ゴンが殴る!   作:リーマン

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第6話

大会当日

 

うわぁァァァ!!!!

闘技場の座席を埋め尽くす観客の叫び声が会場を揺らしている。

今、リングでは日本刀を鞘から抜かずに持った目つきの悪い男とデカい斧を持った巨漢の男が戦っていた。

そんな会場の階段を登っていった上にあるカーテンを張られ周りからは見えなくしてある特等席に彼女はいた。

会場の熱気とは対照的に足を組み、つまらなさそうに頬杖を付き、実に冷めた様子だった。

その彼女の横には金髪の上品な顔立ちをした男が立っていた。

 

「いかがですか?エスデス隊長」

 

男のかけた言葉に出てきたエスデスと言う単語。

それは、彼女の名前だ。これは帝都では勇猛果敢な猛将軍として、一方敵方では死神、災害そういった意味を持っていた。そして、特殊警察、イェーガーズの隊長でもあった。

エスデスは一つアクビをすると、

 

「つまらん素材らしくつまらん試合だな。やはり、帝具を使えそうな人間はそうそうででこんか……」

 

言葉の通り、つまらなさそうに言った。

その時、会場から一際大きな歓声が聞こえた。どうやら決着が着いたようだ。勝ったのはのは侍風の男だった。

会場では司会をしているイェーガーズのメンバーの一人、海男のウェイブがマイク片手に高々と勝利を宣言していた。

 

「勝者!呉服屋ノブナガ!!」

 

実に生き生きとしている。案外、彼はこういう仕事が好きなのかもしれない。

 

「次の組み合わせが最後みたいですね」

 

四角い闘技場には二人の少年が入ってくるところだった。

このエスデスの給仕よろしくたっている男もイェーガーズのメンバー、ランだ。個性的なイェーガーズの中では一番の常識のある人物だ。

エスデスはランの言葉に眠気に閉じていた目を開ける。最後くらい見てやろうと言った感じだ。

 

 

会場には二人の少年が立っていた。

一人は茶髪の髪にその下の、緩めていれば可愛いであろう鋭い目をしたコートを羽織った少年。

もう一人は、ツンツンの黒髪に、その下の僅かに好奇心をのぞかせる目をした、少年。ゴンだ。

ウェイブが選手紹介を始める。

 

「西方!!鍛冶屋タツミ!!」

 

茶髪の少年はタツミというらしい。鍛冶屋にしてはやや、いやかなり眼光鋭い。やってきた客が飛んで帰りそうだ。もしくは、喧嘩を吹っかけそうだ。商売にはおよそ向いてない。

 

「東方!!辺境からの冒険者ゴン!!」

 

ゴンは少し緊張しているようだ。不安そうに引き締められた唇、微かに寄せられた眉根。唇は微かに振動している。だが、目だけは好戦的な色を持っていた。

そして、ウェイブが試合開始を告げる。

 

「ルールは単純!!相手を場外に飛ばすか、相手に負けを認めさせるか、審判判定のどれか!!それでは!!試合開始!!!!」

 

 

「あらー?……あの少年」

 

リングでちょうど始まったタツミとゴンの戦いを見ながら、観客席にいたレオーネは同じナイトレイドの仲間であるタツミではなく、見覚えのある顔と聞き覚えのある名前を持つ少年に注目していた。

 

「ん?どしたの?知り合い?」

 

隣にいる緑髪の男ラバック、通称ラバが大歓声の中に消えてしまいそうなレオーネの呟きを耳ざとく聞きつけた。この男もナイトレイドである。

 

「いやーちょっとね」

 

レオーネは誤魔化しつつ、あの時、最後に言われたナジェンダの言葉を思い出す。

 

ーー「今度そいつを見つけたらスカウトしてこい」ーー

 

正直言ってあまり乗り気ではなかった。彼と一度、生で話し合ったことのあるレオーネだから言えるのだが、彼は絶対にナイトレイドには入らないという自信があった。それは彼が自身の夢を語った時の目の色に起因する。あれは、なるまで何があっても折れない、そんな目だった。

 

「う〜ん、どうしよっかなぁ…」

 

頭をポリポリかきつつ、今度はさっきよりも小さく、大歓声にかき消されるように呟いた。

 

 

ゴンは、試合開始と同時にタツミの脇を駆け抜ける方向、つまりゴンとは右向かいにある角に向けて勢いよく走った。

ゴンは足の速さに自信がある。くじら島では島民はおろか、動物たちの中でも一番だった。

だから、その自慢の足で攪乱しつつ、隙あらば突撃の構えだった。豹にやられた作戦だ。

しかし、ゴンは走り出した瞬間に感じた違和感に戸惑った。

スタートは順調。滑り出しも良し。足もよく動く。

しかし、あの時、大蛇を倒した時ほどの人の域を軽く超えたあの速さが出ない。

あの速さといつも通りの速さ、その差にギャップを感じてしまったのだ。

それでも、 目的を忘れず角に向け、タツミの脇を通り抜けた所でゴンはグンとつんのめった。そして、左足を引っ張れた。そこで、タツミに掴まれたものだとわかった。そして、ブン回され、投げられた。

ゴンは投げ出された空中で、タツミがごめん、という表情で投げ終えた体勢でいるのが見えた。

あの表情は、あっさり勝っちゃってごめんという意味だろうか。それとも、自分より年下に大人げなく勝っちゃってごめんだろうか。

どちらにしても、悔しいし、ムカついた。

ゴンはムッとしながら、空中で体勢を変えつつ勢いを相殺して地面に場外ギリギリのところで降りる。

ゴンがまた、タツミを見ると関心したような表情に変わっていた。

ゴンは、反撃だ、とばかりにタツミ目がけて飛び出す。そして、タツミまで一足のところで、ジャンプし、軌道を上にする。空中で、回転しながら体勢を整えタツミの頭に回転蹴りを叩き込む。

が、驚くべきことにまるでタツミは背中に目があるかのように、ゴンの回転蹴りをタイミングよくかわした。

かわされたゴンはたまったものではない。回転の勢いを殺しきれずに空中で体勢を崩し、固い闘技場の床にガッと落ちた。

そこにすかさずタツミがゴンの腹の服を掴み、再びぶん投げようとする。

しかし、ゴンも投げられまいと必死の抵抗をする。タツミの手首の辺りを殴り始めたのだ。

痛そうにしつつタツミはすぐに服から手を離し、バックステップで距離を置いた。手首をさすっている。様子は痛そうだ。

ゴンはその様子を見つつ、はね起きる。

そこで、二人は互いの目を見つつ、いつ仕掛けるかタイミングの読み合いをする。

 

「………」

「………」

「……フッ!」

そして、タツミが先に仕掛けてきた。ゴンもそれを一瞬前に察知し、行動を開始している。

戦闘経験が0に等しいゴンが相手の攻撃を察知できたのは、ひとえにポロックルとの狩人修行のおかげだった。短い間だったが野生生物と鎬を削った経験はきちんとゴンの中に息づいていた。

タツミがゴンの予想を上回る高速で連続パンチを繰り出す。

ゴンはそれを苦しくも何とか捌きつつ、タツミの動向を慎重に見て反撃のチャンスを狙う。

が、それはなかなか来ないばかりか、

タツミの拳がゴンに向かう途中で止まる。

「えっ!? ガッ!!!!」

 

それはフェイントだった。思わず声を上げ驚くゴンの顔に別方向からの拳がぶち当たる。

ふっ飛ばされ気味に飛ばされるゴン。地面に投げ出されるも、よろけつつ起き上がる。

完全なノーマークからの顎への一撃。ダメージは大きかった。むしろ、脳震盪を起こさなかったのが不幸中の幸いだろう。

このままじゃ負ける!

ゴンはそう思ったが、タツミに対してなす術がなかった。スピード、力、体力、全てで負けていた。

格が違う。ゴンはそれを痛感していた。

しかし、だからといって諦める気はさらさらゴンにはなかった。 勝てないなら勝てないなりに何かしらの戦い方があるはず。

まずはそれを模索するため、探し当てるため、タツミに立ち向かう。

ゴンはその目に強い意思を漲らせ、タツミに特攻をかけた。そして、さっきのタツミのように連続パンチを繰り出す。しっかりフェイントを入れるのも忘れない。

しかし、その全てを看破され、殴り飛ばされる。

「ぐはッ!…………はっ!」

 

ゴンは何度飛ばされようが、立ち上がりまたタツミを打倒せんと躍りかかった。

「 ごめん!」

 

憤然と向かってくるゴンに向かってタツミは謝った。

タツミはそろそろこの正直言ってめんどくさくなってきたし、別にサディストでもないのでこの一方的な試合を終わらせたかった。だから、ゴンの首筋を打ち、気絶させることにした。

タツミは飛びかかって来たゴンを半身になってよけ、通り過ぎる首筋に的確に手刀を打った。

 

「ガッ!!」

 

ゴンは、衝撃に意識が遠のき、そのまま固い床に落ちた。

そして、そのまま動かなくなった。

それを確認したウェイブが、声高らかにタツミの勝利を観衆に向けて、宣言する。

 

「勝者!!鍛冶屋タツーー」

 

ーーーーーーー…………待った!ーーーーーーーー

 

しかしそれは弱々しいがよく通る声によって、中断させられる。

観衆、ウェイブ、タツミ、レオーネ、ラバ、ラン、そしてエスデス、その場にいる全員の目が一点に、声のした方に注目する。

「オレは、まだ…負けてなんかない…!!」

 

そこには、ゴンがいた。今にも崩れ落ちそうに震える膝、だらんと垂れた腕、殴られ腫れた頬、全身痛々しいがそれでもゴンはその眼に宿る強い光はそのままに立っていた。

うぉぉぉぉぉおお!!!!

 

会場が興奮の爆音に揺すられる。それは、観衆たちの声。ゴンの諦めないその心意気に興奮したのだろう。その証拠に、

 

よく立った坊主!!

 

鍛冶屋になんか勝っちまえー!!

 

すげぇぞ!!勝て!!勝ってしまえ!!

 

賞賛、応援、感嘆。

様々な声がゴンの元に届けられた。

その声にゴンは、嬉しくなって、痛い顔を精いっぱい歪めて、少し笑う。

自分はまだ、戦える。

 

「いくぞ! 勝負はこれからだ!!」

 

ゴンは、心魂に徹した気合の声をタツミに叩きつけた。

今なら、大蛇と戦ったとき、いや、それ以上の力が出せる気がした。

そして、ゴンが若干たじろぐタツミに仕掛けようとした時、

 

「待て!!」

 

ゴンとタツミの間に凛とした声が壁を作った。

声の方を見る。

「双方、非常にすばらしい試合であったぞ。この私が褒めてやろう」

 

闘技場から真っ直ぐ上に伸びる階段から一人の女性が冷たい青をした長い髪を揺らしながら降りて来ていた。二人を見るその吊り目は髪よりも青く、冷たい印象だった。エスデスだ。

エスデスは二人の間に立つと、ちょい、と二人をこまねきした。

ゴンとタツミが呆気に取られながらも近づく。

 

「まずは、タツミ。お前にはこの大会優勝の名誉と帝具を一つ授けてやろう。ウェイブ、連れてけ」

「えっ?!」

 

タツミは、戸惑いつつもウェイブに案内されるまま闘技場から出ていく。

 

「そして、ゴン」

 

エスデスはゴンの方を向く。その目には、さっきまでの冷たい印象はなく、何故かキラキラとした物が幻視することができた。

 

「お前には、敗者復活戦として、この私が手ずから鍛えてやろう」

そして、大きく開いた胸元から、何かを取り出し有無を言わさずそれをゴンの首に付けた。

 

「え?」

 

ゴンが自分の首に嵌められた物を確認する。それは首輪だった。首の裏に紐が付いていて、エスデスの手の中に続いている。

 

「さぁ、行くぞゴン」

「え?ちょっと待って!」

「ダメだ。待たん」

 

エスデスは引っ張りに抵抗したゴンの首筋に必絶の手刀を打った。ボロボロのゴンに避ける気力など残っていない。気絶して、クテンとしたゴンの身体をエスデスはそっと抱き、階段を登っていってしまった。

残された観衆たちは呆然として、目の前の成り行きについていけていないようだ。

その後、ランがこれをどうにかするためにどんなに頑張ったかは、想像にお任せする。

 

 

あれは、ゴン?

私は久々に旧友の顔を見ようと来た武芸大会で見た、思わぬ顔に思わず疑問系にしてしまう。

しかしすぐに、

 

いいえ、あれはどう間違えようが、ゴンね。

 

あのツンツンの黒髪、無邪気そうな顔、そして何より目の色。どれをとってもゴンね。

あのジンさんの息子のゴンがこのような武芸大会に出ていることに驚きだが、それよりも帝都に来ていることの方が私は驚きだった。

ゴンはジンさんの故郷に確かに送ったはず。それがどうして…?

疑問は尽きないが、今は素直に思わぬ顔が見れた事に喜んでおこうかしら。

そんな、私の様子に気づいたのか私の護衛兼執事のゴトーが、様子を尋ねてくる。

だから、ゴトーにもゴンがいることを伝えると、彼は目を見開いたあと、目を細め闘技場のゴンを見て驚いた顔をした。ゴトーのこんな顔見たのはいつ以来かしら。何だか面白いわ。

ゴトーは笑い顔の私と目が会うとばつが悪そうにしたあと、無表情に戻り、何も言わなくなってしまった。あらら、怒らせちゃったかしら。

あら? 試合が始まったようね。周りの人達が騒ぎ始めたもの。

う〜ん、ゴンは劣勢のようね〜。それにしてもあのタツミとか言う子、ゴンの事を殴りまくって、許せないわね。私は自分の事でもないのに、悔しがったりしていた。

あ!

思わず声を出してしまう。タツミのガk…んんタツミがゴンに首うちをした。あれは当たりどころが悪ければ半身不随になってもおかしくない危険な技。それをゴンにかけるなんて、ますます許せないわ。

でも、これでゴンは気絶したから、これ以上嬲られることもないわね。

ふぅ、と安心したのもつかの間。

ゴンは審判の男の声を遮り、立ってしまった。

そして、気合の声と一緒にタツミに飛び掛ろうとしてーーー

会場に凛とした声が響いた。

あぁ、この声は忘れもしない。

 

「双方、非常にすばらしい試合であったぞ。この私が褒めてやろう」

 

あの氷海を連想させる青い髪。そして、冬山を想像させる冷たく青い目。

何も変わってないのね、エスデス。

エスデスはタツミを部下に命じて、どこかに連れていくとゴンの方を向き、ゴンの首に首輪を付けた。そして、戸惑っているゴンの首に手刀打ち気絶させる。エスデスの実力は私も知っているから今度は安心して見ていられた。エスデスは気絶したゴンを、私が今まで見たこともないようなキラキラした顔で階段を登っていってしまった。あの顔はきっと恋した顔ね。女のカンがそう言っているわ。好きになってしまったからゴンを連れて行ってしまったのかしら。

しかし、それにしても、だ。

はぁ…。

思わず深いため息をついてしまう。

何をやっているのかしら私の旧友は。人を好きになったら、即首輪なんて……

コミュニケーション障害なのかしら。

はぁ…。

もう一つため息をもらし、思考に打ち止めをかける。

私は被っているフードを目深にまでかぶり直し、立つ。

ゴトーも私に倣い、フードをかぶり直し立った。

 

「それじゃ、目的も果たしたし、思わぬ収穫もあったし帰りましょうか」

「はい、お嬢様」

 

お嬢様、ねぇ。

「ゴトー?私はもうお嬢様じゃないのよ?今の私は黒薔薇の騎士団団長フランシーヌよ。だから団長って呼んで」

「はいはい、お嬢様」

 

あー!何よその困った人だ、みたいな対応は。それに結局、お嬢様って呼んでいるわね。舐められてるのかしら、私。

お嬢様と呼ばれる人に舐められる私。

まずいわね。

だから、精いっぱいの威厳を込めて、こう言う。

 

「団長命令よ、団長と呼びなさい」

「はいはい、お嬢様」

 

ゴトーはそう言いながら、私のことを置いて、さっさと行ってしまう。

待って、私舐められすぎじゃ……

一人になった私は、エスデスとゴンが消えていった階段の上の天幕を見ながら、

 

「今度は、面と向かって会うことになるからね…」

 

そう言って、ゴトーの後を追った。




最後のはゴン君強化回と称した作者の妄想話をぶち込むための布石です。これ書いてて絶対批判されるな私、とか思ってました。
けど、ナイトレイドと戦うまでにはゴン君にはある程度戦えるようになってもらわないと私が困るんです!だから、仕方ない!
他の作者さんが戦闘描写が難しいという理由がよーくわかりました。私の場合、淡々と書いちゃう気がします。
感想、文章の改善点など大歓迎ですけど作者のハートは、豆腐です。
読者様に感謝を!
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