ゴンが殴る!   作:リーマン

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1話

くじら島は森の奥深く。そこにある湖の中央に生える大きく枝を伸ばした古木。その一枝にその少年は座っていた。

いや、ひと目でそこに少年がいると見抜ける者はおそらくいないだろう。なぜなら、少年の格好はまず全身が緑であった。それだけで既にカモフラージュとして大きな効果をあげているのに、さらに頭の上に木の葉の山をのっけていた。

緑でない部分は、糸を湖に垂らしている大きな銀の釣り竿が一振り。それと服から露出している肌色と黒いツンツンの髪、浮きを注意深く見る目だけであった。

 

不意に浮きが小さくぶれ、すぐに水面に引き込まれた。竿が大きくしなる。その衝撃が少年の体を伝わり、体を覆っていた木の葉が落ちた。

少年は待ってましたとばかりに目を見開いた。

 

「きた!!」

 

水面に巨大な影が浮かび上がる。

 

「きたきた」

 

少年の顔には歓喜の色が浮かんだ。

そして、全身を使って釣り竿を振り上げた。

すると、その質量を誇示するように水面が盛り上がり、次に大きな大きなまさに怪魚が飛び出てきた。

 

「きたァーーーーーーーー!!!」

 

 

ところ変わって少年の家の前にある広場。

そこでは多くの島民が広場を賑わせていた。

 

そこに、地響きにも似た音が聞こえてきた。

 

「なんだなんだ!?」

 

音のする方をみんなが見る。

そこには先ほどの少年が怪魚を担いでこちら目掛けて駆けてきていた。

そして、一人の女性の前に怪魚をドシンと置いた。

女性は驚いた顔をしている。そのとなりの老婆は感嘆の声を漏らしていた。

集まってきた周りの人たちは口々に驚きを口にしている。

 

「さぁ約束通り主を釣り上げたよ!! 今度はミトさんが約束を守る番だ!!」

 

そう言って少年の差し出した紙には、「帝都行き連絡船応募カード」と書かれていた。これに乗るには、未成年ならば保護者の許可が必要だった。

 

「……」

 

女性、ミトはどう対応して良いか考えあぐねているようだ。

 

「許してやんなよ。帝都に行くくらいなぁ?」

「そうそう、ゴンなら帝都でも生きてけるって」

 

周りの男二人が冷やかす。

 

「無責任なこと言わないで!!」

その言葉にミトが噛みつく。

男二人はばつの悪い顔をしたあと、人ごみにまぎれてしまった。

 

「そうだね。言葉には責任をもたなきゃね。約束を守れないような人間にはなるなって、教えてくれたのはミトさんだよ!!」

「……」

「ね!!」

 

少年、ゴンの言葉に数瞬詰まるもため息をつき、懐からペンを取り出し、カードにサインをした。

 

「好きにしなさい」

 

そして、ミトは背を向け、家に引っ込んでしまった。

「ありがとう、ミトさん」

 

そういうとゴン持っていた帽子を目深にかぶり、俯き気味にどこかに走っていった。

 

 

家に入ったミトは荒々しくダイニングの椅子を引くとそこに座り、テーブルに肘をつき顔を覆った。

彼女の肩は微かに震えている。

そこに先ほど感嘆の声を漏らした老婆が入ってきた。

そして、壁にかかった一枚の写真を見ながらこう言った。

 

「血は争えんねぇ……」

 

写真には獲物を窺うような、しかしどこか優しい瞳をした男が映っていた。

老婆の言葉にミトはテーブルを強く叩いた。

 

「なんでなの!? ゴンには親が帝都に行ったなんて言ってないし!! ゴンも何も聞かなかったのになんで…!!」

「誰かに聞いたのかもしれんし何も知らずに決めたのかもしれん。いずれにせよいつかはこうなるような気がしとった。もうあの子を止める力はわしらにはないよ……」

 

老婆の目は自然と一点、男の目に惹きつけられていた。

 

「あの子の目が持つ光は父親とそっくりだ」

 

 

ゴンは森に再び来ていた。今は、怪魚を釣った湖とは別の池に来ていた。

 

指を2本くわえ、軽く息を押し出すように吹く。高い口笛の音が森に染み渡った。

すると、木々をかき分ける音が聞こえ、一匹の獣が飛び出してきた。この猫のような熊のようなものの名前はコンだ。そして、コンは飛び出てきた勢いそのままにゴンに嬉しそうに飛びついた。ゴンもそれに応える。そのまま一人と一匹は池の中にダイブした。

そのあとゴンは、火を焚き、濡れてしまった服を乾かしつつ魚をつったり、釣った魚を串焼きにしていた。さっきから、コンが焼けた魚は端から食べてばかりいるのでゴンは釣り業に専念している。

ふとゴンは、隣にいる魚を美味しそうに食べる友人を見た。次に、あの日から肌身離さず、裸の今も手に持っているものを見た。

それは、軍人の肩に付いている肩彰だった。付いてる星は三つ。帝都では将軍の証。

しかし、ゴンはそんなことは知らない。知っているのは、これが帝都の軍人が付けるものであることだけ。

 

なぜこれを彼のような田舎者が持っているのか。

 

それは三年前に遡る。

 

 

その日、ゴンは木の実をとりに森に入った。

いつもはカゴに山ほど積めるのだが今日は、採れる量が少なく、せいぜいカゴの底が見えなくなる程度だった。 そんなわけでゴンは普段は行かない奥にわけ行っていった。

それが間違いだった。

「ゴォォォォ!!グルルル!!」

 

毛むくじゃらのコンによく似た、しかしコンよりも大きな体、何倍も凶悪な眼光を持つ獣が地面に尻餅をついてヘタリこんでいるゴンに腹に響く唸り声とともに近づいてくる。

 

「あ……あ…」

 

ゴンは獣に傷つけられた肩を庇いながら怯えた声しか出せない。

獣がゴンに指の爪を尖らせながら、迫る。そして、一本一本が人の頭ほどもある爪をゴンに向かって振りおろした。

果たして、その爪が届くことはなかった。

突然、現れた長髪の男が手に持つ刀で受け止めたのだ。

ゴンは頭がついていっていないようだ。

 

「子連れのキツネグマか………… 気の毒だが人間を傷つけちまった危険種は……」

 

男が獣に一足で飛び込み、抜刀の要領で刀をすれ違いざま抜き、獣のその身体と頭に別れを告げさせた。

 

「処分する決まりだ」

 

刀を納めた男はゴンの目線に膝をおった。

 

「立てるか?」

「あ、うん」

 

ゴンは痛む肩の傷をおさえつつ立ち上がり、よろめきながら男に近づいた。

ゴッ!!

 

ゴンは頭が割れそうな衝撃に見舞われながら地面を数回転がった。男に殴られたのだった。

 

「馬鹿野郎!! こんな時期にヘビブナの群生地に入るヤツがあるか!!! 見ろ!!」

 

そう言って、木を指さした。

木の幹には爪で引っ掻いたような痕があった。

 

「子連れキツネグマの信号だ!! そこら中にある!! これを見たらどんなノン気な動物も二秒後にはとなり山まで逃げるほどヤバイもんだ!! お前の親父はそんなことも教えてくれなかったのか!!」

 

男の最後の言葉にゴンの心はグラグラと揺さぶられた。

 

「くそ!! マダラリスの警戒音なんぞ無視すりゃ良かったぜ!! 久々に胸くそ悪い殺しをやっちまった」

 

男は立ち上がると帽子をかぶり直し、自分を攻めるように行った。やってしまったことを相当、後悔しているようだ。

 

「親父はいない… オフクロも……」

 

そんな様子の男にゴンの寂しげな声が後ろからかかる。

男ははっとしたように振り向いた。その顔は帽子の影によって窺い知れない。

ゴンは続ける。

 

「オレが生まれてすぐに事故にあって死んだって…… オレ…おばさんの世話になってるんだ」

 

男は申し訳なさそうに帽子を目深に被り直し、

 

「………………そいつは悪かった」

 

そして

 

「塗っとけ。化膿止めだ」

 

小瓶をゴンに放って寄越し、自分自身は親の亡骸にすがりついて悲しげな鳴き声をしているキツネグマの子の方に行った。

すると、気配をすばやく感じ取った子供は毛を逆立て、尖い声と目で威嚇してきた。

 

「その子供は……どうするの?」

「処分する」

 

男が刀を抜きながら冷たく言った。

ゴンは、そんな!と言った表情をした。

 

「まだ授乳期の赤ん坊だ。じきに飢えて死ぬだろう。仮に生き延びても親を殺された恨みで人間を襲う可能性がある」

 

ゴンからは男の顔は見えないがさっきの様子から見るにもしかしたら声音とは裏腹に苦い顔をしているかもしれない。しかし、それはただの情だ。さっきの様子を考えるならば彼は「しかたない」をとる方の人間だとわかる。だからこのまま放っておけば男は本当に子供を殺してしまうだろう。

そもそもこの子が殺されるきっかけをつくったのは自分なのだ。自分が欲をはらずにおけば……

そう考えるとゴンの胸ははやるせない気持ちでいっぱいになった。

動かずにいられなかった。

ゴンは今にも殺しそうな男の横を抜け、子供の元に駆けつけその胸に抱いた。

「オレが育てる!」

「無理だ。キツネグマは人に懐かない」

 

キツネグマの子はゴンの胸で激しく暴れていた。小さいながらに尖った爪で引っ掻いたり、噛み付いたりしていた。

それでも。

ゴンは顔を上げ、男を見た。

涙目な目には強い意志の光があった。

「……!!」

 

その目を見た男は、信じられないものを見たかのような顔をした。

 

「まさか…もしかして……お前の、お前の親父の名はジンっていうんじゃないか!?」

 

ゴンは突然出た父親の名前に驚き、キツネグマを放してしまった。

そして、やや焦り気味で立ち上がった。

 

「おじさん、親父を知ってるの!?」

 

ゴンが問うと、男は一瞬有り得ないものを見る目でゴンを見た。が、すぐに顔に悟ったような薄い笑顔を浮かべた。

 

「……フッ全く驚きだな。何か手がかりがあるかと思いジンさんの生まれ故郷に来てみたのも、まんざら無駄足でもなかったわけだ。オレはカイト。帝都の下っ端軍人さ。座れよ」

 

そう言って自分も倒木の幹に腰掛けた。

 

「ジンさんはオレの師匠だ」

 

そこから小一時間ほどカイトとゴンは話した。と言っても主にカイトの身の上話で話していたのはほとんどカイトだった。ゴンはたまに質問を挟む程度だった。

 

「ジンさんに戦いのイロハを叩き込まれてな……」

 

「ジンさんに会わなきゃオレは今頃スラム街の路地裏で野垂れ死んでいただろう」

 

「そして、今はジンさんを探している最中なんだ」

 

「ん? ジンさんは死んじゃいないよ。まぁ行方不明ではあるが…… 絶対に死んじゃいない」

 

「お前のおばさんは嘘をついてでもお前に親父と同じになってもらいたくないようだな」

 

「帝都に行ってもジンさんには会えないだろうがスタートラインには立てるんじゃないか?」

 

「そうか。じゃあまたな」

 

そう言ってカイトは帽子を目深に被り直し、去っていった。帽子をいじるのは彼の癖のようだ。

ゴンはその場に一人になった。そして、自分も帰ろうとし、カゴやらを拾おうとした所に、

 

「ミ」

先ほどのキツネグマの子供の声がかかった。

警戒の色は、声音にも見た目にも皆無だ。ゴンが膝をつき、目線を合わせるとキツネグマの子は駆け寄って胸に飛び込んできた。

ゴンはその小さな温もりを感じながら、何かに感謝した。救われた気持ちだった。

その時からゴンとコンは無二の友だちになったのだ。

その後、あらためてカゴやら何やらを拾っている時に見つけたのが、今ゴンの手にあるものなのだ。

風雨にさらされたような形跡もないことから、カイトが落としていった物だろう。

ゴンはこれを一つの目標として、今まで頑張ってきた。それを遂げるためについさっきその第一歩を踏み出してきた。

次はその第二歩目。

 

「さて……と」

 

ゴンは起き上がり、コンの方を身体ごと向いた。

コンはもう魚を食べ尽くしていた。

空気の変化を感じたのか神妙な顔つきをしている。

 

「コン……これからはもう会えない。オレは帝都の軍人になるから。軍人は森の動物にこわがられ忌み嫌われるような仕事もしなくちゃいけない。だから、軍人と仲のいい動物は決して森を治めることは出来ない。コンはもうこの森の長だから……迷惑かけたくないんだ。わかるだろ………?」

 

コンは何も反応を返さない。ただ、ゴンが何を話しているかはしっかり理解しているだろう。

不意にコンはゴンから離れ、森の中に帰っていった。

 

「コン、ありがとう」

 

ゴンはうつむき気味にそうつぶやき、自分も帰ろうとする。

が。

 

「………!」

 

コンが森の動物たちを連れて、森からこちらを見ていた。傍らにはコンの奥さんもいる。

見送りに来てくれたのだ。

 

「コン、ありがとう!」

 

さっきとは違い、顔をあげ、活力に満ちた顔だ。

 

「バイバイ!!元気でな!!」

 

そう言いゴンは森の出口に向かって走った。

コンの思いをムダにしないためにも、と新たに加わった決意を胸にひめながら、振り返らず全速力で走っていった。

 

 

ゴンが家に帰ると、リビングでミトが酒を煽っていた。周りには数本の空瓶がある。どうやら、かなり長い間飲んでいたようだ。

ゴンはあまり刺激しないようにただいまも言わずにミトの後ろを通り過ぎた。

しかし、ちょうど通ったところで声がかかった。

 

「いつ出発するの?」

「…………来週の頭にでも」

「そう」

 

ミトは酒を静かに飲んだ。

 

「知ってたのね………ジンの仕事」

 

ミトが切り込んできた。

 

「うん」

「あいつ…まだ赤ん坊だったあんたを捨てたのよ。それでも……」

 

ミトが全力でゴンを引き留めようとしている。ゴンにはそれがわかった。

ミトのほうを見ると、うつむき気味にグラスを見つめていた。そのグラスは微かに音を立てて小刻みに震えていた。

彼女自身怖いのだろう。ゴンがどんな返事をするか、が。

ゴンは心の中でミトに謝った。

 

「子供を捨ててでも続けたいと思う仕事なんだね」

 

ミトがグラスを倒しながらゴンの方をガバッと向いた。

 

「軍人って、それだけすごい仕事なんだね」

「ゴン……」

 

ミトの顔には、恐れが張り付いていた。それはゴンがミトの予想外の返事をしたからか、それともその返事に何か、何かを感じたのか。

 

「あんた、やっぱりアイツの息子だわ!!」

 

荒々しく椅子から立ち上がったミトは奥の部屋に行ってしまった。乱暴に閉められたドアの音がゴンの方まで聞こえてきた。

そのあと、ゴンはミトが飲み散らかしたテーブルの掃除をした。

 

 

出発当日

 

ゴンは港にいた。

港には普段はない大型客船が鎮座していた。

ゴンが船の方に行くと、多くの人が見送りの言葉、餞別を渡してくれた。

その中の一人がゴンの肩を叩き、向こうを指さした。見ると、そこにはミトが立っていた。ミトとはここ数日まともに話せていない。

ゴンはミトの下に行った。

 

「ミトさん、今までありがとう」

「ゴン、ごめんなさい……私ゴンに嘘着いちゃった。ジンが…ゴンを捨てたんじゃないの。私が裁判であなたの養育権をジンから奪い取ったの…」

「うん、ウソだって気づいてた。ミトさんオレに嘘つくとき絶対に俺の顔見ないもんね」

 

そう言ってゴンはミトさんに抱きついた。彼女との蟠りを解消できてよかった。

そして、いよいよ出航の時。

 

「元気でねーー!!絶対に立派な軍人になって戻って来るからーー!!」

 

ゴンは船上から陸のミトに向かって全力で手を振った。ミトもまたそれに応えてくれた。

そして、くじら島が米粒程度になった頃、暗い顔をした男がゴンに話しかけてきた。

 

「坊主は帝都に行くのか?」

「うん、軍人になるんだ!」

 

すると、男は暗い顔にますます影を落とした。その目はゴンを可哀想に思っているようだった。

 

「帝都は坊主の思ってるもんじゃないぞ」

「どういうこと?」

「そりゃ、自分の目で確かめな」

そう言って男は逃げるように船内に消えてしまった。

男の不吉ととるには十分な言葉。それがゴンの耳にいつまでも残った。




ハンタの1話をモロパクリ。でもちょいちょい変わってるから大丈夫なはず!
作者は豆腐以下の防御力なのでキツイのはちょっと……
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