魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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今回はほぼ説明会です。
しかも今後の伏線がほぼ無いという。いつかは書き直したいですね。


第9話・ハイラルヒストリア

神を天界へ還し、総長コーガと副官スッパを倒された事でイーガ団は俺達に降伏した。

 

 俺はコーガ達と今まで物や人を盗んだ所に行き、謝罪とハイラル復興支援を命じた。意外にもテウタテス神が介入した後の女性を攫った事以外は大した事はしていなかったためか、攫った女性が傷ひとつなく無事だった事とその女性たちにボコボコにされたコーガの姿をみた彼らはイーガ団を許す方向に話が進んでいた。

 

 それは元『シーカー』であったコーガの知識がハイラル復興の助けになっていた事もあるだろう。

 

 

 イーガ団と復興支援をする傍らでハイラルにはまだ他の賊が潜伏しており、物を盗むなどの被害はそれらが原因だった事が調査で判明した。

 

 ハイラルに潜む賊を掃討してからオラリオへ行くかどうか悩んでいると、コーガは「俺様に罪を擦りつけやがって!全員とっちめてやる!」とやる気を出しており各地域の自警団と共に捜査と捕縛を行うとの事だった。

 

 まあ、元レベル2に至った武山であるスッパがイーガ団に残ったため、特に心配はしていないが…許されたとはいえ一時期はボロクソに言われていたコーガが既に地域住民と連携を取れる仲になっていた事に驚いた。

 

 案外、コーガのカリスマは本物なのかもしれない…

 

 そんなこんなでハイラル復興に希望の兆しが見えた事で、俺は改めてオラリオに出発する事を決めたのだが…あの事件以来行動を共にしていたシークとインパから衝撃の事実を聞かされる事となる。

 

 

G

 

 

 

「ハイラルが大陸から離れた孤島…だと?」

 

「ああ、オラリオへ向かうには陸路は使えない。船を調達する必要がある」

 

 

 突然降ってわいた障害。もしかするとクィンギブドやスッパよりも突破困難な試練と感じる。

 

 王として育てられ、様々な教育を施されて来たが流石に船についての知識や技術は無い。未だ復興中のハイラルの人間にオラリオへ着いてきて欲しいと頼める人脈はない。

 

 最悪の場合は後数年待ってからイーガ団を頼るしかないか…?と考えていると、シークは「問題ない」と言う。

 

 

「ボクは長ではないが『シーカー』の一員として、王家に関わる人間と面識がある。船や物資、船旅に関する情報の書かれた書物などを用意できる」

 

「至れり尽せりだな、金額(ヴァリス)は幾ら掛かる?必要ならゲルドの国庫からも出すが」

 

「その事についてだが…代金ではなく、ボク達も君の【ファミリア】に入れて貰いたい」 

 

「ハイラルを離れるのか、お前が?」

 

 正直、何度か【ファミリア】に誘おうか迷った事はある。しかし、シークとインパをガノンの派閥に入れるのもな…と思った事もあるが、そもそもこの2人がハイラルを離れるとは思っていなかったのが一番の理由だ。

 

 だからこそ、シークからその提案を受けた時は驚いてしまった。

 

「勿論、このまま入れてくれとは言わない。君とエポナ様には、ボク達の知るすべてを話そう…夜にボク達の部屋に来て欲しい」 

 

 そうして時間は過ぎ、夜になり俺達はロンロン牧場の宿に戻ってきていた。

 

 牧場は以前よりも活気があり、併設された宿もその規模を拡大していた。その有様は牧場を中心とした街が出来ているようだった。

 

 大きくなった宿にはマロンを助けたお礼として俺達専用の大部屋が作られており、他の客室から離れた作りになっているそこに泊まる事にした。

 

 

 牧場の手伝いを終えた後、エポナと共に宿の部屋に入る。

 

 その中ではシークが背中を向けて立っており、インパは側に控えるようにこちらを見ている。

 

「ガノン、先ずは非礼を詫びさせてくれ。今まで素性を隠していて済まなかった。そして聞いて欲しい、ボクの正体とハイラルの真実を。その上でボクを受け入れられるのであれば…今度こそ君たちの【ファミリア】に入れて欲しい」

 

「もう、シーク君ったら〜そんなに畏まらなくとも、もう私たちは仲間だと思ってるよ?君たちが嘘を吐くような人じゃないってわかってるからね!まさかハイラルのヤバい真実でも知ってるとか──ガノン君?」

 

「やはりお前は、王家の人間なのか」

 

「うぇええ!?な、何言ってるのさガノン君!ハイラル王家の人間はもういなくなってしまったって皆言ってたよ?!」

 

「やはり、気づいていましたか」

 

「──ゑ?」

 

 

 シークが振り返り、頭に巻いた白布を外していく。

 

 布の中から長い耳と金糸の様に美しい長髪が流れ落ちていく。その頭部には、宝石の嵌め込まれた頭飾り(サークレット)が付けられている。

 

 シークがサークレットに触れると、その身体を光が包み込む。瞬く間に光は消え、そこには薄桃色のドレスを着た金髪碧眼の女性が現れる。

 

 光を反射して煌めく金の髪、晴れ渡る空の様な紺碧の瞳、その気品ある顔立ちは神に引けを取らないほどに美しい。

 その身に包むドレスの柔らかな布地の質や刺繍の細やかさは、それを見た者に高貴な印象を与えるだろう。

 

 まさしく、姫と呼ぶに相応しい美貌の少女がそこに立っていた。

 

 

「私の名はゼルダ。ハイラル王家唯一の生き残りで、今は亡きハイラル王の娘です」

 

「そ、そんな…」

 

 エポナも衝撃の真実を前にショックを隠せていない。

 

「ミステリアスでクールな美男(イケメン)が…ロイヤルでプリンセスな美少女だったなんて…!」

 

 

 どうでも良いショックを受けていた。

 

 

「改めて、今まで素性を隠していた事をお詫びします。ハイラルに潜む追手から逃れる為には変装の必要があったのです」

 

「いやいや、なんか骨格も変わってなかった!?」

 

「このサークレットは王家に伝わる光の精霊の加護を封じたアーティファクトで、姿を変える事が出来るのです。あくまで幻影のため、実体は変えられませんが」

 

 そう言うと、ゼルダは再び頭飾りに触れる。着ていたドレスは再び光に包まれて『シーカー』特有の忍びを思わせるぴっちりとした装束に戻る。

 

 服自体はシークと同じ物を着ていて、幻影の効果で体型と瞳の色を誤魔化していたのか。

 

「エッッッ」

 

 目の前でシーク=ゼルダを証明されたショックで再びエポナが固まる。

 

 エポナは男性にあまり免疫がないらしく、あの後もシークにエスコートされる度にしおらしくなっていたからな…

 

 エポナと同室になるたびに「シーク君って…私に気があるよね!?」と世迷言を言ってくるのでその度にインパと同じ部屋に泊まっている事を指摘して脳を破壊していたが、流石に今回はダメだったらしい。

 

 ちなみに俺に抱えられるのは大丈夫だったのかを聞いてみたら「ガノン君はガノン君だからね!」と言われた。気にしてないが?

 

「尚更分からんな。ハイラル最後の姫が何故、オラリオへ向かう?」

 

「ガノン、貴方と同じです。私は『黒き厄災』を討つためにオラリオへ向かいたいのです」

 

「ハイラルを捨ててか?」

 

 俺も国から出た身ではあるが、しかしゲルドとハイラルでは状況が異なる。俺の知るゼルダであればハイラルの民を見捨てるような事はしない。

 

 僅かに怒気を滲ませた俺の声に、ゼルダは怯える事なく微笑む。

 

 

「ゲルドの出身であるにも関わらずハイラルの事を思って頂けるのですね。やはり、貴方は優しい人」

 

 信頼を感じさせる柔らかく暖かな口調に、今度こそ俺は面食らってしまい気恥ずかしくなり目を逸らす。

 

 くすくすと笑い微笑ましげに俺を見るゼルダに、どうにも居心地が悪くなる。ガノンなのになんか好感度高くね…?

 

「んふっ…くっくっ…」

 

 インパは目を逸らした俺を見て小さく吹き出していた。

 

 お前が姫に隠れてちょっと過激な恋愛小説読んでる事をバラしてやってもいいんだぞ…?

 

 

「私が『厄災』討伐のためにハイラルを離れる理由は2つあります。1つは、私は"予知夢"により『厄災』がハイラルを含む世界を滅ぼしうる事を知った事。もう1つは、ハイラルを襲った戦争は私の父ハイラル王の手引きにより起こされたものだからです」

 

「何…だと…!?」

 

 想像を超えていたその残酷な真実に愕然とする。しかし、今のハイラルは滅んだというにはやけに活気があり、思っていたより被害が少なかったのも事実。ハイラルの滅びが計画的なものであったのであれば辻褄は合うが…

 

「ハイラル王…父上は昔から冒険が好きな方でした。家臣が止めるのも構わずハイラルの各地へ旅をしていたそうで、ついには船で海へと繰り出してしまったそうです」

 

「随分とまあ、破天荒な人だな」

 

「一応、病気がちな母上のために薬の材料を探していたのもあるのですよ?海から持ち帰った魔物(モンスター)のドロップアイテムから薬を作り、母上は元気になりましたから」

 

 母親の事を思い出しているのか、遠くを見るように目を細める。

 

「その船旅で父上が出会ったのが【ポセイドンファミリア】の方々です。冒険好きな父上は彼らと意気投合し、友好を深めたといいます」

 

「ポセイドン…!?ハイラルに攻め込んだのは【ポセイドンファミリア】の筈──」

 

 

 

 そこまで口に出して、気付く。

 

 

 

「ハイラルで起こった戦争はハイラル王と【ポセイドンファミリア】が共謀して起こした物なのか…?」

 

「はい。父上は彼らと友好を深める仲で、ある真実を知ってしまいました。それが、女神ハイリアは実在しないという事なのです」

 

「ハイリアが架空の女神だという事か」

 

「父上からハイラルの事を聞いたポセイドン様は、自然豊かで独自の生態系を持つモンスターが生息するハイラルの地を"下界の未知"に値すると評価した上で、ならば女神ハイリアが下界に降りない事はあり得ないと言ったそうです。そして顔の広いポセイドン様でも知らない名である事も」

 

 

 ハイリアが架空の女神…今までの作品からはあまり考えられないが、この世界の神は割と独特な生命体だ。普段は天界にいるというし、この世界の神話とやらはおそらく神が地上にいた頃の伝説が時を経て『神の話』になったのだろうと推測する。

 

 『おばちゃん』とか『スカイロフト』みたいな感じなのだろうか…

 

 

「女神ハイリアの真実を知った父上はハイラルに戻った後、各地にある神殿を訪れました。ハイリアを祀る『時の神殿』、力の女神ディンを祀る『炎の神殿』、知恵の女神ネールを祀る『水の神殿』、勇気の女神フロルを祀る『風の神殿』、父上は神殿の地下迷宮の仕掛けを解き明かし神殿建立時の碑文を見つけました」

 

 このハイラルでは女神ハイリアと三女神を信仰しているようだ。神殿については色々と混ざっている様だが…

 

「碑文を解読した結果、ハイリアは実在する"人間"であり、ディン、ネール、フロルの三女神は精霊であった事が分かりました。それぞれの神殿は神を祀る物ではなく、ハイリアと精霊達の友好の証として建てられた物であったのです」

 

「ハイラルと世界情勢を正しく認識した父上はオラリオとポセイドンファミリアを支援する事を決めました。世界を脅かす脅威に、何も出来ずとも立ち向かう者に力を貸したかったと仰っていました」

 

「だがそれは叶わなかった…と?」

 

「…ええ、ハイラルは長い歴史の中で腐敗が進んでいたのです。ハイラルに住むハーフエルフ達は女神ハイリアの子孫、『ハイリア人』を名乗り貴族の様に振る舞い他種族を差別していました。彼らは真実を知って尚、傲慢な態度を直す事なくその主張は過激化していく一方でした」

 

 

「父上は全てが遅かった事を悟り、ハイラルに巣食う膿を一掃することにしたのです」

 

 ゼルダは複雑そうな表情で語る。父親が国と自決する事を決めたのだ、無理はない。

 

 

「父上は国内で高まる悪意を自身に向けさせ、過激派の旗頭となりポセイドンファミリアに戦争を挑む。そしてポセイドンファミリアは戦争に打ち勝ち、囚われの身となっていた私を救い出す事で新生ハイラルを立ち上げる、そういう筋書きになっていた筈でした」

 

 

「しかし、状況が変わりました。三大冒険者依頼攻略のための召集がポセイドンファミリアに掛かったのです。そのため、ハイラルの過激派貴族達を完全には排除する事が出来なかった。さらには『シーカー』の中からも裏切り者が現れ、私はインパに連れられて逃げざるを得なかった」

 

 

「そして私とインパは姿を隠しながら残党達と陰ながら戦い、今に至るという事です。…貴方から見たら、愚かに見えるでしょう?ですが、これがハイラルの滅びの真実です。父上が何もしなくとも、あと数年すれば戦争は起こっていたでしょうね」

 

 ゼルダはそう自嘲し、目を伏せる。

 

「確かに、愚かな選択ではあったかもしれないな」

 

「っ…そう、でしょうね」

 

「だが、国民同士で争えば今より被害は酷くなっていたかもしれん。ならば、最善でなくともハイラルのために行動した事は間違いではないのだろう」

 

 

「ガノン…ありがとうございます」

 

 ゼルダは目尻を拭い、力強い目線でこちらを見る。

 

 

「神殿の碑文はハイラルの神話を否定する物でしたが、碑文の最後にはハイリアによる予言が記されていました。それは『黒き厄災』の復活と世界滅亡について記された物でした」

 

 

「お前の見た"予知夢"と同じ物だということか」

 

「!…はい、ハイリア様が予知した『黒き厄災』、それは父上から聞いた『黒竜(こくりゅう)』によく似ていました。私は『厄災』の夢を幼い頃からよく見ていました。しかし、私の様な夢を見る人間がいた事は王家の歴史の中にはいなかった…ならば、この夢は『厄災』の目覚めが近いことを警告するお告げなのではないかと思ったのです」

 

「なるほど…」

 

 

 ゼルダがオラリオへ向かう理由が夢のお告げというのならば納得はできる。『原作』においても、ゼルダといえばお告げみたいな部分もある。お告げがなくとも何かしらの力を秘めていることが多いからな。

 

 それにオラリオには今、【勇者】がいる。勇者と姫の出会いは近いということか。

 

 

「それで俺たちのファミリアに入りたいということか」

 

「ただ、それだけでは無いのですが」

 

「他に理由があるのか?」

 

「イーガ団のアジトを突き止める際に貴方を頼ったのは、私の"予知夢"に貴方が現れていたからです」

 

「予知夢に、俺が…?」 

 

 冷や汗が背筋を伝う。ゼルダの夢のお告げに(ガノン)が出てくるとかもう『ゼルダの伝説』のプロローグじゃないか?

 

 いや、俺は別に世界征服とか企んではいないし、モンスターの親玉になるとかそういう事も無いだろうし、割と人助けはしてきたつもりだ。

 

 流石に目を付けられるような事はないと思うが…ないよな?

 

 

 

「幼い頃から続いていた『厄災』の夢はある日急に見えなくなりました。およそ3年前、ある夢を見てからです」

 

「どんな夢なんだ?」

 

「『厄災』の闇を払うように現れた精霊を連れた赤髪の男、砂漠から来た黒衣の男が私と共に『厄災』を討つ、そんな夢を見ました」

 

「えぇ…」

 

 それ原作のリンクポジションを乗っ取ってないか?勇者は既に居るはずなのに…ハイラルは滅んでいるし、もしかしてこの世界にはリンクがいないのだろうか?

 

 それはそれで絶望感が強いのだが…いや、弱気になってはいけない。始まりは勇者に倒されないためであったが、今ではゲルドを滅ぼさせないという理由がある。怖気付く訳にはいかない。

 

 

 

「おかしな人だと思いますか?いきなり夢のお告げだなんて言って貴方の事を知っていただなんて」

 

「いや、俺の育ての親も神託を受けた事がある。それを笑うのであれば今旅に出ている俺も笑われなければならないぞ」

 

「信じて、下さるのですね」

 

 金髪碧眼の姫は花開くように、ぱっと顔を綻ばせる。

 

「──ありがとうございます」

 

「礼には及ばん。俺たちはまだ何も成し遂げてはいないからな」

 

 ニコニコとこちらを見るゼルダから目を逸らし、身体を横に向ける。ガノンがゼルダにお礼を言われるとか、何というか落ち着かないんだが。

 

 『ゼルダの伝説』ファンが見たらブチ切れるのではないだろうか?

 

 

「では、我々を【ファミリア】に入れてくれるという事で構わないか?」

 

「ああ。ほら、エポナ、そろそろ起きろ。二人を【ファミリア】に入れようと思うんだが…エポナ?」

 

 インパからの問いかけに了承の返事をするが、これまでエポナが黙ってたことに気付く。もしかして、そこまでシークの性別についてがショックだったのか?

 

 俯いたままふるふると震えるエポナを見て心配になる。すると、がばりとエポナが起き上がり、ゼルダを抱きしめる。

 

「うおおおお!ゼルダちゃんがそんなに大変な旅をしてたなんて!もちろん良いよ!これからは一緒に旅をしよう!」

 

「わぷ、あ、ありがとうございます、エポナ様」

 

「いい子だねぇ!いい子だねぇ!」

 

 ゼルダを抱きしめながら頭を撫でるエポナ。片方がたまにセクハラする奴でなければ非常に絵になる光景だ。正直マジでセクハラし始めたのかと思ったが、まあ手を出すタイプのセクハラはしない神だったし、純粋に感動しただけだったようだ。

 

 

 その後、エポナが二人に『恩恵』を刻み*1、名実共に【エポナファミリア】になった。

 

 エポナの提案で俺たちは祝杯を上げて誓いを立てることにした。これからの旅路への願掛けだそうだ。

 

「みんな杯は持った?では僭越ながら私から…ごほん!」

 

 エポナが顔を引き締めてかしこまった態度で音頭を取る。背丈に対してやや童顔のためかあまり雰囲気は締まらないが、それぐらいが俺たちにはちょうどいいだろう。何せあのゼルダ姫とガノンがいる派閥なのだから、形式など意味を成さないだろ?

 

「君たちの旅立ちを祝って」

 

 エポナが杯を持ち上げる。それに倣い、俺たちも杯を持ち上げる。

 

「乾杯!」「「「乾杯!」」」

 

 杯を傾け、飲み干す。その味に気分が高揚する。ようやく始まるのだ、俺たちの『眷族の物語(ファミリア・ミィス)』が。冒険の時が!

 

 

「それにしても意外だな」

 

「何がだ?」

 

「お前は酒を飲むと思ってたんだが…いや、なんだかんだ真面目な所もあるからな。不思議でもないか?」

 

 ふふ、と微笑むインパ。狐耳のせいか小さめの杯を傾ける姿がやたらと様になっている。

 

 インパの言う通り、このメンバーの中で唯一俺は酒を飲んでいない。ハイラルリンゴを絞った果汁を頼んで飲んでいる。

 

 飲み物を頼みに行った時にマロンが俺を見て吹き出していたのは印象に残っている。…しょうがないじゃないか。

 

「俺は今年で11歳だからな、流石にまだ止めておこうと思ってな」

 

「──ゑ?」

 

 からん、と杯を床に落とす音が響く。インパは「あ」と「え」の中間の様な気の抜けた声を出して固まってしまった。

 

「じゅ、じゅじゅじジュじゅ11?ああ、そうか、31の間違いか?そうだな!そうだと言ってくれ」

 

「今年で11歳だ」 「──」

 

 言葉を失ったインパがぎぎぎ、と錆びついた扉を開けるようなぎこちない動きでエポナを見る。

 

「?ガノン君は嘘ついてないよ?初冒険の日は7歳だったんだって、凄いよね〜」

 

「あ、ああ、ああああああああああああぁあ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

「インパ、もう夜なんだからあまり騒ぐなよ」

 

 インパは椅子から飛び上がり、ベッドの毛布に頭から突っ込み叫んでいる。ふりふりと揺れる尻尾に、前世で見たキタキツネの狩りを思い出していた。

 

「16も下の男の子に、あ、あんな事をしてたなんて…!羞恥心でどうにかなりそうだ…!」

 

「安心しろ、今の方がよほど恥ずかしいぞ」

 

 俺の声が聞こえていないのか、そのまま悶え続けている。姫の正体を隠すために周りから注意を引くための演技だったのだから、そこまで恥ずかしがる必要はないとは思うがな…

 

「ガノン、私は18歳です」

 

「ゼルダ?」

 

「私の事はお姉ちゃんと呼んでも良いのですよ?」

 

「ゼルダ!?」

 

 すすす、とそばに寄ってきたかと思えばトンチキな事を言い出すゼルダ。よく見ると顔が耳まで赤くなっている。コイツ、たった一杯で出来上がってやがる…!

 

 そうして、この世界での初めての酒の席は各々の醜態を晒して終わった。

 

 今後はゼルダに酒は飲ませないようにしよう。エポナと俺はそう固く誓ったのだった。

*1
もちろん俺は退室した




【ゼルダ・ハイラル】
ステイタス
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》
 【炎の矢】
 ・単射魔法。
 ・火属性。
 ・延焼効果。
 ・詠唱式【光は陰り、日は沈む、されど恐れるな】
     【火は絶えず、やがて登るだろう】
     【我が朋友ディンより授かりし矢を以て】
     【行く手を阻む者よ、その一切を焼き払わん】
《スキル》
 【精霊光炎(オルディン・ブラッド)
 ・特定行動(アクションコマンド)実行により【炎の矢】の詠唱破棄。
 ・精霊に関する魔法の威力を強化。
 ・■■■■の■■実行権。
  【■■■■】
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