魔導師たちの群像_ 魔法少女リリカルなのは   作:夏深てふ

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7/それぞれの飛行

フロイデ・シューネル・ゲッテルフンケン・トッホテル・アウス・エリーズィゥム。(喜びよ、美しい神々の輝きよ、楽園の娘等よ)

 

ソラは歌が好きだった。よく鼻歌で歌っていた。それは彼女にとって飛ぶことに匹敵するくらいに大好きなことだった。

 

ヴィール・ベリーテン・フォィエルトゥルンケン・ヒムリッシェ・ダイン・ハィリヒトゥム。(我らは炎のごとく酔い、天なる君の聖地に踏み入る)

 

しかし、そのことを知る人は殆どいなかった。ソラが歌を歌うとき、彼女は決まってひとりだった。

 

ダィネ・ツァウベル・ビンデン・ヴィーデル・ヴァス・ディー・モーデ・シュトレング・ゲタイルツ。アッレ・メンシェン・ヴェールデン・ブリューデル・ヴォー・ダイン・ザンフテル・フリューゲル・ヴァィルトゥ。(世の風習に厳しく隔てられたものを、君の魔力が再び結びあわせる。君の優しい翼のもとで、すべてのひとは兄弟となる)

 

ソラは小さな声で歌いながら航空12部隊の官舎を歩いている。すると、

 

「おい、新入り。はやてが呼んでんぞ」

 

ヴィータがいた。歌声を聞かれてしまったソラは、顔を赤くして「了解しました」

 

「なに恥ずかしがってんだよバーカ。綺麗な声じゃん」

 

赤い顔が、真っ赤になった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたん?そんな赤い顔して。熱でもあるんと違うん?」

 

「いいえ、熱ではないんです」

 

「熱ではない?ははん、さては恋やな。で、で、相手は誰なん?」

 

市蔵ソラは八神はやて隊長のデスクに居た。そして、デスクの主である八神はやてと上記の会話を交わして、真っ赤の顔をさらに赤くしていた。まるで林檎のような、ヴィータ辺りならば「じゅるり、美味そうだな」と言ってしまいそうな真っ赤な頬だった。

 

ソラは念じる。"私はノーマルだ"。"私はニュートラルだ"。"私はヘテロだ"。"私はレズビアンでもなければロリータコンプレックスでもない"。

 

そしてありったけの否定を込めて、

 

「違います!」

 

そう言い切った。

 

「なんや、つまんないの。まだ若いのに、恋するなら今の内やで。因みに我らが航空12部隊内は職場内恋愛大歓迎。今注目しているのはファビアンとロビーノの二人かね」

 

「男同士じゃないですか」

 

「いいじゃないの、フリーダム。ゲイってセクシーやない?」

 

ふと、いつかのヴィータの言った「ゲイってセクシーじゃない?」の台詞を思い出す。犯人はお前か!ソラは勘弁してくれと言わんばかしにため息をついた。

 

「仕事の話をしましょう」

 

うんざりしながら、そう言った。

 

「そうやな」とはやて。彼女は手元にあったファイルを自分の所へ引き寄せると、渋々ながら話し始めた。

 

「"タカ"と"狙撃手"、そんで"海上プラント"の件についてなんけどな。『うみ』の連中が介入したがっとるんよ」

 

「『うみ』、時空航行部隊ですか」

 

時空の『うみ』を航行し、多次元世界の秩序を守るための組織、それが時空航行部隊だった。対してソラ達が勤めているのはミッドチルダ地上本部、ミットチルダの『りく』の秩序を守ってきた組織だった。

 

「で、『うみ』の言い分ってのは何なんですか?」

 

「"タカ"、テレーゼ元小隊長は別世界で失踪した、つまりは多次元犯罪者であり、多次元犯罪者の逮捕は『うみ』の管轄である、やって。ついでに言えば、テレーゼ元小隊長のかつての部下であり、テレーゼ元小隊長が所属していた航空64部隊実験小隊の出身のソラ・イチクラをこの事件に関わらせないために航空12部隊は捜査から外れるべき、とも言ってるようやね」

 

「でしょうね。"タカ"は、テレーゼ隊長は私の大切な上司です。そう考えれば私がこの案件から外されるのも仕方ないことです。でも私のいる航空12部隊ごと外されるなんて、いくら何でもやりすぎでしょうに」

 

「やっぱり、市蔵もそうおもうか」

 

「ええ。私が思うに『うみ』の人たちは、何かを隠したがっています。その証拠に、海上プラントでは08防疫部隊を派遣して、結局”人間工場”の中枢から『りく』の人間を締め出したじゃないですか。自分たちの手で解決して、自分たちのいいように事件をねじ曲げ、自分たちの手で葬り去りたいんです。きっと、"タカ"と"狙撃手"と"海上プラント"、この三つの中に『うみ』が隠しておきたい何かがあるんでしょう」

 

はやてはニヤリと笑う。大変よくできました、出来の良い生徒を誉めるみたいに満足そうにな笑みだった。

 

「上出来や。頭がいいんやね」

 

「こう見えても私、もとは"時空航行部隊"航空64部隊実験小隊、『うみ』出身の、しかも偵察兵で観測手ですよ?昔の身内が考えていることくらいわかります」

 

不自然な『うみ』の横槍、逃げる"タカ"、"タカ"を守る狙撃手、壊れた海上プラント内で行われてきたこと。謎は謎を呼び、事件は混沌としている。

 

「これは噂なんけどな。例の海上プラントに、元実験小隊の研究人員が出入りしとったそうや。それがほんまなら、テレーゼ元小隊長を"タカ"にしたんのは彼らなんやろうな」

 

ソラは考える。墜落したテレーゼ小隊長を回収した。死んだことにして、好き放題弄くりまわして"タカ"にした。そして逃げ出した"タカ"が自分たちのことを口で体で暴露しそうで恐れている。はたして『うみ』の悪党にテレーゼ小隊長が捕まったらどうなるだろう。

 

不意に脳裏をよぎる、墜落のイメージ。凍りついた皮膚が剥がれ、成層圏から真っ逆様に墜落する白い翼。"軽くあれ"。私は空に愛された。彼女は少しだけ重かっただけだ。それだけで雲海の下に沈んでいった。

 

ダィネ・ツァウベル・ビンデン・ヴィーデル・ヴァス・ディー・モーデ・シュトレング・ゲタイルツ・アッレ・メンシェン・ヴェールデン・ブリューデル・ヴォー・ダイン・ザンフテル・フリューゲル・ヴァィルトゥ。

(世の風習に厳しく隔てられたものを、君の魔力が再び結びあわせる。君の優しい翼のもとで、すべてのひとは兄弟となる)

 

やっと会えそうなんだ。そらの魔力と翼のおかげで、やっと会えそうなんだ。

 

「私が『うみ』より先にテレーゼ小隊長を見つけ出します。隊長は航空12部隊で彼女を捕まえてあげてください」

 

「昔の仲間に、古巣の仲間に喧嘩をうるんよ。それでもいいん?」

 

「テレーゼ小隊長と昔の同僚が殺し合うようなことになるよりは幾分マシです」

 

全ての怒りと悲しいメランコリックをゴクリと飲み込み、偵察兵の悲観論(良い情報は、大概の場合役にに立たない物である。本当に必要なのは悪い情報だ)で事件を見渡した結果だった。

 

「市蔵ソラ二等空士、これより貴官に任務を与えます」

 

どこかにパージしてしまったはずの二本の脚から青い魔力の脈動を感じながら「はい」とソラは返事をした。私は飛べる。この怒りを両足の『音叉』で燃やし、軽い体と大きな翼で飛んでいける。

 

「いい返事やな。市蔵には"タカ"と"狙撃手"の居場所を突き止めに飛んでもらう。独りきりの寂しい偵察任務や。バードランドとは暫くお別れけど、できるな?」

 

「私は鳥です。バードランドが空を目指している限り、私とバードランドは同じ場所を飛んでいます。寂しくなんかありません。いつでも飛べます」

 

心に青い火がついた。そして一瞬で燃え上がった。あとは羽を広げてゴーサインを待つだけだった。

 

 

 

 

 

 

「主はやても人が悪い。あんなこと聞かされて、市蔵のやつが飛ばないわにいかないでしょう」

シグナムは困った顔で言った。

 

「そうやな」とはやて。

 

彼女らは群青色の隊服を着込み、真っ直ぐ背筋を伸ばして歩いていた。ここは『うみ』、時空航行部隊が駐屯する本局。この場所に巣くう実験小隊の亡霊を暴き出すための出向だった。

 

ソラは、広い翼とよく見える目で戦う。はやてとシグナムは、ペンと言葉と規則と法で戦う。ヴィータが仕切るバードランド分隊は、手にした魔法で戦う。それぞれが別々に、しかし同じ空にむかって飛んでいる。はやては、航行12部隊のエンジンに火が入りプロペラが回転する様子を幻視した。

 

「しかし、いったいどうやって"タカ"を探すおつもりですか?空は広い。いくら市蔵でも全てをみて回るのは無理でしょう」

 

「それについては大丈夫や。いま執務官二人が必死こいて捜しとる。市蔵に任せたのは、その情報の事実確認のための観測任務や」

 

「執務官、二人?」と、シグナムが首をかしげた。

 

「フェイトちゃんと、ティアナや」

 

「嗚呼、なるほど」

 

フェイト・T・ハラオウンとティアナ・ランスターも"タカ"の捜査をしていた。そもそも「お宅のヴータとシグナムを撃った狙撃手と"タカ"は仲間で、しかも"タカ"は元は管理局の人間で、挙げ句の果てには"タカ"はお宅の市蔵ソラがかつて居た『時空航行部隊第64航空部隊実験小隊』の小隊長だった人間ですよ」と捜査に行き詰まったはやてに連絡を寄越してきたのは、フェイトだった。

 

懐かしい友情と互いの有益のために、はやてとフェイトは結託し、互いに情報と戦力を交換しながら"タカ"と"狙撃手"、実験小隊の亡霊共の足跡を追っていた。

 

「フェイトちゃんたちも戦っとる。うちらも戦わんといけん」

 

「はい。テスタロッサに負けてはいられません」

 

二人は自らの戦場へと歩みを進め、そして扉を開た。08防疫部隊のデスクだった。

 

「地上部隊所属、航空12部隊の八神はやてや。あんたらには魔法倫理法違反を初めとしたその他諸々の疑いがかかっとる。特別捜査官権限であんたらを拘束、徹底的に取り調べさせてもらう。うちは『うみ』みたいに甘くない、覚悟しときいや」

 

部屋の中で作業をしていた本局職員達は「嘘だろ」と真っ青な顔。逃げようとする職員もいたが、はやての後ろで魔剣の鞘に手をかけたシグナムが怖くて、直ぐに逃走意欲を失った。

 

「行け」と、シグナムの指示。

 

同時に今まで隠蔽魔術で姿を隠していた航空12部隊ブルーノート分隊の隊員達が、扉からなだれ込んできた。あっと言う間に部屋は制圧され、職員はそのまま本局内の拘置所へ護送。取り調べが始まった。

 

 

 

 

 

 

「へくしゅ」と、可愛らしいくしゃみ。

 

フェイト・T・ハラオウンは「風邪でもひいたかな」と呟きながら、丁寧に二枚折りにしたティッシュで鼻を拭った。

 

「きっと誰かが噂をしてるんですよ。フェイトさん、今日も沢山のひとからお茶のお誘い受けてましたし」とティアナ。彼女もお茶の誘いを受けていた一人なのだが、それらをすべて断ってペットボトルの紅茶で職務に励んでいる。

 

二人はテレーゼを追っていた。しかし相手は空を飛ぶ"タカ"だ。すぐに行き詰まった。

 

そこで彼女らが目を付けたのは一つの噂。"タカは沢山の鳥を引き連れていた"。テレーゼが引き連れていたのは、管理局の陸上本部が所有するドローン、人造の単眼カモメだった。

 

クラナガン中はもとより、連絡と権限の届くミットチルダ中の管理局部隊に連絡、行方不明になっているドローンがないか、問い合わせまくった。そして、喉がガラガラのハスキーボイスになり、のど飴2・5袋を空にするコールの結果、ミットチルダ全域で25機の行方不明ドローンがでていることがわかった。「例年の倍のペースで墜ちてるんだ。空の神様は気まぐれだからな」。電話にでた整備士はそう言った。

例年の二倍。テレーゼが行方不明のカモメ達をハックして操っているのは間違いなかった。あとは、2、3メートルの大きさで編隊を組んでいる鳥がレーダーに映りこむのを待つだけだった。

 

「でも、もしテレーゼが全長3メートルのカモメ達を見限って一人で飛んでいたら、絶対に見つかりっこありませんよね。人間大の鳥なんて、このミットチルダには幾千匹といます。その幾千匹を全てレーダー監視するわけにもいきませんし」

 

常識的な鳥の大きさを越えている、または常識的な鳥の速力を超えている。それがレーダー網にかかる条件だった。テレーゼは、普通に飛んでいる限りは速力も、大きさまも、シルエットでさえ鳥だった。

 

「大丈夫。きっと彼女はみんなで飛んでいる」

 

テレーゼは見限らない。フェイトは確信していた。それは殆ど直感の領域だったが、それでも間違いないと信じていた。"さびしいの"。テレーゼは、そう言っていた。

 

「フェイトさんがそう言うなら、きっとそうなんでしょうね」

 

そして同時に鳴る、携帯端末の着信音。ティアナはその通話ボタンを押し、応答する。そして、

 

「3メートルもある鳥が、編隊を組んで飛んでるそうです。当たりですよ」

 

「航空12部隊のH・Q・ビレッジ・バンガードに連絡。私も飛行許可が出次第、でるよ」

 

「了解。紙とペンでの援護は任せてください」

 

それぞれの戦いは始まったばかしだった。

 

 

 

 

 

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