魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

13 / 18
オラリオ編・迷宮攻略の章
第12話・いざオラリオ


 馬の蹄が大地を踏み、木の車輪が回る音が青空の下に響く。

 

 馬車は積荷を揺らし平原の道を進む。

 

 複数の馬車が連なり進む隊商(キャラバン)の先頭馬車に、【エポナ・ファミリア】は乗っていた。

 

「それにしても私達を乗せてくれる隊商に会えるなんて、運が回って来ましたね」

 

「精霊様の森から船で再出発できたはいいものの、港に着いてからは災難続きでしたからね…」

 

 

 オラリオ行きの隊商(キャラバン)に巡り会えた幸運を喜ぶゼルダに、疲れた表情を隠せていないインパが答える。いつもはピンと立っている狐耳が今や見る影もなく萎びれている。

 

 

 ゼルダはハイラルを離れて顔を隠す必要が無くなったためか、シーカー装束ではなく動きやすいズボンタイプの服装に着替えている。ゼルダ姫を象徴する赤い宝石の頭飾り(サークレット)は外しており、長く美しい金髪を後頭部でポニーテールに纏めている。

 ゼルダが髪型を変えた当時は、エポナはポニーテールを見て『お揃いだー!』と主神(おや)馬鹿を丸出しで狂喜乱舞していた。

 

 インパは相変わらず忍びのようなシーカー装束に和風の軽装甲を追加した、いわゆる『ゼルダ無双』に近い服装を着ている。

 軽装甲の上からも分かるインパの豊満な肢体に、エポナは『やっぱボインはやばいって』と変態丸出しでガノンに猥談をしてインパに密告さ(チクら)れていた。

 

 

 

 今から数ヶ月前、森の精霊『デクの樹』との問答を終えた後、コリンという新たな仲間を加えた俺たちは船に戻った。霧に迷わされて座礁していたと思われていた船は、幻でそう見せられていただけで実際には動く樹木(デクボク)によって島に繋ぎ止められて居ただけだった。

 

 俺たちが船に戻った時には幻が解けていたようで、錨を下ろした船から降りた船員たちが地面に這い蹲り肩?で息をしている精霊樹の僕(デクボク)達を介抱しているという、何とも気の抜ける光景が広がっていた。

 

 見た目が完全に魔物(スタルキッド)のコリンを連れて戻った時はエポナと船員達は仰天していたが、船員達は神秘の島(ハイラル)育ちのためか『まあ、喋る魔物ならいるんじゃねえの?』と早々に受け入れられ、女神(エポナ)は『あれぇ!?これ私の方がおかしいの!?』と驚倒していた。

 

 

 ゼルダ達の話し声が聞こえたのか、馬車の御者を勤めてくれている『隊長』の男が振り返る。

 

 

「いやいや、あんた達がウチを襲って来た盗賊達を退治してくれたお陰で全く損害なしだったじゃないか!こういう時『恩恵』持ちの冒険者(ゴロツキ)共は大体足元見てくるもんだが、あんた達はオラリオまで乗せていくだけでいいと来た!そりゃあ乗せるに決まってるさ」

 

 

 中年のヒューマンの男は気の良さそうな笑みを浮かべながら、逆に【エポナ・ファミリア】に感謝の気持ちを伝えてくる。『隊長』の言葉にインパの顔にも活気が戻ってくる。

 

 

「ただ、災難続きだったのは確かですね…まさかオラリオ近辺に来るまで4体もの大型魔物(モンスター)と戦う事になるとは思いませんでした」

 

「へえ、道理で強かった訳だ!今のオラリオの冒険者達よりよっぽど冒険してるんじゃないか?」

 

 

 ゼルダの言う通り、【エポナ・ファミリア】はここに来るまでに多くの試練に襲われていた。

 

 船で港に着いた時に、大人気楽団(バンド)のライブで盛り上がっている会場を巨大魚の魔物(モンスター)に襲われたため、その場の冒険者が駆り出され協力して討伐。

 

 海の魔物(モンスター)の恐ろしさを目の当たりにした事で陸路を進む事になり、平原を通った先の山脈を越える際に巨大山羊の魔物(モンスター)に遭遇。山に住むドワーフの鍛治集団、ゴロン衆と協力して追い込み脳天を【炎の矢】で撃ち抜いて討伐。

 

 山を抜けてしばらく進んだ後の砂漠でラクダを捕獲(テイム)した所で巨大百足(ムカデ)魔物(モンスター)の襲撃でラクダを喪失。故ラムセス1号(ラクダ)の敵討ちで巨大百足(ムカデ)に挑み氷漬けにして討伐。

 

 ラムセス1号(不敬)を失った悲しみに暮れつつ砂漠を抜けた先の街で情報収集した所オラリオのある大陸とは地続きではない事が判明し、そこから何やかんやで海を越え山脈を越え密林を越え…と言った所で仮面を付けた巨人(トロール)に襲われて討伐。

 

 

 

 そして草原に抜けた先で先の隊商(キャラバン)が盗賊に身を窶した冒険者崩れ(Lv.1)の集団に襲われているところを助け、冒頭に繋がる。

 

 

 …改めて振り返ると魔物(モンスター)に襲われすぎである。

 

 エポナからは『どこぞの女神か何かでも口説いた?明らかに神が関わってそうな試練っぷりだったけど』と言われたが、戦争の神(テウタテス)旅人の神(エポナ)以外の神には会ったことも話したこともないので心当たりが無い。

 

 強いて言うなら故郷で信仰される『女神ゲルド』だが、神託でしか関わる事がなくガノンの目線では実在するか怪しい所だ。

 しかし、途中で遭遇した大型魔物(モンスター)にはどれもゲルド砂漠で討伐したクィンギブドが持っていた『紫紺の石杭』と同じものが体内に入っていた。

 魔物(モンスター)を討伐した瞬間に役目を終えたかのように黒い靄と共に崩れ去ったため『石杭』の詳細は掴めていないが、今世の神に疎いガノンから見ても何か執着じみた意思を感じたほどだ。

 

 

 

「ですが、そのおかげで上質な『経験値(エクセリア)』を獲得する事が出来ましたからね。ガノンは仮面の巨人(マスク・トロール)討伐でLv.2にランクアップ、私もあと少しでランクアップ可能とエポナ様に言われました」

 

「ゼルダ様は山での巨大山羊(ビッグゴート)をほぼ一撃でしたからね」

 

 あの山羊はとにかく止まらなかったからな…ゼルダを先回りする位置に運んでからフルパワーの【炎の矢】で仕留めた。

 

 流石は魔法種族(マジックユーザー)であるエルフの魔法といったもので、俺の【氷の矢】と比べて凄まじい威力だった。

 

 詠唱によって放たれたゼルダの魔法はもはや『矢』というよりは『光線』と形容するべき勢いで巨大山羊の頭から尻まで貫通し焼き滅ぼし灰に帰していた。

 

 あの光景をみた俺とインパは、『迷宮(ダンジョン)』ではなるべく詠唱破棄(スキル)で使わせようと密約を結んだ。

 

 

 

「うう…あと少しでオラリオだと思うと、胃が痛い…」

 

 

 オラリオに近づくに連れて戦意を高めていく眷族(こども)達とは反対に、主神(おや)であるエポナは顔色を悪くしていた。

 

 オラリオに仲の悪い神がいるのだろうか、あるいは何の相談もせずに魔物(スタルキッド)を仲間に加えた事だろうか。

 

「エポナ、大丈夫?木の実食べる?」

 

 コリンはエポナに隊商の人間から貰った食用の木の実をエポナに差し出す。

 

 コリンは魔物(モンスター)である事を隠すため、スタルキッドの服の上からハイラルの旅装を縫い直して作った青いケープと黄狐(キータン)のお面*1を着せていた。

 

 子供程の背丈から成長することが無い小鬼(スタルキッド)の種族特性を誤魔化すために小人族(パルゥム)として紹介している。本人に名乗らせないのは嘘を吐けない性格である事と、下界の人間の嘘を見抜く神対策である。*2

 

「ありがとう、コリン君は優しいね…」

 

 エポナはコリンに渡された木の実を齧ると、曖昧な笑みを浮かべてお礼を言った。

 

 

「エポナ、体調が悪いなら無理はするなよ?流石に主神を放って『迷宮(ダンジョン)』に潜れるほどの人員は居ないからな」

 

「そうですよエポナ様、私達の事は気にせず遠慮なく仰ってくださいね」

 

「君たちもありがとう…でもこれは精神的な物だから大丈夫だよ…」 

 

 先と変わらずエポナは曖昧な笑みでこちらを見るばかりで、むしろより煤けて見える。

 

 

(言えない…胃が痛いのは君達の『スキル』のせいでもあるなんて…!)

 

 

 エポナは曖昧な笑みの裏で爆弾だらけの眷族に想いを馳せる。

 

 正体が魔物(モンスター)のコリンは殿堂入りとして、ガノンとゼルダのスキルも神目線ではかなりの問題児だった。

 

 

 最初の眷族であるガノンは『恩恵』を刻んだ時から発現していた『スキル』、『魔王憧憬(レガリス・フォーゼ)』。晩成する、というマイナスなのかプラスなのか分かりづらい謎の効果を持っている上、本人の言動を聞く限り憧れているのは『勇者』の筈にも関わらず魔王の名前で発現しているのも謎だ。

 

 

 おそらく、経験値に作用する効果のスキルは非常に珍しい。オラリオに犇めく神々にバレたら追い回される事は間違いないだろう。

 

 

(しかも『晩成する』はずなのに基礎アビリティの伸びがやたら良いって何なんだ…!)

 

 

 ガノンがLv.2にランクアップする直前の基礎アビリティは敏捷のCを除いてオールAの数値で、魔物(モンスター)を倒すたびにまるで大量の経験値を注ぎ込まれた様な上がり幅をする【ステイタス】にエポナは『スキル』の効果を見間違えたのでは無いかと目を疑ってしまった程だ。

 

 

(一応ガノン君にはがっかりさせない様に『魔王憧憬』は隠していたけど…余計話せなくなってきたよ)

 

 最初はエポナの主神(おや)心が見せた優しさだったが、『スキル』と【ステイタス】が矛盾し始めた事で誰にも明かせない重い秘密になってしまった。

 

 

(そしてゼルダちゃんの『スキル』もおかしいんだよね…精霊の加護っていうのは二人目だからもうスルーしたとしても、主神である私にも秘匿される効果って何さ!?しかもアビリティ数値に至ってはゼルダちゃんは魔力Sカンスト間近とか!)

 

 

 

 ゼルダの持つ『スキル』、『精霊光炎(オルディン・ブラッド)』は【炎の矢】の詠唱破棄の効果と精霊に由来する魔法の強化を行える物だが、エポナがガノンの『スキル』をあえて伝えなかったのとは異なり、エポナの目から見ても『スキル』の効果の一部が塗り潰しで見えなくされていた。

 

 更にはゼルダの基礎アビリティは魔力以外はIかHといった低ランクだが、魔力アビリティのみS…900台に到達していた。

 

 確かに後衛としてよく魔法を使用していたが、それでも『迷宮(ダンジョン)』に潜る前からこの異常な上がり幅には疑念を抱かざるを得なかった。

 

 まるで何かに手を加えられているのでは無いか…そう思ってしまったのだ。

 

 

 もはや希少種族な筈の狐人(ルナール)であるインパが一番異常が無いという逆転現象を起こしている眷族達に、エポナの胃は捻じ切れそうな程にキリキリと痛みを発していた。

 

 

 

(いや、これから可愛い眷族(こども)が旅をするっていうのに、主神の私が弱気になってどうする!たとえどれ程追い詰められようとも、眷族(かぞく)達の秘密は守ってみせる!)

 

 

 両頬を張り、気合を入れ直しているエポナの様子を当の本人達は『元気になって良かった』と微笑ましげに見ていた。主神(おや)の心眷族()知らずである。

 

 

「おっ見えてきたぞ、ほら!あれが『迷宮都市』オラリオだよ!」

 

 

 

 『隊長』の声が【エポナ・ファミリア】に投げかけられ、旅人の眷族達は我先にと馬車から顔を出して外を見る。

 

 遠景に見える巨大な市壁に、それをも遥かに超えて聳え立つ白亜の摩天楼。

 

 この世界に生まれ落ちて十年数ヶ月。異世界の神秘に慣れてしまったガノンの心に、再び子供の頃の様な無邪気な冒険心が灯り燃え上がっていくのを感じる。

 

 

迷宮都市(オラリオ)…あれが、『世界の中心』!」

 

 

 

 今すぐにでも駆け出してしまいたくなる衝動を抑えるべく胸に溜まった(ねつ)を外に吐き出す。

 

 周りを見れば、(ゼルダ)も、魔物(コリン)も、普段はお堅い従者(インパ)さえも魅了されたかの様に目を輝かせて『都市』を見つめている。

 

 

 

 前世で『ゼルダの伝説』のオープニングを初めて見た時の記憶が蘇る。

 

 この感動、この衝動、この熱望!これが──『冒険』!

 

「皆、『冒険』をするぞ。俺達が作るんだ、前人未踏の『伝説』をな」

 

 

 ゼルダが、インパが、コリンが俺を見て頷く。『厄災討伐(エンディング)』までの道のりは遥かに遠い。だが、オラリオという人類終焉との最前線を目の前に意思は研がれ、魂は燃え上がる。

 

 【エポナ・ファミリア】の冒険が、始まる。

*1
メイドインガノン

*2
コリンは魔物であるが、試しに確認したら嘘を判別できた

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。