ギャルゲーの登場すらしないモブになったわたし。 作:クリオネf。t
入学式翌日の放課後。
いつものようにいそいそと作品制作に取り組んでいれば、恐らく今年の新入生であろう生徒が数名、部活動見学にやってくる。その中に、一際目立つ子がいた。いや、どちらかというと地味な子だけど、わたしにとっては既視感がありすぎてすぐ目についてしまうのだ。
それもそのはず。まるで夜空をそのまま写したかのような青みがかった黒髪のショートボブに黒縁の丸眼鏡。その奥にある海を閉じ込めたかのような蒼色の瞳。間違いなく攻略対象のヒロインの一人だ。名前は確か……
「あ、あの…!」
ついつい考え事に夢中になっていたら、誰かに声をかけられてふと我に帰る。声のした方へ顔を向けると、そこにはなんと先程までわたしの脳内を占めていたヒロインが。わたし、結構ヒロインに話しかけられている気がする。気のせいだろうか。
「あ、ごめんね。何かな?」
「花村多恵子先輩…ですよね」
おっと、まさかのヒロインに認知されている。わたしは先程も言った通り地味な容姿だし、そんなに目立つ存在ではない気がするのだが。
「うん、そうだよ。わたしのこと知ってるの?」
「は、はい!それはもう!」
葵ちゃん――と呼んでいいかは分からないが、とりあえず一番しっくりくるので心の中ではそう呼ばせてもらおう――はどこか興奮した様子でそう言った。元々美しい瞳が更にキラキラと輝いているような気がする。
「たくさん賞を貰ってる凄い先輩だって聞いてます…!そんな凄い先輩とお話し出来るなんてとても嬉しいです…!」
「えーっと……?」
何だか物凄く称賛されているが、わたしはそんなに凄い人間ではないので恐れ多過ぎる。キラキラと輝く純粋な瞳が眩しい。美少女は総じて眩しいという事実を改めて実感した。美少女凄い……
しかしまぁ、好きなことで賞を貰って評価されるというのは素直に嬉しいし、モチベーションにも繋がる。あまりにも持ち上げられ過ぎるのは困惑するが。
「あ、はは。わたし、そんな風に言って貰える程凄い人間ではないけど……でも、ありがとう。嬉しいよ」
「謙遜する必要なんてないです!わたし、先輩の受賞した作品をいくつか拝見させていただいたんですけど、もう、感動して…!」
この子、自己主張があまり強くないというか、寧ろ弱い設定だったはずだし、実際ゲーム内でも物凄く大人しくてゆっくり喋るような子だったと思うんだけど、今目の前にいる彼女はゲーム内では見たことがない程の饒舌だ。最早同じ顔をした別人なんじゃないかと疑う程である。
「はっ……ご、ごめんなさい……憧れの先輩を前にしたら、思わず興奮してしまって……」
「ううん、いいよ。気にしないで。えっと……改めて、花村多恵子です。あなたは……」
ここで新入生のことを知っていたら変に思われるかもしれないので、敢えて知らないふりをして名前を訊いてみる。
「あ、わ、わたし、御薬袋葵といいます……!よろしくお願いします……!」
「うん、よろしくね、葵ちゃん」
「はわ……!」
何だか物凄く感激されたようだが、一体何に感激されたのかはよくわからない。しかし、嫌がっているわけではないようなので、今後も葵ちゃんと呼ばせてもらうことにしよう。
「そう言えば、葵ちゃんは他にも気になる部活があったりするの?」
「い、いえ……。初めから美術部に入部するつもりで見学しに来ました。実際の部活動がどういうものなのかを、入部する前にしっかり見ておきたくて。今日はとても有意義な時間が過ごせました。明日には入部届を出そうと思います……」
「そっか。待ってるよ。楽しみにしてるね」
何だか葵ちゃんとは、あやめちゃん並みに仲良くなれそうな、そんな予感がするのであった。
《軽い人物紹介》
御薬袋葵(みないあおい)
ゲーム本編上2人目のヒロイン。
自己主張が苦手なタイプ。本を読むのが好き。
1年B組。