ヴィータが叫ぶ。
「これでラスト!」
振り下ろされるグラーフ・アイゼン。その凶悪な金属の重量に頭を叩き潰されたカモメは、真っ逆様に冷たい海へと落下していった。
海面に漂う、十二のカモメの骸。ヴィータはそれらに心の中だけで一瞬だけ祈ると、すぐさま夜の天頂を見上げる。
積乱雲の下で空戦を繰り広げる、黄金色の魔法発光と緑色の魔法発光。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと、"タカ"に意識を喰われたテレーゼだった。
フェイトが死神のように大鎌のバルディッシュをクルリと回し、空中に魔法陣を描く。すると彼女の周りに幾十の光の槍が出現。雷を纏い滞空、プラズマで空気が焼けるオゾン臭。魔法、雷の槍、神話の体現。
"タカ"が、光の槍を率いて滞空するフェイトに襲いかかる。フェイトは"タカ"を真っ直ぐ睨みつけ「マーチ(行軍)」魔法を解き放つリリック、大鎌が振り下ろされる。光の槍が射出、閃光と雷鳴。槍は振り下ろされた大鎌の先で、次々と"タカ"に命中。目を焼く稲光と、鼓膜を破る雷鳴、電気に叩かれた酸素たちがオゾンになって呼吸器を溶かす。鼻の奥の細胞が溶けて、生臭い臭いがする。
900ギガワットの、電子の暴力だった。
しかし。
「やっぱりだめか」
電子雪崩の光の嵐を突っ切って、真っ直ぐ"タカ"が飛んでくる。高所飛行用の対静電気及び対落雷術式、雷が効かない。
緊急回避。ジグザグと飛び回り、音速を超えるスピードで突っ込んでくる"タカ"を避ける。"タカ"が真横を通り抜け、途端に見えない衝撃がフェイトを襲った。音速の壁、ソニックブーム。フェイトはバランスを崩し、その間にタカは彼女のキルゾーンから抜け出す。そして滞空、緑の瞳でフェイトを見つめる。ヒット&ウェイ。キロメートル単位で飛び回る、超音速魔法空士の真骨頂。
ヴィータは「見ちゃいらんねぇ」と、グラーフアイゼンを肩に担ぎ援護の準備。しかし。
〈スイユから全体へ。敵の増援を確認。数えるのが嫌になるくらいのカモメの群だ〉
〈ランスターです。クロスミラージュの二次レーダーがカモメ達を捉えました。数は二百以上。すべて管理局のドローンです〉
〈今、管理局が非常事態宣言を発令したそうや。何者かが"管理局全ての飛行ドローン"をハッキング、それが全てここに全部向かってきとる。小隊規模で管理局の防衛網を突破、中隊規模の編隊を組んで飛行、全て集結すれば大隊規模の"群鳥"が敵になる〉
ヴィータは青い瞳で水平線の彼方を見つめる。果てしなく広がる黒い海。雲の切れ目、仄かに朱に染まり始めた雲。そして、有り得ない数の群鳥。
嘘だろ?勘弁してくれ。
はやてからの全体通信。
〈うちはコレから広域魔法の儀式詠唱にはいる。"敵戦力を十分に引きつけた後、特大の一発でこの空域ごと消しされ"。それが本部からの指令や。それまで、きばってくれや〉
海上プラント上にベルカ式とミッドチルダ式の複合六亡星魔法円陣が出現。同時にはやての肩甲骨から漆黒の翼が生える。彼女の手に握られるは祈祷書"夜天の書"、ページがバラバラとめくれあがり文字が躍る。夜天の主、八神はやての大軍殲滅用儀式魔法。
シグナムから全員に念話、〈バードランドはプラントを死守、絶対にこの空域に入れるな。主はやての儀式詠唱が終わるまで絶対にだ。ランスターとパイは遊撃的に狙撃と策敵を、タカとカモメ共にプレッシャーを与えろ。それとテスタロッサ〉
〈なんですか?〉"タカ"の体当たりを宙返り飛行で避けながらの返答。
〈テレーゼはお前が止めてやれ。いくらカモメ共が来ようが、我々バードランドが絶対に邪魔させない〉
〈感謝します〉
〈気にするな〉
隊を率いるための合理主義とも、見知った仲の情を優先させたさせた感情主義ともつかない、シグナムの人間的な采配だった。
一方、ヴィータは地平線上のカモメ達を睨みつけ、全体通信で宣言する。
〈これからあたしが"群鳥"の中に突っ込む。んでもって滅茶苦茶に引っかき回してやる。バードランドはあたしの後をついて来い。あたしを助けろ。あたしを見て敵を知れ。あたしの喰い残しに喰らいつけ。古代ベルカの騎士、その前衛の戦いを見せてやんよ〉
ファビアンがおどけた調子で言う。〈了解しました。我らがフロイライン("お嬢さん")副隊長殿〉
リヴィエールがウンザリしながら言う。〈喰い残すなんて言わず、全部喰らってくれ。私は鶏肉が大嫌いなんだ。"お嬢さん"は大食らいなんだろう?〉
ルルーが孫娘を心配するみたいに言う。〈ヤバくなったらいつでも言ってくれ。俺の誘導弾が"嬢ちゃん"を守ってやるから〉
ペルランがホモセクシャルのマイノリティ全開で言う。〈どうしよう、ロビーノ。副隊長の"嬢ちゃん"が男らしすぎて、惚れちまいそうだよ〉
ロビノーが酷く真面目でムッツリな様子で言う。〈そのまま惚れるがいいさ。"嬢ちゃん"も満更じゃないだろうしな〉
そして最後にシグナム。〈部下に愛されてるな。まさにバードランド分隊の末っ子に相応しい愛されかただ。きっと主はやてもご満足だろう。よかったな、"お嬢さん"〉
ヴィータが子供みたいに怒る。〈うっせぇよ、ばか。どいつもこいつも"嬢ちゃん"扱いしやがって。あたしは大人だ。生きるロストギアだ!おめぇらのうん十倍生きてんだぞ〉
〈んでもって俺たちのヤンチャな"末っ子"だ。あきらめな。嬢ちゃんが実は永遠に歳をとらない、ネバーランドのお婆ちゃんでも、俺たちの中でのヴィータ副隊長は妹みたいなもんだ。難しいことはお兄さん達がやってあげるから、子供は後ろの事なんて考えず暴れてこい〉
〈ルルー、良いこと言うな。流石は部隊の"戸籍上"での最年長だ。まあ、そう言うわけだから、お前はお前らしく暴れてこい〉シグナムが指揮官らしからぬ軽い調子で言い放つ。
「ばかやろう」。心底呆れた様子で、ため息みたいに呟いた。自分のことを怖がらず、ふざけた悪夢みたいな冗談で接してくる馬鹿な部下。それは彼女がよく知っている、愛すべき家族に似ていた要するにヴィータはバードランドが好きだということ。
あたしはバードランドを背負っている。そして、あたしはバードランドに背負われている。心地の良いチームプレイ。"私たちは背負わなければいけない"。互いに背負いあい、空を飛ぶ軽やかさと、敵を叩き潰す重さを手に入れなければいけない。
「アイゼン、支度だ」
機械仕掛けの鉄槌が魔法を編む。古代ベルカ式の剣十字三角陣、紅色の魔法光。小さな手で三弾ずつカードリッジを手づかみして、アイゼンのポンプアクションに詰め込む。燃え上がる炎、ハートに火をつけろ。
「行くぜ、バードランド。あたしについて来い!」
赤く燃え上がる、炎のような赤いバトルドレス。そのスカートを翻し、魔法の力で飛んでいく。その後を編隊を組んで飛んでいく、バードランド。
カモメ共め。どっちが上等な"群鳥"か思い知らせてやる。
七人の空戦魔導師が幾百のカモメ達の中へ突っ込んでいく。二度目の空中戦が始まった。
†
ティアナ・ランスターはクレーン塔の上で、狙撃銃の形をとったクロスミラージュのスコープを覗いていた。スコープ越しに見えるのは、群からはぐれて飛んでいた一羽のカモメ。ティアナは自分の胸で脈打つ心臓とリンカーコアの波を数えながら、クロスミラージュの軽い引き金を引いた。
バレルから放たれる殺傷設定の魔術弾、威力は低いが命中率は抜群の多弾頭弾。それは命中コースを辿ったように見えたが、海上プラントを通り抜けた複雑な風とカモメの飛行能力のせいで外れ、何者も撃ち貫くことなく虚空に消えた。
「一匹撃ち漏らしました」
「了解。今、確認した」
ティアナの横で耳がおかしくなりそうな銃声。吹き上がる砲風とマズルフラッシュ。純銀の魔弾が音よりも速く飛び、放物線と、吹き乱れる風と、大地の自転、コリヨリの法則さえも看破してカモメの魔術防壁と胸を喰い破った。心臓を失った人造のカモメは、乳白色の人工血液を撒き散らし墜落した。
「ハートショット、無力化を確認」。中性的なテノール、パイ・スイユの声。
伏せ撃ちの姿勢で黒塗りのライフルの遊底を操作。排夾と次弾の装填、特大の空薬夾が鋭い音を立てて落下した。
ティアナは一連の狙撃を目の当たりにして、ただ凄いとしか思えなかった。実体エネルギーの影響を比較的受けにくい魔力弾でさえ揺さぶられる暴風の中、実体弾を風に流されること前提で放ち、命中させる。一発も撃ち漏らさない、お手本のようなワンショット・ワンキル。スイユの周りには三十余りの空薬夾が転がっていた。その全てを命中させている。
「十一時方向から三匹侵入」
「了解」
スイユの指示の方向にティアナがスコープを向けると、複雑な軌道で飛ぶカモメが三羽。クロスミラージュの解析を頼りに距離を測り、弾道を計算。風が左から右に流れていることを確認し、標的のやや左側を狙う。「一羽分、右を狙うといい。風が渦巻いてる」。スイユが海面の飛沫を見て言った。チームワーク、弾数制限の厳しいスイユが観測手もかねて、魔力量とカートリッジに余裕のあるティアナを助ける。ティアナが撃ち漏らした強者は、スイユが確実に仕留める。
優秀で犯罪者な観測手の言う通りに標準をつけて、ティアナは魔法弾を発射した。高速で走る橙の火線。それは風に流され、スイユの観測眼を証明するように緩やかなS字を描き炸裂、二羽のカモメを葬った。同時に銃声。スイユの放った純銀魔弾が魔法弾を放とうとした残り一羽の功性魔法陣に衝突。あらゆる魔をすり抜けて、カモメの瞳を貫いた。「ヘッドショット、無力化を確認」。空薬夾が、また一つ転がった。それと同じ数だけのカモメの骸、百発百中。ティアナは軽く自己嫌悪に陥りそうになる。
「私なんて、十発に一発は外してるのに」
「それでも、僕の十倍は落としてるんだ。優秀な魔導砲手だよ」
「私はガンナーです。どうせなら砲撃より狙撃で誉められたいです」
「狙撃手から言わしてみれば、自分の隠れている建物ごと消し去る砲撃は何よりも恐ろしいものだけれどな」
うら若き悩める魔導砲手をフォローする、百発百中の魔弾の射手。先生と生徒の構図。犯罪者と執務官補佐の奇妙な連携だった。
「バードランドが踏ん張ってくれている。当分はカモメの心配は必要ないだろう。テスタロッサ・ハラオウン執務官の援護に戻ろう」
「ええ」
視線を上空にやると、稲光。電子の通過による熱量と、降りしきる雨による水蒸気爆発を伴った、黄金色の斬撃。"タカ"が堅い魔力防壁で身を守り、推進力カットによる急制止と自由落下で回避した。
"タカ"を襲った雷光に浮かび上がるシルエット。稲光と同じ色の髪が風になびく。体に張り付いた黒く薄い布地、高速行動の衝撃から脚部を守る不形のスカートフレア、宙を蹴るヒールブーツ。さながら黒いサロメのダンス、フェイト・T・ハラオウンの高速機動戦バリアジャケット。手に握るは万能武器バルディッシュ、それがサーベルの形をとって黄金色の魔力刃をさらしている。
変身していた。
ひらりと黒いドレスが翻り、雷光と雷鳴。次の瞬間には稲妻の鋭角でサーベルを振りかざし、"タカ"の眼前に翻るドレスが迫っている。まるで雷そのものになってしまったような飛行。速いのではなく、誰よりも速く見えているだけ。自嘲的に笑うフェイト。
速さと高さを求めた二人の対決。なにもかもを捨て去って、軽さと真実の速さを手に入れた"タカ"。なにもかもを捨てられないまま、しかし偽りの速さを手に入れたフェイト。
同じ空を目指していた。ただ、少しだけ道が違っただけ。振り下ろされた刃の下で、"タカ"が翼を翻し身を捩る。薄く走る赤い傷、血はまだ赤い。羽を燃やす緑の炎を推進力に、音の速度を超えて目視外へ飛び去る。ソニックブームと緑の炎がフェイトに襲った。雷剣バルディッシュが振られ、出現する魔法陣の守護。そして衝突。薄い防御魔法陣が掻き消えて緑炎が空を焼いたとき、既にフェイトはその場にいなかった。緊急離脱。しかし、避けきれなかった炎が、彼女のむき出しの肩を焼いていた。
ティアナはクロスミラージュの狙撃スコープ越しに、フェイトと"タカ"の顔を見た。打ちつける雨にも流されることのない、顔面に張り付いたメランコリック。なんて悲しい、孤独な魂。速く飛べば一人になる。高く飛べば孤独になる。それ故"タカ"は捨てねばならなかった。それ故フェイトは高くも早くも飛べなかった。それぞれの悲しみを抱えた顔だった。
〈いっしょにいこう〉と"タカ"が囁く。
「私は行けない。私は地上に大切なものを残してきているから」とフェイトが答える。
そしてフェイトはティアナに念話で耳打ち、暗号念話の内緒話。
〈ティアナ、一つだけお願い。あと少しだけ、テレーゼと戦わせて。彼女と二人きりにさせて〉
〈援護、いらないんですか?〉
〈うん。私の勝手なワガママなんだけどね、彼女は"飛べる人"が落としてあげるべきなんだと思うんだ〉
ティアナは"嗚呼、この人らしいや"と柔らかな笑みを浮かべて〈好きにしてください。でも、無茶だと判断したら私の独断で援護しますから。絶対にあなたを落とさせません〉。
〈ありがとう、"ティア"〉
〈どういたしまして〉
ティアナは"タカ"に向けていた銃を下ろした。
「いいのか」とスイユが問う。
「いいんですよ」とティアナが答える。
「ああいうときのフェイトさんは、誰よりも強いですから。さあ、私たちは私たちの仕事をしましょう。バードランドを助けないと」
水平線上で煌めく功性魔法の光を見る。そしてクロスミラージュを構えた。そんなティアナの様子を眺めて、スイユは一言。
「檻に入る前の、最後の仕事になるかもしれないんだ。"全力全開"で付き合うよ」。冷静な狙撃手らしからぬ、ガッツに溢れた宣言。
「あなたから"全力全開"なんて言葉が出るとは思いませんでした」
「教導官の友人、エース・オブ・エースに教えてもらったんだ。彼女の観測手をしたことがある。彼女に観測手をしてもらったこともある。君の魔法は彼女によく似てたからね、思い出したんだ」
ティアナは笑った。
「エース・オブ・エースは私の先生です」
「嗚呼、成る程。道理で似ている訳だ」
そこへ割り込んでくる長距離念話。
〈シグナムより、ガンナーへ。砲撃支援を願いたい。ランスターの収束砲とヴィータの対要塞突貫鎚で敵陣に穴をあけて突き崩す。三分やる。一番効率よくカモメ共を葬れる"スイート・スポット"を魔法砲手と狙撃手の観測眼で探し出せ〉バードランド分隊シグナム隊長の砲撃要請。
〈了解〉
狙撃ライフルを構えたまま、敵陣を見極めようとする二人。しかし、二人の位置からは群鳥の二次元的な情報は兎も角、三次元的な情報は判り辛い。奥行き、つまり敵との距離を測るのは、一流の狙撃手や砲手であっても苦労させられる面倒事の一つだった。二人は"群鳥"の形を測りかねていた。
ティアナはクロスミラージュのデバイス(演算装置)としての機能をフルに使い、"群鳥"を解析、測量、吟味、遂行。あらゆるアプリケーションで形を測っていく。しかし、それでも解析出来たのは十キロメートル圏内の100羽余り、"群鳥"の一角でしかなかった。
カモメたちの大隊、視界に納めるのも難しい、空を覆う"群鳥"。
「目の前の"群鳥"、スイユさんならどこを撃ち抜きますか?」
「検討もつかないな。あの群れを動かしているのは"タカ"の自立進化型編隊飛行プログラムだろう。あれは賢い。傍目から見た密集地帯="スイート・スポット"ではないことは確かだろうね」
「嗚呼、せめて"群鳥"の全体像さえ判れば」
その時だった。クロスミラージュの演算機能が高速で回転処理を始め、冷却ファンが唸りを上げ始めた。そして宙に浮かんでいたホログラム・ディスプレイに浮かび上がる、数百キロメートルに渡る"群鳥"のリアルタイム更新の三次元解析データー。バードランドを引き付ける旧式ナンバーの囮分隊、その背後で集結しつつある本命の功性デバイス搭載のプロトタイプ・ナンバー。バードランドを包むように展開する、幾つもの不定数小隊。"スイート・スポット"が丸見えの、"群鳥"の見取り図。
そして同時に、甘くひび割れた天空からの暗号通信。
〈ヨダカより、バードランドとその協力戦力へ。"スイート・スポット"は陣を整えつつあるプロトタイプ・ナンバー。今、目の前に見えている敵は時間稼ぎと誘導のための囮です〉
ティアナが空を見上げると、静けさを取り戻しつつある夜の空。厚い雲の隙間から、青白い天体達の光を背負って小さな黒い十字架のシルエットが旋回飛行をしているのが見えた。まるで擬人化された夜空の瞳のように、
味方の全員に情報をおくっている。バードランドの守護天使、市蔵ソラだった。
〈ランスター、囮ごと"スイート・スポット"を撃ち抜け。バードランドは砲撃の火線を通って"スイート・スポット"を叩く。目の前の敵は無視しろ。本命を突き崩せ。そうすればあと半刻は時間が稼げる〉指揮官の即決、シグナムが叫んだ。
〈了解、砲撃に集中するため念話をカットします〉。火線上二十キロメートルを焼き払う精密砲撃支援、一ミリでも銃口がずれれば平気で数百メートル単位で外れる。
「狙撃手の時間だ。お喋りは禁物だな」
「無駄言っている暇があったら、観測手をお願いします」
「了解。今は風が強すぎる。火線が曲がって、囮と"スイート・スポット"を同時に撃ち抜くのは難しい。しかし幸いにも風上から弱風と逆風が近づいてきている。囮部隊の中心から50メーターを狙い続けろ。そしてスリーカウントで"全力全開"の砲撃をお見舞いしろ。あとは風が味方をしてくれる」
風をよむことに関しては天才的なスイユの観測。ティアナはスイユの指示に全てを委ね、クロスミラージュを構えた。
薬室内で五度カートリッジが爆発した。オートマチックの機構から五つの空薬夾が排夾、魔力を帯びる白い銃身。その魔力を呼び水に、空気中の魔力を引っ掻き集める。カモメたちの羽から散った魔力。バードランドが戦って燃やした魔力。ヴィータがカモメを叩き潰した魔力。そして、ティアナの頭上で戦うフェイトと"タカ"の魔力。散ってしまって大気に溶けた沢山の魔力が、色とりどりの光子の煌めきで白いバレルに収束する。
まるでスターライト、星屑の輝き。ティアナ・ランスターがエース・オブ・エースから学んだ贈り物。一番大きく、綺麗な弾丸。
スイユのカウントが始まる。
「3」
レティクルの端にカモメ達をとらえ続ける。白い翼、これから墜とす白い翼。
「2」
無限とも思える"群鳥"に立ち向かう、バードランドの面々も見えた。灰色のコート、黒にも白にも偏らず、ただ自分たちの正義を貫く半端な色。それらを指揮するスミレ色の騎士甲冑、スミレの神話、神様に叩かれた痣の色。傷ついても美しい色。
「1」
そして一際めだつ、紅の騎士。"あたしをみろ"!敵を一手に引き受ける鮮やかさ。己の傷と血と覆い隠す保護色。弱さを隠す、強がりな赤。
そして時はやって来る。「スターライト・ブレイカー」魔法を解き放つリリック。引かれるトリガー。スイユの「0」の囁きを、噴出する光の砲音が覆い隠す。光の奔流、それは真っ直ぐ囮部隊を撃ち貫いた後、風に煽られ進路を変え、本命の"スイート・スポット"に飛び込んだ。
炎に包まれたカモメ達が、軽い体でゆっくりと落下していく。その合間を縫うように、"群鳥"の銃創をバードランドの鳥達が潜り抜けていく。
「見事な収束砲だな。命中だ」
スイユは愛用の黒い銃身を油断なく構えながら言い「しばらく休め、後は僕がやる。ここぞというときにバテてしまっていても困るからな」少しだけ頭上に視線をやった。
上では未だ、フェイトと"タカ"の戦いが続いていた。
「そうすることにします」
ティアナはクレーン塔の隅で身を縮めて、瞼を瞑った。そして大魔法行使による魔力枯渇と長距離射撃の疲れに任せて浅い眠りに墜ちていった。スイユの放つ、純銀弾狙撃のカモメを撃ち落とす銃声さえも届かない眠りの縁へ。
一人の砲撃魔導士の戦いが終わり、しかし鳥達の戦いは未だに続いていた。