半刻が経ち、勝負は今にも始まろうとしていた。勇儀が開始の合図を言うことになっている。観戦しに来た妖怪も多い。文ががんばって飛び回っていたからだ。本人は一番前で何かメモ帳に書いていた。萃香は開始と同時に体当たりをかます気なのか突撃準備をしていた。
「用意はいいかい?では、始め!」
萃香は予想通り体当たりを仕掛けてきた。僕は壁を作ってそれを防ぐ。
「当たってないから見えない壁ってことかな?」
「簡単に言えばそうなるかな」
僕は萃香に近づいて霊撃を当てた。
「意外に痛いね。でも勇儀よりかはぬるいね。今度はこっちの番『ミッシングパワー』」
萃香はそういうと大きくなった。あれが萃香の能力かな。僕は突進してきた萃香の足元に空気の壁を作りとりあえず横に飛んだ。見事に萃香は転んだ。
「ひどいな~。殴りあおうよ」
萃香は縮みながらそう言った。
「殴り合いでは勝てないから頭使ってるのに」
「じゃあこれならどう?」
萃香は分身を作り出していた。分身と言っても本人よりも小さい。ちび萃香は僕を囲むと一斉に突撃してきた。僕は逃げ場がないので上に飛んで空気の壁で足場を作った。何匹かは空気の壁に当たっていた。
「まだまだ行くよ」
空気の壁にちびすかは広がるように当たっていった。多分どこから通り抜けれるか探しているのだろう。
「萃香、これって君の能力なんだよね」
「ああそうだ。『密と疎を操る程度の能力』さ。さっきの巨大化もそれだよ」
「説明してくれてありがとう。僕も本気を出すよ」
僕は元の子狼の姿に戻った。こっちのほうがしっくりくる。密と疎ってことは密度を操る能力ということだ。ならば萃香を結界に閉じ込めて大きくも小さくもさせないようにする。僕は萃香から距離をとった。僕は地面に結界の用意をする。消されないように深く正確に描く。念のため萃香の周りに空気の壁を設置する。
「またこれ?卑怯だぞ」
そんな萃香を無視して僕は必要な紋章を描いていく。あとちょっとで完成しそうな時だった。
バン
空気の壁が壊れた。
「疲れた。これめちゃくちゃ固いよ。なんて能力だ?」
「あとで教えるよ」
僕は術式の完成を優先させる。あとここさえかければ完成する。
「いくよ。三歩壊廃」
萃香は大きく一歩踏み出してきた。やばい予感がする。だが、術式も何とか書き終えた。あとは最大限に霊力を込める。萃香もあと一歩で僕に届く位置まで来ていた。霊力も充填が終わった。あとは…
「封」
「おりゃー」
何とか間に合った。あと一秒でも遅かったらくらっていただろう。萃香を結界に閉じ込めることに成功した。このまま結界を小さくしていく。
「こらー。だせー」
萃香は抵抗している。結構急いで作った割にはうまくいったな。
「参った。私の負けだから早く結界を何とかして。このままじゃ潰れる」
「勝負がついたようだね。勝者、楓」
僕は萃香を結界から出した。流石にあのままじゃ可哀そうだし。
「陰陽術は反則だー」
「んなことはいいじゃないか。それに喧嘩に反則も何もないだろう。楓には私と戦ってもらうよ。今日は疲れているだろうし明日だ。今日は宴会だ妖怪ども!酒を用意しな」
「はぁ、なんとか勝てた。萃香は強いよ」
「私はお前に負けたから弱いよ。で、楓の能力はなんなの?」
「僕は『理解した能力を使える程度の能力』だよ。だから萃香の能力も一応理解したから使えよ。」
「面白そうな能力だな。これから宴会だ。楽しく飲もうよ楓」
「そうだね」
こうして鬼との喧嘩一日目が終わった。明日は勇儀とか。萃香は勇儀の攻撃は妖怪が苦手とする霊撃よりも痛いって言ってたから多分鬼でも随一の怪力か、それ系の能力を持っているのだろう。
「まさか鬼に勝つなんて思いもしませんでした。楓さんは一体どのようなことをしていたのですか?陰陽術も使っていましたし」
「僕はただの妖怪だよ。今は都で安倍晴明って人のところで陰陽術を習っているけど」
「ふつう妖怪は陰陽術は使えませんよ」
「そうなんだ」
「この後宴会ですから。思いっきり飲みましょう。そのあとで少し取材とかしてよろしいでしょうか。山の外の妖怪にも興味がありますし」
「いいけど。明日でいいかな。勇儀との喧嘩が明日にあるし」
「わかりました。では失礼します」
文はそういうとどこかへ飛んで行った。相変わらず速いなぁ。