ギャルゲーの登場すらしないモブになったわたし。 作:クリオネf。t
謎の少女との出会い。
あれから2年の月日が経ち、3年生へと進級した現在。現時点で特に変わったことはない。唯一挙げるとしたら、入学初日だったあの日に仲良くなったあやめちゃんと現在も友達という関係性が続いていることだろうか。まさかゲームのキャラクターと友達になるだなんて想像したこともなかった。ゲームの世界に転生すること自体、物語の中だけの話だと思っていたので想像したことはないけれど。
ともかく、あやめちゃんと友達になったこと以外特別なことは何もなく、最終学年になった。というか、そもそもの話、三沢あやめというキャラクターがゲーム本編時点で3年生という設定だったので、1、2年時に変わったことがないというのは当たり前のことなのかもしれない。寧ろ、今現在がゲーム本編の始まりの時期であり、何かが起こるかもしれない時期なのである。……まぁ、わたしは顔も名前も何の設定もない、ゲーム内に登場すらしない
「それにしても重い…」
わたしは今、部活動で使う画材を運ぶ作業をしていた。これが結構たくさんあって大変なのだ。因みに画材という単語でお分かりいただけただろうが、わたしは美術部に在籍している。そういえば攻略対象のヒロインにも美術部の子がいたような気がするが……今はそんなことを考えている場合じゃなかった。画材を運ばないと……
「それ、大変そうだね。手伝うよ!」
そんな元気な声が聞こえて来たと思ったら、手元が一気に軽くなった。何事かと思って見てみたら、つい先程までわたしが手にしていた画材を手に、背の高い女の子が目の前に佇んでいる。流れるように美しい、艶のある茶色がかった黒髪。黒曜石の如き瞳を縁取る長い睫毛。緩く弧を描く唇は桜色。制服のスカートから伸びるすらりと長い脚。まるで雑誌やテレビで見るモデルを思わせるかのようなその出で立ちは、まさに美少女と言って差し支えないだろう。
「あ……えと。ありがとう、ございます……」
「これ運んでるってことは美術部の子だよね!これ、どこまで運んだらいい?」
「えっ、あっ……悪いですよ、そんな」
「あはは、気にしなくていーって!アタシ運動部だし力と体力には自信あるからさ、遠慮しないで頼ってよ!」
わたしが遠慮がちに言えば、その子は明るく快活な笑顔を浮かべてそう言った。美人な上に物凄くいい人だ。校章の色からして同級生なんだろうけど、元々人の顔や名前を覚えるのが苦手な上、如何せん生徒数が多いばかりに別のクラスの人の顔や名前を覚えていないのだ。
「えっと。じゃあ、よろしくお願いします……?」
「任せて!じゃあ早速、運ぶ場所教えて!」
「あ、はい。案内しますので着いて来ていただけると…」
「おっけー!」
にっこりと爽やかな笑顔を浮かべ、彼女は部室へと向かうわたしの後ろを着いて来た。
凄く明るい人…完全に陽の人だ。わたしとは全然タイプが違うな…なんて思いながら、わたしは彼女を部室まで案内する。正直貧弱なわたしだけでは大変だったので、とても助かる。彼女がいてくれて本当によかった。
「ありがとうございました。おかげで助かりました。正直わたし一人だともう骨が折れそうで…」
「気にしないで!アタシが好きでしたことだからさ。なんかちっちゃくてかわいい子が一人で大変そうにしてるな〜って思ったから」
「そうなんですね。本当にありがとうございます。えっと…」
お礼を言いたいが名前がわからないので言葉に詰まってしまう。そんなわたしを見てああ、と何かに気がついた様子で彼女は口を開く。
「ごめんごめん、名前言ってなかったね。アタシは3年D組の斉藤咲。よろしく!」
「はい、斉藤さん…よろしくお願いします」
「あはは、同級生なんだし敬語はいらないって!君は確か、B組の花村多恵子さんだよね」
「えっ」
どうしてわたしの名前を知っているのだろうか。わたしは斉藤さんのことを何も知らないのに。というかこんな美人な子がわたしのことを認知しているなんて……
「花村さん、絵で結構賞貰って表彰されてるでしょ?だから前から知ってたよ!」
確かにわたしは絵で何度か賞を貰っている。表彰台に上がるのはいつも緊張してしまって不恰好な姿ばかり晒しているのだけど、まさかそんな姿を覚えられていたなんて……美人な子に覚えてもらえるのは正直嬉しいけれど、ちょっと複雑かもしれない。
そんなわたしの心情を知ってか知らずか……いや絶対に知らないんだろうけど。斉藤さんはどこか嬉しそうに「それに、」と話を続けた。
「なんかちっちゃくてかわいい子だなぁって、前から気になってたんだ〜。話す機会なかったから、こうやって話せて嬉しいよ」
そう口にする斉藤さんの表情は明るく、心から嬉しそうだった。そう言ってもらえると嬉しい半面、何だか照れくさい気持ちにもなる。
「えっと。ありがとう…?」
「何で疑問形?」
「なんか、複雑で…」
「ふーん、そっか!あ、ねぇねぇ、花村さんのことたえちゃんって呼んでいい?」
アタシ、もっと花村さんと仲良くなりたいな!なんて眩しい笑顔で言ってくる斉藤さんに、眩しさで目が見えなくならないかな……とほんの少しだけ思った。本当に少しだけ。あやめちゃんの時も思ったことだけど、こんな美少女がわたしと仲良くなりたいと思ってくれるなんて天変地異の前触れか何かだろうか?
そう言えばここはギャルゲーの世界だ。でも『斉藤咲』なんて名前には聞き覚えがないし、こんな容姿のキャラクターに見覚えはない。だけど、攻略対象であったって何らおかしくはない程の美少女だ。寧ろ何故攻略対象にいないんだろう。設定すらないキャラクターにこんなにかわいい子がいるだなんて……恐るべしギャルゲー。
「なんか百面相してるけど、どうかしたの?」
「いや……うん。眩しいなって」
「何それ〜、変なの!面白いねぇたえちゃんは」
面白い……のかな?わたしなんて特に何の面白味もない
「あ…わたしは何と呼べば?」
「アタシのこと?今まで通りでもいいし、気軽に咲って呼んでくれてもいいよ。たえちゃんの好きなように呼んで!」
「うん。じゃあ、えっと、咲ちゃんで」
本人が好きなように呼んでと言っているし、多分斉藤さん…もとい咲ちゃんみたいな子は余程変だったり屈辱的な仇名じゃなければ気にしないだろうから、そう呼ばせてもらうことにする。呼び捨てはわたし的に違和感があるし。
「じゃあ、これからよろしく!」
「こちらこそ、よろしくね」
「早速LINE交換しようよ〜!」
「うん、いいよ」
これが、高校生活3年目にして初めての出会いの話である。
この少女は一体何者なのか……