッシュの装甲に極限まで絞った精密攻撃を叩き込む。
コックピットや生命維持部を傷つけることなく、敵機の“全武装解除”を成立させるその戦術は、まさに“守る者”の在り方。
次々と無力化されていく部下たち。
ヨップ・フォン・アラファスは、震える声を漏らした。
「……くそぉ!!」
彼の瞳はすでに勝敗ではなく“消滅”の恐怖に揺れていた。
命令を果たせなかった者には、次に待つのは裁きではない。“抹消”だ。
部下たちもその意味を十分に理解していた。もはや帰還は許されない。
それならば──せめて自らの“最後の意志”を示すしかない。
ぐっとトリガーを引き抜き自爆プログラムを作動させる。
機体は次々と爆炎をあげて自爆していき、残されたのはフリーダムとスノーホワイトの二機だけだった。
爆炎が収まり、空気が震えるような沈黙が辺りを満たす。
無数の火柱が立ち上った跡には、焼け焦げた金属片が散乱し、戦闘の激しさだけが生々しく残っていた。
その中心に、ただ二機──フリーダムとスノーホワイト──が静かに佇んでいる。
キラは、優しいアマキのことだ。わざわざ急所を外していたにもかかわらず、最後には敵が自爆してしまったことを気にしているのではないかと、そっと声をかけた。
『アマキ……大丈夫?』
『……ん、…ああ。大丈夫だよ、キラ……』
だがアマキは、コクピットの中で頭を抱えていた。
戦闘そのものよりも、視界の端に映った“あるもの”に顔を青ざめさせていたのだ。
『……屋敷めちゃくちゃになっちゃった……カガリに叱られるかも』
『……大丈夫! 僕、結構もらってるから直せるよ』
『それを言うなら私だってポケットマネーあるもん! 使わないだけだもん!』
『大丈夫だよ、カガリなら。新しい屋敷用意してくれるよ』
弟であるキラは姉が自分のお願いに弱いことを知っている。涙ながらに謝罪すれば必ず許してくれと疑わないのだ。
『そうかな~、私にはすっごく厳しいからな、カガリは』
『それは日ごろの行いの所為だね。仕方ないよ』
キラは肩をすくめて辛辣に返すとアマキは
『そこは恋人として慰めてくれるところだろ!?』
とぷんすかぷんすかと怒っていた。
昇り始めた朝日が地平線を淡く照らし、
二機のシルエットは柔らかな光を受けて浮かび上がる。