魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか 作:黄巻紙
「ダメだ。討伐隊を出すことは認められん」
「なんでだよビューラ!神殿の方から砂嵐が吹いてきてるって分かってるのに!ほら、ちゃんと調査書だって書いて纏めてるよ!だから──」
「それでもダメだ。これは
「こうしている間にも備蓄は尽きていく一方だよ!晴れの日だって少なくなってきているし、砂嵐のせいで昼にまで
ナボールと共に
そのことにナボールは怒りながらなんとか説得しようとしているが…数十分間経っても戦士長が折れることはなく、ナボールは怒り心頭といった感じで帰ってくる。
「ふん、こっちもよーく分かったよ。ビューラがいつの間にか臆病者の腰抜けになってた事がね!アンタなんかに頼ろうとしたアタイがバカだったよ…!」
戦士長に悪態を吐くナボールを‘‘元気だな…‘‘と眺めていると、こちらをキッと睨みつけて怒りをぶつけてくる。
「アンタも何ボーっとしてんだい!アンタもアンタだよ、少しくらいビューラを説得してくれたっていいじゃないか!」
「仕方ないだろう、この里の最高権力者である二人が戦士を出すなと言っている以上はビューラもそれに従うしかない。いくら俺たちが次期王に最も近いといってもまだ子供…現役の神官であるコタケ・コウメより発言力が上回ることはない」
下界に神が降り立った
ただ、魔力を操る技術を修めてきたゲルドでもアマゾネス故か脳筋思考が多く、人気が高いのは武力に優れた者だったために神官と民衆の間を取り持つために王の役割が生まれた。なので王も重要な立場であることには変わりないが…。
ツインローバがこうも一方的に告げるとなるとその理由は王が不在ゆえの独裁か…あるいは
「フン!どうだか…ビューラにあれだけボコされてたんだ、どうせビビってんだろ?砂嵐の原因が魔物だったら勝てっこないってサ」
「ナボール様、あれは私たちが──「言い訳は聞きたくないよ!」──!お待ちになってください!」
ビューラの静止を振り切ってナボールは駆け出して行ってしまう。その場に取り残され、どこか悲し気な面持ちで俯くビューラに俺は声を掛ける。
「俺が様子を見てくる。ビューラは職務を全うしただけに過ぎない…あまり気に病むなよ」
「…ありがとうございます、ガノン様。あまりあのお方を誤解しないで上げてください。母である先代様を亡くしてから立ち直ったように見えて、無理をしてでも気丈に振舞っているだけなのです…ゲルドの民を勇気づけるために、先代様のような女王になろうとしておられるのです」
「…一つ気になったのだが、先代女王は何故亡くなった?言いづらいことなら構わんが…」
「先代様が亡くなった原因、それこそがこの砂嵐の原因と同じと思われています。先代様が存命の時にも原因不明の砂嵐が出ておりまして…ナボール様と同じように‘‘原因を突き止めて何とかしてやる!‘‘とおっしゃって砂漠へ出て以降、先代様は戻ってこられませんでした」
彼女は悲しみをこらえるように深呼吸して、しばらくすると再び話し出す。
「先代様は戦士長である私よりもはるかに強いお方でした。武術のみならず魔力の扱いにも長けていて、当時の戦士たちが束になって掛かっても傷一つつけられませんでしたから…
その先代様が砂嵐が止んでも砂漠から戻られなかったということは、恐ろしい魔物が潜んでいたのではないかと噂が立ったのです」
「あまりこういうことは言いたくないが…先代が砂嵐で迷い帰られなくなった、という可能性はないのか?」
「ほかの戦士であればそうなります。ですが先代様は魔力により砂嵐の中でも普通に活動できましたし、コタケ様・コウメ様謹製の魔法のコンパスをお持ちになられていましたから…きっと何かあったに違いないと思うのです」
それほどの実力者が帰らぬ人となった砂嵐…確かに放置するには危険だな。
「その割には里が砂にまみれていることはないが…」
「国には結界が貼ってあります。しかし結界の要になっているのはコタケ様・コウメ様のお二人。それゆえにお二方は里にこもり切りになっておられるのです」
「そうか…話してくれてありがとう。俺はナボールのもとへ向かう」
「ガノン様、ナボール様を…御ひい様を頼みます」
頭を下げるビューラに笑みを返し、俺はその場を後にした。
地面に出来た足跡を追っていくと、建物の陰を背に蹲っているナボールがいた。
肩を震わせており、しゃくりあげる様な音も聞こえてくる。どうやら泣いてしまっている様だ。
「なんだよ…皆ビビっちまってさ…アマゾネスのくせに、お母さまの仇も取れないっていうのかい…」
すっかり大人しくなってしまったナボールの隣に座り、言葉を待つ。すると、しばらくして目元を泣き腫らしたナボールがこちらを向く。
「さっきはゴメン…色々言いたい放題言っちまってサ。ホントは分かってたんだ、アンタがビビってるわけじゃないのも…ビューラがめちゃくちゃ言ってるわけじゃないのもさ…でも」
ナボールは一度言葉を区切る。こちらを見る彼女の表情は弱弱しく…しかし目の奥には激情が渦巻いており、力強い目をしていた。
「…でもさ、やっぱりくやしいじゃないか。お母さまは砂嵐にも勇敢に立ち向かったのに、他の誰も続かないなんてさ。
「嫌になるよ…砂嵐に手を
そう言って、再び俯いてしまうナボール。子供だから仕方ないのかもしれないが…やはり原作を知る身としては彼女には明るくなって欲しい。何より、ガノンに対してしおらしい様子なんてナボールには似合わない。原作的にも、俺が今日感じ取ったナボールの印象からも…彼女には太陽のように明るい笑顔こそが相応しい。俺に名乗った時のナボールの笑顔を思い出しながら、強くそう思う。
「ならばどうする。ここで大人しくしているか?」
「どうすればいいってのさ…アタイ達はまだ子供だよ?」
「子供だから何だ?砂嵐を起こしている原因が魔物であったのなら倒せばいい」
「お母さまが帰ってこられなかったんだよ!?アンタならなんとかできるって?冗談じゃ──「するさ」──…えっ?」
堂々と言い切った俺に目を丸くするナボール。あっけに取られる彼女に続けて宣言する。
「俺が何とかするさ。先代を越えねば王の資格などないに等しい…アマゾネスの王であるならなおさらな」
「武器はどこにある?移動手段は調達できるか?警備が手薄な時間は?なんでもいい、ナボールが知っている限りの事を教えてくれ」
「え、えっと…ちょっと待ちな…本気で言ってるのかい?本気で砂嵐の原因に挑むって?」
「本気だ。これくらいできなければ王にはなれない」
これは本心だ。ゼルダの伝説では子供の
出会った時とは異なり、今度は俺が自信満々に宣言していると…ナボールは堪えきれないといった様子で笑い始めた。
「ぷっ…あっはははは!アンタ、男のくせにふんぞり返ってて気に食わないって思ってたけど…まさかこんな
大声で腹を抱えながら笑い転げるナボール。そこはかとなく馬鹿にされてるような…そうでないような…?
釈然としない気持ちで黙っていると、ようやく笑いが収まったのか先ほどとは違う涙を目じりに溜めながらナボールは立ち上がり俺を覗き込む。
「アタイはこの里の事なら何でも知ってるよ。武器の場所も、警備の道順もね…移動手段については伝手がある。任せといてよ!」
ナボールは紙(のような物)に情報を書き込むとそれを俺に渡す。
『ガノンはゲルドの国の情報を手に入れた!▼』
「助かる…ではさっそく準備しよう。時間を掛けると怪しまれる」
「あ、待ちなよ!アタイも連れて行きなよ!移動手段はアタイ持ちなんだからね!」
こうして、俺は思いもよらない切っ掛けで
その胸に、ごうごうと燃え盛る
さあ、冒険の時間だ!
国を見渡せる塔のバルコニーで、砂漠へ出発する若き二人の戦士を見送ったその人物は密かにため息を吐く。
「これで本当によろしかったのでしょうか…コタケ様、コウメ様」
「ヒッヒッヒ…どうやらガノン様は出発したようですね、ビューラ」
「ホッホッホ…小娘が一人ついているようですが、まあ彼女も先代の娘…問題はないでしょう」
「本当に彼らだけで向かわせてよろしかったのですか?…確かにお二人は強くなられましたが、まだ子供です。先代様がもし本当に魔物に敗れたのであれば、いくらガノン様といえ…」
「これはゲルド様からの神託だよ。『若きゲルドの男 女王の娘に出会う時 災いに挑み、嵐を晴らすであろう すなわち王の目覚めである』」
「それに、ガノン様の強さはアンタが一番よくわかっているだろう?聞いたよ、魔力も使わずアンタにも一本取ったってね」
「ええ、ガノン様は己の魔力を封じた状態で…魔力を使用した里の戦士数十人と同時に戦った後、続けて私とも戦いました。…もちろん私も魔力を使用した状態です。」
「おお、あの先代に並ぶ強さとも謳われたお前にも魔力を使わずにそこまでやるとは…」
「さすがはガノン様…ゲルド様が期待されるのも理解できる才能だねえ」
「ガノン様が
「ガノン様が生まれて以降、すべての神託はガノン様に関わることだけ…それだけゲルド様はご期待なさっているのさ」
「アタシ達は多くの王が生まれるのを見てきたけど、神託がここまで一色になるのは初めてだよ。おそらくガノン様は歴代でも一番の才能を持っているに違いない!」
ツインローバが笑い声をあげて喜びを見せる中…ビューラはガノンたちが出発した方を見て、静かに祈りをささげる。
「すまない、
今更ながらオラリオまでの話は過去編にして後から書けばよかったのでは…?と後悔