腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:サボテンダーイオウ

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PHASE-18ローエングリンを討て!

大地は乾ききり、地平線まで続く荒野には風が砂を巻き上げていた。

かつて街道として使われていたらしい舗装の名残がところどころ黒い線となって地表に浮かんでいる。遠くにはガルナハンの山脈が霞んで見え、その向こうに敵の砲台が潜む渓谷がある。その荒野を進むミネルバの前方では、地上艦レセップス級〈デズモンド〉と、中型地上艦ピードリー級〈バグリイ〉が先行し、砂煙を大きく巻き上げながら進路を切り開いていた。二隻はミネルバの護衛兼、地上部隊の前衛として配置されている。

荒野の熱気を揺らしながら、ミネルバは浮遊機関の低い振動音だけを残して静かに前進していく。

 

ミネルバ艦内、艦橋。前方モニターには先行する二隻の航跡が映し出されていた。

 

「カーゴハッチの用意はいいわね?」

 

「はい!」

 

タリアは端末に映る作戦項目を確認しながら続ける。

 

「ポイントA通過後はコンディションをレッドに移行します。パイロットはブリーフィングルームへ集合」

 

「はい」

 

メイリンにより艦内放送が伝えられる。

 

そして、外では岩山の陰から一台のカーゴが勢いよく躍り出た。

跳ね上がった砂煙の向こうで、小型バギーが荒野を駆け抜けミネルバへ向けて一直線に走り込んでくる。ミネルバのカーゴハッチが開き前衛艦の残した砂煙が流れ込む中、その小型バギーが徐々に速度を落として接近した。

 

ハンドルを握っているのは、まだ幼さの残る少女だった。

小柄な身体で必死に車体を制御しながら、彼女はミネルバの巨大な船体を見上げ一瞬だけ息を呑む。誘導員が手信号を送りコニールはぎこちないながらも正確にバギーを操り、慎重にハッチ内へと進入した。

 

「収容完了。カーゴハッチ閉鎖します」

 

警告灯が点滅し、巨大なハッチが閉まり始める。外光が細くなりやがて完全に遮断された。

エンジンを止めたコニールは、緊張で強張った指をハンドルからゆっくり離し不安げに周囲を見回す。

 

その時、足音が近づきアスランが姿を現した。

彼はコニールと視線を交わすと少しかがんで目線を合わせ、柔らかい声で言った。

 

「Msコニールだね?大丈夫だ。待っていたよ。こっちへ」

 

コニールは小さく頷き、バギーから降りるとアスランの後ろに寄り添って歩き出した。

その背中には、覚悟と不安が入り混じった震えがわずかに残っていた。

◇◇◇

 

ミネルバのブリーフィングルーム。壁面のスクリーンにはガルナハン周辺の地形データが映し出され、マハムール基地から同行してきたパイロット達も含め、十数名が整然と席に着いていた。シンは椅子に腰を下ろしながら、隣のルナへ小声で尋ねる。

 

「けど、現地協力員って、つまりレジスタンス?」

 

ルナマリアは手元のチェックボードに目を通しながら、肩をすくめる。

 

「まあそういうことじゃない?だいぶ酷い状況らしいからね、ガルナハンの街は」

 

その時ブリーフィングルームの扉が開いた。アーサーとアスラン、そして見知らぬ少女を伴って入室してくる。少女は緊張した面持ちで、二人の後ろにぴたりとついていた。

シン達は一斉に席を立ち、敬礼で迎える。マハムールのパイロット達もそれに倣い、室内に規律ある動きが広がった。アスランは軽く頷き返し、少女にも小さく合図を送る。少女はぎこちなく頭を下げた。

 

まさか、この少女が協力員?

 

シンは、思わず眉をひそめた。

 

「子供じゃん」

 

その言葉に、前列に座っていたコニールがぴくりと反応し、むっとした表情でシンを横目に睨む。

 

「…」

 

空気が少しだけ張り詰めたところで、アーサーが手を叩き、場を引き締めた。

 

「着席。さあいよいよだぞ。ではこれよりラドル隊と合同で行う、ガルナハン・ローエングリンゲート突破作戦の詳細を説明する」

 

スクリーンが切り替わり、渓谷の立体地図が浮かび上がる。

 

「だが知っての通り、この目標は難敵である。以前にもラドル隊が突破を試みたが、結果は失敗に終わっている。そこで今回は、アスラン」

 

突然名を呼ばれ、アスランはわずかに肩を揺らした。

 

「え?」

 

アーサーは立ち位置を移動し、アスランへ指示するように手を向ける。

 

「代わろう。どうぞ。あとは君から」

 

アスランは一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐにスクリーンの前へ歩み出た。

 

「ぁぁ…はい」

 

彼は操作パネルに触れ、渓谷の断面図を拡大する。

 

「ガルナハン・ローエングリンゲートと呼ばれる渓谷の状況だ。この断崖の向こうに街があり、その更に奥に火力プラントがある。こちら側からこの街にアプローチ可能なラインは、ここのみ」

 

スクリーン上のルートが一本だけ赤く光る。アスランはポインターでそこを示した。

 

「が、敵の陽電子砲台はこの高台に設置されており、渓谷全体をカバーしていて何処へ行こうが敵射程内に入り隠れられる場所はない」

 

室内が静まり返る。

 

「超長距離射撃で敵の砲台、もしくはその下の壁面を狙おうとしても、ここにはモビルスーツの他にも陽電子リフレクターを装備したモビルアーマーが配備されており、有効打撃は望めない」

 

アスランは振り返り、シン達を見る。

 

「君達はオーブ沖で同様の装備のモビルアーマーと遭遇したということだが?」

 

その言葉に、シンとルナの胸にあの戦いの記憶が一気に蘇る。

アスランが赴任する前、オーブ沖で遭遇した陽電子リフレクター搭載モビルアーマー。

ビームが弾かれ、攻撃が通らず、追い詰められたあの瞬間。スクリーンに映る渓谷の図と当時の戦場の光景が重なって見えた。

 

「ぁ!」

 

「はい!」

 

アスランはスクリーンから視線を外し、前列に座る少女へと向き直った。

 

「そこで今回の作戦だが、Msコニール」

 

呼ばれたコニールはびくりと肩を揺らし、慌てて姿勢を正す。

 

「あ!はい」

 

アスランはシンの方へ視線を向け、静かに告げた。

 

「彼がそのパイロットだ。データを渡してやってくれ」

 

コニールはシンを見た。その目には年相応の不安と、背負ってきた現実の重さが入り混じっていた。

 

「……こいつで本当に大丈夫なんですか?」

 

その言葉に、シンはわずかに目を伏せる。アスランは即座に、迷いのない声で答えた。

 

「ああ。彼の実力は本物だよ。Msコニール」

 

「……」

 

シンの沈黙は、怒りでも反発でもなく、“任された責任の重さ”を受け止めようとする静かな呼吸だった。コニールは唇を噛み、チェックボードを胸元で握りしめる。

 

「わかった。けど失敗したら街のみんなだって今度こそマジ終わりなんだ。だから……頼むよ」

 

その声は震えていた。ただ、街を守りたいという必死の願いが込められていて、シンはゆっくりと顔を上げ、コニールの瞳を真正面から受け止める。

 

「………わかったよ」

 

その返事にコニールは小さく息を吐きディスクデータをシンへ差し出す。

シンは両手でそれを受け取りその重みを確かめるように視線を落とした。

 

「俺が何とかするって、絶対」

 

「……前にザフトが砲台を攻めた後、街は大変だったんだ。それと同時に街でも抵抗運動が起きたから」

 

「ぁ…」

 

コニールは拳を握りしめ、言葉を続ける。

 

「地球軍に逆らった人達は滅茶苦茶酷い目に遭わされた。殺された人だって沢山いる。今度だって失敗すればどんなことになるか判らない。だから、絶対やっつけて欲しいんだ!あの砲台、今度こそ!」

 

「ああ」

 

短い返事だったが、コニールの想いに全力で応えねばとの気概に満ちていた。

アスランはそんな二人のやり取りを黙って見守り、コニールの肩にそっと手を添えてブリーフィングルームを出る。少女はまだ不安げな表情のまま、アスランの横に寄り添って歩いた。そのままエレベーターまで降りていく途中、背後からルナマリアの声がかかる。

 

「流石がザラ隊長ですね」

 

「え?」

 

ルナマリアは軽く笑いながら歩み寄る。

 

「シンて素直だけど扱いにくいでしょ?あたし達アカデミーからずっと一緒ですけど、いっつもあんな調子で。あの子、教官や上官とぶつかってばっかり。なのにちゃんと乗せて、言うこと利かせて」

 

アスランは少し困ったように眉を下げる。

 

「そんなんじゃないよ、扱うとか」

 

「え?」

 

「下手くそなんだろ、いろいろと。悪い奴じゃない」

 

「ぁ…はぁ…」

 

「俺もあんまり上手い方じゃないけどね、人付き合いとか」

 

そう言ってアスランはコニールを連れてエレベーターに乗り込む。ドアが静かに閉まり、二人の姿が見えなくなった。残されたルナマリアはぽつりと呟く。

 

「ぁ… あたし、予防線張られた?」

 

隣で腕を組んでいたレイは、淡々とした声で返す。

 

「さぁ?」

 

その無表情な横顔にルナマリアはさらに複雑な気持ちを抱えたまま、彼と共に格納庫へ向かった。

 

◇◇◇

 

作戦開始の打電がヘズモンドから送られ、ミネルバのブリッジに一気に緊張が走った。

各オペレーターの指がほぼ同時に端末へ走る。メイリンの声が、張り詰めた空気を切り裂くように響いた。

 

「インパルス発進スタンバイ。パイロットはコアスプレンダーへ。中央カタパルトオンライン。気密シャッターを閉鎖します。中央カタパルト、発進位置にリフトアップします。コアスプレンダー全システムオンライン」

 

タリアは椅子から立ち上がり、前方スクリーンを鋭く見据えた。

 

「ブリッジ遮蔽。対モビルスーツ戦闘用意。インパルス発進後、ヘズモンド、ワグリーの前に出る」

 

今回の作戦の主軸はインパルスだ。だが、囮として最前に立つのはミネルバである。

相手はローエングリン、そして前回苦戦した新型MA。

シンが任務を達成するまでの時間を稼がなければならない。アーサーは慌ただしく端末を操作しながら声を張る。

 

「シウス、トリスタン、イゾルデ起動。ランチャーワン、セブン、1番から5番、全門パルシファル装填」

 

メイリンの席では、複数のウィンドウが次々と開き、機体データが高速で流れていく。

 

「X23Sセイバー、アスラン機発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルト、スタンバイ確認。レイ・ザ・バレル、ブレイズザクファントム発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。コアスプレンダー発進、どうぞ」

 

通信にシンの声が力強く乗る。

 

『シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!』

 

中央カタパルトから、コアスプレンダーが勢いよく飛び出した。

続いてチェストフライヤー、レッグフライヤーが後を追うように射出される。

 

「カタパルトエンゲージ。チェストフライヤー射出、どうぞ。レッグフライヤー射出、どうぞ」

 

三機は多くの期待を背負い指定ポイントへ向けて一直線に飛び立っていった。

対して地球軍側も、迎え撃つべく即座に動き出していた。岩山をくり抜いて造られた地球連合軍基地では、けたたましい警報が鳴り響き、隊員たちが一斉に持ち場へ走る。

 

「エリア1より接近する熱源あり。スクランブル!モビルスーツ隊は直ちに発進せよ!」

 

別の端末で識別信号が跳ね上がり、オペレータが声を上げる。

 

「識別、ザフト軍地上戦艦レセップス級1、ピートリ級1。それと…これはミネルバです!」

 

司令官は舌打ちし、椅子から身を乗り出す。

 

「ザフトめ、全く性懲りもなく。新型艦など持ってきたところで同じことだ。ローエングリン起動! ゲルズゲー発進!」

 

その声には揺るぎない自信があった。ゲルズゲーは、彼がこの基地で振るう 絶対的権力の象徴ともいえる兵器 である。昆虫を思わせる六本足の巨大な本体にストライクダガーの上半身をそのままセンサー兼砲台として無理やり接続したような、異様な改造機。

兵器としての整合性よりも、“使えるものは何でも使う”という執念だけが形になったような姿だった。

 

「進路クリアー。パワーコンジット分離確認。YMFG-X7Dゲルズゲー、発進よし!」

 

リフトが唸りを上げ、奇怪な巨体が外気へ押し上げられていく。基地全体が迎撃態勢へと切り替わる。

◇◇◇

 

シンの脳裏に、作戦前のやり取りが一気に蘇る。コニールの説明ではこうだった。

 

『ここに本当に地元の人もあまり知らない坑道があるんだ。中はそんなに広くないから、もちろんモビルスーツなんか通れない。でも、これはちょうど砲台の下、すぐそばに抜けてて、今、出口は塞がっちゃっているけど、ちょっと爆破すれば抜けられる』

 

インパルスは薄暗い坑道へと滑り込んでいた。内部は完全な闇で、一寸先すら見えない。

コアスプレンダーだけでもやっと通れるほどの狭さだ。

 

「あれか?えぇ~…なんだよこりゃ!真っ暗ぁ!?くっそー!まじデータだけが頼りかよ!」

 

コクピットの外は、ただ黒い壁が迫ってくるような圧迫感だけがある。

頼れるのは計器の光と、手元のデータだけ。この先に地球連合軍の砲台の下へつながる穴があるというが、本当にそこまで続いているのかすら怪しい。

 

『モビルスーツでは無理でもインパルスなら抜けられる。データ通りに飛べばいい』

 

あの淡々とした言い方に、シンの苛立ちはさらに募る。

冷静なアスラン様には簡単にできることだろうが、こっちは新米パイロットだ。

怒鳴り返してやりたい気持ちが喉まで込み上げる。その瞬間、意識がそちらに持っていかれ、機体の一部が岸壁にかすって火花が散った。衝撃が走り、シンは慌てて操縦桿を握りしめる。

 

「って、そんな問題じゃないだろうこれはッ! くっそー!」

 

さらに進んだ先、岩の隙間から流れ落ちる水が滝となり、インパルスは水しぶきをかき分けて突き抜けた。

 

『俺達が正面で敵砲台を引き付け、モビルアーマーを引き離すから、お前はこの坑道を抜けてきて直接砲台を攻撃するんだ』

 

「なにがお前になら出来ると思っただあの野郎!自分でやりたくなかっただけじゃないのかぁ!?」

 

『お前が遅すぎればこちらは追い込まれる。早すぎても駄目だ。引き離しきれないんだ。いいな?』

 

無茶言いやがって!

 

そう思いながらも、シンは自分に向けられた期待をひしひしと感じていた。

戸惑いもあったが、それ以上に嬉しかった。自分の力を認め、挑戦させ、任せてくれることが。言葉と行動は違う――まさにその通りだ。

アスランへの罵りと同時に、その期待に絶対応えてやるという気概が胸の奥で燃え上がる。

逆境にこそ火がつく、そんな感覚だった。

 

「やってやるさ、畜生ーーっ!!」

 

その叫びが脳裏に反響したまま、視界は一気に現在へ引き戻される。

 

◇◇◇

 

メイリンの端末に緑のラインが走り発進ルートが確保される。

カタパルトデッキでは蒸気が噴き上がり、リフトが唸りを上げて上昇した。

 

「進路クリアー。セイバー発進、どうぞ!」

 

カタパルトが白光を放ち、セイバーが滑るように射出される。

 

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 

続いて別のカタパルトが点灯し、ザクが出撃する。

 

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 

ルナマリアのザクがリフトアップし、足元から蒸気が吹き上がる。

 

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

 

次々と飛び立つ機体に合わせ、ラドルが前方スクリーンを見据えて声を張る。

 

「よーし、展開!」

 

タリアの指示と同時に、ブリッジの照明が戦闘モードへ切り替わる。

ミネルバの艦体が低く唸り、ゆっくりと上昇を始めた。

 

「上昇。タンホイザー起動。照準の際には射線軸後方に留意。街を吹き飛ばさないでよ。モビルアーマーを前面に誘い出す」

 

艦首の巨大な砲身――タンホイザーがせり出し、内部のエネルギーラインが赤く脈動する。

頭上に広がるダガー隊を一網打尽にしようと見せかけて、狙いのMAを表に引っ張り出す作戦だ。

 

「はい! タンホイザー照準、敵モビルスーツ群!」

 

ミネルバ全体が振動し、戦闘艦としての姿を完全に露わにした。ゲルズゲーはまんまとミネルバの誘いにのり巨大な影が砲台前へと躍り出た。六本足が地面を叩き、ストライクダガーの上半身が不気味に旋回した。

 

「敵戦艦、陽電子砲発射態勢。モビルスーツ隊、ターゲットにされています!」

 

「ふん。リフレクター展開! 前へ出ろ。弾き飛ばしてやる」

 

巨大な反射板が展開し、陽電子砲の光を受け止めるように前面へ構えられる。

 

「てぇーー!」

 

ミネルバの艦体が陽電子砲の反動で大きく震え、ブリッジの照明が一瞬揺らめく。その衝撃はすさまじくクルー達はただしがみつき耐えるしかなかった。

 

「「「うぅ…!」」」

 

タンホイザーの砲身が赤熱し、空気が震える。ミネルバの艦首から放たれた陽電子の奔流は、一直線にゲルズゲーへと迫った。頭上に巨大な黒煙が上がる。

だが――ゲルズゲーの巨大な反射板が、まるで盾のように陽電子砲を受け止める。

光が歪み、砲撃が押し返されるように散った。

 

アスランの指示のもと三機は陽動のためと動き出す。

 

「行くぞ! 敵モビルスーツ隊も出来るだけ引き離すんだ!」

「「了解!」」

 

レイとルナマリアのザクがそれぞれ左右へ散開し、敵MS隊を誘導するように高速で飛び抜ける。対して地球軍基地司令官はモニター越しにミネルバを睨みつける。

 

「ふん! 自分等も陽電子砲を以て上空と地上から揺さ振ろうという腹か。ま、狙いは悪くないがな。だが貴様には盾がない。ローエングリン照準! 目標、上空敵戦艦!」

 

ローエングリンの砲身が唸りを上げてせり出し、内部のエネルギーラインが赤く脈動する。

ミネルバではバートがローエングリンがミネルバを狙っていることを報告する。

 

「敵砲台、本艦に照準!」

 

「機関最大! 降下! 躱して!」

 

「てぇ!」

 

ローエングリンの白い光が奔りミネルバの装甲をかすめて爆風が艦体を大きく揺さぶった。

艦首が跳ね上がりブリッジの照明が一瞬明滅する。

次の瞬間、ミネルバは急降下に移り艦体が大きく傾いた。

視界が斜めに流れブリッジのクルーたちは手すりへしがみつきながら必死に姿勢を保つ。

艦底が地面をかすめ火花が尾を引いた。まるで滑走するように地表を擦りながらミネルバは衝撃に耐えつつ低空を滑空する。

地面すれすれでミネルバの艦体がようやく浮力を取り戻した。

砂煙を巻き上げながら、重い艦体がゆっくりと、しかし確実に空へ舞い上がっていく。

その様子を上空で戦っていたアスランたちは息を呑んで見守っていた。

 

ミネルバが完全に上昇し、再び戦闘艦としての姿勢を取り戻したのを確認し、三人は胸を撫で下ろす。基地司令官の怒号が響く。

 

「てぇ…パワーの再チャージ急げ! ゲルズゲーを戻せ。ダガー隊は何をしているか!」

 

その声に応じるように、外ではゲルズゲーが巨体を軋ませながら後退した。

六本足が地面を抉り砂煙が巻き上がる。反射板が再び展開し砲台前へと“盾”のように構え直す。その動きに押し出されるように周囲のダガー隊が前へ飛び出し、陣形が乱れながらもミネルバ側へ迫る。

ゲルズゲーが後退した瞬間、アスランのセイバーが反応した。

 

「くッ!」

 

セイバーが急旋回し、ゲルズゲーではなく、前へ出てきたダガー隊の頭上へ飛び込む。

その影に気づいたダガーが散開し、射線が乱れる。

 

「あいつが下がる! ルナマリア! 」

 

次の瞬間――ダガー隊が一斉にレイとルナマリアへ向けて攻撃を開始する。

ビームの雨が空を裂き、赤と青の残光が交差する。

レイのザクが急上昇し、ルナマリアのザクが低空へ滑り込む。

二人の動きはギリギリの回避で、敵の射撃が背後の地面を爆ぜさせた。

 

「ちょっ…! 多すぎるってば!」

 

「下がるな! 引き離すんだ…!」

 

アスランのセイバーが再び割り込みダガー隊の射線を切るように横へ滑り込む。

その一瞬の隙がミネルバとシンの突破口を確実に広げていく。

 

ゲルズゲーが砲台前へ戻ると同時に、坑道の出口に光が差し込み、シンの視界が一気に開けた。

 

「ゴール!? ここか!? 距離は500!? 行けよッ!」

 

狭い坑道の出口に向けて、インパルスが一気に加速する。

シンがトリガーを引くと出口付近の岩壁が爆ぜ、白い閃光と破片が四方へ飛び散った。

爆煙を突き破るように――インパルスが鋭い速度で空へ飛び出す。

 

「うわ!」

 

突如現れたインパルスにゲルズゲーの車長が思わず叫ぶ。巨大な反射板がわずかに揺れ、六本足が踏ん張る。

 

「シン!」

 

ルナマリアのザクが反射的に機体を傾け爆煙の中から飛び出したインパルスを追うように視線を向ける。

インパルスはまだ減速しない坑道からの勢いをそのままに、砲台へ向けて一直線に突き進む。爆風で舞い上がった砂煙が後方へ流れシンの叫びがコクピットに反響する。

 

「うおおおおッ!!」

 

インパルスは坑道を飛び出した勢いのまま、空中で姿勢を変えながらフォースシルエットとの合体態勢へ移行する。スラスターが青白い光を噴き機体が高速で回転しながら空中で組み上がっていく。

 

「なんだあれは! 迎撃! ローエングリンを戻せ!」

 

司令官の怒号と同時に、砲台の巨大な砲身がギギギと音を立てて旋回しインパルスへ照準を合わせようとする。

 

「くっそー! 撃て! あのモビルスーツを落とすんだ!」

 

ゲルズゲーの反射板がガキンと音を立てて角度を変えストライクダガーの上半身がインパルスへ向けて旋回する。複数の砲口が一斉に赤く点灯し次の瞬間、ビームの雨が空を裂いた。

 

「はあぁぁぁッ!」

 

だがアスランのセイバーが割り込むように急降下し、ゲルズゲーの反射板へ斬りかかるシン。

 

「ええい!」

 

その瞬間、砲台の巨大な砲身がゆっくりと後退し始める。ローエングリンが隠れようとしているのだ。砲身内部の赤い光が揺らぎ地球軍側が慌てて防御態勢へ移行しているのが見て取れる。

 

「シン!」

 

アスランの声が無線越しに鋭く響く。セイバーはダガー隊を引きつけながらゲルズゲーの注意を自分に向け続けていた。

 

「くっそー!」

 

インパルスが急旋回し目前に迫るダガーへナイフを叩きつける。

刃が機体を斜めに裂き爆炎が空中で弾けた。

 

「うわぁッ!」

 

爆発の光がシンの視界を白く染める。だがシンは止まらない。

むしろ、その一瞬で次の手を決めていた。ローエングリンの扉が閉まり始めている。

完全に閉じられればもう手が出せない。

 

――間に合わないなら、こじ開けるしかない!

 

シンの判断は速かった。爆発で吹き飛んだダガーの残骸をインパルスはそのまま抱え上げるように掴み取る。

 

「どけぇぇぇッ!!」

 

フォースシルエットの推力が一気に跳ね上がりインパルスはダガーの残骸を抱えたまま

ローエングリンへ向けて突進する。

閉まりかけた砲台の扉へ――シンはそのままダガーを投げ飛ばした。

金属がぶつかる鈍い衝撃音。さらに追加でインパルスは攻撃をすると次の瞬間、砲台内部で火花が散り、穴ぼこ状態となったダガーの残骸が“着火剤”のように爆ぜた。内部爆発が連鎖し、ローエングリンの砲身が内側から膨れ上がる。

 

セイバーが急上昇しゲルズゲーの頭上をかすめるように旋回して真正面の死角へ滑り込む。

 

「くっそー!」

 

叫びと同時にセイバーの両肩から二本のビーム砲が閃光を放った。

二条の光が一直線にゲルズゲーの胴体へ突き刺さり、内部で爆発が連鎖する。

反射板の基部が吹き飛び六本足がバランスを失って大きく揺れた。

 

「うわぁッ!」

操縦席の計器が次々とブラックアウトし、火花が散る。

 

砲台が沈黙し、ゲルズゲーも崩れ落ちた。

 

ミネルバとMS隊が空を制したその瞬間――地球軍基地の周囲に広がる街では、まったく別の戦いが始まっていた。

地球軍が完全に敗北したという情報が町民たちへ伝わると抑え込まれていた不満が一気に噴き出した。最初はざわめきだった。

次に怒号が混じりやがてそれは暴動へと変わっていく。

 

「もう終わりだ!」

 

「軍は逃げたぞ!」

 

「今まで好き勝手しやがって…!」

 

地球軍兵士たちは混乱し武器を捨てて逃げ出す者もいれば必死に制止しようとする者もいた。だが立場は完全に逆転していた。

これまで軍に押さえつけられていた町民たちが今度は兵士たちを追い立てる側に回ったのだ。建物の窓が割れ、軍の車両がひっくり返され、怒りと恐怖が入り混じった叫びが街中に響く。

 

◇◇◇

町の中央広場ではコニールが住人たちに囲まれていた。彼女は胴上げされ歓声と涙が入り混じる声が響く。街を救った小さな英雄として皆が彼女を称えていた。

しかし、その少し離れた場所では連合の兵士たちが拘束され地元の武装した住民たちに連行されていく。

怒りと恐怖が入り混じった空気の中、彼らに対して厳しい処罰が下されようとしていた。

アスランはその光景を横目に見た。

 

祝福と報復が同じ場所で同時に起きている。

それがこの世界の現実だった。胸の奥が重く沈む。

 

また、自分はこの場所に戻ってきてしまった――

 

そう思った瞬間、罪悪感が静かに押し寄せてくる。

 

ミネルバ艦橋――。

前方モニターには戦闘宙域の残滓がまだ揺らめき、各席のオペレーターたちは忙しなく端末を操作していた。ブリッジ全体には戦闘直後の張り詰めた空気がまだ残っている。

その中央で、タリアは通信席に映るアスランの機体を確認し、静かに頷いた。

 

「ご苦労だったわね、アスラン。あとはラドル隊に任せていいわ。帰投してちょうだい」

 

「はい」

 

通信が切れると同時に、タリアは短く息を吸い、すぐに指揮官の表情へ戻る。

艦橋の照明が彼女の横顔に硬い影を落とした。

 

「アーサー! 艦の状況報告。急いでね」

 

「はい!」

 

アーサーは慌てて自席へ戻り、端末に向かって操作を開始する。

その背中を見送りながら、タリアはほんの一瞬だけ、誰にも聞こえないほど小さく息を吐いた。

 

「…はぁ」

 

その溜息には、戦闘の緊張だけでなく部下たちの心の重さまで背負う指揮官としての疲労が滲んでいた。

 

インパルスから降り立った瞬間シンは住人たちに一気に囲まれた。

砂埃まみれの男たち、泣きながら笑う女性、子どもたちがシンの足にしがみつく。

 

「ありがとう!」

 

「助かったよ!」

 

「あなたがやってくれたんだってね!」

 

次々に伸びてくる手。肩を叩かれ、腕を掴まれ、シンは驚きながらもその熱に押されるように笑顔がこぼれた。

さっきまでの緊張も、恐怖も、アスランに愚痴をこぼした自分も、全部この歓声に溶けていく。胸の奥がじんわりと温かくなる。自分は、誰かを救えたのだ。

 

あのアマキ・カンザキがそうしてきたように。

その実感が、自然と彼の表情を明るくしていった。

 

少し遅れて、アスランもセイバーから降りてくる。ヘルメットを脇に抱えたまま彼はシンのいる方向へ歩みを進めた。歓声の中心で笑うシンがふとアスランに気づき手を振る。

その瞬間、シンは気づいた。

アスランの表情がどこか沈んでいることに。

戦いを終えたばかりのはずなのに勝利の余韻に浸る気配がない。むしろ、胸の奥に重い影を抱えたような顔だった。

 

シンは住人たちの輪の中から一歩抜け出しアスランへ向き直る。アスランは、無理に笑おうとしたがその目は笑っていなかった。

軽く身を乗り出し、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。心配半分、揶揄い半分の、あのシンらしい調子だ。

 

「ぁ…どうしたんですか?どこかやられましたか?貴方ともあろう人が」

 

アスランはわずかに視線をそらし、短く首を振った。

胸の奥に渦巻くものはあるが、今それを表に出すべきではない――

そう自分に言い聞かせるように、表情をゆっくりと整える。

 

「…いや」

 

シンはアスランの心境などつゆ知らず、胸をなでおろして少し笑みを戻した。

 

「作戦成功でしたね」

 

アスランはわずかに頷き返す。

 

「…ああ。大成功だな。よくやった。シン、君の力だ」

 

最初こそ不信感を抱いていた上司だが、こうして正面から褒められると、シンはどうにもこそばゆい。照れくさそうに頭をかき、笑いながら身振りを交える。

 

「いえ、そんなことないですよ。あ!でもあれひどいですよ!もうマジ死ぬかと思いました」

 

シンの訴えに、アスランは苦笑し、思い出したように肩をすくめた。

 

「あー」

 

「あんなに何も見えないなんて言ってなかったじゃないですか」

 

大げさに腕を振って訴えるシンに、アスランは少し眉を上げて返す。

 

「そうか?ちゃんと言ったぞ、データだけが頼りだって」

 

その言い方に、シンは口を尖らせて視線をそらした。

 

「いやぁ、それはそうですけどね…」

 

「でもお前はやりきったろ?出来たじゃないか」

 

その言葉に、シンは返す言葉を失った。

握りしめた拳だけが、さっきまでの緊張と興奮の名残を物語っている。

 

「…」

 

アスランはシンの沈黙を責めるでもなく、むしろ安心させるように声を少し柔らかくした。

 

「それも俺は言ったぞ?」

 

シンは視線を落としたまま、小さく頷く。

 

「それもそうですけど…」

 

アスランはそれ以上何も言わず、ふっと息を吐くと背を向けて歩き出した。

その背中には勝利の余韻よりも別の影が落ちている。

 

「戻るぞ。俺達の任務は終わりだ」

 

シンはその背中を見つめ、言葉にできない思いを胸に抱えたまま立ち尽くす。

 

「…」

 

二人が立ち去る頃、コニールはいまだ住人たちの中心で笑い声を響かせていた。

砂埃の中、子どもたちに肩を叩かれ、

大人たちに囲まれながら、彼は誇らしげに胸を張っている。

 

「あははは」

 

その明るい声が背中越しに届く。だが、シンとアスランの歩みは止まらない。彼らができることはここまでだ。これからは、彼ら自身の力で復興を成し遂げなければならないのだから。

 

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