ギャルゲーの登場すらしないモブになったわたし。   作:クリオネf。t

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プロローグを加筆修正しました。


プロローグ
ギャルゲーの世界だと気づいた


 何となく、自分は転生したんだろうなと感じていた。前世の記憶は曖昧だけれど、それでも『前の自分』がいたという感覚だけは幼い頃から確かにあったのだ。

 まぁ、前世を覚えているからといって何か特別なことが起こるわけでもない。ぼんやりとした前世の記憶の中の私も、今のわたしも、裕福ではないが決して貧乏でもない家庭に生まれ、厳しくもあり優しくもある家族に恵まれた普通の女の子である。今までもこれからも、何の差し障りもない人生を送っていくのだろうと、そう思っている。

 そんな日々の中で、最大の衝撃が走った出来事があった。

 それはわたしが高校に入学したばかりの頃である。ぶかぶかでまだ着慣れない真新しい制服で迎えた入学式の日の学級オリエンテーションで、やけに明るい髪色の子が目に入った。その子は、わたしよりは若干背が高いようだが小柄な子だった。稲穂のように美しく輝く金髪をツインテールに結いあげ、これまたアメシストのように美しい紫色の瞳を持っている。まるでお人形さんのようだ、と思った。そんな子が現実に存在するなんて…そう思いながらその子を見つめていた。

 しかし、一番の衝撃はそこではない。わたしの中に最大の衝撃が走ったのは、一人一人が自己紹介をする中、その子の番が来て、名前を口にした瞬間である。

 

「三沢あやめです。よろしく」

 

 その名前を聞いた瞬間、わたしは思わずひっくり返るかと思った。それ程の衝撃だったのだ。

 三沢あやめ。

 それは、前世で人気だった男性向け恋愛シミュレーションゲーム『その花の名前』の登場人物であり、攻略対象のヒロインの一人の名前である。そして、目の前にいる彼女は、そのヒロインと容姿も完全一致していた。それより何より、この学校の名前、『私立花ヶ咲学園』はそのゲームの舞台である学校名ではなかったか。

 そこでわたしは初めて自分がただ転生したわけではなく、ギャルゲーの世界へ転生してしまったのだという事実に気がついたのであった。

 

 

 

 

 

「ねぇアンタ」

 

 オリエンテーション後の休み時間、特に誰かと話すということもなく持参していた本を取り出して読もうとしていたところで誰かから声をかけられた。思わぬ出来事に驚き、パッと顔を上げる。

 

「…ハ、ハイ」

 

 思わず片言で返事をしてしまった。

 初対面の人に話しかけられたことによる緊張……も多少はあるだろう。しかし、それだけが原因ではない。寧ろ一番の原因は、わたしに話しかけてきた相手が、あの『三沢あやめ』であったからである。

 本当に何故。

 ギャルゲーのヒロインに話しかけられるような要素など一体どこにあったというのだろう。わたしは主人公ではなく、設定すらないモブだというのに。

 

「アンタ…花村多恵子って言ったわよね、さっき」

「は…はい…そうですが…わたしに何か御用が…?」

 

 にこりとも笑わない、目尻の吊り上がった大きな瞳。いや、彼女が吊り目なのは元々なのだけど……なんというか、笑っていない所為で物凄くキツそうな性格の子に見えてしまう。まぁ、キャラ設定的にツンデレであるので、それを知らない赤の他人からしてみればキツい以外の何物でもないとは思うが。

 

「別に。ただ、ワタシより小さいヤツがいると思って声かけただけ」

「え、えぇ…」

 

 確かにわたしは背が小さい。

 確か三沢あやめは中学生から身長が全然伸びていないと言う設定があった筈なので、恐らく現在も149cmなのだろう。そしてわたしは145cm。作中一の低身長である彼女よりも小さいのである。ゲーム内のストーリーでも、彼女が低身長を気にする描写は多分にあった。だから、そんな自分よりも小さいわたしに関心を持ったのかも知れない。

 

「………」

 

 何も言わず、じぃ…とこちらを見つめる彼女は、本当に美少女である。流石ギャルゲーヒロイン。ただ、そんなにじっと見つめられると落ち着かない。

 

「あの…三沢さん?」

「その話し方やめなさいよ」

「えっ」

 

  何故か怒られた。眉間に皺を寄せて、明らかに不機嫌そうな表情である。

 

「同級生でしょ、アンタもタメで話しなさいよ。その三沢さんっていうのもやめて」

「は、はぁ…じゃあ、あやめちゃん…でいい、のかな?」

 

  わたしがそう言えば、彼女は眉間に寄せていた皺を消し満足気な表情を浮かべていた。

  もしかして、ツンデレな性格が災いして友達が中々出来ないから、友達が欲しかったのだろうか。その可能性は大いにある。それでわざわざわたしに声をかけたのは、仲間意識を持ったからなのかも知れない。

 

「改めて、三沢あやめ。これからアンタのことは『たえ』って呼ぶから。よろしく」

「花村多恵子だよ。こちらこそよろしくね、あやめちゃん」

 

  ヒロインに話しかけられたのは心臓が飛び出るくらい驚いたが…何やかんやで仲良くなれそうなので、これからが楽しみである。




《軽い人物紹介》
花村多恵子(はなむらたえこ)
本作主人公。転生者。黒髪黒眼でおさげ。原作ゲームには裏設定ですら登場しない正真正銘のモブ。

三沢あやめ(みさわあやめ)
ゲーム本編設定上4人目のヒロイン。金髪紫眼でツインテール。ツンデレ。低身長でスレンダーである。
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