魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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第1話 ゲルドの王

 もしかしたら、本当にここはゲームの世界なのかもしれない。

 前世であれば世迷言と切って捨てられるであろうこの発言も、今世の俺ならば自信を持って言えるだろう。

 なぜならこの世界、いかにもな設定ばかりなのだ。

 このゲルドの里──女だけが生まれるアマゾネスという種族の暮らす砂漠のオアシスを囲む里──から遠く離れたオラリオという都市にはダンジョンと呼ばれる大穴があり、そこには魔石を持った魔物(モンスター)が存在するという。

 ダンジョンの魔物は外に生息する魔物と比べて非常に強く、鍛られた精鋭の戦士であっても苦戦する…あるいは手も足も出ず殺されるであろう強さらしい。

 その魔物に対抗するべく天界から降りてきた超越存在(デウスデア)の神様から『神の恩恵(ファルナ)』、【ステイタス】を授かることでダンジョンに挑めるほどの強さを得られるのだとか。

 『神の恩恵』について、武術の稽古前に戦士長(ビューラ)へ聞いてみると…前世で遊んだRPGのような単語ばかりが出てくるのだ。経験値(エクセリア)とか、レベルとか…とにかくシステマチックなのだ、この世界は。

 いろいろ単語や設定が直球になっているが…この世界は新作のゼルダの伝説のゲームなのでは?リンクの不思議のダンジョンとかついに出るのか?と妄想が止まらなかった。

 

「いてっ」

 

 そうして注意散漫になっていたからか、稽古中の戦士長からお叱りの攻撃を食らってしまう。

 

「ガノン様、今は稽古中です…集中をお願いします。この後は座学も控えているのですから」

 

「すまない、ビューラ…もう一度頼む」

 

「はっ。ではゲルド流双剣術の型ができているか見たいので、ガノン様から打ち込んでください。心配はいりません、今は私のほうが強い」

 

「ならば、胸を借りるつもりでいくぞ!」

 

 いきなり俺の口調が変わって驚いているかもしれない。

 しかしガノンとしてこの世界に生を受けた俺は生まれながらにして王となることを定められていた。

 

 それゆえに幼いころからゲルドの王になるべく英才(スパルタ)教育を受けていたのだ。

 王に相応しい振る舞い、王に相応しい武勇、王に相応しい知慧、王に相応しい思考…etc.

 朝に座学、午前に稽古、午後も稽古、夕方にもう一度座学、夜に魔法。休む暇もないという日々だが…前世から大好きだったゼルダの伝説の世界で過ごせることと、この身体(ガノン)に秘められた才能(スペック)を磨くのはとても楽しく充実していた。

 そんな俺を見てツインローバは「やはりガノン様は王になるべきお方…!」と喜んでいたし、win-winの関係であった。

 

 さらにこの世界には()()があるのだ。

 『ゼルダの伝説なら当たり前でしょ?』と思うかもしれないが、やはり自分で見て学び実践できる魔法というものは格別の快楽を俺に味合わせてくれた。

 とはいえ一般的なファンタジーのような詠唱を行って魔法を発動するタイプとは毛色の違うものではあったが。

 なんでも、この世界においても普遍的(スタンダード)な詠唱タイプ(そうだったのか…)とは違い過去に()()()()()()()()()()()()()()とのことだ。

 詠唱は行わず、己の強い意志をもって魔力を操り操作する魔法。

 それを実際に見せてもらった俺は即座に思い当たった。

 

 『ボス敵が使ってくる光弾だコレ!』

 

 前世が一般人だった俺がスパルタな稽古や勉強を乗り切れるのか?疑問に思うかもしれないが、こうして徐々に原作のガノンドロフに近づいていく俺は『強くならなきゃ勇者(リンク)に殺される!』と追い立てられるように努力を積み重ねていったのだ。

 

 今思い返せば(ガノン)が悪いことしなきゃよいのでは?で解決することだったが、あの頃の俺はハイになっていたのだ。…やっぱりスパルタは辛かったかもしれない。

 そうして俺はゲームのメインコンテンツであろうダンジョンと神様に関わらず順調に育っていった。

 

 一度ツインローバに女神ゲルドは地上に降りていないのかと聞いてみたら「ゲルド様は神託でのみ交信が可能なのじゃ。しかしゲルド族はそれで多くの窮地を切り抜けて来られた。ハイラル王国の滅びに何もしなかった架空の女神ハイリアとは違う」と返答をもらった。

 

「ふぅ…ではここらで稽古を終わりにしましょう。これ以上は後の時間に響きます」

 

「ぜえ…はあ…あ、りがとう…ございま…す…」

 

「…大丈夫ですか?やはりこの密度の稽古はお辛いのでは…」

 

「…ふぅ…いや、大丈夫だ。息は整った。…やはり戦士長は強いな。何10本と打ち合って未だに一本しか取れないとは」

 

「お言葉ですが、ガノン様。まだ7歳の身で30年以上鍛錬を続けてきた私から一本をとれている時点で既に同年代では並ぶものがいないと思われます。魔力を封じた状態でこれなのですから、お気になさらぬよう」

 

「同年代に負けない程度では困る。砂漠に棲むモルドゲイラを一人で倒せるようにならねば一人前とは言えないからな」

 

「モルドゲイラこそ鍛えられた戦士たちが隊を組んで挑み、ようやく勝てる相手なのですが」

 

()()()()()()()()()()の相手で満足するわけには行かない」

 

「ガノン様は一体、何を恐れているのですか?そこまでして力を求める必要はおありですか?あなた様は魔力を開放してしまえば私程度、吹き飛ばしてしまえるでしょうに」

 

「厄災だ…コタケとコウメが言っていた。近いうちに『黒き厄災』が目覚め、人類を脅かすであろうとな」

 

「…っ」

(厄災…!?まさか、ガノン様は『黒竜』に挑む気でいるというのか…!)

 

 ツインローバが厄災について話し合っていたのを聞いてしまったとき、俺はこう思ってしまったのだ。

 

 『この厄災って(ガノン)じゃね?』と…。

 

 トライフォースのトの字すら見かけていない俺ではどう頑張っても魔獣や大魔王にはならなそうではあるが…懸念が取り越し苦労であればそれで構わない。

 だがここは『ゼルダの伝説』の世界だ。つまり(ガノン)がラスボスにならなくとも世界を滅ぼしうる奴は普通にいる可能性は高いということだ。

 ゼルダの伝説には外伝作品も多く存在する。なんなら普通のシリーズとして出た作品であってもガノンやトライフォース以外の厄ネタは存在するのだ。

 

 『俺が悪くならなくても普通にやばくね…?』

 

 と思い至ったのもあって受動的であった稽古も自分から質や密度を高めていった。

 先の魔力を使わず体格と筋力に勝る相手に戦う稽古もそうだ。

 恵まれた才能によるごり押しではない、純然たる戦闘技術も身に着けていかなければ…魔王どころかダンジョンボスにすらなれやしない。

 『いやボスになりたいわけではないが…』そんなセルフ突っ込みはさておき、やはりまだ肉体が出来上がってないためか武術ではなかなか勝てずにいた。

 

 魔力の扱いなら時オカの光弾やスマブラで見た魔人拳(禍々しいエフェクトのファル〇ンパンチ)の再現や中ボスのガロみたいな動きもできるようになったのだが…。

 

 最近は武術の稽古が終わり休憩をしていると、何やら視線を感じることがある。

 その方へ見やるとすぐに気配は隠れてしまうのだが、いい加減に気になっていた。

 視線に悪意は感じなかったため、不届きものではないだろうが…最悪、ゲルド族に対する覗き行為であれば時期ゲルド族の王として‘‘見せしめ‘‘を行ってやらねば。

 この世界の『ゲルド族』の人種であるアマゾネスはどうにも美人が多い。元の『ゲルド族』も美人は多いと思うが、アマゾネスはこう…オタク受けしそうな美少女が多いのだ。

 里のみんなからは案外受け入れられつつあり、笑顔で挨拶してくれる彼女たちを見ていると親心ならぬ王心(おうごころ)(そんな単語はない)が芽生えてくるのを感じる。

 

 ほら、今もこうして手を振ってくれる子供たちが…「おい」…うん?

 声をかけられたほうへ振り向くと、そこにはゲルドのアマゾネス特有の赤髪を後ろに撫で付けて長い後ろ髪ごと高い位置で一つ結びにした髪型の少女がいた。

 年頃は俺と同じくらいと思われるが、彼女はその勝気そうな顔を不機嫌そうに歪めてこちらを睨む。…濃いメイクと合わさってまるで不良のギャルのようだ…。

 こちらを睨む彼女はそのままズンズンと大股で近づき、ビシッと俺の眼前に人差し指を突き付けた。

 

「アンタが時期王サマのガノンなんだって?さっきも見てたけど、戦士長(ビューラ)相手に50本試合して1本しか勝てないようじゃ先が思いやられるね!」

 

 こうもはっきりと喧嘩を売られるとは思いもよらず、後ろへ少し後ずさりしてしまう。そのことになんだか()()()()が立ってくる。

 こちらも負けじと睨み返すと向こうも少し後ずさりして、しかし勝気な態度は崩さずになおも立ち向かってくる。

 

「お、脅そうったってそうはいかないよ!この里のみんながアンタを受け入れてると思ったら大間違いだよ!」

 

「アンタが()()()()()腕っぷしが強いからって、それだけじゃ王サマは務まらないのさ」

 

 そういって彼女は腕を組み、真面目な顔をしてこちらの顔を見る。

 

「アンタは知らないだろうね…こうやって天気のいい日にしか外に出してもらえないんだからサ。この里を襲っている災害についてなんて、教えてもらってないんだろう?」

 

「災害?なんだそれは」

 

「はっやっぱり知らないんじゃないか!オババ様も過保護に育てすぎなんだよ!外で遊ぶことを覚えさせないからこんな箱入りのお坊ちゃんになっちまうんだ」

 

 腕を組む彼女の挑発的な言い方に腹の底に()()が溜まるのを感じながら、必死にその感覚を押さえつける。…落ち着け、前世ではそんなに喧嘩っ早い性格ではなかったはずだ。

 黙り込む俺を見る彼女は鬼の首を取ったようにふんぞり返る。ミドみたいなやつだな…

 

「なら箱入りお坊ちゃまのアンタにも分かりやすい様に教えてやるよ」

 

「この里を襲う災害…それは砂嵐さ」

 

「砂嵐?」

 

 時のオカリナでは砂漠で前が見えなくなるほどの砂嵐が吹いていて、目印を頼りに進まなければ入口に戻されてしまうようになってたはずだ。

 だがそれは『ゲルドの谷』の奥の砂漠…いや、ここは既に砂漠の中にある。地理が違う以上、同じにはならないはずだ。

 

 「その砂嵐が最近特にひどいんだ。最悪な時は三日三晩砂嵐が吹き荒れて外にも出られないときもある」

 

「ああ、あの日がそうだったのか」

 

 ビューラが外での稽古ができないと言っていた日があったが、そういう理由があったのか。

 

「心当たりがあるようだね。砂嵐はいつも決まって同じ方角から吹き込んでくる…それはゲルド様の巨大女神像がある場所」

 

「旧ゲルド神殿跡地さ」

 

「旧…?どういうことだ」

 

「かつてゲルドの民がこの砂漠に追いやられたときに放棄した神事が行われていたという神殿さ。だけどおかしいんだよ。あれのある方向は少なくなってるはずなんだ」

 

「つまりこの砂嵐は何らかの要因でわざと起こされたものということか…?」

 

「そういうこと。その原因が突き止められれば、オババ様や戦士長も動いてくれるはずさ」

 

「それでいつも外壁から視線を感じたのか」

 

「あ…アンタ気が付いていたのかい?ならもっと早く言いなよ!てっきりいつまでも気づかない二ブチンとばかり思ってて…」

 

 彼女はそう言って赤く染まった頬を隠すように俯く。

 

「と、とにかく今からオババ様のところに行って何とかしてもらうよ!あ、これを発見したのはアタイだからね!功績はこれでアタイの物だよ!」

 

 彼女は俺の手をグイグイと引っ張り連れて行こうとする。

 

「まて、お前の名前を聞いていない。名を名乗れ。まずはそれからだ」

 

「アンタ、アタイの名前も知らなかったのかい!それでも次期ゲルドの王なのかい?なら特別に教えてやる」

 

 そういって彼女はふわりとこちらへ振り返る。

 

 

 「先代女王ナボリスの一人娘、ナボールだよ!」

 

 

 彼女は自信たっぷりにそう名乗った。 




ナボールとツインローバの口調がわからない
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