腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
プラントから急遽セイバーで飛び立ち、オーブへ入港中のミネルバと合流するため連絡を取ったアスランだったが、返ってきたのは門前払い同然の拒絶だった。
さらに追い打ちをかけるように、オーブ所属のアストレイ二機が彼を“敵”として補足し、武装を向けてくる。
「……どういうことだ……?」
何が起きているのか理解できないまま戦闘に巻き込まれ、その最中でアスランは信じがたい事実を知らされる。
オーブは世界安全保障条約機構に加盟し、プラントは“敵性国家”として認定されていること。
そして、合流予定だったミネルバはすでに出港済みであること。
怒りと困惑が胸の奥で渦巻く。だが、ここで暴れても状況は悪化するだけだと、アスランは必死に自分を抑え込んだ。
「……くそっ……!」
アストレイの追撃を振り切りながら、アスランは機体を反転させる。
向かう先は——カーペンタリア基地。
今はそこへ戻るしかない。状況を整理し、ミネルバと再び合流するために。
◇◇◇
ブリッジの扉が開き、着替えを終えたカガリとウズミが姿を現す。
礼装から解放された二人は、まだ落ち着かない様子で服の袖を整えながら歩みを進めた。
クルーたちは一斉に視線を向け、緊張と安堵が入り混じった空気が漂う。
ウズミはゆっくりと歩み出て、アマキの前で立ち止まった。
「まずは助けてくれたこと礼を言おう。だが今回も無茶をしてくれたものだ。首謀者はアマキ君かな?」
アマキは胸に手を当て、妙に堂々とした姿勢で答える。
「いや、満場一致です」
その真顔に、ムウが肩をすくめながら苦笑した。
「概ね当たってるな」
次の瞬間、カガリがすっと距離を詰め、スコーンとアマキの頭を叩いた。乾いた音がブリッジに響き、アマキは前のめりに揺れる。
「お前が主犯者か! やっぱり! 絶対来るなと念押ししていただろう!?こんな馬鹿な真似をしてどうするんだ!?」
怒りに頬を赤くし、カガリはアマキの胸ぐらを掴みかける。ムウが慌てて横から手を伸ばし、なんとか止めに入る。
「それにあなた方まで何故加担するんだ!?結婚式場から国家元首を攫うなんて、国際手配の犯罪者だぞ!? 正気の沙汰か!?こんなことをしてくれと誰が頼んだ!」
ラクスはそっと歩み寄り、カガリの背に手を添える。
「まぁまぁ、カガリさん。落ち着いてください」
アンドリューは腕を組んでいたが、ふと思い出したように手を打つ。
「そうそう。終わってしまったことは仕方ない。僕がオリジナルコーヒーを入れてこよう」
アイシャがすかさずアンドリューの袖を引っ張り、鋭い視線を向ける。
「後にしなさい、アンディ」
キラは一歩前に出て、カガリの正面に立った。その瞳はまっすぐで、揺らぎがない。
「あのね、カガリが僕らのために体張ってくれたのはちゃんとわかってる。でもそんなこと……僕らは望んじゃいないよ」
カガリは視線を逸らし、拳をぎゅっと握りしめる。
「……違う、私は自ら望んだことだ」
アマキがすかさず身を乗り出す。
「嘘つきカガリ。こんな時に意地張らないでよ」
ラクスが首を振りながらそっとアマキの腕を引く。
「アマキ」
キラは小さく首を振り、ラクスに微笑みかけた。
「大丈夫だよ、ラクス」
カガリは堪えていた感情が一気に噴き出すように、キラへ向き直り声を荒げた。
「なにが…なにが馬鹿なことだと言うんだ!私はオーブの代表だぞ! 私だっていろいろ悩んで、考えて、それで…!」
キラは一歩近づき、静かに問いかける。
「それで決めた?大西洋連邦との同盟や、セイランさんとの結婚が本当にオーブのためになると、カガリは本気で思ってるの?」
カガリの肩がびくりと震えた。
「ぅ…あ、当たり前だ!でなきゃ誰が結婚なんかするか!もうしょうがないんだ!
ユウナやウナトや首長達の言うとおり、オーブは再び国を灼くわけになんかいかない!
そのためには、今はこれしか道はないじゃないか!」
「でも、そうして灼かれなければ他の国はいいの?」
「うッ!」
キラはさらに一歩踏み込み、カガリの目を覗き込む。
「もしもいつか、オーブがプラントや他の国を灼くことになっても……それはいいの?」
カガリは息を呑み、唇を震わせた。
「ダメに決まってるだろ!!」
「わかってはいるんだね」
「うぅぅ…でも!」
キラはそっと手を伸ばし、カガリの肩に触れた。
「カガリが大変なことは解ってる。今まで何も助けてあげられなくて、ごめん」
「ごめんね、カガリ。一人で頑張らせてさ。もっと早く気付くべきだった」
言葉に合わせて、アマキの表情がわずかに曇る。
眉尻が下がり、口元がきゅっと結ばれる。無理をさせていたことを本気で悔いているのがその顔つきからはっきりと伝わった。
二人から優しく言われ、カガリは堪えきれず目元を手で覆う。
「ぅぅ…」
「でも、今ならまだ間に合うと思ったから。僕たちだって何が何だかわからない。
けど、アマキの言う通り……自分の気持ちに嘘はつけないよ」
カガリの喉が詰まり、押し殺した声が漏れる。
「あ…ぁ…ぁ…」
キラはその声を受け止めるように、静かに言葉を重ねた。
「みんな同じだよ。選ぶ道を間違えたら、行きたい所へは行けない」
カガリは震える息を吐き、視線を落としたまま動けずにいる。
「……」
キラはそっと、あの指輪を差し出した。カガリがユウナに奪われないためにキラに託した指輪。今再びカガリのもとへ戻ろうとしている。全てを諦めなくていいのだと、キラは告げているのだ。
「だから、カガリも一緒に行こう」
カガリの瞳が潤んだままキラを見上げる。
「ぅ…キラ……ぅぅ…」
「僕たちは今度こそ、正しい答えを見つけなきゃならないんだ」
その言葉が決定打になったように、カガリはついに堪えきれず、キラの胸へ飛び込んだ。
キラは驚いたように一瞬だけ息を呑んだが、すぐにその身体をしっかりと抱きしめ、背中を優しく撫でた。
ブリッジの空気がようやく落ち着き、カガリが泣き疲れてキラの胸から離れた頃には、
周囲の皆がどこか誇らしげでどこか安心したような表情で二人を見守っていた。
涙の跡が残る頬は赤く腫れ、呼吸もまだ少し乱れている。
それでも指輪を再び左手薬指に通したカガリは、ぐっと拳を握りしめてアマキをにらみつけた。
「でもアマキは一発殴らせろ。ムカつくから」
アマキは一歩後ずさりし、両手を前に出して必死に抗議する。
「はぁ!? 理不尽なんですけど!救出してあげたんだから勘弁してよっ」
カガリは涙の名残を拭いながら、怒りの火だけはしっかり燃やしたまま前へ詰め寄る。
「しない! こら、逃げるなっ!」
アマキは反射的に身を翻し、ブリッジの通路へ向かって全力で駆け出した。
「逃げます!」
「待てぇぇぇ!!」
ムウが呆れたように頭を抱え、ナタルは深いため息をつき、
ラクスは口元に手を当てて小さく笑い、キラは困ったように眉を下げながらも、
どこか安心したようにその騒ぎを見つめていた。
◇◇◇
カーペンタリア基地にて無事に入港を果たしたミネルバは修繕作業に入っていた。ドカーペンタリア基地のドラッグストア。ミネルバ修繕の合間の休暇で、ホーク姉妹は店内を歩いていた。
「でもさあ、ミネルバの修理ってもうじき終わるんでしょ?」
「ああ、まあね」
「じゃあ、いつ出航命令出るか分かんないじゃない。やっぱ今のうちに買っときゃなきゃ」
そう言うなり、メイリンはカゴを抱えたまま棚へと身を乗り出し、
化粧水、リップ、アイシャドウ、ビューラー、つけま、ネイル、ヘアオイル——
次々と商品を放り込んでいく。カゴはすでにパンパンで、今にも取っ手が悲鳴を上げそうだった。
「はぁ…あっそ。何が何でそんなにいるんだか知らないけど」
呆れたように眉を上げながら、ルナマリアは妹のカゴを覗き込む。
その視線は完全に“理解不能”と言っていた。
「ぅ…悪かったわね」むっと頬を膨らませ、メイリンはカゴを抱え直す。その仕草は、怒っているというより“拗ねている”に近かった。
皆それぞれ、つかの間の休息をとる仲間たち。シンはストローの刺さったドリンクを片手に、
もう片方の手でバーガーの袋をぶら下げながら、基地の通路をのんびり歩いていた。
(アマノさんがいたら……目の色変えて喜んでかもしれないぁ……)
そんな他愛もないことを考えながら空を見上げた瞬間、視界の端に“異質な影”が差し込んだ。
「ん?」
頭上を横切る機影。
見慣れないフォルムのMAが、ゆっくりと姿勢を変えながら降下してくる。
次の瞬間、機体は滑らかに変形を開始した。MA形態からMS形態へ——そのままミネルバのデッキへ向かっていく。
「……ミネルバに着艦!? 誰だよ、あれ!」
驚きに目を見開いたシンは、ドリンクを握りしめたまま駆け出した。
バーガーの袋がぶんぶん揺れ、中身が偏るのも気にしていられない。
(まさか……新型? それとも……)
胸の奥がざわつく。休暇気分は一瞬で吹き飛び足は自然とミネルバへ向かっていた。
一方その頃、ミネルバのバンカーでは、
見知らぬ機体が収容されるのを見て、整備員やクルーたちが次々と集まり始めていた。
赤い装甲がライトを反射し、まるで生き物のように静かに佇んでいる。
ルナマリアは買い物袋を片手に戻ってきたところで、
その異様な光景に足を止めた。
「何なのこの新型……一体誰?」
メイリンも袋を抱えたまま、ぽかんと口を開けて機体を見上げる。
その時、機体の上部からワイヤーが伸び、
スーツケースを片手にしたパイロットがゆっくりと降下してきた。彼はルナマリアたちの前で止まるとヘルメットを取り顔を見せた。
「ふぅ」
メイリンはまさかの人物の登場で驚きのあまり、買い物袋を胸に抱きしめた。
「あぁ!」
ルナマリアは目を見開き、思わず声を上げる。
「アスランさん!」
アスランは軍人らしい動作で名乗った。
「認識番号285002、特務隊フェイス所属アスラン・ザラ。乗艦許可を」
そこへ、息を切らしながらシンが駆け込んでくる。
「ねえさっきの……あんた!なんだよこれは? 一体どういう事だ!」
ルナマリアは慌てて買い物袋を片手に持ち替え、もう片方の手でシンの腕を掴む。
「もう! 口の利き方に気を付けなさい! 彼はフェイスよ!」
その叱責に、シンは思わず肩を跳ねさせた。
驚きに目を瞬かせ、アスランとルナマリアを交互に見比べる。
アスランの胸元で光るフェイスの徽章がライトを受けて鋭く輝いた。
それは選ばれた者にしか許されない、特別な証。シンは息を呑む。
「えぇ?何であんたが……」
「シン!」
メイリンは戸惑いながら、視線はアスランへと釘付けだった。
「え? ええ……」
アスランは苦笑し、スーツケースの取っ手を握り直した。
「艦長は艦橋ですか?」
声をかけられたマッドは一瞬きょとんとし、慌てて姿勢を正す。
「ああ、はい。だと思います」
その返答を聞いた瞬間、
メイリンは“今だ”とばかりに目を輝かせ、買い物袋を抱えたまま一歩前へ踏み出した。
「私が御案──」
しかし、その言葉が終わるより早く、ルナマリアがすっと前へ出てメイリンの前に立った。
姉らしい素早い反応でまるで自然に体が動いたかのようだった。
「確認して御案内します」
「ぁ……」
出鼻をくじかれたメイリンは、買い物袋を胸に抱えたまま小さく肩を落とす。
アスランはそんな二人のやり取りに気づき、柔らかく微笑んでルナマリアへ軽く会釈した。
「ぁ……ありがとう」
その背中に、シンが思わず声をかけた。握ったドリンクのカップがわずかに震えている。
「ザフトに戻ったんですか?」
アスランは足を止め、ほんの一瞬だけ視線を伏せた。その横顔には、言葉にできない迷いが滲む。
「そういうことに、なるね」
「何でです?あっちのことはいいんですか?」
アマノの姿がない。あれほどの腕前を持つ彼女が、アスランと共に現れない理由が分からない。ナチュラルとは思えないほどの操縦技量。
ならば、彼女もまた“何か”に関わっているはずだと、シンはどこかで信じていた。
だからこそ、アスランだけが来たことに違和感があった。
そして、ほんの少しだけ——期待もあった。
アスランは視線だけをシンへ向ける。
その瞳はどこか遠くを見ているようで、しかし確かにシンの言葉を受け止めていた。
「……」
その沈黙は、言葉より重かった。
◇◇◇
ルナマリアの案内で別室へと案内され着替えを済ませたアスランは艦長室へ向かうためエレベーターの乗っていた。
「でも、なんで急に復隊されたんですか?」
「え?」
「な~んて、とっても聞いてみたいんですけど、いいですか?」
ルナマリアは振り返りにこっと笑って首を傾げる。
「…復隊したというか、まあうん……ちょっとプラントに行って、議長にお会いして……」
「え?」
アスランは話題を変えるように、少し早口で問い返した。
「それより、ミネルバはいつオーブを出たんだ?俺、何も知らなくて」
その問いにルナマリアは目を丸くし、思わず一歩前に出る。
「オーブへ行かれたんですか!?」
「ああ」
ルナマリアは心配そうに身を乗り出した。
「大丈夫でした!? あの国、今はもう……」
アスランは肩をすくめ、苦笑ともため息ともつかない息を漏らした。
「スクランブルかけられたよ」
ルナマリアは眉をひそめた。
「なんだかシンが怒るのもちょっと解る気がします。滅茶苦茶ですよ、あの国。
オーブ出る時、私達がどんな目に遭ったと思います?」
「ん?」
ルナマリアはその時の記憶を思い出したのか、肩をわずかに震わせながら続けた。恩を仇で打つとはあの事なのだろう。
「地球軍の艦隊に待ち伏せされて、ほんと死ぬとこだったわ。シンが頑張ってくれなきゃ、間違いなく沈んでました。ミネルバ」
アスランは驚きに目を見開く。
「けどカガリがそんな……」
ルナマリアはため息をつき、両手を腰に当てて肩をすくめた。
「私も前はちょっと憧れてたりしたんですけどねえ。カガリ・ユラ・アスハ。でもなんかガッカリ。大西洋連邦とは同盟結んじゃうし、変な奴とは結婚しちゃうし」
「結婚!?」
その声は思わず裏返り、アスランはスーツケースを取り落としてしまった。
何処の男だ!?アイツか、あのユウナか!
金属音がエレベーターの狭い空間に響き、ルナマリアは驚いて目を瞬かせる。
それでも彼女は、戸惑いながらも話を続けた
「ええ……ちょっと前に……そうニュースで……」
「……」
拾い上げたスーツケースの取っ手が手の中で滑り、アスランは慌てて握り直す。
その指先には力が入っていなかった。
「あのぉ……」
「ぇ? あ……」
ルナマリアは言いにくそうに視線を泳がせ、それでも意を決したように口を開く。
「あの! でも……式の時だか後だかに攫われちゃって、今は行方不明……」
「ええ!?」
その声は先ほどよりもさらに大きく、完全に動揺が隠せていなかった。
エレベーターの狭い空間にその響きが残る。
ちょうどその時、エレベーターが目的階に到着し、無機質な電子音とともに扉が開いた。
二人は気まずい沈黙のまま通路へ歩み出る。
アスランはスーツケースを握りしめたまま、どこか足元がふらつくようなぎこちない歩き方だった。ルナマリアは横目でアスランの様子をうかがい、自分が余計なことを言ってしまったのではと胸がざわつく。そして小さく頭を下げた。
「とかって話も聞きました。良く解らないんですけど。済みません」
「いや……」
アスランは言葉にならない様子でその後艦長室まで着いていった。
◇◇◇
あの議長はどうして問題をこちらに投げてくるのか。
タリアは、手にしていた紙の書類を軽く机に置き、深く息を吐いた。
「はぁ…。貴方をフェイスに戻し、最新鋭の機体を与えてこの艦に寄こし…」
「ぁ…」
タリアはアスランをじっと見つめ、眉をひそめる。
「私までフェイスに? 一体何を考えてるのかしら。ねえ、議長は。それに貴方も」
アスランは視線を落とし、静かに頭を下げた。
「申し訳ありません」
「別に謝る事じゃないけど。それで? この命令内容は、貴方知ってる?」
「いえ、自分は聞かされておりません」
アスランが首を振るとタリアは紙の書類を指先で整えながら、皮肉めいた笑みを浮かべた。
「そう。なかなか面白い内容よ」
アーサー・トラインが書類を抱えたまま顔を上げる。
「ん?」
「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かえ。現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」
「スエズの駐留軍支援ですか!? 我々が!」
アーサーは書類に目を走らせた瞬間、椅子ごと跳ねるように上体を起こした。
手にしていた紙がわずかに揺れ、視線がタリアとアスランの間を忙しなく往復する。
タリアは肩をすくめ、書類を指先で軽く弾いた。
その仕草には、命令内容への呆れと、どうにも腑に落ちない苛立ちが混ざっている。
「ユーラシア西側の紛争もあって、今一番ゴタゴタしてる所よ。確かにスエズの地球軍拠点はジブラルタルにとっては問題だけど、何も私達がここから行かされるようなものでもないと思うわね」
アーサーはその言葉に強くうなずきながら、手にしていた書類を胸元に抱え直した。
「ですよね。ミネルバは地上艦じゃないですし。一体また何で?」
アスランはしばらく黙っていたが、意を決したようにわずかに背筋を伸ばし、遠慮がちに口を開いた。
「ユーラシア西側の紛争というのは? すみません、まだいろいろと解っておりません」
「え…ああ」
タリアは一瞬だけ瞬きをし、腕を組み直した。説明に入る前に、アスランの表情を確かめるように横目でそっと覗く。
「常に大西洋連邦に同調し――というか、言いなりにされている感のあるユーラシアから、一部の地域が分離独立を叫んで揉めだしたのよ。つい最近の事よ。知らなくても無理ないわ」
アスランは小さく息を呑み、視線を落としたまま眉を寄せる。
「…」
アーサーが横から補足するように身を乗り出す。
「開戦の頃からですよね?」
「ええ」
タリアは軽くうなずき、指先で机をとんとんと叩いた。
「確かにずっと火種はありましたが」
「開戦で一気に火がついたのね。徴兵されたり制限されたり。そんなことはもうごめんだ、というのが抵抗してる地域の住民の言い分よ。それを地球軍側は力で制圧しようとして、かなり酷いことになってるみたいね。そこへ行けということでしょ? つまりは」
アスランの肩がびくりと揺れた。
「あッ…」
言葉を失ったまま、彼はタリアを見上げる。その視線を受け止めるように、タリアはゆっくりと姿勢を正し、まっすぐ彼を見つめ返した。
「…」
タリアは言葉を締めると、アスランとアーサーを順に見渡した。
「我々の戦いは、あくまでも積極的自衛権の行使である。プラントに領土的野心はない。そう言ってる以上、下手に介入は出来ないでしょうけど……行かなくてはならないのはそういう場所よ。しかも、フェイスである私達二人が。覚えておいてね」
アーサーは背筋を伸ばし、反射的に声を張った。
「はっ!」
アスランも遅れて姿勢を正し、短く答える。
「はい」
その後、わずかな沈黙が落ちた。アスランは何か言いかけては飲み込み、視線を机の端へ落とす。ためらいが胸の奥で渦を巻いているのが、見て取れる。やがて、意を決したように口を開いた。
「あ、あの…」
タリアが顔を向ける。
「ん?」
アスランは一度まぶたを伏せ、言葉を慎重に選ぶように続けた。
「オーブのこと…艦長は何か御存知でしょうか?」
タリアは一瞬だけ目を瞬かせた。
「え?」
「自分は何も知らなかったものですから…」
アスランの声は低く、どこか痛みを含んでいた。タリアは小さく息を吐き、手元の書類をめくりながら答える。
「ああ、今大騒ぎですものね。代表が攫われたとかで。オーブ政府は隠したがってるみたいだけど……代表を攫ったのはスノーホワイト、フリーダムとアークエンジェルという話よ」
アスランの顔色が一気に変わった。
「えッ!?」
その瞬間、彼の脳裏にはキラの顔、そしていつもどこか抜けた表情のアマキが浮かぶ。
二人の姿が、まるで悪い冗談のように脳裏をよぎり、胸の奥がざわついた。
アスランは唇を震わせながら、かすれた声を絞り出す。
「あいつらが…」
タリアは眉をひそめ、書類を机に置き直しながらため息をついた。
「何がどうなってるのかしら? こっちが聞きたいくらいだけど」
アスランは深く頭を下げるようにして礼を述べた。
「ありがとうございます」
タリアは肩を落とし、視線をそらしながら小さく息を吐く。
「…はぁ」
艦長室を出たアスランも同じように、胸の奥の重さを吐き出すようにため息を返した。
「はぁ…」
扉が静かに閉まる音が、やけに遠く感じられた。
アスランは廊下に立ち止まり、こめかみを指で押さえる。
脳裏には、キラと――そしていつも調子の抜けたアマキの顔が浮かぶ。
『だよーん』
その声が脳内で妙に鮮明に響き、アスランは眉間を押さえた。
なんか無性に腹が立った。
とりあえず、あいつ等の元にいるなら危険はないだろう。アマキは別だが。
自分で心の中に突っ込みを入れ、わずかに肩を落とす。
その小さな動きで、胸のざわつきがほんの少しだけ抜けた。
それでも、立ち止まっていても仕方がないと気持ちを切り替え、アスランは歩き出した。
靴音が廊下に規則正しく響き、彼の中のざわつきも少しずつ落ち着いていく。
アスランは背筋を伸ばし、艦長室を後にした。
◇◇◇
それから艦内では、二人のフェイス誕生の噂でもちきりだった。
クルーたちは通路ですれ違うたびにひそひそと声を潜め、しかし目だけは好奇心で輝いている。
「フェイスが二人も…」「しかも片方はアスラン・ザラだってよ」
そんな囁きが、どこへ行っても耳に入る。
その中心で、ルナマリアは完全にターゲットを絞っていた。アスランが通路を歩けば、角の向こうから絶妙なタイミングで現れ、食堂に入れば、なぜか隣の席が空いている。
そして笑顔で距離を詰める。アスランはそのたびに、微妙に肩をすくめ、視線を泳がせ、
「え、あ…その…」と返すのが精一杯だった。
もしここにアマキがいたら――。
間違いなく、腕を組んでニヤニヤしながら言うだろう。
『カガリに告げ口してやろ~、けけけけ~~!』
その声が脳内で再生され、アスランは思わずこめかみを押さえた。
ルナマリアのアタックより、アマキの嫌味の方がよほど破壊力がある。
とはいえ無下にもできず、かといって深入りもできない。
アスランは内心で距離感を測りながら、
“適度な距離”を保つよう細心の注意を払って対応するのだった。そしてミネルバは明朝出立する手はずになった。
◇◇◇
地球軍旗艦J.P.ジョーンズの甲板近く。
潮風がゆるく吹き抜けるその場所に、ステラは膝を抱えて座り込んでいた。
海を見つめる瞳は静かで、波の揺れに合わせてゆっくり瞬きをする。
うみはすき。ごちゃごちゃとうるさいものがないから。
スノウはもっとだいすき。
わたしたちのことをちゃんとまもってくれるって、やくそくしたから。
そんなステラを探して、艦内を歩き回っていたアウルが、ひょいと甲板に顔を出した。
「いたいた。お前ほんと好きだな、海」
ステラは振り返り、首をかしげる。
「?」
アウルは苦笑しながら、ステラの頭を軽くぽんと叩いた。
「ステラ~お呼びかかたったぜ。スノウから」
その名を聞いた瞬間、ステラの目がぱっと輝く。
さっきまでのぼんやりした空気が一気に晴れた。
「スノウよんでるの? いく!」
アウルは歩き出しながら肩を回し、いつもの調子で軽口を叩く。
「ってことはまた戦争だね。ま、俺らそれが仕事だし。っつか人使い荒いよな、スノウって。今度奢らせてやろうぜ!」
「うん」
ステラは素直に頷き、アウルの袖をちょんとつまんでついていく。
その仕草はまるで年の離れた妹のようだった。
「今度は何機落とせっかなぁ。皆で競争すっか」
「うん!」
アウルは振り返ることはしなかったが、歩幅をほんの少しだけステラに合わせていて、スノウならば「尊い、尊いぞ」とコメントを残していただろう。
二人は仲良く艦内へ消えていった。
◇◇◇
そしてニーラゴンゴの先導の元ミネルバはカーペンタリア基地を出港することになった。
アーサーの声が艦橋に響く。
「ニーラゴンゴ発進しました」
タリアは前方スクリーンを見据え、静かに命じた。
「こちらも出ましょう。ミネルバ発進する。微速前進」
「ミネルバ発進! 微速前進!」
アーサーが復唱し、艦内に振動が走る。
ミネルバの巨体がゆっくりと動き出し、床下から低い唸りが伝わってきた。
アスランはこれ以上アマキの幻影から逃れるため、そしてルナマリアにつけられるのを避けるため、艦内の死角を選んでそっと身を隠していた。
物陰に背を預け、息を整える。
(キラとラクスが一緒なら、大丈夫だ。どのみちオーブには戻れないんだし)
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥のざわつきは完全には消えない。
(アマキとしばらく顔を会わせてなくていいから胃腸も回復するだろう)
そう思った瞬間、脳裏にあの間抜けな笑顔が浮かび、アスランはこめかみを押さえた。
『だよ~ん♪』
(……いや、ほんと頼むから出てくるなよ)
「アスラン~?」
ルナマリアの声がする。そっと壁のように身を潜め、息をころす。
廊下の足音が遠ざかるのを確認し、アスランはそっと物陰から顔を出した。
まだ誰にも見つかっていない。なんてサバイバルな状況だ。だがほんの少しだけ、胃のあたりが軽くなった気がした。