ゴンが殴る!   作:リーマン

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第5話

つぎの日、ゴンは再び朝の明けきらぬうちに床を抜け、森に向かう。

そして、昨日と同じ場所でポロックルと落ち合った。昨日と似たような挨拶をしたあと、森の奥にあるというポロックルの狩り場向かう。その際にゴンは、昨日の夜に考えて出した自分なりの答えをポロックルに言った。

果たして、ポロックルの反応は、

 

「それが出りゃあ上出来だ。命の重みっての忘れんな」

「うん!」

「頑張れや」

 

ポロックルはそう言いながらも、ゴンはまだまだ何も分かっていないと感じていた。

命の重み。

それを知るには問答では足りなく、やはり体験しなければ分からない。すなわち、一度は何かを殺し、一度は自らが死にかけなくては。今日は、危険な思いをして何かを殺す、その体験をして欲しかった。

そんなわけで、ポロックルは森の奥、危険種の多い地域に足を進めていた。

 

 

「よぉし!ここが今日の狩場だぁ!」

「う、うん」

 

ポロックルにポロックルに連れられて着いたのは、陽の光の侵入を許さないほどに木々が生い茂った薄暗い場所だった。木に分厚く絡まった蔦、地面は隆起した木の根で創られており、土を踏むことはなかった。さらにあたり一面を覆う濃緑の苔とが視界の殆どを緑で占めていた。それらのせいだろう、空気は湿り気を帯びていて、長い道のりで火照った肌をひんやりと冷やしていった。

なんとも薄気味の悪いところだった。

「ここはちとやべぇ。超級危険種もいる。気ィ張ってけ」

「お、押忍」

 

気味の悪い場所にポロックルの何時になく真剣な顔と言葉。ゴンは正直、若干ビビっていた。特に超級危険種と言う単語に。ゴンは子供の頃、危険種に襲われたことがあって、少しトラウマになっていた。顔にも語調にもそれが表れていた。

ポロックルはそれを見て、少し脅かし過ぎたかなとか思った。

 

「だぁいじょうぶだって!奴らも暇じゃないから!俺も4、5回くらいしか会ったことないから!」

「……………お、押忍」

 

フォローになっているのかいないのか。4、5回というのも来る前に、ここにはそんなに来ないと言っていたポロックルの言葉を聞いていたゴンには、少なくないような印象を与えた。

ポロックルはフォローになっていないのに気づき、ハハハ、とごまかすように笑ったあと、

「じゃあ!今日も今日とて張り切っていこーー!!」

 

ズンズンと進んでいった。

 

 

その後、二人は別々に行動することにした。

ポロックルが提案したのだ。初め、ゴンはこの提案に渋った。それもそうだろう。しかし、ポロックルが強引に決めてしまったのだ。そして、ついてくんなよと置いて一人で何処かに行ってしまった。一度は匂いを辿っていこうかとしたが、ポロックルの匂いは森と同化していて出来なかった。

仕方なく、ゴンは一人で狩りをすることにした。

ゴンは森の中を歩いていく。森は時折聞こえる何かの鳴き声以外無音だった。

そのうち、隠れるのに良さそうな木の虚を見つけた。一先ず、ここに身を潜めて獲物がきたら狩ることにした。ゴンは自然と同化する。

20分ぐらいたった頃、硬質な音が聞こえてきた。右からだ。これは、木の根と蹄が当たる音だろう。注意深く聞くと、それが一頭分でないことに気づく。

ゴンは木の虚の隙間からそっと外を窺った。

そこには、家族と思われる三頭のアッシュディーアがいた。灰色の毛皮を持つことからそう呼ばれる。この毛皮は、非常に手触りが良く、王侯貴族に好かれており高値で取引される物だった。さらに肉は臭みもなく、日持ちも良く、味も美味しいためこれもまた高値で取引されていた。その為、近年乱獲され絶滅が心配されている種の一つだった。

すなわち、レアだった。

もちろん、ゴンはそんなことは知らないから欲目ではなく、単純に獲物として狩ることを決めた。

自らの武器、釣竿を構えるゴン。徐々に足音が近づいてくる。

だが、この時ゴンは、完全に失念していた。ポロックルがここはヤバイと言ったことを。

アッシュディーアがゴンの前、三十mを通った時、ゴンは虚から飛び出すと同時に風を切りながら竿を振るった。その時だった。ゴンの視界が突然、猛スピードで横に流れ始めた。根に足が引っかかったのだ。次いで、脇腹に鋭い痛み。

見ると、そこには一頭の豹がゴンの脇腹に牙を突き刺していた。

ゴンはとっさに豹の頭を釣竿の底でぶっ叩く。

豹は痛みの声をと共に牙を抜き、ゴンから離れていった。

ゴンは、今自分がされたことを瞬時に理解する。

自分の殺気を相手の殺気に紛れ込ませる、割り込み。

その証拠に、豹に襲われたときゴンは殺気を感じなかった。

もしも、根に足をかけなかったら、噛み付かれていたのは首だっただろう。ゴンは肝が凍った気分だった。

豹はゴンのことを怒りに燃えるような目でらんらんと見ていた。もう、殺気を隠そうともしていない。

アッシュディーアはいつの間にか消えていた。

ゴンも正直、逃げ出したかったがそれは豹が許してくれそうにない。

ゴンは脇腹の熱い痛みに耐えながら、眦を決した。釣竿を身体の前に構え、臨戦態勢をとった。

豹は、ゆらりと前足を少し浮かせ、次の瞬間消えた。

 

「!!」

 

ゴンは驚く間を一瞬だけ与えられた。その次の瞬間にはゴンは背中に衝撃と首に激しい痛みを覚えた。

 

「クソっ!!」

 

ゴンは背中にひっつきながら首にかぶりつく豹を自分ごと地面に叩きつけようとした。しかし、地面にぶつかったのはゴンだけだった。

豹は余裕でゴンの背中から移動して、余裕で地面のゴンを見ていた。

ゴンは急いで立ち上がると、豹に向き直る。

ゴンは考える。この豹、首に噛み付かれてもそれ程ダメージが少ない所から考えるに力はそんなに強くはないようだ。

しかし、とんでもなく速かった。

全然、目で追いきれない。身体の反応が追いつかない。

豹は再びゆらりと前足を浮かせ、いなくなる。

今度は、ゴンの周りを縦横無尽に動き回っているようだ。あたりの根に残る鉤爪の後がその証拠だ。

ゴンはいつでも来いと構る。

だが、反応できず攻撃を許してしまう。次はふくらはぎだった。ゴンがそこに向けて拳を瓦割りのように落とすが、捉えたのは根。豹はまた、高速移動をしていた。

そこからは豹のネチネチとした攻撃が続いた。完全なヒット&アウェイ。ゴンのタフさを認めた豹はまずは弱らせることにしたようだ。

「ツッ!! クッ!!」

 

激しい連激にゴンは腕を顔の前でクロスさせながら、短い呻きを何度も洩らす。だが、軽いからダメージは微々たるものだった。しかし、このまま続けば負けるのは自分。ゴンは必死に打開策を考えていた。

どうすれば、自分の攻撃が当たる?

豹のスピードを潰す? ダメだ。思いつかない。

闇雲に攻撃を繰り出す?有りかも。

しかし、成功率は低い。スピードが速いのに正確に攻撃を当てて来るということは胴体視力も同じく優れていることにほかならない。

爆弾か何か、一度に周囲全体に攻撃できるものがあれば。

そこまで来て、ゴンは思いつく。爆弾がなければ自分が爆弾になればいいのだと。

ゴンは大きく、大きく息を吸い込む。そして、肺がパンパンになったところで、

 

「わ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

爆弾は爆弾でも音爆弾。

ゴンの大声で天は皹割れ、地は深く砕け、そこからマグマが噴出し、風は吹き荒ぶ、さながら終末。というのは過言だが、それほどに大声だったのだ。

結果、豹はフラフラと目を回しながら倒れた。

「ぷっっはぁぁぁ!!!!」

ゴンは息も絶えだえになりながら地面に仰向けで倒れ込んだ。

 

「ハッ!ハッ!ハッ!」

 

ゴンは今不思議な感覚に支配されていた。凄まじい疲労感と全身の痛みの中、それを上回る清々しい爽快感。生きていることへの喜び。周りにあるもの全て、木、苔、蔦、根、土、空気、空、世界。全てが存在しているのが奇跡のように思えた。世界が輝いて見えた。

だが、そんな素晴らしい感情は長く続かなかった。新たな敵、豹何かメじゃない敵の出現によって。

「…………!!」

 

それは、突然現れた。百年かけても切れなさそうな大木、その影からぬっと現れた。

それは蛇だった。それもとてつもなく巨大な蛇。まだ全身は見えないが、それでも優に五十mは超えているだろう。

蛇が白く濁った目で見てくる。

それだけでゴンは背筋を舐め回されたような悪寒を覚えた。

蛇がゆっくりゆっくりその巨大な顔を近づけてくる。ゴンは、恐怖に頭が痺れ、見ていることしかできない。それでも、薄く細い残された思考の中、これはきっと一昨日ポロックルが教えてくれた狩方『漁夫の利』だと思った。

『漁夫の利』とは、生態系的に上の動物に着いていき、そいつが獲物を狩った後にこちらがそれごと狩る。割り込みの派生系とポロックルは言っていた。

あまりにもタイミングが良すぎた。

ゴンが狩ったすぐに現れるなんて待ち伏せていたとしか考えられない。

大蛇が口をかぱぁと開く。生臭い匂いが漂ってきた。今まで食べてきたモノ達の匂いだろう。ゴンには死の門が開き、中の亡者達が一斉に手を伸ばし、ゴンの服やら手やらを掴んできている。そんな錯覚をゴンは見たような気がした。

死ぬのか……

そう思った時、ゴンは胸が締め付けられるような窒息感を感じた。それはやがて、徐々に輪郭をはっきりとさせて来る。

それは、死にたくない、という意思だった。

こんな所で死にたくない!!

ゴンは拳を強く握り締めながら、そう思った。

すると心臓が強く鼓動し、不思議と身体に力が湧いてきた。ゴンは立ち上がった。いつの間にか、全身の痛みどころか傷が消えている。

 

「…なんだ。まだ、大丈夫……」

 

大蛇がゴンを捕食せんと急激に距離を詰めてきた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

ゴンは手に持った釣竿を大蛇の口に縦に突っ込む。それはつっかえ棒となり、大蛇は口を閉じられなくなった。そして、もう片方の手で、大蛇の鼻っ面をぶん殴った。

大蛇はシャーと鳴きながらのけぞり、つっかえ棒を取ろうと頭を激しく振る。釣竿が大きく曲がるのが見えた。

ゴンは無防備な大蛇の腹目がけて走った。身体が素晴らしく良く動く。一瞬で目当ての場所についたゴンはその勢いのまま、パンチを渾身の力を込めて叩き込んだ。

すると、腹は面白いほどに凹み、大蛇は目をカッと見開いた後、何も言わずに大きな音と振動を起して倒れた。

「ハァハァハァハァ 」

 

ゴンは豹を倒した時よりも数倍大きい疲労感に立っていられず、横向きに倒れた。更には、大きな飢餓感まで襲ってきた。もう何もできそうにない。

しかし、この森はどこまでもゴンのことが嫌いなようだ。

ゴンは大木の上からズルズルと音をたてながら大蛇がもう一匹降りてくるのを見た。

そして、それはゴンの目の前に来て、止まった。ゴンはただ見ていることしかできない。しかし、その目には絶対に喰われるか、という強い意志が篭っていた。

大蛇は口を開く。

ゴンの意志とは裏腹に身体は動いてくれない。

大蛇との距離がぐんと縮まり、ゴンはキツく目を閉じた。

バクン!!

口を閉じた音がゴンの鼓膜に響く。しかし、一向に痛みはやってこない。

恐る恐る目を開けるとゴンは自分が大蛇の口の中ではなく、人の腕の中にいることを知った。それはポロックルだった。

ポロックルは大蛇の方を睨めつけると、

 

「失せろ」

 

たった一言そう言った。ただその声は今までのポロックルの優しげな声ではなく、底冷えのする声だった。顔も怒りの形相をしており、隆起していた。

大蛇は、ビクンと怯えたあと、するすると森に消えていった。

それを見届けたポロックルは今までのが幻のように優しい顔をして、ゴンを見た。

 

「大丈夫か?ゴン。悪かった。俺が悪かった。すまなかったな」

 

ポロックルはゴンをおろしながら、ゴンに謝った。危険なのは知っていたのに一人にした俺が悪かった、と。

ゴンはポロックルの言葉を聞いていなかった。ゴンの視線は一点、彼の腕、正確には腕があった場所を見ていた。

ポロックルの左腕は大蛇に噛みちぎられていた。

 

「ポロックル…、腕が…!!」

「ん?おお、気にすんな!」

 

そして、ポロックルはにっと笑った。だが当然、ゴンは笑えない。

 

「そんな!良くないよ!! ……早く…早く止血しなきゃ!!」

「大丈夫だよ。血はもう止めた」

「…………え…」

 

ゴンが見ると、確かに血は止まっていた。よくよく、見ると筋肉が引き締められている。驚くことに肉圧で止血したのだ。

な、とポロックルが笑う。

 

「なんで、ポロックルは怒らないの……?俺の……せいで………」

「腕の一本くらい命に比べりゃ安いもんだ」

「ッ………」

 

ゴンはその言葉に何も言えず、泣いた。ただ、感情に任せるままに。

 

 

その日は、ゴンとポロックルは野宿することにした。もちろん、安全地帯で、である。

夕食も食べ終え、焚き火の光も弱くなる時分、二人は木の生えていない開けた場所にある大きな岩の上で寝転がって、空を見ていた。

空には満天の星。時折、降る流れ星がそれに味を添えていた。

ポロックルが星を見ながら、ゴンに話しかける。

 

「ゴン、命ってどんなもんかわかったか?」

 

ゴンも同じく、星を見ながら返事をする。

 

「うん。……オレ朝は全然分かってなかったよ…… ポロックルはそれに気づいていたからあそこにオレを連れていったんでしょ?」

「ああ、こればかりは口で言ってもわかんねぇ。だが知らなきゃいけねぇ。それこそ、腕一本は安いくらいの価値がある」

 

その言葉にゴンは心を痛めた。それを言うなら、本来、腕を失うべきだったのは自分じゃないか、と。

ポロックルはそんなゴンの心情に気づく。

 

「気にすんな……俺がこれを知ったときは親父が死んだ。だけど、腕一本で済んだ俺はラッキーだ」

 

ゴンは左隣にいるポロックルの横顔を見る。その顔は本当に気にしておらず、むしろラッキーだと思っているようだった。

 

「ポロックルは、強いね。オレは弱い自分が嫌いだ」

 

その言葉にポロックルは左手を伸ばし、ゴンの頭を笑いながら、わしゃわしゃとかきむしる。

ゴンは頭の強過ぎるそれを心地よく感じた。

 

「平気さ。ゴンは強くなる。真っ直ぐ生きろ。そうすりゃ大丈夫だ」

「うん」

「ゴンは明日、武芸大会なんだろ?今日はもう疲れたろ。とっとと寝よーぜ」

 

そう言って、ポロックルは目を閉じ、すぐにいびきをかきはじめる。

ゴンも目を閉じ、眠る。感情を冷やすのに時間がかかり寝付けたのはそれからずいぶん後になってのことだが。

 

 

早朝

 

「それじゃ、ポロックル。お世話になりました!!」

 

ゴンはぺこりとポロックルにお辞儀をする。

ポロックルは照れくさそうにしながら、

 

「おう!頑張って優勝してこい!!」

「うん!軍人になれたら、必ず報告に来るね!」

「おーう、楽しみにしてる。そんときゃ一杯美味いもん買ってこいよ?じゃなきゃ会ってやんねーぞ?」

 

ポロックルはいたずらっぽい笑顔を浮かべる。

ゴンはそれに苦笑しながらも大きく頷いた。そして、ポロックルに背を向けると、森の出口に向かって歩いた。

 

「それじゃまたね!!ポロックル!!」

 

いざ!!武芸大会へ!!




私「いやーポロックルの腕のシーンは感動だね!」
バキィ!
私「グハッ!?」
???「ただ、某有名マンガをパクっただけだろーが」
バキバキ(指の音)
私「ヒィーごめんなさい!!」
???「俺に誤ったって仕方ねーだろ。読者に謝れや」

というわけで、ごめんなさい。
あれしか、ゴンにいろいろ効率よく勉強してもらえるシーンが思いつかなかったのです。本当にONEPIECEファンの方にはお詫び申し上げます。
次回はいよいよ、武芸大会です!お楽しみに!
お気に入り登録者様、評価者様に感謝を!!

次回は来週の日曜日です。

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