オルクセン王国史 掌編   作:クロル・クロル

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電波受信したので初投稿です

…ほんとですよ?


ある青年オークの奔走

 

最悪というものはどれほど事前に備えても来るものだ

 

冷たい戦争を乗り越えた明くる年、道洋に伝わるとある芸能文化をオルクセンに住む善良な青年は知った

青年は歓喜した、己の未熟な才でも表せる!

青年は絶望した、対応できる社が無いなんて!

青年は奮起した、ここで折れては先達に申し訳が立たぬ!

 

実現までに3年、それに平行してふさわしい作品を作るのに2年

方々の伝手とコネを使い潰し、貯金をうっかり使い切ったがために飢えに苦しむ日も有った

理解のある友人と理解を示したパトロンに出会えなければ文字通り背中と腹がくっついていたであろう

―――もう水だけで三日も過ごすのは勘弁だ

 

ヴィルトシュヴァインにはこの文化に相応しい建物は文字通りより取り見取りだ

だが、財布の中身は有限だ

広ければ広いほど、豪華であれば豪華なほど―――僅か一日

準備期間も考えれば二日程借りるだけで見たことの無い額が飛んでいく

何より参加してくれる方々を集めることすら困難だというのに!

 

この時期、細々と雑誌の投稿欄を通じた交流はあれども直接に手紙を送り合えるほどの面識はない

何より手紙代や郵便代は決して安くはない

巨鷲と犬人印の郵便局は確実に届けるが値段も確実に懐に響く金額だ

 

結果として一度に一人に対し数十枚と書く気合の入った代物になるがそれを多数に届けるのは不可能だ

 

友人の一人が紹介してくれた奇特なパトロンに頼ることも考えたが資金まで頼り人すら頼るのはオークの牙折れである

結果として四社の新聞紙に小さく、本当に小さくヴィルトシュヴァインにて開催する広告を乗せることに成功した

 

この時の意地は端的に無駄というかパトロン殿に完全に見抜かれていたことを後年知ることになる

何せ、この時出した広告を掲載した新聞社は全てヴィルトシュヴァインの物だったからである

本来出さなくてはいけない地方紙のことをこの時の私は完全に失念していた

―――これを知ってワタクシとても焦ったのですよ?新聞に小さく出すだけだなんて…

―――そ、そうは言ってもあの時の会場は小さくてだね…

―――それこそあんなビル、丸々と借りればよかったですのに

 

次なる問題は書類だ

借りる場所の選定から始まり、前例のない文化の催しをするための当局への問い合わせ、すり減る財布の厚み

時間だけが過ぎる錯覚と役所仕事によるたらい回しにあきれ果てた指定時間の出頭(よりによって昼寝の時間に!)

当然待つだけの間に構想を練ることも忘れない

開催に当たって自分の作品がありませんは何とも不恰好に過ぎる、ただそれだけの小さな意地で私は足掻き続けた

当然私はこれでもかと苦しんだ

―――いま思い返しても正気じゃない、若い頃の私怖い

―――実はワタクシもちょっと思ってました

 

才が無かったのだ

物語を始める才、物語を閉める才、これが欠如した小説家など何の価値があろうか

書きたい所だけはスラスラと進み、それを繋ぐ間を書くことは出来ない

文章はあちらこちらに飛び回り落ち着きのない理解のしづらい駄作ばかり

だが、道洋に伝わりし文化…同人誌というものは書きたい所だけを書きそれ以外は投げて良いのだと!!

正に天啓―――否、運命であった!!

―――実際、下手でつまらないですものね

―――もうちょっとオブラートに…

―――つまらないですわ

―――はい…

 

そして同人誌を皆で作り配布…販売という形にすると税金がとてもややこしい、いつだって税金の計算は庶民の敵だ、コボルト族が泣いている

隔してオルクセンコミックスマーケットは幾多の犠牲を払い(主にパトロンが払ってくれた)形となった

 

日程が決まり、作品を刷り、同好の士と前日に合流し事前打ち合わせをする

ここでも幾多もの問題が発生したが笑い飛ばすことができるささやかなものであったことだけをここに記す

―――詳しく書くとマズいですものね

 

本当の笑い飛ばせない問題はまさに開催の真っ最中だったのだから…

 

ディネルース女王陛下は朝市を回る

これはあまりにも有名な話でヴィルトシュヴァインに住んでいる者なら一度は手を握っていただいたことがあるものだ

誇張もあるが私自身の経験からだ、実際には子供のころに焼きドングリをお買い上げいただいた程度なのだが…

しかし私のような平凡なオークには耐え難いほどに…耐え難いほどに…!とっても!綺麗で!御可愛かった!!!!

―――殴ってよろしいかしら?

―――殴ってから言わないでもらえないだろうか…

 

ディネルース様に対し劣情を抱くと言うことは実の所若いオークにありがちな話であった

そして今は亡きグスタフ様に操を立てていることもまた有名であった

だが、ある日かつて見たグスタフそっくりの子オークに出会った

最初は見間違いかと思ったが街中で二度三度と見つけるたびにかつてアルバムで観た若りしころのグスタフにそれはそれは似ていた

偶然にも会話する機会を得ることに成功し事情を聴きだすとグスタフではないことがわかった

だが、顔立ち…喋り方の癖…ふとした拍子に鼻の左側を触る癖

他人に思えぬ共通点に段々とディネルースは自らの劣情を抑えることが出来ず…

 

うん、私が描いたのってそういう奴なんだよね

グスタフ公そっくり(想像)の子オークに性の手ほどきをするディネルース様っていう今考えたらナマモノ書くんじゃないよと叱りつける代物

表紙は当時それなりに売れていた表紙絵の専門家に書いてもらい、印刷も縫製もしっかりとしてもらった逸品

会場はヴィルトシュヴァインの中心街からかなり外れた小さなビルの1フロア

その一番奥のひっそりとしたところに私のブースはあった

良い所には気合の入った作家たちの作品を主催者の私は一番外れで穴埋めを

そして開催してしまえばそこまで知られた話でもないし耳の良い数寄者たちもそこまでいるわけではない

外れた場所は当然静かな空気が流れていた

 

だが、開催することに意義があると私は感じていたし

自身の信念を形にできるというのは何物にも換え難い宝物であった

そう自分の世界に浸り、最後の追い込みに深夜に何度も確認事項をチェックしなおし寝不足となった私は

珍しい書物に耳聡い数寄者なディネルース様が会場にお越しになる可能性に全く気付いていなかった

 

「初めまして、あなたがこの催しの主催者かな?」

 

ほんとさ、本人モデルにしてんだから一目見たら気づくべきだったんだよ

 

「道洋の催しを参考にしたらしいけど素晴らしい!誰でも書物を出せるなんて思いもよらなかった!」

 

そうでしょうそうでしょうって浮かれちゃってさ

あ、これ私が描いた本ですって渡しちゃったんだよ

 

「あー…あー…あー…」

 

あろうことかね、こっから私は20分ぐらい語るんだよ

 

この本を作るにあたっての苦労を

 

子供に手を出してるディネルース様本のモデルたるディネルース様に

 

―――血の気が引く音って本当にあるんだね

―――遠巻きに皆も固まって血の気が引いてましたわよ

 

顛末は実にお粗末な事となった

ディネルース様にディネルース様の助平本を渡すと言うエクストリーム不敬をオークの津波の如くやらかした私は寝不足も合わさり気絶した

目が覚めたときには病室のベッドの上

傍らにはディネルース様のメモがあって

 

「催し80点 発刊物30点 気遣い0点 後日王宮に来るように」

 

この日二回目の気絶で幕は閉じた

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