魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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第16話・憂いなし

 この世界に生まれて初めて自主的に夜更かしをした日の翌日。

 たっぷりと休息を取り明瞭(クリア)になった思考で、俺達【エポナ・ファミリア】は中層侵攻(エリアアタック)に向けて装備の新調を行うため街に繰り出していた。

 

 ゼルダはやはり魔導師の杖が気になるとの事で杖や魔法石を取り扱う店を覗きに行っている。

 コリンは金属の武器を嫌い木製を好む事もあり、ゼルダの付き添いでついでに火耐性のアクセサリーでも付けてもらえないか試しに行ってもらっている。

 前回の迷宮攻略ではドロップアイテムが多めに手に入った事もあって予算はそれなりにある。

 しかし、それでも魔導師の使う品は作り手の希少さから高価になりやすいと聞く。

 

 ……予算が厳しくなる場合は、矢筒だけでも大きい物に取り替えて茶を濁すとしよう。

 

 残るメンバーである俺とインパは武器の修理、あるいは新造のために『バベル』の鍛治系派閥が店を出しているフロアへと向かっていた。

 

 流石に今の俺達では鍛治系派閥トップブランドである【ヘファイストス・ファミリア】や、その次に有名で第一線級の冒険者もよく利用しているという質実剛健の鍛治系派閥【ゴブニュ・ファミリア】の武装に手を出すことは難しいだろう。

 

 だが、どの派閥にも見習いはいる物だ。

 むしろ規模の大きな【ファミリア】ほど見習いは多く存在する。

 まだ鍛治師としてブランド銘を刻むことを許されない彼らは、しかし大規模派閥に蓄積したノウハウを叩き込まれている未来の上級鍛治師と言っても良いだろう。

 まだ新人の俺達がこんな事を言うのは『上から目線』に感じてしまうだろうが、やはり客としては『高く買って損をする』よりは『高く付くが良い品を』買いたいもの。

 つまり俺達は『大規模派閥』の『新人』の作品を見に来たのだ。

 

 

「ふむ、この大刀は中々に使いやすそうだな。もう少し強度も欲しいが…そこは防具を買うしか無いか…?」

 

「インパは前衛としては回避してヘイトを稼ぐタイプだからな。『耐久』が上がったとはいえまだLv.1だ、取り回しを優先した方がいい」

 

「やはりそうか…予算があれば小型の魔剣でも買いたいが」

 

「今回は武器以外でも色々買う予定だからなぁ…悪いが次に回してくれ」

 

「ああ、分かっている」

 

 『魔剣』の並ぶ頑丈なケースに付けられた値札を見て、その0の多さに狐耳を伏せるインパ。

 【ファミリア】内で唯一『魔法』を持たないインパは火力不足をなんとか解消しようと模索している様だった。

 後衛や中衛からポンと『魔法矢』が飛んでくる俺達のパーティにおいて、インパの攻撃力ではヘイトを取り続ける事が難しくなっていたのもある。

 俺としては、そうしてインパから注意を逸らした怪物(モンスター)への不意打ちの多彩さこそが本領だと思っているが…やはりゼルダの従者としては自分自身で守りたいのだろうか。

 

「『インファント・ドラゴン』戦で思ったのだ。あの時私が『魔剣』を持っていれば…」

 

「いや、あの時は俺が周りの怪物(モンスター)を倒すのではなく足止めをして加勢しに行くべきで…」

 

「天井を崩落させてもう少し隙を作れたのにな」

 

「考えが思ってたより物騒…!」

 

 『くっ…』と握り拳を作り悔しげに唸るインパに、俺が抱いた後悔の気持ちが置き去りにされていく。

 正直、インパもツッコミ役なだけでそこまで常識側では無いよな…。

 暗部(シーカー)時代の感覚を未だ濃く残している彼女を見て、ハイラルって修羅の国だったのでは無いかと疑念を抱いてしまう。

 

(団長として、俺がしっかりしていかないとな)

 

 尚、コリン以外の全員が『自分がしっかりしないと』と思っているのは言わぬが花だろう。

 

 店頭に並ぶ武器を手に取り、握りや重心、剣身を見る。

 『恩恵』を持つ鍛治師によって鍛えられた武器の良し悪しは分からないが、基本的な武器の造りの良し悪しであれば多少は目利きが効く。

 ──ゲームでは良くある事だが。

 どれ程付与効果が良くても土台となる武器の攻撃力(せいのう)が半端であれば使わない事が多い。

 ゲームと現実を混同するのも良くないが、この世界は酷く幻想的(ゲームライク)だ。

 最初に想像してた物よりは過酷な部分は見えてきているが、それでもある程度は当てはめられるだろう。

 

 最も、武器に付与効果を付けられるのは上級鍛治師からとの事なので、このコーナーでは無縁の物だが。

 ふと、店の隅に置かれている剣が目に留まる。

 刃渡りは90C(セルチ)程で、幅広で肉厚な刃を持つ標準的なロングソードだ。

 手に取ると、ずしりと重い。

 ロングソードだから、ではない。

 ただ頑丈さを求めた結果、"重く"なったのだ。

 

「店主、この剣は?」

 

「ん?ああ、それは【ゴブニュ・ファミリア】所属の『ゴロン』が作ったヤツだな」

 

「『ゴロン』?」

 

 聞き馴染みのある名前に思わず聞き返す。

 確かオラリオに来る前にも、『ゴロン』を名乗るドワーフの鍛治集団に会った事がある。

 ここからは結構遠い山に住んでいるし、まさかオラリオにいるとは思わなかった。

 とはいえこの世界の『ゴロン』は岩人間の『ゴロン族』ではない。

 モンスターが多様化した事でオミットされてしまったのだろう。

 ちょっとさびしい…。

 

「元いた所では名のある鍛治師だったらしいが、そのせいでプライドが高いんだよ。やたら重い武器ばかり作るし値段も同ランク帯より高い。中々売れなくて困ってるんだ」

 

 しんみりとしていると店主が『ゴロン』について説明してくれる。

 どうやらオラリオでは『ゴロン』はいわゆる職人気質の鍛治師らしいが…まだ新人なのにこだわりを捨てられず自分の作りたい武器しか作らないとの評判で、あまり売れていないらしい。

 

 確かに手に持った剣は重く作られているが、だがしっかりと手元に重心が来る様に作られている。

 ただ振るうにはかなりの『力』が要るだろうが、『剣術』で振るうに分には問題なく使用できるだろう。

 どちらかといえば両手剣の様な使い心地にはなるだろうが、上層の怪物(モンスター)であれば大半は両断出来るだろう良い剣だ。

 …何というか、初心者が手に取る様なコーナーに置かれた事による悲劇というべきか。

 その日暮らしの冒険者にとって、重量制限は死活問題だ。

 徒党を組むにしても重すぎる武器は荷物になりやすい。

 それ故に買い手が付かなかったのだろう。

 だが──。

 

「気に入った。店主、これと同じ物をもう一振り買おう」

 

「ええっ?こんな重いのを二つもですかい?双剣使いなら、もっと良い物がありますよ?」

 

「他の物では軽すぎる。一振りで殺せるなら二つ持てば2回殺せる」

 

「失礼ですがお客様はアホでいらっしゃる?」

 

「アホじゃなきゃ『迷宮』には潜らないだろう?」

 

「そりゃそうか…失礼致しました。一本25000、と言いたいが不良在庫なんで20000ヴァリスにまけとくよ」

 

「そんなに値段を下げて良いのか?」

 

「売れないよかいいさ。…アンタのツレにちょいとお高い物を買ってくれればこっちとしても助かるけどね?」

 

「…俺達の話を聞いてたな?商売上手な事だ。分かった、大刀の方はもっと良い物を買おう」

 

「毎度あり♪いやぁ、お互い良い買い物をしたな?」

 

 ニヤニヤとこちらを見る店主に、引き攣った笑いで応じる。

 これから防具も新調する予定だったのに費用が嵩んでしまった。

 仕方なく、俺が個人的に店に卸しているポーションの稼ぎからも金を出す。

 本来定めていた予算をオーバーしてしまったからだ。

 まあ、自分の選んだ武器で高くついたのだから当然といえば当然だ。

 

 寂しくなった懐に寒い風が吹き込んでくる様な幻覚が見える…。

 

「所でアンタのツレ、大丈夫かい?凄い声掛けられてるけど」

 

「何?」

 

 インパの待つ店頭に振り返る。

 女性にしては高い176C(セルチ)の身長に、体格に見合った豊満な肉付きの銀髪狐人であるインパはこの一ヶ月で同期の冒険者のみならず先輩方からも男性人気が高くなっていた。

 

 俺も最近また身長が伸びてきて180C(セルチ)になったが、正直伸びすぎて怖い。年齢の割にはかなりがっしりしているので問題はないが…。

 

 話を戻すが、男性人気の高いインパは度々ナンパをされる事が増えていた。

 普段は『シーカー』として培った隠密技術をフル活用してナンパを撒いているので遭遇率が低いが、それが逆に『高嶺の花』として同期の男共の心を燃え上がらせているのだとか。*1

 

 今は俺を待っている都合で隠れられなかったのだろう。

 ふっ…まさか異世界モノのテンプレ展開に遭遇する事になるとはな。

 そう思いながら集団に囲まれているインパの下に向かうと…。

 

 

「インパさん!俺と専属契約を!」

「抜け駆けしないでよ!男より同じ女の方が気楽でしょ?是非契約を!」

「いや俺が!」「アタシもよぉぉぉ!」「オカマは黙ってろ!」

 

「い、いや私はまだそういうのは分からなくて…が、ガノン!助けてくれ!」

 

 凄まじい剣幕の鍛治師の集団に迫られて涙目になっていた。

 美人狙いである事には変わりないが、彼ら彼女らの目に浮かぶのは広告塔(びじん)が欲しい!といった欲望の色だ。

 なんか思っていたのとは違うが、ここは助け舟を出すとしよう。

 もしかしたら俺も専属契約を迫られたりして…。

 

「大丈夫か?」

 

「ガノン!助かった、それでは団長が来たので失礼する!」

 

「何、あそこにいるのはガノンだと?」

 

「もしかして、あの!?」

 

 インパが俺の背に隠れ、鍛治師達の注目が集まる。

 冒険者として有名になるのは基本的には『二つ名』がついた後だが、この時勢でオラリオ入りした新興派閥かつ『商人』達に噂されている経緯もあり既に【エポナ・ファミリア】には少なくない注目が集まりつつあった。

 

 実際には団長であるガノンが週6日で『迷宮』に潜り、ギルドで塩漬けになっていた曰く付きの依頼だろうが上層で受けられる依頼を常に複数受けていた事で悪目立ちしていたのだが。

 

 そんな事も知らないガノンは『これも有名税か…』と呑気な事を考えていた。*2

 

 一瞬の静寂の後、鍛治師達から湯水の如くガノンの風評が垂れ流される。

 

「まさか、『腕無し(アンアームズ)』のガノン!?」

「あの『武器置きっぱなしパンチ』の!?」

「『新種の怪物(モンスター)だと思ったら壁を這っていたガノンだった』のガノン!?」

「逃げろ!俺達の武器を変な使い方されるぞ!」「急げ!買われる!」

 

 蜘蛛の子を散らした様に逃げていく鍛治師達の集団。

 俺って鍛治師達の中でそんな噂を立てられていたのか…?

 

 公衆の面前でボロクソに言われてちょっと涙ぐむ。

 見物していた周囲の客達もカッコつけて出てきた直後に散々な事を言われた俺に同情的な視線を向けてくれる。

 

「ガノン……」

 

 俺の後ろに隠れていたインパが怒り心頭といった様子で頭上の狐耳をわなわなと怒らせていた。

 インパ…団長への暴言に怒ってくれているのかい…?

 

 

「……前にも言っただろう!怪物(モンスター)と間違えられるから壁を登るなと!」

 

「だって蜥蜴とか蝙蝠が煽ってくるから…」

 

「だっても何もない!第一、壁を四足歩行で移動したら攻撃出来ないだろうが!」

 

「『魔法』は詠唱出来るし、最近は口から光弾出せる様になって実用性増したから…」

 

そういう事だったのかあれは!?やめろみっともない!!」

 

 

 インパが怒っていたのは俺が忠告を破っていた事に対してだった。

 確かにたまに人間辞めてる挙動してる事は自覚してるさ…でもやれそうだったらやるのが男子の(さが)というか、やたら器用によけるアイツらがいけないんだ。絶対強化種だったぞアイツら。多分。

 

 というかさっきまで同情の目を向けてくれてた人達がドン引きした目で見てるから*3…そろそろ止めませんか?

 

 許しを乞う目線を向ける俺に、インパは『はぁ…』と重いため息を吐く。

 半目で俺を睨め付ける目線から、『次は無い』と言わんばかりの冷ややかな感情が伝わってくる。

 次からはバレない様にやろう。

 

 

「では、ゼルダ様達と合流しましょうか」

 

「そうしようか、早くここから離れたい」

 

「そうですね、ゼルダ様を待たせていると申し訳ありませんからね」

 

「ああ……あの、敬語…」

 

何でしょうか?

 

 

 圧を感じるほどの綺麗な(よそゆきの)笑顔が向けられる。

 普段怒らない人が怒ると怖いというが、あれは迷信だな。

 人は怒ると、大体怖い。

 

 

 

G

 

 

「インパ!ガノン!こちらです!」

 

 笑顔でこちらに手を振るゼルダ。

 見目麗しいエルフの少女の見せる無邪気な一面に、周囲の人間や神達が釘付けになる。

 

 もしかしてうちの【ファミリア】の女性陣はこの世界基準でも見た目が整っているのか?

 オラリオ在住の男に聞かれたらぶっ飛ばされそうな事を考えつつ、やけに嬉しそうなゼルダ達と合流する。

 

「目当ての(もの)は見つかりましたか?」

 

 にまにまとした表情を隠せていないゼルダにインパが声を掛ける。

 全身から聞いて欲しそうな雰囲気を漂わせている様子に、従者として主人を立てるべく聞きに行ったのだろう。

 

 『よくぞ聞いてくれました!』と言葉が伝わってくるはしゃぎ様に、見ているこちらも頬が緩む。

 案外、オラリオを一番に楽しんでいるのはゼルダなのかもしれない。

 

「ふふ、見てください!私も杖を買えました!」

 

 そう言って取り出した杖は、オラリオでよく見る長杖(ロッド)タイプではなく、短杖(ワンド)よりも更に小さく細い。

 杖の先ではなく持ち手の方にごく小さい赤の魔法石が填められており、まるで指揮棒(タクト)の様な杖だ。

 

「これで私も魔導師の仲間入りです!」

 

「杖イコール魔導師ではないと思うが…随分と小型だな」

 

「ふふふ…見てて下さい」

 

 ゼルダは含み笑いと共に飾り毛の少ない、だがスマートな曲線を描くガントレットを取り出す。

 どうやら他の店舗で防具も作って貰ったらしい。

 利き腕を守る為の物か…?と考えていると、ガントレットの内側に窪みの様な物がある事に気付く。

 

 ゼルダはドヤ顔でその長細い窪みに杖を填めて収納する。

 ガントレットと肩当てを右手に装備したゼルダは腕を掲げて防具を披露する。

 

「これなら、杖と刀を両立した上で魔法石の恩恵を常に得られます!」

 

「発想が暗器…!」

 

 インパが気まずそうに目を逸らす。

 『シーカー』の生き残りとの隠遁生活で、ゼルダの精神には『シーカー』メンタルが備わってしまったらしい。

 

 魔導師というより弓兵、むしろ侍。

 ダンジョンファンタジーのエルフがこれでいいのだろうか…?

 俺の疑問に答えてくれる者は、誰も居なかった。

 

 

 

 ちなみに、コリンのブーメランにも火耐性付与の赤い宝珠を取り付けてくれた様で、『これ64で見た事ある!』と密かにテンションが上がったのは内緒だ。

 

*1
byルピー

*2
アドバイザーのルピーは気を使って悪い噂の事を隠していた

*3
(噂って本当だったんだ…)




遅ればせながら誤字報告して下さる方に感謝を。
本当にありがとうございます。
割ととんでもない誤字があって感謝してもし足りないです。
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