【SS】善子「簡単なことだよ、ずら丸くん」 作:OrengeST
夏休みのとある日。
屋上での部活を終えて、部室に帰ってきたAqoursの面々。
ダイヤが部室の扉の鍵を開けて中に入ると、
部室の机の上に置いておいたはずの、花丸のパンが無くなっていた。
部室には、二つの扉と窓がある。
片側は体育館へ繋がっている扉、その正反対側に中庭へ出る扉がある。
窓もまた、体育館側と中庭側、その両側にある。
パン以外に、無くなったものはない。
机の上には千歌が置きっぱなしにしていた財布があったにも関わらず、そのままだった。
――さて、パンはどこに?
~部室にて~
花丸「マルののっぽパン……」グスン
千歌「まあまあ、花丸ちゃん。そんなに気を落とさないで。ほら、みかん飴」
花丸「ぱくん」
ダイヤ「これは……考えたくないですけれど、窃盗事件ですわね」
果南「窃盗って、たかがパンひとつ?考え過ぎじゃないかな」
梨子「でも……変よね。ほら、窓も全部閉まってる」ガタガタ
梨子「窓に壊れたような跡も無いし……」ガラガラ バタンッ
梨子「盗んだにしても、鍵を閉めた後の部室にどうやって入ったのかしら……」
鞠莉「どうせマルちゃんが食べたのをforgetしたんじゃない?」
花丸「酷いずら!いくらオラでも日に食べたパンの数くらい覚えてるずら!」
ルビィ「花丸ちゃんがパンを食べたことを忘れるなんて、ありえないよ!」
梨子「でもいつもパン食べてるし、忘れてても不思議じゃないような」
曜「花丸ちゃん食いしん坊だしね~」
千歌「バスケ部とかバレー部の子に聞いてみる?」
果南「今日静かでしょ。大会に行くって言ってたよ」
千歌「確かに……誰もいないや」
善子「……」
梨子「……?善子ちゃん?」
善子「――ふっふっふ。このヨハネが、哀れな子羊たちを導いてあげましょう」
ダイヤ「まさか!!善子さんが、そんな」
善子「ってちっがーう!」
鞠莉「そんなこと言って、1番怪しいのはダイヤだよ?鍵を持ってるのダイヤだけだしね」
ダイヤ「ま、鞠莉さん!?わたくしがそんなことをするとでも!?」
果南「なんて。思ってる人は誰も居ないから安心しなよ」
千歌「そうだよ、この中にパンを取った人がいるなんて思えないよ」
花丸「でも現に、パンは無くなってるずら……。はっ!これは俗に言う、密室殺パン……!?」
ルビィ「……パンさんが歩いて外へ出て行ったのかなぁ?」
果南「何それ、怖っ……」
善子「だから私がこの灰色の脳細胞にかけて解決してあげよう、って言ってるじゃない!無視しないの!」
ダイヤ「灰色の脳細胞……名探偵エルキュール=ポアロの二つ名ですわね」
千歌「チョコレートのお菓子みたいな名前。美味しそう!」
曜「それは月面着陸した方だね」
花丸「なんでもいいからお腹空いたずら……。パンを見つけた人には、マルがアイスを奢ってあげるずら」
マリー「難事件ならこのマリーにお任せあれね!アイスを頂くのはわたしデス!」
千歌「ずるい!私だって内浦では名探偵ちかっちー小五郎という二つ名があるんだよ?」
梨子「千歌ちゃんの場合は、どちらかといえば迷う方の迷探偵かなぁ…」
千歌「酷いよ梨子ちゃん!」
善子「と・に・か・く!ここは私が仕切らせてもらうわ!探偵として!」
果南「なんであんなに鼻息が荒いの?」
梨子「あはは……多分、何か本でも読んだのかと」
善子「まずは、前提の確認ね。屋上での練習が始まる前、花丸がパンを部室の机の上に置いておいたのよね」
花丸「そうずら。確かに机の真ん中に置いておいたずら」
善子「最後に部屋を出たのは……鍵を持ってるダイヤかしら?」
ダイヤ「ええ、そうですわ。みなさんが部室を出ていくのを見送って、私が最後に鍵を閉めました」
花丸「それはマルも覚えてる。ダイヤちゃんが鍵を閉めるのを見てたずら」
善子「その時、パンは?」
ダイヤ「うーん、よく覚えていませんわ。それほど気にしていなかったので」
善子「もう一つ確認。ダイヤが締めたのは、屋外側の鍵と、体育館に繋がる鍵、どちらも締めたのよね?」
ダイヤ「そうですわ。体育館と繋がる扉の鍵は部室からサムターンを回して鍵をかけましたわね。外と繋がる部室の扉は、外から鍵を使って締めましたわ」
果南「なんだ、簡単じゃん。ダイヤが鍵を開けたんじゃないのなら、体育館側から誰かが侵入したんだよ」
ダイヤ「それはありえませんわ。体育館側からは、私が持っている鍵を使わないと開きませんもの」
善子「窓は……さっき、リリィが確認してくれたわよね」
梨子「ええ」
ルビィ「合鍵は無いのかな?マスターキーとか」
マリー「マスターキーならありマス。でも、マリーズロックで保管しているので、私の許可無しではマスターキーは得られマセン!」
千歌「つまり、ダイヤちゃんが外から部室の鍵を閉めてからは、この部屋は鍵を持ってるダイヤさんしか入れなかった、と……」
8人「じーっ……」
ダイヤ「ちょ、ちょっと!やめて下さいまし!花丸さんじゃあるまいし、人のパンを盗んで食べるほど、卑しくありませんわ!」
果南「ダイヤ。悪口だよ」
花丸「ウッ……」
曜「でもでも、ダイヤちゃんの持ってる鍵を誰かが盗んだってことも、考えられるんじゃない?」
善子「それもあり得るわ。まあ一旦、話を次に進めましょう。練習の時の荷物は、私たちは屋上にまとめて置いてるわよね。誰かがこっそり自分の荷物の隣にある、ダイヤの荷物から鍵を取る、ってこともできたんじゃないかしら」
ダイヤ「そうですわよ」
梨子「でも問題は、部室に戻ったかどうかよね。練習の時は、みんな揃ってたと思うけど……」
善子「そうね。アリバイも重要。練習中は皆んなが屋上に居たことは覚えてるわ。この中で、休憩時間に部室に戻った人は?」
8人「……」
善子「居ないようね。黙ってるだけかもしれないけど。休憩は10分を2回。屋上から部室までは片道3分、遅くても4分だから、往復はできたはず。少し質問を変えて、休憩時間に屋上から居なくなった人はいたかしら」
ルビィ「うゅ……最初の休憩で、お手洗いに……。それから休憩が終わりそうだったから、急いで帰ってきたよ」
善子「そういえば、ルビィは一番遅れて、練習再開のギリギリに来てたわね。息を切らして……」ジロリ
ルビィ「わ、私じゃないもん!」
ダイヤ「お待ちなさい善子さん。私もルビィの後に着いて御不浄に行きましたわ。梨子さんも、私の後に屋上から降りてきましたわよね?」
梨子「ふぇっ?! あ、はい。ちょっと教室に忘れ物をして……それを取りに」
マリー「ワタシも最初の休憩で、理事長室に用事があったので降りマシタ!」
果南「私も。暇だったから階段を往復してたよ」
花丸「体力がゴリラ並みずら……ぁっ」メキメキ
果南「……何か言ったかなん?」
花丸「」
善子「その次の二回目の休憩はどうかしら?私はゲヘナへ……」
花丸「善子ちゃんはトイレに入っていくのを見たよ」
善子「ゲヘナ!アンタはどうなのよ?」
花丸「マルもトイレずら」
曜「はいはーい!私も!家庭科部の子に呼ばれたのを思い出して、そっちの方に顔を出してたんだ」
千歌「あ、私も。図書室の本の返却期限、今日だったの思い出しちゃって……図書館に行ってたよ」
善子「ふむふむ。つまり皆、屋上から一度は居なくなったってワケね。自分のアリバイを証明できる人はいる? 私が思うところ、曜だけかな」
曜「うん!私は、家庭科部に行ってたから、聞いたら答えてくれると思うよ!」
ダイヤ「ちょっと善子さん!わたくしとルビィだって、お互いを証明できますわよ!」
善子「肉親の証言は参考にできないの。二人が口裏を合わせてるかもしれないし。……ってかヨハネ!」
ルビィ「そ、そんな……」
果南「それで?これからどうするの?」
千歌「……チカ、わかっちゃったかも」
8人「ええっ?!」
善子「もう?!」
千歌「ふっふーん。伊達に、志満ねえに見せられて科捜研の乙女と相暴をコンプリートしてないから。犯人はね……」
8人「ごくり」
千歌「――曜ちゃん!君だ!」
曜「え?私?」
千歌「そう。曜ちゃんは自分で白状しちゃったんだよ」
曜「えぇ……何か言ったかな?」
千歌「家庭科部だよ」
ダイヤ「いったいそれに何が……」
千歌「ダイヤちゃんは知らないかもしれないけどね。密室といえば家庭科部ってぐらい、そりゃあもう定番中の定番なんだよ」
梨子「もしかして……」
果南「何のこと?」
マリー「さぁ……」
ルビィ「??」
花丸「お腹すいたずら……」
善子「……そういうことね」フフン
千歌「……針と糸!密室を作ったのはこの2つなんだよ!曜ちゃんは家庭科部でその二つを調達した」
善子「古典的な手法ね」
ダイヤ「つまり……どういうことですの?」
千歌「曜ちゃんは部活前、一階の家庭科部で針と糸を調達してから部室へ向かった。そして屋上へ行く前に糸を鍵に巻きつけて外に伸ばしておいたんだよ」
千歌「あとは、休憩時間に部室に来て、糸を引くだけで鍵を開けた。部室を出る時は、また糸だよね」
千歌「糸を引っ張って外から鍵をかけ、糸を切って回収する。これで密室の出来上がり」
千歌「曜ちゃんが休憩時間に家庭科部に行ったのは借りた糸と針を返すためだよ。家庭科部のいる家庭科室と、部室のある体育館は渡り廊下を通ればすぐ行けるし」
ルビィ「しゅ、しゅごいけど……」
梨子「そんな上手くいくかなぁ」
善子「ふん。家庭科部に行けば分かることよ。行ってくるわよ」
曜「……待って善子ちゃん!」バンッ
善子「ひっ?!」
果南「曜?……まさかアンタ本当に」
マリー「Oh……」
曜「ち、違うよ!でも……」
善子「な、何よ。煮え切らないわね」
曜「家庭科部に行くのは、ちょっと……」
善子「それは、後ろめたいことがあるから?」
曜「だから違うの!……ええい、もう言っちゃえ!千歌ちゃん!!」
千歌「……なにか弁解があるかな?」
曜「ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう!」
曜「これ!」ガサゴソ
千歌「へ?」
曜「……開けてみて?」モジモジ
千歌「う、うん……。わぁ、これ……」
花丸「綺麗なみかん色の服ずら……」
梨子「漢字の、千……?」
曜「千歌ちゃんの練習着、Aqoursの練習で結構傷んでるみたいだったから……プレゼントっ」
曜「この色の布ね、なかなか探してても見つからなくて、家庭科部の子に貰ったんだ」
曜「昨日ようやく完成したから、今日はその子にお礼を言いに行ってたの」
千歌「よ、よーちゃん……///」
曜「喜んで……くれる?」
千歌「もちろん!ありがとっ、大切にするよ!!」ダキッ
曜「千歌ちゃん、苦しいよ……///」
マリー「Wonderful……」
ダイヤ「いい話ですわね……」
善子「ちょっと!家庭科部はどうなるのよ!」
千歌「曜ちゃんはそんなことしない!」
善子「……」
梨子「まぁまぁ。これで、曜ちゃんが家庭科部に行ったことは、今回のパン消失と何も関係なかったってことよね」
梨子「それに千歌ちゃんの推理は、糸さえあれば誰にでもできたんじゃない?」
果南「私はそういうチマチマしたのは嫌い」
ルビィ「ぅゅ……実際にできるのかな?」
善子「任せなさい。こんなもん、ちょちょいのちょいと……」
~~~10分後~~~
善子「ダメ。無理。絶対できない!糸が切れる!」
ダイヤ「元々、この部室の扉は窓に外鍵をつけて扉にしたようですわ」
ダイヤ「サッシの上を重量のある窓枠がスライドしていて、下面の隙間は皆無と言っていいですわね。横面も同じ。密閉性はかなり高いですわ」
千歌「ほらね。言ったでしょ?曜ちゃんは絶対に違うよ」
善子「……アンタ、どの口が言うのよ」
曜「千歌ちゃん、そろそろ離れてもらっても……」ドキドキ
千歌「確かに! エアコン効いてても暑くなっちゃうね」
善子「……あっ!わかったわ!」
花丸「本当に?また変なこと言わないずら?」
善子「ふふん。本当よ。そしてこのトリックを使える犯人は、私の見立てでは絞られる……」
善子「何も、部屋の中と外が通じているのは、扉や窓の隙間だけじゃない。……そう、エアコンよ!」
善子「犯人は停止したエアコンと室外機を通して、鍵まで糸を這わせたんだわ!」
8人「えぇ!?」
花丸「って、室外機ってなんずら?」
善子「それこそが犯人特定の要素。このトリックは、エアコンと室外機が通じているという機構を理解している現代庶民にしか思いつかないわ」
善子「……エアコンから突如現れる漆黒の眷属を目撃した経験のある者にしかね」
善子「したがって、古代人の花丸と富豪である黒澤家、マリーは除いても構わないはずよ。犯人は、曜、千歌、果南、梨子の誰かよね!?」
梨子「それ、よくある勘違いよ」
善子「え?」
梨子「室外機はね、あくまでエアコンとは冷媒管を通してしか繋がっていないのよ」
梨子「輪になった出口のないホースが部屋の壁を貫通して室外と室内にあるイメージね」
梨子「室外機から室内のエアコンまでを貫くストローみたいな管、というのは存在しないのよ。エアコンから直接外に繋がる、ドレンホースというものならあるけどね」
善子「じゃあその、ドレンホースの中に糸を……」
梨子「やってみる?」
~~~10分後~~~
善子「いたた……」
果南「へえ、エアコンの中身ってこんな風なんだ。案外綺麗だね」
マリー「夏休み中に急遽業者が入ると連絡がアリましたから。そのお陰ね」
曜「どれどれ……。これは無理だね……手が入らないや」
ダイヤ「あまり無理は止めてくださいまし!こんな真夏に壊れたら……死、ですわよ?」
マリー「So hot! もういいでしょう?早くエアコンを点けて~!」
善子「という訳で。事件はフリダシね」
果南「糸を使うなんて、こす狡い考えはナシ!素直に鍵を使った方が早いんじゃない?」
ダイヤ「鍵なら、わたくしの持っている鍵は、部活の間ずっと鞄の中に仕舞っていましたわ」
ダイヤ「わたくし、鍵を落としてしまっても気が付くように鈴をつけていますの。私が屋上にいる間は、鳴った覚えがありませんわ」シャリンシャリン
千歌「ダイヤちゃんの鞄、いつもシャリンシャリン鳴ってるなあ、と思ったらその音だったんだ!」
千歌「澄んでてよく聞こえるもんね。屋上にいると、あっダイヤちゃん来た、って分かるもん!」
ダイヤ「そ、そんなに聞こえまして? ちょっと工夫が必要ですわね……」
果南「鞠莉の方の鍵はどうなの?」
マリー「私のマスターキーも、誰かに貸し出した覚えはないわ」
千歌「じゃあ、ダイヤちゃんが屋上から居なくなった時に、誰かが鍵をダイヤちゃんの鞄から取っていった……ってことかな」
善子「ダイヤが屋上に居た二回目の休憩は無視するわよね、気付くはずだから」
善子「そして、一回目の休憩でダイヤより先に屋上を降りたルビィも除外。となると、ダイヤより後に屋上を降りた……梨子、マリー、果南が怪しくなるわね」
果南「私、パンって好きじゃないんだ。やっぱり日本人なら、ごはんと、わかめのお味噌汁だよね」
花丸「たまにはパンもいいずらよ」
ダイヤ「……梨子さん。あなた、私と目が合ったとき、逃げるようにして階段を降りて行きましたわよね……?」
梨子「え!? そ、そうでしたっけ? 教室に忘れ物をして、急いでただけだと思いますけど! なんで逃げる必要があるんですか?」
ダイヤ「ぶっぶーですわ……。やましいことが有ったから、逃げたのではなくって?」
梨子「それはダイヤさんの想像ですよね」
梨子「私からすれば、ルビィちゃんの後をついて行く振りをして、ダイヤさんがトイレに入ったと偽装して、部室へ駆け戻った……ってことも考えられると思いますけど!」
ダイヤ「んまー!なんて白々しい!」
ルビィ「おねいちゃぁ……落ち着いて……!」
マリー「そうだよダイヤ。落ち着きなって」
ダイヤ「鞠莉さんも鞠莉さんですわ。あなたがマスターキーを誰にも貸していなくとも、ご自分で使った可能性はあり得ますわよね?」
マリー「今度は私?! 酷い言いがかり!」
ダイヤ「そうやってムキになるところがますます怪しいですわ」
マリー「私は何もやってないし!」
ダイヤ「じゃあ理事長室で何をやっていましたの? 言ってごらんなさい」
マリー「そんなの関係ない!」
ルビィ「あのっ!」
ダイヤ「ルビィはおだまりなさい。私は鞠莉さんに」
ルビィ「わ、私なんです!」
ダイヤ「……え?」
ルビィ「花丸ちゃんのパン、食べたの私なの!」
ダイヤ「ルビィ、あなたそんな冗談を……!」
ルビィ「じ、冗談じゃないもん! お姉ちゃんの鍵をとって、部室に戻って、それから……急いで帰ってきたの!」
ダイヤ「そんな……どうして……?」
ルビィ「……パンが、食べたかったから」
ダイヤ「何を、馬鹿な……!あなた、自分が何をしたか分かってますの!?」
ルビィ「ぅゅ……」
ダイヤ「……ッ! そのうゆうゆ言うのを止めなさいッ!」バンッ
果南「ダイヤ落ち着きなよ!」
花丸「そ、そうずら。た、たかかがパン一つ……」
善子「……ルビィ。何を隠しているの?」
ルビィ「……ぇ!? 隠してなんかない!」
善子「いいえ。ルビィの言葉がすべて真実だとしたら、ルビィが犯人ではありえないわ。あなたは嘘をついている」
ルビィ「そんなことない!私がやったんだもん!」
善子「……あなたは練習再開の直前、一番最後に、慌てて来た。私たちは、あなたが来るのを待っていたわ」
梨子「……あっ!」
ルビィ「それは、だから、部室に行ってたから……!」
善子「鍵を持ってね? ……ならどうして、私たちは鍵に付けられた鈴の音を誰一人聞いていないのかしら」
善子「あなたは鈴が鳴りやすいように慌てていたはずのに」
梨子「……それも、普段ダイヤさんの姿が見えなくても、音だけでそれと分かるくらい、屋上では聞こえるものね」
梨子「歩いて屋上に来るダイヤさんより、慌てていたルビィちゃんの鈴の音が聞こえなかったのは、確かにおかしいかも」
ルビィ「っ! そんなの……」
善子「……練習再開の直前にルビィが屋上に戻ってきた時。あなたは、部室の鍵なんて持っていなかったのよ」
ルビィ「……」
ダイヤ「……ルビィ? どういうことなの、もう、訳が分かりませんわ……」
ルビィ「……私が、犯人だよ。それで、終わりなのに……。こんな犯人探しなんて、もうやめようよ……」
8人「……」
善子「……いいえ。だからこそ、今止めるわけにはいかない。ルビィは身を挺して誰かを庇ってる」
善子「そして当の本人は、ルビィを犠牲にして黙って見ている。その人がルビィに、皆に謝るまで……私は止めるべきじゃないって思う」
善子「これはもう、ずら丸のパンだけの問題じゃない。Aqoursのチームとしての問題」
千歌「……続けよう」
千歌「はっきりさせて、ちゃんと終わりにしよう。でも、私は善子ちゃんとは正反対」
千歌「皆のことを信じてるから。絶対ここには、そんな人はいない」
曜「……そうだよね」
ダイヤ「わたくし……。ルビィ、御免なさい。あなたを、疑って……」
ルビィ「……」
マリー「オーライ。最後まで付き合う。私も、疑われるのはゴメンだし」
果南「私も、千歌と同じ意見。早く終わらせよう?」
梨子「外部の人間の犯行? ……でもそれは……」
善子「リリィ。考えたことを話すといいわ」
梨子「……私は、まったく外部の人間の仕業では、無いと思う。千歌ちゃんの財布が、机に置きっぱなしだから」
善子「そうね。なぜ犯人は危険を冒してまで、金目のものではなくパンを盗んでいったのか」
善子「それも答えを出さなければいけないけど、このことからも犯人は、私たちの中か、私達にかなり近いところに居るはずよ」
千歌「それでも! 私は、信じるっ! それってつまり、財布を盗んでいくほど悪い人じゃなかったってことでしょ? 何か理由があったんだよ」
果南「ここまで黙ってるなら、相当の理由だね」
花丸「マルのパンが、大好物だったのかな」
ダイヤ「どんな理由でも許せませんわ。こんな、わたくしたちを弄ぶような真似を」
マリー「ホワイダニット。動機の詮索はあとにしましょう。まずは、一つ一つ、手段を確かめていくのよ」
善子「ええ。その先に、犯人が居るはず」
善子「さっきの話にもあったとおり、ダイヤの鍵を勝手に持って行って、帰ってくるというのはあまり現実的ではないと思うわ」
善子「私たちは皆、休憩時間のどこかで屋上を降りている。その時に、誰も鈴の音を聞いていないってことは、やっぱりダイヤの鍵は持ち出されなかったのよ」
マリー「では、次はマリーの番という訳ですネ? マスターキーだって、私の一存で持ち運べるわけじゃない」
マリー「理事長といっても、いち生徒ですからね。職員室の先生に許可を貰わない限りは、持ち出せないわ」
マリー「そのために、マスターキーの入った箱の鍵は先生が、利用生徒名簿で管理しているんですもの」
曜「うーん。マスターキーも駄目、ダイヤちゃんの鍵も駄目、か。あとは、合鍵とか?」
善子「それも今のマリーの言葉で、無理だと分かったわ」
善子「マリーがマスターキーを持ち出せるのは、先生の許可を踏まえると、おおかた平日の学校開校中だけ」
善子「合鍵屋は沼津まで行けばあるでしょうけど、マリーにせよ、他の誰かにせよ、学校に登校しながら授業を受けない、鍵を借りてから合鍵屋に行くなんて、目立った行動はすぐ分かるでしょうからね」
果南「じゃあ、ダイヤの持ってる鍵の方はどうかな」
梨子「それも難しいかも。やっぱり鈴の音がキーね」
梨子「もし誰かがダイヤさんの鍵を盗んで合鍵を作ろうとしたとして、やっぱり沼津まで行かなきゃならない」
梨子「一日あれば学校から沼津まで往復することは簡単でしょうけど、鞄に鍵を入れて持ち歩いてるダイヤさんが、鍵が無くなっていることに気が付かない、なんてあるかしら」
ダイヤ「もしそれが……ルビィでしたら。私が家にいる間に、鍵を持ちだすこともできたのでしょうけれど。もうルビィは、犯人から除外されていると思いますわ」
ルビィ「……」
善子「鍵も駄目、か。じゃあ……そう、目撃者よ! 誰か部室を見ていた人はいないの?」
果南「階段からは、部室は見えなかったなあ」
曜「家庭科室からは、渡り廊下を渡って真正面だしよく見えるけど、何も変わったことは無かったよ」
ダイヤ「私は、御不浄にいってすぐ戻りましたので……部室の方は見ていませんわ。ルビィも同じかと思います」
ルビィ「……」
花丸「マルも見えなかったずら」
千歌「私も。図書室からは、ちょうど体育館が邪魔で、部室が見えないんだよね」
梨子「私にも部室は見えなかったわ」
マリー「私もデース」
善子「収穫なし、か。あーもう、分からん!」ガクッ
千歌「糸も、鍵も駄目。どうやったら……あっ!」ガタン
果南「……千歌、どうしたの? 外なんか見て。……屋上?」
千歌「……おおっと、いっけない! こんな時間だよ。私、志満ねえにお使い頼まれてたんだ!」
千歌「先帰るね! また明日、話しよ!」タッタッタ
善子「……外」
マリー「Oh…」
ダイヤ「行っちゃいましたわ……」
果南「やれやれ、だね。でも、部活の後だし確かに疲れちゃった。今日はもうやめにしない?」
曜「あはは、そうだね……」
花丸「お腹すいたずら~」
梨子「……」
善子「……私はもう少し、ここに残るわ。色々調べたいこともあるし。鍵は……先生、居るかしら。先生から借りて、返しておく」
ダイヤ「あまり、無理をしてはいけませんわよ」
善子「分かってる。……それと、リリィ。ちょっと手伝ってほしいことが有るから、残ってもらっていい?」
梨子「……私? 別に、いいけど……」
善子「そう、ありがと。じゃあ少し、この部室で待っててくれるかしら」
ダイヤ「……ルビィ。帰りますわよ」スタスタ
ルビィ「……うん」スタスタ
花丸「マルも一緒に帰るずら。いこ? ルビィちゃん」スタスタ
マリー「でもパンパン言ってたら、無性にパンが食べたくなってきたわ。果南、コンビニ寄っていきましょ?」
果南「鞠莉、あんた家に帰ればパンくらい、いくらでもあるでしょ」
マリー「もう、いけず。果南と食べたいの!」スタスタ
果南「はいはい。わかりましたよー、だ」スタスタ
善子「じゃあ、リリィ。少し待っててね」スタスタ
梨子「うん……待ってる」
~~~しばらく後、廊下にて(善子の調査結果)~~~
善子(まず曜。家庭科部員は捕まえられた。曜が来たのは確からしい)
善子(偶然、職員室に居た事務の先生から、マスターキーを借りた)
善子(マリーが、職員室の横の理事長室に入っていったのを見かけた先生も居たのには驚いた)
善子(更に、進路の話で先生に捕まっていたらしい。三年生の夏だし、当然か。時間的にマリーは除外してよさそう)
善子(鍵の貸し出し名簿を見たけど、ここ三カ月、マスターキーを借りた生徒は誰もいなかった。最後に借りたのはマリー。四月七日だから、入学式の時かな)
善子(次は千歌。図書室では、図書委員が千歌のことを覚えていた。沢山借りっぱなしだったから、時間がかかったらしい)
善子(図書館から部室までの距離を踏まえれば、千歌が部室に戻るのはギリギリ無理ね)
善子(時間だけ考えれば、残るメンバーは、嘘自白をしたルビィを除いて、ダイヤ、梨子、花丸、果南、曜の5人か)
善子(でもやっぱり、問題は鍵だわ。……もうこれしかないはず。この鍵の謎に、千歌は気付いた。だから、外を見て慌てて……)
善子「……でも結論を出す前に。やっぱりもう一度、試してみなきゃ……」