しっぽを隠して!稲形さん!   作:人外が好き

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おみくじですよ!稲形さん!

 

 

 憂鬱な月曜日。欠伸をしながら、溜まった板書を写していれば。目の前にスッと、折られたルーズリーフが現れた。

 

『おはようございます。なんだか眠そうですね?』

 

『おはよう。休日は夜更かししちゃうタイプだから、生活リズム崩れて眠くなっちゃうんだよね。稲形さんは、ちゃんと規則正しい生活してそうなイメージがあるな』

 

『そうしたいところなのですが、家業の問題で忙しくて、なかなか厳しくてですね』

 

『稲形さんのおうちって何やってるんだっけ?』

 

『神社ですよ〜。何かと大変なのです(汗)』

 

(汗)きた。稲形さんのその、一昔前の丁寧な人みたいな意思表示好きなんだよな。

 

『神社ってことは、稲荷神社?』

 

『いえ、よく勘違いされるのですが、実は違うのです。宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)ではない、別の神様を祀っております』

 

『なるほどね』

 

 と、そこまで書いたところで、ぼくの脳裏に閃きが走る。家業が神職ということは、つまり。

 

『神社のお手伝いって、具体的にどんなことやるの?』

 

『境内の掃除とか、社務所番とか、参拝客様への対応ですとか、言ってしまえば雑用ですね。変わったところだと、御札を作ったり、御籤作ったりしますよ! 残念ながら、お給金は出ませんけどorz』

 

 orzって。今日日見ないAAである。

 本格的に、稲形さんが古いインターネットにどっぷり浸かってるだけの可能性が出てきたが、そんなことはないと信じたい。たまたま切れ切れに見えるだけの絵文字だよね? 

 

『おみくじかー。実際問題、当たりの割合ってどんなもんなの?』

 

『大吉一割、吉一割、中吉二割、小吉二割、末吉二割、凶一割、大凶一割といったところでしょうか』

 

『やっぱり妥当な感じになってるんだね』

 

『割合はあまり関係ないですよ。神様は見ているといいますか、来るべきところに籤は来るものです』

 

『なるほどね』

 

 そう言われてみると、なんだか自分の運勢を試したくなってくる。それに、あわよくばという思いもある。

 

『もしよかったらさ、今度時間ある時にでも稲形さんちに行かせてもらってもいい?』

 

 一旦ストレートに聞いてみる。すると案の定というべきか、ぼくの返答を受けて、稲形さんは悩ましげに首を傾げて、ペンを執った。

 

『実は私、実家が神社であることも内緒にしてるんですよ。自分で言うのも何ですけど、結構目立つので、あまり人に広まると困るというか……』

 

『なるほど。稲形さん目当ての観光客が殺到しちゃうもんね』

 

『流石に自意識過剰だとは思いますが……』

 

『いやいや、間違いないよ。稲形さんは素敵だから』

 

 普通にぼくだって見たいもんな。現役美少女 JKのケモ耳巫女服姿。

 ケモ耳まで見れるのは、どうやら少人数だけらしいけど。

 

 そんなことを考えながら、いつの間にか飛び出していた頭頂部の狐耳をぼーっと眺めていれば、それが急にピクッと跳ねた。何だかいいことを思いついたとばかりに、尻尾も揺れた。

 

『籤引き、してみたいですか?』

 

『してみたい!!』

 

 大文字(おおもじ)で主張してみた。すると稲形さんは、素早くペンを走らせたあと、後ろ手に複数枚の折り畳まれた紙を持って見せた。

 

『お好きなのをどうぞ!』

 

 机の上のルーズリーフには、そう書いてあった。揺れる尻尾に気を取られながら、少しだけはみ出した一枚を抜き取って、そして開く。

 

『末吉 日々難しいことも起こりますが、自分を信じて邁進すれば、必ず未来は開けるでしょう』

 

 末吉ってたしか、あんまりよくないんだっけ。でも文面はポジティブだし、まあボチボチと言ったところか? 

 よく見れば、おみくじにはまだ続きがあった。

 

『願望 弛まぬ努力が実る

 恋愛 佳き人は既に近くに

 学問 時には人と学べ

 商売 好機でなし しばし待て

 病気 休めば快方に向かう』

 

 おお……かなり本格的である。や、本職の人だから当然ではあるんだけれども。

 全体的にポジティブなメッセージが多くて助かる。もしかしたら稲形さんが気遣ってくれたのかもしれないが。

 どうせならいい運勢を引きたかったところだが、自分の運命に文句は言うまい。

 

『わざわざ作ってくれてありがとう! おみくじ参考にがんばります!』

 

『いえいえ。先程御籤は来るべきところに来る、と書きましたが、あくまでその結果を活かすのは受け取り手次第です。獅記さんのご多幸をお祈り申し上げますd(˙꒳˙* )』

 

 お堅い文章から現れる、愛らしい顔文字がとてつもなくカワイイ。このギャップが稲形さんが人気な所以なのだろうなと頷いていれば、細い指と、新たな手紙が眼下に映った。

 

『でも、迷った時は御籤に頼るのも一手ですからね?』

 

 見上げれば、こちらに木漏れ日みたいな微笑みをうかべる稲形さん。

 教室の喧騒が、どこか遠くの出来事みたいだった。

 

 

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