腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-17戦士の条件

アークエンジェルは海底深く、光の届かない静寂の中に身を潜めていた。

スカンジナビア国の“見逃し”という形で、辛うじて逃げ込めた隠れ家。

だが、ブリッジに流れるニュースは、その静けさとは真逆の騒がしさを放っていた。

マルチモニターには、各国の混乱と衝突が同時に映し出されている。

 

『このデモによる死傷者の数は既に1000人にのぼり、赤道連合政府は…』

 

『18日の大西洋連邦大統領の発言を受けて、昨日、南アフリカ共同体のガドア議長は…』

 

『この声明に対しプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは昨夜未明、プラントはあくまでも…』

 

ブリッジにはバルトフェルド特製のコーヒーの香りが広がり、束の間の休息が訪れている。

艦長席ではマリューがカップを両手で包み、その横でムウがコンソールに片肘をつきながら画面を眺めていた。キラとアマキは並んで立ち、同じモニターを見つめている。

少し後ろでは、バルトフェルドとアイシャが肩越しに画面を覗き込みつつ、

コーヒーを味わっていた。

 

『このデモによる死傷者の数は既に1000人にのぼり――』

 

バルトフェルドはカップを軽く揺らし、苦笑する。

 

「毎日毎日、気の滅入るようなニュースばかりだねえ」

 

 

『ユーラシア西側地域では依然激しい戦闘が続いており――』

 

バルトフェルドは肩をすくめ、天井を仰ぐ。

 

「なんかこう、気分の明るくなるようなニュースはないもんかねえ?」

 

マリューは艦長席で姿勢を正し、カップを口元に運びながら小さく微笑む。

 

「水族館で白イルカが赤ちゃんを生んだとか、そういう話?」

 

「いやあ、そこまでは言わんよ」

 

アイシャはバルトフェルドの隣で腕を組み、わざとらしくため息をついた。

 

「そうねぇ、結婚話も頓挫しちゃったしね?」

 

カガリは腕を組んだまま、モニターを睨むように見つめている。

 

「くっ、あれは一回目に入らんぞ。しかし、何か変な感じだな。プラントとの戦闘はどうなっている?入ってくるのは連合の混乱のニュースばかりじゃないか」

 

キラはアマキの隣で静かに立ち、画面の奥を見透かすような鋭い目をしていた。

アマキも同じ画面を見つめながら、キラの沈黙の意味を探るように横目で彼を見ている。

ムウはマリューの横で腕を組み、軽く顎を上げて画面を眺めた。

 

「そういう世間の陰謀だよ。イメージ操作ってやつだな」

 

その言葉に、ブリッジの空気がわずかに沈む。

誰も軽口を返さない。全員が、どこかで“あり得る”と感じていた。

 

世界は混乱している。

だが、その混乱の“見せ方”があまりにも偏っている。

まるで――誰かが意図的に、何かを隠しているかのように。

 

ラクスは、モニターに映るニュースの喧騒を一度だけ見つめ、指先で軽くパネルを操作した。

すると、メイン画面の横に新たな映像ウィンドウがふわりと追加される。

 

「そうですわねぇ。プラントはプラントでずっとこんな調子ですしね」

 

カガリは眉をひそめ、椅子から少し身を乗り出した。

 

「ん?」

 

キラの隣に立つアマキは、映像を見た瞬間に肩をすくめ、小さく笑いながらキラへ視線を送る。

 

「あら~」

追加された映像は、プラントで行われているコンサートライブだった。

 

ステージの中央で踊りながら歌う少女――容姿も声もラクス・クラインそのもの。

だが、衣装は大胆で、動くたびに視線の置き場に困るほどだ。

観客の歓声が映像越しに響き、ブリッジの静けさと妙な対比を生んでいた。

 

軍の慰問ライブらしいが……。

 

『勇敢なるザフト軍兵士の皆さ~ん!平和の為、わたくし達もがんばりま~す!皆さんもお気を付けて~!』

 

どこか媚びているような声の調子で手を振るとさらに歓声が増してくる。

 

ラクスは穏やかな微笑みを浮かべていた。

だが、その目の奥には、静かに沈んだ怒りの色がわずかに揺れている。

モニターに映る“自分そっくりの少女”を見つめながら、声だけは柔らかかった。

 

「皆さん、元気で楽しそうですわ」

 

その微笑みの裏にある温度差に気づいた者たちは、思わず息を呑む。

アマキはキラの隣で腕を組み、画面を見ながら苦笑した。

 

「なんというか、これは別のラクスだね。まぁ新鮮とは言えば新鮮――」

 

キラが小さく咳払いし、アマキの名を呼ぶ。

 

「アマキ」

 

「はい」

 

フレイは脚を組み替え、画面をじっと見つめながら毒舌を放つ。

 

「衣装がちょっとエロすぎね。特定の相手に向けてそうだわ。私ならもうちょっとラクスよりの清楚なイメージで攻めるけど。これって例の議長の提案なわけ?だとしたら変態じゃない?」

 

「ぶっ!」

 

ラウは思わず吹き出し、手元のカップを危うく落としそうになる。

マリューは艦長席で苦笑し、肩をすくめた。

 

「そうね、ちょっとビックリするくらいイメージとかけ離れてるわねぇ」

 

ナタルは腕を組んだまま、画面のミーアの衣装を見て顔を赤らめる。

 

「替え玉というやつですか。しかし、このような恰好は…!」

 

アマキは腕を組み、モニターに映る“もう一人のラクス”を見つめながら静かに言った。

 

「逆にこれが戦略なんじゃないか?以前のラクスと、生まれ変わったという」

 

カガリは唇を噛み、映像から目を離さずに呟く。

 

「これも、いいのか?このままにしておいて」

 

ラクスは微笑みを保ったまま、しかしその瞳だけが揺れていた。

 

「………」

 

バルトフェルドはカップを置き、肩をすくめる。

 

「そりゃ、何とか出来るもんならしたいけどねえ。だが、下手に動けばこちらの居所が知れるだけだ。そいつは現状あまりうまくないだろ? 匿ってくれているスカンジナビア王国に対しても」

 

「ええ、それは」

 

カガリは腕を組み直し、焦りを隠せない。

 

「なら、いつまでもこうして潜ってばかりもいられないぞ」

 

ラウは静かに笑い、カガリへ視線を向ける。

 

「そう急かさずとも、情勢は徐々に変わっていくものだ。すぐに動くというのは短慮だぞ、カガリ嬢」

 

マリューは艦長席で姿勢を正し、淡々と状況を整理する。

 

「ユニウス7の落下は確かに地球に強烈な被害を与えたけど、その後のプラントの姿勢は紳士だったわ。難癖をつけて開戦した連合国が馬鹿よ」

 

「ああ」

 

「ブルーコスモスだろ?」

 

「まあね。でも、デュランダル議長はあの信じられない第一派攻撃の後も馬鹿な応酬はせず、

市民から議会からみんななだめて最小限の防衛戦を行っただけ。どう見ても悪い人じゃないわ。そこだけ聞けばね」

 

キラは黙ったまま、視線を落とす。

 

「……」

 

「実際良い指導者だと思う、デュランダル議長は。というか、思っていた。ラクスの暗殺とこの件を知るまでは。アスランだってそう思ったからこそプラントへ行くと言い出したんだし」

 

アマキは深く息を吐き、静かに言葉を落とす。

 

「けど、彼はラクスが邪魔になったから暗殺を仕掛けてきたのだろう?だからこそのあの替え玉だ。それにアスランという強力な駒も入手できた」

 

キラは拳を握りしめ、低く呟く。

 

「僕たちは今動くときじゃない」

 

「ああ」

 

キラは顔を上げ、アマキへ視線を向ける。

 

「そして今のままじゃあ、僕には信じられない。そのデュランダルって人は。

アマキにも粉かけてきたんでしょ、上(宇宙)でさ」

 

「キラ…」

 

「みんなを騙してる。納得いかないよ」

 

バルトフェルドは苦い顔でコーヒーをすすった。

 

「それが政治と言えば政治なのかもしれんがね」

 

「………」

 

ラウは静かに目を閉じ、どこか遠い声で言う。

 

「ギルは……きっと自分にとって都合のいい世界を築きたいのだろう。誰もが平等でありえるような世界を……」

 

アマキはその言葉に、わずかに目を伏せた。

 

「………夢の世界だな…」

 

その夢のような世界を、誰もが望んでいる。

だが――それを“誰か一人の理想”で作ろうとした瞬間、世界は矛盾に満ちていく。

 

◇◇◇

 

ミネルバのブリッジは、入港前の独特の緊張と慌ただしさに包まれていた。

それでも、どこか安堵の空気が混じっている。

メイリンはコンソールに向かい、指先を素早く動かしながら報告する。

 

「マハムール基地より誘導ビーコン捕捉しました」

 

タリアは落ち着いた声で即座に指示を返す。

 

「ビーコン固定。入港準備」

 

マリクは手元のパネルを確認しながら、淡々と作業を進める。

 

「ビーコン固定。入港準備開始します」

 

そのやり取りを聞きながら、アーサーは胸をなでおろすように息を吐いた。

緊張が少しだけ解けたのが、誰の目にもわかる。

 

「ふぅ」

ミネルバはゆっくりと進路を調整し、マハムール基地の岸壁へと静かに近づいていく。

こうして知恵の女神は無事に基地へとたどり着けたのだ。

 

◇◇◇

格納庫ではそれぞれの機体がメンテナンスに入っていた。格納庫には金属音と整備員たちの掛け声が響き、セイバーの足元ではヴィーノとヨウランが作業しながら、完全に“仕事より噂話”に夢中になっていた。

ヴィーノは立ったままモニターを覗き込み、キーボードの上に手を置いたまま、ため息混じりに言う。

 

「でもいいよなぁ軍本部の奴等。ラクス・クラインのライヴなんてほんと久しぶりだもん。俺も生で見たかったぁ」

 

ヨウランは思い出し笑いのようににやにやしている。

 

「けど、だいぶ歌の感じ変わったよな、彼女」

 

「ああ、うん」

 

ヴィーノはモニターから視線を外し、ヨウランの方へ体を向けてしまう。

手はキーボードの上で完全に止まっている。

ヨウランは手を止め、空を見上げるように語り出す。

 

「俺、前々から今みたいな方がいいんじゃないかと思ってんだけどさぁ。なんか若くなったって言うか、可愛いよな最近」

ヴィーノは腕を組み、立ったまま妙に真剣な顔で頷く。

 

「それに今度、衣装もな~んかバリバリ?」

 

ヨウランは勢いよく前のめりになり、興奮気味に続ける。

 

「そうそう!そしたらさぁ胸、けっこうあんのなあ。今度のあの衣装のポスター、俺絶対欲しい!」

 

二人が同時に身を乗り出した、その瞬間――背後から影が落ちた。

 

「セイバーの整備ログは?」

 

二人はビクッと跳ねるように硬直し、同時に振り返る。

 

「…あ、あっとこれです!」

 

ヴィーノは立ったまま慌ててモニターに向き直り急いでデータを表示する。

アスランは淡々と受け取り、軽く頷く。

 

「ありがとう」

 

アスランが歩き去ると、ヴィーノは肩を落としながら乾いた笑いを漏らす。ヨウランも深いため息をついた。アスランが完全に視界から消えたのを確認して、ヴィーノはモニターに肘をつくように身を寄せ、小声でぼそり。

 

「婚約者だもんなぁ。いいよなぁ」

 

ヨウランはセイバーを見上げ、悪い笑みを浮かべてる。

 

「ちぇ。ケーブルの2,3本も引っこ抜いといてやろうか?セイバー」

 

その瞬間、背後から低い声が落ちてきた。

 

「聞こえてるぞ二人とも」

 

「「あッ!!」」

 

アスランは振り返りもせず、ついでのように言い足す。

 

「さっきのも全部」

 

「「あぁすいません!」」

 

二人は慌てて頭を下げ、ヨウランはケーブルを抱え直し、ヴィーノはようやくキーボードを叩き始めた。

さすがフェイス、侮りがたし――二人は心の中で同時にそう思った。

 

◇◇◇

マハムール基地の埠頭には、乾いた潮風が吹き抜けていた。

停泊中のミネルバの船体が低く軋み、荷揚げクレーンの動く音が遠くで響いている。

迎えに出た基地兵たちが整列し、三人を待ち構えていた。

タリアは一歩前に出て、落ち着いた声で名乗る。

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

 

アーサーは背筋を伸ばし、やや緊張した面持ちで続く。

 

「副長のアーサー・トラインであります」

 

アスランは無駄のない動作で敬礼し、名乗った。潮風が彼の髪をわずかに揺らす。

 

「特務隊、アスラン・ザラです」

 

その名を聞いた瞬間、ラドル司令官の表情がわずかに揺れた。

 

「アスラン…ザラ…」

 

周囲の兵士たちもざわつき、ひそひそ声が漏れる。

 

「アスランってクルーゼ隊の?」

 

アスランは短く、しかしはっきりと答える。

 

「はい」

 

ラドルは小さく息を整え、態度を改めるように一歩前へ出た。

 

「いや、失礼した。マハムール基地司令官のヨアヒム・ラドルです。遠路お疲れ様です」

 

そう言いながら、ラドルは右手を差し出す。潮風が二人のコートの裾を揺らした。

タリアは微笑を浮かべ、丁寧に首を振りつつ、差し出された手をしっかりと握り返す。

短い握手だが、艦長としての礼節と自信がにじんでいた。

 

「いいえ」

 

ラドルは場の空気を和らげるように、埠頭の奥にある施設を指し示した。

 

「まずはコーヒーでもいかがです?ご覧の通りの場所ですが、豆だけはいいものが手に入りますんで」

 

タリアはわずかに表情を緩め、礼を込めて答える。

 

「ええ、ありがとうございます」

 

◇◇◇

整備を終えた三人は、ミネルバの通路を並んで歩いていた。

シンは前を向いたまま不機嫌そうに眉を寄せ、ルナマリアはその横で腕を組みながら歩幅を合わせている。レイは少し後ろ気味に、無表情で二人のやり取りを見守っていた。

ルナマリアは歩きながらシンの横顔を覗き込み、わざとらしくため息をつく。

 

「睨んでばっかいないで、言いたいことがあるんなら言えば?ガキっぽすぎるよそんなの」

 

シンは視線をそらし、歩く速度を少しだけ速める。だがルナはすぐ横に追いつき、さらに続けた。

 

「そりゃあシンの気持ちも解んなくはないよ?いきなり出戻ってきてフェイスだ上官だって言われたって、そりゃねぇ。おまけに二度も叩かれて。」

シンの肩がわずかに揺れる。後ろを歩くレイは、何も言わず静かに様子を見ている。

 

「でもフェイスはフェイスだもの。仕方ないじゃない。その力がないわけじゃないし」

 

シンは苛立ちを隠しきれず、足を止めずに吐き捨てる。

 

「解ってるよ。もう五月蝿いなルナは」

 

ルナは歩きながらシンの腕を軽く小突く。

 

「何が解ってんのよそれで」

 

シンはさらに歩幅を広げ、ルナから距離を取ろうとする。

 

「いいからもう黙れよ。ルナには関係ないだろ」

 

ルナは足を止め、両手を腰に当てて叫ぶ。

 

「ッんもう!」

 

レイはその横を静かに通り過ぎ、小さく息を吐きながらあえて静観を貫いた。

 

◇◇◇

 

マハムール基地司令部。

中央には大型の戦略パネルテーブルが据えられ、周辺地形の立体地図が淡い光を放ちながら表示されている。タリア、アーサー、アスラン、ラドル司令官は椅子に腰を下ろし、パネルを囲んで作戦会議を進めていた。タリアはパネルに映る地図へ視線を落とし、わずかに身を乗り出して状況を確認しながら言う。

 

「状況はだいぶ厳しそうですわね、こちらの」

 

ラドルは椅子に深く座り直し、苦笑を浮かべる。

 

「ええ。流石にスエズの戦力には迂闊に手が出せませんでねぇ」

 

アーサーはパネルに映る赤い警告ラインを見て、思わず肩を落とす。

 

「はぁ…」

 

ラドルは操作端末に手を伸ばし、スエズ周辺を拡大表示させた。

 

「どうしても落としたければ前の大戦の時のように、軌道上から大降下作戦を行うのが一番なんですが。何故かその作戦は議会を通らないらしい」

 

タリアは椅子に背を預け、静かに視線をラドルへ向ける。

 

「こちらに領土的野心はない。と言っている以上、それは出来ないってことかしらね」

 

ラドルは鼻で笑い、パネルの端を軽く叩く。

 

「いたずらに戦火を拡大させまいとする今の最高評議会と議長の方針を私は支持していますが。ふん、だが、こちらが大人しいことをいいことにやりたい放題もまた困る」

 

タリアはパネルの地形を見つめながら問い返す。

 

「と言うと?何かあると言うこと?スエズの他に」

 

ラドルは表示を切り替え、ユーラシア西側地域を拡大した。

 

「地球軍は本来ならばこのスエズを拠点に一気にこのマハムールと地中海の先、我等のジブラルタル基地を叩きたいはずです。だが今はそれが思うように出来ない。何故か。理由はここです」

 

アーサーは地名を読み上げる。

 

「ユーラシア西側地域か」

 

「ええ。インド洋、そしてジブラルタルがほぼこちらの勢力圏である現在、この大陸からスエズまで地域の安定は地球軍にとっては絶対です。でなきゃ孤立しますからね、スエズ」

 

ラドルはさらに地図を操作し、山岳地帯を強調表示させた。

 

「なので連中はこの山間、ガルナハンの火力プラントを中心にかなり強引に一大橋頭堡を築き、ユーラシアの抵抗運動にも睨みを利かせて、かろうじてこのスエズまでのラインの確保を図っています。まあおかげでこの辺りの抵抗勢力軍は、ユーラシア中央からの攻撃に曝され南下もままならずと、かなり悲惨な状況になりつつもありましてね」

 

アスランはパネルに映る渓谷のラインをじっと見つめ、静かに言う。

 

「しかし逆を言えば、そこさえ落とせばスエズへのラインは分断でき、抵抗勢力軍の支援にもなって間接的にでも地球軍に打撃を与えることが出来ると、そういうことですね」

 

アーサーは感心したように身を乗り出す。

 

「ぉぉ!」

ラドルは満足げに頷く。

 

「ま、そういうことだ。だが向こうだってそれは解っている。となれば、そう簡単にはやらせてはくれないさ」

 

ラドルは渓谷部分を拡大し、陽電子砲の位置を示す赤いマーカーを表示させた。

 

「こちらからアプローチできるのは唯一この渓谷だが、当然向こうもそれを見越していてね。ここに陽電子砲を設置し、周りにそのリフレクターを装備した化け物のようなモビルアーマーまで配置している。前にも突破を試みたが結果は散々でね」

 

アーサーは青ざめた顔で思い出す。

 

「ぁぁ!あの時みたいな…」

 

「だが、ミネルバの戦力が加わればあるいは」

 

タリアはパネルを見つめながら状況を整理する。

 

「なるほどね。そこを突破しない限り私たちはすんなりジブラルタルへも行けはしないと。そういうことね?」

 

「ぇ?ぁぁ…」

 

「ま、そういうことです」

 

アスランは黙ったまま、拳を強く握りしめていた。

 

「…」

 

タリアはその様子に気づきつつ、皮肉を込めて言う。

 

「私達にそんな道作りをさせようだなんて、一体どこの狸が考えた作戦かしらね」

 

「ん?」

 

タリアは肩をすくめる。

 

「ま、いいわ。こっちもそれが仕事といば仕事なんだし」

 

ラドルは小さく笑い、椅子から身を乗り出す。

 

「ふふ。では、作戦日時等はまた後ほどご相談しましょう。こちらも準備がありますし。我々もミネルバと共に今度こそ道を開きたいですよ」

 

戦略パネルの光が揺らめく司令部で、アスランはただ黙って拳を握りしめていた。

その沈黙が、この作戦の重さを誰よりも雄弁に物語っていた。

 

◇◇◇

 

ミネルバのシャワールームには、湯気が薄く漂い、仕切りの向こうからルナマリアがシャワーを浴びる音が響いていた。

 

「はぁ~!」

 

その声に、手前のロッカー前で着替え中のメイリンが振り返る。

制服の上着を脱ぎながら、ふと姉のスカートが目に入った。

 

「えぇ? じゃあシンてばあれから全然ザラ隊長と口きかないの?」

 

「まあね。ほんとにしょうがないわよね。シンてば全然子供なんだもん」

 

メイリンは「ふーん…」と呟きつつ、姉のスカートをそっと手に取り、試しに腰へ通してみる。――が、ウエストが明らかにきつい。

メイリンは無言でホックを引っ張り、眉間に皺を寄せて静かにイラ立ちを募らせていた。

 

「だよねえ。悪いけど私から見てもそう思うもん」

 

「ま、そのうち何とかなるとは思うけど。どうせシンの負けで」

 

メイリンはスカートのホックと格闘しながら、「なんで入ると思ったんだろ私…」と小声でぼやく。

 

「だよね…ッ…ザラ隊長の方が全然大人でかっこいい……もうッ!」

 

その叫びに、シャワーの向こうでルナマリアが不思議がる。

 

「あれ? でも私と一つしか違わないんじゃなかったっけ? あの人って」

 

メイリンはスカートをそっと脱ぎ、姉の服にパシッとたたきつけた。

 

◇◇◇

 

ミネルバの甲板は、停泊中の静けさに包まれていた。すぐ目の前には灰色の岸壁がそびえ、海風が金属の手すりをかすかに鳴らしている。整備員の姿もまばらで、ここだけ時間がゆっくり流れているようだった。その手すりにもたれ、シンは黙ったまま海面を見下ろしていた。

 

「………」

 

背後から足音が近づき、アスランが姿を現す。彼もまた、甲板の冷たい空気に少し肩をすくめながら歩み寄った。

 

「どうしたんだ? 一人でこんなところで」

 

シンは振り返らず、岸壁の方へ視線を向けたまま答える。

 

「別に、……なんでもないですよ。貴方こそいいんですか? 俺なんかに構ってて」

 

アスランは少しだけ視線を逸らし、岸壁に反射する波の光を眺めながら息を吐いた。

 

「……その、二度も叩いたのは俺が悪かった」

 

シンはゆっくりと振り返り、アスランを見た。怒りというより、まだ整理しきれない感情が揺れている。

 

「……俺は、謝りませんよ。悪いことをしたとは思っていないんですから」

 

甲板の上を風が通り抜け、二人の間に冷たい空気が流れた。

 

「だいたいこの間までオーブでアスハの護衛なんてやってた人が、いきなり戻ってきてフェイスだ上官だって言われたって。それではいそうですかって従えるもんか。やってること滅茶苦茶じゃないですか。貴方は」

 

アスランは反論せず、ゆっくりと歩み寄り、シンの隣に立った。甲板の手すりに片肘を預け、同じ景色を見るように視線を岸壁へ向ける。シンと肩が触れるほどではないが、逃げ場を塞がない絶妙な距離だった。海風が二人の間を抜け、手すりの金属をかすかに震わせる。

 

「それは、そうだろうなぁ。認めるよ。確かに君から見れば俺のやっていることなんかは滅茶苦茶だろう」

 

シンはその言葉にわずかに眉を寄せ、視線を落としたまま拳を握りしめる。

そして、何かを決めたように顔を上げた。

 

「……あの、教えてくれませんか。アマキ・カンザキのことを。貴方もあの大戦に出てたんですよね。知ってるんですよね? 彼女のことを!」

 

アスランの表情がわずかに揺れた。風に揺れる前髪の奥で、言葉を探すように目が細められる。

 

「……ああ、よく知っているよ。嫌っていうほどね。だが彼女のことは言えない。詳しくは言えないが、彼女は色々と世間的に注目されてはならない存在なんだ。彼女自身がそれを嫌っている」

 

「それは……俺だからですか?」

 

アスランは首を横に振り、岸壁へ視線を流した。

 

「いや、君以外にでもな。すまない。だが彼女は確かに君たち家族を救えてよかったとも言っていたよ。助けられるなら助けたい。誰だって、さ。だとも」

 

その言葉に、シンの強張っていた表情がふっと緩む。

胸の奥に張りつめていたものが、少しだけほどけていく。

 

「じゃあ、俺たちのことを覚えててくれたんだ。そっか、よかった」

 

岸壁に波が当たる音が、静かに二人の間を満たしていた。アスランは問いかける。

 

「君はあのインド洋での戦闘のことは、今でもまだあれは間違いじゃなかったと思っているのか?」

 

シンは一度だけ瞬きをし、視線を海へ落とした。拳がゆっくりと手すりの上で握られその指先に力がこもる。

 

「はい」

 

「そうか。だがこれだけは覚えておいてほしい。力を欲した者がその力を手にしたその時から、今度は自分が誰かを泣かせる者となる」

 

シンはその言葉にわずかに肩を揺らし、唇を噛んで視線をそらした。風が吹き抜け、彼の髪を乱す。

 

「…」

 

「俺達はやがてまたすぐに戦場に出る。その時にそれを忘れて、勝手な理屈と正義でただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ。

そうじゃないんだろ?君は。アマキのようになりたいんだろう?」

 

シンはゆっくりと顔を上げた。

その瞳には迷いと決意が入り混じり、胸の奥で何かが固まっていくようだった。

 

「はい」

アスランはわずかに口元を緩める。

 

「ならそれを忘れさえしなければ、君は優秀なパイロットだ」

 

「ぁ…」

 

シンは思わず視線をそらし、手すりを握る指先がほどけていく。耳まで赤くなっているのを隠すように、風上へ顔を向けた。

 

「でなけりゃただの馬鹿だがな」

 

「…一言多いですよ」

 

アスランは肩をすくめ、シンは小さく息を吐きながら、張りつめていた胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じていた。

 

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