ゴンが殴る! 作:リーマン
今、ゴンは帝都の郊外も郊外にあるとある森の茂みのなかに身を潜めていた。
目的は主に2日後に迫る武芸大会に向けての特訓だ。
特訓内容としては、茂みのなかに隠れ潜み運悪く通った動物を茂みからとびだし捕まえる。武芸大会の特訓としては違う気がするが、とにかくゴンはこれを特訓として行っていた。
そして、今再び目の前をうさぎにも似た動物が横切ろうとしていた。
ゴンは、一気に茂みから飛びだしうさぎに迫るが、うさぎはゴンが茂みから飛びだす瞬間にはまさしく脱兎で逃げていた。
ゴンは逃げたうさぎの後ろ姿を悔しそうに見ていた。
実はゴン、特訓を始めてからまだ1匹も捕まえられていないのだ。
目の前を通った獲物は数しれずだが、捕まえた獲物は両手どころか片手もいらない数。素直に悔しい。
ゴンは悔しさを噛み締めつつ再び茂みのなかに潜もうとする。が、その時後ろから声がかかった。
「坊主、お前もったいねぇぜ」
ゴンが振り向くとそこには右手に弓を持ち頭にターバンのようなものを乗っけたいい体格をした髭ヅラの男が立っていた。男の左手には先ほどゴンが逃したうさぎが耳を持たれぶら下がっていた。
男はそれをめの高さまで持ってきた。
「お前が逃がしてやった獲物だ。ほらよ」
彼は皮肉を言ったあと、うさぎをゴンの胸元ににほおった。
ゴンはくたっとしたそれを両腕で受け取る。しかし、ゴンはそれには目を向けなかった。それよりも気になることがあった。
「もったいないってどういうこと?」
「あ?あぁ、まぁ少し長くなるから飯でも食いながら話そうぜ。ちょうど昼時だしよ」
そう言って男は地べたに背負っていた籠をおろし、自らもあぐらをかいて座った。そして、地面に汚い布を敷き、そのうえに籠から出したチーズやら肉やらを二人分並べていく。
並べ終えた男は手でゴンにも座れよと促してきた。
ゴンは警戒しながらも、男の向かいにあぐらで座った。
「うし、いただきます、と」
「…いただきます」
ゴンも男に倣い、手を合わせて食事を始める。
「で、俺がお前の勿体ねぇなって思った点はよ。素材はいいのに使い方がなってねぇってトコだ」
「素材?」
「そうだ、素材だ。お前自身、俺が見る限り才能を秘めてる。そこで、だ」
男はずずいっと顔を寄せてきた。その顔は心なしか嬉しそうに見えた。
「俺が狩りを教えこんでやろうか?」
「え?う、う〜ん」
ゴンは微妙な反応を示した。当然だろう。突然森の中で出会った見ず知らずの男から弟子になれみたいな事を言われたのだ。それによくよく考えてみるとこの男の名前すらゴンは知らない。そんな人からの誘いに乗れるわけがなかった。
男はそんなゴンの心の動きを感じたのか、自己紹介を始めた。
「と、わりぃな。俺はポロックルってもんだ。ここらへんの森を中心に狩りしてる」
いちおうゴンも自己紹介する。
「よろしく、ポロックルさん。オレはゴン」
「そうか。で、返事は?」
彼にとってゴンの名前などどうでもいいようだ。ポロックルはさらに顔をよせ、グイグイ返事を促してくる。暑苦しい。
ゴンはそんなポロックルに少し引きながらも答える。
「えーと、ポロックルさんはどうしてオレを弟子にしたいの?」
お茶を濁すゴン。
ゴンの問いにポロックルは顔を上に向け、思案気な顔をする。そのままの姿勢で彼は答える。
「何でだろうな…。お前のことを初めに見たのは二時間ほど前なのにな……。……そのひたむきさが心にきたからじゃねーか?」
ゴンが意味が分からずに何も答えずにいるとポロックルは顔を下ろし、ゴンを見た。いや、正確にはゴンの目を見たのかもしれない。
「五十二回。お前がチャレンジした回数だ。その一回もお前は手を抜かなかった。普通、十回もやればガキは飽きちまう。…それがお前にはなかった。それに俺は心動かされたんだろーよ」
五十二回。この数字は正確ではない。これはあくまでもポロックルが見た範囲での話だ。
五百六回。
これが正確な回数だ。もちろんポロックルも自分が見ていない範囲があることには気づいている。その事実がさらにポロックルを熱くさせた。
「で?どーするよ?」
「ポロックルさんには悪いんだけどオレ帝都で軍人になりたいんだ。だからやめておくよ」
ゴンは本当に申し訳なさそうに答えた。
ポロックルも予想はしていたらしく特にこたえた風もない。
むしろ、
「ほぉー!軍人か!じゃあますます狩りの技術は必要だぜ?」
軍人をダシに更なる勧誘をしてきた。なかなかに強かである。
しかし、ゴンにはこの誘い方はかなり有効だ。
「え?なんで?」
ゴンが食いついてきたのを見て、ポロックルは内心でニヤリと笑う。もちろん表の顔には人の良さそうな笑顔を張り付けている。
「そりゃあ、お前。軍人になったらいろいろな任務があってその中にハントってのが出てきたらどーすんだ?お前死ぬよ?狩りの技術なきゃ死ぬよ?」
「え!?それは困る」
「だろ?だからここは俺に大人しく教えられとくのがベストだぜ?」
「わかった!ポロックルさん、オレに狩りを教えて」
「うーし!ついてこぉい!!」
そう言ってポロックルはゴンに背を向け森の奥に向かって歩き出す。そんな彼の表の顔も心の顔もやってやったぜ!と言う悪い笑顔でいっぱいだった。
◆
10分後、二人はゴンがいたところとは別の場所の茂みに身を隠していた。
「いいか、ゴン、殺るときに出る殺気はどうしようもねぇ。隠そうと隠せるもんじゃねーんだ。だから、見てろこうするんだ」
そう言ってポロックルは手に持った矢の先端に毒を塗りつけた。神経性の麻痺毒だと言っていた。
僅かに黄色くてかるそれを満遍なく矢に塗りこんでいく。
そして、それを弓にたがえ、構える。
「あとはひたすら待つ」
待つこと、五分。距離およそ五十mのところを一頭の狐が頭をひょっこりと出てきた。ゴンはポロックルを見るが、まだ射たない。
狐が全身を出した。その瞬間、ゴンはポロックルの殺気が膨らむのを感じ、射つのを確信した。
果たして、ポロックルは矢を放ち、その矢は真っ直ぐに狐の元へと吸い込まれるように向かっていく。
しかし、狐もポロックルの殺気か矢の風切り音を聞いたのか敏感に反応し、ギリギリでかわす。しかし、残念ながら矢がかすり、傷ができてしまった。ジ•エンドだ。
狐は途端に身体を痙攣させその場に倒れてしまった。
ポロックルはその様子を確認すると立ち上がり、仕留めた獲物に向かう。
ゴンもそのあとを追う。
「わかったか、ゴン。狩りとは今みたく後の先を取ること」
そう言いながらポロックルはしゃがみ少しの間手を合わせると、手早く狐の首を絞め殺し、背負い籠に放り込む。
「じゃ、次の方法も見してやるからついて来い」
次に二人が来たのは流れが穏やかで魚が目に見えてたくさんいる川だ。その岸にある岩に身を潜めていた。
「今から見せんのは割り込みっつー方法だ」
ポロックルは今度は矢に毒を塗りこまずに矢尻に紐を結び付けた矢をたがえ、構えた。標準は川面に向いている。
「で、同じく待つ」
今度は時間がかかり、一時間ほど待った時に動きがあった。
一羽の鳥が川の水面に向かって急降下してきたのだ。真下には魚がいる。それを狙っているらしい。
そして、鳥が魚を捕まえる寸前、ポロックルは矢を射った。紐をつけた矢が紐を揺らしながら直進する。狙いたがわず、命中する。ゴンは一度も鳥から目を離さなかったが、鳥は一度も避ける素振りを見せなかった。
ポロックルは紐をたぐり寄せながら言う。
「今のが割り込みだ。向こうさんの殺気にこっちの殺気を紛れ込ませる。さっきのよりムズイが確実だ。狩りの方法はまだまだあるぜ?奥が深いだろ?」
ポロックルはニヤリと自慢げに笑った。
ゴンは素直に感心していた。ゴンが今まで持っていた考えと全く違った。ゴンは今まで狩りとは、数うちゃ当たるみたいな考えのもとやっているのだと思っていた。それがどうだろう。ポロックルのハントは徹底的に無駄を省き、そして細部まで緻密に計算された狩猟だった。それはゴンに一つの感動を齎した。
それに二つの方法はどちらもやりようによっては自分よりも格上と闘った際に有効だ。
これは武芸大会に使えるかもしれない、そうゴンは思った。
「狩りってすごいね!もっと教えてよポロックルさん!」
ゴンの素直な賞賛にポロックルは自慢げな笑いをますます強くする。
「ふん、たりめーだ。狩りの真髄を教えてやるぜ!ついて来い!!」
「うん!」
そうして、二人は意気揚々と森に消えていった。
◆
ゴンはその日やや興奮気味で宿のベッドに入った。
今日という日は忘れられない日になった。
ポロックルに森で教えてもらった様々な狩りの方法。
追い込み、炊き出し、燻り、宿借り、日照り。
その全てが理にかなっていた。それぞれの方法に適した獲物がそれぞれ居る。そして、それを最も適した最も効率のいい作戦を選び取り『狩る』。もし、最初が失敗したとしても必ず予備となる作戦が存在し狩り零しというものがほとんどなかった。
ポロックルはプロフェッショナルだった。
そのためゴンは、今日一日で一人の評価が劇的に変わってしまった。もちろん、悪いから良いである。
明日もポロックルと会う約束になっている。明日は、ゴンも釣り竿を持ち狩りをする。今から待ちきれなかった。
ゴンのウズウズは、自然と眠りにつくその直前まで続いた。
◆
猟師の朝は早い。なので、ゴンはまだ朝霧が強く立ち込める時間から森に入り、ポロックルとの約束の場所に行った。そこには既にポロックルが昨日と変わらない格好で、倒木に腰掛けていた。
「おはよう、ポロックルさん」
「おう!ゴン。グッモーニンだ!」
ポロックルはニンマリと笑って立ち上がり、ゴンを出迎えた。そして、ゴンの手に持つものに目が行く。
「ほう、それがゴンの武器か」
「うん」
ゴンがくじら島から持ってきた釣り竿だった。
この釣り竿、もともとはくじら島に出稼ぎに来た一人の漁師のものだった。彼は自慢の釣り竿でくじらをよく一本釣りしていた。しかし、その漁師が不運の事故にあい片足を失ってしまい、漁師として活躍が出来なくなってしまった。
無用の長物となってしまった自慢の釣り竿。
それをもらったのがその漁師と仲が良かったゴンだ。
それ以来、この釣り竿はゴンの相棒となり、いつしか自慢になった。
「へぇ~いいもんじゃねーか。魂あるぜ、こいつには」
ポロックルは釣り竿をまじまじと見ながらそういった。
「ありがとう!ポロックルさん」
釣り竿を褒められたゴンは自分の事のように思って、元気にお礼を言う。
ポロックルはそれに微笑ましく見た。自分の若い頃と重ねているのかもしれない。父に初めて自分の弓矢をもらった時、それを壊してしまった時、父に弓矢の作り方を教わった時。そして、父の死。
そんなとうの昔に掠れてしまったと思っていた物がポロックルの脳裏に思い返された。
ゴンに息子のように接してしていたからか。わからない。
ポロックルはそれらを頭を軽く振り、すぐに振り払う。そして、自分自身にも気合いを入れるつもりで声を張る。
「うし!ゴン、今日は練習デイ、明日は実践デイだ。今日は気合入れてけよ!!」
「押忍!!」
ゴンの勇ましい声を皮切りに練習が始まった。
「せぇい!!」
「ちがぁう!!もっと腕の振りをおおきく!」
「とりゃあ!!」
「バッキャロー!殺気は一瞬で消せー!!」
「おらァ!!」
「ぜっんぜんちがーーう!!」
森に気合いの声とどこか嬉しそうな叱咤する怒声が響きわたっている。
「そりゃあ!!」
「なってねぇー!!ダメだァ!!」
厳しい修行まだまだ続く。
◆
「何で練習で捕まえた獲物をリリースするかわかるか?」
練習の中、ポロックルがふとゴンに問いを投げかけてきた。ポロックルの言葉通りゴンは練習で捕まえた獲物を全てリリースしていた。ゴンはかわいそうだからと思っていたが、ポロックルの雰囲気がそんな答えではないと言っている。
ゴンはすぶりしていた腕を止め、それを組み難しい顔をして考え始めた。しばし熟考したあと顔をあげた。
「必要ないから、かな」
「ま、それもあるな」
だが、まだ足りない、とポロックルは続ける。
ゴンははてなを顔に浮かべる。
「リリースする本当の理由は感謝の心を忘れねーためだ」
ゴンの顔にさらにはてなが浮かぶ。
ポロックルはそんなゴンを微笑ましいものを見るような目で見た。
そして、続ける。
「狩りってもんをやってるとこの世は弱肉強食じゃないかって勘違いしちまう。それにも一理あるが俺はそれは違うと思ってる。俺は感謝の心を忘れねー限り、俺と彼らの関係は持ちつもたれつだと思ってる。俺は狩ってそれを食ってるが、いつか俺も何かに狩られ、食われ、還元される。そんな風に思ってる」
ポロックルが語り終え、ゴンを見るとゴンは腕を組み難しい顔で唸っていた。それは一向に終わる気配がない。
ポロックルは一つ、軽い笑みをした。
「ゴンにはまだわかんねぇか。だがよ、」
ここでポロックルは急に引き締めた顔をした。
ゴンは腕組みをとき、聞く姿勢をとっている。
「この世は弱肉強食じゃねー、それだけは覚えててくれ」
◆
ゴンは宿のベッドに横たわりながら、今日のポロックルの言葉を思い出し、考えていた。
弱肉強食じゃなく、持ちつもたれつ。
言葉の明確な意味はわかるのだが、なぜポロックルがそう言うのか。それがゴンには分からなかった。
強いものが弱いものを狩る。それは弱肉強食ではないのか。
だが、ポロックルは違うと言った。持ちつもたれつだと言った。
それと、感謝の心とも言った。それは命を頂いているということに対する感謝だろう。今思い返せば、ポロックルは狩った獲物全てに手を合わせていた。あれは彼なりの感謝の示し方なのだろう。
ゴンはそこまで考えて、唐突に理解する。弱肉強食と持ちつもたれつの違い、それは、
「…命の重さを感じるか、そうでないか……」
弱肉強食では強いものは自分よりも弱いものなら無差別に狩っていいことになってしまう。しかし、持ちつもたれつは、互いに助け合って生きている、そんなイメージだ。つまりは自分も生かされている、その事実が常にあるのだ。
正解不正解はともかく、ゴンはそう思った。
ゴンは、自分の考えを明日、ポロックルに話し、判断してもらうことにして、時間はまだ早いが今日はもう寝ることにした。
明日は実践デイ。今日の疲れを完全にとっていった方がいいだろう。
ゴンくんはハントスキルレベル1を覚えた!倫理感を学んだ!レベルが1上がった!
てなわけでゴンくん成長回です。もう一話だけ続きます。
ゴンくんが学ばなきゃいけないことって他に何かありましたっけ?あったら教えてください!
予定がはっきりしたので追記
次回の更新は日曜日になります。