魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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第15話・パーティタイム

 周囲に白い霧が立ち込める。

 地面に生い茂る緑草を踏みしめながら、4人の冒険者が迷宮を進む。

 【エポナ・ファミリア】。

 初の迷宮攻略から一ヶ月と二週間が経過し、彼らは『迷宮』の11階層へと足を運んでいた。

上級冒険者(Lv.2)を団長とする【エポナ・ファミリア】は4人パーティという事もあり、一週間も経てば上層最深部である12階層に到達していた。

 にも関わらず六週間も上層で足止めをされていた理由、それは『サラマンダー・ウール』4着の購入費用を稼ぐ為であった。

 

 『迷宮』中層からは炎を使う強力な怪物(モンスター)が出現することから、ギルド及び冒険者の間では火精霊の護布(サラマンダー・ウール)を人数分用意する事は当然の事であった。

 ギルドでは『サラマンダー・ウール』の様な迷宮攻略の必需品へのクーポン券を発行しており、中層に挑める実力があると判断された冒険者にギルド職員から渡される事がある。

 しかし、都市の治安の悪化や闇派閥の襲撃、それによる都市の修繕などに費用を割かれているためか平時での対応は難しく…【エポナ・ファミリア】は制度の恩恵を受けられず割引無しでの購入を迫られていた。

 

 

「相変わらず霧が濃いな…」

 

「インパの耳やコリンの風にはいつも助けられますね」

 

「元であれど『シーカー』の身。これくらいは当然です」

 

「ヒヒッ!『フロル』の風ならこんな霧一発さ!…すぐ戻っちゃうケド

 

 『迷宮』10階層から現れる白い霧は、迷宮の陥穽(ダンジョン・ギミック)とも呼ばれる現象の一つだ。

 階層の始発点となるルーム以外は視界を奪う霧が立ち込めており、怪物(モンスター)の接近を察知し難くする霧は下級冒険者を苦しめる。

 

 そこで、ハイラル王国の暗部『シーカー』の若き長として認められたインパの探索技術は霧の中を進む上で大いに活躍し、更に獣人ゆえの聴力の高さが合わさり高い索敵能力を発揮した。

 

 緊急時にはコリンの操る【フロルの風】で霧を払う──すぐに元通りになってしまうが──事で霧に潜む伏兵の姿を暴くなど、12階層までの探索においては苦労なく進む事ができた。

 

 『迷宮』への侵攻(アタック)ではなくもはや怪物(モンスター)狩りを行う無法者(ぼうけんしゃ)の蛮行に怒りを抱いたのかは定かではないが、地面や壁から次々と怪物(モンスター)が産み落とされ彼らを取り囲んでいく。

 

 インプ、オーク、シルバーバックからなる怪物の宴。

 上層を主な狩場とする下級冒険者であれば死を覚悟する光景に、されどガノンは笑みを深めた。

 

『ヒャッ』『ヒィッ!』

 

「ようやく来たか、怪物の宴(モンスター・パーティ)!」

 

「ガノン、ゼルダ様は任せたぞ」

 

『『『ヒャア!』』』

 

「遅い!」『『『ヒギャッッ』』』

 

 ガノンに言葉を掛け、インパは大刀を担ぎ疾走する。

 斥候として放たれたインプの群れに臆する事なく迎え撃ち、一閃。

 卓越した技量を以て振るわれる大刀の重い斬撃はインプ達の胴を纏めて両断する。

 インプたちは即座に絶命し魔石を残して灰になる。

 

『『『ウオォォォ!!』』』

 

「!」

 

 そこへ突進を仕掛けてくるのは数体のオーク。突出した形になったインパへと前と左右から囲む様に棍棒を振り翳す。

 

「それは、読めている!『回転斬り』!」

 

『『『ブモァ!?』』』

 

 攻撃直後の好機、しかしインパの斬撃は止まらなかった。

 『迷宮(ダンジョン)』では怪物(モンスター)に囲まれる事は珍しくはない。身につけた技能の多さから採取依頼などを単独で行う事もあるインパは自然と多対一の戦闘を行う事が増えていた。

 故に、組み手などで多数を相手する事に慣れていたガノンの技を一部身に付けていた。

 

 回転斬り。身体毎ぐるりと大刀を回転させて繰り出される真円斬撃。

 オーク達は棍棒を振り上げたその下の脇を斬られ堪らず膝をつく。

 普段であれば更に斬り払いか袈裟斬りに繋げるが…。

 

「インパ、下がって!【炎の矢】!」

 

『『『ブァァァァァ!!』』』

 

 後方へバックステップで下がるインパと入れ替わる様に炎の魔力が込められた矢がオークへ着弾──炸裂する。

 矢の命中したオークを中心に炎が凄まじい勢いで膨れ上がり、炎の結界(ドーム)を形成する。

 未だLv.1ながらアビリティランクSの『魔力』で強化された『魔法』は範囲内のオークを骨も残さず灰へと帰していく。

 

『ヒィア!』『ヒャア!』

 

「後ろからッ」

 

 しかし怪物の宴の恐ろしさは物量だけでなく、全方位から湧き出る所にも潜んでいる。

 その場に留まり押し返す作戦を取ったとして、群れの対処で手薄になった後衛への奇襲(バックアタック)により瓦解したパーティは少なくない。

 

 後衛魔導師であるゼルダへ、敏捷に優れたインプが二体飛びかかる。

 

「疾ッ」

 

『ヒャア゛ッ!?』

 

 ゼルダは左腰に佩いた脇差──シーク時代に使用していた忍者刀──を逆手で抜き放ち、空中のインプを左手で切り捨てる。

 力ではなく技量によって高い切れ味を出せる刀は、『力』で劣るゼルダにとっては優秀な副武装(サブウェポン)であった。

 

「ケケケッ!サル共、オイラはこっちダ!捕まえてみな!」

 

『『『グルァァァ!!』』』

 

「コリンは流石のすばしっこさですね」

 

「撹乱においては右に出るものはいないでしょう…ねっ!」

 

 竜巻を纏った飛去来器(ブーメラン)が野猿の怪物、シルバーバックの頭部を生きているかの様な挙動で飛び回る。

 操り手がコリンである事を見抜いて攻撃すれば、コリンは指を鳴らし飛去来器と位置を交換してシルバーバックの後頭部を蹴り付ける。

 

 追尾性の高い飛去来器の急所攻撃と呪文すら必要としない瞬間移動、そして魔物(モンスター)故の体格に見合わない怪力。

 決定的な火力こそ持ち得なくとも、現時点ではLv.2相当の実力をコリンは持っていた。

 

 ゼルダの感嘆の声に、インパは新しく湧き出たインプを斬り払いつつ答える。

 

「所でガノンは…?」

 

「あっちで『ハード・アーマード』と遊んでいます」

 

「アルマジロなら弱点は腹だな!なら…『ガノンプレス』!」

 

『ギュアア!?』

 

「また新技の開発ですか…?」

 

 硬い甲羅を持ち丸まって突進する怪物(モンスター)に、ガノンは空中へ飛び上がったと思えば即座に地面へと突進して衝撃波を放ち、『ハード・アーマード』をひっくり返していた。

 勿論Lv.2の『力』なら甲羅を破壊出来たが、ガノンはゲーム脳…もといゼルダ脳だった。

 

 その後も立て続けに襲いかかる怪物(モンスター)達を連携…しているのかは微妙だったが協力して倒していき、怪物(モンスター)の生成速度が緩やかになった頃、それは現れた。

 

『オオオオオオオッッ!!』

 

 耳を劈く様な咆哮。肌がビリビリと震える程に轟くそれに、インパとゼルダは思わず怯んでしまう。

 琥珀色の鱗を持つ竜、上層最強の竜が四つ足を着いて他のルームに繋がる通路から現れる。

 『インファント・ドラゴン』。通称『小竜』。

 堅牢な鱗を持ち個体によってはLv.2にすら到達すると言われ、個体数は非常に少ない希少種だが、遭遇した下級冒険者の一党を悉く壊滅させる…いわば上層における実質的な『階層主』である。

 

『グルァアッッ!!』

 

 冒険者が怯んだ隙を怪物(モンスター)が見逃すはずもなく、二匹のシルバーバックが二人に襲いかかり──

 

「させるかッ」「ケケッ、ノロマなサル!」

 

『ギィッ!!』

 

 『魔力爆発』と『フロルの風』による加速により飛んで来たガノンとコリンにより蹴り飛ばされ吹き飛んでいく。

 

『ッオオオオオオオ!!』

 

「っ!」

 

 しかし、既にインファント・ドラゴンはインパ達の目の前に迫ってきており、その前足を振り上げて鋭い爪を突き立てんとする。

 

「【炎の矢】!」

 

『──ガアァァァ!!』

 

 小竜の前腕に矢が当たり爆発を起こし、琥珀色の鱗の一部がドロドロと溶解していく。

 鱗ごと腕を焼かれる激痛に怯む『インファント・ドラゴン』に、インパは肉薄しその腕を大刀で切り裂く。

 

『ギャアァァァ!!!』

 

「やはり、鱗が溶けていれば私でも攻撃は通る!ゼルダ様、次弾を!」

 

「わかりました!【炎の──っ!」

 

 ゼルダは援護のため矢筒から次弾の矢を引き抜こうとし、指が空を切る。

(矢が…っ!)

 

 矢弾切れ。ゼルダの火力の殆どを担う『魔法』の触媒となる矢が無くなった事で、インパとゼルダは一気に窮地へと立たされる。

 ガノン達に声を掛けるか?──いや、まだ手はある!

 

「インパ!そのまま引き付けて下さい!詠唱をします!」

 

「そうか、矢が─!了解しました。いつまでもガノンに頼っている訳にはいかないからな…かかって来いッ!私が相手だ!」

 

『──オオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 自分に痛みを与えたインパを脅威と見做したのか、雄叫びを上げながら『インファント・ドラゴン』は激しく爪と牙を振るう。

 その猛攻にインパは最短距離で潜り抜ける様に回避を続ける。

 

 ゼルダは、竜の懐で攻撃を掻い潜り続ける従者(インパ)を救うべく詠唱を始める。

 

「【光は陰り、日は沈む。──されど恐れるな】」

 

 ゼルダは柳眉を逆立てて小竜を見据え、『魔力』を立ち上らせる。

 『インファント・ドラゴン』は『魔力』の起こりを感知してゼルダの下へ向かおうとする。

 

「どこを…見ているッ!」

 

『ギイッッ!!』

 

 すかさずインパは溶けた鱗を引き裂かれ露出した肉へと大刀を振るう。

 血飛沫が飛び散り、小竜は苦悶の声を漏らしてインパを憎々しげに睨む。

 小竜はたたらを踏み後退し──その巨体を反転させ太く強靭な尻尾を振るい薙ぎ払う。

 

「ッがぁああ!!」

 

「【火は絶えず、やがて登るだろう】──っ」

 

 インパは回避不能の面攻撃に直撃し、『迷宮(ダンジョン)』の壁面に叩きつけられ地に伏せる。

 ゼルダは漏れでそうになる悲鳴を押し殺し、詠唱を続ける。

 

『グオオオォォォォォッッ!!』

 

「【我が朋友ディンより授かりし矢を以て】っっ!」

 

 詠唱を中断し、襲いかかる鋭い爪を躱して前転し小竜の身体の下に潜り込む。

 ここなら爪も尾も届かない。

 しかし当然の様に『インファント・ドラゴン』は格好の獲物を狙う様にその巨体で以ってゼルダを押し潰さんとする。

 

「『疾風のブーメラン』!」「【氷の矢】!」

 

 小竜の腕を竜巻を纏った飛去来器(ブーメラン)が切り裂き、モンスターの骨を生きたまま抜き取った即席の矢で放たれた【氷の矢】が小竜の全身を凍てつかせ動きを止める。

 

「【行く手を阻む者よ、その一切を焼き払わん】!」

 

 詠唱を完成させたゼルダは小竜を睨み、必殺の『魔法』の名を紡ぐ。

 

「──【炎の矢】」

 

 ゼルダの傍らに形成された炎の鏃が一条の閃光となり『インファント・ドラゴン』に着弾する。

 

 琥珀色の鱗を容易く貫き、体内で爆ぜた鏃から灼熱の炎が迸り小竜の身体を突き破る。

 『迷宮(ダンジョン)』に極小の太陽が出現したかの様な輝きを齎し、炎の結界が小竜を中心に広がっていく。

 竜の懐にいたゼルダも当然、炎の結界に飲み込まれていくが…精霊の炎はゼルダの肌や衣服に一切の焦げ跡すら付ける事なく素通りしていく。

 

 【炎の矢】の隠された性質。精霊の炎の具現であるこの『魔法』は、彼女が認める者を焼く事は無い。

 清らかなる者を生かし邪悪を焼き払う退魔の結界。

 それこそが『火の精霊ディン』がゼルダに託した『魔法』の本質であった。

 

 ゼルダは空から降り注ぐ灰を仰ぎ、息を吐く。

 

「あっ!イ、インパは大丈夫ですか!?」

 

 息を入れた事で極限の集中状態から戻り、大切な従者が壁に叩きつけられていた事を思い出す。

 インパが倒れている場所に勢いよく顔を向けると、既にインパはガノンに助け起こされ回復薬(ポーション)を飲ませられていた。

 

 蒼白になっていたインパの顔には赤みが戻り、支えられながらではあるが自力で歩けるほどに回復していく。

 

「ご心配をお掛けしました、ゼルダ様。インパはこの通り無事でございます」

 

「インパも大概頑丈だな…」

 

「お前に言われたくは無い。……咄嗟に武器を盾にして反対方向に跳躍して力を逃したのだ。それでも死にかけた上に武器は壊れてしまったが」

 

 力不足を恥じる様に完全に折れてしまった大刀を掲げる。

 大刀は刀身の中程から真っ二つに折れてしまっているが、主人を守り果てたその姿はゼルダにはどこか誇らしげに輝いている様にも見えた。

 

 

「ドロップアイテムや魔石はかなり手に入った。これで目標金額には到達しただろう…今日はこれで帰還しよう」

 

「ああ…すみません、ゼルダ様。武器が破損してしまったので刀をお借りしたいのですが」

 

「ダメです。インパは重体だったのですから、帰りはちゃんと休んで下さい」

 

「ゼルダの言う通りだ。…今回の件は俺の判断ミスだからな、あまり気に病むな」

 

「しかし、従者の身でゼルダ様に守られる訳には…」

 

「ぐだぐだ言っていると背負っていくぞ」

 

「わ、分かった!この歳になって年下に背負われるのは御免だ!」

 

「でもガノン、背嚢(バックパック)も持ちながらインパを背負って帰るのは難しく無いですか?」

 

「最近は口からも光弾を出せる様になってな」

 

お前は何を目指しているんだ…?

 

 インパは、人の道を外れていく成長をする団長(ガノン)をドン引きした目で見た。

 

 

 

 

 暗い部屋の中、簡素なベッドの上でゼルダは上着を脱ぐ。

 しゅるり、と布が擦れる音を立てながら美しい白肌が現れ、蝋燭の灯りに艶かしく照らされる。

 女神の指が陶器や彫像を連想させる美を宿す造形の背中をなぞり、その背に刻まれた【ステイタス】に眷族の得た『経験値(エクセリア)』を反映させていく。

 その指使いは、まるで新しい冒険譚を読む子供の様に楽しげに踊る。

 

「はい!ゼルダちゃん、【ステイタス】更新終わったよー」

 

「ありがとうございます、エポナ様」

 

「これが更新した【ステイタス】ね」

 

 エポナが書き込みを終えた用紙を受け取り、目を落とす。

 

 

 ゼルダ・ハイラル

 Lv.1

 力:H112→H113  耐久:I51→I52 器用:D568→D572 敏捷:E480

 魔力:S996→S999  

 《魔法》

 【炎の矢】

 ・単射魔法。

 ・火属性。

 ・延焼効果。

 ・詠唱式【光は陰り、日は沈む、されど恐れるな】

     【火は絶えず、やがて登るだろう】

     【我が朋友ディンより授かりし矢を以て】

    【行く手を阻む者よ、その一切を焼き払わん】

 《スキル》

 【精霊光炎(オルディン・ブラッド)

 ・特定行動(アクションコマンド)実行により【炎の矢】の詠唱破棄。

 ・精霊に関する魔法の威力を強化。

 

「おめでとう。ついに『魔力』アビリティがカンストしたよ」

 

「他はあまり伸びませんね…」

 

「いやこれが普通だからね?」

(まあ、本当にやばいスキルの一文は隠してるんだけど)

 

 全力で満面の笑みを作り、引き攣りそうになる口角を引き上げる。

 『恩恵』を刻んでから約一年ほど経過したが、神目線で言えばたったそれだけでアビリティの一つがカンストするのは充分に異常な成長速度と言える。

 

 すると、エポナはゼルダがやけに身じろぎを多くし、もじもじとした雰囲気を醸している事に気付く。

 

(はっ…もしや、内緒の恋バナ!?)

 

 眷族は愛でるが独占欲は無いエポナは、むしろ下界の子の恋愛模様に興味を示していた。

 順当に派閥内恋愛でガノンか?それとも禁断の主従百合でインパか?

 ロマンスに飢えた主神は自分の春はそっちのけで他人の恋愛にのめり込む性質であった。

 

 ゼルダは緊張した面持ちで意を決した様に言葉を紡ぐ。

 

「あの、ランクアップの方は可能なのでしょうか…?」

 

(うん、知ってた)

 

 ロマンスな雰囲気があっという間に散っていき落胆するエポナ。

 見た目は正反対なのにガノンとゼルダは割と気が合う部分が多い。

 それゆえにエポナは大いに気振るのだが、あのガノンと気が合うと言うことは即ち…脳筋かつ強くなる事に余念が無いという事でもある。

 

 『魔法』で殺すことしか考えていないアビリティと『スキル』を見て、エポナはため息を吐く。

 ゼルダは温厚な性格から想像し難いが、上昇志向においてはともすればガノンすら上回る覚悟の決まり方をしている。

 ガノンが休みなく『迷宮(ダンジョン)』に繰り出すのは恵まれた体格から湧き出る無尽蔵の体力と単純に迷宮攻略(ダンジョンアタック)冒険者依頼(クエスト)が好きだからだが、ゼルダは好きでは無いことでも目的のためなら幾らでも行える意思の強さがある。

 

 倫理観や道徳がしっかりと身についていて、尚且つ休息が必要な体力だから今は落ち着いている様に見えるが…もしも、ガノンとゼルダの肉体が逆だったらと思うと末恐ろしい物を感じる。

 

「ゼルダちゃん、ランクアップはできまー……」

 

「……ごくり」

 

 焦らす様に溜める主神に、ゼルダは固唾を呑んで答えを待つ。

 

「……す!おめでとー!」

 

「もうっエポナ様!あまり焦らさないで下さいっ」

 

「ごめんごめん」

 

 無駄に溜めた主神に対して頬を膨らませて可愛らしく怒るゼルダに、エポナは『やっぱ顔が良い子の怒り顔はかわいいね〜』とおっさん臭い事を考えつつ謝る。

 

 いまいち誠意が見て取れない謝罪に納得のいかない様子を見せつつも、ゼルダは手元の用紙をみて疑問を呈する。

 

「でも、10階層以降での戦闘は結構行ってきたのですが…何故今になって?」

 

「そりゃあ、『経験値(エクセリア)』と『偉業』はまた別だからね」

 

「偉業、ですか?」

 

「ランクアップは『器の昇華』とも呼ばれるからねぇ、同じ事の繰り返しで上がるほど単純な事でも無いんだよ」

 

「器の昇華…」

 

 信じられない、と言った様子でゼルダは自分の手を見つめる。

 ゼルダにとって、特別に冒険をしたという認識は無かった。

 ただ、いつも通り。

 "今の自分に出来る全力を"。つまりは限界を超える様な戦いであったとは思えなかった。

 

「まあ、全ての子がそうってワケじゃ無いし、そもそも今回の件は最後の詰め以外はほぼLv.1だけで倒した様なものじゃん」

 

「ですが…」

 

「んもー!そういうところは主従でそっくりだよね!一応、ガノンくんのランクアップに関しては『恩恵(ファルナ)』刻む前からみっちり訓練してる人とかは上がりやすいってだけだからね!」

 

「は、はい」

 

 内心でガノンと自分を比べてしまっていた事を見抜かれ、赤面してしまう。

 本来であればLv.1で『魔法』と『スキル』を発現している時点で上澄みの方に位置されるのだが、異常(イレギュラー)平常(ノーマル)な【エポナ・ファミリア】では自身の才覚に対する正しい評価が難しかった。

 最も、変人揃いの【エポナ・ファミリア】所属ということで、同胞たるエルフ達からは遠巻きにされているゼルダは情報を集め難いという面もあったが。

 唯一正しく評価出来るアドバイザーのルピーは、ゼルダ全肯定マンだった。

 

「というか…私的にはこの紙装甲(たいきゅう)で『インファント・ドラゴン』の懐に飛び込んだ事に物申したいんだけど」

 

「うっ……ご心配をおかけしました…」

 

「よろしい」

 

 主神(おや)が我が子を叱るようなじっとりとした目線に、ゼルダは申し訳なさそうに縮こまる。

 エルフの長い耳も心なしか萎れている。

 眷族(わがこ)の反省した様子に、エポナは頷く。

 旅人と馬の女神としては眷族(ひと)の旅は祝福したいと思っているが、主神(おや)としてはやはり眷族(こども)には死地に飛び込む様な事をされると心臓に悪いのである。

 

「それじゃあ、ランクアップしても良い?」

 

「はい、お願いします。中層で足を引っ張りたくはありませんから」

 

「オッケー!よしよし、早速…さらさらさらりっと」

 

 

 エポナは再びゼルダの背に指を這わせ、【ステイタス】のランクアップを行う。

 

「はい終わり、これがランクアップ後の【ステイタス】ね。『発展アビリティ』は『魔導』だけだったから、もう反映させといたよ」

 

「ありがとうございます。『発展アビリティ』…ついに私にも」

 

 ゼルダは興奮冷めやらぬといった様子で新しく渡された用紙を見る。

 

 ゼルダ・ハイラル

 Lv.2

 力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0

 魔導:I  

 

「『魔法』と『スキル』には変化は無しだから省いてるよ。だけど、一見ゼロの表示でも今までのアビリティ値は『潜在値』として積み上げられているからね、今までより強くなっていると思うよ」

 

「これでガノンにLv.が並びました!」

 

 【ステイタス】の記された紙を胸に抱き、はしゃぐゼルダ。

 18歳とはいえまだ子供か、とエポナは眷族が青春を取り戻している姿を温かく見守る。

 

 ゼルダがふと気付いた様にエポナに疑問を投げかける。

 

「そう言えば、ガノンは何の『発展アビリティ』を選んだのでしょうか」

 

「あー、それはね…」

 

 ゼルダの率直な疑問に、エポナは困った様に頬を掻いた。

 

 

G

 

 

「『調合』だな」

 

「え…」

 

「死ぬほど意外そうな顔をされたんだが」

 

 ゼルダに『発展アビリティ』について聞かれ、答えたガノンはその反応に複雑な表情をする。

 

「いえ、てっきり戦闘の強化に繋がる物を選ぶと思っていたので」

 

「『クスリ』は大事だぞ?継戦力に繋がるし、物によっては強化も出来る。この間インパに飲ませたのも俺が作った『クスリ』だ」

 

「そうだったのですか…!」

 

 さも当然の様に自分にとっての常識を語るガノン。

 強ち間違っているわけでも無いが、後に【万能者(ペルセウス)】に出会った際にそのチート極まりない性能の『魔道具(マジックアイテム)』を見て『やっぱり狩人にしておけば良かったかな…』と後悔する事になるが、それはまた別の話。

 

「俺に色々と教えてくれた育ての親(ツインローバ)は魔導師としてだけでなく、薬師としても一流だったからな。俺もゲルドで作れる薬は全て作れる様に修行した」

 

「ガノンが旅に出たのは10歳でしたよね?どうやってそんな時間を…?」

 

「余暇を全て削ればな、十分に休んでも時間は沢山作れるんだ」

 

「なるほど…」

 

 笑顔でとんでもない事を言い放つガノン。

 彼にとって『ゼルダの伝説』世界に関する事なら何でも楽しめるので、あくまで本人の目線では趣味に生きる人である。

 そんな事を知らないゲルドのアマゾネス達からは『笑顔で鍛錬と授業を受けまくるやべー奴』と認識されていたが。

 

「この間の魔石や『ドロップアイテム』だが、結構な値段で換金が出来た。これから皆の装備を新調しようと思う」

 

「それは良いですね!インパの武器も壊れてしまいましたし…」

 

「俺の武器もそろそろガタが来ているからな、防具も合わせて新しくできればと思ってな」

 

「私も、後衛として杖を使うべきなのか迷っているのですが…流石に刀と両立するのは難しいです。……仕込み杖を作ってくれるお店ってあるのでしょうか?」

 

「そこら辺は探してみないと分からんな」

 

 そうして今後の予定を話し合う内に夜は更けていき、翌日に目の下に隈を作った事でエポナとインパに叱られる二人であった。

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