魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか 作:黄巻紙
第12話・いざオラリオ
馬の蹄が大地を踏み、木の車輪が回る音が青空の下に響く。
馬車は積荷を揺らし平原の道を進む。
複数の馬車が連なり進む
「それにしても私達を乗せてくれる隊商に会えるなんて、運が回って来ましたね」
「精霊様の森から船で再出発できたはいいものの、港に着いてからは災難続きでしたからね…」
オラリオ行きの
ゼルダはハイラルを離れて顔を隠す必要が無くなったためか、シーカー装束ではなく動きやすいズボンタイプの服装に着替えている。ゼルダ姫を象徴する赤い宝石の
ゼルダが髪型を変えた当時は、エポナはポニーテールを見て『お揃いだー!』と
インパは相変わらず忍びのようなシーカー装束に和風の軽装甲を追加した、いわゆる『ゼルダ無双』に近い服装を着ている。
軽装甲の上からも分かるインパの豊満な肢体に、エポナは『やっぱボインはやばいって』と変態丸出しでガノンに猥談をしてインパに
今から数ヶ月前、森の精霊『デクの樹』との問答を終えた後、コリンという新たな仲間を加えた俺たちは船に戻った。霧に迷わされて座礁していたと思われていた船は、幻でそう見せられていただけで実際には
俺たちが船に戻った時には幻が解けていたようで、錨を下ろした船から降りた船員たちが地面に這い蹲り肩?で息をしている
見た目が完全に
ゼルダ達の話し声が聞こえたのか、馬車の御者を勤めてくれている『隊長』の男が振り返る。
「いやいや、あんた達がウチを襲って来た盗賊達を退治してくれたお陰で全く損害なしだったじゃないか!こういう時『恩恵』持ちの
中年のヒューマンの男は気の良さそうな笑みを浮かべながら、逆に【エポナ・ファミリア】に感謝の気持ちを伝えてくる。『隊長』の言葉にインパの顔にも活気が戻ってくる。
「ただ、災難続きだったのは確かですね…まさかオラリオ近辺に来るまで4体もの大型
「へえ、道理で強かった訳だ!今のオラリオの冒険者達よりよっぽど冒険してるんじゃないか?」
ゼルダの言う通り、【エポナ・ファミリア】はここに来るまでに多くの試練に襲われていた。
船で港に着いた時に、大人気
海の
山を抜けてしばらく進んだ後の砂漠でラクダを
ラムセス1号(不敬)を失った悲しみに暮れつつ砂漠を抜けた先の街で情報収集した所オラリオのある大陸とは地続きではない事が判明し、そこから何やかんやで海を越え山脈を越え密林を越え…と言った所で仮面を付けた
そして草原に抜けた先で先の
…改めて振り返ると
エポナからは『どこぞの女神か何かでも口説いた?明らかに神が関わってそうな試練っぷりだったけど』と言われたが、
強いて言うなら故郷で信仰される『女神ゲルド』だが、神託でしか関わる事がなくガノンの目線では実在するか怪しい所だ。
しかし、途中で遭遇した大型
「ですが、そのおかげで上質な『
「ゼルダ様は山での
あの山羊はとにかく止まらなかったからな…ゼルダを先回りする位置に運んでからフルパワーの【炎の矢】で仕留めた。
流石は
詠唱によって放たれたゼルダの魔法はもはや『矢』というよりは『光線』と形容するべき勢いで巨大山羊の頭から尻まで貫通し焼き滅ぼし灰に帰していた。
あの光景をみた俺とインパは、『
「うう…あと少しでオラリオだと思うと、胃が痛い…」
オラリオに近づくに連れて戦意を高めていく
オラリオに仲の悪い神がいるのだろうか、あるいは何の相談もせずに
「エポナ、大丈夫?木の実食べる?」
コリンはエポナに隊商の人間から貰った食用の木の実をエポナに差し出す。
コリンは
子供程の背丈から成長することが無い
「ありがとう、コリン君は優しいね…」
エポナはコリンに渡された木の実を齧ると、曖昧な笑みを浮かべてお礼を言った。
「エポナ、体調が悪いなら無理はするなよ?流石に主神を放って『
「そうですよエポナ様、私達の事は気にせず遠慮なく仰ってくださいね」
「君たちもありがとう…でもこれは精神的な物だから大丈夫だよ…」
先と変わらずエポナは曖昧な笑みでこちらを見るばかりで、むしろより煤けて見える。
(言えない…胃が痛いのは君達の『スキル』のせいでもあるなんて…!)
エポナは曖昧な笑みの裏で爆弾だらけの眷族に想いを馳せる。
正体が
最初の眷族であるガノンは『恩恵』を刻んだ時から発現していた『スキル』、『
おそらく、経験値に作用する効果のスキルは非常に珍しい。オラリオに犇めく神々にバレたら追い回される事は間違いないだろう。
(しかも『晩成する』はずなのに基礎アビリティの伸びがやたら良いって何なんだ…!)
ガノンがLv.2にランクアップする直前の基礎アビリティは敏捷のCを除いてオールAの数値で、
(一応ガノン君にはがっかりさせない様に『魔王憧憬』は隠していたけど…余計話せなくなってきたよ)
最初はエポナの
(そしてゼルダちゃんの『スキル』もおかしいんだよね…精霊の加護っていうのは二人目だからもうスルーしたとしても、主神である私にも秘匿される効果って何さ!?しかもアビリティ数値に至ってはゼルダちゃんは魔力Sカンスト間近とか!)
ゼルダの持つ『スキル』、『
更にはゼルダの基礎アビリティは魔力以外はIかHといった低ランクだが、魔力アビリティのみS…900台に到達していた。
確かに後衛としてよく魔法を使用していたが、それでも『
まるで何かに手を加えられているのでは無いか…そう思ってしまったのだ。
もはや希少種族な筈の
(いや、これから可愛い
両頬を張り、気合を入れ直しているエポナの様子を当の本人達は『元気になって良かった』と微笑ましげに見ていた。
「おっ見えてきたぞ、ほら!あれが『迷宮都市』オラリオだよ!」
『隊長』の声が【エポナ・ファミリア】に投げかけられ、旅人の眷族達は我先にと馬車から顔を出して外を見る。
遠景に見える巨大な市壁に、それをも遥かに超えて聳え立つ白亜の摩天楼。
この世界に生まれ落ちて十年数ヶ月。異世界の神秘に慣れてしまったガノンの心に、再び子供の頃の様な無邪気な冒険心が灯り燃え上がっていくのを感じる。
「
今すぐにでも駆け出してしまいたくなる衝動を抑えるべく胸に溜まった
周りを見れば、
前世で『ゼルダの伝説』のオープニングを初めて見た時の記憶が蘇る。
この感動、この衝動、この熱望!これが──『冒険』!
「皆、『冒険』をするぞ。俺達が作るんだ、前人未踏の『伝説』をな」
ゼルダが、インパが、コリンが俺を見て頷く。『
【エポナ・ファミリア】の冒険が、始まる。