腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする   作:松魚

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PHASE-34悪夢

今ほどロゴスとの関係性を絶てばよかったと後悔したことはない。

 

「父さん!」

 

オーブ首長国連邦の最高評議会棟、その一室にある執務室。

あまりの事態に、息を荒らげたユウナが扉を乱暴に押し開けて飛び込んできた。

豪奢な調度品に囲まれた部屋の大型モニターには、未だ世界を揺るがし続けるデュランダル議長の演説と、次々に開示されるロゴス幹部たちの顔写真が青白く映し出されている。

 

「…ユウナ」

 

どっしりとした革張りの椅子に腰掛けたまま、ウナトは苦り切った顔で額の汗を拭い、入ってきた息子を横目で迎えた。デスクの上には、世界中の同盟国や多国籍企業から送られてきた緊急暗号通信の端末が、狂ったように警告音を鳴らしながら点滅している。

 

「どういうことなの?リッターグループやグロート家の名まで出るなんて」

 

ユウナはデスクへ両手を叩きつけ、血相を変えて身を乗り出した。

モニターの画面の隅には、オーブの経済を裏から支え、セイラン家とも少なからぬ密約を結んでいた巨大軍需産業複合体のロゴが、逃れようのない「死の商人」の証拠データとして全世界へ晒され続けている。こうしている間ものんきに自分たちの情報は世界へ向けて発信されているのだ。

 

「んん……」

 

ウナトは椅子の背もたれに深く体重を預け、固く組んだ指先にギリと力を込めて重い唸り声を漏らした。

プラントの議長が放ったこの一撃は、ロゴスだけでなく、それと結託して権力を握ろうとしていた自分たちセイラン家の足元をも、根底から引き裂こうとしている。 オーブの最高権力を手中に収めたはずの親子は、画面から漂う圧倒的な破滅の予感を前に、ただ冷や汗を流しながら言葉を失うのだった。

 

◇◇◇

 

デュランダル議長の次の狙いは邪魔ものを完全に消すことだ。その足踏みとして今世界を自分の味方につけること。茶番を含んだ演説に民衆たちは心躍ろされ自分の味方となっていることが面白い。自分が望む世界に一歩近づけていることに彼は優越感に浸りたいところだが、次は議会への説明に走らねばならない。自分が行った告白を彼らがどう受け止めるのか。そこは自分の演技次第といったところか。

 

人々が抱えていた戦争への恐怖、そして連合への憎悪のすべてが、議長の鮮やかなプロパガンダによってロゴス打倒という熱狂のうねりへと一気に変えられていく。

 

プラントの議場へ入場し、議員たちからの視線に答える。

 

彼はどこか哀愁を帯びた、しかし揺るぎない眼差しで再び議員たちへと語りかける。

 

「お騒がせして大変申し訳ない。だが私の想いは、先の放送で申し上げたとおりです。開戦時防衛戦の折り申し上げた言葉を今一度繰り返したい。再び手に取るその銃が、今度こそ全ての戦いを終わらせる為のものとならんことを」

 

議長のその美しくも残酷な言葉は、世界をロゴス狩りという名の「終わりなき戦火」へと誘う決定的な引き金となった。

 

◇◇◇

 

アークエンジェルのブリッジでは放送終了後、カガリは今回の内容に憤りを露わにしていた。

 

「提示された者の中にはセイラン、いやオーブと深い関わりのある者もいる。いや、オーブだけじゃない。彼等のグローバルカンパニーと関わりのない国などあるものか! それをどうしようというんだデュランダル議長は!」

 

今回のデュランダルの宣戦布告がもたらすであろう、世界経済と政治の破滅的な連鎖。カガリはあまりの事態の重さに、拳をきつく握りしめて怒号を張り上げた。そこへエレベーターのドアが開き腰に安全ひもを巻き付けたアマキとそのひもを握りしめながら共にキラが入ってくる。気分は逮捕された犯人とその刑事である。

しかもアマキは大量に笹団子を乗せた大皿をもって、本人の口がモグモグと動いているのをみて、ついカガリは指差しで指摘した。

 

「おい! アマキ、お前こんな時に何食ってやがるっ!」

 

アマキはもごもごと少し肥えたリスのように頬を膨らませていた。

 

「ほば」

 

言葉はでないが頑張って伝えようとしている努力は認める。

 

「笹団子だって」

 

キラが苦笑いしながらアマキの代わりに通訳した。

 

「口の中のものを飲み込んでからしゃべろ」

 

カガリは額に青筋を立ててツッコミを入れつつも、再びモニターに映る世界各地の動揺に視線を戻し、焦燥を募らせる。だがそんなカガリの心情など知らねぇと言わんばかりにアマキが大皿を突き出して目の前までずいっと迫ってくる影が映った。アマキの圧力にカガリはちょっと引いた。

 

「オーブが心配だ。セイランはこれからどう……って、私も食べろと? こんな時にお前……」

 

目の前に突き出された、青々とした笹の葉に包まれた緑色の団子。

あまりにも真っ直ぐなアマキの勧めの前に、カガリは呆気にとられて言葉を詰まらせた。

 

「うぐうぐ。これおいしいよ。こしあんと粒あんのランダムでどっちが当たるかはお楽しみ。結構数あるからみんなで食べようよ」

 

「ぐっ、お前なぁ」

 

「まぁまぁ、ちょっと食べて落ち着こう。バタバタしたってすぐ解決できるわけじゃないんだから」

 

ちょっと美味しそうだ、と喉を鳴らすカガリの様子を見逃さず、キラが優しい提案を出す。

 

「そうだけど……。アマキ、それ何個目だ?」

 

「え、五個目だけどなんで?」

 

「食いすぎだぞお前。ラクスが知ったら鬼になるかもしれないのに怖いもの知らずだな」

 

「食べ物に罪はありませーん」

 

ちょっとイラっときたカガリ。

 

「僕が言っても聞かないし。後で思う存分叱られたらいい薬だと思う。あ、マリューさんたちもどうぞ。結構数ありますから」

 

世界の危機という超シリアスな大事件の真っただ中。アークエンジェルのブリッジにアマキがこれみよがしに広げた笹団子の山を前に、張り詰めていたクルーたちの肩の力が、ドミノ倒しのように次々と抜けていく。マリューとムウが物珍しそうに受け取るのももはや慣れたものだ。未知なるものだが、アマキが食べているので死ぬことはないと判断しているのだ。

 

「あら、そう。いただこうかしら」

 

「へぇ、茶が欲しくなるねぇ」

 

「笹団子なるものか、珍しいものだが、やはり生きるというのはいいものだな」

 

ラウは長い指先で、驚くほど器用に笹の葉をペラペラと剥いていく。かつて自らが全てを呪って終わらせようとしたこの世界で、友人のギルがまた世界をひっくり返そうとしているその最中だというのに、ラウは心底おかしそうにクククと低く笑った。

 

「だからブリッジで……いや、部屋で食べるなと言っているのに……、あーもう。私は知らんぞ! ……一つもらおう」

 

「私、こしあんがいいー!」

 

「えー、私も欲しいでーす!」

 

「俺ももらっておくかな」

 

「自分はつぶあんで」

 

ナタルをはじめとする女性たちも甘いものには目がないのか、やや血の気が多いような気がする。

世界が色々と大変だってぇのにアークエンジェルのブリッジは、アマキのおいしそうな罠にはまって笹団子を巡ってわちゃわちゃと賑やかな和みの渦に包まれていくのだった。

 

◇◇◇

 

「我々はもういい加減、こんな彼等の戦争システムから抜け出すべきなのです。我々の本当の敵は連合でもナチュラルでもない。ロゴスこそを討たねばまた繰り返しです」

 

デュランダルは緩やかに両手を広げ、居並ぶ議員たちの顔を一人一人見つめるように視線を走らせた。その声音はどこまでも穏やかで、しかし驚くほど深く議場に響き渡る 先ほど全世界に流れた、事前通告なしの緊急電波ジャック。そのあまりに大胆な独断専行の衝撃と、画面に映し出されたデストロイガンダムの凄惨な暴虐への憤りが、議場にかつてない動揺と不穏な熱気を生み出していた。

 

「しかし、そうは言っても容易くは……」

 

オーソンは手困惑を隠せない様子で慎重に異論を挟もうとした。

世界中に強固な根を張る巨大軍需産業複合体「ロゴス」を相手に回すということの、計り知れない政治的リスクと軍事的な摩擦。 あまりのスケールの大きさに、一人の議員として怯えと躊躇いを禁じ得ない。

ざわざわと波立つように、周囲の議員たちからも当惑の囁きが漏れ聞こえる。

 

「未だに和平への道すら見えぬ今、我々の執る道は最早これしかないではありませんか。でなければこの戦争すらいつになっても終わらない」 

 

デュランダルはオーソンの懸念を哀れむような、しかし一切の妥協を許さない眼差しで静かに見据えた。

 

 

デュランダルが議会で色々と心情的に訴えているかたや、アークエンジェルでのなごみはそろそろ終わりに入ろうとしていた。

 

 

「よし!それじゃあ戻りましょう、マリューさん」

 

キラはすっかり空になった大皿をコンソールに置き、すっと背筋を伸ばした。

 

「え?」

 

マリューは食べ終わった口元をハンカチで拭きながら手思わずキラを凝視した。ブリッジの他のクルーたちも、一瞬で咀嚼する手を止めて彼に注目する。それぞれ二、三個は食べ終わったころだ。

 

「オーブへ」

 

「キラ……」

 

カガリは三個目となる笹団子を食べかけながらハッとして顔を上げた。デュランダル議長が示した、世界を巻き込むロゴス討伐という名の狂熱。その巨大な戦火の渦に呑み込まれようとしている故郷を想い、はぐはぐ食べている間も、美味いなこれ、一つサンプルとして持っていくか。と、考えずっと押し潰されそうになっていたカガリの心に、キラの真っ直ぐな瞳の光が、確固たる救いとなって染み渡っていく。そして少し肥えたリスから少し肥えた猪へと進化した張本人。

 

「腹ごしらえも済んだし準備オッケー!」

 

アマキは満足げにポンと自分の腹を叩き、鼻息を荒くして立ち上がった。

 

 

「アマキ、頬にあんこついてる」

 

カガリはアマキの締まりのない顔を見てすかさず冷静に指を差した。

 

「あ、マジ?……キラ、取れた?」

 

アマキは慌てて自分の頬を手の甲でこすりながら、すがりつくようにキラの顔を覗き込んだ。

 

「うん、大丈夫。可愛いアマキの出来上がりだよ」

 

キラはふっと優しく微笑むと、アマキの頬の端に残っていたあんこを、親指の腹でちょんと優しく拭ってやった。そのあんこは当然キラの口へと含まれていく。ああ、さりげないキラの行動にクルー達はから笑い。

 

「いや~。それほどでも。……ふぅ、では気を取り直して、いざオーブへ!」

 

アマキはなぜか照れくさそうに頭を掻きながらもすぐに気分を変えて両手を腰に当てて胸を張った。

 

「……なんか不安になる……が、あれこれ考えたって仕方ない!行くぞ!」

 

カガリは片手で額を押さえ、深くため息をつきながらも、その唇の端にはかすかな笑みが浮かんでいた。

 

 

同時進行で笹団子の会の裏ではデュランダルに賛同する議員たちが声をあげていた。

 

「議長に賛同致します! 仰るとおり、今度こそこの戦う歴史に終止符を打ちましょう!」

 

一人の議員の熱狂的な叫びを皮切りに、それまで狼狽し、互いを責め立てていた場内の空気が一気に一つの方向へと雪崩を打っていく。

 

「確かに……」

 

「私も賛同致します!」

 

「賛同致します」

 

先ほどまで「何の勧告もないままこのような!」と地球軍の暴挙にただ狼獗していたノイも、今や議長が示した絶対的なシナリオに完全に心酔した面持ちで深く頭を下げた。

 

「その決断と勇気に敬意を」

 

厳しい表情を崩さなかったクリスタもまた、世界を一つの敵へと向かわせたデュランダルの盤面構成に、畏怖をはらんだ賛辞を贈る。

怒号と困惑に満ちていた議場は、いつしか議長への絶対的な支持と狂熱の拍手によって一つに支配されていった。

 

「ありがとう」

 

デュランダルは静かに立ち上がり、議員たちの熱狂を慈悲深い微笑みで受け止めた。

見よ、友よ。これから私達が望んだ世界がまた一つ進もうとしているぞ、と彼は心打ちで亡き友へつぶやいた。

 

同時刻、ラウは一つ大きなくしゃみをしながら出撃準備に備えて動いていたそうな。

 

「へっぐじゅ!」

 

「お、誰か噂してんじゃねーの?」

 

ムウにからかわれるラウは「フッ、そうかもしれないな」と笑みを向けた。

 

 

◇◇◇

 

そしてデュランダルの思惑のまま、邪魔者は徹底的に排除する思考となったことで、その矛先はアークエンジェルへと向けられた。ザフトでは『エンジェルダウン作戦』と名付けられ、その指令は他艦隊、そしてあの少年たちの待つミネルバへと命じられた。世界の敵と銘打てば、地球・プラントを問わず民衆からは賛辞の嵐が巻き起こる。絶大な共感も得られ、自らの理想郷であるディスティニープランへ世界を誘導したいデュランダルにとっては、まさに一石二鳥の完璧な盤面だった。だが、その傲慢な思惑に大人しく乗っかってたまるかと、真っ向から反抗の牙を剥くのがアークエンジェルの皆々である。たとえ情報操作によって世界中から非難の目を向けられようとも、己の信ずる道に反していることは何一つしていない。白銀に凍りつく大地を蹴り、ザフトの圧倒的な追撃をかわしながら、彼らはただ、故郷オーブへの道をひたすら進むのみであった。

 

「取り舵10! 台地の影に回り込んで!」

 

アークエンジェルのブリッジには、至近弾の凄まじい衝撃波とともに、赤光の警告灯が幾度も激しく明滅していた。 マリューは艦長席の手すりをきつく握り締め、正面のメインモニターに映し出される無数の赤色アイコン――迫り来るザフト軍討伐部隊の包囲網を、険しい表情で見据えながら鋭い怒号を響かせる。

 

 

「ぅ!」(また無理難題をっ!)

 

ノイマンは艦長の指示に即座に応じ、驚異的な反射速度で操縦桿を力任せにねじ伏せた。 推進スラスターが猛烈な咆哮を上げ、巨体をきしませながらもアークエンジェルは、降り注ぐビームの雨を間一髪で紙一重にすり抜け、地上の台地が作り出す巨大な影の中へと滑り込んでいく。

 

「バリアント、てぇ!」

 

ナタルは副長席の火器管制コンソールを睨みつける。ロックオンサイトが重なった瞬間にトリガーを躊躇なく押し込んだ。 リニアカタパルト後部から放たれた滑走式ビーム砲の青白い熱線が、空間を切り裂くようにして敵艦の火線を正面から相殺し、白銀の戦場を激しく爆破する。

 

「ねぇ~、マジで堕としちゃダメなんだよね?」

 

一方、激しい弾幕の渦中、純白の魔物――スノーホワイトのコックピットの中で、アマキは全方位センサーに映るザフトのモビルスーツ隊を冷ややかに見据えながら、回線越しに気だるげな声を上げた。 その操縦桿を握る手つきには、絶体絶命の包囲網の真ん中だというのに、圧倒的な強者としての余裕すら漂っている。

 

「ダメ! 死人は出さないってみんなで話したじゃないか」

 

キラはマルチロックオンのインジケーターを限界まで引き上げながら、優しく答えた。

 

どれほど世界から悪者扱いされようとも、自分たちの「殺さず」の理念だけは決して曲げない。その静かな決意が、キラの瞳に力強く宿っていた。

 

「ちぇ。わかってるけど、さぁ!」

 

 アマキはつまらなさそうに唇を尖らせつつも、その超人的な空間認識能力を瞬時に研ぎ澄ませた。スノーホワイトを白銀の低空へと滑走させ、アークエンジェルに襲い掛かろうとしている無数のミサイル群を、高出力の兵装でミリ単位の狂いもなく次々と叩き落としていく。その神業に近い防衛戦に呼応するように、キラのフリーダムもまた、大天使の頭上を舞うように警護に回り、機体のカメラや武装だけを精密に狙い撃ち、アークエンジェルに向けられる敵の援護の手を冷徹に、そして確実に斬り落としていくのだった。

 

「よっぽど目の上のたんこぶのようね、私達は」

 

次々と至近弾を浴びせ、執拗に食い下がってくるザフト軍の猛攻。マリューは悲痛な皮肉を漏らしながらも、激しく揺れる艦長席で必死に戦戦況を見つめていた。世界の誰もが議長の提示した理想に熱狂する中、ただ真実を知り、従わずに独自の道を往く自分たちは、デュランダルにとって何をしてでも排除すべき邪魔者でしかない。

 

「しかし、このままでは追い込まれます」

 

ナタルは次々と更新されるレーダーの赤色敵影を睨みつけ、厳しく警告した。フリーダムとスノーホワイトがどれほど無双しようとも、敵は数に物を言わせて確実に大天使の逃げ道を塞ぎにかかっている。

 

「分かってるわ。何とかこのまま皆に防いでもらって、海上までもたせなくては」

 

三次元的な機動が制限される台地の影から、一刻も早く得意の海上へと離脱する。マリューは祈るような想いで拳を握りしめた。

 

どうやら、完全に包囲されているようです」

 

操縦桿を限界まで倒し、艦を滑らせていたノイマンが、冷や汗を流しながら前方の包囲網を報告する。

 

「右舷後方より再びバクゥ8!」

 

「更に十時方向よりバビ9!」

 

ブリッジにけたたましい警告音が幾重にも重なって鳴り響く。大気圏内用の空戦モビルスーツ「バビ」の鋭い火線と、白銀の雪原を縦横無尽に駆ける陸戦兵器「バクゥ」の群れが、アークエンジェルの全方位から牙を剥いた。

 

「ミサイル来ます!」

 

「回避!」

 

一斉に放たれた無数のミサイルが、白煙の尾を引いて大天使へと殺到する。アークエンジェルが対空防御火線を張り巡らせる中、純白の機体が爆炎を切り裂いてその前に立ち塞がった。

 

「次から次へとーー!」

 

スノーホワイトの全方位モニターを埋め尽くす敵影に、アマキは苛立ちを爆発させ、トリガーを引き絞った。高出力のビームが幾条もの光跡となり、迫り来るバビの主砲をミリ単位で弾き飛ばし、ミサイル群を空中で次々と誘爆させていく。

 

「熱くならないで!」

 

フリーダムガンダムのシートで、キラは冷静にマルチロックオンを起動しながら、通信回線越しにアマキの焦りを制した。ここで冷静さを欠けば、議長の描いた「悪夢」の罠に完全に嵌まってしまう。キラはスラスターを激しく明滅させ、襲い来るバクゥの脚部や武装のみを精密に撃ち抜きながら、必死にアマキと艦の盾となり続けるのだった。

 

◇◇◇

 

「議長が仰ったのはロゴスを討つと言うことです!なのに何故アークエンジェルを討つことになるんですか!この命令は絶対におかしい。もう一度司令部に……」

 

ミネルバのブリッジ。アスランは険しい表情でタリアのデスクへ詰め寄り、怒りを露わにしながら必死の抗議をぶつけていた。

 

「そんなことはもうやったわ!でも返答は同じよ。その目的も示さぬままただ戦局を混乱させ戦火を拡大させるアークエンジェルとフリーダム、スノーホワイト。今後の情勢を鑑み放置できぬこの驚異を取り除く、これは本国の決定なの」

 

タリアは腕を組んだまま顔を上げ、焦燥に駆られるアスランを突き放すように冷徹な事実を言い放った。かつての英雄を討たねばならない理不尽な命令に対する苦渋をその瞳に滲ませつつも、艦長としての厳然たる態度を崩さない。

 

「しかし!」

 

「もうどうにも出来ないわ。既に作戦は始まっているのよ?」

 

「ぅ……」

 

アスランは胸の奥を鋭く抉られたように顔を歪め、それ以上言葉を紡ぐことができなかった。世界のためにと信じて再び軍服に袖を通しFAITHの権限をもらった自分。だが、その結果がかつての戦友を討つ刃になるというあまりにも残酷な現実に、ただ絶望するしかない。

 

そのとき、デスクの通信コンソールがけたたましく鳴り響き、アーサーの緊迫した声が室内に響き渡った。

 

『艦長、レイワックスからの信号を受信しました。間もなく作戦域です』

 

「分かったわ」

 

タリアは通信を切り、椅子から立ち上がり艦長室の扉へと歩みを進めた。すがるように自分を見つめるアスランから冷徹に顔を背けた。

 

「艦長!」

 

「出撃したくないというのなら、部屋にでもいなさい」

 

「く……」

 

「でも、あの艦(ふね)相手では、こちらも死にものぐるいよ」

 

軍の決定という抗えない『悪夢』のうねりの中で、ミネルバもまた、生き残るためにかつての救世主へと全力の牙を剥くしかなかった。

 

「ブリッジ遮蔽。コンディションレッド発令。対艦対モビルスーツ戦闘用意!」

 

艦長室からブリッジへと戻ったタリアの鋭い大号令が響き渡る。重厚な装甲が窓を覆い尽くし、ミネルバの艦内は一瞬にして不気味な紅い警告灯の光で満たされていった。

 

コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機してください」

 

メイリンのアナウンスが全館のスピーカーから鳴り響き、格納庫や通路にいた兵士たちに限界の緊張感を走らせる。

 

「シウス、トリスタン、イゾルデ起動。ランチャーワンからスリー、全門パルシファル装填」

 

アーサーは冷や汗を流しながら主砲の起動キーを叩き込み、かつての世界の救世主を撃沈するための照準を合わせ始めた。

 

ミネルバのパイロットルームでは、出撃準備を急ぐ独特の張り詰めた空気の中、レイは出撃直前のシンへと歩み寄り、語りかけた。画面の向こうに映るフリーダムとスノーホワイトのデータを見つめるその瞳には、一筋の迷いもない。

 

「シン。大丈夫だ。お前なら討てる」

 

「え……サンキュー」

 

シンは驚きに目を瞬かせながらも、レイの信頼の言葉に深く頷き、ヘルメットの手入れを止めて力強く拳を握りしめた。自分たちの正義を邪魔し、世界の平和を阻む「敵」であるならば、今度こそこの手で討ち果たす。歪んだ闘志がシンの五感を研ぎ澄ませていく。

 

「……」

 

ハイネは無言のままノーマルスーツのフィッティングを確認していた。ベテランとしての冷静な眼差しの奥に、この作戦の不条理さと、完全に決裂してしまった赤服の少年たちの未来を憂う深い陰りを滲ませている。

 

……くそっ!」

 

アスランは張り詰めた部屋の空気の中で、複雑な心境を抱えたままパイロットスーツへと着替えた。世界のためにと信じて再び軍服に袖を通し、FAITHの権限をもらった自分。だが、その結果がかつての戦友を討つ刃になるというあまりにも残酷な現実に、己の無力さを呪うようにして激しい毒突きの声を漏らす。『エンジェルダウン作戦』という抗えない悪夢の幕が、今まさに切って落とされようとしていた。

 

「アスラン……」

 

激しく苦悩しながら着替えを終えたアスランの背中を見つめながら、ルナマリアは複雑そうな面持ちを隠せなかった。シンへの不満を抱きつつも、アスランに「もっと力を見せて」と迫った自分の言葉が、今の彼をどれほど追い詰めているのか。かける言葉も見つからず、彼女はただアスランの痛々しい横顔をじっと見つめるしかなかった。

それぞれが胸に秘める想いを抱きながら、戦いは過激さを増していく。

 

「ポイントまで20。間もなく会敵します」

 

ミネルバのブリッジ。アーサーは手元のインジケーターを睨みつけながら、いよいよ始まる決戦のタイムラインを必死の声音で告げた。

 

「ジャミング弾発射! インパルス発進!」

 

タリアの鋭い大号令がブリッジに響き渡る。手のひらを返したようにかつての救世主を討つ、最悪の『エンジェルダウン作戦』の幕がとうとう切って落とされた。

 

◇◇◇

 

「センサーが!」

 

アークエンジェルのブリッジ。激しい追撃をかわし続けていたチャンドラ二世が、突然ホワイトアウトしたメインコンソールの画面に驚愕の声を上げた。

「

え?」

 

マリューは艦長席から身を乗り出し、一瞬で索敵網を奪われたブリッジの視界に目を見開く。

 

「これはジャミング弾です」

 

「取り舵10。降下!」

 

敵の主力戦艦が至近距離まで接近している。マリューは視界を奪われた恐怖をねじ伏せるように叫び、艦の高度をさらに下げるようノイマンへ指示を出した。

 

◇◇◇

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 

ミネルバのカタパルトデッキ。赤く燃え上がる誘導灯の中、シンの駆るコアスプレンダーが凄まじい推進炎を引いて白銀の空へと射出されていく。背負った大義名分と、レイからの信頼。歪んだ全能感を研ぎ澄ませた少年は、迷うことなく大天使を討つための戦場へと飛び出していった。

 

「攻撃開始!」

 

タリアの冷徹な一言とともに、ミネルバの主砲『トリスタン』と連装複列位相エネルギー砲『イゾルデ』が、アークエンジェルを完全に沈めるための凄まじい砲撃を一斉に開始するのだった。

 

ミネルバから主力勢力が豪華メンバーで現れたことでアマキの苛立ちもマックスまで上がってしまう。

 

「ああ!? アスランまできてんじゃんかっ!」

 

「アスラン……」

 

スノーホワイトとフリーダムの全方位モニターが、ミネルバから発進したセイバーガンダムの識別コードを捉えた。かつて共に世界を救うために戦った友が、今度は自分たちを討つための刃として戦場に現れたという残酷な現実に、キラとアマキの胸に鋭い痛みが走る。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

合体プロセスを終え、インパルスガンダムとなったシンが、凄まじい推進炎を引いて上空からフリーダムへと猛然と襲いかかる。レイに託された信頼、親友を傷つけられた怒り、そして歪んだ全能感を爆発させた少年の剣撃が、白銀の雪原を激しく切り裂いた。

 

「ミネルバ……」

 

ジャミングの煙を割って眼前にその巨大な姿を現したザフトの最新鋭戦艦。マリューたちは、かつて幾多の死線を共に潜り抜けたその美しい巨躯が、今は自分たちを撃沈するための宿敵として立ちはだかっている事実に、息を呑んで声を失った。

 

「アークエンジェル捕捉。距離2000! イゾルデ、てぇ!」

 

ミネルバの連装複列位相エネルギー砲『イゾルデ』から、極大の熱線が一閃され、一直線にアークエンジェルへと殺到した。

 

「くッ!」

 

「ええい!」

 

「「「うわぁ!」」」

 

迫り来る熱線を前に、ノイマンは叫びながら操縦桿を限界まで引き絞った。アークエンジェルはその巨体を強引に横転させるようにして大きく傾け、眼前に迫ったエネルギーの奔流を紙一重の差で完全に躱し去る。砲火が背後の大地を凄まじい勢いで消し飛ばし、強烈なGと爆風の衝撃がブリッジのクルーたちを激しく揺さぶった。

 

「ああ!」

 

「く……」

 

ミネルバのメインモニターが映し出したのは、イゾルデの必殺の砲撃を完全に回避し、なおも健在のまま進む大天使の不屈の姿だった。

 

「ぅ……すいません」

 

艦を強引に傾けた手荒な操縦を詫びるように、ノイマンは額の汗を拭いながら操縦桿をきつく握り直した。

 

「いや……」

 

「よく避けてくれたわ」

 

ノイマンの驚異的という他ない操艦技術が、アークエンジェルを絶望の底で繋ぎ止めている。

 

アマキとキラがすかさず威嚇射撃を放つ。あくまで威嚇だが見た目は絶大だ。スノーホワイトとフリーダムから放たれた無数の光条が、ミネルバの装甲をミリ単位でかすめ、周囲の雪原を激しく爆破する。大天使を守る二機の絶対的な防衛能力が、凄まじい閃光となってミネルバのブリッジを照らし出した。

 

「うわぁ!……」

 

「大丈夫よ。下手に動かなければ当たらないわ。やはり、当てようとはしないのね」

 

「ええ!?……」

 

「メイリン! 国際救難チャンネルを開いて」

 

「ぁ、はい!」

 

「ザフト軍艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。アークエンジェル、聞こえますか?」

 

「ええ!?……」

 

「ぇ……」

 

「ぁ……」

 

「艦長! ミネルバから!」

 

「え?」

 

 

『本艦は現在、司令部より貴艦の撃沈命令を受けて行動しています』

 

「……」

 

『ですが、現時点で貴艦が搭載機をも含めた全ての戦闘を停止し、投降するならば、本艦も攻撃を停止します』

 

「……タリアさん……」 

 

アマキは通信から流れるタリアのどこか苦渋に満ちた声音を、静かに噛み締めるように呟いた。

 

「……」

 

キラは無言のまま、激しくアラートを鳴らし続けるマルチロックオンの画面を睨みつけ、操縦桿を握る手に力を込めた。

 

「艦長……」

 

「警告は一度です。以後の申し入れには応じられません。乗員の生命の安全は保証します。貴艦の賢明な判断を望みます」

 

「……」

 

アークエンジェルのブリッジ。マリューは苦渋を滲ませて拳を握りしめ、通信の切れたスピーカーをじっと見つめた。

 

「艦長……」

 

「流石、あのミネルバの艦長ね。やっぱり敵にはしたくないわ」

 

「しかし!」

 

ナタルは戦況インジケーターに視線を走らせながら声を尖らせた。どんなに立派な相手だろうと、投降しなければ待っているのは撃沈という冷酷な現実だけだ。

 

「キラ、アマキ!」

 

カガリは全方位モニターの端で、絶え間なく襲い来るザフトのモビルスーツ隊を相手にする純白の機体へ焦燥の声を上げる。

 

「ぁ!キラです!」

 

『先に行きましょう。カガリをオーブに連れて行くのが僕たちの役目です』

 

通信回線から、フリーダムのコックピットにいるキラの静かで力強い声が響いた。その瞳には、どんな不条理に囲まれようとも諦めない強い光が宿っている。

 

「キラ! だが……」

 

『気にしない気にしない! 私達が守るからさ』

 

スノーホワイトのメインモニター越しに、ウインク付きでアマキが不敵に励ます。そのあまりにいつも通りのマイペースさに、カガリは一瞬だけ呆気に取られた。

 

「ミリアリアさん、向こうと同じチャンネルを開いて。……アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」

 

マリューは意を決して背筋を伸ばし、通信マイクを静かに引き寄せた。

 

「貴艦の申し入れに感謝します。ありがとう」

 

「ああ! あれは!」

 

ミネルバのブリッジ。メインモニターに再びアークエンジェルの艦長席が映し出され、アーサーは思わず声を上げた。

 

(やっぱり……)

 

タリアはマリューの真っ直ぐな瞳を見て、その答えをあらかじめ悟っていたかのように、心の中で静かに呟いた。

 

『ですが、残念ながらそれを受け入れることは出来ません』

 

「ええ!」

 

『本艦にはまだ仕事があります。連合かプラントか。今また二色になろうとしている世界に、本艦はただ邪魔な色なのかもしれません。ですが、だからこそ今ここで消えるわけにはいかないのです。願わくば脱出を許されんことを』

 

「ああ! ……」

 

アーサーはあまりにも気高く、そして絶望的な拒絶の言葉に頭を抱え、机に突っ伏すようにして呻いた。互いの譲れない信念が激突し、ついに和平への最後の細い糸がぷつりと切れた。

 

「グラディスの馬鹿め! 何を不抜けたことを!」

 

ウィラードは通信傍受のデータを睨みつけて、青筋を立てて激昂した。

 

「はあ?」

 

「モビルスーツ隊の攻撃を再開させろ!舐められたぞ、決して脱出など許すな!」

 

軍の絶対命令を無視して独断で温情をかけたタリアへの怒りを爆発させ、ウィラードは容赦のない撃破命令を前線へと叩き込んだ。再び白銀の戦場に、アークエンジェルを圧殺するための無数の火線が走り出す。

 

「くッ!」

 

「キラ!」

 

セイバーガンダムのコックピットで、アスランは激しく飛び交うビームの雨の中で絶叫した。戦いたくない、しかし止めることもできない――その混迷の最中、オレンジ色の機体が猛然とフリーダムへと躍り出る。

ハイネ・ヴェステンフルス「悪いが、墜とさせてもらうぜ!」

 

ハイネのグフイグナイテッドが、高エネルギービーム重斬刀を振りかざしてフリーダムへ突撃する。迷いのないベテランの鋭い一撃が、キラの翼をかすめた。

 

「お前もしつこいなぁ!」

 

「逃げるな! 今日こそっ!」

 

スノーホワイトに執拗に食い下がるインパルス。シンはレイに託された信頼と、目の前で「正しい世界」を拒む邪魔者への怒りを操縦桿にぶつけ、アマキの純白の機体を激しく追い詰めていく。

 

「シン! やめろっ! ハイネ!!」

 

「アスラン! 迷ってるならミネルバに戻れっ!」

 

「くっ!」

 

ハイネの叱責に、アスランは返す言葉を失い、ただ戦場の中心で立ちすくむことしかできない。

 

◇◇◇

 

「ウィラード隊長! 何を勝手に!」

 

ミネルバのブリッジ。司令部の管轄を無視してモビルスーツ隊を強制稼働させたウィラードに対し、タリアは立ち上がって通信機に怒号をぶつけた。

 

『討たねば逃げられるわ。そう言ったではないか、奴等は』

 

 

「……」

 

『いかにFAITHと言えども、こうまで敷いた布陣、無駄にしてそれで済むか!ミネルバがやらぬというなら、我等がやる!』

 

「艦長!」

 

無慈悲に切られた通信。ウィラードの部隊が放った無数のミサイルが、アークエンジェルへ容赦なく殺到していく。

 

◇◇◇

 

「僕たちは行かなくちゃならないんだっ! アスランっ!」

 

「俺だって……!」

 

「はぁあああー!!」

 

「へああぁぁぁ!」

 

スノーホワイトの猛攻を紙一重でかわしながら、シンの瞳の奥で、何かが決定的に弾けた。世界を救う絶対の正義、その全能感が彼の精神を極限まで加速させる。

 

「いっつもそうやって、やれると思うなぁぁッ!」

 

シンの瞳から光彩が消え、シードが弾け飛ぶ。種割れを起こしたインパルスの機動は一瞬にして跳ね上がり、スノーホワイトの懐へと猛然と肉薄した。

 

「なんでっ!?」

 

これまでの動きとは次元の違うシンの速度に、アマキは驚愕の声を上げた。

 

「シン!よせ!キラ!」

 

かつてない狂熱と殺意が白銀の雪原を包み込む。

 

「メイリン! チェストフライヤー! フォースシルエット!」

 

「ぁ……」

 

インパルスを限界駆動させ、損傷したパーツを戦闘中にパージしたシンは、瞬時に次なる換装を要求した。種割れを起こした少年の思考スピードに追いつくよう、メイリンは冷や汗を流しながら換装パーツを射出する。

 

「くそがっ! うぅ……」

 

「あ!」

 

シンの超高速の変則機動と、容赦のないパーツ特攻を交えた猛攻の前に、アマキのスノーホワイトは防戦を強いられ、白銀の雪原へと激しく叩きつけられる。その衝撃の凄まじさに、コックピットの中でアマキは思わず苦悶の声を漏らし、アスランは息を呑んだ。

 

「うおぉぉぉっ!!逃がさないと言ったろ!」

 

「私って、人気者だ、ねぇ!!」

 

「お前があの人を傷つけたんだっ!ステラの大切な人をっ!」

 

シンは新たに入手したフォースシルエットの推進力を爆発させ、アマキへとビームサーベルを振り下ろす。

 

「天下のフリーダム様よぉ! あっち(スノーホワイト)ばっかり見てんじゃねぇよ!」

 

うっ!」

 

相棒の危機に加勢しようとするキラの前に、ハイネのグフイグナイテッドが割って入る。熱線鞭「スレイヤーウィップ」が激しく空間を鳴らし、フリーダムの動きを的確に遮断していく。

 

「海岸線まであと10」

 

「これでは保ちません!」

 

「振り切って!」

 

「アイツらは!?」

 

アークエンジェルのブリッジには、ウィラード隊の放ったミサイルの爆煙が絶え間なく吹き荒れていた。カガリはモニターの端で、二機のガンダムがザフトの猛攻に釘付けにされているのを見て、悲痛な叫びを上げる。

 

「あと少し……!」

 

「あんたは俺が討つんだ!今日 ここで!」

 

「いいよ、アークエンジェルは絶対行かせるんだからっ!」

 

「メイリン! ソードシルエット!」

 

「はい!」

 

シンはフォースシルエットをパージし、今度は近接格闘用のソードシルエットを要求した。一瞬の隙も与えず、戦況に応じて機体を切り替えていくシンの執念が、アマキを確実に追い詰めていく。

 

「間もなく海岸線です! 逃げられます、艦長!」

 

「タンホイザー起動! 目標、アークエンジェル!」

 

マリューの拒絶を受け取ったタリアは、苦渋の選択の末、ついに最大火力である陽電子砲の起動を命じた。かつての英雄をその手で完全に葬り去るための紅い照準光が、大天使の背中をロックオンする。

 

「非常隔壁閉鎖。潜行用意!」

 

「はい!」

 

「キラ! アマキは!?」

 

「あの二人なら大丈夫だ!」

 

「く……ルージュを出せ!私が行く!」

 

「駄目よ!」

 

「う……」

 

こうしている間にも、二人は!

 

カガリは悔しさに満ちた表情でただひたすら二人の無事を祈った。そして海上の上では熾烈な戦いが続いていた。どちらとも譲らぬ激しい動きでひたすら相手のスキを突いては防がれるという繰り返し。少し意識がそがれた瞬間に全てを持っていかれる精神面での戦いもあった。

 

「討つ覚悟があるんなら、相手してやらぁああ!」

 

「てやあぁぁっっ!!」

 

ソードシルエットへと換装したインパルスが、巨大な対艦刀『エクスカリバー』を構えて突撃する。アマキのスノーホワイトもまた、アークエンジェルを絶対に逃がすという執念のまま、その切っ先へと真っ向から立ち向かっていった。

 

そして同時にアークエンジェルが海へと滑り込もうとするその瞬間!

 

「急げ! 潜られたら終わりだ!」

 

「てぇ!!」

 

背後から迫るミネルバのタンホイザーの巨大なエネルギー奔流が、白銀の世界を昼間のように白く染め上げていく。

 

「あぁ!」

 

「う!」

 

「「「あ!」」」

 

ミネルバから放たれたタンホイザーの極大の熱線が、海面へと逃げ込もうとする大天使の背後へと容赦なく降り注いだ。凄まじい衝撃波と爆煙がアークエンジェルを完全に包み込み、ブリッジの一同が激しく座席から投げ出される。

 

「クッ!」

 

アマキの意識が一瞬アークエンジェルへ向けられた、そのわずかな隙をシンは逃さなかった。種割れによって極限まで研ぎ澄まされたシンの超高速機動が、爆煙を切り裂いてスノーホワイトの懐へと一気に肉薄する。

 

「アマキっ!」

 

「うおぉぉぉっっ!!」

 

「っ!キラっ!?」

 

「てやあぁぁっっ!!」

 

シンの対艦刀エクスカリバーの巨大な刃が、スノーホワイトへ向かって容赦なく振り下ろされる。しかしその瞬間、フリーダムガンダムが猛烈なスラスターの咆哮とともに割り込み、アマキの機体を突き飛ばすようにしてその身を盾にした。金属が激しく引き裂かれる鈍い音が戦場に響き、対艦刀の刃がフリーダムの胴体を深く貫いていく。

 

「!!!!き、キラァぁあああああーーーー!!」 

 

ウイング部から凄まじい閃光を放ち、激しい大爆発を起こしたフリーダムは、力なく白銀の海面へと叩きつけられ、冷たい水底へと深く沈んでいった。

アマキは半狂乱のまま、モニターが映し出す白銀の海面を血走った瞳で見つめた。大爆発の白煙を吹き上げながら、自由の翼が力なく冷たい水底へと吸い込まれていく。自分を庇ったがために、あのキラが、世界で一番優しい少年が、今まさに暗闇の底へと消えようとしていた。

 

「あ、ああ……!!」

 

アマキはひたすらに操縦桿を激しく押し込み、スノーホワイトのメインスラスターを最大出力で爆発させる。周囲のザフト軍の包囲網も、インパルスの残光も、すべてを視界から完全に消し去っていた。ただ一筋の白い泡を引きながら、墜ちていったフリーダムの後を追うようにして、凍てつく海中へと猛然と飛び込んでいく。

 

メインモニターに映し出された、かつての英雄のあまりにも衝撃的な墜落の光景に、ミネルバのパイロットたちは言葉を失い、ただその場に凍りつく。

 

「ふふ、はっはっはっは、やった、やっとこれで、あっはっは……」

 

コックピットの中で、シンは狂ったように歪んだ笑い声を漏らした。ステラの大切な人を傷つけた仇を、世界の平和を阻む強大な敵を、ついにこの手で討ち果たしたという全能感と狂熱が、少年の心を完全に支配していく。

 

「あぁ……キラぁぁっっ!!」

 

アスランの血の吐くような叫びが、冷たく凍てつく白銀の空へと虚しく響き渡るのだった。

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