正直者な草原狼   作:正直者

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プロローグ

『ミッションブリーフィングを始めようか』

 

 画面の向こうにいる少女……白石ウタハが手を振っている。

 

『見えているかい? この通信はエンジニア部が独自で持っている回線を利用している。そうしないと、「彼女」はこちらを見つけてしまうからね』

 

 そう言ったウタハは、ホワイトボードにマグネットで一人の少女の画像を張りつけていく。

 

 どの写真でも笑いかけている、人当たりの良さそうな、どこにでも居る女だった。

 

 そして、その女こそが、ウタハの、あるいはこの度の任務を受諾したC&Cの「目標」であるらしかった。

 

『彼女……「狗原(いぬはら)モミ」からレールガンを奪取してきて欲しいんだ。彼女は……そう、人格破綻者でね。エンジニア部の部費や、開発終了間近だったあのレールガンを持ってミレニアムから逃げ出したんだ』

「おい、ウタハ。ソイツの確保はしなくていいのかよ?」

『……できるものならしてみてくれ。アイツは逃げるだろうけどね』

「……嫌な信頼だなァ、おい。面倒な敵ってことか」

 

 軽口を叩きながら詳細を詰める。C&Cリーダーのネルは、ミッションの内容がレールガンの回収を旨とすることの趣旨を察して「嫌な信頼」と評していた。

 

「にしても……レールガンなんざ、なんに使うんだよ」

『はは……ロマンさ、ロマン。せっかく作ったものを盗られたままなのも気に食わないってわけだよ』

「……まあ、理解は出来てないがわかったことにしとく」

『それで構わない。レールガンは極めて重量が高い。作戦終了後現場にトラックを回して、それに積み込む。それはこちらでやるから、その部分の護衛も頼むよ』

「分かった、任せとけ。……にしても、まさかテメェらエンジニア部からダイレクトに依頼なんてな。それだけ、アイツが強ェってことか」

 

 その言葉を聞いて、ウタハは呆れと怒りと、他いくつかの言語化しえない感情を複雑に混合させた表情を浮かべて、一言。

 

『……なんというか。面倒なんだ、あの人』

 

 写真越しにこちらに笑いかけてくる女のことを思い浮かべると、ウタハはそうとしか言えなくなったようだった。

 

 ミーティングを終わらせたC&Cの面々がそれぞれの仕事をひとまずこなすべく立ち去ったあと、それをずっとアナログな方法で息を潜めて確認していた一人の女がぱたん、と部屋の隅のロッカーから現れる。

 

「部長」

『はい、なにかわかりましたか? C&Cが動くなんてただごとじゃあありませんからね。気になっていましたとも』

「モミのことだよ」

『はい戻ってきてください。もう手出しはしません。えぇ本当に。七面倒臭いので。エイミもわざわざありがとうございました』

 

 C&Cの本部という、誰も入り込むことは叶わなさそうな場所でも入り込んでしまう凄腕エージェント、エイミ。そんなエイミも以前から話には聞いているようだった。狗原モミという存在、その悪どさと為人を。

 

 確か、部長が言うには……なんだったか? とばかり、軽く通信のための機器に触れながら彼女は頭を傾げさせる。

 

『私が澄んだミネラルウォーター、あの女が排水溝の汚水だとして……狗原モミは毒を湛えた井戸水です。安全だと思って口に含めば最後、全てを奪い去る……ミレニアムがそうされたように、です』

 

 そうそう、そんな感じだった、とエイミは軽く頷いた。

 

『彼女と彼女の拠点を襲撃する……私達もそれとなく手を貸してやるべきでしょう。あの女も、まさか文句は言わないと思いたいですが』

「私はなにかすること、あるの?」

『あぁ……つい通信を付け放しにしていました。戻ってきて貰えますか?』

「わかった」

 

 かくして、絶対の安全と機密を確約された部屋は無人になった。

 

 そして。

 

「ふふふ……サプライズは用意周到にしなくてはなりませんね、ご友人。あなたがたに喜んでもらえるか……ふふ、心配だ」

 

 ずっと、ずっと。密かに潜伏し続けていた(・・・・・・・・・・・)()が身を起こす(・・・・・・)

 

 蜘蛛を模した超小型機……私の最大の友人、白石ウタハからの大切な贈り物を使い、私は……『狗原モミ』はずっとこの会議を見守っていたのだ。

 

 部屋の中のことは、画面越しにずっと聞いていた……ご友人が、それも五人も……それだけではないかもしれない。もっとかも? とにかく大勢でやってくる。もてなしの準備をしなくては。ホームパーティにするなら準備が大切だ。

 

 あぁ……楽しみだ。楽しみで仕方ない。あのレールガン自体は素敵な代物だが、親から離れ寂しそうで……不憫。そう、不憫だ。

 

 だから、親元に送り返すのも吝かではないのだけれど……それ以上に、ご友人の訪れだ。ブラックマーケットからはまた少し離れたこの砂漠の地(アビドス)に拠点を構えてから、めっきり減った友との出会い、再会、会話。そういったものは嫌いではなかったのに、本当に減ってしまったのがなんとも物悲しい。

 

 砂漠は熱く、冷たく、代わり映えのしない場所。だからこそ、時折訪れるご友人との会話がよく弾むのだ。

 

 と、その時私を呼ぶチャイムが鳴り響く。機器のコントロールを放棄して、私は機材の前から立ち上がった。

 

「そんなに激しくしなくとも今出ますよ、親愛なるご友人」

 

 激しいドアノックを繰り返す友をドアが壊れてしまう前に止めねばと、私は一歩踏み出した。

 

「やはりあなたでしたか。小鳥遊さん」

「次はこんな所に構えてるんだねぇ」

「えぇ。これも色々なご友人の尽力のおかげ、感謝に絶えません」

 

 小鳥遊さん。小鳥遊ホシノ。私の新たなご友人のひとりです。小さな見た目に反して私よりも年上の三年生。アビドスの現在の取りまとめ役と言っても過言では無い彼女です。

 

 いろいろとミレニアムの友人たちに便宜を図っていただき、ミレニアムを出た私は、アビドスの近くに居を構えるべく彼女へと交渉を申し出たのです。

 

「私の技術を使って学校の補修などの機械部分を請け負うから、私をアビドスの近くの砂漠に住まわせてくれ」と。

 

 最初は廃校になりかけと聞いて訪れたアビドスでしたが、実態は5名の生徒のみとはいえよくやっているようでした。

 

 最近『先生』と名乗る方が現れたと言い、私はお会いしたことがないのですがどうやら『良い人間』のようで。いろいろと助けられている、と前回会った時のホシノはそう言っていましたね。

 

「それで、小鳥遊さん。今日は何の御用件ですか?」

「あぁ、そうだったー……今度さ、ヘリを使うんだ。アヤネちゃんが普段は見てるけど、本業が近くにいるからさー。カリッカリにチューンアップしてもらっちゃおっかなー、って思って」

「えぇ、構いませんよ。それでは後日、伺います」

「ありがとー……助かるよ」

 

 そうやって小鳥遊さんがお帰りになるのをお見送りして、カレンダーの予定表にホームパーティとアビドス行きの予定を入力した私は、数々の友との青春に胸を躍らせる。

 

「あぁ、本当に……素敵で、楽しみだ」

 

 

 

 




・狗原モミ

アビドス砂漠に住まう元ミレニアム2年生。

様々な開発途中だったものと、完成寸前のレールガン(戦艦の主砲用として用意されたもの)を強奪して逃走した過去を持つ。

本作主人公。嘘を自分で真実だと信じ込めるため機械によって嘘を見抜かれないという特有の力を持つ。

作者モチベに繋がるので高評価、コメントはいただけるとさいわいです。宜しく、お願いします。
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