腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
今回はアマキとシンの独白。次から本編へ。
私が、神崎天姫がこの世界に落ちたのは偶然なのか。必然なのか。
雪彦に言わせるならば、必然。
たまたま私がガンダムに乗り、たまたまこの戦争に参加することになったことも必然らしい。巧に蹴り落されて落ちたことが偶然とは不思議なり。
キラとの出会いも必然である、と。
そう、私が腹を空かせて雨の中佇んでいなければただの不審者の女で終わり、通りすがりの人から通報一択の選択肢だったはず。キラとの邂逅も果たせなかっただろう。
腹を空かせ、キラに施しを乞うたからこそ、出会いがあった。
そのままキラの家に居候させてもらい、彼の義母、カリダの手によってたまたま親交があったオーブのウズミ・ナラ・アスハの手によって住民IDを手にすることができた。
買い物途中に、たまたま四次元買い物袋をぶら下げていたからラクスとの出会いによりその買い物袋の予備を託すことができた。
たまたま彼女が気に入ってくれたからそれがのちにシーゲル・クラインを暗殺から逃すことができた。私が持つ買い物袋をカガリに託すことによって、アスランの父、パトリック・ザラを生かす道が開けた。
その結果、私がこの世界で動くことにより情勢が変わるかと言われればそうではない。
なぜなら私は水の中に落ちた一つの石に過ぎないのだ。
そこで水は小さな波紋を起こす。
それが大きくなっていくかどうか、それは私を含めたこの世界の人の行動次第。
私が一人であがこうとも世界は変わらない。
仲間が共にいてくれたからこそ、今がある。
◇◇◇
戦争が始まったのは、僕が12歳の時だった。
戦っているのはナチュラルの連合地球軍と、プラントに住むコーディネイターのザフト軍だ。
ナチュラルとコーディネイターはずっと揉めていたけれど、ある時、地球軍がコーディネイターの住むプラントの一つ「ユニウス7」を核ミサイルで撃ってしまい……揉め事は一気に、本当に大きな戦争になった。でも、地球の中立国オーブに住む僕たちにはそんなことはまだ全部遠い国や宇宙での出来事で、普通の日常の中にいた。ここは安全だから。きっと大丈夫と高をくくって。
◇◇◇
その日、私はカリダさんから頼まれて買い物に出かけていた。キラはカレッジで授業だったはず。ハルマさんは仕事。カリダさんは家。そして私はスーパーでの買い出し。
それぞれ皆違う場所にいたとき、それは起こった。
迫りくるはザフトによる新機体強奪による強襲である。平和な日常は突如として崩れ去り、全てが泡となる。
私はキラを探しに混乱の最中必死で駆けた。手荷物は邪魔になるから捨ててもよかったのだが、捨てることすら忘れ無我夢中というやつだ。だが捨てなくてよかった。買い物袋のおかげで色々乗り切れたのだ。
その勢いのままキラ達が通うであろうカレッジにたどり着き、銃撃戦の中を潜り抜けてエリスガンダムの元へとたどり着いた。そこからは怒涛の展開だった。同じくストライクガンダムに乗り込んだキラと共にクルーゼ隊との戦闘へ突入することになった。
「……キラ?」
『アマキさん!? なんでその機体に乗ってるの!?』
何もかもが初めての中、生きることだけが最優先される時間。
常に気を配り、誰かを気遣っていた。私が弱気でいたら誰かが不安になるだろう。だから強気でいた。知らない世界でただ踏ん張った。生きるために。
◇◇◇
オーブの宇宙コロニー「ヘリオポリス」がザフトに襲われて壊された。なんてニュースにはちょっと驚いたりもしたけれど。僕たちの毎日には大した変化もなく。
妹のマユと他愛もない日常を繰り返し、両親の愛情に包まれながら日々を過ごした。無関係の一言ですべてを片付けた。実際、あの時は無関係だと思ったんだ。
僕もまたいつもと同じように新しいゲームの発売日とか、それを果たして買ってもらえるのかとか、また妹のマユもやりたがって五月蝿いだろうなぁとか、そんなことくらいしか気にしていることはなかった。
僕たちの住むオーブ連合首長国は太平洋にポツンとある島国で、国土こそは小さいけれど先進技術立国で結構豊かな国だ。技術が進んでいるのは多分、他の国と違ってその法と理念さえ守れば僕たちコーディネイターでもちゃんと受け入れてくれるからであって、父さんも母さんもそこが気に入ってこの国に来たと言っていた。コーディネイターでも宇宙に住みたくない人はいるからね。
◇◇◇
私たちは慣れぬ戦いの中で切磋琢磨した。毎日が思い出とならぬ様に生き抜いた。キラは幼馴染であるアスランとの邂逅に戸惑い涙し、それでも友達のために戦うと決めた。
『君こそ何でザフトになんか!何で戦争したするんだ!』
葛藤しながら、割り切らなくては生きていけない世界だった。たった15歳の少年に全てを背負わせるには酷な生き方。少しでも彼に負担がいかないよう私は全てを殺すつもりで挑んだ。彼が余計な罪悪感に襲われぬように。使えるものは何でも使った。
馬鹿に騒いで自分に注目させるようふるまいもした。ムードメーカーなるものがいたほうが艦の中でも注目されるだろう?
『お前たちの相手は――私だろう!』
『やっと出てきたか、エリス!』
『うるさい……黙ってかかってこい、ガキ共!』
『アマキさん、下がって!僕がデュエルを!』
「そんな余裕はない!」
『でも、僕にだってできる!』
「キラ、それ以上はダメだ!戻れ!」
『これで終わりだぁぁぁ!!』
「っうぁああ!!」
『アマキさん!!』
◇◇◇
オーブは他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。戦争はどんどん酷くなっていくみたいだったけど、オーブは今後もその理念を貫いて介入しないだろうと、父さんは言っていた。
ナチュラルもコーディネイターも共に住む国だからそれが一番って言うか、それしかないわよね、っと母さんも言っていた。
◇◇◇
砂漠の虎。名前なんかどうでもよかった。
無理やりな地球降下の仕方でメンタルが狂った私はキラの前で自暴自棄になった。
宇宙で彼を庇ったことを悔いてはいなかったし、自分が彼を庇うことは当たり前だと思ったから。それでも彼は自分を責めていた。もっと頼ってほしいと言われた。
でも私は頼ることが嫌いだ。昔から自分の力だけを信じてきたのだ。今更誰かに頼るということが苦手なのだ。だから彼を突き放そうとした。
でも彼はそれでもあきらめなった。それどころかどうして一人になろうとするのか、私を理解してくれようとしていた。
面倒くさい、その一言に限る。
他人との距離が近くなればなるほど親密になる。
私はそれが面倒くさいと思った。だからキラから離れようとした。
けどキラから思いもよらぬ告白を受けて、生娘のように瞬間湯沸かし器になった。
まっすぐな気持ちが恥ずかしくて、自分に向けられているとは思わなくて。
ただ逃げた。逃げて、逃げようとして、砂漠の虎に出会った。
最初変なグラサンのおっさんだなと思った。一緒に食事したり、ブルーコスモスから庇ったり。
敵を観察して戦闘にでも生かすつもりなのかと考えたら、どうやら彼自身も何かこの戦争に違和感を覚えているらしい。彼との短いやり取りの中で、それは確信へと変わった。
『戦争には制限時間も特典もない。スポーツの試合のようなね。なら、どうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?』
『どこで……?』
『敵をすべて滅ぼして、かね』
全て、ひとくくりにするならば地球から誰もがいなくなるだろう。大げさな話だが、実際戦争とはそういうものだ。終わりがない。だからこそ、誰もが答えを求める。
迷う。ならば道を示す者が必要だ。先導者という存在が。
その人物を私は知っていた。だから教えた。
『さっきの質問の答えだけどさ。“敵をすべて滅ぼして”ってやつ』
『ほう、聞かせてもらえるか』
『一緒に戦えばいいんじゃないか?同じ志を持つ者同士で』
『!?』
『二つの勢力があるなら、三つ目が介入したっていい。作ったっていい。人は自由だ。その自由を勝ち取るために戦えばいい。誰かを殺すんじゃなくて、世界のために。平和のために。……貴方には力がある。可能なんじゃない?』
これは強制ではない。ただの数ある内の選択肢だ。
選び取るかそのままでいるか、決めるのは貴方次第。
アンドリュー・バルドフェルド個人は、戦い、生き残り、そして決めた。
ラクスの御旗のもとに向かうこと。
◇◇◇
コーディネイターとナチュラルは確かにちょっと微妙で、オーブでも全く問題はなかったと言えば嘘になるけど。でも生まれる前に怖い病気の要因を取り除いたり、強い体になるようにしたり、いろいろなことが出来るようにしたりするっていうのはそう悪いことじゃないでしょ?僕もマユも父さんも母さんもみんなコーディネイターだけど、別に普通って言うか、そんな駄目とか言われなきゃならないような怪物じゃないじゃない。
なのに、世の中にはそういうのは絶対駄目と言う人達もいて。
『だがお前達は、私達よりずっといろんなことが出来るだろ?生まれ付き』
だから戦争になって、戦争になれば余計相手が憎らしくなって。面倒な話しだよね、ほんと。
『何をやっているディアッカ!さっさと艦(ふね)の足を止めろ!』
『うおりゃぁぁ!』
オーブのすぐ傍で戦闘になったことも一度だけあった。
なんでも地球軍の戦艦がザフトに追われてオーブの領海に近づいて来ちゃったとかで、この時はさすがに騒ぎになって僕たちもみんなワイワイ驚きながらその様子をテレビで見た。
『領海線上に、オーブ艦隊!』
『領海に寄りすぎてるわ!取り舵15!』
ライブ表示されたその映像はいつも見るニュースなどとは違って見えて、少しドキドキはしたけど。
『これでは、領海に落ちても仕方あるまい』
『ぇ?』
『心配は要らん。第二護衛艦軍の砲手は優秀だ。上手くやるさ。』
でも、やがてそれも終わり、そうなればまた僕たちはまだちょっと興奮しながらもいつもの暮らしに戻るわけで。僕たちにとっては戦争ってやっぱりそんなものだったんだけど。
『この作戦により、戦争が早期終結に向かわんことを切に願う。真の自由と、正義が示されんことを。オペレーション・スピットブレイク!開始せよ!』
『うわぁ!』
『足つきぃ!今日こそ終わりだな!!』
『うぅ…』
『艦長!』
『はあッ!』
『この犠牲により、戦争が早期終結へ向かわんことを切に願う』
『青き清浄なる世界の為に』
やがて地球軍のアラスカ本部が、ザフトの大作戦で壊滅させられ、パナマの基地までやられてしまうと戦争は一気に僕たちの傍までやってきた。
『おや?中立だから、ですか?いけませんねぇそれは。皆命を懸けて戦っているというのに。人類の敵と』
『どういう茶番だそれは!』
旗色の悪くなった地球軍はオーブの力を取り込もうと馬鹿なことを言ってきていると父さんは言っていた。オーブは地球軍が喉から手が出るほど欲しくてたまらないものを持っていたから。そして、それは本当にいきなり、信じられないような状況で始まった。
地球軍から仕掛けられた戦争の始まり。
僕達はただ必死に逃げるしかなかった。民間人に一体何ができるっていうんだ。
ただ必死に足動かして少しでも安全な場所に近づくことだけを考えた。
◇◇◇
私達はウズミ様という旗のもとオーブを守るため一機団結した。アークエンジェルの皆も共に。
『時間です!』
アズラエルの号令と共にともに出撃する地球軍の機体たち。
その激しい戦闘の最中に避難する民間人を見つけられたのは不幸中の幸いだった。少しでも助けられる人を守りたい。
総戦力ではオーブが何とか持ちこたえていたが、それもいつまでもつかわからない状況。
『オーブを離脱!?我々に脱出せよとそう仰るのですか、ウズミ様?』
『あなた方にももうお解りであろう。オーブが失われるのももはや時間の問題だ』
『お、お父様、何を!?』
『人々は避難した。支援の手もある。あとの責めは我等が負う』
その言葉は、 国を守るという覚悟ではなく、 未来を守るための決断だった。
◇◇◇
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。オーブはそういう国だった。でも戦火に巻き込まれた。時代がその理念を許さなかったんだ。オーブがその理念に拘る理由がわかる。もし他国に飲まれてしまったら戻ることは不可能なんだ。自国を貫き通すのは容易なことじゃない。
『我等オーブが此を理念とし、様々に移り変わっていく永い時の中でも、それを頑なに守り抜いてきたのは、それこそ我々が国という集団を形成して暮らしていくにあたり、最も基本的で大切なことと考えるからです。今この状況下にあっても私を其れを正しいと考えます。今陣営を定めねば討つという地球軍。しかし我々はやはりそれに従うことは出来ません』
僕たちはあの白い機体――スノーホワイトに救われて、 オーブの艦に避難することができた。避難区画は、 僕たちと同じように逃げてきた民間人であふれていた。 泣き声、咳、誰かの呼ぶ声…… 戦場の余韻がまだ肌に残っている。
そんな中、 将校らしき人物がオーブ兵士を伴ってやってきた。
『はぁ……』
深く息を吐き、 避難民の様子を確認しているようだった。
スノーホワイトに乗せられてやってきた僕たちを将校自ら声掛けにきたらしい。
『よかった。かなり危ない所だったな』
僕は胸が高鳴って、 思わず前に出てしまった。
『あの、あの、白いやつ…… あ、白い機体は? 誰が操縦してるか知ってますか? 僕たち、あれに助けられて……!』
トダカ一佐は少しだけ目を細め、 静かに答えた。
『ああ、あれは……アマキ・カンザキだな。 あなた方は運がいい。 あの戦闘の最中でよく見つけてくれたものだ』
その名前を聞いた瞬間、 僕の胸の奥で何かが強く鳴った。
『アマキ・カンザキ……』
その名前は、 僕の中で“救い”と同じ意味を持つようになった。
◇◇◇
撃たれたから殺して、 殺されたから撃つ。
この負の連鎖をどこかで断ち切らなければ、 私たちに未来などない。
だが現実は逆だった。 私たちが戦闘に介入すればするほど、地球軍は勢いを増した。 まるで反動のように、憎しみが憎しみを呼び、 戦場はさらに加速していく。
アズラエルは核を手にして、 それを“使うための兵器”として扱った。
『核は持ってりゃ嬉しいただのコレクションじゃあない。 強力な兵器なんですよ? 兵器は使わなきゃ。 高い金かけて作ったのは使うためでしょ?』
彼にとって核は“選択肢”ではなく“目的”だった。 コーディネーターを根絶やしにするためなら、 ためらいなど一切ない。
ラクスはそれに真っ向から反対した。
『核を、例え一つでもプラントに落としてはなりません。 討たれる謂われ無き人々の上に、その光の刃が突き刺されば、 それはまた果てない涙と憎しみを呼ぶでしょう』
ラクスの言葉は正しい。 核が一つでも落ちれば、 今度こそ終わりのない争いが始まる。
だからこそ、 皆必死でそれを防ごうとした。 守ろうとした。 限界ギリギリまで。
しかしパトリック・ザラは叫ぶ。
『討たれる前に敵を滅ぼさなければならない』
その思想は、 アズラエルと同じ“恐怖の論理”だった。
――けど。
だけど、私たちは生きると決めた。 誰かを滅ぼすためじゃない。 誰かを憎むためでもない。
自分たちでこの争いを止め、 自分たちが生きたい世界を作ると。
だから精神を削られても、 心が折れそうになっても、 限界ギリギリまで踏ん張って―― この戦いを終わらせた。
『生きてるって、いいな。キラ』
『……そうだね。僕たちは、生きてる。生きてるんだ』
私たちは確かに生きていた。 ボロボロだったけど、 涙があふれ出るくらい―― 生きる力が、まだここにあったんだ。
◇◇◇
家族と共に僕は、あの時助けてくれたオーブの将校さんの勧めと計らいで、皆でプラントへと向かった。その後世界は平和条約で結ばれたけど、僕は考えた末に軍に入った。
自分のことで精一杯の中で、ちっぽけな俺達に気づいてくれたあの人。
アマキ・カンザキのようになれるならと憧れを抱いて。
でも世界の争いはなくなることはなかった。あれだけの犠牲を出しておいて、まだまだ世界は争いを欲していた。
俺は初めての実践がまさかの強奪事件に発展するなんて考えもしなかった。そこにオーブの首長カガリ・ユラ・アスハが乗船するなんてことも。
『あ!』
『アーサー!彼を!』
『なんでこんなこと…また戦争がしたいのか!あんた達は!!』
◇◇◇
カガリはあの戦争から、人一倍強くあろうとしていた。 大人たちの間に交じって政治で世界を変えようとしていた。
先の戦争で目立ちすぎた私とキラ、ラクスは、 隠居生活を選ぶことで、カガリにすべてを任せたつもりだった。
――これがいけなかったのだ。
彼女一人に背負わせてしまって。 頑張らせて。 ユニウスセブン落下事件も、彼女は心を痛めていた。
『なんだって!? ユニウス7が動いてるって、一体何故?』
『地球への衝突コースだって本当なのか?』
パトリック・ザラを支持する残党の仕業により、 ナチュラル滅亡を企てられていたのだ。
私たちはもちろん、地球落下など望んでいない。 全力でこれを阻止しようとした。
けれど―― 彼らの想いは決して、私たちの声に届かなかった。
憎しみは止まらず、 過去の亡霊が再び世界を引きずり込もうとしていた。
無事に砕くことに成功したものの、破片は世界中へ散らばり被害は拡大した。アスランは、父の思想に心酔し世界を恨む者が再び現れたことに、深いショックを受けていた。その事件が彼を再びザフトへの道へ戻らせることになる。
◇◇◇
ユニウスセブン破砕作戦を終えたミネルバは、 カガリ・ユラ・アスハを地球へ送り届けるためオーブへ入港した。乗船許可が下りた俺は、 久しぶりにオーブの海を見に行った。
……全部変わっていた。
あの時、家族と一緒に必死で逃げた道はもうどこにもない。 吹き飛んだまま、跡形もなく消えていた。
『慰霊碑、ですか』
声をかけたのは、どこか涼しげな青年だった。 突然話しかけた俺に、嫌な顔ひとつせず返してくれた。
『そうだね。せっかく花と緑でいっぱいなのに、波をかぶって枯れちゃうね』
その横顔は、どこか寂しそうだった。
『……なら、また植えればいいんじゃないスか。人が手を加えれば、花はまた生きられるから』
そう言った瞬間、青年は驚いたように目を見開いた。
『……君は、この辺の子?』
『あ、いえ……その……』
気まずくなって視線をそらした時、 小さな歌声が近づいてくるのを感じた。
なんだか、ここに長くいるのは良くない気がした。 胸の奥がざわついて、俺はその場を離れた。
『スイマセン。変なこと言って』
最後にそう言って歩き出す。 青年が呼び止めようとした気配があったけど、 俺は振り返らなかった。それから間もなくオーブは再び戦火にさらされることになる。誰も戦争を止めることも出来ない。
オーブを守るために戦ってきたはずなのに―― そのオーブから、俺たちは手のひらを返された。
ミネルバが領海へ近づいた瞬間、 冷たい通信が叩きつけられる。
『ザフト軍艦ミネルバに告ぐ。 貴艦はオーブ領域への侵入を認めない。 速やかに転進されたし』
『なに!? オーブが本気で……うッ! しまった! こんなことで……こんなことで俺はッ!!』
その直後、待ち構えていた地球軍が奇襲を仕掛けてきた。 逃げ場なんてなかった。 オーブにも拒まれ、敵にも囲まれ―― 俺たちは命からがら戦闘へ突っ込むしかなかった。
胸の奥が焼けるように痛んだ。
守ったはずの場所に拒絶されるなんて。 あの日、あの時―― 彼女に助けてもらった命なのに。
あの手がなければ、俺は今ここにいない。 だからこそ、こんなところで死ぬわけにはいかなかった。
『俺は絶対に彼女に会うんだ。 ちゃんとお礼を言うんだ。たとえオーブと敵対してでも……!』
その想いが、怒りよりも強く、 俺の中で燃え上がった。
そして――叫ぶ。
『ならば俺は戦う! 戦って今度こそ!大切な全てを守ってみせる!』
家族はプラントで生きている。 彼女もどこかで生きている。 守るべきものは、まだ全部この手にある。だから俺は、生きて帰る。 必ず。