正直者な草原狼 作:正直者
「さあ、始めっぞ」
「「了解」」「りょーかーい!」
四人の影が砂漠に降り立つ。ブリーフィングから数日、いよいよもってC&Cの極秘任務『レールガン奪還』がスタートしようとしていた。
信頼出来る情報筋からの情報として、現在アビドスでは『騒ぎ』が起きており、今ならばアビドス自治区に侵入しても発見することすら難しいだろう、という推測が立てられたためである。
事実、この時小鳥遊ホシノはカイザーPMCの拠点に先生やアビドス生全員とカチコミをかけている真っ最中であり、それどころではないことは確かだった。
狗原モミの拠点がアビドスにあり、アビドスが絶対たる守護者……小鳥遊ホシノに守られていることは周知の事実であった。
されど、今その防壁は限りなく薄れている。今、C&Cを動かすブレインたる者……明星ヒマリはそう考えていた。
明星ヒマリは、狗原モミに関連するとわかった時点で最初は手を引くつもりだった。しかしながら、事が事だ。全力でC&Cにことに当たってもらうべく、いくつかの協力をするとC&Cに申し伝えたのであった。
その中の一つが、作戦立案、具体的行動指針、現場管理オペレーターを明星ヒマリが請け負うというものであったのである。
『皆さん。想定通り、小鳥遊ホシノらアビドスの生徒はカイザーPMCの施設で交戦を開始する様子です。今ならば妨害は無い……存分にやってください。ただ、引き際は誤らないように。合図はこの超天才清流系美少女ハッカーが承ります』
「分かってる……にしても、硬ぇ城みてぇだぞ、ここ。センサーが張り巡らされてる」
その言葉に反応したのは、ヒマリの傍で見守るウタハであった。
『モミの考えそうなことだね。赤外線センサーかな? レーザーセンサーかな? いずれにしても、引っかかれば私のところから持っていったドローンなりなんなりが出てくるだろう。私が言うのもなんだが、面倒な相手もいるはずだ』
『なるほどセンサーですか。それはこちらでなんとか……しましたので進んでください』
「助かる」
ヒマリがウタハの言葉を聞いた瞬間ハッキングを仕掛ける。至極当然、才能がそちらの分野にあるわけでもなかったモミのセンサーは無力化された。
先を進むC&Cの面々が張り巡らされたセンサーを無視して行くのを、監視カメラ越しに見ていたモミは軽く笑った。ひとつの砂に埋もれた街をそのまま丸々拠点としているモミの本拠は、広い。単純に広い町中から一人の女を見つけろ、というのも無理筋だろうと彼女は思った。
しかしながら、こうも考えていた……「よく勘の当たるご友人がいたはずだ」と。事実として、モミが場所を変える度にアスナが画面の前で考え込み、違う道を示すことがしばしばあった。それは今の移動後の潜伏場所の最短ルートを行くものだ。
「本当に見えてはいないのですよね? 奇妙な……しかし面白いですね、ご友人」
さて、とモミは一息ついた。ここから先は、自分のテリトリーの中でも自分が直轄で回せる範囲……つまり、ホームパーティの会場なのだから。
声は街中の至る所から響き渡る。
『ようこそ皆さん! お待ちしておりました、ホームパーティによくお越しくださいましたね』
「放送……ホームパーティだぁ?」
『……ウタハ。ひとつ教えてください。小型の潜伏可能で、情報送信可能な自立駆動ロボットをエンジニア部は作れますか?』
『無論だ。言うまでもない……なんでそんな、いや……まさか』
ネルはその通信を聞いて、直感した予感を口に出した。今更口にしようが現実は変わるまいという確信があったのだ。
「察知されてた、か?」
『察知したことを悟らせないために動かなかったとしたら、相当な策略家ですね』
『手酷いことを言ってくれるではないですか、通信先のご友人。恐らくはヒマリでしょう。久しぶりですね、ヒマリ』
声を聞いて、通信を聞かれていることまで判明した途端、ウタハは思わず声を上げた。
『モミ……! 君の持っていったレールガン、返してもらうぞ!』
『あら……ウタハもいたのですね。あなたはいつも私に新しい出会いをくれる……素敵だ』
『変わりませんねぇ、モミ。C&C、目標の座標を送信します。進みなさい』
『お待ちしていますよ、ご友人』
才能が希薄とはいえ、凡才よりは遥かに高い能力を有するモミにあった、『専門的な者たちには勝てない』程度の中途半端な心得により通信回線に乱入して会話をしていくモミと、それを『些事』でしかないことを読み切って進行を続けるヒマリとC&C。
『目的の物はそちらにはございませんよ?』
そう切り出すモミに、ヒマリは淡々と告げる。
『あなたに痛い目を見てもらう、というのも作戦の一環ですので……それともこの超究極系天才病弱美少女ホワイトハッカー明星ヒマリに間違いがある、とお思いで?』
『ふふ……ヒマリ、あなたはそういう方でしたね。いえ、非礼をお詫びします。お待ちしていますよ、
楽しそうに笑うモミの声をバックに、C&Cは自動防御兵装を次々に無力化していく。いよいよもってあとわずか……場の皆がそう思っていた。
「……肌が焼けるなァ……」
「……? リーダー?」
「なんか気になるねー?」
「アスナ、どうしたの……!?」
瞬間、巨大な機械兵が姿を見せる。カイザー系列の企業でよく用いられる二脚型機械、ゴリアテであった。
『それも盗品ですか? カイザーに目をつけられてしまいますね、モミ』
『そんなことはありませんよ、ヒマリ。これは親切なご友人からの譲渡品です……型落ちなので差し上げます、とね』
『自身の領域に踏み込んだ不法侵入者を排除しようとしたら鹵獲された、と。ちょっとだけ、同情しちゃいますね』
そんな経緯かはいざ知らず、
『……割り込めない』
銃火器の火力勝負であろうと、裏を掻く戦いだろうとそうは負けぬC&Cだが、屈強な機械であれば多少の……そう、今まで歯牙にもかけていなかった戦闘よりは時間が持っていかれるというものだ。
だから、ヒマリはハッキングをかけようとして、気付く。ヒマリのハッキングが通らないほどのセキュリティ対策……いや違う。これは……
『そうです。貴女が来て下さるとも思っていませんでしたが、チヒロさんが来るとは思っていたので……事前にプログラムを完全オフラインで稼働させています。せっかく用意させていただいたのです。パーティの前菜も、ほら』
『この私を、出し抜くとは。ですが……』
瞬間、レーダーに多量に映る赤点……敵の熱源表示。ヒマリはこの瞬間を完全に予期していなかった。自分の能力と相手の能力を比較し、相手が劣っていることを確信したが故の、僅かな慢心と認めざるを得なかった。
「リーダーっ! 熱源反応多数! 後ろにいっぱいいる!!」
「チッ……アスナ! アカネ! テメェらでやれ! このデカブツなら二人で十分だ!」
『ネル、聞きなさい。素直に分断されてやる必要はありません。確かに不測の事態ですが、不測の予測こそが天才の仕事。ならば!』
瞬間、レーダーに写った敵を示す赤点、その数が少しずつ減少し始める。とっておきの援軍が現れでもしない限り起こりえないこと、それが起きたということは。
『聞こえる? C&C』
「テメェは……エイミか!」
『こっちは全部、私がやっておく。分断されないように、ゴリアテを倒して任務を継続して』
「分かった、助かる。……命令はナシだ、コイツをサッサとぶっ潰してバカを捻るぞ!」
ずっと、通信を何らかの方法で相乗りされた時のために備え味方のレーダーにも映らないよう細心の注意を払ってジャミングをかけながら建物内を通行して詳細な探索を行っていたエイミがその姿をレーダー上にも現し、次から次へとドローンや二脚小型兵を撃破していく。
『お見事です! ……さて、そろそろ私の出番のようですから、準備をしなくては。よく踊られる貴女方と私は上手く踊れるでしょうか? もし上手く踊れたのならいいが……心配だ……』
『……通信、途絶。面倒な手合ですねぇ。どの道まだ聞いてはいるのでしょうし……』
ヒマリはそう呟くように言うが、その後妨害が入ることはなく。妨害がなければ時間こそかかれど木偶の坊、ゴリアテはあっさりと無に帰った。
そうして探索に戻ったC&Cは、そう時間をかけずに、巨大な、入り組んだガレージのような場所に到達していた。
「おお……コイツはスゲェな。エンジニア部のガレージよりもデケェ……」
ネルがどこか惚けたように言い放ちながら、周囲を警戒する。だが、『ソレ』は直上に。
「……リーダーッ! 上!!」
「……ッ!!!」
ズガガガガガッと轟音を立て、ガレージの床や壁にも当たりながら小型のポッド型ミサイルがネルを急襲する。
「ッ……どこからっ!」
「ここです、ご友人」
ギュイイイイイイッ、という別の爆音。その音に気づけたアカネは、咄嗟に身を前方に投げ出し、結果としてそれは彼女を大いに救うこととなる。
虚空を薙いだそれは、そう。強いていうなれば……
「チェーンソー……!?」
「サプライズをさせてくれないのですか……残念だ」
『狗原モミの姿を確認しました。彼女の撃破を!』
茶髪をなびかせ、頭頂部には犬耳。虚空を薙ぎ払ったチェーンソーは右腕に。もう片手に握られているのは『砲』……C&Cが事前に調べるところによると、拡散式の弾を発射するバズーカであるらしい。
可愛らしくアレンジこそされているがツナギのようなものに身を包んだ彼女は、C&Cがこちらを向き直ったと同時に笑う。
「始めましょうか、素敵な
「言われるまでもねぇ……ボコってパクって帰るぞ!」
先生たちの戦いの裏。この砂漠で、当人たちしか未だ与り知らぬ楽しいパーティが、始まる。