魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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再投稿です。(土下座)


第11話・座礁のち迷路

青く澄み渡る空、白い雲。晴天の日差しが旅立ちを祝福する様に降り注ぐ中、赤い船体を波で揺らしながら『赤獅子号』は悠々と進んでいた。

 この世界に生まれてからは殆どの時間を砂漠で過ごしていたから、潮風が物凄く懐かしく感じる。砂漠にもオアシスはあったが、この磯の香りは海でないとな。

 

「初めての船旅はどうだい、兄ちゃん」

 

 海原を眺める俺に老年の大男が声を掛けてくる。髭を生やし、歳を取っているにも関わらず筋骨隆々の肉体を維持している、いかにも海のおとこ、といった風体であった。

 インパが連れてきた船員たちを纏める船長であり、海に囲まれたハイラルの貿易を長年支えてきた大ベテランだそうだ。

 

「船長か、俺は問題ない。他のみんなは大丈夫か?」

 

「姫様は自室で日記を書かれてますぜ、インパ様とエポナ様は部屋だと酔いそうって言って風にあたってますが」

 

(車に乗った犬みたいだな)

 

 インパは狐人という獣人種族だからまだ分かるがエポナは獣要素のない神だったはずだが。馬が好きすぎて馬になってしまったのだろうか。

 

「目的地にはどれくらい掛かりそうなんだ?」

 

「そうだな、【エポナファミリア】が船旅に慣れてないって事も考えて、まずはハイラルから近い港に行ってから陸路を取るか海路を取るか決めるって話しだ」

 

「やはりオラリオまでは距離があるか?」

 

「一応、距離だけなら行けるっちゃ行けるんだがな。ハイラルからオラリオへ行こうとすると、海深が深い海域を通らなくちゃならないんだが…そういうところは海の怪物がわんさかいるからなぁ」

 

「迂回すると距離が長くなるということか」

 

「この船はいい船だが、流石に怪物との戦闘を考えて作られた訳じゃねえ。それに俺たち船員も戦いは出来ねぇからな」

 

 『ゼルダの伝説』らしく、この世界でも水棲の魔物はいる様だ。危険を冒すのが自分たちだけならば兎も角、非戦闘員を巻き込む訳には行かないか。

 巨大イカとかいるんだろうか…と考えていると、船長が浮かない顔をしている。一体どうしたのだろう?

 

「船長、何か気掛かりでもあるのか?」

 

「おっとすまねぇ、俺としたことが顔に出ちまってたか」

 

 客の前ですまねえな、と恥ずかしげに頬を掻く船長。船長は短い顎髭をさすりながら話し出す。

 

「見ての通り順調に船は進んでるが、どうにも違和感が拭えねぇんだ」

 

「違和感?」

 

「ああ、島陰の位置や太陽の位置、星空を見ても間違いなくこの船は目的地に向かって進んでる。だのに、何でかねぇ…これっぽっちも前に進んでねぇ気がしてな」

 

 そこで言葉を切り、船長はこちらを安心させるように笑顔で笑い飛ばす。

 

「って、これから長旅に出ようっていう奴に言う事じゃねぇか!まあ気にすんな、こうして船は進んでるわけだしな。いっちまえばただの勘だからな!」

 

 船長は豪快に笑いながら俺の背中をバンバンと叩く。しかし俺はその言葉がどうにも引っかかる。船長はハイラルの海域に詳しいベテランの船乗りだ。その勘が違和感を訴えているのであれば、既に何かが起こっている可能性はある。

 

「いや、一度調べてみる価値はある。波は荒れてないし小舟を降ろして俺が…」

 

「せ、船長ー!後ろからとんでもない速度で霧が追って来てます!」

 

「何!?霧が追いかけてくるだと!そんな馬鹿なことがあるか!」

 

 しかし船長の言葉も虚しく、瞬く間に船の周りを1M先も見通せない程の濃霧に囲まれてしまう。霧を発生させる魔物が襲ってきているのか?

 

「くそ、何も見えねえ!おい、帆を畳め!速度を落として様子を見るぞ!この速度だ、直ぐに追い越していくはずだ!」

 

「いや、どうやらそうも行かないようだ」

 

 深い霧の向こうから、『赤獅子号』を遥かに超える巨大な影が迫ってくる。

 いや、迫ってくるように見えるだけだ。これは、俺の考えが間違っていなければ、ずっとこの船の側にあったのだから。

 

「なんだあの影は!でけぇ怪物か!?近すぎる、逃げられるか!?」

 

「船長!まずいです!船が、船が岩に乗り上げています!」

 

「はあ!?さっきまで海の上だったろうが!ふざけた事言ってんじゃ──」

 

「いや、そいつは間違った事を言ってない…船長の勘は当たっていたという事だ。いつからかは分からないが、この船は全く進んで居なかったという訳だ」

 

 巨大な影に対して、霧が開いていく。周囲は依然として濃霧に囲まれている中で、巨大な影はその全容を顕にする。

 それは、木々が鬱蒼と生い茂る森を背に乗せた島であった。

 

G

 

「それで、ガノン君達はあの島に乗り込むって訳だ」

 

「お誂え向きに木の根がこっちに伸びてるからな。橋代わりのつもりだろう」

 

 霧の中から現れた島の崖から、太い樹木の根が船に向かって伸びていた。まるで階段の様に上から下へと伸びているそれは、複数の人間が乗って進める程の太さがあり橋として使うに申し分なかった。

 

「だが、危険ではないか?明らかに誘われていると思うが」

 

「なら尚更だ。海の上で俺たちは何者かに惑わされていた訳だからな、元凶を叩かない限りは同じ事の繰り返しになるだろう」

 

 インパは誘いに乗る事への危惧を口にするが、俺は今回の元凶を倒さなければ先に進めないと反論する。

 ベテラン船長すら手遅れになってから気付く程の幻惑だ。尋常な手段ではあり得ないだろう。相手が誘ってきているのであれば、むしろ解決策が分かりやすくて助かる位だ。

 何より、『ゼルダの伝説』ではこういったイベントは相手の懐に潜り込んで探索し、解決するものだしな。

 

 装備を整えた俺たち3人は、こうして【エポナファミリア】結成から初の迷路(メイズ)攻略へと踏み切ったのであった。

 

 ──のだが。

 

「迷ったな」「迷いましたね」「迷っているな」

 

 俺たちは森の中で盛大に迷わされていた。

 

「森は迷いやすいと聞いたから目印をつけていたんだが…」

 

「同じ道を引き返したと思えば違う道、違う道を進んだと思えば最初の道へ戻される…前後左右がまるで繋がっていませんね」

 

 幸いにしてパーティがバラバラになる事はなかったが、俺はこの状態に見覚えがあった。というか前世の頃に散々迷わされていた事を思い出していた。

 繋がりのない道に深い森。霧が追ってきた事もあってこれを魔物の仕業だと思っていたが…この島、もしかして『迷いの森』じゃないか?

 ハイラルに森があったから、そっちにあるものだと思ってたから候補から外していたのだが…もしや『風のタクト』のように島で別れているのか。

 

「姫様、一度船まで引き返しますか?」

 

「しかし、こうも空間的に繋がりのない道で迷わされている以上は船まで戻れるでしょうか…」

 

 『迷いの森』について相談しているインパとゼルダの二人。ゲームであれば外に出るのは簡単だが、現実では確かに戻れる保証はない。

 だが、ここがゲームでは無いのならばゲームでは出来ない攻略法が有効という事だ…!

 

「ふっふっふ…俺にいい考えがある」

 

「どうした?そんな自信たっぷりに」

 

「もしや、この森の進み方が分かったのですか?」

 

 インパは怪訝そうな顔で、ゼルダは期待を込めた目で俺を見てくる。

 ふっ…見るがいい、俺の最高に冴え渡る『迷いの森』の攻略法をな…!

 

「はあっ!」

 

 木の枝へと飛び乗り、【ステイタス】の補正により強化された脚力で木を駆け上って行く。

 登る、登る、登る。枝から枝へと飛び乗って樹木の上を目指す。いかに『迷いの森』と言えど迷路は迷路。上から見下ろして道を覚えてしまえばヌルゲーも同然!複雑な迷路など丸裸にしてしまえばこちらの物だ。

 

 木を登る。景色が上から下へと流れていき、緑の帯となって置き去りにされていく。木を登る。階段を段飛ばしで登るように、1秒の間に数本の枝を駆け上がっていく。木を登る。数秒は経っただろうか、既に駆け上がった枝の数は数十本を超えている。木を登る──

 

 俺は木の枝から飛び降りる。かなりの距離を駆け上がったにも関わらず、地面まで数秒も掛からずに着地する。

 無言で着地姿勢を取っている俺を、ゼルダが居た堪れない表情で見ている。

 

「無限階段(ループ)じゃねえか!!」

 

お前は姫様の話を聞いてなかったのか

 

 いや、横向きじゃなくて縦向きに進めば大丈夫なモンかと思って…

 

「振り出しに戻ってしまいましたね…」

 

「何か手掛かりがあれば……っ!静かに、何か聞こえる」

 

 インパは頭上の狐耳をピクリと動かしてそばだてる。狐耳の向きを変えながら音のする方を探し歩き、道の分岐をぐるりと回る。すると正解の道を見つけたのか、ピン!と狐耳が屹立する。

 

「こちらの道から笛の様な音が聞こえる」

 

「笛…?誰かが吹いているのでしょうか」

 

「なら、その道を進めば笛の音の主に辿り着くという事だな」

 

 迷いなく進むインパの後に続き、森を進んでいく。無数に枝分かれする道を抜けると、先程までの道とは異なり、まるで升目の様に整った十字路が続く道に変化する。

 十字の交差する地点には小部屋のような空間があり、小部屋の中心には切り株がある事も相まって人工空間の様な印象を受ける。

 

「道の雰囲気が変わった…」

 

「俺にも笛の音が聞こえるようになった。後少しだな」

 

 笛の音は俺の想像していたオカリナの物と異なり、横笛の音が響いている。

 『迷いの森』に横笛…いや、まさかな…

 時々、切り株の上に木の葉が舞っているのを横目に、3人で十字迷路を進んでいく。

 次第に大きくなっていく音は対面が近い事を予感させ、俺達に緊張が走る。

 道を進み小部屋に出ると、その中央の切り株で小柄な人型の『何か』が楽しげに横笛を吹いている。

 

 その小柄な『何か』は俺達の気配を感じ取り、笛から口を離してこちらを向く。その顔を見た瞬間、インパは大刀を抜き放ちゼルダを背に庇う。

 それは枯葉色の三角帽子を被り、裾の解れた布の服を纏っていた。何より目を引くのは、黄色く光る目と横広の口が浮かぶ──木人形の様な肌の──のっぺりとした顔。

 まさしく、そこにいた『何か』は人型の魔物そのものだった。

 

「何だアレは…背格好は小怪物(ゴブリン)に似ているが」

 

「森に住む『ゴブリン』、差し詰め『森小怪物(グリーンゴブリン)』といった所でしょうか」

 

「いや、元々『ゴブリン』は森住みじゃないか?(モリ)ブリンというには小さいしな」

 

「森ぶっ、おいガノン!真面目にやれ!」

 

 『迷いの森』なら『ゴブリン』じゃ無くて『モリブリン』だよな、と思いながらゼルダの言葉に突っ込んでたら吹き出したインパに怒られてしまった。すまん、ギャグのつもりでは無かったんだ。

 未だ構えを解かないインパや天然っぽいゼルダと異なり、俺がそこまで警戒していないのは目の前の『人型の魔物(モンスター)』に心当たりがあるからだ。

 やや弛緩した雰囲気を悟り舐められたと感じたのか、『人型の魔物』は地団駄を踏んで怒り出す。

 

「オイラをそんなダサい名前で呼ぶな!オイラは『スタルキッド』だ!『ゴブリン』でも『(モリ)ブリン』でもない!」

 

 全身で怒りを表現する『スタルキッド』。『ゼルダの伝説』なら喋る魔物も出てくるよなと思っていたのでそこまで驚きは無いが、『スタルキッド』とはな。

 『時のオカリナ』で考えるならサブキャラであるが、『ムジュラの仮面』で考えるなら大物(メインキャラ)が来たとも言える。

 感慨に耽るガノンの横で、ゼルダとインパは驚愕の表情を隠せない。

 

「「魔物(モンスター)が喋った!?」」

 

「ケケケッ、そこの2人は驚いてるな!なら…そこのデカブツも驚かせてやるよ!」

 

 次に起こった事は、今度こそ俺も驚かせられた。なんと、『スタルキッド』が指を鳴らした瞬間に渦巻く風が『スタルキッド』を覆い、姿を消してしまったのだ。

 『スタルキッド』は身軽な動きをするが、あれ自身にはあの様な能力は無かった筈だ。

 辺りを見渡して探していると、どこからとも無く声が聞こえてくる。

 

『オマエ達をここに誘ったヤツを知りたいんだろ?なら、オイラを捕まえてみな!』

 

 挑発する様な『スタルキッド』の声が森に響く。ご丁寧に笛の音まで鳴らしている様だ。鬼ごっこか…これも恒例と言えば恒例か?

 

「どうやら鬼ごっこに勝てば情報が得られる様だな、2人とも行くぞ!」

 

「いやいやいや、待てガノン!喋る魔物(モンスター)だぞ!?信用できるのか、というか魔物が喋ったんだぞ!少しくらい動揺しないのか!?」

 

「喋る魔物(モンスター)くらい探せばいるだろ、珍しくはあるだろうが」

 

「喋る魔物(モンスター)なぞ、そういてたまるか!」

 

「何でしょうか、ガノンの落ち着き振りを見てるとこっちも落ち着いてきました」

 

「姫様まで!?」

 

 喋る魔物(モンスター)に驚き混乱するインパと驚きが一周回って落ち着いているゼルダ。この世界では魔物(モンスター)が喋る、という事はかなりの出来事の様だ。

 

「インパ、驚くのも無理は無いが今は奴を捕まえるのが先だ。情報が得られるなら喋る方が得だろう?」

 

「それは…そうだが…!ええい、仕方ない!このまま立ち往生するわけにはいかん、お前に従うぞガノン!」

 

「その意気だ。任せろ、こういうのは得意でな!」

 

 笛の音を頼りに『スタルキッド』を追う。しかし、切り株に立つ『スタルキッド』はこちらに気付くと笑い声を残して渦巻く風と共に消えてしまう。見つからないように背後からにじり寄っても、『スタルキッド』は何故かこちらを見つけて同じように消えてしまう。

 全力疾走を続けたせいか、息を切らしたインパから苦言が漏れる。

 

「おい…ガノン、お前…こういうのは得意じゃ無かったのか…」

 

「まあ待て、逃げる相手を捕まえるには先ずは逃げさせないと」

 

「意味が分から…いや、奴の逃げ方を覚えるという事か?」

 

 俺を苦々しげに睨むインパだったが、流石は元『シーカー』。俺の言うことを直ぐに理解する。

 この十字迷路は障害物が無く、空間も見た目通りの繋がりで捕まえる速度や角度の問題でも無い。ならば、あの謎ワープのカラクリを解けば捕まえられるという事だ。

 

「奴が消える時には必ず渦巻く風が吹く。それが攻略法になる」

 

「渦巻く風…そう言えば、つむじ風が吹いている切り株が所々にあったような…」

 

「そう、つまり奴は風と自分を入れ替えている。風が吹いて消えるのでは無く、消えたから風が吹いたんだ」

 

「ガノン、それではまるで奴が空間を超えて瞬間移動している様に聞こえるが…あり得るのか?あんな小柄の魔物(モンスター)が?」

 

 インパは懐疑的な目をしている。確かに姿を見えなくしている可能性もあるが、『ゼルダの伝説』ならあからさまに置かれた切り株と風に関連性があると考える方が自然だろう。

 辻と辻風、『ゼル伝』らしい遊び心じゃないか。

 そう言うとインパは「そんなギャグじゃ無いんだから」見たいな冷めた目を向けられる。

 いや『ゼル伝』にはよくあるんだって。

 

「ではガノン、瞬間移動の仕組みがそれだとして、どう攻略するのですか?岩でも置いて塞ぐとかですか?」

 

「攻略法が力押し(パワフル)…まあ、それでもいいが今回は手っ取り早く行く」

 

 いうや否や、俺は弓に矢を番え引き絞る。すると鏃に渦巻く氷の魔力が宿る──

 

 船で出発する前にスキルを検証した際に判明した事だが、俺のスキル『精霊寵愛(ブレスオブネール)』の一文である"特定行動実行により【氷の矢】の詠唱破棄"の効果は"弓に矢を番えた状態で弦を引き絞る"事で【氷の矢】の詠唱を飛ば(スキップ)して魔法を放つという物だった。

 詠唱を飛ばすというだけで無詠唱魔法にするスキルではないためか、弓矢を引く段階で魔力制御を行わなければならず同じようなスキル持ちのゼルダは悪戦苦闘していたな。

 まあ、俺は詠唱無しでの魔力制御には慣れていたのでゼルダの横でバシバシ撃ってたが。その後、よほど俺の煽りがムカついていたのか小一時間くらいでゼルダも止まった状態でなら撃ちまくれるようになっていた。

 俺、結構頑張って身につけた技術だったんだけど…

 

 ──氷の魔力を宿した矢を切り株に放つと、人1人分の大きさの氷柱が生える。近寄って確認してみると、しっかりと風の渦は消えている。

 これなら行けそうだな。

 『スタルキッド』を追い、あたかも捕まえられなかった様に振る舞いつつ『スタルキッド』のいない切り株に矢を放ち凍らせていく。

 

「ククク…追い詰められた事に気づいた『スタルキッド』はどんな反応をするかな?」

 

「笑顔が悪役過ぎる」「もう少し笑い方を普通にした方がいいですよ」

 

 しょーがねーだろガノンなんだから。とまあ冗談はそこまでにしつつ、『スタルキッド』を追い詰める事に成功する。もはやここ以外の切り株は全て凍りついているからなぁ。

 

「あれ、おかしいな?なあ"フロル"、オイラ切り株に跳べないんだけど…」

 

「そこまでだ、『スタルキッド』。もう逃げ場は無いぞ」

 

 風のワープが使えなくなったのか見えない何かと話しているが、後は捕まえるだけだ。

 

「おい、オマエ!オマエが何かしたんだろ?せっかく"鬼ごっこ"を楽しんでたのに…」

 

「捕まえたら情報を吐く約束だったろう?さあ、俺達を迷わせた元凶を言え」

 

 しかし『スタルキッド』は切り株の上でふんぞり返り、話す素振りを見せない。

 

「ケケケッ…それは"捕まえたら"だろ?まだ遊びは終わってない」

 

 『スタルキッド』は腰に吊り下げていた木製の飛去来器(ブーメラン)を手に取り、交戦の意思を見せる。

 

「今度はオイラが鬼だ。オイラのブーメランから逃げられるかな?」

 

「舐めた真似を…直ぐに捕まえてやる」

 

「ケケケッ…やれるもんならやってみな!」

 

 『スタルキッド』はブーメランを振りかぶると、ブーメランに渦巻く風が宿る。

 

「何っ?」

 

「ヒヒッ、『疾風のブーメラン』!」

 

 

 投げられたブーメランは竜巻を纏いながらこちらに襲いかかる。咄嗟に剣で受け止めるが、その瞬間に風が吹き荒れて俺の身体を切り裂く。

 

「当たった、当たった!」

 

「お前の相手はガノンだけでは無いぞ」

 

 俺にブーメランを投げている隙に、インパが『スタルキッド』に背後から近づき大刀を振りかぶる。しかし、『スタルキッド』は振り返る事なく片手を上げる。

 

「キツネ、それじゃオイラは捕まえられないぞ」

 

「なっ」

 

 『スタルキッド』が指を鳴らすと、俺と『スタルキッド』の位置が入れ替わる。あいつ、いつの間に!?

 

「よ、避けろ!」「うおおお!?」

 

 振りかぶっていた大刀を振り降ろさないように踏ん張りたたらを踏むインパと急に景色が変わり混乱した俺は対応出来ずに正面衝突し、もんどり打って後ろに倒れてしまう。

 俺は急いで立ち上がろうとするが、上にのしかかるインパの重みで再び尻もちを着いてしまう。

 

「ま、待てガノン。私が先に立つから、お前は動かないでくれ!肌に息が当たってこそばゆい…」

 

「お、おう…分かったから早く退いてくれ、この姿勢はマズイ…」

 

 今のインパの服装は前衛をする事もあり『ゼルダ無双』のインパの様に軽装甲を所々に着けているタイプの装束なのだが、何故か胸元だけ布地が空いており俺に覆い被さる様な姿勢のインパの胸元がちょうど顔の所に来ている。

 前世の日本人フェイスなら兎も角、いまはゲルド族特有の鼻の高い顔のせいでインパの豊かな谷間に鼻先が掠めていて…とにかく色々とヤバい!

 

「イチャついてないで早く起き上がって下さい!!」

 

「「イチャついてなどない!!」」

 

 弓矢を放って応戦するゼルダの叱責に跳ね起きるインパと俺。くそう、この世界のインパはどうにも『ゼル伝』らしくない!

 頭の中で責任転嫁しつつ『スタルキッド』の動きを観察する。

 風を纏ったブーメランを受け止めると風を付与されてしまう…なら、撃ち落とすしかないが…

 変幻自在の軌道で襲いかかるブーメランを必死に避ける。こんなのに当てるのは難しすぎる!

 

「ゼルダ、インパ!『スタルキッド』を3人で矢で狙う!」

 

「っ分かった!」「分かりました!」

 

 俺の言葉に直ぐ対応して2人で『スタルキッド』に矢を放つ。すると、『スタルキッド』は避けられなくなったのか、慌ててブーメランを手元に呼び寄せてワープする。

 風を纏った物が手元にないと本体はワープ出来ない様だな。やはり、ワープの能力は『スタルキッド』の物ではない!

 

「どうした、その程度か?」

 

「うるさい!これでもくらえ!」

 

 連続でワープを繰り返した後に背後から俺にブーメランを投げる『スタルキッド』。だが、ネタが割れていれば怖くはない!

 

「隙を晒したな」

 

「アッ!オイラのブーメランが!」

 

 振り向き様に弓で【氷の矢】を放ちブーメランに矢が当たる。本来であれば纏っている風で矢を弾かれるが、矢に宿る氷の魔力が解放されブーメランを凍らせる。同時に、ブーメランに宿る風の魔力も対象を見失い霧散していく。

 ブーメランは封じられ、ワープに必要な風は今使い切った。これでゲームセットだ。

 

「観念しろ、『スタルキッド』。もう遊びはお終いだ」

 

「うう、く、悔しいー!」

 

 3人に囲まれた『スタルキッド』は悔しさのあまり地面に寝転んでジタバタと暴れ出す。まるで子供の癇癪の様なその仕草を見て、警戒をしていたインパも毒気を抜かれる。

 

「不思議な感覚だな…見た目は魔物そのものなのに、この子には魔物に抱くような生理的な嫌悪感を感じられん」

 

「そうか?俺にはいつも通りに感じるが」

 

「お前はもう少し危機感を持て」

 

『ほっほっほ、仲が良いようで何よりじゃな』

 

 突如、脳内に響くような老人の声が聞こえてくる。さっきの『スタルキッド』の声とは異なり、何処から聞こえてきているのかも全く判別が付かない。まるで、森そのものが喋り掛けて来ているような──

 

「誰だ?何処から話している?」

 

「ガノンにも聞こえましたか?一体誰が…」

 

「ま、待って下さい、姫様、ガノン…先程から私達以外の声は聞こえていませんが…何の声を聞いたのですか?」

 

 ゼルダは俺と同じように声が聞こえた様だが、インパには聞こえていない様で青ざめた顔で俺達の顔を見ている。

 青ざめているインパの背後で『スタルキッド』が飛び起きる。

 

「デクの樹サマだ!」

 

「デクの樹…?もしや森の精霊の?」

 

「知ってるのか、ガノン!」

 

「いや、適当に言っただけだが」

 

 思わず口をついて出た言葉に反応したインパに、咄嗟に誤魔化す。だが、ゼルダは半ば確信を持った目で俺を見ている。この場で声が聞こえたのは『スタルキッド』を除いて精霊の加護と思わしきスキルを持った人間だけ。ゼルダはそれに思い当たったのやもしれん。

 

『いや、そこの赤髪の少年の言った通りじゃ…ワシはデクの樹、この森の精霊じゃよ。立ち話も何じゃ、ワシの元へ案内しよう』

 

 森の木々がざわめくと同時に頭の中に響く声が、俺達に語りかけてくる。そして、迷路を形成していた樹木が自身の根っこを地面からズボズボと抜いて歩き出し、ゾロゾロと行列を作りながら動き道を作る。

 

 まさか、この森の木は全て歩けるのか…?

 森が文字通り形を変えて一際大きい樹木へと繋がる道を作るのを見ながら、俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

 

 木が並ぶ一本道を通った先には、森の木の数十倍の大きさがある大樹が待っていた。長い年月を生きたであろうその大樹は深い皺を刻んでおり、老人の顔の様にも見えた。前世でも見覚えがある。あの大樹こそ、森の精霊…『デクの樹』だ。

 

『ほっほっほ…よく来たの、光の姫(ゼルダ)狐の供(インパ)、それに獣の王(ガノン)よ』

 

「よく言う、お前が俺たちをここに誘導したのだろう?」

 

「ガノン!相手は精霊様なのですから、もう少し礼儀というものを…」

 

『よい、ゼルダよ。ワシには人の作法は分からんのでな、楽にしてくれ』

 

 デクの樹がそういうと、切り株がトコトコと歩いてきて俺達の前で「座ってくれ」と言わんばかりに地面に埋まる。もしかして切り株も生きてたのか…?俺は思わず切り株を撫でてしまう。切り株は「気にするな」と言わんばかりに根っこでガッツポーズ?を作る。

 お前凄いな、さっきは凍らせてごめんな。

 俺達が切り株に座ると、デクの樹が話し出す。

 

『まずは謝らせてくれ、お主達を試すような事をして済まなかった』

 

「そこの『スタルキッド』以外では特にケガは負ってないから問題は無いな」

 

 『スタルキッド』を横目で睨むと、しゅんとした様子で肩を落とす。さっきの生意気な雰囲気と異なり殊勝な態度を取っている。デクの樹を慕っているようだし、さながら親の前でヤンチャを叱られる子供の様だ。

 

『スタルキッドの遊び相手になってくれてありがとう、こやつは森でずっと1人ぼっちだったんじゃ。森の木や精霊が話し相手になってくれるとはいえ、こうして人間の遊びが出来る相手は居らんかったのでな』

 

 その声には『スタルキッド』への慈愛に満ち溢れており、『スタルキッド』も指で鼻の下を擦り照れ臭そうにしている。

 

『実を言うと、お主達を呼んだのはワシではないのだがな。ワシもお主達を見定めたく思ったのじゃ…『厄災』に挑まんとするお主達の実力と覚悟をな』

 

「そこまでお見通しという訳か。その割には手緩い試練だったが」

 

「私が居なければ迷っていたお前がいうか」

 

 インパのじっとりとした視線が俺に突き刺さる。べ、別にあの後同じ事を試そうとしてたし…

 

妖精(エルフ)狐人(ルナール)、アマゾネス。異なる種族が手を取り合い協力している、お主達の事が知りたかったのじゃよ。あの試練はお主達の絆の形を知るためのものであり、半分はあの子のための試練じゃった』

 

「あの子のため?」

 

 思わず『スタルキッド』を見る。『スタルキッド』はデクの樹の話を理解しているのかいないのか、俺の視線に気付いても首を傾げるだけだった。

 

『かつて、とある妖精(エルフ)の子が『厄災』に立ち向かった。妖精(エルフ)の子は『厄災』を封じる事に成功したが、同時に酷く傷ついてしまっていた。己の命がもう長くないことを悟った妖精(エルフ)の子は『厄災』の完全討伐を自身の子孫に託すことにしたのじゃ…その妖精(エルフ)の名を"ハイリア"という』

 

「ハイリア…もしや女神ハイリア様!?」

 

 その名前にゼルダが立ち上がり驚愕の声を上げる。今では実在の神では無い事が判明し、ゲルドの古い伝承ではハイラル建国の祖はエルフとヒューマンの男女だったと聞いている。

 つまり、ハイリアは実在の人物でありかつて『厄災』の封印に関わっていたという事か。

 

『ゼルダよ…お主はハイリアの血を引く子孫。そのお主の下に、当時と同じく三精霊が集い始めた事を知り、運命の時が近づいている事を悟ったのじゃ』

 

「三精霊…もしや、力・勇気・知恵を司る三女神であるディン・フロル・ネール様の事ですか?」

 

『左様。人の世にはそう伝わっている様じゃが、当時ハイリアと交誼を結んだ炎・風・水の精霊達の名じゃ』

 

「水…俺の魔法は氷っぽいが」

 

『三精霊達はかつてハイラルの自然を作り上げた程の力を持っていたのじゃが、『厄災』封印の戦いで消耗し、幾つかの力を分けてしまっている。水の精霊ネールは水と癒しの力を各地の泉に、対『厄災』用の力を魔法として封じておった。ガノンは魔物が狙っていたネールの魔法を守ったのじゃよ』

 

「そうだったのか…」

 

 新事実を次々と聞かされてしまい、開いた口が塞がらない。砂漠でのあの戦い、精霊のネールが力を貸してくれていたのか…

 ということは、【炎の矢】を発現したゼルダもディンから魔法を受け継いだという事か。

 

『ここまで話せば分かるじゃろう。お主達をここに呼んだのは、残る風の精霊・フロルじゃ』

 

「フロル…!フロルには意思が残っているのか?」

 

『フロルは力を分けて封じる際に魔法以外の力は殆ど人格を残す為に使っておった。それはディンとネールの力を悪用する者が現れないか見守る為じゃ…お主達の船を迷わせてここへ導いたのもフロルがハイラルに残した力の一つじゃよ』

 

 ディンとネールの加護を宿す人間がハイラルを出ようとしたからフロルがその人間を見定める為に迷わせた…というのが今回の真相か。

 デクの樹がこうして話してくれているという事は、どうやらフロルには認められた様だな。

 

『しかし、それもワシら森の精霊の力が満ちる領域の中だけの事…フロルの力と紐付けられた魔法が森を離れれば、たちまちフロルの人格はただの力の塊に戻ってしまうじゃろう』

 

「そんな…」

 

 小さい頃から聞かされていた伝承の存在と会えたのも束の間、ここを出れば別れが来てしまうという事実にゼルダはショックを受けているようだ。実際に人間の目線では、死にかけの命から生命線を引き抜く様な物だ。ハイラル王家として伝承を聞いていたゼルダにとってはキツイだろうな。

 

『気にするでない、ゼルダよ…フロルも最初から覚悟しておった事じゃ。それに精霊としては、力が失われない限りは"死"にはならんよ』

 

『精霊の本当の死とは、受け継ぐ者がおらず力を失ってしまう事じゃ』

 

 ゼルダは息を飲み、そして力強い目線でデクの樹を見上げる。そこに恐れや怯えは無く、強い覚悟と意思を感じる。

 

『ほっほっほ、ハイリアを思い出す良い目じゃ。そこで、フロルの力を受け継ぐ者じゃが…今のお主達では1人に2つの精霊の力を宿すには器が足らん。継承にはもう1人分の器が必要じゃ』

 

「もう1人の器が必要…俺とゼルダ以外の人間が必要という事か」

 

「そういうことか」

 

 インパが狐耳を奮い立たせ、毛並みの良い尻尾を揺らしながら毅然とした顔つきでデクの樹の前に立つ。

 

「デクの樹様、私にはあなたの声は聞こえないが…私は命に代えてでもゼルダ様をお守りする覚悟はあります。『厄災』討伐の旅からも決して逃げることは無いと誓います。どうか、私にフロル様の加護を授けて下さい」

 

 インパはデクの樹に跪き、自身の覚悟を語る。悲痛なまでの想いが込められた誓いの言葉はデクの樹にも届いた様で、デクの樹はインパに向けて──

 

『ありがとう、インパ。しかし、精霊の力の継承には条件があるのじゃ』

 

 ──本当に申し訳なさそうに断りの言葉を投げかけた。

 

『精霊の力は精霊が認めた者にしか受け継がれん。フロルの人格が残っているとはいえ、それは本人では無い。力を残した時のフロルの残響の様なものじゃ…継承条件は変えられんのじゃよ』

 

「精霊の力の継承には条件がある、ならばフロルの定めた条件とは何だ?」

 

 デクの樹へと問いかける。インパも『シーカー』として修練を積んでいる実力者。そのインパが継承出来ないのであれば、その理由は一体何なのか。俺達はデクの樹の言葉を待つ。

 

『フロルの定めた条件とは…"無垢なる心を持った勇気ある少年"じゃ』

 

「「はい?」」

 

 俺とゼルダは揃って声を上げる。随分と限定された条件だ…だが、『原作』においてフロルは勇気を司る。この条件がリンクを指しているのであれば納得は──

 

『金髪碧眼の美少年であれば尚良いとの事じゃ』

 

ふざけてるのか?

 

『本当に申し訳ない』

 

 ──納得がし難い条件が付け足されて思わず語気が強くなってしまったが、デクの樹は気にする事はなく、本当に申し訳なさそうにしている。

 

『容姿については絶対の条件ではないが、一応彼女らもハイリアの予知を参考に条件を定めたのじゃ…少し選り好みはしているが、至って真面目じゃよ…?』

 

「そうか、そうだよな…」

 

『インパに継承出来ないのは"胸の大きな女には死んでも宿らない"と定めたせいじゃが』

 

何なんだよ!ソイツ本当にフロルなのか!?」

 

『ハイリア、ディン、ネールと異なりフロルは慎ましやかだったからの…ゼルダの器が成長しておれば問題はなかったのじゃがの…』

 

聞き捨てならないのですが…

 

 ゼルダが姫のしてはいけない形相を見せており、それを見たインパとスタルキッドは震え上がり身を寄せ合っている。

 その胸の膨らみは平坦であった。

 

「気にするなゼルダ…お前は美人だし、エルフ的には美徳だろう?問題は無いさ」

 

「ガノン…ぶち殺しますよ?(ありがとうございます)」

 

「姫様…本音と建前が…」

 

 満面の笑顔で殺意が滲み出ているゼルダから目を逸らす。なんか俺の思ってた精霊と違うんだけど…

 

『精霊とは神の分霊にも近い存在じゃ。個体差はあるが、元の神に近い性格の精霊もおるのじゃ』

 

「もういい、何となく理解した」

 

 つまり、精霊の中身はウチのセクハラトークをかましてくる主神と同類という事だ。俺の中にあった精霊への幻想が音を立てて崩れていくのを感じる。

 これなら大妖精(64版)の方がまだマシだった…!

 

 

『お主達に頼みたいのは、スタルキッドを共に連れて行って欲しいのじゃ』

 

「『スタルキッド』を連れて行くだと?」

 

「ん?オイラ?」

 

 また話を聞いていなかったのか、首を傾げている。こんな子供を連れて行けというのか…?

 

『理由はある。このスタルキッドは、この森がまだハイラルと繋がっていた時に森へと逃げ込んだとある女がワシに託した子供じゃ』

 

 想像していたよりも遥かに重い理由に困惑する。というか、なんか聞いたことがある様な…

 

『しかし、ワシの下に着いた頃にはその子供は亡くなっておった。母が命を懸けて助けを求めた子の亡骸が魔力によりアンデットとして人を襲うのは忍びないと思うてな…スタルベビーと成り果てる前に、ワシの魔力を分け与えて森の子とした。子供の成れの果ての森の子…それがスタルキッドなのじゃ』

 

 『原作』では森で迷った子供の成れの果てと噂され、複数いる様子だったが、この世界では森の精霊・デクの樹の眷属じみた出生で生まれた魔物らしい。

 

『じゃが、この子は人と変わらぬ心で生まれてきた。フロルの力の器に成れる奇跡の子なのじゃ。その無垢なる心はフロルの遺した意思とも心を交わしてある。必ずやお主達の力になるじゃろう…』

 

 予想はしていたが、あの風ワープはフロルの力だったか。これでディン・フロル・ネールの加護が揃ったが、この世界では彼女たちは精霊であり神では無い…トライフォースの力も存在しない。果たして無理をして揃える必要はあるのだろうか?

 

「コイツを連れて行ってまで精霊の力を揃える必要があるのか?まだ子供のコイツを、『厄災』との戦いに連れて行くのが正しいことなのか?」

 

『ディン、フロル、ネールの力が揃っている必要があるのじゃ…今はまだ言えぬがな』

 

 デクの樹の意思が、俺を向く。何かを見定めるかのように俺を見ているような感覚に陥る。警戒している?その割には、敵意は感じないが…

 

「ねえねえ、オイラを外に連れて行ってくれるの?オイラ、外を見てみたい!」

 

「おい、これは遊びじゃ無いんだぞ…」

 

「分かってるって!その『やくさい』って奴を倒してやればいいんだろ?オイラとフロルが一緒なら楽勝さ!」

 

 やはり、俺のいう事を理解していない…ここは厳しく言ってやる必要があるか?そう思って叱ろうとするが──

 

『頼む、優しく勇敢な者達よ…ワシらに残された時間は少ないのじゃ…』

 

 デクの樹の真剣な言葉に、その言葉に込められた想いに、気付いてしまう。デクの樹の枝葉は半ば枯れかけており、その肌色も褪せて来ている事に。寿命が近いのだと。

 

『フロルの力を保護するのにワシも力を使い過ぎた。後数十年もしないうちにワシは枯れ果ててしまうじゃろう。もう子供を作る魔力も残っておらん…じゃが、それは元から決まっておったこと。ハイリアは予知していた。この時代に『厄災』を討つ勇者が生まれる事を…ワシはお主達がそうなのではないかと思うておる』

 

 スタルキッドには聞こえない様にか、小さい声で俺に語りかけてくる。デクの樹が、俺達にそこまで期待を掛けてくれているのか…!

 

 

「分かった。スタルキッドを連れて行こう」

 

「本当!?やったあ!」

 

「何、正気かガノン!こんな、まだ子供…」

 

 そこでインパは言葉を詰まらせる。俺が本気だと気づいたのだろう。

 

「いや、お前がいる時点で今更か…分かった。【エポナファミリア】の団長はお前だからな、団長の決定なら従うさ」

 

「すまないな」

 

 俺達は新たな仲間を連れて森を後にする。森の木々に見守られながら。小さい冒険者の誕生を祝福する様に、森の道には暖かな日差しが降り注いでいた。

 

 

G

 

 

「オラリオに連れて行くのであれば、魔物であることは隠さなければなりませんね」

 

「そうだな。顔は仮面か何かで隠すとして、流石に名前は必要じゃないか?」

 

「スタルキッドだけだと怪しまれそうですものね」

 

「オイラに名前をくれるの!?どんな名前?どんな名前?」

 

「そうですね…翡翠(ジェイド)なんてどうでしょうか?」

 

「うーん、カッコいいけど…なんか硬そう」

 

「硬そうなのが嫌なら、木葉(コノハ)はどうだ?」

 

「女の子っぽくて嫌」

 

「悩みすらしない…だと…?」

 

「ガノンはさっきから静かですが…何か案はありますか?」

 

「…誤魔化せれば何でも良くないか?」

 

「そんな事言わないでください、名前は一生に一度の大切な送り物なんですよ」

 

「そーだ、そーだ!」

 

「ええ…?そうだな…子供…子供リンク…子リンク…"コリン"とかどうだ?」

 

「今すごい安直に決めなかったか?」

 

「気のせい気のせい」

 

「本当か?なら由来を話してみろ、適当かどうか確認してやる」

 

「ええ…?単純に、子供の頃から憧れてる物語の主人公の名前に肖った物だが…」

 

「興味なさそうな顔をして真面目に考えてた…!」

 

「いやそこまで重く捉えなくてもいいが」

 

「こりん、こりん、"コリン"…へへッ、まるで木の実の音みたい…いいな、これ!」

 

 

「決めた!オイラの名前は"コリン"だ!スタルキッドのコリン!ガノン、ゼルダ、インパ…これからヨロシク!」

 




次回からやっとオラリオです。
亀更新になりますが、よろしくお願いします。
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